説明

ブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッド

【課題】摩擦性能を適正化することができるブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドを提供することを目的とする。
【解決手段】複数の摩擦材41を有する第1部材4と、複数の摩擦材41と接触して第1部材4と相対変位可能である第2部材5と、第1部材4と第2部材5とを押し付ける押付機構3とを備え、第1部材4は、押付機構3からの押し付け力が作用する支持部材42と複数の摩擦材41との間にそれぞれ介在し、摩擦材41と第2部材5とが接触して相対変位することで発生する熱によって押付機構3による押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部44を有することを特徴とする。したがって、ブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドは、摩擦性能を適正化することができる、という効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のディスクブレーキなどのブレーキ装置として、例えば、特許文献1には、ディスクロータに摺接してこのディスクロータの回転を抑制するライニング部材と、このライニング部材の裏面に一体的に固着された裏板とからなるディスクブレーキ用パッドが開示されている。このディスクブレーキ用パッドは、熱膨張係数の異なる複数の部材がライニング部材の裏面にそれぞれ一体的に固着されることで裏板を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−153161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような特許文献1に記載されているディスクブレーキ用パッドは、例えば、摩擦性能の点でさらなる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、摩擦性能を適正化することができるブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るブレーキ装置は、複数の摩擦材を有する第1部材と、前記複数の摩擦材と接触して前記第1部材と相対変位可能である第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを押し付ける押付機構とを備え、前記第1部材は、前記押付機構からの押し付け力が作用する支持部材と前記複数の摩擦材との間にそれぞれ介在し、前記摩擦材と前記第2部材とが接触して相対変位することで発生する熱によって前記押付機構による押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部を有することを特徴とする。
【0007】
また、上記ブレーキ装置では、前記変更部は、前記押付機構による押し付け方向に沿った長さが変化することで各々の前記摩擦材と前記支持部材との間の前記押し付け方向に沿った距離を変更するものとすることができる。
【0008】
また、上記ブレーキ装置では、前記変更部は、前記摩擦材と前記第2部材とが接触して相対変位することで発生する熱量が大きくなるほど前記押し付け方向に沿った長さが短くなるものとすることができる。
【0009】
また、上記ブレーキ装置では、前記変更部は、熱膨張率が異なる複数の部材を含んで構成されるものとすることができる。
【0010】
また、上記ブレーキ装置では、前記変更部は、熱膨張率が負である部材を含んで構成されるものとすることができる。
【0011】
また、上記ブレーキ装置では、前記摩擦材と前記第2部材との接触面は、それぞれ硬質材によって構成されるものとすることができる。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るブレーキ装置用摩擦対は、複数の摩擦材を有する第1部材と、前記複数の摩擦材と接触して前記第1部材と相対変位可能である第2部材とを備え、前記第1部材は、前記第1部材と前記第2部材とが押し付けられた際に押し付け力が作用する支持部材と前記複数の摩擦材との間にそれぞれ介在し、前記摩擦材と前記第2部材とが接触して相対変位することで発生する熱によって押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部を有することを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係るブレーキパッドは、車輪と共に回転するディスクロータと接触する複数の摩擦材と、前記ディスクロータに押し付けられた際に押し付け力が作用する支持部材と前記複数の摩擦材との間にそれぞれ介在し、前記摩擦材と前記ディスクロータとが接触して相対変位することで発生する熱によって押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対、ブレーキパッドは、摩擦箇所の面積を安定させることで摩擦性能を適正化することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施形態1に係るブレーキ装置用摩擦対の概略構成を示す部分断面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係るブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図3】図3は、実施形態1に係るブレーキ装置の摩擦材の斜視図である。
【図4】図4は、実施形態1に係るブレーキ装置の案内部材の部分斜視図である。
【図5】図5は、実施形態1に係るブレーキ装置の熱変形体について説明する模式図である。
【図6】図6は、実施形態1に係るブレーキ装置の摩擦材のクリアランス、形状について説明する模式図である。
【図7】図7は、実施形態1に係るブレーキ装置の摩擦制動面について説明する模式的部分断面図である。
【図8】図8は、実施形態1に係るブレーキ装置の複数の摩擦材の押圧状態について説明する模式的部分断面図である。
【図9】図9は、実施形態1に係るブレーキ装置の変更部の動作について説明する模式図である。
