説明

ドラムブレーキ

【課題】レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結する作業性を従来に比較して向上させ且つレバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させた後においてそのレバー部材の他端部とブレーキケーブルの先端部とを連結する連結ピンの抜けを防止するドラムブレーキを提供する。
【解決手段】レバー部材56を弾性部材66の弾性復帰力に抗して連結穴56dを第1側壁部52c,52dから露出するように作業者が比較的大きな力を加えて弾性突起66dを弾性変形させることにより連結穴56dを目視して容易にブレーキケーブル58が連結させられる。連結させた後レバー部材56が車両走行時の振動等の小さな力により弾性突起66dに当接し小さく弾性変形しても連結穴56dが第1側壁部52c,52dから露出せずその弾性復帰力によりレバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16側に回動し連結ピン64の抜けが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関し、特にそのドラムブレーキの拡開装置にブレーキケーブルを取り付ける連結作業の作業性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、図16に示すようなドラムブレーキの拡開装置100が知られている。この図16に示される拡開装置100は、例えば車両走行中にレバー部材110の他端部がバッキングプレートから離間する方向に回動しそのレバー部材110の連結穴110aが本体120の一対の第1側壁部120aの間から露出してレバー部材110の他端部およびブレーキケーブル130の先端部にそれぞれ形成された連結穴110a,130aから連結ピン140が抜けないように、レバー部材110の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向に回動すると連結穴110aが一対の第1側壁部120aの間から露出しないように本体120の第1連結部120bに当接してレバー部材110の他端部の回動範囲が制限される。図16に示す一点鎖線は、レバー部材110の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向に回動して第1連結部120bに当接した状態を示すものである。
【0003】
上記のような拡開装置100においてレバー部材110の他端部にブレーキケーブル130の先端部を連結させる場合、作業者がその手によってレバー部材110の他端部を前記バッキングプレート側に接近させる方向にそのレバー部材110の連結穴110aが一対の第1側壁部120aの間から露出するまで回動させて、そのレバー部材110の連結穴110aにブレーキケーブル130の先端部の連結穴130aを合わせてそれら連結穴110a,130aに連結ピン140を嵌め入れることによって、レバー部材110の他端部にブレーキケーブル130の先端部が連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−071379号公報
【特許文献2】特開2001−349360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなドラムブレーキにおいて、そのドラムブレーキに一対のブレーキシュー等が組み付けられた状態からレバー部材110の他端部にブレーキケーブル130の先端部を連結させようとすると、作業者はレバー部材110の他端部を前記バッキングプレートに接近する方向に回動してそのレバー部材110の他端部が前記バッキングプレートに接近した状態すなわち前記レバー部材110の連結穴110aが上記ドラムブレーキに組み付けられた部品例えばリターンスプリング、アンカー部材、本体120等で作業者から隠れた状態で作業を行わなければならないため、そのレバー部材110の連結穴110aにブレーキケーブル130の連結穴130aを合わせてそれら連結穴110a,130aに連結ピン140を嵌め入れる作業が非常に困難であった。
【0006】
これに対して、レバー部材110の他端部に前記バッキングプレートを貫通させたブレーキケーブル130の先端部を予め取り付けてからドラムブレーキの構成部品をドラムブレーキに組み付けることが考えられるが、レバー部材110にブレーキケーブル130が取り付けられた状態でドラムブレーキの組み立てを行おうとするとそのブレーキケーブル130によってドラムブレーキの組付作業性が悪くなる。
【0007】
また、レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させる作業の作業性を向上させるために、特許文献1および特許文献2に記載されるような拡開装置が提案されている。この拡開装置は、その本体の第1連結部をレバー部材の他端部に形成された連結穴が本体の一対の第1側壁部の間から露出するまでそのレバー部材の他端部がバッキングプレートから離間する方向の回動を許容する位置に配設されており、そのレバー部材の他端部をそのバッキングプレートから離間させる方向に回動させることによりそのレバー部材の連結穴が上記ドラムブレーキに組み付けられた部品によって隠れず作業者から目視可能な状態で容易にブレーキケーブルの連結穴が合わせられてそれら連結穴に連結ピンが嵌め入れられ、レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させる作業の作業性が向上するものである。
【0008】
上記のような拡開装置おいて、レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部が連結された後にレバー部材の他端部がバッキングプレートから離間する方向に回動するとそのレバー部材の他端部に形成された連結穴が一対の第1側壁部から露出しその連結穴から連結ピンが脱落する可能性があり、特許文献1の拡開装置では、作業者が連結ピンを連結穴に嵌め入れられた後にレバー部材の連結穴が一対の第1側壁部の間から露出しないように本体の第1連結部に取り付けられたクリップ30を所定位置に移動させてレバー部材の他端部のバッキングプレートから離間する方向の回動範囲を制限し、連結ピンの連結穴からの脱落が防止される。また、特許文献2の拡開装置では、作業者が連結ピンを連結穴に嵌め入れられた後にそのレバー部材の連結穴およびブレーキケーブルの連結穴の開口部を塞ぐようにクリップ11を本体に装着させて、連結ピンの連結穴からの脱落が防止される。
【0009】
