説明

ベーンポンプ

【課題】ポンプ吸込通路の圧力損失を低減するとともに、作動流体の分流が均等に行われるベーンポンプを提供する。
【解決手段】作動流体圧供給源として用いられるベーンポンプ1であって、ポンプ吸込通路53は、二つの吸込ポートへと吸入される作動流体を分流する分流通路部56と、戻しバルブポート13から導かれる余剰作動流体を分流通路部56へと導く戻し通路部54と、この戻し通路部54にタンクからの作動流体を導くタンク通路16と、を備え、戻し通路部54は分流通路部56に対してスプール41の閉弁方向にオフセットされ、作動流体が戻し通路部54から分流通路部56の中央部へと導かれる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体圧供給源として用いられるベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のベーンポンプとして、ベーンポンプ機構から吐出される作動流体の一部を余剰作動流体としてポンプ吸込通路に還流させる流量制御バルブを備え、この流量制御バルブを介してポンプ吐出流量を調節し、流体圧機器に送られる作動流体の流量を制御するものがある。
【0003】
平衡型のベーンポンプは、作動流体を加圧して吐出するベーンポンプ機構として、ロータが1回転するのに伴って、カム面に追従する各ベーンが2回往復動し、二つの吸込領域及び二つの吐出領域を有し、二つの吸込領域に作動流体を分流するポンプ吸込通路とを備える。
【0004】
しかし、流量制御バルブが設けられる平衡型のベーンポンプにあっては、流量制御バルブの開度が小さいときに、流量制御バルブからポンプ吸込通路に流入する余剰作動流体の噴流が、通路中心線に対して傾斜し、ポンプ吸込通路にて分流される作動流体の流量に大きな差が生じる可能性がある。
【0005】
これに対処して、特許文献1に開示されたベーンポンプは、ポンプ吸込通路の中程に板状の整流壁を設け、この整流壁に余剰作動流体の噴流を当てて、ポンプ吸込通路における作動流体の速度分布を調節するようになっている。
【0006】
また、特許文献2に開示されたベーンポンプは、ポンプ吸込通路の分流通路下流部の通路開口面積に差を持たせ、ポンプ吸込通路にて分流される作動流体流量を均一化するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−255335号公報
【特許文献2】特開2003−314470号公報(特許3874694号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のベーンポンプにあっては、ポンプ吸込通路の中程に整流壁を設けたり、ポンプ吸込通路の分流通路下流部の通路開口面積を絞る構成のため、流量制御バルブが開いて作動流体流量が大きくなる作動時に、ポンプ吸込通路の圧力損失が増大し、ベーンポンプの吸込性能が低下するという問題点があった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ポンプ吸込通路の圧力損失を低減するとともに、作動流体の分流が均等に行われるベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、作動流体圧供給源として用いられるベーンポンプであって、作動流体を加圧して吐出するベーンポンプ機構と、このベーンポンプ機構に吸い込まれる作動流体を導くポンプ吸込通路と、ベーンポンプ機構から吐出される作動流体を導くポンプ吐出通路と、このポンプ吐出通路に吐出される作動流体の一部を余剰作動流体としてポンプ吸込通路に還流させる流量制御バルブと、を備え、この流量制御バルブは、スプールを収容するスプール収容孔と、このスプール収容孔に開口し余剰作動流体を導く戻しバルブポートと、を備え、ベーンポンプ機構は作動流体を二つの吸込ポートから吸込む二つの吸込領域を有し、ポンプ吸込通路は、二つの吸込ポートへと吸入される作動流体を分流する分流通路部と、戻しバルブポートから導かれる余剰作動流体を分流通路部へと導く戻し通路部と、この戻し通路部にタンクからの作動流体を導くタンク通路と、を備え、戻し通路部は分流通路部に対してスプールの閉弁方向にオフセットされ、作動流体が戻し通路部から分流通路部の中央部へと導かれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、流量制御バルブの開度が小さいときに、戻しバルブポートから斜めに流出する余剰作動流体の噴流の向きが、戻し通路部を通る過程にて戻し通路部の内壁面に沿うように偏向されることにより、分流通路部の中央部へと導かれ、二つの吸込ポートに分流される作動流体の流量及び圧力が均等にすることと、ポンプ吸込通路の圧力損失を低減することとを両立できる。
