説明

ポリイミドフィルムおよびポリイミドフィルムの製造方法

【課題】 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とから得られる、生産性に優れたポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,4−トルエンジアミンとから得られるポリイミド成分(A)を3モル%以上35モル%未満の範囲でランダム共重合またはブロック共重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産性に優れたポリイミドフィルムおよびポリイミドフィルムの製造方法に関する。また、本発明は、ポリイミドフィルムの優れた特性を保持しつつ、接着性にも優れたポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れていることから、電気・電子デバイス分野、半導体分野などの分野で広く使用されている。例えば、フレキシブルプリント配線板(FPC)としては、ポリイミドフィルムの片面または両面に銅箔を積層してなる銅張り積層基板が使用されている。
【0003】
FPC用フィルム等として好適なポリイミドフィルムとして、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分とパラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とから熱イミド化によって製造されるポリイミドフィルムがある(特許文献1など)。
【0004】
従来、ポリイミドフィルムは、次のようにして製造されている。
【0005】
まず、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で反応させて、ポリイミド前駆体溶液を調製する。次いで、このポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)にまで、例えば100〜180℃で2〜60分間程度加熱してポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを製造する。次に、必要に応じて、ポリイミドフィルムの接着性を改良するために、ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムの表面にカップリング剤の溶液を塗布する。そして、これを加熱、イミド化してポリイミドフィルムを製造する。
【0006】
生産性の点からは、ポリイミド前駆体の溶液は溶媒量が少なく高濃度のものを用いることにより、自己支持性フィルムを得るための溶媒除去(乾燥)に必要な熱エネルギーと加熱時間を減少させることができるので、好ましい。しかしながら、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとから得られるポリイミド前駆体の溶液は、高濃度になると、溶液の保存安定性が低下し、長時間放置するとゲル化することがある。
【0007】
また、生産性の点からは、単位時間当たりの生産量の増加を目的として、より高速で自己支持性フィルムの製膜を行うことが好ましい。しかしながら、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとから得られるポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムの場合、高速で製膜を行うと、得られる自己支持性フィルムの初期弾性率などの物性が低下し、ハンドリング性が低下する傾向がある。また、得られるポリイミドフィルムが脆弱化したり、発泡したり、フィルム中に結晶が生成したりして特性が低下することがある。
【0008】
また一方で、ポリイミドフィルムは、一般に、接着性に問題があり、エポキシ樹脂系接着剤などの耐熱性接着剤を介して銅箔などの金属箔と接合した場合、十分な剥離強度を有する積層体が得られないことがある。
【0009】
例えば、特許文献1に記載のポリイミドフィルムでは、ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルム(固化フィルム)の表面に、耐熱性表面処理剤(カップリング剤)を含有する表面処理液を塗布することにより、ポリイミドフィルムの接着性を改良している。このように、カップリング剤を塗布する必要のない、優れた接着性を有するポリイミドフィルムが求められている。
【0010】
ところで、特許文献2には、液晶配向膜等に用いられる無色透明なポリイミド成形体として、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2個のアミノ基が相互にメタ位に位置する芳香族ジアミンとの反応によって得られるポリイミド、例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,4−トルエンジアミンとの反応によって得られるポリイミドフィルムが開示されている。
【0011】
特許文献3には、液晶表示素子の液晶配向膜に用いられるポリイミドとして、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族4核体ジアミンとに由来する反覆単位を81〜51モル%、芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノシロキサンとに由来する反覆単位を1〜4モル%、芳香族テトラカルボン酸二無水物と2,4−トルエンジアミンとに由来する反覆単位を18〜45モル%含有する溶剤可溶性ポリイミドが開示されており、芳香族テトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられている。また、トルエンジアミンがポリイミドに対して優れた溶解性を付与することが記載されている。
【特許文献1】特公平6−2828号公報
【特許文献2】特開昭62−13436号公報
【特許文献3】特開昭61−240223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとに由来する構成単位を主たる構成単位とする、生産性に優れたポリイミドフィルム、およびポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、ポリイミドフィルムの優れた特性を保持しつつ、接着性にも優れたポリイミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の事項に関する。
【0015】
1. 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミドフィルムであって、
前記芳香族ジアミン成分100モル%中、2,4−トルエンジアミンが3モル%以上35モル%未満の範囲で含まれることを特徴とするポリイミドフィルム。
【0016】
2. 前記芳香族ジアミン成分100モル%中、2,4−トルエンジアミンが5モル%〜30モル%の範囲で含まれることを特徴とする上記1記載のポリイミドフィルム。
【0017】
3. 厚みが3〜250μmである上記1または2記載のポリイミドフィルム。
