説明

マトリックス層をもつアッパーを有する履物製品

【課題】マトリックス層をもつアッパーを有する履物製品およびその製法の提供。
【解決手段】アッパー20は、複数の孔43を規定するマトリックス構造40を含む。様々な方向でアッパー20の伸び率を異ならせるように、孔43は細長い構成を有してよい。たとえば、マトリックス層40は、互いにクロスして孔43を規定する複数のセグメント41から形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この米国特許非仮出願は、2005年6月20日に米国特許商標局に出願され、"Article of Footwear Having An Upper With A Matrix Layer"という名称を有し、参照により本明細書に全体的に組み入れられる米国特許仮出願第60/692,336号の継続出願であり、かつ米国特許仮出願第60/692,336号に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
従来の運動用履物製品は一般に、2つの主要要素、アッパー(upper)およびソール構造を含む。アッパーは、ソール構造に固定され、履物の内部に空隙を形成して足を心地よくかつしっかりと受け入れる。ソール構造は、アッパーと地面との間に位置し、かつソール構造はポリマーフォーム(polymer foam)のミッドソールおよびアウトソールを含んでよい。ミッドソールは地面の反応力を減衰させ、足および脚に対する応力を弱める。アウトソールは、ソール構造の地面係合部を形成し、耐久性および耐摩耗性の高い材料から形成される。ソール構造は、履物の履き心地を高めるように空隙内の、足の下面の近くに位置する中敷きも含んでよい。
【0003】
アッパーは一般に、足の爪革および爪先領域上から、足の内側側面および外側側面に沿って延び、かつ足の踵領域の周りを延びる。バスケットボール用の履物およびブーツのようないくつかの履物製品では、アッパーは、足首の上方および周りを延びて足首を支持する。履物の内部の空隙への接近は一般に、アクセス開口部によって行われる。様々な寸法を有する足を受け入れるように、選択的にアクセス開口部のサイズを大きくし、かつ装着者がアッパーのある寸法、特に周囲を修正するのを可能にするために、アッパーにレーシングシステム(lacing system)が組み込まれることが多い。さらに、アッパーは履物の履き心地を高めるようにレーシングシステムの下方を延びる舌革を含んでよく、アッパーは、踵の動きを制限するヒールカウンターを組み込んでよい。
【0004】
従来、アッパーを製造する際に様々な材料が利用されている。運動用履物のアッパーはたとえば、外部層、中間層、および内部層を含む複数の材料層で形成することができる。アッパーの外部層を形成する材料は、たとえば耐摩耗性、可とう性、および通気性に基づいて選択することができる。外部層に関しては、爪先領域および踵領域を皮革、合成皮革、またはゴム材料で形成し、比較的高い耐摩耗度を与えることができる。皮革、合成皮革、およびゴム材料は、アッパーの外部層の様々な他の領域については所望の可とう度および通気度を呈しないことがある。したがって、外部層の他の領域は、たとえば合成繊維製品で形成することができる。したがって、アッパーの外部層は、各材料要素がアッパーに異なる特性を与える多数の材料要素で形成することができる。アッパーの中間層は従来、緩衝を施し、かつ履き心地を高める軽量のポリマーフォーム材料で形成されている。同様に、アッパーの内部層は、足の周りに隣接する領域から汗を除去する、履き心地をよくする吸湿繊維製品で形成することができる。いくつかの運動用履物製品では、様々な層を接着剤で接合することができ、縫製を利用して単一の層内で各要素を接合するかまたはアッパーの特定の領域を補強することができる。
【発明の概要】
【0005】
概要
本発明の一局面は、アッパーおよびソール構造を有する履物製品である。アッパーは、複数の孔を規定するマトリックス構造を含む。様々な方向でアッパーの伸び率を異ならせるように、孔は細長い構成を有してよい。一例として、マトリックス層は、互いにクロスして孔を規定する複数のセグメントで形成することができる。孔の特定の形状は、四辺形、六角形、円、楕円、三角形、および他の任意の形状を含む様々な形状のいずれかであってよい。
【0006】