【0012】
これにより、ベーンポンプの低回転作動時に一方の吸込ポートにてキャビテーションが発生することが防止され、ベーンポンプの振動や騒音が防止されるとともに、高回転作動時にも作動流体の吸込みが円滑に行われ、ベーンポンプの吐出流量の低下が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示すベーンポンプの正面図。
【図2】同じく図1のA−A線に沿う断面図。
【図3】同じくポンプカバーの正面図。
【図4】同じく図2のB−B線に沿う断面図。
【図5】同じく図4のC−C線に沿う断面図。
【図6】比較例を示すベーンポンプの断面図。
【図7】同じく図6のD−D線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1〜5に示すベーンポンプ1は、例えば車両に搭載される油圧機器(パワーステアリング装置や変速機等)の油圧供給源として用いられるものである。
【0016】
ベーンポンプ1は、作動流体として、作動油(オイル)を用いるが、作動油の代わりに例えば水溶性代替液等の作動液を用いてもよい。
【0017】
図1に示すように、ベーンポンプ1は、駆動シャフト9の端部にエンジン(図示せず)の動力が伝達され、駆動シャフト9に連結されたロータ2が回転する。
【0018】
図2に示すように、駆動シャフト9は、ポンプボディ10とポンプカバー50に回転自在に支持される。ポンプボディ10には、吸入した作動油を加圧して吐出するベーンポンプ機構6を収容するポンプ収容凹部10aが形成される。このポンプ収容凹部10aに、ベーンポンプ機構6として、ロータ2、複数のベーン3、カムリング4、及びサイドプレート30等が収容される。ポンプボディ10にはポンプカバー50が複数のボルト18を介して締結され、このポンプカバー50によってポンプ収容凹部10aが封止される。
【0019】
ポンプボディ10のポンプ収容凹部10aの底部とサイドプレート30の間には高圧室20が画成される。この高圧室20に導かれるポンプ吐出圧によってサイドプレート30がカムリング4の後側の端面に押し付けられる。
【0020】
ロータ2には、外周面に開口部を有する複数のスリット5が所定の間隔をおいて放射状に形成される。ベーン3は、矩形の板状をしており、スリット5に摺動自在に挿入される。
【0021】
カムリング4の内部には、ロータ2の外周面、カムリング4のカム面4a、及び隣り合うベーン3によって複数のポンプ室7が画成される。
【0022】
カムリング4は、カム面4aが略長円形状をした環状の部材である。ロータ2の回転に伴ってベーン3がその先端部をカム面4aに摺接させながら回動し、各ベーン3の間に画成されるポンプ室7の容積が拡縮する。
【0023】
平衡型のベーンポンプ1は、ロータ2が1回転するのに伴って、カム面4aに追従する各ベーン3が2回往復動するものであり、二つの吸込領域及び二つの吐出領域を有する。
【0024】
図3は、ポンプカバー50におけるロータ2が摺接する後側の端面55を示す正面図であり、ロータ2が図中矢印で示す方向に回転する。ベーンポンプ1は、ベーン3が1回目の往復動をしてポンプ室7の容積を拡張する第一の吸込領域と、ポンプ室7の容積を収縮する第一の吐出領域と、ベーン3が2回目の往復動をしてポンプ室7の容積を拡張する第二の吸込領域と、ポンプ室7の容積を収縮する第二の吐出領域とに分けられる。
【0025】
ポンプカバー50の端面55には、第一の吸込領域に吸込ポート51が開口し、第一の吐出領域に吐出ポート57が開口し、第二の吸込領域に吸込ポート52が開口し、第二の吐出領域に吐出ポート58が開口する。
【0026】
ベーンポンプ1は、図5に示すように、タンクからの作動油が導かれるポンプ吸込通路53として、ポンプカバー50には、二つの吸込ポート51、52へと作動油を分流する分流通路部56が形成される。
【0027】
Y字状の分流通路部56は、図5に示すように、その上流端となる一つの分流通路上流部56cと、この分流通路上流部56cから一方の吸込ポート51へと延びる分流通路下流部56aと、分流通路上流部56cから他方の吸込ポート52へと延びる分流通路下流部56bとを有する。
【0028】
上記構成に基づき、作動油が図5に矢印で示すように、分流通路部56を通って二つの吸込ポート51、52へと振り分けられ、第一、第二の吸込領域にて拡張するポンプ室7に吸い込まれる。