【0018】
4. 厚みが75〜250μmである上記1または2記載のポリイミドフィルム。
【0019】
5. 上記1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルムを製造する方法であって、
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から主として成る芳香族テトラカルボン酸成分と、65モル%以上97モル%未満のパラフェニレンジアミンおよび3モル%以上35モル%未満の2,4−トルエンジアミンから成る芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミド前駆体の溶液を支持体上に流延塗布し、加熱してポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを製造する工程と、
この自己支持性フィルムを加熱、イミド化する工程と
を有するポリイミドフィルムの製造方法。
【0020】
6. 支持体上に流延塗布するポリイミド前駆体の溶液の固形分濃度が18〜30質量%である上記5記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0021】
7. 製造する自己支持性フィルムの初期弾性率が500MPa以上である上記5または6記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0022】
8. 上記1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルムに接着剤層あるいは熱圧着性層を介して銅箔を積層してなる銅積層ポリイミドフィルム。
【0023】
9. 90度剥離強度が0.3N/mm以上である上記8記載の銅積層ポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリイミドフィルムは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,4−トルエンジアミンとから得られるポリイミド成分(A)が3モル%以上35モル%未満、好ましくは5モル%〜30モル%、より好ましくは7モル%〜25モル%の範囲でランダム共重合またはブロック共重合されているものである。本発明のポリイミドフィルムは、ポリイミド成分(A)を含まないものと比べて、(1)高濃度のポリイミド前駆体溶液を製造することができ、(2)さらに高濃度の溶液を使用して、より速い製膜速度で自己支持性フィルムを製造することができる。しかも、高速で自己支持性フィルムの製膜を行っても、得られるポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムおよびポリイミドフィルムの優れた特性が保持される。
【0025】
本発明のポリイミドを与えるポリイミド前駆体の溶液は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとから得られるポリイミド前駆体の溶液と比較して、高濃度であっても安定で、長期間保存してもゲル化することがないか、ゲル化しにくい。そのため、自己支持性フィルムの製造に高濃度のポリイミド前駆体溶液を使用することができ、自己支持性フィルムを得るための溶媒除去(乾燥)に必要な熱エネルギーと加熱時間を減少させることができる。
【0026】
また、ポリイミド成分(A)を含む本発明のポリイミドフィルムの場合、高速でポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムの製膜を行っても、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとから得られるポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムと比較して、得られる自己支持性フィルムの初期弾性率などの引張物性の低下は小さい。特に高濃度のポリイミド前駆体の溶液を使用したときに、高速で製膜しても、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとから得られるポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムと比較して、十分な引張物性を有する自己支持性フィルムが得られる。そのため、得られる自己支持性フィルムのハンドリング性を損なうことなく、より速い製膜速度で、自己支持性フィルムを製造することができる。
【0027】
厚いポリイミドフィルムに限らず、例えば厚みが3μm程度の薄いポリイミドフィルムを製造する場合においても、本発明によれば、高濃度のポリイミド前駆体の溶液を使用でき、自己支持性フィルムを高速製膜することができるので、生産性を向上させることができるが、特に厚みが50μm以上、好ましくは75μm以上の厚いポリイミドフィルムを製造する場合に、生産性向上の効果がより顕著に得られる。
【0028】
ポリイミド成分(A)としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,4−トルエンジアミンとから得られるものが好ましい。2,4−トルエンジアミンを用いることにより、得られるポリイミドフィルムの接着性が向上する。さらに、得られるポリイミドフィルムの水蒸気透過性が向上し、着色が低減することも期待できる。上記の通り、生産性向上の効果は厚いポリイミドフィルムでより顕著に得られるが、この接着性向上の効果は、厚いポリイミドフィルムに限らず、厚みが3μm程度の薄いポリイミドフィルムでも優れた接着性を有するものが得られる。
【0029】
本発明では、ポリイミド成分(A)の含有量が3モル%以上35モル%未満、好ましくは5モル%〜30モル%、より好ましくは7モル%〜25モル%であることも必要である。ポリイミド成分(A)の含有量が3モル%未満であれば、生産性向上・接着性向上の効果が十分には現れず、35モル%以上であれば、得られるポリイミドフィルムの物性が低下してくることがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明のポリイミドフィルムは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、2,4−トルエンジアミンを3モル%以上35モル%未満の範囲で含むパラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミドフィルムである。したがって、本発明のポリイミドフィルムは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとに由来する構成単位を主たる構成単位とし、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,4−トルエンジアミンとから得られるポリイミド成分(A)が3モル%以上35モル%未満の範囲でランダム共重合またはブロック共重合されている。
【0031】
