説明

ポリイミドガス分離膜およびガス分離方法

【課題】エタノールなどの有機化合物の蒸気を含む有機蒸気混合物を蒸気透過法により分離させるガス分離膜として好適な、特に水蒸気透過性、水蒸気と有機蒸気との分離度、水蒸気と有機蒸気とに対する高温耐久性などが改良されたガス分離膜、および、そのガス分離膜に、有機蒸気混合物を接触させて、有機蒸気を分離・回収するガス分離方法を提供すること。
【解決手段】テトラカルボン酸成分が芳香族環を含むテトラカルボン酸類であり、ジアミン成分が、その90〜10モル%が3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(B1)および4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(B2)であり、その10〜90モル%がその他の芳香族ジアミンであり、B1とB2とのモル比(B1/B2)が10/1〜1/10である芳香族ポリイミドで形成されたガス分離膜、および、該ガス分離膜を用いて、有機蒸気混合物から少なくとも1種の有機蒸気を分離・回収するガス分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化学組成を有する芳香族ポリイミドからなる、水蒸気透過速度、水蒸気透過速度と有機蒸気透過速度との比、有機蒸気混合物に対する高温耐久性などが優れているガス分離膜に関する。さらに、そのガス分離膜に、有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を接触させて、少なくとも1種の有機蒸気を分離・回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー源として、バイオマスを発酵させて製造したエタノール水溶液を脱水・精製して得られるバイオエタノールが注目を集めている。ところが、エタノールと水とは、共沸混合物を形成するため、通常の蒸留では96重量%以上に脱水・精製することは不可能である。よって、99重量%以上といった高純度エタノールを得るためには、シクロヘキサンなどのエントレーナーを加えた共沸蒸留法などが行われている。一方、分離膜は、共沸混合物を形成している水とエタノールとの有機蒸気混合物であっても、各成分の透過性の違いを利用し容易に分離することができる。このため、共沸蒸留法よりも省エネルギーシステムを構築することを可能とする手法として、分離膜によりエタノール蒸気と水蒸気とを分離することでエタノール水溶液を脱水して高純度のエタノールを得る方法が期待されている。
【0003】
一般に、ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気分離は、以下のように行われる。有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を、混合ガス導入口からガス分離膜モジュールに供給する。有機蒸気混合物が分離膜に接して流通する間に、分離膜を透過した透過蒸気と、分離膜を透過しなかった非透過蒸気とに分離し、透過蒸気を透過ガス排出口から、非透過蒸気を非透過ガス排出口からそれぞれ回収する。透過蒸気は分離膜の透過速度が速い成分(以下、高透過成分と記載することもある)に富み、非透過蒸気は高透過成分が少なくなる。この結果、有機蒸気混合物は、高透過成分に富んだ透過蒸気と、高透過成分が少ない非透過蒸気とに分離される。
【0004】
特許文献1には、有機物を含む水溶液を気化させて生成させた有機蒸気と水蒸気とを含む気体混合物(有機蒸気混合物)から、水分(水蒸気)を選択的に除去することによって高い濃度の有機溶媒を得るためのガス分離膜脱水プロセス(有機蒸気脱水)にポリイミド製気体分離膜を用いることが提案されている。そして、前記ポリイミド製気体分離膜を形成するポリイミドとして、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸および/もしくは2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸から誘導される芳香族テトラカルボン酸骨格を含み、ジアミン成分とてし、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよびジアミノジフェニルメタンからなる群から選ばれた少なくとも一種のジアミンから誘導される芳香族ジアミン骨格を含む芳香族ポリイミドが開示されている。
しかしながら、ここで示された芳香族ポリイミドからなるポリイミド中空糸膜は、最高の水蒸気透過速度(P’H2O )が、1.47×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHgであり、そのエタノール蒸気に対する水蒸気の分離度(透過速度:P’H2O /P’EtOH)は22に過ぎなかった。また、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸から誘導されるテトラカルボン酸骨格、および3,4’−ジアミノジフェニルエーテル60モル%および4,4’−ジアミノジフェニルエーテル40モル%から誘導されるジアミン骨格を含む芳香族ポリイミドからなるポリイミド中空糸膜は、水蒸気透過速度(P’H2O )が、1.24×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHgであった。
【0005】