【0029】
図2に示すように、ポンプボディ10には、サイドプレート30に形成される二つの吐出ポート31、32と、この吐出ポート31、32に連通する高圧室20とが形成される。第一、第二の吐出領域にて、容積を収縮するポンプ室7から作動油が二つの吐出ポート31、32に吐出される(図2の矢印参照)。
【0030】
ポンプボディ10には流量制御バルブ40が収容される。この流量制御バルブ40は、吐出ポート31、32から吐出される作動油の一部を余剰油として戻し通路部54から吸込ポート51、52へ還流させ、タンクから供給される作動油の流量及びポンプ吐出流量を調節し、油圧機器に送られる作動流体の流量を制御する。
【0031】
流量制御バルブ40は、図4に示すように、ポンプボディ10に形成されるスプール収容孔11と、このスプール収容孔11に収容されるスプール41とを備える。
【0032】
スプール収容孔11は、駆動シャフト9と略直交する方向に延びる。スプール収容孔11には、入口バルブポート12、出口バルブポート(図示せず)、戻しバルブポート13がそれぞれ開口する。
【0033】
入口バルブポート12は、ポンプ吐出通路29を構成し、高圧室20を介して吐出ポート31、32に連通し、ポンプ室7から吐出する作動油をスプール収容孔11に導く。
【0034】
図示しない出口バルブポートは、ポンプ吐出通路29を構成し、ポンプボディ10に接続される配管(図示せず)に連通し、スプール収容孔11に流入した作動油を油圧機器へと導く。
【0035】
戻しバルブポート13は、ポンプ吸込通路53の戻し通路部54に開口し、スプール収容孔11に流入した作動油の一部を余剰油として吸込ポート51、52へ還流させる。
【0036】
戻しバルブポート13は、スプール収容孔11の円筒面状の内壁面11aに開口する断面円形の穴であり、スプール41のランド部42が対峙する。戻しバルブポート13は、その開口面積がランド部42によってスプール41のストロークに応じて変えられる。
【0037】
スプール収容孔11の開口端部にプラグ49が螺合して取り付けられる。このプラグ49とスプール41の間にはコイル状のバルブスプリング48が圧縮して介装される。このバルブスプリング48がスプール41を閉弁方向(図4にて右方向)に付勢する。
【0038】
スプール41は、その先端から軸方向に突出するストッパ部43を有し、このストッパ部43がスプール収容孔11の閉塞端面に当接することにより、閉弁方向に移動するストロークが規制される。
【0039】
スプール41の開弁方向は、流量制御バルブ40の開弁作動時にスプール41がその中心軸Sに沿って移動する方向(図4にて左方向)とする。スプール41の閉弁方向は、流量制御バルブ40の閉弁作動時にスプール41がその中心軸Sに沿って移動する方向(図4にて右方向)とする。
【0040】
ポンプ吐出通路29には、出口バルブポートから油圧機器に送られる作動油が通る流量制御絞り(図示せず)と、この流量制御絞りの下流側に生じる圧力がスプール41の背後室47に導く通路(図示せず)が設けられる。スプール41は、流量制御絞りの前後差圧に応動してスプール収容孔11の軸方向に移動し、戻しバルブポート13の開口面積を変える。
【0041】
エンジン回転速度が高まると、ベーンポンプ1から吐出される作動油の流量が増えて、流量制御絞りの前後差圧が高まり、スプール41が開弁方向(図4にて左方向)に移動する。これにより、エンジン回転速度が高まるのに伴って戻しバルブポート13の開口面積が次第に大きくなり、戻しバルブポート13に分流する余剰作動油の流量が増えて、油圧機器に送られる作動油の流量が制御される。
【0042】
ポンプボディ10には、ポンプ吸込通路53として図示しないタンクに連通するタンク通路16が形成される。このタンク通路16はポンプ吸込通路53の戻し通路部54に接続される。
【0043】
上記構成に基づき、戻しバルブポート13から戻し通路部54を通過する余剰作動油流によってタンク通路16から導かれる作動油が戻し通路部54に吸引され、Y字状の分流通路部56を通って吸込ポート51、52へ還流される。
【0044】
戻し通路部54に対するタンク通路16の接続部には断面円形の合流壁部17が形成される。この合流壁部17は、タンク通路16の内壁面と戻し通路部54の内壁面14、15に渡って、これらを部分的に削除するように形成される。
【0045】
