説明

パターン形成体の製造方法

【課題】本発明は、インプリント時における樹脂漏れを防止することができるパターン形成体の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、親液層および撥液層が表面に形成された基板を用い、上記親液層上に被転写樹脂層形成用塗工液を塗布し、被転写樹脂層を形成する被転写樹脂層形成工程と、上記被転写樹脂層に対して、凹凸パターン部を有するモールドを密着させ、密着積層体を形成する密着積層体形成工程と、上記密着積層体の被転写樹脂層を硬化させる硬化工程と、を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント時における樹脂漏れを防止することができるパターン形成体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体集積回路やマイクロレンズを作製する際に、現在、フォトリソグラフィー法が広く使用されている。一方、このようなフォトリソグラフィーと比較して、安価に凹凸パターンを形成する方法として、インプリント法が知られている。インプリント法とは、表面に予め所望の凹凸パターンを有するモールドを用いて、被転写基板と密着させ、熱や光等の外部刺激を与えることによって、被転写基板の表面に凹凸パターンを形成する方法である。
【0003】
ところが、インプリント法においては、以下のような問題があった。すなわち、図3(a)に示すように、一般的なインプリント法においては、基板3上に形成された被転写樹脂層4に対して、モールド5の凹凸パターンを密着させることより賦型を行うのであるが、密着時の圧力により、被転写樹脂層が所定の範囲外まで広がるおそれ(樹脂漏れ発生のおそれ)があり、所望のパターンが形成できない場合があるといった問題があった。
【0004】
このような問題に対して、モールドの形状に工夫することにより、樹脂漏れを防止する試みが知られている。例えば特許文献1においては、メサ構造を有するインプリント用モールドが開示されている。メサ構造とは、モールドが被転写樹脂層と接する表面のうち、凹凸パターンを形成しない部分(非凹凸パターン部)に段差をつけた構造をいい、具体的には図3(b)に示すように、モールド5の非凹凸パターン部9に段差をつけることにより、被転写樹脂層4との接触を避け、樹脂漏れの発生の抑制を図るものであった。
【0005】
しかしながら、メサ構造を有するインプリント用モールドを作製するためには、通常のモールドを作製する場合と比べて、さらに非凹凸パターン部をエッチングする工程が必要となる、スループットが悪い等の問題があった。さらに、メサ構造を有するインプリント用モールドを用いた場合であっても、メサ構造部の深さによっては、メサ構造部に樹脂が回りこみ、樹脂漏れが発生してしまうといった問題があった。
【0006】
【特許文献1】米国特許6,996,220号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、インプリント時における樹脂漏れを防止することができるパターン形成体の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては、親液層および撥液層が表面に形成された基板を用い、上記親液層上に被転写樹脂層形成用塗工液を塗布し、被転写樹脂層を形成する被転写樹脂層形成工程と、上記被転写樹脂層に対して、凹凸パターン部を有するモールドを密着させ、密着積層体を形成する密着積層体形成工程と、上記密着積層体の被転写樹脂層を硬化させる硬化工程と、を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法を提供する。
【0009】
本発明によれば、基板表面上に、親液層および撥液層を設けることにより、樹脂漏れの発生を抑制することができる。
【0010】
上記発明においては、表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合に、上記親液層での接触角(θ)と、上記撥液層での接触角(θ)との差(θ−θ)が50°以上であることが好ましい。接触角(θ)および接触角(θ)の差が大きいことで、効果的に樹脂漏れの発生を抑制することができるからである。
【0011】
上記発明においては、上記親液層が、親液性官能基を有するシランカップリング剤により形成され、かつ、上記撥液層が、撥液性官能基を有するシランカップリング剤により形成されていることが好ましい。二種類のシランカップリング剤を塗り分けることで容易に親液層および撥液層を形成することができるからである。
【0012】