特許文献2には、ビフェニルテトラカルボン酸類を主成分とするテトラカルボン酸成分と、2,2−ビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)類を、25〜100モル%含有する芳香族ジアミン成分とを、フェノール系化合物などの有機溶媒中、重合、イミド化して製造された可溶性の芳香族ポリイミドが開示されている。
【0006】
特許文献3には、耐熱性、耐水性、ガス分離性(水蒸気透過性、水−有機物の選択透過性)などが高いレベルにあると共に、特に、水と有機物との混合液に対する高温耐久性に優れているガス分離膜として、ビフェニルテトラカルボン酸類を主成分とするテトラカルボン酸成分と、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)類、および、ジアミノジフェニルエーテル(DADE)類を主成分とするジアミン成分とを共重合して得られた芳香族ポリイミド、ならびに、ビフェニルテトラカルボン酸類を主成分とするテトラカルボン酸成分と、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)類、および、1,3−ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン(TPER)類を主成分とするジアミン成分とを共重合して得られた芳香族ポリイミドを主成分とするガス分離膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−267415号公報
【特許文献2】特開平02−222716号公報
【特許文献3】特開平02−222717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、エタノールなどの有機化合物水溶液の脱水を行う場合には、水蒸気の透過速度が十分でないと、より広面積の分離膜が必要になり、脱水に要する時間が長くなるという問題がある。また、水蒸気とエタノール蒸気などの有機蒸気との分離度が十分でないと、エタノールなどの有機化合物の透過損失が大きくなるという問題がある。すなわち、水蒸気の透過速度と、水蒸気と有機蒸気との分離度は、双方ともに優れていることが求められている。
【0009】
しかしながら、特許文献2および3で示された芳香族ポリイミドからなるポリイミド中空糸膜は、ガス分離性能(水蒸気透過性、水−有機物の選択透過性)が必ずしも十分ではなく、更なる改良が求められていた。なお、特許文献2の実施例には、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸から誘導されるテトラカルボン酸骨格、および3,4’−ジアミノジフェニルエーテル 30モル%および2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン 70モル%から誘導されるジアミン骨格を含む芳香族ポリイミドからなるポリイミド中空糸膜は、耐熱水性は満足できる性能にあるものの、水蒸気透過性および選択透過性が十分でなく、特に水蒸気とエタノール蒸気との選択透過性が、他の実施例のポリイミド中空糸膜と比べて、比較的低い値を示すことが記載されている。また、特許文献3の実施例には、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸から誘導されるテトラカルボン酸骨格、および1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン 50モル%および3,4’−ジアミノジフェニルエーテル 50モル%から誘導されるジアミン骨格を含む芳香族ポリイミドからなるポリイミド中空糸膜は、耐熱水性は満足できる性能にあるものの、水蒸気透過性および選択透過性が十分でなく、特に水蒸気とエタノール蒸気との選択透過性が、他の実施例のポリイミド中空糸膜と比べて、比較的低い値を示すことが記載されている。
【0010】
また、有機蒸気混合物を分離膜に供給する際、効率的に分離を行うために、通常、前記有機蒸気混合物の供給圧力を上昇させる。つまり、ガス分離膜は、恒常的に高温かつ高圧の有機蒸気と接しており、水分を含む液体を分離する場合には、水蒸気とも接することとなる。したがって、高温かつ高圧の有機蒸気や水蒸気に接した状態でも、ガス分離膜が変化しないこと、すなわち水蒸気と有機蒸気とに対する高温耐久性が必要である。
【0011】
すなわち、本発明は、エタノールなどの有機化合物の蒸気を含む有機蒸気混合物を蒸気透過法により分離させるガス分離膜として好適な、特に水蒸気透過性、水蒸気と有機蒸気との分離度、水蒸気と有機蒸気とに対する高温耐久性などが改良されたガス分離膜、および、そのガス分離膜に、有機蒸気混合物を接触させて、有機蒸気を分離・回収するガス分離方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究した結果、テトラカルボン酸成分および芳香族ジアミン成分から得られた芳香族ポリイミドで形成されたガス分離膜において、前記芳香族ジアミン成分として特定の3種類のジアミンを特定の割合で含有する芳香族ポリイミドからなるガス分離膜が、前記目的を達成したものであることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示される反復単位からなる芳香族ポリイミドで形成されたガス分離膜に関する。
【0014】
【化1】