ポリイミド成分(A)の含有量は3モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、7モル%以上がさらに好ましい。また、ポリイミド成分(A)の含有量は35モル%未満が好ましく、30モル%以下がより好ましく、25モル%以下がさらに好ましい。
【0032】
このようなポリイミドフィルムは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分として含む芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミンおよび所定量のポリイミド成分(A)を与える2,4−トルエンジアミンを含む芳香族ジアミン成分とを反応させてポリイミド前駆体を合成し、得られたポリイミド前駆体の溶液を支持体上に流延塗布し、加熱してポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを製造し、この自己支持性フィルムを加熱、イミド化することによって製造することができる。
【0033】
ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、ポリイミドを与えるポリイミド前駆体の有機溶媒溶液に必要であればイミド化触媒、有機リン化合物や無機微粒子を加えた後、支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)にまで加熱して製造される。
【0034】
本発明において用いるポリイミド前駆体は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下単にs−BPDAと略記することもある。)を主成分とし、所定量のポリイミド成分(A)を与える酸成分を含む芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミン(以下単にPPDと略記することもある。)を主成分とし、所定量のポリイミド成分(A)を与えるジアミン成分を含む芳香族ジアミン成分とから製造されるポリイミド前駆体である。具体的には、s−BPDAを50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは75モル%以上含む芳香族テトラカルボン酸成分が好ましく、PPDを50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは75モル%以上含む芳香族ジアミン成分が好ましい。
【0035】
ポリイミド前駆体としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から主として成る芳香族テトラカルボン酸成分と、65モル%以上97モル%未満のパラフェニレンジアミンおよび3モル%以上35モル%未満の2,4−トルエンジアミンから成る芳香族ジアミン成分とから得られるものが好ましく、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から主として成る芳香族テトラカルボン酸成分と、95モル%〜70モル%のパラフェニレンジアミンおよび5モル%〜30モル%の2,4−トルエンジアミンから成る芳香族ジアミン成分とから得られるものがより好ましく、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から主として成る芳香族テトラカルボン酸成分と、93モル%〜75モル%のパラフェニレンジアミンおよび7モル%〜25モル%の2,4−トルエンジアミンから成る芳香族ジアミン成分とから得られるものがさらに好ましい。
【0036】
なお、他のテトラカルボン酸およびジアミンを本発明の特性を損なわない範囲で用いることもできる。
【0037】
ポリイミド前駆体の合成は、有機溶媒中で、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをランダム重合またはブロック重合することによって達成される。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後反応条件下で混合してもよい。このようにして得られたポリイミド前駆体溶液はそのまま、あるいは必要であれば溶媒を除去または加えて、自己支持性フィルムの製造に使用することができる。
【0038】
ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えてもよい。
【0040】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01−2倍当量、特に0.02−1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0041】
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。アミンとしてはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0042】
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化チタン粉末、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化亜鉛粉末などの無機酸化物粉末、微粒子状の窒化ケイ素粉末、窒化チタン粉末などの無機窒化物粉末、炭化ケイ素粉末などの無機炭化物粉末、および微粒子状の炭酸カルシウム粉末、硫酸カルシウム粉末、硫酸バリウム粉末などの無機塩粉末を挙げることができる。これらの無機微粒子は二種以上を組合せて使用してもよい。これらの無機微粒子を均一に分散させるために、それ自体公知の手段を適用することができる。
【0043】
ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、上記のようなポリイミド前駆体の有機溶媒溶液、あるいはこれにイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えたポリイミド前駆体溶液組成物を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)、例えば支持体上より剥離することができる程度に加熱して製造される。
【0044】
本発明では、前述の通り、高濃度のポリイミド前駆体の溶液を使用することができる。ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度は、18質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、23質量%以上がさらに好ましい。また、ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度は、粘度が高くなり過ぎることから、30質量%以下が好ましく、27質量%以下がより好ましく、26質量%以下がさらに好ましい。
【0045】
また、前述の通り、本発明によれば、自己支持性フィルムを高速製膜することができるが、自己支持性フィルムの製膜速度が速過ぎると、得られる自己支持性フィルムの表面平滑性が低下したり、ポリイミドフィルムが発泡したり、フィルム中に結晶が生成したりすることがある。