上記発明においては、上記基板上に、光触媒の作用により表面の濡れ性が変化する濡れ性変化層を形成し、上記濡れ性変化層と、光触媒を含有する光触媒含有層が基材上に形成されてなる光触媒含有層側基板とを、所定の間隔をおいて配置し、所定の方向からパターン状にエネルギーを照射することにより、上記基板上に上記親液層および上記撥液層を形成することが好ましい。エネルギー照射の有無のみの違いで、容易に親液層および撥液層を形成することができるからである。
【0013】
上記発明においては、上記被転写樹脂層が、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を含有することが好ましい。これらの硬化性樹脂は、汎用性に優れ安価だからである。
【0014】
上記発明においては、上記モールドが、凹凸パターン部および非凹凸パターン部を表面に有し、かつ、上記非凹凸パターン部の撥液性が、上記凹凸パターン部の撥液性よりも高いことが好ましい。非凹凸パターン部の撥液性を高くすることにより、樹脂漏れの発生をより抑制することができるからである。
【0015】
また、本発明においては、凹凸パターン部および非凹凸パターン部を表面に有し、かつ、上記非凹凸パターン部の撥液性が、上記凹凸パターン部の撥液性よりも高いことを特徴とするインプリント用モールドを提供する。
【0016】
本発明によれば、非凹凸パターン部の撥液性が、凹凸パターン部の撥液性よりも高いことから、密着時に樹脂が非凹凸パターン部まで広がることを抑制することができ、樹脂漏れの発生を抑制することができる。
【0017】
上記発明においては、表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合に、上記凹凸パターン部での接触角(θ)と、上記非凹凸パターン部での接触角(θ)との差(θ−θ)が10°以上であることが好ましい。接触角(θ)および接触角(θ)の差が大きいことで、効果的に樹脂漏れの発生を抑制することができるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、親液層および撥液層を備えた基板を用いることにより、樹脂漏れの発生を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のパターン形成体の製造方法およびインプリント用モールドについて詳細に説明する。
【0020】
A.パターン形成体の製造方法
まず、本発明のパターン形成体の製造方法について説明する。本発明のパターン形成体の製造方法は、親液層および撥液層が表面に形成された基板を用い、上記親液層上に被転写樹脂層形成用塗工液を塗布し、被転写樹脂層を形成する被転写樹脂層形成工程と、上記被転写樹脂層に対して、凹凸パターン部を有するモールドを密着させ、密着積層体を形成する密着積層体形成工程と、上記密着積層体の被転写樹脂層を硬化させる硬化工程と、を有することを特徴とするものである。
【0021】
本発明によれば、基板表面上に、親液層および撥液層を設けることにより、樹脂漏れの発生を抑制することができる。具体的には、被転写樹脂層形成用塗工液に対して、親和性の悪い撥液層を基板上に形成することにより、被転写樹脂層形成用塗工液を塗布する際、および被転写樹脂層とモールドの凹凸パターン部とを密着させる際に、所定の範囲外に、被転写樹脂層が広がることを抑制できる。
【0022】
次に、本発明のパターン形成体の製造方法について、図面を用いて説明する。図1は、本発明のパターン形成体の製造方法の一例を示す工程図である。図1に示されるパターン形成体の製造方法は、親液層1および撥液層2が表面に形成された基板3を用い、その親液層1に対して光硬化性樹脂を含有する塗工液を塗布し、被転写樹脂層(光硬化性樹脂層)4を形成する被転写樹脂層形成工程(図1(a))と、被転写樹脂層4に対して、凹凸パターン部を有するモールド5を密着させ、密着積層体6を形成する密着積層体形成工程(図1(b))と、密着積層体6の被転写樹脂層4を、光7の照射により硬化させる硬化工程(図1(c))と、硬化工程後に、密着積層体6からモールド5を剥離する剥離工程(図1(d))と、を有するものである。
以下、本発明のパターン形成体の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0023】
1.被転写樹脂層形成工程
本発明における被転写樹脂層形成工程について説明する。本発明における被転写樹脂層形成工程は、親液層および撥液層が表面に形成された基板を用い、上記親液層上に被転写樹脂層形成用塗工液を塗布し、被転写樹脂層を形成する工程である。通常、本発明においては、被転写樹脂層形成用塗工液との親和性に優れた親液層上のみに被転写樹脂層を形成する。
【0024】
(1)親液層および撥液層