本発明の別の局面は、第1の履物製品および第2の履物製品を製造する方法である。この方法は、第1のポリマー要素が細長い構成を有する複数の第1の孔を規定するような型によって第1のポリマー要素を形成する段階を含む。第1のポリマー要素は第1のソール構造に固定されて第1のアッパーの少なくとも一部を形成し、第1のソール構造は第1の長さを有する。第2のポリマー要素は型によって形成され、かつ第2のポリマーは第1のポリマー要素と実質的に同一である。第2のポリマー要素は第2のソール構造に固定されて第2のアッパーの少なくとも一部を形成する。第2のソール構造は第2の長さを有し、第2の長さは第1の長さよりも長い。
【0007】
本発明の様々な局面を特徴付ける新規の利点および特徴は、特に添付の特許請求の範囲に指摘されている。しかし、新規の利点および特徴の理解を向上させるために、本発明の各局面に関する様々な態様および概念を説明し図示する以下の詳細な説明事項および添付の図面を参照することができる。
【0008】
上記の概要は、以下の詳細な説明と共に、添付の図面に関連して読んだときによりよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の各局面によるマトリックス層を含むアッパーを有する履物製品の外側側面図である。
【図2】履物製品の内側側面図である。
【図3】履物製品の平面図である。
【図4】図3の断面線4-4によって形成される、履物製品の断面図である。
【図5】マトリックス層の平面図である。
【図6A】図6Aは、マトリックス層の代替の様々な構成を示す。
【図6B】図6Bは、マトリックス層の代替の様々な構成を示す。
【図6C】図6Cは、マトリックス層の代替の様々な構成を示す。
【図6D】図6Dは、マトリックス層の代替の様々な構成を示す。
【図6E】図6Eは、マトリックス層の代替の様々な構成を示す。
【図6F】図6Fは、マトリックス層の代替の様々な構成を示す。
【図6G】図6Gは、マトリックス層の代替の様々な構成を示す。
【図6H】図6Hは、マトリックス層の代替の様々な構成を示す。
【図7A】図7Aは、履物製品の製造プロセスの各段階を示す。
【図7B】図7Bは、履物製品の製造プロセスの各段階を示す。
【図7C】図7Cは、履物製品の製造プロセスの各段階を示す。
【図7D】図7Dは、履物製品の製造プロセスの各段階を示す。
【図8】本発明の各局面によるマトリックス層を含むアッパーを有する2つの履物製品の外側側面図を示す。
【図9A】図9Aは、履物製品の様々な追加の構成の外側側面図である。
【図9B】図9Bは、履物製品の様々な追加の構成の外側側面図である。
【図9C】図9Cは、履物製品の様々な追加の構成の外側側面図である。
【図9D】図9Dは、履物製品の様々な追加の構成の外側側面図である。
【図9E】図9Eは、履物製品の様々な追加の構成の外側側面図である。
【図9F】図9Fは、履物製品の様々な追加の構成の外側側面図である。
【図10A】図10Aは、履物製品の追加の構成の背面図である。
【図10B】図10Bは、履物製品の追加の構成の背面図である。
【図11】履物製品の別の構成の外側側面図である。
【図12】マトリックス層の別の構成の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
以下の議論および添付の図は、本発明の各局面によるポリマーマトリックス層を含むアッパーを有する様々な履物製品を開示している。ポリマーマトリックス層に関する概念は、ランニングおよびバスケットボールのスポーツに適した構成を有する様々な運動用履物製品を参照して開示される。ポリマーマトリックス層は、単にランニングおよびバスケットボール向けに設計された履物に限定されず、たとえば野球、バスケットボール、クロストレーニング、フットボール、ラグビー、サッカー、テニス、バレーボール、およびウォーキングに適した靴を含む、様々な範囲の運動用履物様式に組み込むことができる。さらに、ポリマーマトリックス層は、様々な礼装用靴、普段用靴、サンダル、およびブーツを含む、一般に運動用以外の履物とみなされる履物に組み込んでもよい。したがって、個々の当業者は、ポリマーマトリックス層に関して本明細書に開示される概念が、以下の本文で論じられ、添付の図面に示される特定の様式だけでなく広範囲の履物様式に適用されることが理解されよう。
【0011】