【図10】図10は、実施形態1に係るブレーキ装置の変更部の動作について説明する模式図である。
【図11】図11は、実施形態1に係るブレーキ装置の摩擦材の着力点について説明する模式的部分断面図である。
【図12】図12は、実施形態2に係るブレーキ装置の熱変形体について説明する模式図である。
【図13】図13は、実施形態3に係るブレーキ装置用摩擦対の概略構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0017】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係るブレーキ装置用摩擦対の概略構成を示す部分断面図、図2は、実施形態1に係るブレーキ装置の概略構成を示す模式図、図3は、実施形態1に係るブレーキ装置の摩擦材の斜視図、図4は、実施形態1に係るブレーキ装置の案内部材の部分斜視図、図5は、実施形態1に係るブレーキ装置の熱変形体について説明する模式図、図6は、実施形態1に係るブレーキ装置の摩擦材のクリアランス、形状について説明する模式図、図7は、実施形態1に係るブレーキ装置の摩擦制動面について説明する模式的部分断面図、図8は、実施形態1に係るブレーキ装置の複数の摩擦材の押圧状態について説明する模式的部分断面図、図9、図10は、実施形態1に係るブレーキ装置の変更部の動作について説明する模式図、図11は、実施形態1に係るブレーキ装置の摩擦材の着力点について説明する模式的部分断面図である。
【0018】
図1、図2に示すように、本実施形態のブレーキ装置1は、典型的には、車両に搭載され、車両の車体に回転可能に支持された車輪に制動力を付与するものであり、ブレーキ装置用摩擦対2と、押付機構としてのアクチュエータ3とを備える。
【0019】
ブレーキ装置用摩擦対2は、車輪に制動力を付与する際に摩擦要素間に所定の摩擦力(摩擦抵抗力)を発生させるためのものである。ブレーキ装置用摩擦対2は、硬質材を用いたいわゆる硬質フリクションペアであり、相対的に高い摩耗特性を得ることができるものである。一方で、このような硬質フリクションペアであるブレーキ装置用摩擦対2は、摩擦制動面となる接触面同士が馴染まず接触面積が不安定となり摩擦性能、制動性能が低下するおそれがある。
【0020】
そこで、本実施形態のブレーキ装置1は、複数に分割された摩擦材41を、変更部44を介在させて押圧することで、ブレーキ装置用摩擦対2を安定的に面接触させ、広い接触面積を確保し、摩擦箇所の面積を安定させ、摩擦性能を適正化することができるものである。
【0021】
ブレーキ装置用摩擦対2は、第1部材としてのブレーキパッド4と、第2部材としてのディスクロータ(ブレーキロータ)5とを含んで構成される。ブレーキパッド4は、車輪と共に回転不能に車体側に一対で設けられる。ディスクロータ5は、車輪と共に一体的に回転可能に車輪側に設けられる。これにより、ブレーキパッド4とディスクロータ5とは、相対変位可能な構成となり、すなわち、ディスクロータ5の回転方向に相対回転可能な関係となる。一対のブレーキパッド4は、ディスクロータ5の両側に配置され、ディスクロータ5の両側の接触面5aに対向する。一対のブレーキパッド4は、アクチュエータ3の動作に応じてディスクロータ5の両側を挟持する。
【0022】
アクチュエータ3は、車輪に制動力を付与する際にブレーキパッド4とディスクロータ5とを押し付けるものである。アクチュエータ3は、図2に示すように、キャリパ6と、ピストン7とを有する。キャリパ6は、ディスクロータ5を跨いだU字形状をなし、車体側に固定されたマウンティングブラケット(不図示)により支持されている。キャリパ6は、一対のブレーキパッド4をディスクロータ5の接触面5aに対して接近離間可能に支持する。キャリパ6は、ピストン7を前後に移動可能とするシリンダ機構8が設けられるシリンダ部9と、ディスクロータ5を挟んでシリンダ部9とは反対側に配置するリアクション部10と、シリンダ部9とリアクション部10とを連結する連結部11とを含んで構成されている。一対のブレーキパッド4は、このキャリパ6におけるシリンダ部9側に配置されるインナパッドと、リアクション部10側に配置されるアウタパッドとからなる。シリンダ機構8は、シリンダ部9にピストン7が移動自在に支持され、シリンダ部9とピストン7とシールなどにより液圧室12が区画される。ピストン7は、先端部がブレーキパッド(インナパッド)4に対向している。
【0023】
したがって、ブレーキ装置1は、例えば運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作に応じて液圧室12に作動液が供給され加圧されると、ピストン7が矢印A方向(ブレーキパッド(インナパッド)4がディスクロータ5に接近する方向)に前進し、このピストン7の先端が一方のブレーキパッド4を押圧し、この一方のブレーキパッド4をディスクロータ5の一方の接触面5aに接近させることができる。またこのとき、キャリパ6は、ピストン7が前進するその移動反力によりこのピストン7とは逆方向、つまり、矢印B方向(ブレーキパッド(アウタパッド)4がディスクロータ5に接近する方向)に前進し、他方のブレーキパッド4をディスクロータ5の他方の接触面5aに接近させることができる。そして、ブレーキ装置1は、各ブレーキパッド4がディスクロータ5の各接触面5aに当接し押し付けられてディスクロータ5を挟持すると、車輪と共に回転するディスクロータ5に対して所定の回転抵抗力が作用し、このディスクロータ5及びこれと一体で回転する車輪に制動力を付与することができる。ブレーキ装置1は、液圧室12の除圧時には、ピストン7、キャリパ6が所定の位置に戻され、各ブレーキパッド4がディスクロータ5から離間する。
【0024】
そして、本実施形態のブレーキ装置1は、上述したように、ブレーキ装置用摩擦対2をなすブレーキパッド4が複数の摩擦材41と、変更部44とを含んで構成されることで、ブレーキパッド4とディスクロータ5とを安定的に面接触させ、広い接触面積を確保し、摩擦箇所の面積を安定させ、摩擦性能を適正化し、例えば、摩耗性能の向上と、摩擦性能、制動性能の向上との両立を図っている。
【0025】
具体的には、ブレーキパッド4は、図1に示すように、複数個に分割された摩擦材41と、支持部材としての裏金42と、案内部材43と、変更部44とを有する。