【0046】
このときの加熱温度および加熱時間は適宜決めることができ、例えば、温度100〜180℃で3〜60分間程度加熱すればよい。
【0047】
支持体としては、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレス基板、ステンレスベルトなどが使用される。
【0048】
このようにして得られる自己支持性フィルムは、ハンドリング性の点から、初期弾性率が500MPa以上であることが好ましく、600MPa以上であることがより好ましい。また、自己支持性フィルムの初期弾性率は、キュア炉中においてピンテンタ等による把持が難しくなることから、2GPa以下であることが好ましく、1.8GPa以下であることがより好ましく、1.6GPa以下であることがさらに好ましい。
【0049】
自己支持性フィルムは、その加熱減量が20〜50質量%の範囲にあること、さらに加熱減量が20〜50質量%の範囲で且つイミド化率が8〜55%の範囲にあることが、自己支持性フィルムの力学的性質が十分となり、好ましい。また、自己支持性フィルムの上面にカップリング剤の溶液を塗工する場合には、カップリング剤溶液をきれいに塗布しやすくなり、イミド化後に得られるポリイミドフィルムに発泡、亀裂、クレーズ、クラック、ひびワレなどの発生が観察されないために好ましい。
【0050】
なお、上記の自己支持性フィルムの加熱減量とは、自己支持性フィルムの質量W1とキュア後のフィルムの質量W2とから次式によって求めた値である。
【0051】
加熱減量(質量%)={(W1−W2)/W1}×100
また、上記の自己支持性フィルムのイミド化率は、IR(ATR)で測定し、フィルムとフルキュア品との振動帯ピーク面積または高さの比を利用して、イミド化率を算出することができる。振動帯ピークとしては、イミドカルボニル基の対称伸縮振動帯やベンゼン環骨格伸縮振動帯などを利用する。またイミド化率測定に関し、特開平9−316199号公報に記載のカールフィッシャー水分計を用いる手法もある。
【0052】
本発明においては、このようにして得られた自己支持性フィルムの片面または両面に、必要に応じて、カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液を塗布してもよいが、塗布しなくても通常、得られるポリイミドフィルムは接着性に優れている。
【0053】
表面処理剤としては、シランカップリング剤、ボランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルミニウム系キレート剤、チタネート系カップリング剤、鉄カップリング剤、銅カップリング剤などの各種カップリング剤やキレート剤などの接着性や密着性を向上させる処理剤を挙げることができる。特に表面処理剤としては、シランカップリング剤などのカップリング剤を用いる場合に優れた効果が得られる。
【0054】
シラン系カップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン系、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が例示される。また、チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等が挙げられる。
【0055】
カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、特にγ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−(アミノカルボニル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−[β−(フェニルアミノ)−エチル]−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシランカップリング剤が好適で、その中でも特にN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0056】
カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液の溶媒としては、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒(自己支持性フィルムに含有されている溶媒)と同じものを挙げることができる。有機溶媒は、ポリイミド前駆体溶液と相溶する溶媒であることが好ましく、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒と同じものが好ましい。有機溶媒は2種以上の混合物であってもよい。
【0057】
カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の有機溶媒溶液は、表面処理剤の含有量が0.5質量%以上、より好ましくは1〜100質量%、特に好ましくは3〜60質量%、さらに好ましくは5〜55質量%であるものが好ましい。また、水分の含有量は20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下であることが好ましい。表面処理剤の有機溶媒溶液の回転粘度(測定温度25℃で回転粘度計によって測定した溶液粘度)は10〜50000センチポイズであることが好ましい。
【0058】
表面処理剤の有機溶媒溶液としては、特に、表面処理剤が0.5質量%以上、特に好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは3〜55質量%の濃度でアミド系溶媒に均一に溶解している、低粘度(特に、回転粘度10〜5000センチポイズ)のものが好ましい。
【0059】
表面処理剤溶液の塗布量は適宜決めることができ、例えば、1〜50g/mが好ましく、2〜30g/mがさらに好ましく、3〜20g/mが特に好ましい。塗布量は、両方の面が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0060】
表面処理剤溶液の塗布は、公知の方法を用いることができ、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの公知の塗布方法を挙げることができる。
【0061】
本発明においては、次いで、必要に応じて表面処理剤溶液を塗布した自己支持性フィルムを加熱・イミド化してポリイミドフィルムを得る。
【0062】
加熱処理は、最初に約100〜400℃の温度においてポリマーのイミド化および溶媒の蒸発・除去を約0.05〜5時間、特に0.1〜3時間で徐々に行うことが適当である。特に、この加熱処理は段階的に、約100〜170℃の比較的低い温度で約0.5〜30分間第一次加熱処理し、次いで170〜220℃の温度で約0.5〜30分間第二次加熱処理して、その後、220〜400℃の高温で約0.5〜30分間第三次加熱処理することが好ましい。必要であれば、400〜550℃の高い温度で第四次高温加熱処理してもよい。
【0063】
