説明

ブレーキパッド

【課題】定期的にグリスを塗布する必要が無く、偏摩耗を防止することができ、ブレーキ鳴き等の異音の発生を抑制することもでき、維持管理が容易となり、長期信頼性にも優れたものとなり、しかも、グリスやステンレス鋼のシム(SUSシム)が不要なブレーキパッドを提供する。
【解決手段】本発明のブレーキパッド2は、制動時に一面11a側がディスクロータ1に当接する摩擦材11と、この摩擦材11の他面11b側に設けられたバックプレート(裏板)12と、を備え、このバックプレート12は、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、潤滑剤とを含有し、バックプレート12の全体量を100質量%としたとき、潤滑剤を1質量%以上かつ20質量%以下含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に用いられるディスクブレーキ用のブレーキパッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等においては燃費向上のニーズが高まっており、そのニーズの一つとして自動車等に搭載されるディスクブレーキの軽量化が求められており、このディスクブレーキを構成するブレーキパッドについても軽量化が求められている。
【0003】
従来のブレーキパッドは、摩擦材と、該摩擦材の他面側に貼付される裏板とにより構成されており、これらのうち裏板としては、機械的堅牢性、耐腐食性等、各種の要件を満たす鉄系鋼板が使用されていた。しかしながら、この鉄系鋼板は軽量化が難しく、また、摩擦材との間で錆が発生し易いために防錆処理を施す必要がある等の欠点があり、そこで、裏板にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いたディスクパッドを備えたディスクブレーキが提案されているが、このディスクブレーキにおいても様々な問題点が発生している。
【0004】
例えば、キャリアのパッドガイド内に摩擦パッドの耳部を摺動可能に挿嵌する型式のディスクブレーキ、いわゆる入れ子式のディスクブレーキでは、緩制動時のブレーキ鳴き対策を行うことが要求されており、そこで、キャリアのトルク受面にグリスを塗布したり、あるいは両面テープを貼着したり等を行うことによりブレーキ鳴きを低減している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−12713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来のキャリアのトルク受面にグリスを塗布したディスクブレーキでは、キャリアのトルク受面にグリスを塗布しているのみであるから、経年に亘る使用の間にグリスが徐々に剥がれてきてしまう。その結果、偏摩耗が生じることとなり、緩制動時には、ブレーキ鳴き等の異音が発生するのを抑えることができないという問題点があった。そこで、グリスの剥がれを防止するために定期的にグリスを塗布する必要があるが、グリスの定期的な塗布は、自動車のユーザーに新たな時間及びコストの負担を強いることとなり、望ましくはない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、ブレーキに関する維持管理が容易となるブレーキパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、制動時に一面側がディスクロータに当接する摩擦材と、この摩擦材の他面側に設けられた裏板と、を備えてなるブレーキパッドにおいて、裏板を、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、潤滑剤とを含有するものとし、この裏板の全体量を100質量%としたとき、潤滑剤を1質量%以上かつ20質量%以下含有したこととすれば、グリスを定期的に塗布しなくとも、偏摩耗を防止することができ、ブレーキ鳴き等の異音の発生を抑制することもできることを見出し、さらには、グリスやステンレス鋼のシム(SUSシム)が不要になることから維持管理が容易となり、したがって、長期信頼性も優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のブレーキパッドは、制動時に一面側がディスクロータに当接する摩擦材と、該摩擦材の他面側に設けられた裏板と、を備えてなるブレーキパッドにおいて、
前記裏板は、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、潤滑剤とを含有し、前記裏板の全体量を100質量%としたとき、前記潤滑剤を1質量%以上かつ20質量%以下含有してなることを特徴とする。
【0010】
本発明のブレーキパッドは、前記熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を30質量%以上かつ50質量%以下含有するとともに、前記ガラス繊維を40質量%以上かつ60質量%以下含有してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のブレーキパッドによれば、ブレーキに関する維持管理を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るディスクブレーキを示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るディスクブレーキのブレーキパッドを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のブレーキパッドを実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るディスクブレーキを示す断面図、図2は、同ディスクブレーキのブレーキパッドを示す正面図である。