【0026】
なお、この図1では、図中左右方向がブレーキパッド4とディスクロータ5との相対変位の方向、すなわち、ディスクロータ5の回転方向、さらに言えばブレーキパッド4の摺動方向である。また、図中上下方向がアクチュエータ3によるブレーキパッド4とディスクロータ5との押し付け方向である。また、ブレーキパッド4は、インナパッドとアウタパッドとがほぼ同じ構成であるので、インナパッドとアウタパッドとを特に区別する必要がない限り、共通の構成であるものとして説明する。
【0027】
複数の摩擦材41は、この摩擦材41と摺動し摩擦力を発生する円板状のディスクロータ5の接触面5aに対向して設けられる。摩擦材41は、接触面5aと対向する面が摩擦面としての接触面41aをなす。ブレーキパッド4は、アクチュエータ3によってブレーキパッド4とディスクロータ5側に押し付けられた際には、各摩擦材41の各接触面41aがディスクロータ5の接触面5aと接触して摺動する摩擦制動面となり、この接触面41aが制動力を発生させる。
【0028】
本実施形態の摩擦材41は、図1、図3に示すように、それぞれ、円柱状に形成され、接触面41aの背面側に挿入穴41bが設けられる。言い換えれば、摩擦材41は、接触面41a側が閉塞した円筒状に形成され、中空部分が挿入穴41bをなす。摩擦材41は、円筒状の中心軸線に沿った方向の一端側が閉塞して接触面41aをなし、他端側が開口して内部に中空の挿入穴41bが形成される。
【0029】
ここでは、各摩擦材41とディスクロータ5との接触面41a、5aは、それぞれ硬質材によって構成される。接触面41a、5aは、硬質材として、典型的には、相対的に高い耐熱性、所定以上の強度、相対的に高い硬度を有する材料、例えば、アルミナ、窒化ケイ素等によって構成される。
【0030】
裏金42は、板状の部材により構成され、ブレーキパッド4の基端部をなし、複数の摩擦材41を後述する案内部材43や変更部44等を介して支持する。裏金42は、アクチュエータ3からの押し付け力が作用し、後述の変更部44に伝達するものである。ブレーキパッド4は、この裏金42が上述したピストン7(図2参照)やリアクション部10(図2参照)に当接するようにキャリパ6(図2参照)に設けられる。裏金42は、典型的には、相対的に高い耐熱性、所定以上の強度を有する材料、例えば、鉄板、ステンレス等によって構成される。
【0031】
案内部材43は、各摩擦材41を所定の位置に位置決めするためのものである。案内部材43は、図1、図4に示すように、板状に形成されると共に、各摩擦材41を収容するための複数の収容孔43aを有する。各収容孔43aは、案内部材43本体をアクチュエータ3による押し付け方向(以下、単に「押し付け方向」という場合がある)に貫通する。ここでは、各収容孔43aは、摩擦材41の形状に対応して、円柱状に形成される。複数の収容孔43aは、隣接する収容孔43aとほぼ等間隔で形成される。
【0032】
案内部材43は、各収容孔43a内にそれぞれ1つずつ摩擦材41を収容し、複数の摩擦材41をアクチュエータ3による押し付け方向に案内すると共に、この押し付け方向と交差する方向、すなわち、押し付け方向以外(典型的にはパッド面方向)への摩擦材41の移動を規制する拘束具として機能する。各摩擦材41は、円柱状(円筒状)の中心軸線が押し付け方向とほぼ平行になるように案内部材43の各収容孔43a内に収容される。
【0033】
案内部材43は、各収容孔43a内に各摩擦材41を収容し、かつ、押し付け方向に対して裏金42との間に後述の変更部44を挟んだ状態で不図示の周縁部が裏金42に固定される。各摩擦材41は、この状態で各接触面41aが各収容孔43aを介して裏金42とは反対側に露出しディスクロータ5の接触面5aと対向すると共に、不図示の抜け止めによって各収容孔43aからの脱落が防止されている。
【0034】
変更部44は、上述したように、押し付け方向に対して裏金42と複数の摩擦材41との間に設けられる。変更部44は、複数の摩擦材41に対応して複数設けられ、各摩擦材41に対応して1つずつ設けられる。複数の変更部44は、アクチュエータ3からの押し付け力が作用する裏金42と複数の摩擦材41との間にそれぞれ介在する。複数の変更部44は、それぞれ、各摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する摩擦熱によってアクチュエータ3による押し付け方向に沿った長さが変化する。
【0035】
本実施形態の各変更部44は、それぞれ熱伝導体45と、熱変形体46とを含んで構成される。
【0036】
各熱伝導体45は、棒状に構成され、各摩擦材41の各挿入穴41bにそれぞれ1つずつ挿入される。各熱伝導体45は、先端がそれぞれ挿入穴41bの底部41cに当接する。各熱伝導体45は、アクチュエータ3がブレーキパッド4とディスクロータ5とを押し付けた際に、各摩擦材41の接触面41aをディスクロータ5の接触面5aに押圧する押圧部材である。すなわち、変更部44は、アクチュエータ3がブレーキパッド4とディスクロータ5とを押し付けた際に、各熱伝導体45がそれぞれ挿入穴41bの底部41cをディスクロータ5に向かって押圧し摩擦材41の接触面41aをディスクロータ5の接触面5aに押圧する。
【0037】
本実施形態の熱伝導体45は、先端が挿入穴41bの底部41cと点接触する。ここでは、熱伝導体45は、先端に突起45aが設けられており、この突起45aにて底部41cと点接触する。つまり、熱伝導体45は、突起45aが底部41cとの点接触部となる。一方、各熱伝導体45は、基端(突起45aが設けられる端部とは反対側の端部)がそれぞれ熱変形体46に接続される。なお、この各熱伝導体45は、熱伝導率が比較的に高い材料で構成されることが好ましい。
【0038】
各熱変形体46は、各熱伝導体45と裏金42との間にそれぞれ介在する。各熱変形体46は、熱膨張率が異なる複数の部材を含んで構成される。ここで、熱膨張率とは、典型的には、温度の上昇によって物体の長さ・体積が膨張する割合を単位温度当たりで表した指標に相当する。
【0039】
本実施形態の各熱変形体46は、熱膨張率が異なる金属の結合体、いわゆるバイメタルによって構成される。熱変形体46は、熱膨張率が異なる板状の2枚の金属板、すなわち、第1金属板47と第2金属板48とを含んで構成される。この熱変形体46をなす第1金属板47及び第2金属板48は、裏金42に作用する押し付け力を各熱伝導体45に伝達する伝達部材でもある。熱変形体46は、押し付け方向に対して、第1金属板47が裏金42側に配置され第2金属板48が複数の熱伝導体45側に配置される。