合流壁部17が設けられることにより、戻し通路部54に対するタンク通路16の接続部の流路断面積が拡大され、タンク通路16から導かれるタンクからの作動油流が円滑に戻し通路部54を通過する余剰作動油流と合流する。
【0046】
戻しバルブポート13から流出する余剰作動油は、戻し通路部54にてタンク通路16から導かれる作動油と合流した後、ポンプ吸込通路53のY字状に分岐する分流通路部56にて二つの作動油流に分流し、各吸込ポート51、52に吸い込まれる。
【0047】
そして本発明の要旨とするところであるが、ポンプ吸込通路53は、二つの吸込ポート51、52に分流する作動油量を均等化する手段として、戻しバルブポート13から流出する余剰作動油を導く戻し通路部54が、Y字状に分岐する分流通路部56の分流通路上流部56cに対してスプール41の軸方向について閉弁方向(図4にて右方向)にオフセットされ、この戻し通路部54が戻しバルブポート13から流出する余剰作動油流を分流通路部56の分流通路上流部56cの中央部へと導く構成とする。
【0048】
前述したように、ポンプ吸込通路53は、ポンプボディ10に形成される戻し通路部54及びタンク通路16と、ポンプカバー50に形成されるY字状の分流通路部56とから構成される。
【0049】
戻し通路部54は、戻しバルブポート13と同軸上に形成され、筒面状の内壁面15を有する。筒面状の内壁面15は円錐面状の内壁面14を介して戻しバルブポート13に接続される。
【0050】
図4において、中心線Rは、戻しバルブポート13、戻し通路部54の流路中心線である。戻しバルブポート13と戻し通路部54は、それぞれの中心線Rが流量制御バルブ40の中心軸Sに対して略直交するように配置される。
【0051】
戻しバルブポート13と戻し通路部54は、その中心線Rに直交する流路断面が円形に形成されるが、これに限らず、流路断面が円形以外の形状に形成される構成としても良い。
【0052】
戻し通路部54は、中心線Rに直交するその流路断面積が一定の筒面状に形成されるが、これに限らず、例えばその流路断面積が上流側から下流側にかけて次第に拡がるテーパ状に形成しても良い。
【0053】
スプール収容孔11には、戻し通路部54、戻しバルブポート13の延長上に対向ポート19が形成される。戻し通路部54と戻しバルブポート13と対向ポート19は、ドリル加工によって同一工程にて形成される。
【0054】
スプール41は、環状のランド部42と、ランド部42の背後に形成される環状の溝44を有する。
【0055】
流量制御バルブ40の中心軸Sに対して戻しバルブポート13と対向ポート19が対称的に設けられることによって、スプール41に作用する圧力が釣り合い、スプール収容孔11に対するスプール41の摺動が円滑に行われる。
【0056】
図4に示すように、Y字状の分流通路部56の分流通路上流部56cは、駆動シャフト9と平行に延びる中心線Oを中心として直線上に延びる流路として形成される。中心線Oは駆動シャフト9の中心軸と平行に延びる。
【0057】
戻し通路部54の中心線Rに直交する通路断面積は、分流通路上流部56cの中心線Oに直交する通路断面積より小さく形成される。
【0058】
分流通路上流部56cの中心線Oと戻し通路部54の中心線Rは互いに平行に延び、かつ互いにスプール41の中心軸S方向についてオフセット(偏心するように配置)される。
【0059】
戻し通路部54の中心線Rは、分流通路上流部56cの中心線Oに対してスプール41の閉弁方向に所定距離L54だけオフセットされる。
【0060】
戻し通路部54の内壁面15は、戻しバルブポート13から偏って流出する余剰作動油の噴流を当てて戻し通路部54へと向かうように偏向させる対向内壁部15aを有する。
【0061】
対向内壁部15aは、戻し通路部54の内壁面15において、スプール41の開弁方向に位置する部位(図4において左側の部位)である。
【0062】
対向内壁部15aは、分流通路上流部56cの中心線Oに対してスプール41の開弁方向に所定距離L15だけオフセットされる。
【0063】
戻し通路部54のオフセット量L54、オフセット量L15等の寸法はシミュレーション等によって設定され、戻しバルブポート13から偏って流出する余剰作動油の噴流が図4に矢印で示すように対向内壁部15aに当たって分流通路部56の分流通路上流部56cの中央部へと導かれるようになっている。
【0064】