まず、本発明に用いられる親液層および撥液層について説明する。本発明に用いられる親液層は、基板上に形成され、後述する被転写樹脂層を保持する層である。本発明において、上記親液層は、撥液層と比較して被転写樹脂層形成用塗工液に対する親和性が高い層であれば、特に限定されるものではない。一方、本発明に用いられる撥液層は、基板上に形成され、主に樹脂漏れの発生を抑制する機能を有する層である。本発明において、上記撥液層は、撥液層と比較して被転写樹脂層形成用塗工液に対する親和性が低い層であれば、特に限定されるものではない。
【0025】
本発明においては、表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合に、上記親液層での接触角(θ)と、上記撥液層での接触角(θ)との差(θ−θ)が50°以上、中でも60°以上、特に70°〜120°の範囲内であることが好ましい。接触角(θ)および接触角(θ)の差が大きいことで、効果的に樹脂漏れの発生を抑制することができるからである。なお、上記接触角は、接触角測定器(例えば協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)することにより得ることができる。上記表面張力を有する試験溶液としては、例えば純水等を用いることができる。また、後述する接触角は、全てこの方法により測定することができる。
【0026】
表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合における、上記親液層での接触角(θ)としては、親液層上に所望の被転写樹脂層を形成することができれば、特に限定されるものではないが、例えば60°未満、中でも50°未満、特に0°〜20°の範囲内であることが好ましい。被転写樹脂層形成用塗工液が良く濡れ広がり、均一な被転写樹脂層を形成することができるからである。
【0027】
表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合における、上記撥液層での接触角(θ)としては、樹脂漏れの発生を抑制することができれば特に限定されるものではないが、例えば100°以上、中でも110°以上、特に110°〜120°の範囲内であることが好ましい。高い撥液性を発揮することで、樹脂漏れの発生を充分に抑制することができるからである。
【0028】
次に、上記親液層および上記撥液層の材料について説明する。上記親液層の材料としては、撥液層と比較して被転写樹脂層形成用塗工液に対する親和性が高い層を形成可能な材料であれば、特に限定されるものではない。一方、上記撥液層の材料としては、親液層と比較して被転写樹脂層形成用塗工液に対する親和性が低い層を形成可能な材料であれば、特に限定されるものではない。中でも、これらの材料は、上述した接触角の条件を満たすものであることが好ましい。
【0029】
特に、本発明においては、上記親液層が、親液性官能基を有するシランカップリング剤により形成されたものであることが好ましい。親液性に優れた親液層を容易に形成することができるからである。上記親液性官能基を有するシランカップリング剤により形成される親液層としては、具体的には、シランカップリング剤を基板上の官能基と反応させ単分子膜を形成したもの、あるいは、シランカップリング剤を基板上の官能基と反応させるとともに、ゾルゲル反応等により加水分解、重縮合させたもの等を挙げることができ、中でもシランカップリング剤を基板上の官能基と反応させ単分子膜を形成したものが好ましい。なお、シランカップリング剤を基板上の官能基と反応させ単分子膜を形成する方法としては、例えば特開平6−289627号公報に記載された方法等を挙げることができる。
【0030】
また、上記シランカップリング剤が有する親液性官能基としては、具体的には、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)およびスルホン基(−SOH)等を挙げることができる。さらに、上記親液性官能基を有するシランカップリング剤としては、具体的には、CNHSi(CHO)(例えば信越シリコーン社製 KBM903)、CNHCNHSi(CHO)(例えば信越シリコーン社製 KBM603)等を挙げることができる。
【0031】
一方、本発明においては、上記撥液層が、撥液性官能基を有するシランカップリング剤により形成されたものであることが好ましい。撥液性に優れた撥液層を容易に形成することができるからである。上記撥液性官能基を有するシランカップリング剤により形成される撥液層としては、具体的には、シランカップリング剤を基板上の官能基と反応させ単分子膜を形成したもの、あるいは、シランカップリング剤を基板上の官能基と反応させるとともに、ゾルゲル反応等により加水分解、重縮合させたもの等を挙げることができ、中でもシランカップリング剤を基板上の官能基と反応させ単分子膜を形成したものが好ましい。
