説明

ドラムブレーキ装置

【課題】 構造が複雑化したり、コストアップしたりすることなく、ブレーキドラム内への異物進入を効果的に防止することのできるドラムブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 バッキングプレート5は、外周縁部を折り曲げることにより形成された壁部57と、壁部57とあいまって形成された凹部59とを有し、ブレーキドラム9は、円筒部91の外周面に形成された突条部92と、円筒部91の外周面に突条部92よりもバッキングプレート5側で形成された環状溝93と、円筒部91の外周面に突条部92よりもバッキングプレート5側で環状溝93とあいまって形成された環状突部94と、環状突部94よりもバッキングプレート5側でブレーキドラム9の円筒部91の外径を環状突部94の外径よりも小さくすることにより凹部59内に確保された空間18とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば四輪自動車に使用して好適なドラムブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキ装置は、車輪と一体に回転するブレーキドラムの内側にライニングを張ったブレーキシューを押し付けて、その摩擦力で車輪を停止させるものである。この種のドラムブレーキ装置としては、例えば特許文献1に開示されたものがある。そこでは、ドラムの円筒部の外周面中間部に突条を形成するとともに、この突条よりも開口端寄り部分の外周面に2本の凹溝を形成している。そして、背板の外周縁部に形成した覆板部により各凹溝の周囲を覆うとともに、この覆板部の先端縁を突条の側面に近接対向させる構成となっている。このようにしたドラムブレーキ装置によれば、雨水等の異物が、凹溝により構成されるラビリンス空間を通過せず、ドラムの回転に伴う遠心力に基づき外部に排出されるので、ドラム内への雨水進入防止を図ることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−2275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたドラムブレーキ装置では、例えば走行中に雪や泥が次々に進入すると、凹溝にたまった雪や泥が後から進入してくる雪や泥に押し出されて、ドラム内まで入り込むおそれがある。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、構造が複雑化したり、コストアップしたりすることなく、ブレーキドラム内への異物進入を効果的に防止することのできるドラムブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のドラムブレーキ装置は、円形のバッキングプレートと、有底円筒状のブレーキドラムと、前記バッキングプレート上に配設されたブレーキシューとを備え、前記ブレーキドラムを前記バッキングプレートに装着した状態で、前記ブレーキシューが前記ブレーキドラムの円筒部の内周面に対向配置されるドラムブレーキ装置であって、前記バッキングプレートの外周縁部を前記ブレーキドラム方向に折り曲げることにより全周にわたって形成された壁部と、前記バッキングプレートの外周の少なくとも一部に沿って、前記壁部とあいまって前記バッキングプレートに形成された凹部と、前記ブレーキドラムの円筒部の外周面に全周にわたって形成された突条部と、前記ブレーキドラムの円筒部の外周面に、前記突条部よりも前記バッキングプレート側で全周にわたって形成された環状溝と、前記ブレーキドラムの円筒部の外周面に、前記突条部よりも前記バッキングプレート側で前記環状溝とあいまって全周にわたって形成された環状突部と、前記環状突部よりも前記バッキングプレート側で前記ブレーキドラムの円筒部の外径を前記環状突部の外径よりも小さくすることにより前記凹部内に確保された空間とを備え、前記ブレーキドラムを前記バッキングプレートに装着した状態で、前記突条部の側面が前記壁部の先端縁に近接対向するとともに、前記環状突部の外周面が前記壁部の内周面に近接対向する点に特徴を有する。
また、本発明のドラムブレーキ装置においては、前記バッキングプレートの凹部に壁部材を立設し、その壁部材を前記空間内に配置するようにしてもよい。また、前記壁部は、前記バッキングプレートの外周縁部を円弧部を介して垂直に折り曲げることにより形成されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、雨水等は環状溝を通過せず、ブレーキドラムの回転に伴う遠心力により外部に排出されるので、ブレーキドラム内への雨水等の進入防止を図ることができる。しかも、例えば走行中に雪や泥が次々に進入してきて、環状溝にたまった雪や泥が後から進入してくる雪や泥に押し出されても、凹部内に確保された空間に溜まるだけであり、ブレーキドラム内まで入り込むのを防ぐことができる。このように、構造が複雑化したり、コストアップしたりすることなく、ブレーキドラム内への異物進入を効果的に防止することができる。
【0008】
さらに、凹部内に確保された空間に壁部材を配置することも可能であり、その場合には異物がブレーキドラム内まで入り込むのを確実に防止し、防塵性能の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、本発明による好適な実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図7は本発明を適用したドラムブレーキ装置が装備される四輪自動車の一例を示す外観図であり、前輪101が駆動輪、後輪102が従動輪であって、後輪102をドラムブレーキ装置100により制動するものである。