式中、Aは、芳香族環を含む4価の基であり、Bは、その90〜10モル%が、下記化学式(B1)で示される3,4’−ジフェニルエーテル構造に基づく2価の基B1および下記化学式(B2)で示される4,4’−ジフェニルエーテル構造に基づく2価の基B2であり、その10〜90モル%が、芳香族環を含む2価の基B3であり、2価の基B1と2価の基B2とのモル比(B1/B2)が10/1〜1/10である。なお、2価の基B3は、2価の基B1および2価の基B2とは異なる2価の基である。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
また、本発明は、前記一般式(1)中の2価の基B3が、下記化学式(B3)で示される1種以上の2価の基である、前記ガス分離膜に関する。
【0018】
【化4】

式中、Arは、下記化学式(Ar1)、(Ar2)、(Ar3)または(Ar4)で示される2価の基である。
【0019】
【化5】

【0020】
また、本発明は、前記一般式(1)中のAで示される芳香族環を含む4価の基が、下記化学式(A)で示されるビフェニル構造に基づく4価の基である、前記ガス分離膜に関する。
【0021】
【化6】

【0022】
また、本発明は、緻密層と多孔質層とを有する非対称性構造をもつ前記ガス分離膜に関する。
【0023】
また、本発明は、形状が中空糸膜である前記ガス分離膜に関する。
【0024】
また、本発明は、耐溶剤指標が50%以上である前記ガス分離膜に関する。
【0025】
また、本発明は、水蒸気の透過速度P’H2O が、1.0×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg〜10.0×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHgであり、かつ水蒸気の透過速度P’H2O とエタノール蒸気の透過速度P’EtOHとの比(P’H2O /P’EtOH)が100以上である、前記ガス分離膜に関する。
【0026】
さらに、本発明は、有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を、ガス分離膜の供給側に接触させた状態で、高透過成分を選択的に透過させ、ガス分離膜の透過側から高透過成分に富んだ透過蒸気を得、ガス分離膜の供給側から高透過成分が実質的に除去された非透過蒸気を得るガス分離方法において、前記ガス分離膜を用いることを特徴とするガス分離方法に関する。
【0027】
さらに、本発明は、前記有機化合物が、25℃で液体で沸点が200℃以下の有機化合物、好ましくは、前記有機化合物が、炭素数1〜7の低級脂肪族アルコール、炭素数2〜7のエステル類または炭素数3〜6のケトン類である、前記ガス分離方法に関する。
【0028】
さらに、本発明は、前記高透過成分が水蒸気である、前記ガス分離方法に関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明のガス分離膜は、特定の化学組成を有することにより、特に水蒸気透過速度、水蒸気と有機蒸気との分離度、水蒸気と有機蒸気とに対する高温耐久性などが改良されたガス分離膜である。
また、本発明のガス分離方法は、上記の優れた本発明のガス分離膜を使用しているので、有機蒸気分離を、容易に、効率的に長期間行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
まず、本発明のガス分離膜について説明する。
本発明のガス分離膜を形成する前記一般式(1)で示される反復単位からなる芳香族ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸類を含むテトラカルボン酸成分と、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34DADE)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(44DADE)およびその他の芳香族ジアミンからなるジアミン成分とを、フェノール系化合物などの有機溶媒中、重合、イミド化して製造することができる芳香族ポリイミドである。なお、その他の芳香族ジアミンは、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとは異なる芳香族ジアミンである。
【0031】
前記一般式(1)において、Bで示されるジアミン残基の90〜10モル%、好ましくは80〜20モル%、より好ましくは70〜30モル%、特に好ましくは60〜40モル%が、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルにより導入された2価の基B1および4,4’−ジアミノジフェニルエーテルにより導入された2価の基B2であり、残りが、その他の芳香族ジアミンにより導入された2価の基B3である。
2価の基B1および2価の基B2が合計で90モル%を超えると、高温耐久性が不十分になりがちであるため好ましくなく、また10モル%未満であると、透過分離性能が低くなりがちであるため好ましくない。
【0032】
また、前記一般式(1)において、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルにより導入された2価の基B1と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルにより導入された2価の基B2とのモル比(B1/B2)は、10/1〜1/10、好ましくは8/1〜1/8、より好ましくは6/1〜1/6、特に好ましくは5/1〜1/5である。
B1/B2が10/1より大きい、もしくは、1/10より小さいと、透過分離性能が低くなりがちであるため好ましくない。
【0033】
前記一般式(1)において、2価の基B3は、下記化学式(B3)で示される1種以上の2価の基であることが好ましい。
【0034】
【化7】

式中、Arは、下記化学式(Ar1)、(Ar2)、(Ar3)または(Ar4)で示される2価の基である。
【0035】
【化8】

【0036】
芳香族ポリイミドに2価の基B3を導入するためのその他の芳香族ジアミンとしては、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)類、ビス(アミノフェノキシ)ナフタリン(APN)類、ビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)類、ビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)類、ビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン(BAPS)類、ビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ビフェニル(BAPB)類、ジアミノジフェニルメタン(DADM)類などを使用することができる。その中でも、前記化学式(B3)で示される2価の基が芳香族ポリイミドに導入される、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス〔(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ナフタリンが好ましい。
【0037】
前記一般式(1)において、Aで示される芳香族環を含む4価の基は、下記化学式(A)で示されるビフェニル構造に基づく4価の基であることが好ましい。
【0038】
【化9】