しかしながら、上記のような拡開装置において、作業者はレバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させた後に、そのレバー部材の連結穴およびそのブレーキケーブルの連結穴に嵌め入れられた連結ピンの脱落を防止する作業例えば特許文献1での作業者によるクリップ30の移動或いは特許文献2での作業者によるクリップ11の装着等の作業が増えてしまうため、レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を取り付ける作業の作業性が悪くなってしまう問題があった。
【0010】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結する作業性を従来に比較して向上させ、且つそのレバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させた後においてそのレバー部材の他端部とブレーキケーブルの先端部とを連結する連結ピンの抜けを防止することができるドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) バッキングプレート上に拡開可能に支持され且つリターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢された一対のブレーキシューと、(b) 前記バッキングプレートに垂直な板状を成して互いに向き合う一対の第1側壁部とその一対の第1側壁部の前記バッキングプレートから離れた側の側縁の一部を相互に連結する第1連結部とを有する本体と、その本体のその一対の第1側壁部の間に配設され且つその本体の一端部にそのバッキングプレートと平行な支持軸により一端部が回動可能に支持されたレバー部材とを有し、そのレバー部材の前記支持軸側の一端部とその本体の他端部とがその一対のブレーキシューの一端部間に内接させられた拡開装置と、(c) 前記バッキングプレートの裏面からそのバッキングプレートに設けられた挿通孔を通り前記レバー部材の他端部に先端部が連結されるブレーキケーブルと、(d) 前記ブレーキケーブルの先端部および前記レバー部材の他端部を相互に連結するためにその先端部および他端部にそれぞれに形成された連結穴内に嵌め入れられる長手状の連結ピンとを備え、(e) 前記レバー部材の他端部および前記ブレーキケーブルの先端部の連結穴に前記連結ピンが嵌め入れられてそのレバー部材の他端部とそのブレーキケーブルの先端部とが連結されると共に、前記レバー部材の他端部が前記一対の第1側壁部の間に位置する状態では前記連結ピンの前記連結穴からの抜けがその一対の第1側壁部によって阻止される形式のドラムブレーキであって、(f) 前記第1連結部は、そのレバー部材の他端部に形成された連結穴が前記本体の前記一対の第1側壁部の間から露出するまで、前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向の回動を許容する位置に前記本体に配設されており、(g) 前記第1連結部には、前記レバー部材の他端部の前記バッキングプレートから離間する方向の回動をそのレバー部材に当接することによって弾性変形し、そのレバー部材の他端部に形成された連結穴が前記一対の第1側壁部の間から露出しないように前記レバー部材の他端部を前記バッキングプレートに接近する側へ付勢する弾性部材が備えられていることにある。
【0012】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、(a) 前記弾性部材には、前記本体の前記第1連結部を把持する把持爪を有する基端部と、その基端部から前記第1連結部と前記レバー部材との間に突き出された弾性変形可能な弾性突起とが一体に備えられており、(b) 前記弾性部材の弾性突起は、前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向に回動すると当接して前記第1連結部側に弾性変形させられることにより、そのレバー部材の他端部を前記バッキングプレートに接近する側へ付勢するものである。
【0013】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項2に係る発明において、(a) 前記基端部は、前記第1連結部の前記バッキングプレートとは反対側の面上に配設されており、(b) 前記把持爪は、前記基端部から前記第1連結部の前記バッキングプレート側の面側にそれぞれ延長されてその第1連結部の前記バッキングプレート側の面をそれぞれ押圧する一対の把持爪であって、(c) 前記一対の把持爪は、前記一対の第1側壁部の内壁面にそれぞれ隣接して配置されるものである。
【0014】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、請求項2に係る発明において、(a) 前記弾性突起は、前記基端部の前記把持爪の両側から前記第1連結部と前記レバー部材との間にそれぞれ突き出される一対の弾性突起であって、(b) 前記一対の弾性突起は、前記一対の第1側壁部の内壁面にそれぞれ隣接して配置されるものである。
【0015】
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、請求項4に係る発明において、前記一対の弾性突起の先端部は、それら先端部を相互に連結する第2連結部を備えていることにある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明のドラムブレーキによれば、(f) 前記第1連結部は、そのレバー部材の他端部に形成された連結穴が前記本体の前記一対の第1側壁部の間から露出するまで、前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向の回動を許容する位置に前記本体に配設されており、(g) 前記第1連結部には、前記レバー部材の他端部の前記バッキングプレートから離間する方向の回動をそのレバー部材に当接することによって弾性変形し、そのレバー部材の他端部に形成された連結穴が前記一対の第1側壁部の間から露出しないように前記レバー部材の他端部を前記バッキングプレートに接近する側へ付勢する弾性部材が備えられている。そのため、前記レバー部材を前記バッキングプレートから離間する方向に前記弾性部材と当接するまで回動させ、その弾性部材の弾性復帰力に抗してそのレバー部材の他端部に形成された連結穴が前記一対の第1側壁部から露出するように比較的大きな力を加えて比較的大きくその弾性部材を弾性変形させることによって、前記レバー部材の他端部がさらに前記バッキングプレートから離間する方向に回動しそのレバー部材の他端部に形成された前記連結穴が前記一対の第1側壁部から露出するので、前記レバー部材の連結穴が前記ドラムブレーキに組み付けられた部品等によって隠れなくその連結穴を目視して容易に前記ブレーキケーブルの先端部が連結させられる。