図において、1はディスクロータ、2はブレーキパッド、3は支持部材であるキャリア、4はシリンダ、5はピストンである。
ブレーキパッド2は、制動時に一面11a側がディスクロータ1に当接する摩擦材11と、この摩擦材11の他面11b側に設けられたバックプレート(裏板)12とを備えている。
【0015】
摩擦材11としては、スチール繊維、銅繊維等の金属繊維、チタン酸カリウム繊維、ロックウール、ウォラストナイト等の無機繊維、アラミド繊維等の有機繊維、フェノール樹脂、NBR粉末、カシューダスト、黒鉛、ジルコン粉末、硫酸バリウム等を所定の混合比で含む成形品が好適に用いられる。
これらは、上記の材料から2種以上を選択することにより、摩擦材11の摩擦特性等を所望の特性とすることができる。
【0016】
一方、バックプレート12は、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、潤滑剤とを含有している。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂が挙げられる。このフェノール樹脂は、本実施形態のバックプレート12の全体量を100質量%としたとき、30質量%以上かつ50質量%以下含有していることが必要である。
【0017】
ここで、フェノール樹脂の含有率を30質量%以上かつ50質量%以下とした理由は、この範囲が、成形性が良く、かつ機械的強度を得ることができる範囲だからである。
フェノール樹脂が30質量%未満では、バックプレート12の成形性が低下し、所望の形状のバックプレート12を得ることができなくなり、一方、フェノール樹脂が50質量%を超えると、樹脂の相対量が多すぎるためにバックプレート12の機械的強度が低下するので、好ましくない。
【0018】
ガラス繊維の繊維長は特に限定されないが、バックプレート12中の分散性等を考慮すると、1mm以上かつ20mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以上かつ13mm以下である。
このガラス繊維のバックプレート12の全体量に対する含有率は、40質量%以上かつ60質量%以下が好ましい。
【0019】
ここで、ガラス繊維の含有率を40質量%以上かつ60質量%以下と限定した理由は、この範囲がガラス繊維を含むバックプレート12の機械的強度を向上させることができる範囲だからである。なお、ガラス繊維の含有率が40質量%未満では、熱硬化性樹脂に対してガラス繊維の含有率が少なすぎるために、バックプレート12の機械的強度が低下し、一方、ガラス繊維の含有率が60質量%を超えると、熱硬化性樹脂に対してガラス繊維の含有率が多すぎるために、やはりバックプレート12の機械的強度が低下するので、好ましくない。
【0020】
潤滑材としては、黒鉛、コークス、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン等が挙げられるが、フェノール樹脂及びガラス繊維との相性を考慮すると、黒鉛が好ましい。
この潤滑材の含有率は、バックプレート12の全体量を100質量%としたとき、1質量%以上かつ20質量%以下が好ましい。
【0021】
この潤滑材の含有率を1質量%以上かつ20質量%以下と限定した理由は、この範囲がガラス繊維を含むバックプレート12の機械的強度を向上させることができ、引きずりの発生が無く、燃費が悪化することも無い範囲だからである。
ここで、潤滑材の含有率が1質量%未満であると、引きずりが発生するので好ましくなく、一方、含有率が20質量%を超えると、潤滑材が多すぎるために相対的に熱硬化性樹脂の含有率が低下し、その結果、バックプレート12の機械的強度が低下するので、好ましくない。
【0022】
以上のような構成とすることにより、バックプレート12を有するブレーキパッドは、グリスを定期的に塗布する必要が無く、しかも偏摩耗を防止することができる。その結果、ブレーキ鳴き等の異音の発生を抑制するためのブレーキに関する維持管理が容易となり、長期信頼性にも優れたものとなる。また、グリスやステンレス鋼のシム(SUSシム)が不要になるので、ブレーキに関する維持管理が容易となり、したがって、長期信頼性も優れたものとなる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0024】
「実施例1〜4」
実施例1〜4のプレーキパッドを作製した。
まず、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂と、ガラス繊維と、潤滑剤としての黒鉛を、所定量秤量し、混合した。実施例1〜4それぞれの配合量(質量%)を表1に示す。なお、今回の実施例及び後述の比較例においては、潤滑剤としての黒鉛に(株)中越黒鉛工業所製のG−30を使用した。
【0025】
次いで、この混合粉を175℃に設定した金型に投入し、所定の成形圧力及び時間にて加熱圧縮成形を行い、実施例1〜4それぞれのバックプレートを作製した。