【0039】
芳香族ポリイミドに芳香族環を含む4価の基Aを導入するための芳香族テトラカルボン酸類としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、および、それらの酸二水物や酸エステル化物などのビフェニルテトラカルボン酸類が好ましく、特に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二水物が好ましい。
芳香族ポリイミドの製造に用いられるテトラカルボン酸成分としては、前記のビフェニルテトラカルボン酸類のほかに、ピロメリット酸類、ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸類、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸類、2,2−ビス(ジカルボキシフェニル)プロパン類、2,2−ビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン類、2,2−ビス〔(ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン類、2,2−ビス〔(ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン類、および、それらの酸二水物や酸エステル化物などを、少ない割合(好ましくは、テトラカルボン酸成分中20モル%以下、特に10モル%以下の割合)で使用することができる。
【0040】
本発明のガス分離膜は、水蒸気の透過速度P’H2O が、1.0×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg以上であることが好ましく、1.5×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg以上であることがより好ましく、2.0×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg以上であることがさらに好ましい。水蒸気の透過速度の上限は、10.0×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg程度であり、通常は6.0×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg以下である。
有機物水溶液から連続的に水蒸気を除去するには、水蒸気の透過速度が大きいことが望ましい。水蒸気の透過速度が前記の値を下回る場合には、水蒸気除去に要する時間を長くしたり、水蒸気除去に用いる膜面積を大きくする必要があるため、工業的な実施に著しく不利となる。
【0041】
また、本発明のガス分離膜は、水蒸気の透過速度P’H2O とエタノール蒸気の透過速度P’EtOHとの比(P’H2O /P’EtOH)(水蒸気とエタノール蒸気との分離度)が100〜10000であることが好ましく、150以上であることがより好ましく、200以上であることがさらに好ましく、250以上であることが特に好ましい。水蒸気とエタノール蒸気との分離度が前記の値を下回る場合には、有機物蒸気の透過損失が大きくなり、工業的に不利である。
【0042】
また、本発明のガス分離膜は、例えば、厚さ0.01〜5μmの緻密層と、厚さ10〜200μmの多孔質層とを有する非対称性構造をもつ分離膜であることが好ましい。その中でも緻密層と多孔質層とを連続的に有することが好ましい。また、分離膜の形状には特に制限はないが、有効表面積が広く、耐圧性が高いという利点を持つため、中空糸膜が好ましい。
【0043】
また、本発明のガス分離膜は、耐溶剤指標が50%以上であることが好ましい。本発明における耐溶剤指標とは、ガス分離膜を150℃の60重量%のエタノール水溶液中に20時間浸漬処理し、その処理前後のガス分離膜の破断伸度の変化を調べ、処理後の破断伸度の処理前の破断伸度に対する割合のことである。有機物水溶液蒸気から連続的に水蒸気を除去するためには、高温の有機蒸気および水蒸気に対する安定性が必要である。
耐溶剤指標が高いことは、高温の有機蒸気および水蒸気が存在する環境においても、ガス分離膜が変化しないことを示している。
【0044】
本発明のガス分離膜は、芳香族ポリイミドとして、前記一般式(1)で示される反復単位からなる芳香族ポリイミドを用いる以外は、従来の芳香族ポリイミド製のガス分離膜の製造方法に準じて製造することができる。例えば、中空糸膜のガス分離膜は以下のようにして製造することができる。
【0045】
(芳香族ポリイミド溶液の調製)
ガス分離膜を形成する芳香族ポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との略等モルを、有機溶媒中で重合・イミド化反応させて、ポリイミド溶液として得ることができる。
【0046】
重合・イミド化反応は、有機溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、室温程度の低温で重合反応させてポリアミド酸を生成し、次いで100〜250℃、好ましくは130〜200℃程度に加熱して加熱イミド化する、もしくはピリジンや無水酢酸などを加えて化学イミド化する2段法、または、有機溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、100〜250℃、好ましくは130〜200℃程度の高温で重合・イミド化反応させる1段法によって好適に行われる。加熱によってイミド化反応を行うときは脱離する水またはアルコールを除去しながら行うことが好適である。有機溶媒に対するテトラカルボン酸成分とジアミン成分の使用量は、溶媒中のポリイミドの濃度が5〜50重量%程度、好ましくは5〜40重量%となる量にするのが好適である。
【0047】
重合・イミド化反応で得られたポリイミド溶液は、そのまま用いることもできる。また、例えば、得られたポリイミド溶液をポリイミドに対し非溶解性の溶媒中に投入してポリイミドを析出させて単離後、改めて有機溶媒に所定濃度になるように溶解させてポリイミド溶液を調製し、それを用いることもできる。
【0048】
ポリイミドを溶解する有機溶媒としては、得られる芳香族ポリイミドを好適に溶解できるものであれば限定されるものではないが、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノールのようなフェノール類、2個の水酸基をベンゼン環に直接有するカテコール、レゾルシンのようなカテコール類、3−クロルフェノール、4−クロルフェノール(後述のパラクロロフェノールに同じ)、3−ブロムフェノール、4−ブロムフェノール、2−クロル−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノール類などからなるフェノール系溶媒、またはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類からなるアミド系溶媒、あるいはそれらの混合溶媒などを好適に挙げることができる。