また、前記レバー部材の他端部に前記ブレーキケーブルの先端部が連結された後、前記レバー部材の他端部は前記弾性部材の弾性復帰力によって前記バッキングプレートに接近する方向に付勢されそのレバー部材の他端部に形成された前記連結穴が前記一対の第1側壁部から露出しない回動位置まで回動させられる。その後、前記レバー部材の他端部が車両走行時の振動等の比較的小さな力によって前記バッキングプレートから離間する方向に回動して前記弾性部材に当接すると、前記弾性部材は前記レバー部材の他端部に形成された連結穴が前記一対の第1側壁部の間から露出しない程度に比較的小さく弾性変形すると共に、その弾性部材の弾性復帰力によって前記レバー部材の他端部を前記バッキングプレートに接近する方向に付勢するので前記連結ピンの前記連結穴からの抜けが防止される。これにより、本発明のドラムブレーキは、レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させる作業性を従来に比較して向上させ、且つそのレバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させた後においてそのレバー部材の他端部とブレーキケーブルの先端部とを連結させた連結ピンの抜けを防止させる作業をしないでレバー部材の他端部とブレーキケーブルの先端部とを連結させた連結ピンの抜けを防止させられる。
【0017】
請求項2に係る発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記弾性部材には、前記本体の前記第1連結部を把持する把持爪を有する基端部と、その基端部から前記第1連結部と前記レバー部材との間に突き出された弾性変形可能な弾性突起とが一体に備えられており、(b) 前記弾性部材の弾性突起は、前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向に回動すると当接して前記第1連結部側に弾性変形させられることにより、そのレバー部材の他端部を前記バッキングプレートに接近する側へ付勢するものであるため、前記第1連結部と前記レバー部材との間における前記弾性突起の先端部の位置を変更させることによって、前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向の回動範囲を自由に設定することができる。
【0018】
請求項3に係る発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記基端部は、前記第1連結部の前記バッキングプレートとは反対側の面上に配設されており、(b) 前記把持爪は、前記基端部から前記第1連結部の前記バッキングプレート側の面側にそれぞれ延長されてその第1連結部の前記バッキングプレート側の面をそれぞれ押圧する一対の把持爪であって、(c) 前記一対の把持爪は、前記一対の第1側壁部の内壁面にそれぞれ隣接して配置されるものである。そのため、前記本体の第1連結部に取り外し可能に取り付けられた前記弾性部材が車両走行中の振動等によって前記第1側壁部側へずれようとすると前記弾性部材の前記一対の把持爪が前記一対の第1側壁部の内壁面に当接してその弾性部材の前記第1側壁部側のずれが防止される。
【0019】
請求項4に係る発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記弾性突起は、前記基端部の前記把持爪の両側から前記第1連結部と前記レバー部材との間にそれぞれ突き出される一対の弾性突起であって、(b) 前記一対の弾性突起は、前記一対の第1側壁部の内壁面にそれぞれ隣接して配置されるものである。そのため、前記本体の第1連結部に取り外し可能に取り付けられた前記弾性部材が車両走行中の振動等によって前記第1側壁部側へずれようとすると前記弾性部材の前記一対の弾性突起が前記一対の第1側壁部の内壁面に当接してその弾性部材の前記第1側壁部側のずれが防止される。
【0020】
請求項5に係る発明のドラムブレーキによれば、前記一対の弾性突起の先端部は、それら先端部を相互に連結する第2連結部を備えているため、前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向に回動すると前記一対の弾性突起の前記第2連結部に当接し、前記レバー部材の他端部に加えられた力を前記第2連結部を介して好適に前記一対の弾性突起に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明が適用されたデュオサーボ型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1に示す拡開装置の構造を説明する図1のII-II視断面図である。
【図3】図2のIII-III視断面図である。
【図4】図2の拡開装置において例えば車両走行時の振動等によってレバー部材の他端部がバッキングプレートから離隔する方向に回動して弾性部材の弾性突起に当接した状態を示す図である。
【図5】図2の拡開装置に備えられた弾性部材を説明するその弾性部材の斜視図である。
【図6】図5のVI-VI視面図である。
【図7】図4のVII-VII視断面図である。
【図8】レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させる作業工程を説明する図である。
【図9】レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させる作業工程を説明する図である。
【図10】レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させる作業工程を説明する図である。
【図11】レバー部材の他端部にブレーキケーブルの先端部を連結させる作業工程を説明する図である。
【図12】本発明の他の実施例の弾性部材を示す図であり、図4に対応するものである。
【図13】本発明の他の実施例の弾性部材を示す図であり、図5に対応するものである。
【図14】本発明の他の実施例の弾性部材を示す図であり、図6に対応するものである。
【図15】本発明の他の実施例の弾性部材を示す図であり、図7に対応するものである。
【図16】従来のドラムブレーキに備えられた拡開装置を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の一実施例のパーキングブレーキ用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10が中央部に備えられたデュオサーボ型のドラムインディスクブレーキ12のハット型ディスクおよびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型ディスクは、図示されていない円板状外周部と有底円筒状中央部とによって構成され、その円板状外周部はディスクブレーキの摩擦板として機能し、その有底円筒状中央部はブレーキドラムとして機能している。図1の1点鎖線で示す円はその有底円筒状中央部の内周面14を示している。