履物製品10は、アッパー20およびソール構造30を含むように図1〜4に示されている。以下の本文での参照のために、履物10は、図1および2に示されているように、3つの一般的な領域、足前部(forefoot)領域11、足中部(midfoot)領域12、踵領域13に分割することができる。領域11〜13は、履物10の厳密な領域を区分するものではない。むしろ、領域11〜13は、以下の議論において履物10の一般的な領域を表すものである。領域11〜13は履物10に全体的に適用されるが、領域11〜13の参照は、アッパー20、ソール構造30、アッパー20またはソール構造30内の個々の構成要素にも具体的に適用される。
【0012】
アッパー20は、ソール構造30に固定され、足を受け入れる空隙を形成している。参照のために、アッパー20は、外側側面21、反対側の内側側面22、および爪革領域23を含んでいる。外側側面21は、足の外側側面に沿って延びるように位置し、ほぼ各領域11〜13を通過している。同様に、内側側面22は、足の反対側の内側側面に沿って延びるように位置し、ほぼ各領域11〜13を通過している。爪革領域23は、足の上面に対応するように外側側面21と内側側面22の間に位置している。爪革領域23は、レース(lace)25を有するスロート(throat)24と、アッパー20の各寸法を修正し、それによって履物10のフィット感を調整するために従来どおりに利用される他の任意の閉鎖機構とを含んでいる。アッパー20は、足がアッパー20内の空隙に接近するのを可能にする足首開口部26も含んでいる。
【0013】
アッパー20は、踵要素48および爪先要素49も含んでいる。踵要素48は、履物10の履き心地を高めるように上向きにかつアッパー20の内面に沿って延びている。爪先要素49は、耐摩耗性を与えかつ足の位置決めを助けるために足前部領域11内およびアッパー20の外面上に配置されている。いくつかの態様では、たとえば、踵要素48および爪先要素49の一方または両方がなくてもよく、あるいは踵要素48を外面上に位置させることができる。
【0014】
ソール構造30は、アッパー20の下面に固定され、ミッドソール31、アウトソール32、および中敷き33を含む全般的に従来の構造を有している。ミッドソール31は、ウォーキング、ランニング、またはその他の歩行活動中に圧縮されて地面の反力を減衰させるポリウレタンまたはエチルビニルアセテートなどのポリマーフォーム材料で形成することができる。本発明のいくつかの局面では、ポリマーフォーム材料は、履物10の履き心地、運動制御能力、安定性、または地面反力減衰を向上させる、流体が充填された嚢またはモデレータなどの様々な要素を密閉するかまたは含んでよい。アウトソール32は、ミッドソール31の下面に固定され、歩行活動中に地面に接触するゴムなどの耐摩耗性材料で形成されている。アウトソール32を形成する材料は、牽引およびすべり抵抗を向上させるようにテクスチャ加工することができる。中敷き33は、履物10の履き心地を高めるようにアッパー20内の空隙内に足の下面に隣接して配置された薄く圧縮可能な部材である。上述のソール構造30の構成は履物10に適しているが、ソール構造30は、任意の従来のまたは従来以外のソール構造の構成を呈してよい。
【0015】
アッパー20の少なくとも一部は、様々な交差部42でクロスする複数のセグメント41で形成されたマトリックス層40を含んでいる。セグメント41のこの構成は、マトリックスの構造を構成し、マトリックス層40に複数の孔43を形成する。本明細書では、「マトリックス」という語は、孔を形成する、たとえばネット、グリッド、格子、ウェブ、および有孔材料を含む様々な構成を包含するものである。マトリックス層40は、たとえばゴム、シリコーン、熱可塑性ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチルビニルアセテート、およびスチレンエチルブチレンスチレンを含むポリマー材料の単体(すなわち、一体)構成で形成することができる。ポリマー材料の硬度は、本発明の様々な局面の範囲内で様々な値をとることができるが、ショア(Shore)Aスケール上で98以下の硬度を有するポリマーは、マトリックス層40の心地よさおよび可とう性を向上させ、一方引き続き足を支持することができる。マトリックス層40を製造する際、後述のように射出成形プロセスによってポリマー材料を成形し、単体構成を形成することができる。しかし、代替として、各セグメント41に対応する個々の要素を交差部42で接合し、マトリックス層40の特性を有する構造を形成することができる。たとえば、個々のセグメント41を、マトリックス層40を形成するように互いに結合または接着することができる。さらに、マトリックス層40は、セグメント41、交差部42、および孔43をレーザー切断または打抜き(die)切断することができる。