【0049】
(芳香族ポリイミド溶液の中空糸化)
本発明の非対称膜(緻密層と多孔質層とを有する非対称性構造をもつガス分離膜)は、ポリイミド溶液を用いて、相転換法によって得ることができる。相転換法は、ポリマー溶液を凝固液と接触させて相転換させながら膜を形成する公知の方法である。本発明ではいわゆる乾湿式法が好適に採用される。乾湿式法は、膜形状にしたポリマー溶液の表面の溶媒を蒸発させて薄い緻密層を形成し、次いで凝固液(ポリマー溶液の溶媒とは相溶し、ポリマーは不溶な溶剤)に浸漬し、その際生じる相分離現象を利用して微細孔を形成して多孔質層を形成させる相転換法であり、Loebらが提案(例えば、米国特許第3133132号明細書を参照)したものである。
本発明の非対称膜は、乾湿式紡糸法を採用することによって、中空糸膜として好適に得ることができる。乾湿式紡糸法は、紡糸ノズルから吐出して中空糸状の目的形状としたポリマー溶液に乾湿式法を適用して非対称中空糸膜を製造する方法である。より詳しくは、ポリマー溶液をノズルから中空糸状の目的形状に吐出させ、吐出直後に空気または窒素ガス雰囲気中を通した後、ポリマー成分を実質的には溶解せず且つポリマー溶液の溶媒とは相溶性を有する凝固液に浸漬して非対称構造を形成し、その後乾燥し、さらに必要に応じて加熱処理して分離膜を製造する方法である。紡糸ノズルは、ポリイミド溶液を中空糸状体として押し出すものであればよく、チューブ・イン・オリフィス型ノズルなどが好適である。通常、押し出す際のポリイミド溶液の温度範囲は約20℃〜150℃、特に30℃〜120℃が好適である。また、ノズルから押し出される中空糸状体の内部へ気体または液体を供給しながら紡糸が行われる。
【0050】
本発明においては、ノズルから吐出されるポリイミド溶液は、ポリイミドの濃度が5〜40重量%、さらには8〜25重量%になるようにするのが好ましく、100℃での溶液粘度(回転粘度)が300〜20000poise、好ましくは500〜15000poise、特に1000〜10000poiseであることが好ましい。凝固液への浸漬は、一次凝固液に浸漬して中空糸状などの膜の形状が保持できる程度に凝固した後、案内ロールに巻き取られ、次いで二次凝固液に浸漬して膜全体を十分に凝固させることが好ましい。凝固液は、特に限定するものではないが、水や、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどの低級アルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどの低級アルキル基を有するケトン類など、あるいは、それらの混合物が好適に用いられる。凝固した膜の乾燥は炭化水素などの溶媒を用いて凝固液と置換した後乾燥する方法が効率的である。加熱処理は用いられている多成分のポリイミドの各成分ポリマーの軟化点または二次転移点よりも低い温度で実施されることが好ましい。
【0051】
次に、本発明のガス分離膜を用いた本発明のガス分離方法について説明する。
本発明のガス分離方法においては、本発明のガス分離膜の一方の側に、有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物(原料ガス)を、好ましくは70℃以上、より好ましくは80〜200℃、特に好ましくは100〜160℃の温度で接触させて、高透過成分を選択的に透過させ、ガス分離膜の透過側から『高透過成分に富んだ有機蒸気』を得、一方ガス分離膜の非透過側(原料ガスの供給側)から『高透過成分が実質的に除去された有機蒸気』を得て、前記有機蒸気混合物のガス分離を行うものである。
【0052】
本発明においては、ガス分離膜の供給側と透過側との高透過成分の分圧差を確保するために、例えば、ガス分離膜の透過側を減圧に保持することが好ましい。より好ましくは、透過側の圧力を1〜500mmHgの減圧下に制御する。ガス分離膜の透過側を減圧に保持することによって、高透過成分を選択的にできるだけ速く透過させ、ガス分離膜の供給側に供給された原料ガスの有機蒸気混合物から、高透過成分を選択的に除去することが容易になる。その場合、前記の減圧の程度が高いほど蒸気の透過速度が大きい。
【0053】
ガス分離膜の供給側と透過側との高透過成分の分圧差を確保するために、前記透過側を減圧に保持する手段のほかに、供給側の圧力を高圧に保持する、乾燥状態の気体をキャリアガスとして透過側に流通させるなどの手段が挙げられる。該手段は特に限定されるものではなく、2つ以上の手段を同時に用いても構わない。
【0054】
本発明のガス分離方法においては、ガス分離膜へ供給する有機蒸気混合物の圧力を、常圧または加圧下で行うことができる。特に好ましくは有機蒸気混合物の圧力を0.1〜2MPaG、さらに好ましくは0.15〜1MPaGの加圧下で行う。また、ガス分離膜の透過側の圧力は、加圧、常圧または減圧下で行うことができるが、特に減圧下で行われることが好ましい。
【0055】
また、本発明のガス分離方法においては、ガス分離膜の透過側に乾燥状態の気体をキャリアガスとして流通させながら、ガス分離を行うことが、水蒸気を選択的に透過除去することが容易になるので好適である。前記キャリアガスは、高透過成分を含まないか、少なくとも高透過成分の分圧が非透過ガスより小さい濃度であるガスであれば特に制限はなく、例えば、窒素、空気などが使用できる。窒素はガス分離膜の透過側空間から供給側空間への逆浸透が起こりにくく、不活性であるために、防災上も好ましいキャリアガスである。そのほか、高透過成分を分離した非透過ガスの一部をキャリアガス導入口に循環し、キャリアガスとして使用することも好適である。
【0056】
原料ガスの有機蒸気混合物は、どのような方法で製造されたものであってもよいが、一般的には、有機化合物の水溶液を、該有機化合物の沸点または共沸温度より高い温度に加熱して、蒸発させることによって得ることができる。有機蒸気混合物は、前記の有機化合物の水溶液などの「有機化合物を含む液体混合物」を蒸発(蒸留)装置などによって加熱蒸発させて、常圧状態乃至0.1〜2MPaG程度の加圧状態の有機蒸気混合物として、本発明のガス分離膜を用いた有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される。加圧状態の有機蒸気混合物は、加圧蒸発器で直接加圧状態の有機蒸気混合物を得ても良いし、常圧蒸留器で得られた常圧状態の有機蒸気混合物をベーパーコンプレッサーによって加圧することで得ても構わない。
【0057】
また、有機蒸気混合物は、有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給され中空糸内部を流通して非透過ガス排出口から排出されるまでの間で凝縮しない程度以上に十分高温に加熱された有機蒸気混合物として供給されることが好ましい。
【0058】