【0032】
また、上記シランカップリング剤が有する撥液性官能基としては、具体的には、メチル基(−CH)、エチル基(−C)およびフルオロメチル基(−CF)等を挙げることができる。さらに、上記撥液性官能基を有するシランカップリング剤としては、具体的には、CFSi(OCHCH(例えばAldrich社製 419982)、CF(CFCHCHSi(OCHCH(例えば東京化成工業社製 T1770)、およびCH(CHSi(OCH(例えば東京化成工業社製 H0879)等を挙げることができる。
【0033】
特に、本発明においては、上記親液層が、親液性官能基を有するシランカップリング剤により形成され、かつ、上記撥液層が、撥液性官能基を有するシランカップリング剤により形成されていることが好ましい。二種類のシランカップリング剤を塗り分けることで容易に親液層および撥液層を形成することができるからである。
【0034】
また、本発明においては、上記基板上に、光触媒の作用により表面の濡れ性が変化する濡れ性変化層を形成し、上記濡れ性変化層と、光触媒を含有する光触媒含有層が基材上に形成されてなる光触媒含有層側基板とを、所定の間隔をおいて配置し、所定の方向からパターン状にエネルギーを照射することにより、上記基板上に上記親液層および上記撥液層を形成することが好ましい。エネルギー照射の有無のみの違いで、容易に親液層および撥液層を形成することができるからである。
【0035】
ここで、「光触媒の作用により濡れ性が変化する」とは、具体的には、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、撥液性から親液性に濡れ性が変化することをいう。従って、例えば基板全面に濡れ性変化層を形成し、親液層とする領域のみにエネルギー照射を行うことで、エネルギー照射を行った部分を親液層と機能させ、エネルギー照射を行わない部分を撥液層として機能させることができる。
【0036】
上記濡れ性変化層の材料(濡れ性変化材料)としては、光触媒の作用により濡れ性が変化する材料で、かつ光触媒の作用により劣化、分解しにくいものであれば特に限定されるものではないが、例えばゾルゲル反応等によりアルコキシシラン等を加水分解、重縮合したオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。具体的には、一般式YSiX(4−n)(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。なお、ここで、Yで示される基の炭素数は1〜20の範囲内であることが好ましく、また、Xで示されるアルコキシル基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
【0037】
上記濡れ性変化材料の別の例としては、例えば、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルフロライド、アセタール樹脂、ナイロン、ABS、PTFE、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン、セルロース、ゴム、ポリビニルアルコール、およびナイロン等の高分子材料等を挙げることができる。
【0038】
上記光触媒含有層に含まれる光触媒としては、例えば、二酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)および酸化鉄(Fe)等を挙げることができ、中でも二酸化チタン(TiO)が好ましい。
【0039】
なお、濡れ性変化材料、並びに光触媒含有層に用いられる光触媒およびバインダ等については、例えば、特開2003−295428公報、特開2003−222626公報に記載されたものと同様のものを用いることができる。また、濡れ性変化層にエネルギー照射を行い、親液層および撥液層を形成する方法としては、具体的には、特開2003−295428公報の図1に記載された方法と同様の方法等を挙げることができる。さらに、本発明に用いられる濡れ性変化材料等には、例えば特開2001−074928公報および特開2003−209339公報等に示されるものを使用することもできる。
【0040】
また、本発明に用いられる基板が、親液性の高い基板である場合は、その基板をそのまま親液層として用いることもできる。この場合、上述した方法により、別途撥液層を設けることのみで、親液/撥液パターンを備えた基板を得ることができる。同様に、本発明に用いられる基板が、撥液性の高い基板である場合は、その基板をそのまま撥液層として用いることもできる。この場合、上述した方法により、別途親液層を設けることのみで、親液/撥液パターンを備えた基板を得ることができる。