また、キュア炉中においては、ピンテンタ、クリップ、枠などで、少なくとも長尺の固化フィルムの長手方向に直角の方向、すなわちフィルムの幅方向の両端縁を固定し、必要に応じて幅方向に拡縮して加熱処理を行うことが好ましい。
【0064】
本発明においては、ポリイミドフィルムを、熱イミド化の他に、化学イミド化、あるいは熱イミド化と化学イミド化とを併用した方法で製造することができる。生産性向上については、特に熱イミド化の場合にその効果が得られるが、接着性向上については、熱イミド化に限らず、化学イミド化であっても、得られるポリイミドフィルムは優れた接着性を有している。なお、化学イミド化は公知の方法に従って行えばよい。
【0065】
本発明により得られるポリイミドフィルムの厚みは特に限定されるものではないが、3〜250μm程度、好ましくは4〜150μm程度、より好ましくは5〜125μm程度、さらに好ましくは5〜100μm程度である。
【0066】
本発明では、ポリイミドから生産性よく薄膜状のフィルム、好ましくは3〜15μm、より好ましくは4〜14μm、さらに好ましくは5〜13μmの薄膜状のフィルムを製造することができる。
【0067】
本発明では、ポリイミドから生産性よく好ましくは50〜250μm、より好ましくは60〜225μm、さらに好ましくは70〜200μmの厚膜状のフィルムを製造することができる。
【0068】
本発明により得られるポリイミドフィルムは接着性が良好であり、接着剤、感光性素材、熱圧着性素材などが付いたポリイミドフィルムを得ることができる。
【0069】
本発明により得られるポリイミドフィルムは接着性、スパッタリング性や金属蒸着性が良好であり、接着剤を使用して銅箔などの金属箔を接着する、あるいはスパッタリングやや金属蒸着などのメタライジング法により銅層などの金属層を設けることにより、密着性に優れ、十分な剥離強度を有する銅積層ポリイミドフィルムなどの金属積層ポリイミドフィルムを得ることができる。さらに、熱圧着性ポリイミドなどの熱圧着性のポリマーを使用して、本発明により得られるポリイミドフィルムに銅箔などの金属箔を積層することにより、金属箔積層ポリイミドフィルムを得ることができる。金属層の積層は公知の方法に従って行うことができる。
【0070】
銅積層ポリイミドフィルムの銅層の厚さは、使用する目的に応じて適宜選択することができるが、好ましくは1μm〜50μm程度、さらには2〜20μm程度である。
【0071】
ポリイミドフィルムに接着剤を介してはり合わせる金属箔としては、金属の種類や厚みは用いる用途により適宜選択して用いればよく、例えば圧延銅箔、電解銅箔、銅合金箔、アルミニウム箔、ステンレス箔、チタン箔、鉄箔、ニッケル箔などを挙げることができ、その厚みは好ましくは1μm〜50μm程度、さらには2〜20μm程度である。
【0072】
本発明により得られるポリイミドフィルムと、他の樹脂フィルム、銅などの金属、あるいはICチップなどのチップ部材などとを、接着剤を使用して、はり合わせることができる。
【0073】
接着剤としては、絶縁および接着信頼性に優れたもの、あるいはACFなどの圧着による導電性と接着信頼性に優れたものなど、用途に応じて公知のものを用いることができ、熱可塑性接着剤や熱硬化性接着剤などを挙げることができる。
【0074】
接着剤としては、ポリイミド系、ポリアミド系、ポリイミドアミド系、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの接着剤、及びこれを2種以上含む接着剤などを挙げることができ、特にアクリル系、エポキシ系、ウレタン系、ポリイミド系の接着剤を用いることが好ましい。
【0075】
メタライジング法は、金属メッキや金属箔の積層とは異なる金属層を設ける方法であり、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、電子ビーム等の公知の方法を用いることができる。
【0076】
メタライジング法に用いる金属としては、銅、ニッケル、クロム、マンガン、アルミニウム、鉄、モリブデン、コバルト、タングステン、バナジウム、チタン、タンタル等の金属、またはこれらの合金、あるいはこれらの金属の酸化物や金属の炭化物などの金属化合物などを用いることができるが、特にこれらの材料に限定されない。メタライジング法により形成される金属層の厚さは、使用する目的に応じて適宜選択でき、好ましくは1〜500nm、さらに好ましくは5nm〜200nmの範囲が、実用に適するために好ましい。メタライジング法により形成される金属層の層数は、使用する目的に応じて適宜選択でき、1層でも、2層でも、3層以上の多層でもよい。
【0077】
メタライジング法により得られる金属積層ポリイミドフィルムは、電解メッキまたは無電解メッキなどの公知の湿式メッキ法により、金属層の表面に、銅、錫などの金属メッキ層を設けることができる。銅メッキなどの金属メッキ層の膜厚は1μm〜40μmの範囲が、実用に適するために好ましい。
【0078】
本発明によれば、ポリイミドフィルムの製造にカップリング剤を使用しなくても、例えば、90度剥離強度が0.3N/mm以上、さらには0.4N/mm以上、特に0.5N/mm以上である銅積層ポリイミドフィルムを得ることができる。
【0079】
本発明のポリイミドフィルムは、FPC、TAB、COFあるいは金属配線基材などの絶縁基板材料、金属配線、ICチップなどのチップ部材などのカバー基材、液晶ディスプレー、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー、電子ペーパー、太陽電池などのベース基材として好適に用いることができる。
【0080】
このような用途においては、ポリイミドフィルムの線膨張係数が銅の線膨張係数に近いことが好ましく、具体的には、MDおよびTDともに10〜40ppm/℃であることが好ましく、11〜30ppm/℃であることがより好ましく、12〜25ppm/℃であることがさらに好ましい。本発明によれば、接着性に優れると共に、線膨張係数が銅の線膨張係数に近いポリイミドフィルムが得られる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
自己支持性フィルムおよびポリイミドフィルムの物性の評価は以下の方法に従って行った。
【0083】
(1)自己支持性フィルムおよびポリイミドフィルムの初期弾性率、破断強度、破断伸び
フィルムをIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間30mm、引張速度2mm/minで、初期弾性率、破断強度、破断伸びを測定した。
【0084】
(2)自己支持性フィルムのイミド化率
自己支持性フィルムと、そのフルキュアフィルム(ポリイミドフィルム)のFT−IRスペクトルを、ニコレー製Magna550FT−IRを用いて、Geクリスタル、入射角45°のATR法で測定し、1775cm−1のイミドカルボニル基の非対称伸縮振動のピーク高さと1515cm−1の芳香環の炭素−炭素対称伸縮振動のピーク高さの比を用いて、次式によりイミド化率を算出した。
【0085】
イミド化率(%)={自己支持性フィルムの1515cm−1のピーク高さ/自己支持性フィルムの1775cm−1のピーク高さ}/{フルキュアフィルムの1515cm−1のピーク高さ/フルキュアフィルムの1775cm−1のピーク高さ}×100