本発明のガス分離膜を用いた有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される有機蒸気混合物は、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上の温度に加熱されたものである。
【0059】
前記の有機蒸気混合物は、その有機蒸気の濃度が特に限定されるものではないが、本発明では、有機蒸気の濃度が50重量%以上、特に70〜99.8重量%程度であることが好ましい。
【0060】
前記の有機蒸気となる有機化合物としては、沸点0℃以上200℃以下、好ましくは常温(25℃)で液体で且つ沸点が150℃以下の有機化合物がよい。該有機化合物の沸点が0℃以上200℃以下であるのは、中空糸膜の使用温度範囲、有機蒸気混合物を過熱蒸気化するための設備、精製分離成分を凝集し回収するための設備や取扱いの容易さを考慮したときに実用的だからである。
【0061】
このような有機化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコールなどの炭素数が1〜6の低級脂肪族アルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機カルボン酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチルなどの炭素数が2〜7のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、3−ヘキサノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ピナコリンなどの炭素数3〜7の脂肪族ケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル、および、ジブチルアミン、アニリンなどの有機アミン類を挙げることができる。
【0062】
本発明のガス分離方法は、特に、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数が1〜6の低級脂肪族アルコール水溶液を蒸発して得られた『水蒸気とアルコール蒸気とからなる有機蒸気混合物』を脱水して高純度のアルコール蒸気を得る場合に好適に採用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によって更に詳しく説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
以下の各例で用いた化学物質の略号は次のとおりである。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
6FDA:2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物
DSDA:3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物
34DADE:3,4’−ジアミノジフェニルエーテル
44DADE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
TPEQ:1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
HFBAPP:2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン
BAPP:2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン
APN:1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ナフタリン
【0065】
(実施例1)
(芳香族ポリイミド溶液の調製)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)100モル%からなるテトラカルボン酸成分28.9gと、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34DADE)20モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(44DADE)20モル%および1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)60モル%からなるジアミン成分25.5gとを、パラクロロフェノール(PCP)248gとともに、加熱装置と攪拌機と窒素ガス導入管および排出管とが付設されたセパラブルフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気中で攪拌しながら、190℃の温度で10時間重合することにより、PCP中のポリイミドの固形分濃度(ドープ濃度)が17重量%である芳香族ポリイミドのPCP溶液を調製した。この芳香族ポリイミド溶液の100℃での粘度は2000poiseであった。なお、この溶液粘度は、回転粘度計(ローターのずり速度1.75sec-1)を用いて温度100℃で測定した値である。
【0066】
(芳香族ポリイミド製の中空糸膜の紡糸)
前記芳香族ポリイミドのPCP溶液を400メッシュのステンレス製金網でろ過して、紡糸用ドープとした。このドープを中空糸紡糸ノズルを備えた紡糸装置に仕込み、中空糸紡糸ノズルから窒素雰囲気中に中空糸状に吐出させ、次いで中空糸状成形物を75重量%エタノール水溶液からなる一次凝固浴に浸漬し、更に一対の案内ロールを備えた二次凝固浴(凝固液:75重量%エタノール水溶液)中の案内ロール間を往復させて凝固を完了させ、湿潤状態の非対称構造をもつ中空糸膜をボビンに巻き取った。この非対称中空糸膜をエタノール中で十分洗浄し、次いでイソオクタンでエタノールを置換した後、100℃でイソオクタンを蒸発乾燥した。さらに220℃〜270℃で加熱処理を行い、芳香族ポリイミドによって構成された非対称中空糸膜(外径:約500μm、内径:約300μm)を得た。
【0067】
(中空糸膜の破断伸度の測定)
引張試験機を用いて中空糸の破断伸度を調べた。有効長20mm、引張速度10mm/分で測定した。測定は23℃で行った。
【0068】
(中空糸膜の耐溶剤性(有機化合物に対する耐性)の評価法)
中空糸膜を、密閉容器を用い、150℃の60重量%のエタノール水溶液中に20時間浸漬処理し、その処理前後の中空糸膜の破断伸度の変化を調べ、処理後の破断伸度の処理前の破断伸度に対する割合を、中空糸膜の耐溶剤指標とした。その結果を下記表1に示す。
【0069】
(ガス分離膜モジュールの製造)
前述のようにして製造した中空糸膜6本を束ね裁断して中空糸膜の糸束を形成し、その糸束の一方の端を中空糸端部が開口するようにエポキシ樹脂で固着し、他方の端を中空糸端部が閉塞されるようにエポキシ樹脂で固着して中空糸膜エレメントを製造した。次いで、『原料の混合ガス供給口、透過ガス排出口、および非透過ガス排出口を有する容器』に前記糸束エレメントを内設して、『中空糸膜の有効長さ:約8.0cm、および、有効面積約7.5cm2 である糸束エレメント』を内蔵するガス分離膜モジュールを製造した。