【0040】
熱変形体46は、第1金属板47の熱膨張率が相対的に大きく、第2金属板48の熱膨張率が相対的に小さくなるように、第1金属板47、第2金属板48の材質が選定される。熱変形体46は、第1金属板47の縁部と第2金属板48の縁部とが一体的に結合されている。一方、熱変形体46は、第1金属板47の中央部と第2金属板48の中央部とが、分離しており、典型的には、接触面41aと接触面5aとが摩擦熱を発生させていない低温時において第2金属板48の中央部が熱伝導体45側に撓んだ形状となっている。熱変形体46は、第1金属板47の縁部と第2金属板48の縁部とが一体的に結合された状態で第1金属板47が裏金42に固定される一方、第2金属板48に熱伝導体45の基端が接続される。
【0041】
上記のように構成される変更部44は、アクチュエータ3から裏金42に入力された押し付け力をそれぞれ熱変形体46の第1金属板47で受ける。そして、各変更部44は、それぞれ第1金属板47で受けた荷重を第2金属板48で受ける。そして、変更部44は、それぞれ第2金属板48で受けた荷重を、熱伝導体45を介して摩擦材41の底部41cに伝達する。この結果、各変更部44は、アクチュエータ3からの押し付け力をそれぞれの摩擦材41に伝達することができ、摩擦材41の接触面41aをディスクロータ5の接触面5aに接触させることができる。
【0042】
このとき、変更部44は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで接触面41aと接触面5aとの間に摩擦力が生じると、これに伴って摩擦熱が発生し、この摩擦熱が熱伝導体45を介して熱変形体46に伝達される。そして、熱変形体46は、熱伝導体45を介して伝達される摩擦熱によって温度が高くなると、熱膨張率が相対的に大きい第1金属板47が、熱膨張率が相対的に小さい第2金属板48より、膨張する度合いが相対的に大きいため、例えば、図5に例示するように、第1金属板47の方が第2金属板48よりも押し付け方向と交差する方向へより大きく膨張することとなる。そして、熱変形体46は、この第1金属板47の膨張に伴って第2金属板48の縁部がこの第1金属板47の縁部に追従するようにして変形することで、第2金属板48の中央部の撓み量が減少し、第2金属板48の中央部と第1金属板47の中央部との間隔が狭くなる。この結果、熱変形体46は、全体での押し付け方向に沿った長さが相対的に変化し、すなわち、高温時での押し付け方向に沿った長さL2が低温時での押し付け方向に沿った長さL1より短くなる。
【0043】
したがって、変更部44は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで生じる摩擦熱によって熱変形体46の押し付け方向に沿った長さが変化することで、熱伝導体45と熱変形体46とを含んだ全体での押し付け方向に沿った長さが相対的に変化し、すなわち、高温時での押し付け方向に沿った長さが低温時での押し付け方向に沿った長さより短くなる。つまり、変更部44は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する熱量が大きくなるほど押し付け方向に沿った長さが短くなる。そしてこれにより、変更部44は、アクチュエータ3による押し付け方向に沿った長さが変化することで各々の摩擦材41と裏金42との間の押し付け方向に沿った距離を変更することができる。すなわち、変更部44は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する熱量が大きくなるほど摩擦材41と裏金42との間の押し付け方向に沿った距離を短くすることができる。
【0044】
ここで、このブレーキパッド4は、図6に示すように、摩擦材41のモーメント長h1が可能な限り小さくなるように、また、摩擦材41の高さh2が可能な限り大きくなるように、クリアランス、形状等が設定されることが好ましい。これにより、このブレーキパッド4は、摩擦材41に押し付け力(荷重)Wが作用し接触面41aがディスクロータ5の接触面5aと接触して摩擦力Fを発生させた際に、摩擦材41に作用する回転力により摩擦材41が点接触となってしまうことを抑制している。なお、この図6中、実線で表す摩擦材41は回転前の状態を、点線で表す摩擦材41は回転後の状態を模式的に表している。
【0045】
上記の摩擦材41のモーメント長h1は、図6中の点Aから拘束点Bまでの押し付け方向に沿った長さに相当する。ブレーキパッド4は、このモーメント長h1を相対的に小さくすることで、図6中の点A周りの(左)回転方向の発生回転力M(=F×h1)を相対的に小さくすることができる。ここでの点Aは、摩擦材41とディスクロータ5とが接触した際の回転中心となる点に相当する。また、拘束点Bは、点Aとは反対側で摩擦材41の外面が収容孔43aの内面と当接し回転が拘束される点に相当する。このブレーキパッド4は、案内部材43の収容孔43aの内面と摩擦材41の外面とのクリアランス(隙間)を小さくすることで、摩擦材41のモーメント長h1を相対的に小さくすることができる。
【0046】
また、上記の摩擦材41の高さh2は、図6中に示すように、摩擦材41の押し付け方向に沿った長さに相当する。ブレーキパッド4は、この高さh2を相対的に大きくし、案内部材43によって各摩擦材41の押し付け方向以外への移動を拘束することで、図6中の回転変位θを小さくすることができる。ここでの回転変位θ[degree]は、sin-1(δ/h2)で表すことができる。δは、点A側で摩擦材41の外面が収容孔43aの内面と当接し回転が拘束される拘束点C側のクリアランス(隙間)に相当する。このブレーキパッド4は、摩擦材41の接触面41aからの厚みを大きくすることで、摩擦材41の高さh2を相対的に大きくすることができる。
【0047】