流量制御バルブ40の開度が小さいときに、戻しバルブポート13から流出する余剰作動油の噴流は、図4に矢印で示すように、戻し通路部54の中心線Rに対して傾斜した流れとなる。余剰作動油の噴流の傾き方向は、流量制御バルブ40の開弁作動時にスプール41の中心軸Sについてスプール41が移動する開弁方向(図4にて左方向)になる。こうして戻しバルブポート13から斜め方向に流出する余剰作動油の噴流は、戻し通路部54の対向内壁部15aに当たって、ポンプ吸込通路53の中心線Oに沿う流れに偏向され、分流通路上流部56cの中央部へと導かれる。
【0065】
こうして、上記余剰作動油流の速度分布が分流通路上流部56cにて偏ることが抑えられ、二つの分流通路下流部56a、56bに流入する作動油の流量及び圧力が均等になり、二つの吸込ポート51、52のうち一方の吸込ポートにてキャビテーションが発生することが防止される。
【0066】
図6、図7は、比較例として、本発明の戻し通路部54を備えないベーンポンプ1の断面図である。この図6、図7は、本発明の実施形態を示す図4、図5に対応する。以下、図6、図7に示すベーンポンプ1の動作について説明する。
【0067】
流量制御バルブ40の開度が小さいときに、断面円形の戻しバルブポート13と、スプール41の円柱状をしたランド部42との間に、断面三日月形のオリフィス(流路)が画成されるため、戻しバルブポート13からポンプ吸込通路53に流入する余剰作動油の噴流は、図6に矢印で示すように、ポンプ吸込通路53の中心線Oに対して流量制御バルブ40の開弁作動時にスプール41が移動する開弁方向(図6にて左方向)に傾斜し、ポンプ吸込通路53の内壁面の限られた部位(図6にて左側)に沿ってポンプ吸込通路53へ向かう偏った流れとなる。
【0068】
上記した余剰作動油の噴流の傾きに起因して、一方の分流通路下流部56bに流入する作動油流量が、他方の分流通路下流部56aに流入する作動油流量より大幅に増えると、二つの吸込ポート51、52の間で圧力差が生じ、圧力の低い側の吸込ポート51にてキャビテーションが発生し、ベーンポンプ1の吐出流量の低下を招くばかりか、ベーンポンプ1の振動や騒音を発生する原因になる。
【0069】
以下、本実施形態の要旨及び作用、効果を説明する。
【0070】
本実施形態では、作動流体圧供給源として用いられるベーンポンプ1であって、作動流体を加圧して吐出するベーンポンプ機構6と、このベーンポンプ機構6に吸い込まれる作動流体を導くポンプ吸込通路53と、ベーンポンプ機構6から吐出される作動流体を導くポンプ吐出通路29と、このポンプ吐出通路29に吐出される作動流体の一部を余剰作動流体としてポンプ吸込通路53に還流させる流量制御バルブ40と、を備え、この流量制御バルブ40は、スプール41を収容するスプール収容孔11と、このスプール収容孔11に開口し余剰作動流体を導く戻しバルブポート13と、を備え、ベーンポンプ機構6は作動流体を二つの吸込ポート51、52から吸込む二つの吸込領域を有し、ポンプ吸込通路53は、二つの吸込ポート51、52へと吸入される作動流体を分流する分流通路部56と、戻しバルブポート13から導かれる余剰作動流体を分流通路部56へと導く戻し通路部54と、この戻し通路部54にタンクからの作動流体を導くタンク通路16と、を備え、戻し通路部54は分流通路部56に対してスプール41の閉弁方向(図4にて右方向)にオフセットされ、作動流体が戻し通路部54から分流通路部56の中央部へと導かれる構成とする。
【0071】
上記構成に基づき、流量制御バルブ40の開度が小さいときに、戻しバルブポート13から斜めに流出する余剰作動流体の噴流の向きが、戻し通路部54を通る過程にて戻し通路部54に沿うように偏向されることにより、分流通路部56の中央部へと導かれ、分流通路部56にて二つの吸込ポート51、52へと分流される作動流体の流量及び圧力が均等になることと、ポンプ吸込通路の圧力損失を低減することとを両立できる。
【0072】
これにより、ベーンポンプ1の低回転作動時に一方の吸込ポート51にてキャビテーションが発生することが防止され、ベーンポンプ1の振動や騒音が防止されるとともに、高回転作動時にも作動流体の吸込みが円滑に行われ、ベーンポンプ1の吐出流量の低下が回避される。
【0073】
本実施形態では、分流通路部56は、戻し通路部54が接続する分流通路上流部56cと、この分流通路上流部56cから二つの吸込ポート51、52へと分岐する分流通路下流部56a、56bと、を備え、戻し通路部54は戻しバルブポート13から分流通路上流部56cへと直線状に延び、戻し通路部54の中心線Rが分流通路上流部56cの中心線Oに対してスプール41の閉弁方向(図4にて右方向)にオフセットされる構成とする。
【0074】