【0070】
(エタノール蒸気分離性能の測定方法)
60重量%濃度のエタノール水溶液を大気圧下において蒸発器で気化させて『エタノール蒸気と水蒸気とを含む有機蒸気混合物』を製造し、さらに、ヒーターで加熱することにより100℃とした前記有機蒸気混合物を、前記のガス分離膜モジュールに供給し、前記糸束エレメントを構成している中空糸膜の外側の表面(中空糸膜の供給側)に接触させ、中空糸膜の内側(中空糸膜の透過側)を3mmHgの減圧に維持して、有機蒸気分離を行った。
【0071】
前述の有機蒸気分離において、透過ガス排出口から得られた『水蒸気の濃度の高い透過ガス』を、約−50℃の冷却トラップで凝縮して、凝縮物を捕集し、一方、中空糸膜の非透過ガス排出口(供給側)から得られた未透過ガス(水蒸気の除去された乾燥ガス)は、前記蒸発器に戻し、循環して使用しながら、有機蒸気混合物のガス分離を行った。尚、有機蒸気混合物の組成が測定値に影響を与えるほど変化しないように、サンプルの中空糸膜を透過する有機蒸気量に比べて大過剰量のエタノール水溶液を用いた。
【0072】
前記のトラップで捕集した凝縮物の重量を測定すると共に、水およびエタノールの濃度をガスクロマトグラフィー分析法により分析することにより透過した水蒸気およびエタノール蒸気の量を求めた。
【0073】
前述のようにして得た各成分蒸気の透過量から、水蒸気の透過速度P’H2O と、エタノール蒸気に対する水蒸気の分離度(α:P’H2O /P’EtOH)とを算出し、気体分離性能を評価した。その結果を下記表1に示す。透過速度(P’)の単位は10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHgである。
【0074】
(実施例2〜15および比較例1〜7)
下記表1に示す種類と組成とを有するジアミン成分およびテトラカルボン酸成分を使用し、実施例1と同様にして、芳香族ポリイミドのPCP溶液をそれぞれ調製した。これらの各芳香族ポリイミド溶液の固形分濃度(ドープ濃度)および100℃での粘度を下記表1に示す。
これらの各芳香族ポリイミド溶液を使用し、実施例1と同様にして、非対称中空糸膜を作製し、該中空糸膜からガス分離膜モジュールをそれぞれ製造した。
これらの各ガス分離膜モジュールについて、実施例1と同様にして、蒸気透過性能〔水蒸気の透過速度P’H2O と、エタノール蒸気に対する水蒸気の分離度(α:P’H2O /P’EtOH〕を評価した。さらに、中空糸の破断伸度および耐溶剤指標を評価した。その結果を下記表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
(比較例8)
s−BPDA 100モル%からなるテトラカルボン酸成分28.95gと、TPEQ100モル%からなるジアミン成分29.23gとを、PCP 210gとともに、加熱装置と攪拌機と窒素ガス導入管および排出管とが付設されたセパラブルフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気中で攪拌しながら、190℃の温度で10時間重合したが、固形分が析出し、均一な芳香族ポリイミド溶液を得ることができなかったため、中空糸を紡糸することができなかった。
【0077】
(比較例9)
s−BPDA 100モル%からなるテトラカルボン酸成分28.95gと、34DADE 100モル%からなるジアミン成分20.02gとを、PCP 210gとともに、加熱装置と攪拌機と窒素ガス導入管および排出管とが付設されたセパラブルフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気中で攪拌しながら、190℃の温度で10時間重合したが、重合が十分に進行せず、芳香族ポリイミド溶液の粘度が十分に上がらなかったため、中空糸を紡糸することができなかった。
【0078】
(比較例10)
s−BPDA 100モル%からなるテトラカルボン酸成分28.95gと、44DADE 100モル%からなるジアミン成分20.02gとを、PCP 210gとともに、加熱装置と攪拌機と窒素ガス導入管および排出管とが付設されたセパラブルフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気中で攪拌しながら、190℃の温度で10時間重合することにより、PCP中のポリイミドの固形分濃度が17重量%である芳香族ポリイミドのPCP溶液を調製した。この芳香族ポリイミド溶液の100℃での粘度は1800poiseであった。この芳香族ポリイミド溶液を紡糸したが、乾燥処理時に中空糸が著しく収縮した。この中空糸を使用し、実施例1と同様にして、ガス分離膜モジュールを製造し、水蒸気の透過速度P’H2O の測定を行ったところ、水蒸気は殆ど透過しなかった。
【0079】
(実施例16)
実施例1で作製した中空糸膜を用い、メタノールと水の分離透過性能を評価した。分離ターゲットをメタノールと水蒸気とを含む混合蒸気とした以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜の分離透過性能を調べたところ、水蒸気の透過速度P’H2O は1.38×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg、メタノール蒸気に対する水蒸気の分離度は24であった。
【0080】
(実施例17)
実施例1で作製した中空糸膜を用い、イソプロピルアルコールと水の分離透過性能を評価した。分離ターゲットをイソプロピルアルコールと水蒸気とを含む混合蒸気とした以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜の分離透過性能を調べたところ、水蒸気の透過速度P’H2O は2.45×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg、イソプロピルアルコール蒸気に対する水蒸気の分離度は2000以上であった。
【0081】
(実施例18)
実施例1で作製した中空糸膜を用い、酢酸エチルと水の分離透過性能を評価した。分離ターゲットを酢酸エチルと水蒸気とを含む混合蒸気とした以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜の分離透過性能を調べたところ、水蒸気の透過速度P’H2O は3.35×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg、酢酸エチル蒸気に対する水蒸気の分離度は2000以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される反復単位からなる芳香族ポリイミドで形成されたガス分離膜。
【化1】