【0024】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。このバッキングプレート16の外周部には、前記ハット型ディスクの円板状外周部を保護するためのディスクカバー18が固定されている。
【0025】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー20,22と、その一対のブレーキシュー20,22の一端部すなわち図1の上端部の間において位置固定に設けられた拡開装置24と、それら上端部を互いに接近する方向に常時付勢して拡開装置24に当接するためのコイル状のリターンスプリング26と、それら上端部の間に固設されたアンカー部材28と、一対のブレーキシュー20,22の他端部すなわち図1の下端部の間に介在させられてアジャストホイール30の回転に伴って全長が変化させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置32と、それら下端部間に張設されてそれら下端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置32を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリング34とが備えられている。
【0026】
一対のブレーキシュー20,22は、何れも、バッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ36,38と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム40,42と、それらシューリム40,42の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング44,46とを備えてそれぞれ構成されている。また、一対のブレーキシュー20,22は、シューウェブ36およびシューウェブ38にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置48,50によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。
【0027】
拡開装置24は、図2に示すように、本体52と、その本体52の一端部52aにバッキングプレート16と略平行な支持軸54により一端部56aが回動可能に支持されたレバー部材56とによって構成されており、一対のブレーキシュー20,22の一端部間にそのレバー部材56の一端部56aと本体52の他端部52bとが内接させられている。また、レバー部材56の他端部56bには、ブレーキケーブル58の先端部が連結されており、そのブレーキケーブル58の先端部がバッキングプレート16側に引っ張られることによってレバー部材56の他端部56bが支持軸54回り矢印F1方向に回動する。
【0028】
図2に示すように、一対のブレーキシュー20,22の一端部間におけるバッキングプレート16の表面16aには、一対のボルト60によってアンカー部材28の固定部28aがバッキングプレート16と共に図示されていないアクスルハウジングやサスペンション装置などの車体側部材に一体的に固定されており、拡開装置24は、その一対のボルト60の頭部60a上に当接して支持されている。また、図2に示すように、アンカー部材28の固定部28aおよびバッキングプレート16およびアクスル62にはブレーキケーブル58の先端部を挿通させるための挿通孔28b,16b,62aが設けられている。
【0029】
図2、図3に示すように、レバー部材56は、1枚の金属板によって構成されており、そのレバー部材56の一端部56aには、ブレーキシュー22のシューウェブ38と係合する係合凹部56cが備えられている。また、図2、図3に示すように、ブレーキケーブル58の先端部には、レバー部材56の他端部56bの両側を隔て互いに向き合う板状の一対の第2側壁部58a,58bと、その一対の第2側壁部58a,58bとブレーキケーブル58の先端部とを連結する連結部58cとが備えられており、その一対の第2側壁部58a,58bおよびレバー部材56の他端部56bには、ブレーキケーブル58の先端部とレバー部材56の他端部56bとを相互に連結する略円柱形状の連結ピン64が嵌め入れられる連結穴58d,58e、56dが備えられている。図3に示すように、ブレーキケーブル58における一対の第2側壁部58a,58bの内壁面の間の距離Aは、レバー部材56の他端部56bの厚み寸法Bより長い長さに設定されており、ブレーキケーブル58の一対の第2側壁部58a,58bの間にレバー部材56の他端部56bが通るようになっている。
【0030】
図2、図3に示すように、本体52は、バッキングブレート16に略垂直な板状を成してレバー部材56の両側に隔てられ互いに略平行な一対の第1側壁部52c,52dと、その一対の第1側壁部52c,52dのバッキングプレート16から離れた側の側縁を相互に連結する平板状の第1連結部52eとによって構成されている。また、一対の第1側壁部52c,52dには、その他端部52bにブレーキシュー20のシューウェブ36と係合する係合凹部52fが備えられている。図3に示すように、連結ピン64の長手方向の寸法Cは、一対の第1側壁部52c,52dの内壁面52g,52hの間の距離Dより短く一対の第2側壁部58a,58bの幅寸法Eより長い長さに設定されており、連結穴58d,58e、56d内に連結ピン64が嵌め入れられた際、その連結ピン64が一対の第1側壁部52c,52dの一方例えば第1側壁部52dと当接しても第2側壁部58aの連結穴58dから連結ピン64が外れないように第1側壁部52c,52dと第2側壁部58a,58bとの隙間Fの大きさが設定されている。
【0031】
図2、図4に示すように、本体52の第1連結部52eには、例えば車両走行時の振動等によってレバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離隔する方向に回動するとそのレバー部材56に当接することによって弾性変形し、そのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出しないようにそのレバー部材56の他端部56bをバッキングプレート16に接近する側へ付勢する弾性部材66が備えられている。また、弾性部材66が本体52の第1連結部52eに取り付けられていない場合、レバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離間する方向に回動して第1連結部52eと当接するとそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出するように第1連結部52eが本体52に配置されている。