上記のように構成されるブレーキ装置1は、アクチュエータ3によってブレーキパッド4が、回転するディスクロータ5に押し付けられると、各摩擦材41の接触面41aとディスクロータ5の接触面5aとが当接し、ディスクロータ5の回転に応じて各接触面41aと接触面5aとが摺動する。そして、ブレーキ装置1は、各摩擦材41の各接触面41aと接触面5aとの間に生じる摩擦力(摩擦抵抗力)によって、ブレーキパッド4とディスクロータ5との相対変位、すなわち、ディスクロータ5の回転を制動する制動力を発生させることができる。ブレーキ装置1は、ブレーキパッド4とディスクロータ5とが押し付けられた状態で、ブレーキパッド4とディスクロータ5との相対変位に伴って各接触面41aと接触面5aとの間に生じる摩擦力により上記相対変位を制動することができる。この結果、ブレーキ装置1は、ディスクロータ5、ひいては車輪に所定の制動力を付与することができる。
【0048】
そして、ブレーキ装置1は、各摩擦材41とディスクロータ5との接触面41a、5aがそれぞれ硬質材によって構成されることから、相対的に高い摩耗特性を得ることができ、例えば、接触面41a、5aの融点を相対的に高くすることができ、これにより、ブレーキ装置用摩擦対2の熱に対する許容範囲を拡大することができる。一方、この場合、各摩擦材41とディスクロータ5とは、接触面41a、5aがそれぞれ硬質材同士であるがために、図1、図7に例示するように、摩擦制動面となる接触面41aと接触面5aとが馴染まず接触面積が不安定となり小さくなるおそれがある。
【0049】
これに対して、このブレーキ装置1は、ブレーキパッド4が全体として複数の摩擦材41に分かれて構成され、それぞれの挿入穴41bの底部41cが、対応する変更部44の熱変形体46を介して熱伝導体45によって温度に応じてディスクロータ5の接触面5aに押圧されることで、図8に例示するように、各摩擦材41の接触面41aを独立して接触面5aに押圧することができる。この結果、ブレーキ装置1は、接触面41aを接触面5aの微細な凹凸等形状に合わせて追従しやすくすることができ、よって、接触面41a、5aがそれぞれ硬質材同士で構成される場合であっても、接触面41aと接触面5aとの接触面積を相対的に大きくすることができる。
【0050】
より具体的にいうと、ブレーキ装置1は、例えば、図9の囲み線A内に例示するように、接触面41aと接触面5aとがしっかりと接触している摩擦材41では、接触面41aと接触面5aとの間に摩擦力が生じる。そして、ブレーキ装置1は、接触面41aと接触面5aとがしっかりと接触している摩擦材41で生じる摩擦熱が、対応する熱伝導体45を介して熱変形体46に伝達され、これにより、熱変形体46の温度が相対的に高温となり、変更部44の押し付け方向に沿った長さが相対的に短くなる。この結果、ブレーキ装置1は、接触面41aと接触面5aとがしっかりと接触している摩擦材41では、図10に例示するように、当該摩擦材41と裏金42との間の押し付け方向に沿った距離が短くなり、結果的に、当該摩擦材41がディスクロータ5側から裏金42側に引っ込むこととなる。
【0051】
一方、ブレーキ装置1は、例えば、図9の囲み線B内に例示するように、接触面41aと接触面5aとが接触していない摩擦材41では、接触面41aと接触面5aとの間に摩擦力が生じていない。このため、ブレーキ装置1は、接触面41aと接触面5aとが接触していない摩擦材41では、熱変形体46の温度が相対的に低温となり、変更部44の押し付け方向に沿った長さが相対的に長くなる。この結果、ブレーキ装置1は、接触面41aと接触面5aとが接触していない摩擦材41では、図10に例示するように、当該摩擦材41と裏金42との間の押し付け方向に沿った距離が相対的に長くなり、結果的に、当該摩擦材41が裏金42側からディスクロータ5側に押し出されることとなる。これにより、接触面41aと接触面5aとが接触していなかった摩擦材41は、接触面41aと接触面5aとがしっかりと接触する状態となり、接触面41aと接触面5aとの間に摩擦力を発生させることができる。
【0052】
つまり、ブレーキ装置1は、各変更部44によって、相対的に大きな押し付け荷重が作用し相対的に熱負荷が高くなっている摩擦材41をディスクロータ5の接触面5a側から引っ込ませる一方、相対的に小さい押し付け荷重が作用し相対的に熱負荷が低くなっている摩擦材41をディスクロータ5の接触面5a側に押し出す。この結果、ブレーキ装置1は、押し付け力をこれら複数の変更部44にて分散させ複数の摩擦材41に対してほぼ均一に作用させることができるので、複数の摩擦材41の接触面41aと接触面5aとを安定的に面接触させ摩擦箇所の面積を安定化させることができ、摩擦性能を適正化し、例えば、摩耗性能の向上と、摩擦性能、制動性能の向上との両立を図ることができる。
【0053】
また、本実施形態のブレーキ装置1は、アクチュエータ3がブレーキパッド4とディスクロータ5とを押し付けた際に、変更部44の各熱伝導体45がそれぞれ挿入穴41bの底部41cをディスクロータ5に向かって押圧し摩擦材41の接触面41aをディスクロータ5の接触面5aに押圧する。これにより、このブレーキ装置1は、挿入穴41bにて熱伝導体45の先端部を確実に位置決めすることができると共に、底部41cにて接触面41aと接触面5aとの接触部分のすぐ近傍に熱伝導体45からの押し付け力の着力点を位置させることができ、すなわち、押し付け力の着力点と、接触面41aと接触面5aとの摩擦制動面とを近接させることができる。この結果、ブレーキ装置1は、接触面41aと接触面5aとを安定的に面接触させ摩擦箇所の面積を安定化させることができ、摩擦性能、制動性能をさらに向上することができる。
【0054】
また、ブレーキ装置1は、変更部44の各熱伝導体45が突起45aにてそれぞれ挿入穴41bの底部41cと点接触することから、図11に例示するように、各摩擦材41の底部41cにおける熱伝導体45からの押し付け力の着力点の位置を突起45aの一点にて安定化させることができ、例えば、着力点が底部41cの中心部からずれてしまうことを抑制することができる。そして、ブレーキ装置1は、押し付け力の着力点の位置を安定化させることができることから、結果的に、接触面41aと接触面5aとの摩擦制動面を安定化させることができ、摩擦性能、制動性能をさらに向上することができる。
【0055】