【0016】
マトリックス層40は、足に隣接して延びる心地よい柔軟な構造を形成している。以下に詳しく説明するように、マトリックス層40は、動きおよび足の寸法の差に適応するように延びている。すなわち、マトリックス層40の伸縮性によって、履物10は様々な寸法比率の足を受け入れることができ、マトリックス層40はアッパー20を軽量構造にすることもでき、孔43は比較的高い通気度を履物10に与えることができる。これらの利点は、以下の議論に示される内容に基づいてより明らかになろう。
【0017】
マトリックス層40は、図5に個別に示されている。参照のために、図5には、マトリックス層40のどの領域が外側側面21、内側側面22、および爪革領域23に相当するかを示す符番21〜23が示されている。マトリックス層40は概ね、中央領域(爪革領域23)および中央領域から延びる一対の側面領域(外側側面21および外側側面22)を含むU字形構成を有している。様々なセグメント41の末端は、マトリックス層40の周辺部を形成し、4つの縁部44a〜44dを形成している。縁部44aはマトリックス層40の最外縁部であり、縁部44bは縁部44aから間隔を置いて配置されており、縁部44cおよび44dはそれぞれ縁部44aおよび44b間を延びている。
【0018】
マトリックス層40を履物10に組み込むと、縁部44aは、ソール構造30に隣接して位置し、ソール構造30に接合することができる。縁部44bの、中央領域に隣接して位置する部分はスロート24を形成し、縁部44bの、縁部44cおよび44dに隣接して位置する部分は足首開口部26を形成している。縁部44cおよび44dは、互いに踵領域13で接合され、ソール構造30と足首開口部26の間を鉛直に延びている。上記に指摘したように、様々なセグメント41の末端が縁部44a〜44dを形成している。各縁部44b〜44dに沿って、セグメント41の末端は、円形、楕円形、または他の任意の実際的な形状を有する複数のループ45を形成している。図1〜4に示されているように、コード(cord)27はループ45を通して延びており、コード27を利用して縁部44cおよび44dが互いに接合される。コード27がループ45を通して延びる際、ループ45はコード27を受け入れるように回転することができる。セグメント41の端部領域にループ45を形成すると、ループ45のこのような回転が容易になる。
【0019】
セグメント41同士が交差部42で互いに交差するかまたはそうでなければクロスすることができる。セグメント41の向きおよび全体的な位置は、孔43の形状に影響を与える。図1〜5に示されているように、孔43は、細長い四辺形の構成(たとえば、ダイヤモンド形の構成)を呈するように形成されている。特に、セグメント41の大部分は、縁部44aおよび44b間を延びるように向きを定められており、この向きによって、孔43は、縁部44aおよび44bに対して平行な方向よりも、縁部44aおよび44bに対して垂直な方向の方が長くなるように形成される。
【0020】
セグメント41の向きおよび孔43の結果して得られる形状は、マトリックス層40の方向性伸び率(伸縮性)に影響を与える。上記に論じたように、孔43は、細長い四辺形の構成を有し、孔43は、縁部44aおよび44bに対して平行な方向よりも縁部44aおよび44bに対して垂直な方向の方が長い。この構成では、マトリックス層40は、縁部44aおよび44bに対して平行な方向の方が伸び率が高く、マトリックス層40は、縁部44aおよび44bに対して垂直な方向の方が伸び率が低い。したがって、マトリックス層40の伸縮度は、マトリックス層40が伸びる方向によって決まる。
【0021】
方向性伸び率の差は1つには、孔43の細長い四辺形の構成を形成する相対的な角度によるものである。図5を参照すると、様々な孔43が4つの角度46a〜46dを有する孔として参照されている。各角度46aは、角度46aの頂点が縁部44aの方を指すように向きを定められている。各角度46bは、角度46aと向かい合って位置し、角度46bの頂点が縁部44bの方を指すように向きが定められている。同様に、角度46cおよび46dは、互いに向かい合って位置し、角度46cおよび46dの頂点はそれぞれ、縁部44cおよび44dの方を指している。言い換えれば、角度46aおよび46bの頂点は縁部44aおよび44bに対して垂直な方向を指し、角度46cおよび46dの頂点は縁部44aおよび44bに対して平行な方向を指している。追加の点として、各交差部42は、各角度44a〜44dも形成している。