上記構成に基づき、流量制御バルブ40の開度が小さいときに、戻しバルブポート13から斜めに流出する余剰作動流体の噴流の向きが、戻し通路部54を通る過程にて戻し通路部54に沿うように偏向されることにより、分流通路上流部56cの中央部へと導かれ、分流通路上流部56cから二つの分流通路下流部56a、56bに分流される作動流体の流量及び圧力が均等になることと、ポンプ吸込通路の圧力損失を低減することとを両立できる。
【0075】
本実施形態では、戻し通路部54は筒面状の内壁面15を有し、この内壁面15は分流通路上流部56cの中心線Oに対してスプール41の開弁方向に配置されて戻しバルブポート13から偏って流出する余剰作動油の噴流に対向する対向内壁部15aを有する構成とした。
【0076】
上記構成に基づき、戻しバルブポート13から流出する余剰作動流体の噴流がスプール41の開弁方向に傾くように流出することに対応して、対向内壁部15aが分流通路上流部56cに対してスプール41の開弁方向にオフセットされるため、戻し通路部54から流出する余剰作動流体の噴流が分流通路上流部56cの流路中心部に向かい、分流通路上流部56cから二つの分流通路下流部56a、56bに分流される作動流体の流量及び圧力が均等になる。
【0077】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のベーンポンプは、車両に搭載される油圧機器に限らず、例えば建設機械、作業機械、他の機械、設備等の負荷を駆動する流体圧供給源として利用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 ベーンポンプ
6 ベーンポンプ機構
11 スプール収容孔
13 戻しバルブポート
15 内壁面
15a 対向内壁部
16 タンク通路
40 流量制御バルブ
41 スプール
51、52 吸込ポート
53 ポンプ吸込通路
54 戻し通路部
56 分流通路部
56a 分流通路下流部
56b 分流通路下流部
56c 分流通路上流部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体圧供給源として用いられるベーンポンプであって、
作動流体を加圧して吐出するベーンポンプ機構と、
前記ベーンポンプ機構に吸い込まれる作動流体を導くポンプ吸込通路と、
前記ベーンポンプ機構から吐出される作動流体を導くポンプ吐出通路と、
前記ポンプ吐出通路に吐出される作動流体の一部を余剰作動流体として前記ポンプ吸込通路に還流させる流量制御バルブと、を備え、
前記流量制御バルブは、
スプールを収容するスプール収容孔と、
前記スプール収容孔に開口し余剰作動流体を導く戻しバルブポートと、を備え、
前記ベーンポンプ機構は作動流体を二つの吸込ポートから吸込む二つの吸込領域を有し、
前記ポンプ吸込通路は、
二つの吸込ポートへと吸入される作動流体を分流する分流通路部と、
前記戻しバルブポートから導かれる余剰作動流体を前記分流通路部へと導く戻し通路部と、
前記戻し通路部にタンクからの作動流体を導くタンク通路と、を備え、
前記戻し通路部は前記分流通路部に対して前記スプールの閉弁方向にオフセットされ、
作動流体が前記戻し通路部から前記分流通路部の中央部へと導かれることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記分流通路部は、
前記戻し通路部が接続する分流通路上流部と、
前記分流通路上流部から前記二つの吸込ポートへと分岐する分流通路下流部と、を備え、
前記戻し通路部は前記戻しバルブポートから前記分流通路上流部へと直線状に延び、
前記戻し通路部の中心線が前記分流通路上流部の中心線に対して前記スプールの閉弁方向にオフセットされることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記戻し通路部は筒面状の内壁面を有し、
前記内壁面は前記分流通路上流部の中心線に対して前記スプールの開弁方向に配置されて前記戻しバルブポートから偏って流出する余剰作動油の噴流に対向する対向内壁部を有することを特徴とする請求項1または2に記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−202299(P2012−202299A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67901(P2011−67901)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】