また、このブレーキ装置1は、摩擦材41のモーメント長h1を小さくし、摩擦材41の高さh2を大きくすることで、摩擦材41に押し付け力(荷重)Wが作用し接触面41aにて摩擦力Fを発生させた際に生じる発生回転力M、及び、回転変位θを抑制することができるので、摩擦材41に作用する回転力により摩擦材41が点接触となってしまうことを抑制することができ、接触面41aと接触面5aとの摩擦面積をより安定させることができる。さらに言えば、ブレーキ装置1は、案内部材43が複数の摩擦材41を前押し付け方向に案内すると共にこの押し付け方向と交差する方向への移動を規制することから、摩擦材41の倒れを規制し、より接触面積を安定化させることができる。
【0056】
以上で説明した実施形態に係るブレーキ装置1によれば、複数の摩擦材41を有するブレーキパッド4と、複数の摩擦材41と接触してブレーキパッド4と相対変位可能であるディスクロータ5と、ブレーキパッド4とディスクロータ5とを押し付けるアクチュエータ3とを備え、ブレーキパッド4は、アクチュエータ3からの押し付け力が作用する裏金42と複数の摩擦材41との間にそれぞれ介在し、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する熱によってアクチュエータ3による押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部44を有する。
【0057】
以上で説明した実施形態に係るブレーキ装置用摩擦対2によれば、複数の摩擦材41を有するブレーキパッド4と、複数の摩擦材41と接触してブレーキパッド4と相対変位可能であるディスクロータ5とを備え、ブレーキパッド4は、ブレーキパッド4とディスクロータ5とが押し付けられた際に押し付け力が作用する裏金42と複数の摩擦材41との間にそれぞれ介在し、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する熱によって押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部44を有する。
【0058】
以上で説明した実施形態に係るブレーキパッド4によれば、車輪と共に回転するディスクロータ5と接触する複数の摩擦材41と、ディスクロータ5に押し付けられた際に押し付け力が作用する裏金42と複数の摩擦材41との間にそれぞれ介在し、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する熱によって押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部44とを備える。
【0059】
したがって、ブレーキ装置1、ブレーキ装置用摩擦対2、ブレーキパッド4は、例えば、摩擦箇所の面積を安定させることで摩擦性能を適正化することができる。また、ブレーキ装置1、ブレーキ装置用摩擦対2、ブレーキパッド4は、複数の摩擦材41の摩耗状態をより均一化することができる。
【0060】
また、ブレーキ装置1、ブレーキ装置用摩擦対2、ブレーキパッド4は、例えば、制動時に生じる摩擦熱等によって、ブレーキパッド4が熱膨張を起こし変形しようとした場合であっても複数の摩擦材41がそれぞれ独立して設けられており、各変更部44が各摩擦材41をそれぞれ支持していることから、変位を吸収可能とすることができ、これにより、摩擦面積をさらに安定させることができ、例えば、ブレーキパッド4の熱膨張に対しても摩擦性能を適正化することができる。
【0061】
[実施形態2]
図12は、実施形態2に係るブレーキ装置の熱変形体について説明する模式図である。実施形態2に係るブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドは、熱膨張率が負である部材を含んで構成される点で実施形態1とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す(以下で説明する実施形態でも同様である。)。
【0062】
図12で説明する本実施形態に係るブレーキ装置201、ブレーキ装置用摩擦対202、ブレーキパッド204は、複数の変更部244を備え、この変更部244は、熱膨張率が負である部材を含んで構成される。各変更部244は、それぞれ熱伝導体45(図1等参照)と、熱変形体246とを含んで構成される。
【0063】
熱変形体246は、熱膨張率が異なる板状の2枚の金属板、すなわち、第1金属板247と第2金属板248とを含んで構成される。熱変形体246は、押し付け方向に対して、第1金属板247が裏金42側に配置され第2金属板248が複数の熱伝導体45側に配置される。
【0064】
本実施形態の熱変形体246は、第1金属板247の熱膨張率が正でありかつ相対的に小さく、第2金属板248の熱膨張率が負となるように、第1金属板247、第2金属板248の材質が選定される。このため、第1金属板247は、高温となっても膨張しにくく、また、第2金属板248は、温度の上昇により収縮するいわゆる負膨張を起こす。逆に言えば、第2金属板248は、温度低下とともに膨張する。熱膨張率が負となる材質としては、例えば、タングステン酸ジルコニウム、シリコン酸化物、これらの少なくともいずれかが混入された結晶化ガラス等を用いることができ、また、これらの酸化物以外にも負の熱膨張率を有するものであれば用いることが可能である。
【0065】
熱変形体246は、第1金属板247の縁部と第2金属板248の縁部とが一体的に結合されている。一方、熱変形体246は、第1金属板247の中央部と第2金属板248の中央部とが、分離しており、典型的には、接触面41aと接触面5aとが摩擦熱を発生させていない低温時において第2金属板248の中央部が熱伝導体45側に撓んだ形状となっている。熱変形体246は、第1金属板247の縁部と第2金属板248の縁部とが一体的に結合された状態で第1金属板247が裏金42に固定される一方、第2金属板248に熱伝導体45の基端が接続される。
【0066】
変更部244は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで接触面41aと接触面5aとの間に摩擦力が生じると、これに伴って摩擦熱が発生し、この摩擦熱が熱伝導体45を介して熱変形体246に伝達される。そして、熱変形体246は、熱伝導体45を介して伝達される摩擦熱によって温度が高くなると、熱膨張率が正でありかつ相対的に小さい第1金属板247がほとんど膨張(収縮)しない一方、熱膨張率が負である第2金属板248が収縮し、これにより、例えば、図12に例示するように、第2金属板248の中央部の撓み量が減少し、第2金属板248の中央部と第1金属板247の中央部との間隔が狭くなる。この結果、熱変形体246は、全体での押し付け方向に沿った長さが相対的に変化し、すなわち、高温時での押し付け方向に沿った長さL2が低温時での押し付け方向に沿った長さL1より短くなる。