式中、Aは、芳香族環を含む4価の基であり、Bは、その90〜10モル%が、下記化学式(B1)で示される3,4’−ジフェニルエーテル構造に基づく2価の基B1および下記化学式(B2)で示される4,4’−ジフェニルエーテル構造に基づく2価の基B2であり、その10〜90モル%が、芳香族環を含む2価の基B3であり、2価の基B1と2価の基B2とのモル比(B1/B2)が10/1〜1/10である。
【化2】

【化3】

【請求項2】
前記一般式(1)中の2価の基B3が、下記化学式(B3)で示される1種以上の2価の基である、請求項1記載のガス分離膜。
【化4】

式中、Arは、下記化学式(Ar1)、(Ar2)、(Ar3)または(Ar4)で示される2価の基である。
【化5】

【請求項3】
前記一般式(1)中のAで示される芳香族環を含む4価の基が、下記化学式(A)で示されるビフェニル構造に基づく4価の基である、請求項1または2記載のガス分離膜。
【化6】

【請求項4】
緻密層と多孔質層とを有する非対称性構造をもつ分離膜である、請求項1〜3のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項5】
形状が中空糸膜である、請求項1〜4のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項6】
水蒸気の透過速度P’H2O が、1.0×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHg〜10.0×10-3cm3 (STP)/cm2 ・sec・cmHgであり、かつ水蒸気の透過速度P’H2O とエタノール蒸気の透過速度P’EtOHとの比(P’H2O /P’EtOH)が100以上である、請求項1〜5項のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項7】
耐溶剤性指標が50%以上である、請求項1〜6のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項8】
有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物を、ガス分離膜の供給側に接触させた状態で、高透過成分を選択的に透過させ、ガス分離膜の透過側から高透過成分に富んだ透過蒸気を得、ガス分離膜の供給側から高透過成分が実質的に除去された非透過蒸気を得るガス分離方法において、請求項1〜7のいずれかに記載のガス分離膜を用いることを特徴とするガス分離方法。
【請求項9】
前記有機化合物が、沸点が0℃以上200℃以下である、請求項8記載のガス分離方法。
【請求項10】
前記有機化合物が、炭素数1〜6の低級脂肪族アルコール、炭素数3〜6の脂肪族ケトン類または、炭素数2〜7のエステル類である、請求項8または9記載のガス分離方法。
【請求項11】
前記高透過成分が水蒸気である、請求項8〜10のいずれかに記載のガス分離方法。

【公開番号】特開2009−208071(P2009−208071A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24079(P2009−24079)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】