【0032】
弾性部材66は、図4、図5に示すように、例えばばね鋼等の弾性のある鋼材から構成されたものであり、その弾性部材66には、本体52の第1連結部52eを把持する一対の把持爪66aを有する平板状の基端部66bと、その基端部66bの先端部における中央部から第1連結部52eとレバー部材56との間に先端部66cが突き出された弾性変形可能な弾性突起66dとが一体に備えられている。
【0033】
図5、図6に示すように、弾性部材66の一対の把持爪66aは、その弾性部材66の基端部66bから延長され先端部がその基端部66bと向かい合うように曲げられておりその一対の把持爪66aの先端部と平板状の基端部66bとの間の距離Gが本体52の第1連結部52eの厚みHより小さいので、その弾性部材66の基端部66bが第1連結部52eのバッキングプレート16とは反対側の面52i上に配設されると、一対の把持爪66aの先端部がその弾性復帰力により第1連結部52eのバッキングプレート16側の面52jをそれぞれ押圧して第1連結部52eがその一対の把持爪66aと基端部66bとによって挟圧されて弾性部材66が本体52の第1連結部52eに取り付けられる。図6において、実線の把持爪66aは弾性部材66が本体52の第1連結部52eに取り付けられる前の状態を示すものであって、一点鎖線の把持爪66aは弾性部材66が本体52の第1連結部52eに取り付けられた状態を示すものである。
【0034】
図7に示すように、弾性部材66の一対の把持爪66aは、基端部66bの先端部における弾性突起66dの両側から本体52の一対の第1側壁部52c,52dの内壁面52g,52hにそれぞれ配置されており、その一対の把持爪66aの幅寸法Iがその一対の第1側壁部52c,52dのそれぞれの内壁面52g,52hの間の距離Dより僅かに小さくされている。
【0035】
図4は、例えば車両走行時の振動等によってレバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離隔する方向に回動して弾性部材66の弾性突起66dに当接した状態を示すものである。その図4によれば、弾性突起66dの先端部66cにレバー部材56が当接するとその弾性突起66dの先端部66cは第1連結部52e側に弾性変形するとともにその弾性突起66dの弾性復帰力によってレバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16側へ付勢されるようになっている。
【0036】
上記弾性部材66の弾性突起66dにおいて、第1連結部52eとレバー部材56との間におけるその弾性突起66dの先端部66cの位置は、車両走行時の振動等の比較的小さい力によってレバー部材56が弾性突起66dの先端部66cに当接しその先端部66cが第1連結部52e側へ弾性変形してもレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出しないように実験等により設定されたものである。また、弾性突起66dは、作業者がレバー部材56の他端部56bをバッキングプレート16から離間する側へ上記車両走行時の振動等の比較的小さい力より大きい力で回動させると弾性突起66dの先端部66cが第1連結部52e側へ弾性変形してそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出するように実験等により設計されたものである。
【0037】
図8乃至図11は、レバー部材56の他端部56bにブレーキケーブル58の先端部を連結させる作業工程を説明する図である。以下において、レバー部材56の他端部56bにブレーキケーブル58の先端部を連結させる作業工程を説明する。
【0038】
始めに作業者は、図8に示すように本体52の第1連結部52eに弾性部材66を取り付け、一対のブレーキシュー20,22の一端部間に内接された拡開装置24のレバー部材56を支持軸54回りバッキングプレート16から離間する方向すなわち矢印F2方向に回動させてそのレバー部材56を弾性突起66dの先端部66cに当接させる。そして、図9に示すように、作業者は弾性突起66dの弾性復帰力に抗してレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dを本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出するように比較的大きな力を加えて弾性突起66dの先端部66cを第1連結部52e側へ弾性変形させその連結穴56dを本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出させる。
【0039】
次に作業者は、図9に示すように一対の第1側壁部52c,52dの間から露出したレバー部材56の連結穴56dを目視しながらブレーキケーブル58の先端部をレバー部材56の他端部56b側に移動させて、図10に示すようにレバー部材56の連結穴56dおよび一対の第2側壁部58a,58bの連結穴58d,58eを目視してそれら連結穴56d、58d,58eどうしを合わせる。
【0040】
最後に作業者は、図11に示すように、連結ピン64を連結穴56d、58d,58e内に差し込み、レバー部材56の他端部56bにブレーキケーブル58の先端部が連結される。そして作業者は、レバー部材56の他端部56bにブレーキケーブル58の先端部が連結された状態から手を離すと弾性突起66dの弾性復帰力によってそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dの間から露出しない回動位置までバッキングプレート16に接近する方向に回動されて、その後車体側でブレーキケーブル58の長さが調節されることにより作業が完了する。
【0041】
以上のように構成された拡開装置24は、レバー部材56の他端部56bに連結されたブレーキケーブル58を介して図示されてないパーキングブレーキレバーからの引張方向の操作力が伝達されると、レバー部材56の他端部56bが支持軸54まわりバッキングプレート16側に回動して拡開装置24の係合凹部52fと係合凹部56cとの間隔が拡大されて一対のブレーキシュー20,22が拡開する。
【0042】