【0067】
したがって、変更部244は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで生じる摩擦熱によって熱変形体246の押し付け方向に沿った長さが変化することで、熱伝導体45と熱変形体246と含んだ全体での押し付け方向に沿った長さが相対的に変化し、すなわち、高温時での押し付け方向に沿った長さが低温時での押し付け方向に沿った長さより短くなる。つまり、変更部244は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する熱量が大きくなるほど押し付け方向に沿った長さが短くなる。そしてこれにより、変更部244は、アクチュエータ3による押し付け方向に沿った長さが変化することで各々の摩擦材41と裏金42との間の押し付け方向に沿った距離を変更することができる。すなわち、変更部244は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する熱量が大きくなるほど摩擦材41と裏金42との間の押し付け方向に沿った距離を短くすることができる。
【0068】
そして、このブレーキ装置201は、ブレーキパッド4が全体として複数の摩擦材41に分かれて構成され、それぞれの挿入穴41bの底部41cが、対応する変更部244の熱変形体246を介して熱伝導体45によって温度に応じてディスクロータ5の接触面5aに押圧されることで、各摩擦材41の接触面41aを独立して接触面5aに押圧することができる。この結果、ブレーキ装置201は、接触面41aを接触面5aの微細な凹凸等形状に合わせて追従しやすくすることができ、よって、接触面41a、5aがそれぞれ硬質材同士で構成される場合であっても、接触面41aと接触面5aとの接触面積を相対的に大きくすることができる。
【0069】
この場合であっても、以上で説明した実施形態に係るブレーキ装置201、ブレーキ装置用摩擦対202、ブレーキパッド204は、例えば、摩擦箇所の面積を安定させることで摩擦性能を適正化することができる。また、ブレーキ装置201、ブレーキ装置用摩擦対202、ブレーキパッド204は、複数の摩擦材41の摩耗状態をより均一化することができる。
【0070】
[実施形態3]
図13は、実施形態3に係るブレーキ装置用摩擦対の概略構成を示す部分断面図である。実施形態3に係るブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドは、変更部の構成が実施形態1、2とは異なる。
【0071】
図13で説明する本実施形態に係るブレーキ装置301、ブレーキ装置用摩擦対302、ブレーキパッド304は、複数の変更部としての変更部材344を備え、この変更部材344は、熱膨張率が負である部材を含んで構成される。本実施形態のブレーキ装置301、ブレーキ装置用摩擦対302、ブレーキパッド304は、熱伝導体45(図1等参照)、熱変形体46、246(図1、図12等参照)を含んで構成される変更部44、244(図1、図12等参照)にかえて、この変更部材344を備える。
【0072】
変更部材344は、押し付け方向に対して裏金42と複数の摩擦材41との間に設けられる。変更部材344は、複数の摩擦材41に対応して複数設けられ、各摩擦材41に対応して1つずつ設けられる。複数の変更部材344は、アクチュエータ3からの押し付け力が作用する裏金42と複数の摩擦材41との間にそれぞれ介在する。複数の変更部材344は、それぞれ、各摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する摩擦熱によってアクチュエータ3による押し付け方向に沿った長さが変化する。
【0073】
各変更部材344は、棒状に構成され、各摩擦材41の各挿入穴41bにそれぞれ1つずつ挿入される。各変更部材344は、先端がそれぞれ挿入穴41bの底部41cに当接する。各変更部材344は、アクチュエータ3がブレーキパッド4とディスクロータ5とを押し付けた際に、各摩擦材41の接触面41aをディスクロータ5の接触面5aに押圧する押圧部材である。変更部材344は、先端が挿入穴41bの底部41cと点接触する。ここでは、変更部材344は、先端に突起345aが設けられており、この突起345aにて底部41cと点接触する。また、各変更部材344は、基端(突起345aが設けられる端部とは反対側の端部)が裏金42に固定される。各変更部材344は、アクチュエータ3から裏金42に入力された押し付け力をそれぞれの摩擦材41に伝達することができ、摩擦材41の接触面41aをディスクロータ5の接触面5aに接触させることができる。
【0074】
本実施形態の各変更部材344は、熱膨張率が負となるように材質が選定される。このため、変更部材344は、温度の上昇により収縮するいわゆる負膨張を起こす。逆に言えば、変更部材344は、温度低下とともに膨張する。
【0075】
そして、変更部材344は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで接触面41aと接触面5aとの間に摩擦力が生じると、これに伴って摩擦熱が発生しこの摩擦熱が摩擦材41から伝達される。そして、変更部材344は、摩擦材41から伝達される摩擦熱によって温度が高くなると、熱膨張率が負であるため収縮する。
【0076】
したがって、変更部材344は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで生じる摩擦熱によって熱変形体246の押し付け方向に沿った長さが変化することで、全体での押し付け方向に沿った長さが相対的に変化し、すなわち、高温時での押し付け方向に沿った長さが低温時での押し付け方向に沿った長さより短くなる。つまり、変更部材344は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する熱量が大きくなるほど押し付け方向に沿った長さが短くなる。そしてこれにより、変更部材344は、アクチュエータ3による押し付け方向に沿った長さが変化することで各々の摩擦材41と裏金42との間の押し付け方向に沿った距離を変更することができる。すなわち、変更部材344は、摩擦材41とディスクロータ5とが接触して相対変位することで発生する熱量が大きくなるほど摩擦材41と裏金42との間の押し付け方向に沿った距離を短くすることができる。