【0010】
図1〜4に示すのは、リーディングトレーリング式のドラムブレーキ装置100である。車体側に固定される円形のバッキングプレート5上には、互いに対向する一対のブレーキシュー2、3が拡開可能に配設される。すなわち、バッキングプレート5上には上下にホイールシリンダ4及びアンカー1が固定配置され、一対のブレーキシュー2、3の一端がホイールシリンダ4のピストン4a、4bに連係し、他端がアンカー1に回動可能に枢支される。ブレーキシュー2、3は、シューウェブ2a、3aに円弧状のシューリム2b、3bをそれぞれ溶接結合してなるものであり、シューリム2b、3bの外周面にライニング(摩擦パッド)6、7がそれぞれ取り付けられる。
【0011】
図2に示すように、バッキングプレート5の中央にはスピンドル8が固定配置され、そのスピンドル8により、後輪102のホイール(不図示)と共に回転するブレーキドラム9が回転自在に支持される。ブレーキドラム9は略有底円筒状をなし、バッキングプレート5を覆うように装着された状態で、その円筒部91の内周面にブレーキシュー2、3のライニング6、7が対向配置される。
【0012】
一対のブレーキシュー2、3間には一対のリターンスプリング10、11が架設され、その附勢力にてブレーキシュー2、3が互いに近づく方向(内径方向)に常時附勢される。
【0013】
また、ブレーキシュー2の背面側にはパーキングブレーキ用の作動レバー12が配置される。作動レバー12の一端はプッシュナット13を介して軸支され、他端にはブレーキレバー操作用ケーブル(不図示)が連結される。
【0014】
さらに、ホイールシリンダ4付近においてブレーキシュー2、3及び作動レバー12間には、ストラット14、クォードラント(ベルクランクレバー)15、クォードラントスプリング16、アンチラトルスプリング17を含む自動調整装置(オートアジャスタ)が配設される。
【0015】
かかる構成とされたドラムブレーキ装置100では、図示しないブレーキペダルが踏み込まれると、その踏み込みに応じてホイールシリンダ4が作動してブレーキシュー2、3が拡開し、これに伴ってライニング6、7がブレーキドラム9の円筒部91の内周面に摺接して、制動効果を発揮するものである。
【0016】
ここで、図2に示すように、バッキングプレート5は、背面部51と、斜面部52を介して背面部51よりも一段手前(ブレーキドラム9側)に位置する平面部53とを有する。ただし、アンカー1が固定配置される箇所周辺では、背面部51と平面部53との間に、斜面部54及び斜面部55を介して平面部53よりも更に手前(ブレーキドラム9側)に位置する平面部56が形成される。
【0017】
また、バッキングプレート5の平面部53の外周縁部をブレーキドラム9方向に折り曲げることにより、壁部57が全周にわたって円筒状に形成される。この場合に、壁部57は、バッキングプレート5の平面部53の外周縁部を円弧部58を介して垂直に折り曲げることにより形成される。
【0018】
かかる構成により、バッキングプレート5のアンカー1が固定配置される箇所周辺には、バッキングプレート5の外周に沿って壁部57とあいまって凹部59が形成されることになる。
【0019】
一方、ブレーキドラム9の円筒部91の外周面には、フランジ状の突条部92が全周にわたって形成される。ブレーキドラム9をバッキングプレート5に装着した状態で、突条部92の側面92aが隙間を介して壁部57の先端縁57aに近接対向するとともに、突条部92の外周面92bが壁部57の外周面57bと隙間をおいてほぼ同一平面上に位置するようになっている。
【0020】
また、円筒部91の外周面には、突条部92よりも先端側(バッキングプレート5側)で突条部92と隣りあう環状溝93が全周にわたって形成される。これにより、円筒部91の外周面には突条部91よりも先端側(バッキングプレート5側)で環状溝93とあいまって環状突部94が全周にわたって形成される。ブレーキドラム9をバッキングプレート5に装着した状態で、環状突部94の外周面94aが隙間を介して壁部57の内周面57cに近接対向するようになっている。
【0021】
さらに、環状突部94よりも先端側(バッキングプレート5側)で円筒部91の外径を環状突部94の外径よりも小さくする。図示例では、環状溝93よりも深い環状溝95が全周にわたって形成され、円筒部91の先端に環状突部94よりも小径の環状突部96が形成されている。かかる構成により、ブレーキドラム9をバッキングプレート5に装着した状態で、凹部59内に空間18が確保されることになる。
【0022】
以上述べたドラムブレーキ装置では、雨天走行時等に、ブレーキドラム9の突条部92の側面92aとバッキングプレート5の壁部57の先端縁57aとの間の隙間を通過した雨水等は、環状溝93、更には環状溝95により構成されるラビリンス空間を通過せず、ブレーキドラム9の回転に伴う遠心力により外部に排出されるので、ブレーキドラム9内への雨水等の進入防止を図ることができる。この場合に、わずかな雨水等が環状溝93、95を通過したとしても、凹部59内に確保された空間18に溜まるだけであり、ブレーキドラム9内まで入り込むのを確実に防ぐことができる。
【0023】
また、例えば雪道走行時やオフロード走行時に、ブレーキドラム9の突条部92の側面92aとバッキングプレート5の壁部57の先端縁57aとの間の隙間から雪や泥が次々に進入してきて、環状溝93にたまった雪や泥が後から進入してくる雪や泥に押し出されても、凹部59内に確保された空間18に溜まるだけであり、ブレーキドラム9内まで入り込むのを防ぐことができる。
【0024】