また、拡開装置24は、例えば車両走行時において図4に示すようにその車両走行時の振動等の比較的小さい力によってレバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離間する方向に回動して弾性突起66dの先端部66cに当接すると、その弾性突起66dの先端部66cはレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dの間から露出しない程度に比較的小さく第1連結部52e側に弾性変形すると共に、その弾性突起66dの弾性復帰力によってレバー部材56の他端部56bをバッキングプレート16に接近する方向に付勢する。
【0043】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、本体52の第1連結部52eは、レバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出するまで、レバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離間する方向の回動を許容する位置に本体52に配設されており、その第1連結部52eには、レバー部材56の他端部56bのバッキングプレート16から離間する方向の回動をそのレバー部材56に当接することによって弾性変形し、そのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dの間から露出しないようにレバー部材56の他端部56bをバッキングプレート16に接近する側へ付勢する弾性部材66の弾性突起66dが備えられている。そのため、レバー部材56をバッキングプレート16から離間する方向に弾性部材66の弾性突起66dと当接するまで回動させ、その弾性部材66の弾性突起66dの弾性復帰力に抗してそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dから露出するように作業者が比較的大きな力を加えて比較的大きくその弾性部材66の弾性突起66dを弾性変形させることによって、レバー部材56の他端部56bがさらにバッキングプレート16から離間する方向に回動しそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dから露出するので、レバー部材56の連結穴56dがドラムブレーキ10に組み付けられた部品等によって隠れなくその連結穴56dを目視して容易にブレーキケーブル58の先端部が連結させられる。また、レバー部材56の他端部56bにブレーキケーブル58の先端部が連結された後、レバー部材56の他端部56bは弾性部材66の弾性突起66dの弾性復帰力によってバッキングプレート16に接近する方向に付勢されそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dから露出しない回動位置まで回動させられる。その後、レバー部材56の他端部56bが車両走行時の振動等の比較的小さな力によってバッキングプレート16から離間する方向に回動して弾性部材66の弾性突起66dに当接すると、その弾性部材66の弾性突起66dはレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dの間から露出しない程度に比較的小さく弾性変形すると共に、その弾性部材66の弾性突起66dの弾性復帰力によってレバー部材56の他端部56bをバッキングプレート16に接近する方向に付勢するので連結ピン64の連結穴56d、58d,58eからの抜けが防止される。これにより、本実施例のドラムブレーキ10は、レバー部材56の他端部56bにブレーキケーブル58の先端部を連結させる作業性を従来に比較して向上させ、且つそのレバー部材56の他端部56bにブレーキケーブル58の先端部を連結させた後においてそのレバー部材56の他端部56bとブレーキケーブル58の先端部とを連結させた連結ピン64の抜けを防止させる作業をしないでレバー部材56の他端部56bとブレーキケーブル58の先端部とを連結させた連結ピン64の抜けを防止させられる。
【0044】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、弾性部材66には、本体52の第1連結部52eを把持する一対の把持爪66aを有する基端部66bと、その基端部66bから第1連結部52eとレバー部材56との間に突き出された弾性変形可能な弾性突起66dとが一体に備えられており、弾性部材66の弾性突起66dは、レバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離間する方向に回動すると当接して第1連結部52e側に弾性変形させられることにより、そのレバー部材56の他端部56bをバッキングプレート16に接近する側へ付勢するものであるため、第1連結部52eとレバー部材56との間における弾性突起66dの先端部66cの位置を変更させることによって、レバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離間する方向の回動範囲を自由に設定することができる。
【0045】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、弾性部材66の基端部66bは、第1連結部52eのバッキングプレート16とは反対側の面52i上に配設されており、把持爪66aは、基端部66bから第1連結部52eのバッキングプレート16側の面52j側にそれぞれ延長されてその第1連結部52eのそのバッキングプレート16側の面52jをそれぞれ押圧する一対の把持爪66aであって、その一対の把持爪66aは、一対の第1側壁部52c,52dの内壁面52g,52hにそれぞれ隣接して配置されるものである。そのため、本体52の第1連結部52eに取り外し可能に取り付けられた弾性部材66が車両走行時の振動等によって例えば一対の第1側壁部52c,52dの一方52c側へずれようとすると弾性部材66の把持爪66aが第1側壁部52cの内壁面52gに当接してその弾性部材66の第1側壁部52c側のずれが防止される。また、弾性部材66が第1側壁部52d側へずれようとすると弾性部材66の把持爪66aが第1側壁部52dの内壁面52hに当接してその弾性部材66の第1側壁部52d側のずれが防止される。
【実施例2】
【0046】
また、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の他の実施例において実施例相互間で共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
本実施例のドラムブレーキは、実施例1の弾性部材66と異なる弾性部材68を備える以外は実施例1のドラムブレーキ10と略同様であって、図12乃至図15はその弾性部材68を説明する図であり、前述の実施例1の図4、図5、図6、図7に対応するものである。