【0077】
そして、このブレーキ装置301は、ブレーキパッド4が全体として複数の摩擦材41に分かれて構成され、それぞれの挿入穴41bの底部41cが、対応する変更部材344によって温度に応じてディスクロータ5の接触面5aに押圧されることで、各摩擦材41の接触面41aを独立して接触面5aに押圧することができる。この結果、ブレーキ装置301は、接触面41aを接触面5aの微細な凹凸等形状に合わせて追従しやすくすることができ、よって、接触面41a、5aがそれぞれ硬質材同士で構成される場合であっても、接触面41aと接触面5aとの接触面積を相対的に大きくすることができる。
【0078】
この場合であっても、以上で説明した実施形態に係るブレーキ装置301、ブレーキ装置用摩擦対302、ブレーキパッド304は、例えば、摩擦箇所の面積を安定させることで摩擦性能を適正化することができる。また、ブレーキ装置301、ブレーキ装置用摩擦対302、ブレーキパッド304は、複数の摩擦材41の摩耗状態をより均一化することができる。
【0079】
なお、上述した本発明の実施形態に係るブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドは、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0080】
以上の説明では、ブレーキパッド4、204、304が第1部材であり、ディスクロータ5が第2部材であるものとして説明したが、これに限らず、ディスクロータが第1部材、ブレーキパッドが第2部材であってもよい。
【0081】
以上の説明では、摩擦材は、円柱状(円筒状)に形成されるものとして説明したが、これに限らず、例えば、矩形柱状(矩形筒状)に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1、201、301 ブレーキ装置
2、202、302 ブレーキ装置用摩擦対
3 アクチュエータ(押付機構)
4、204、304 ブレーキパッド(第1部材)
5 ディスクロータ(第2部材)
5a 接触面
41 摩擦材
41a 接触面(摩擦面)
41b 挿入穴
41c 底部
42 裏金(支持部材)
43 案内部材
44、244 変更部
45 熱伝導体
45a、345a 突起
46、246 熱変形体
47、247 第1金属板
48、248 第2金属板
344 変更部材(変更部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の摩擦材を有する第1部材と、
前記複数の摩擦材と接触して前記第1部材と相対変位可能である第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを押し付ける押付機構とを備え、
前記第1部材は、前記押付機構からの押し付け力が作用する支持部材と前記複数の摩擦材との間にそれぞれ介在し、前記摩擦材と前記第2部材とが接触して相対変位することで発生する熱によって前記押付機構による押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部を有することを特徴とする、
ブレーキ装置。
【請求項2】
前記変更部は、前記押付機構による押し付け方向に沿った長さが変化することで各々の前記摩擦材と前記支持部材との間の前記押し付け方向に沿った距離を変更する、
請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記変更部は、前記摩擦材と前記第2部材とが接触して相対変位することで発生する熱量が大きくなるほど前記押し付け方向に沿った長さが短くなる、
請求項1又は請求項2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記変更部は、熱膨張率が異なる複数の部材を含んで構成される、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記変更部は、熱膨張率が負である部材を含んで構成される、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のブレーキ装置。
【請求項6】
前記摩擦材と前記第2部材との接触面は、それぞれ硬質材によって構成される、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のブレーキ装置。
【請求項7】
複数の摩擦材を有する第1部材と、
前記複数の摩擦材と接触して前記第1部材と相対変位可能である第2部材とを備え、
前記第1部材は、前記第1部材と前記第2部材とが押し付けられた際に押し付け力が作用する支持部材と前記複数の摩擦材との間にそれぞれ介在し、前記摩擦材と前記第2部材とが接触して相対変位することで発生する熱によって押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部を有することを特徴とする、
ブレーキ装置用摩擦対。
【請求項8】
車輪と共に回転するディスクロータと接触する複数の摩擦材と、
前記ディスクロータに押し付けられた際に押し付け力が作用する支持部材と前記複数の摩擦材との間にそれぞれ介在し、前記摩擦材と前記ディスクロータとが接触して相対変位することで発生する熱によって押し付け方向に沿った長さが変化する複数の変更部とを備えることを特徴とする、
ブレーキパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−229789(P2012−229789A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100047(P2011−100047)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】