さらに、バッキングプレート5では、壁部57や凹部59をプレス加工により形成するだけでよく、また、ブレーキドラム9でも、円筒部91の外周面だけに突条部92や環状溝93、95を形成するだけでよく、生産性が向上するとともに、構造が複雑化したり、コストアップしたりすることなく、ブレーキドラム9内への異物進入を効果的に防止することができる。
【0025】
(他の実施形態)
図5には、本発明を端的に表わすバッキングプレート5とブレーキドラム9との関係を示す。なお、上記第1の実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付す。図5に示すように、バッキングプレート5の外周縁部をブレーキドラム9方向に折り曲げることにより全周にわたって形成された壁部57と、バッキングプレート5の外周に沿って、壁部57とあいまってバッキングプレート5に形成された凹部59とを有する。なお、上記第1の実施形態では、凹部59がバッキングプレート5の外周に沿って一部のみに形成される例を説明したが、全周に沿って形成されるようにしてもよい。
【0026】
また、ブレーキドラム9の円筒部91の外周面に全周にわたって形成された突条部92と、ブレーキドラム9の円筒部91の外周面に、突条部92よりもバッキングプレート5側で全周にわたって形成された環状溝93と、ブレーキドラム9の円筒部91の外周面に、突条部92よりもバッキングプレート5側で環状溝93とあいまって全周にわたって形成された環状突部94と、環状突部94よりもバッキングプレート5側でブレーキドラム9の円筒部91の外径を環状突部94の外径よりも小さくすることにより凹部59内に確保された空間18とを有する。
【0027】
ブレーキドラム9をバッキングプレート5に装着した状態で、突条部92の側面92aが壁部57の先端縁57aに近接対向するとともに、環状突部94の外周面94aが隙間を介して壁部57の内周面57cに近接対向するようになっている。
【0028】
なお、図5の例では、上記第1の実施形態と同様に、環状溝93よりも深い環状溝95が全周にわたって形成され、円筒部91の先端に環状突部94よりも小径の環状突部96が形成されているが、図6に示すように環状突部94を形成しなくてもよい。
【0029】
また、図6に示すように、バッキングプレート5の凹部59に壁部材19を立設し、その壁部材19を空間18内に配置してもよい。同図は、壁部材19として略L字形状のダストリングを設けた例を示す。この場合、異物がブレーキドラム9内まで入り込むのを確実に防止し、防塵性能の向上を図ることができる。
【0030】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えばドラムブレーキ装置100の具体的構成については、図1〜4に示した構成以外のものであってもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用したドラムブレーキ装置の構成例を示す図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図1のC−C線断面図である。
【図5】本発明によるバッキングプレートとブレーキドラムとの関係を示す図である。
【図6】本発明の他の例によるバッキングプレートとブレーキドラムとの関係を示す図である。
【図7】本発明を適用したドラムブレーキ装置が装備される四輪自動車の一例を示す外観図である。
【符号の説明】
【0032】
2、3 ブレーキシュー
2a、3a シューウェブ
6、7 ライニング(摩擦パッド)
5 バッキングプレート
9 ブレーキドラム
18 空間
19 壁部材
57 壁部
59 凹部
91 円筒部
92 突条部
93 環状溝
94 環状突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形のバッキングプレートと、有底円筒状のブレーキドラムと、前記バッキングプレート上に配設されたブレーキシューとを備え、前記ブレーキドラムを前記バッキングプレートに装着した状態で、前記ブレーキシューが前記ブレーキドラムの円筒部の内周面に対向配置されるドラムブレーキ装置であって、
前記バッキングプレートの外周縁部を前記ブレーキドラム方向に折り曲げることにより全周にわたって形成された壁部と、
前記バッキングプレートの外周の少なくとも一部に沿って、前記壁部とあいまって前記バッキングプレートに形成された凹部と、
前記ブレーキドラムの円筒部の外周面に全周にわたって形成された突条部と、
前記ブレーキドラムの円筒部の外周面に、前記突条部よりも前記バッキングプレート側で全周にわたって形成された環状溝と、
前記ブレーキドラムの円筒部の外周面に、前記突条部よりも前記バッキングプレート側で前記環状溝とあいまって全周にわたって形成された環状突部と、
前記環状突部よりも前記バッキングプレート側で前記ブレーキドラムの円筒部の外径を前記環状突部の外径よりも小さくすることにより前記凹部内に確保された空間とを備え、
前記ブレーキドラムを前記バッキングプレートに装着した状態で、前記突条部の側面が前記壁部の先端縁に近接対向するとともに、前記環状突部の外周面が前記壁部の内周面に近接対向することを特徴とするドラムブレーキ装置。
【請求項2】
前記バッキングプレートの凹部に壁部材を立設し、その壁部材を前記空間内に配置したことを特徴とする請求項1に記載のドラムブレーキ装置。
【請求項3】
前記壁部は、前記バッキングプレートの外周縁部を円弧部を介して垂直に折り曲げることにより形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のドラムブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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