【0048】
図12に示すように、本体52の第1連結部52eには、例えば車両走行時の振動等によってレバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離隔する方向に回動するとそのレバー部材56に当接することによって弾性変形し、そのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出しないようにそのレバー部材56の他端部56bをバッキングプレート16に接近する側へ付勢する弾性部材68が備えられている。
【0049】
弾性部材68は、図13、図14に示すように、例えばばね鋼等の弾性のある鋼材から構成されたものであり、その弾性部材68には、本体52の第1連結部52eを把持する把持爪68aを有する平板状の基端部68bと、その基端部66bの先端部における中央部に設けられた把持爪68aの両側から第1連結部52eとレバー部材56との間に先端部68cが突き出された弾性変形可能な一対の弾性突起68dと、その一対の弾性突起68dの先端部68cを相互に連結する第2連結部68eとが一体に備えられている。
【0050】
図13、図14に示すように、弾性部材68の把持爪68aは、その弾性部材68の基端部68bから延長され先端部がその基端部68bと向かい合うように曲げられておりその把持爪68aの先端部と平板状の基端部68bとの間の距離Jが本体52の第1連結部52eの厚みHより小さいので、その弾性部材68の基端部68bが第1連結部52eのバッキングプレート16とは反対側の面52i上に配設されると、把持爪68aの先端部がその弾性復帰力により第1連結部52eのバッキングプレート16側の面52jを押圧して第1連結部52eがその把持爪68aと基端部68bとによって挟圧されて弾性部材68が本体52の第1連結部52eに取り付けられる。図14において、実線の把持爪68aは弾性部材68が本体52の第1連結部52eに取り付けられる前の状態を示すものであって、一点鎖線の把持爪68aは弾性部材68が本体52の第1連結部52eに取り付けられた状態を示すものである。
【0051】
図15に示すように、弾性部材68の一対の弾性突起68dは、基端部68bの先端部における把持爪68aの両側から本体52の一対の第1側壁部52c,52dの内壁面52g,52hにそれぞれ配置されており、その一対の弾性突起68dの幅寸法Kがその一対の第1側壁部52c,52dのそれぞれの内壁面52g,52hの間の距離Dより僅かに小さくされている。
【0052】
図12は、例えば車両走行時の振動等によってレバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離隔する方向に回動して弾性部材68の弾性突起68dの第2連結部68eに当接した状態を示すものである。その図12によれば、弾性突起68dの第2連結部68eにレバー部材56が当接するとその弾性突起68dの第2連結部68eは第1連結部52e側に弾性変形するとともにその一対の弾性突起68dの弾性復帰力によってレバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16側へ付勢されるようになっている。
【0053】
上記弾性部材68の一対の弾性突起68dにおいて、第1連結部52eとレバー部材56との間におけるその一対の弾性突起68dの先端部68cすなわち第2連結部68eの位置は、車両走行時の振動等の比較的小さい力によってレバー部材56が一対の弾性突起68dの第2連結部68eに当接しその第2連結部68eが第1連結部52e側へ弾性変形してもレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出しないように実験等により設定されたものである。また、一対の弾性突起68dは、作業者がレバー部材56の他端部56bをバッキングプレート16から離間する側へ上記車両走行時の振動等の比較的小さい力より大きい力で回動させると一対の弾性突起68dの第2連結部68eが第1連結部52e側へ弾性変形してそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが本体52の一対の第1側壁部52c,52dの間から露出するように実験等により設計されたものである。
【0054】
このため、レバー部材56をバッキングプレート16から離間する方向に第2連結部68eと当接するまで回動させ、その弾性部材68の一対の弾性突起68dの弾性復帰力に抗してそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dから露出するように作業者が比較的大きな力を加えて比較的大きくその弾性部材68の一対の弾性突起68dを弾性変形させることによってそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dから露出するので、レバー部材56の連結穴56dがドラムブレーキ10に組み付けられた部品等によって隠れなくその連結穴56dを目視して容易にブレーキケーブル58の先端部が連結させられる。レバー部材56の他端部56bにブレーキケーブル58の先端部が連結された後、レバー部材56の他端部56bは弾性部材68の一対の弾性突起68dの弾性復帰力によってバッキングプレート16に接近する方向に付勢されそのレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dから露出しない回動位置まで回動させられる。
【0055】
その後、レバー部材56の他端部56bが例えば車両走行時の振動等の比較的小さな力によってバッキングプレート16から離間する方向に回動して弾性部材68の第2連結部68eに当接しても、その弾性部材68の一対の弾性突起68dはレバー部材56の他端部56bに形成された連結穴56dが一対の第1側壁部52c,52dの間から露出しない程度に比較的小さく弾性変形すると共に、その弾性部材68の一対の弾性突起68dの弾性復帰力によってレバー部材56の他端部56bをバッキングプレート16に接近する方向に付勢するので連結ピン64の連結穴56d、58d,58eからの抜けが防止される。
【0056】
本実施例のドラムブレーキによれば、弾性部材68の弾性突起68dは、基端部68bの先端部における把持爪68aの両側から第1連結部52eとレバー部材56との間にそれぞれ突き出される一対の弾性突起68dであって、その一対の弾性突起68dは、本体52の一対の第1側壁部52c,52dの内壁面52g,52hにそれぞれ隣接して配置されるものである。そのため、本体52の第1連結部52eに取り外し可能に取り付けられた弾性部材68が車両走行時の振動等によって例えば一対の第1側壁部52c,52dの一方52c側へずれようとするとその弾性部材68の弾性突起68dが第1側壁部52cの内壁面52gに当接してその弾性部材68の第1側壁部52c側のずれが防止される。また、弾性部材68が第1側壁部52d側へずれようとするとその弾性部材68の弾性突起68dが第1側壁部52dの内壁面52hに当接してその弾性部材68の第1側壁部52d側のずれが防止される。