(3)自己支持性フィルムの加熱減量
自己支持性フィルムの質量W1とキュア後のフィルムの質量W2とから次式によって求めた。
【0086】
加熱減量(質量%)={(W1−W2)/W1}×100
(4)自己支持性フィルムの表面平滑性
自己支持性フィルムの表面平滑性は目視観察により判断し、均一な平滑面ではなく、模様や段差が見られるものを×、見られないものを○とした。
【0087】
(5)ポリイミドフィルムの発泡、粉化(結晶生成)
ポリイミドフィルムの発泡、粉化の有無は目視観察により判断し、発泡、粉化が見られるものを×、見られないものを○とした。
【0088】
(6)ポリイミドフィルムの熱線膨張係数
エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS6100を用いて、試験片幅4mm、測定長15mm、荷重2gまたは4g、10℃/minで室温から350℃まで昇温した。そして、得られたTMA曲線から、50℃から200℃までの平均熱膨張係数を求めた。
【0089】
(7)ポリイミドフィルムの吸水率
得られたフィルムを150℃で3時間真空乾燥して、乾燥質量Wを測定した。その後、フィルムを23℃の水に浸漬して24時間静置した。フィルム表面に付着した水をろ紙で拭き取り、吸水後の質量Wを測定して、吸水率を数式(1)から求めた。
【0090】
吸水率(%)=(W−W)/W×100 ・・・数式(1)
(8)ポリイミドフィルムの吸水膨張係数(CHE)
フィルムの60mm×60mmの領域に約30mm間隔で格子状に浅い線をカッターで入れ、150℃で3時間真空乾燥した。カッターで入れた線と線の交点を格子点として、この乾燥膜の格子点間隔Lを、ニコン製測定顕微鏡MM−40を用いて、1μm単位で記録した。その後、フィルムを23℃の水に浸漬して24時間静置した。フィルム表面に付着した水をろ紙で拭き取り、吸水後の格子点間隔LをLと同様に記録して、吸水膨張係数を数式(2)により計算した。試験片1つにつき、MD,TD各々3間隔のCHEを平均し、さらに、一種類につき試験片3つの平均値とした。
【0091】
吸水膨張係数(ppm/RH%)=(L−L)/L/100×10
・・・数式(2)
(9)ポリイミドフィルムの吸水速度
得られたポリイミドフィルムを150℃で3時間真空乾燥して、乾燥質量Wを測定した。次いで、23℃、50RH%の環境下でフィルムを静置して、時間t後の質量Wtを測定する。そして、数式(3)に従い、時間tでの吸水率Ctを算出する。
【0092】
吸水率Ct(%)=(W−W)/W×100 ・・・数式(3)
同様にして飽和に達するまで経時的に質量を複数測定して、t0.5/LとCt/Ceをプロットして得られる曲線の初期の直線部分の傾き(4D0.5/π0.5)から吸水の拡散係数Dを算出した。
【0093】
Ct/Ce=4D0.5/π0.5×t0.5/L
ここで、Lは膜厚、tは時間、Dは拡散係数、Ctは時間tの吸水率、Ceは23℃、50RH%での飽和時の吸水率を表す。
【0094】
(10)ポリイミドフィルムの固体粘弾性
得られたポリイミドフィルムを2cm×2mmの短冊状に切り取って試験片とし、ティー・エイ・インスツルメント社製RSAIIIを用いて、引張モードで固体粘弾性測定を行った。窒素気流下、室温から限界温度まで3℃/stepで昇温しながら、10Hzで測定し、得られたE’の曲線から400℃の弾性率を求めた。また、E’’曲線の極大からガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0095】
(11)ポリイミドフィルムのカバーレイ接着強度
得られたポリイミドフィルムに、株式会社有沢製作所製カバーレイCVA0525KAを180℃、3MPaで30分プレスして貼り合わせた。そして、50mm/分の剥離速度で90°ピール強度を測定し、接着強度とした。なお、ポリイミド前駆体溶液をガラス板または金属支持体上にキャスティングしたときの空気側の面をA面、ガラス板または金属支持体側の面をB面とした。
【0096】
(12)ポリイミドフィルムのパイララックス接着強度(銅積層ポリイミドフィルムの90°ピール強度)
得られたポリイミドフィルムに、デュポン株式会社製アクリル系接着剤(パイララックスLF0100)、日鉱金属株式会社製圧延銅箔(BHY−13H−T、18μm厚)を重ね合わせ、プレスにて、180℃、9MPaで5分圧着、さらに、180℃で60分熱処理して積層板を得た。そして、JIS・C6471−8.1に従って、50mm/分の剥離速度で90°ピール強度を測定し、接着強度とした。なお、ポリイミド前駆体溶液をガラス板または金属支持体上にキャスティングしたときの空気側の面をA面、ガラス板または金属支持体側の面をB面とした。
【0097】
(比較例1)
重合槽に所定量のN,N−ジメチルアセトアミド、パラフェニレンジアミン(PPD)を加えた後、40℃で撹拌しながら、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)をパラフェニレンジアミンと略等モルまで段階的に添加して反応させ、固形分濃度が18質量%であるポリアミック酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)を得た。このポリアミック酸溶液には、ポリアミック酸100質量部に対して0.25質量部の割合でモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩および0.3質量部の割合でコロイダルシリカを添加し、均一に混合した。得られたポリアミック酸溶液組成物の30℃における回転粘度は200Pa・sであった。
【0098】
このポリアミック酸溶液組成物をガラス板上に薄膜状にキャストし、ホットプレートを用いて110℃で5.5分、160℃で4分加熱して、ポリアミック酸溶液組成物の薄膜から自己支持性フィルムを作製した。得られた自己支持性フィルムをガラス板から剥離し、ピンテンターに固定して、オーブンで150℃で5分、210℃で5分、310℃で5分、450℃で4分と段階的に加熱イミド化して、平均膜厚が75μmのポリイミドフィルムを得た。
【0099】
表1に得られた自己支持性フィルムおよびポリイミドフィルムの物性を示す。
【0100】
(比較例2〜12)
ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度および/または製膜速度を表1に示す通りに変えた以外は、比較例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0101】
表中、製膜速度は、比較例1の製膜速度に対する倍速率で示してある。製膜速度が表に示した倍速率となるように、比較例1に示したポリアミック酸溶液組成物の薄膜から自己支持性フィルムを作製する各加熱温度での時間(キャスト段階の加熱時間)、自己支持性フィルムを加熱イミド化してポリイミドを作製する各加熱温度での時間(キュア段階の加熱時間)を均等に短縮した。
【0102】
表1に得られた自己支持性フィルムおよびポリイミドフィルムの物性を示す。
【0103】
(実施例1〜19、参考例1〜4)