【0041】
基板上に形成される親液層および撥液層のパターンとしては、特に限定されるものではなく、パターン形成体の用途等に応じて、任意に設定することができる。
上記親液層および上記撥液層の厚みとしては、親液層および撥液層を構成する材料等により異なるものであるが、それぞれ通常1nm〜1μmの範囲内である。
【0042】
(2)基板
次に、本発明に用いられる基板について説明する。本発明に用いられる基板は、上述した親液層および撥液層を保持するものである。
【0043】
上記基板の材料としては、パターン形成体の用途等により異なるものであるが、例えば、シリコン(Si)、ガリウム砒素、(GaAs)、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)、窒化ガリウム(GaN)等の半導体;ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ペット樹脂等の樹脂;チタン(Ti)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)等の金属;石英、ソーダライムガラス等のガラス;および上記物質を含有する合金等を挙げることができる。
【0044】
また、上記基板は、透明であっても良く、不透明であっても良いが、例えば被転写樹脂層に含有される被転写樹脂が光硬化性樹脂であって、基板側から光を照射する場合には、上記基板が透明であることが好ましい。
【0045】
上記基板の厚みとしては、パターン形成体の用途等により異なるものであり、特に限定されるものではないが、例えば10μm〜1000μmの範囲内である。
【0046】
(3)被転写樹脂層形成用塗工液
次に、本発明に用いられる被転写樹脂層形成用塗工液について説明する。本発明に用いられる被転写樹脂層形成用塗工液は、通常、被転写樹脂および溶媒を含有するものである。
【0047】
上記被転写樹脂としては、後述する硬化工程により硬化することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、光硬化性樹脂および熱硬化性樹脂等を挙げることができる。上記光硬化性樹脂としては、具体的には、PAK−01(東亞合成製)、NIP−K(Zen Photonics製)、およびTSR−820(帝人製機製)等を挙げることができる。一方、上記熱硬化性樹脂としては、具体的には、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、およびポリカーボネート(PC)等を挙げることができる。
【0048】
(4)被転写樹脂層の形成方法
次に、本発明に用いられる被転写樹脂層の形成方法について説明する。本発明においては、上述した親液層上に被転写樹脂層形成用塗工液を塗布し、溶媒を除去することにより、被転写樹脂層を形成する。
【0049】
被転写樹脂層形成用塗工液を親液層上に塗布する方法としては、一般的な塗布方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、具体的には、滴下法、インクジェット法、スプレー法、スピンコート法等を挙げることができ、中でも滴下法が好ましい。基板と被転写樹脂層との間にエア(空隙)が発生することを抑制できるからである。
【0050】
上記被転写樹脂層の厚みとしては、パターン形成体の用途等に応じて異なるものであるが、通常0.1〜100μmの範囲内である。なお、被転写樹脂層が厚すぎると、樹脂漏れが発生する可能性が高くなると考えられることから、被転写樹脂層の材料等に応じて、適宜厚みを決定することが好ましい。
【0051】
2.密着積層体形成工程
次に、本発明における密着積層体形成工程について説明する。本発明における密着積層体形成工程は、上述した被転写樹脂層に対して、凹凸パターン部を有するモールドを密着させ、密着積層体を形成する工程である。
【0052】
(1)モールド
まず、本発明に用いられるモールドについて説明する。本発明に用いられるモールドは、通常、凹凸パターン部および非凹凸パターン部を表面に有する。特に、本発明においては、上記凹凸パターン部が、ナノオーダーの凹凸を有するナノ凹凸パターン部であることが好ましい。ナノオーダーの凹凸を有することにより、半導体デバイスの製造等に有用だからである。また、非凹凸パターン部は、上記凹凸パターン部以外の領域をいい、通常、平滑な表面を有する領域である。
【0053】