【0057】
また、本実施例のドラムブレーキによれば、一対の弾性突起68dの先端部68cは、それら先端部68cを相互に連結する第2連結部68eを備えているため、レバー部材56の他端部56bがバッキングプレート16から離間する方向に回動すると一対の弾性突起68dの第2連結部68eに当接し、レバー部材56の他端部56bに加えられた力を第2連結部68eを介して好適に一対の弾性突起68dに伝達することができる。
【0058】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0059】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10において、弾性部材66はその把持爪66aによって本体52の第1連結部52eにその弾性部材66を取り外し可能に取り付けられたが、必ずしも弾性部材66は本体52の第1連結部52eに把持爪66aを用いて取り外し可能に取り付けられる必要はなく、弾性部材66の平板の基端部66bを本体52の第1連結部52eに例えば溶接等により直接取り付けても良い。
【0060】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0061】
10:ドラムブレーキ
16:バッキングプレート
16b:挿通穴
20,22:一対のブレーキシュー
24:拡開装置
26:リターンスプリング
52:本体
52a:一端部
52b:他端部
52c,52d:一対の第1側壁部
52e:第1連結部
52g,52h:内壁面
52i:第1連結部のバッキングプレートとは反対側の面
52j:第1連結部のバッキングプレート側の面
54:支持軸
56:レバー部材
56a:一端部
56b:他端部
56d:連結穴
58:ブレーキケーブル
58d,58e:連結穴
64:連結ピン
66,68:弾性部材
66a,68a:把持爪
66b,68b:基端部
66d,68d:弾性突起
68e:第2連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレート上に拡開可能に支持され且つリターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢された一対のブレーキシューと、
前記バッキングプレートに垂直な板状を成して互いに向き合う一対の第1側壁部と該一対の第1側壁部の前記バッキングプレートから離れた側の側縁の一部を相互に連結する第1連結部とを有する本体と、該本体の該一対の第1側壁部の間に配設され且つ該本体の一端部に該バッキングプレートと平行な支持軸により一端部が回動可能に支持されたレバー部材とを有し、該レバー部材の前記支持軸側の一端部と該本体の他端部とが該一対のブレーキシューの一端部間に内接させられた拡開装置と、
前記バッキングプレートの裏面から該バッキングプレートに設けられた挿通孔を通り前記レバー部材の他端部に先端部が連結されるブレーキケーブルと、
前記ブレーキケーブルの先端部および前記レバー部材の他端部を相互に連結するために該先端部および他端部にそれぞれに形成された連結穴内に嵌め入れられる長手状の連結ピンとを備え、
前記レバー部材の他端部および前記ブレーキケーブルの先端部の連結穴に前記連結ピンが嵌め入れられて該レバー部材の他端部と該ブレーキケーブルの先端部とが連結されると共に、前記レバー部材の他端部が前記一対の第1側壁部の間に位置する状態では前記連結ピンの前記連結穴からの抜けが該一対の第1側壁部によって阻止される形式のドラムブレーキであって、
前記第1連結部は、該レバー部材の他端部に形成された連結穴が前記本体の前記一対の第1側壁部の間から露出するまで、前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向の回動を許容する位置に前記本体に配設されており、
前記第1連結部には、前記レバー部材の他端部の前記バッキングプレートから離間する方向の回動を該レバー部材に当接することによって弾性変形し、該レバー部材の他端部に形成された連結穴が前記一対の第1側壁部の間から露出しないように前記レバー部材の他端部を前記バッキングプレートに接近する側へ付勢する弾性部材が備えられていることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記弾性部材には、前記本体の前記第1連結部を把持する把持爪を有する基端部と、該基端部から前記第1連結部と前記レバー部材との間に突き出された弾性変形可能な弾性突起とが一体に備えられており、
前記弾性部材の弾性突起は、前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレートから離間する方向に回動すると当接して前記第1連結部側に弾性変形させられることにより、該レバー部材の他端部を前記バッキングプレートに接近する側へ付勢するものであることを特徴とする請求項1のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記基端部は、前記第1連結部の前記バッキングプレートとは反対側の面上に配設されており、
前記把持爪は、前記基端部から前記第1連結部の前記バッキングプレート側の面側にそれぞれ延長されて該第1連結部の前記バッキングプレート側の面をそれぞれ押圧する一対の把持爪であって、
前記一対の把持爪は、前記一対の第1側壁部の内壁面にそれぞれ隣接して配置されるものであることを特徴とする請求項2のドラムブレーキ。
【請求項4】
前記弾性突起は、前記基端部の前記把持爪の両側から前記第1連結部と前記レバー部材との間にそれぞれ突き出される一対の弾性突起であって、
前記一対の弾性突起は、前記一対の第1側壁部の内壁面にそれぞれ隣接して配置されるものであることを特徴とする請求項2のドラムブレーキ。
【請求項5】
前記一対の弾性突起の先端部は、それら先端部を相互に連結する第2連結部を備えていることを特徴とする請求項4のドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−2341(P2012−2341A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140999(P2010−140999)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】