芳香族ジアミン成分として、パラフェニレンジアミンに加えて、表1に示す量の2,4−トルエンジアミン(TDA)を用い、ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度および/または製膜速度を表1に示す通りに変えた以外は、比較例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0104】
表中、製膜速度は、比較例1の製膜速度に対する倍速率で示してある。比較例2〜12と同様に、製膜速度が表に示した倍速率となるように、比較例1に示したキャスト、キュアの各段階の加熱時間を均等に短縮した。また、2,4−トルエンジアミンの使用量は、全芳香族ジアミン成分(PPD+TDA)に対する割合で示してある。
【0105】
表1に得られた自己支持性フィルムおよびポリイミドフィルムの物性を示す。
【0106】
【表1】

表1の実施例および比較例から以下のことが分かる。
【0107】
(1)比較例1〜12より、s−BPDA/PPDのポリイミドフィルムは高速で製膜を行うと、得られるポリイミドフィルムの引張物性が低下する傾向を示し、フィルムが脆弱化する傾向が認められる。これに対して、実施例1〜3、実施例4〜6、実施例7〜8、実施例9〜11、実施例12〜14、実施例15〜16、実施例17〜18より、TDAを重合させたポリイミドフィルム(s−BPDA/PPD+TDA;TDA系とも言う。)は増速しても、得られるポリイミドフィルムの引張物性などの特性が保持される。
【0108】
(2)比較例1〜3より、ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度が18wt%のs−BPDA/PPDは製膜速度の増速で自己支持性フィルムの初期弾性率が低下する傾向が認められる。これに対して、実施例7〜10、実施例12〜14より、ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度が高濃度(22〜26wt%)のs−BPDA/PPD+TDAより得られる自己支持性フィルムの初期弾性率は500MPa以上のものが得られ、ハンドリング性に優れる。
【0109】
(3)実施例4〜6、実施例9〜11、実施例12〜14より、s−BPDA/PPD+TDAは、ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度を高濃度にすると、得られるポリイミドフィルムの引張物性などの特性が優れる。
【0110】
なお、実施例1〜19に用いたs−BPDA/PPD+TDAのポリイミド前駆体溶液は、室温で放置しても少なくとも2週間はゲル化しないが、固形分濃度の高いs−BPDA/PPDのポリイミド前駆体溶液は、s−BPDA/PPD+TDAのポリイミド前駆体溶液よりも保存安定性が悪いことが確認できる。
【0111】
(実施例20〜22)
実施例9〜11と同様にして固形分濃度24質量%、TDA10モル%導入のポリイミド前駆体溶液組成物を調製し、これをTダイ金型のスリットから連続的にキャスティング・乾燥炉の平滑な金属支持体上に押出し、薄膜を形成した。そして、この薄膜を155℃で所定時間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを得た。
【0112】
次いで、この自己支持性フィルムの幅方向の両端部を把持して連続加熱炉(キュア炉)へ挿入し、100℃から最高加熱温度が450℃となる条件で当該フィルムを加熱、イミド化して、平均膜厚が約75μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。製膜速度は、表2に示すように、比較例13を基準に1.1、1.2および1.3倍速とした。
【0113】
表2に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0114】
(比較例13)
固形分濃度18質量%、TDAを導入していないs−BPDA/PPDのポリイミド前駆体溶液組成物を用い、キャスティング温度を150℃、製膜速度を基準の1.0倍速とした以外は、実施例20〜22と同様にして平均膜厚が約75μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
【0115】
表2に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0116】
【表2】

表2の実施例20〜22によれば、s−BPDA/PPD+TDA系は、製膜速度を速くしても、得られるポリイミドフィルムの引張物性が保持される。また、高温での弾性率やガラス転移温度が高く、耐熱性に優れる。
【0117】
さらには、TDAを10モル%導入すると、TDAを導入していないs−BPDA/PPD系よりも接着性が向上する。本発明のポリイミドフィルムを用いることで、金属箔などと直接、または接着剤層あるいは熱圧着性ポリマー層を介して接着性あるいは密着性の良好な金属積層ポリイミドを得ることができる。
【0118】
また、TDAを10モル%導入すると、吸水率の増加は小さい一方、吸水速度は3〜4倍に速くなる。本発明のポリイミドフィルムを金属箔などの金属層と直接、または接着剤層あるいは熱圧着性ポリマー層を介して積層した金属積層ポリイミドは、配線基板製造時などの高温処理工程で接着界面での発泡や剥離が起こりにくい。
【0119】
本発明のポリイミドフィルムは、FPC、TAB、COFあるいは金属配線基材などの絶縁基板材料、金属配線などのカバー基材用フィルム、太陽電池用の基板材料として好適に用いることができる。
【0120】
(実施例23)
実施例9〜11と同様にして固形分濃度24質量%、TDA10モル%導入のポリイミド前駆体溶液組成物を調製し、これをTダイ金型のスリットから連続的にキャスティング・乾燥炉の平滑な金属支持体上に押出し、薄膜を形成した。そして、この薄膜を140℃で所定時間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを得た。
【0121】
次いで、この自己支持性フィルムの幅方向の両端部を把持して連続加熱炉(キュア炉)へ挿入し、100℃から最高加熱温度が450℃となる条件で当該フィルムを加熱、イミド化して、平均膜厚が12μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
【0122】
表3に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0123】
(実施例24)
実施例9〜11と同様にして固形分濃度24質量%、TDA10モル%導入のポリイミド前駆体溶液組成物を調製し、これに1,2−ジメチルイミダゾールをアミド酸単位に対して0.05当量添加した。そして、これを用いて実施例23と同様にして連続的に平均膜厚が12μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
【0124】
表3に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0125】
(実施例25)