本発明においては、上記凹凸パターン部および非凹凸パターン部が、適度な撥液性を有することが好ましい。適度な撥液性を有することにより、硬化した被転写樹脂の離型性が向上するからである。さらに、本発明においては、非凹凸パターン部の撥液性が、凹凸パターン部の撥液性よりも高いことがより好ましい。非凹凸パターン部の撥液性を高くすることにより、樹脂漏れの発生をより抑制することができるからである。このようなモールドとしては、例えば、図2に示すように、凹凸パターン部8および非凹凸パターン部9を有するモールド5であって、凹凸パターン部8の撥液性が、非凹凸パターン部9の撥液性よりも高いもの等を挙げることができる。
【0054】
本発明においては、表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合に、上記凹凸パターン部での接触角(θ)と、上記撥液層での接触角(θ)との差(θ−θ)が10°以上、中でも20°以上、特に30°〜40°の範囲内であることが好ましい。接触角(θ)および接触角(θ)の差が大きいことで、効果的に樹脂漏れの発生を抑制することができるからである。
【0055】
表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合における、上記凹凸パターン部での接触角(θ)としては、特に限定されるものではないが、例えば100°以上、中でも110°以上、特に110°〜120°の範囲内であることが好ましい。
【0056】
表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合における、上記非凹凸パターン部での接触角(θ)としては、特に限定されるものではないが、例えば80°以上、中でも90°以上、特に90°〜110°の範囲内であることが好ましい。
【0057】
上記モールドの凹凸パターン部および非凹凸パターン部に、撥液性を付与する方法としては、例えば、上記「(1)親液層および撥液層」で記載した、シランカップリング剤や濡れ性変化材料等を用いる方法等を挙げることができる。
【0058】
上記モールドの材料としては、所望の凹凸パターンを形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、シリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)およびガリウム砒素(GaAs)等の半導体;石英およびソーダライムガラス等のガラス;ニッケル(Ni)およびアルミニウム(Al)等の金属;窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO)および炭化シリコン(SiC)等のセラミックス;ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)および立方晶窒化ホウ素(CBN)等を挙げることができる。中でも、より微細な寸法の加工が可能であるという観点からシリコン(Si)および石英が好ましい。
【0059】
また、上記モールドは、透明であっても良く、不透明であっても良いが、例えば被転写樹脂層に含有される被転写樹脂が光硬化性樹脂であって、モールド側から光を照射する場合には、上記モールドが透明であることが好ましい。
【0060】
上記モールドの厚みとしては、特に限定されるものではないが、例えば0.5mm〜20mmの範囲内である。また、上記モールドの長さおよび幅、並びに上記モールドの凹凸パターン部の形成方法等については、一般的なインプリント法に用いられるモールドと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0061】
(2)密着積層体の形成方法
次に、本発明における密着積層体の形成方法について説明する。本発明に用いられる密着積層体は、通常、上記基板と上記モールドとを上記被転写樹脂層を介して、常温で密着させることにより形成する。
【0062】
3.硬化工程
次に、本発明における硬化工程について説明する。本発明における硬化工程は、上述した密着積層体の被転写樹脂層を硬化させる工程である。被転写樹脂層を硬化させる方法は、用いられる被転写樹脂層の種類により異なる。
【0063】
上記被転写樹脂層が、光硬化性樹脂を含有する光硬化性樹脂層である場合は、密着積層体に光を照射することにより、被転写樹脂層を硬化させる。上記光の種類としては、光硬化性樹脂の種類等により異なるものであるが、例えば紫外線、可視光線、赤外線、X線等を挙げることができ、中でも紫外線が好ましい。紫外線硬化性の光硬化性樹脂は汎用性に優れているからである。上記紫外線のうち、一般に使用される波長帯としては、具体的には300nm〜400nm程度である。また、上記光の照射量としては、光硬化性樹脂が充分に硬化する量であれば特に限定されるものではないが、例えば100mJ/cm以上である。
【0064】