次いで、これらのバックプレートの一面に摩擦材を貼着して、所定の成形圧力及び時間にて加熱圧縮成形を行い、その後熱処理し、実施例1〜4それぞれのブレーキパッドを作製した。
実施例1〜4それぞれの配合量(質量%)を表1に示す。
【0026】
「比較例1〜6」
黒鉛を添加しないプレーキパッドを比較例1、黒鉛の含有量が本発明の上限値より多いプレーキパッドを比較例2、フェノール樹脂の含有量が本発明の下限値より少ないプレーキパッドを比較例3、フェノール樹脂の含有量が本発明の上限値より多いプレーキパッドを比較例4、ガラス繊維の含有量が本発明の下限値より少ないプレーキパッドを比較例5、ガラス繊維の含有量が本発明の上限値より多いプレーキパッドを比較例6とし、上記実施例1〜4と全く同様にして比較例1〜6のプレーキパッドを作製した。
比較例1〜86それぞれの配合量(質量%)を表2に示す。
【0027】
「ブレーキパッドの評価」
実施例1〜4及び比較例1〜6それぞれのブレーキパッドの評価を行った。
評価項目は、引きずりの有無、耐久強度試験、引張強度の3項目とした。
これらの評価項目の評価方法は、次のとおりである。
【0028】
(1)引きずりの有無
自動車規格JASO C427「乗用車常用ブレーキ装置温度別摩耗試験方法」に準拠して、引きずりの有無を判定した。
プレートの潤滑性が劣る場合には、パッドの引きずりが発生し、燃費の悪化に繋がる。そこで、温度別摩耗試験により引きずりの有無の確認を行った。
【0029】
(2)耐久強度試験
自動車規格JASO C419「乗用車常用ブレーキ装置強度ダイナモメータ試験方法」に準拠して、耐久強度試験を行った。
ブレーキパッドを樹脂化することにより機械的強度も課題となる。そこで、本試験では、破損しないことを判断の基準とした。
(3)引張強度
自動車規格JASO C419「乗用車常用ブレーキ装置強度ダイナモメータ試験方法」に準拠して、耐久強度試験を行った。
【0030】
実施例1〜4及び比較例1〜6それぞれのブレーキパッドの評価結果を表1及び表2、それぞれに示す。
なお、表1には、スチールにグリスを塗布した従来品の評価も記載してある。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表1及び表2によれば、次のようなことが分かった。
実施例1〜4のブレーキパッドは、比較例1〜6のブレーキパッドと比べて、引きずりが無く、強度試験によるバックプレートの破損もないことが確認された。
【0034】
一方、比較例1のブレーキパッドは、黒鉛を含有していないために、温度別摩耗試験中に温度が上昇し、引きずりが発生してしまった。
比較例2のブレーキパッドは、黒鉛の量が多すぎるために、強度不足となり、耐久強度試験にてバックプレートが破損してしまった。
比較例3のブレーキパッドは、フェノール樹脂の含有量が少なすぎるために、成形不良が発生した。
比較例4のブレーキパッドは、フェノール樹脂の含有量が多すぎるために、機械的強度が低く、耐久強度試験にてバックプレートが破損してしまった。
【0035】
比較例5のブレーキパッドは、フェノール樹脂に対してガラス繊維の含有量が少なすぎるために、強度不足となってしまった。
比較例6のブレーキパッドは、フェノール樹脂に対してガラス繊維の含有量が多すぎるために、強度不足となってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のブレーキパッドは、裏板を、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、潤滑剤とを含有するものとし、この裏板の全体量を100質量%としたとき、潤滑剤を1質量%以上かつ20質量%以下含有したことにより、グリスを定期的に塗布する必要が無く、偏摩耗を防止することができ、ブレーキ鳴き等の異音の発生を抑制することもできるものであるから、自動車はもちろんのこと、ブレーキ機構を有する動力機械へも適用可能であり、その工業的意義は極めて大である。
【符号の説明】
【0037】
1 ディスクロータ
2 ブレーキパッド
3 キャリア
4 シリンダ
5 ピストン
11 摩擦材
11a 一面
11b 他面
12 バックプレート(裏板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動時に一面側がディスクロータに当接する摩擦材と、該摩擦材の他面側に設けられた裏板と、を備えてなるブレーキパッドにおいて、
前記裏板は、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、潤滑剤とを含有し、
前記裏板の全体量を100質量%としたとき、前記潤滑剤を1質量%以上かつ20質量%以下含有してなることを特徴とするブレーキパッド。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を30質量%以上かつ50質量%以下含有するとともに、前記ガラス繊維を40質量%以上かつ60質量%以下含有してなることを特徴とする請求項1記載のブレーキパッド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−233526(P2012−233526A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101949(P2011−101949)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】