固形分濃度20質量%、TDA20モル%導入のポリイミド前駆体溶液組成物を調製して用いた以外は、実施例24と同様にして平均膜厚が13μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
【0126】
表3に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0127】
(比較例14)
固形分濃度18質量%、TDAを導入していないs−BPDA/PPDのポリイミド前駆体溶液組成物を用いた以外は、実施例24、実施例25と同様にして平均膜厚が12μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
【0128】
表3に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0129】
(実施例26)
1,2−ジメチルイミダゾールの添加量を0.15当量、キャスティング温度を147℃とした以外は、実施例24と同様にして平均膜厚が5.8μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
【0130】
表3に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0131】
(実施例27)
固形分濃度20質量%、TDA20モル%導入のポリイミド前駆体溶液組成物を調製して用い、キャスティング温度を140℃とした以外は、実施例26と同様にして平均膜厚が5.5μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
【0132】
表3に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0133】
(実施例28)
1,2−ジメチルイミダゾールの添加量を0.05当量とした以外は、実施例27と同様にして平均膜厚が5.6μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
【0134】
表3に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0135】
(比較例15)
固形分濃度18質量%、TDAを導入していないs−BPDA/PPDのポリイミド前駆体溶液組成物を用い、キャスティング温度を150℃とした以外は、実施例26と同様にして平均膜厚が5.1μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
【0136】
表3に得られたポリイミドフィルムの特性を示す。
【0137】
(参考例5)
固形分濃度18質量%、TDA20モル%導入とした以外は、実施例9〜11と同様にしてポリイミド前駆体溶液組成物を調製したところ、30℃における回転粘度は40Pa・sまでしか上がらなかった。
【0138】
(参考例6)
固形分濃度18質量%、ジアミンをTDA100モル%とした以外は、実施例9〜11と同様にしてポリイミド前駆体溶液組成物を調製したところ、30℃における回転粘度は30Pa・sまでしか上がらなかった。
【0139】
【表3】

表3より、厚み5〜13μmのs−BPDA/PPD+TDA系ポリイミドフィルムは銅箔に近い線膨張係数を有し、TDAを導入していないs−BPDA/PPDのポリイミドフィルムよりも接着性に優れる。また、高温での弾性率やガラス転移温度が高く、耐熱性に優れる。本発明のポリイミドフィルムを用いることで、金属箔などと直接、または接着剤層あるいは熱圧着性ポリマー層を介して接着性あるいは密着性の良好な金属積層ポリイミドを得ることができ、FPC、TAB、COFあるいは金属配線基材などの絶縁基板材料、金属配線などのカバー基材用フィルム、太陽電池用の基板材料として好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
以上のように、本発明によれば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミドフィルムの生産性を向上させることができる。また、得られるポリイミドフィルムは吸水速度が速く、接着性に優れており、FPC、TAB、COFあるいは金属配線基材などの絶縁基板材料、金属配線などのカバー基材用フィルム、太陽電池用の基板材料などに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミドフィルムであって、
前記芳香族ジアミン成分100モル%中、2,4−トルエンジアミンが3モル%以上35モル%未満の範囲で含まれることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記芳香族ジアミン成分100モル%中、2,4−トルエンジアミンが5モル%〜30モル%の範囲で含まれることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
厚みが3〜250μmである請求項1または2記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
厚みが75〜250μmである請求項1または2記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルムを製造する方法であって、
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から主として成る芳香族テトラカルボン酸成分と、65モル%以上97モル%未満のパラフェニレンジアミンおよび3モル%以上35モル%未満の2,4−トルエンジアミンから成る芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミド前駆体の溶液を支持体上に流延塗布し、加熱してポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを製造する工程と、
この自己支持性フィルムを加熱、イミド化する工程と
を有するポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
支持体上に流延塗布するポリイミド前駆体の溶液の固形分濃度が18〜30質量%である請求項5記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
製造する自己支持性フィルムの初期弾性率が500MPa以上である請求項5または6記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルムに接着剤層あるいは熱圧着性層を介して銅箔を積層してなる銅積層ポリイミドフィルム。
【請求項9】
90度剥離強度が0.3N/mm以上である請求項8記載の銅積層ポリイミドフィルム。

【公開番号】特開2009−185101(P2009−185101A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23281(P2008−23281)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】