また、上記光を照射する方向としては、光硬化性樹脂を硬化させることができる方向であれば特に限定されるものではない。具体的には、密着積層体の基板側から照射する場合、密着積層体のモールド側から照射する場合等を挙げることができる。なお、光の入射光側に位置する部材には、充分な光透過性を有していることが必要である。
【0065】
一方、上記被転写樹脂層が、熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂層である場合は、密着積層体を加熱することにより、被転写樹脂層を硬化させる。加熱温度としては、熱硬化性樹脂が充分に硬化する温度であれば特に限定されるものではないが、通常50℃〜200℃の範囲内である。また、加熱方法としては、例えば、基板のみを加熱する方法、モールドのみを加熱する方法、基板およびモールドを加熱する方法等を挙げることができる。
【0066】
4.その他の工程
本発明のパターン形成体の製造方法は、上述した被転写樹脂層形成工程、密着積層体形成工程、および硬化工程を少なくとも有するものである。さらに、本発明においては、通常、硬化工程後に、密着積層体からモールドを剥離する剥離工程を行う。密着積層体からモールドを剥離する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的なインプリントで用いられる方法と同様の方法で行うことができる。
【0067】
また、本発明においては、通常、基板表面上に形成された親液層上に、被転写樹脂層が形成され、基板表面上に撥液層上には、被転写樹脂層は形成されない。そのため、必要に応じて、上記剥離工程後に、撥液層を除去する撥液層除去工程を行っても良い。
【0068】
5.パターン形成体の用途
次に、本発明により得られるパターン形成体の用途について説明する。本発明により得られるパターン形成体は、基板と、上記基板上に形成され、上記モールドの凹凸パターンに対応するパターンを有する被転写樹脂層(以下、「パターン形成層」と称する場合がある。)と、を有する。本発明においては、上記パターン形成層を、基板を加工するためのレジストとして使用しても良く、パターン形成層自身を機能層として使用しても良い。
【0069】
上記パターン形成層をレジストとして使用する場合には、上記パターン形成体は、例えば半導体デバイス製造、MEMS、NEMS等の微小電気機械システム製造におけるリソグラフィ等に用いることができる。一方、上記パターン形成層を機能層として使用する場合には、上記パターン形成体は、例えばマイクロレンズアレイ、回折格子等の光学素子;MEMS、NEMS等の微小電気機械システム;パターンドメディア等の記録ディスク製造等に用いることができる。
【0070】
B.インプリント用モールド
次に、本発明のインプリント用モールドについて説明する。本発明のインプリント用モールドは、凹凸パターン部および非凹凸パターン部を表面に有し、かつ、上記非凹凸パターン部の撥液性が、上記凹凸パターン部の撥液性よりも高いことを特徴とするものである。
【0071】
本発明によれば、非凹凸パターン部の撥液性が、凹凸パターン部の撥液性よりも高いことから、密着時に樹脂が非凹凸パターン部まで広がることを抑制することができ、樹脂漏れの発生を抑制することができる。また、上述したように、メサ構造を有するインプリント用モールドを作製するには、非凹凸パターン部をさらにエッチングする工程が必要となる、スループットが悪い等の問題があった。これに対して、本発明のインプリント用モールドは、凹凸パターン部と非凹凸パターン部との間に、撥液性の差をつけるという容易な操作によって、樹脂漏れを防止することができるという利点を有する。
【0072】
本発明においては、表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合に、上記凹凸パターン部での接触角(θ)と、上記非凹凸パターン部での接触角(θ)との差(θ−θ)が10°以上であることが好ましい。樹脂漏れの発生を効果的に抑制することができるからである。なお、上記接触角の好適な範囲、本発明のインプリント用モールドの材料、その他の事項については、上述した「A.パターン形成体の製造方法 2.密着積層体形成工程」に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例]
石英基板上にスパッタリング法によりクロムを100nm成膜し、スピンコート法によりレジスト(IP)を塗布し、I線ステッパーにより露光し、現像、エッチングプロセスを経て、平滑な石英基板上にクロムパターンを形成した。
パターニングされた基板はOプラズマアッシングにより表面の有機物を除去し洗浄した。次に撥液性官能基を示すシランカップリング剤として、CF(CFCHCHSi(OCHCH溶液(溶媒:1,3−ビストリフルオロベンゼン)に5分間室温で浸漬し、55度で30分間加熱した。次に上記基板のクロムパターンをクロムのエッチャントにより剥離し、パターン状の撥液層を得た。
次に親液性官能基を示すシランカップリング剤として、CNHSi(CHO)溶液(溶媒:水)を用い、上記パターン状の撥液層が形成された基板の上にスピンコート法により塗布し、70度で15分間加熱し、パターン状の親液層を得た。このようにして、二種類のシランカップリング剤でパターン化された基板を得た。
次に、表面張力0.073mN/mの試験溶液(純水)を用いて、得られた基板の接触角を測定したところ、上記親液層の接触角は60°であり、上記撥液層の接触角は113°であった。また、得られた基板をAFM(Atomic Force Microscope)により観察したところ、基板上に単分子コートの親液層および撥液層が作製できていることを確認した。この基板を用いてインプリントを行った結果、上記親液層にのみインプリント樹脂が広がり、上記撥液層にはインプリント樹脂が回りこまないことを光学顕微鏡により確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のパターン形成体の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明に用いられるモールドの一例を示す概略断面図である。
【図3】樹脂漏れを説明する説明図である。
【符号の説明】
【0076】
1 … 親液層
2 … 撥液層
3 … 基板
4 … 被転写樹脂層
5 … モールド
6 … 密着積層体
7 … 光
8 … 凹凸パターン部
9 … 非凹凸パターン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親液層および撥液層が表面に形成された基板を用い、前記親液層上に被転写樹脂層形成用塗工液を塗布し、被転写樹脂層を形成する被転写樹脂層形成工程と、
前記被転写樹脂層に対して、凹凸パターン部を有するモールドを密着させ、密着積層体を形成する密着積層体形成工程と、
前記密着積層体の被転写樹脂層を硬化させる硬化工程と、
を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法。
【請求項2】
表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合に、前記親液層での接触角(θ)と、前記撥液層での接触角(θ)との差(θ−θ)が50°以上であることを特徴とする請求項1に記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項3】
前記親液層が、親液性官能基を有するシランカップリング剤により形成され、かつ、前記撥液層が、撥液性官能基を有するシランカップリング剤により形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項4】
前記基板上に、光触媒の作用により表面の濡れ性が変化する濡れ性変化層を形成し、前記濡れ性変化層と、光触媒を含有する光触媒含有層が基材上に形成されてなる光触媒含有層側基板とを、所定の間隔をおいて配置し、所定の方向からパターン状にエネルギーを照射することにより、前記基板上に前記親液層および前記撥液層を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項5】
前記被転写樹脂層が、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項6】
前記モールドが、凹凸パターン部および非凹凸パターン部を表面に有し、かつ、前記非凹凸パターン部の撥液性が、前記凹凸パターン部の撥液性よりも高いことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項7】
凹凸パターン部および非凹凸パターン部を表面に有し、かつ、前記非凹凸パターン部の撥液性が、前記凹凸パターン部の撥液性よりも高いことを特徴とするインプリント用モールド。
【請求項8】
表面張力0.073mN/mの試験溶液を用いて接触角を測定した場合に、前記凹凸パターン部での接触角(θ)と、前記非凹凸パターン部での接触角(θ)との差(θ−θ)が10°以上であることを特徴とする請求項7に記載のインプリント用モールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−100378(P2008−100378A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282942(P2006−282942)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】