【0022】
角度46aおよび46bは鋭角であるが、マトリックス層40が伸びていないか、または圧縮されていないか、または変形されていない状態であるときには角度46cおよび46dは鈍角である。ラジアン単位で言えば、角度46aおよび46bはそれぞれ、0.50πラジアンよりも小さい値を有し、角度46cおよび46dはそれぞれ、0.50πラジアンよりも大きい値を有している。特に、角度46aおよび46bは、0.25πラジアン(すなわち、45度)のラジアン測定値を有してよいが、たとえば0.01πラジアン〜0.49πラジアンの範囲であってよい。これに応じて、角度46cおよび46dは、0.75π(すなわち、135度)ラジアンのラジアン測定値を有してよいが、たとえば0.51πラジアン〜0.99πラジアンの範囲であってよい。マトリックス層40を伸ばすと、マトリックス層40が伸びる方向に基づいて各角度46a〜46dの相対ラジアン測定値が変化する。
【0023】
マトリックス層40を縁部44aおよび44bに対して垂直な方向に伸ばすと、角度46aおよび46bのラジアン測定値が小さくなり、角度46cおよび46dのラジアン測定値が大きくなる。特に、縁部44aおよび44bに対して垂直な方向に引っ張り力を加えると、角度46aおよび46bのラジアン測定値が零に近づく。さらに引っ張り力を加えた場合、セグメント41の長さが伸びて引っ張り力に抵抗する。角度46aおよび46bが鋭角である場合、ラジアン測定値を零にするには角度46aおよび46bのラジアン測定値を比較的小さい角度に変更するだけでよい。
【0024】
逆に、マトリックス層40を縁部44aおよび44bに対して平行な方向に伸ばすと、角度46cおよび46dのラジアン測定値が小さくなり、角度46aおよび46bのラジアン測定値が大きくなる。特に、縁部44aおよび44bに対して平行な方向に引っ張り力を加えると、角度46cおよび46dのラジアン測定値が零に近づく。さらに引っ張り力を加えた場合、セグメント41の長さが伸びて引っ張り力に抵抗する。角度46cおよび46dが鈍角である場合、ラジアン測定値を零にするには角度46aおよび46bのラジアン測定値を比較的小さい角度に変更するだけでよい。
【0025】
上記の議論に基づいて、引っ張り力を加えると角度46a〜46dのラジアン測定値が得られる。角度46aおよび46bのラジアン測定値と角度46cおよび46dのラジアン測定値の差は、特定の方向におけるマトリックス層40の伸び率に影響を与える。すなわち、角度46aおよび46bが鋭角であると、縁部44aおよび44bに対して垂直な方向の伸び率が比較的低くなる。しかし、角度46cおよび46dが鈍角であると、縁部44aおよび44bに対して平行な方向の伸び率が比較的高くなる。したがって、マトリックス層40は、縁部44aおよび44bに対して平行な方向で伸び率が高くなるように構成される。
【0026】
方向性伸び率の差は、履物10に組み込まれると、履物10の全体的な履き心地および調整性に影響を与える。レース25を締め付けると、少なくともスロート24の領域において、縁部44aおよび44bに対して垂直な方向に効果的に引っ張り力が生じる。この方向に比較的低い伸縮度が与えられたと仮定すると、装着者は、ソール構造30に対して位置させた足を心地よくしかもしっかりと保持する程度にアッパー20を締め付けることができる。しかし、スロート24に隣接する領域では、マトリックス層40は依然として、縁部44aおよび44bに対して平行な方向に伸びることができる。したがって、歩行活動時には、マトリックス層40は、縁部44aおよび44bに対して平行な方向に伸びて、足のたわみまたはその他の動きに適応する。
【0027】
マトリックス層40はまた、足前部領域11に心地よさを与える。足前部領域11では、縁部44aおよび44bに対して垂直な方向が履物10の長手方向に延びていることに留意されたい。したがって、マトリックス層40は、足前部領域11の長手方向では比較的低い伸縮度を有する。足前部領域11の縁部44aおよび44bに対して平行な方向では、マトリックス層40はより高い伸縮度を有する。したがって、マトリックス層40は、足の爪先および母指球を含む足前部の動きまたは寸法の変化に適応するように伸びる。たとえば、足は、踵が地面を離れ、中手指節間接がたわむように前方の回転し、足は、中手指節関節の所で内側方向から外側方向にわずかに膨張することができる。マトリックス層40が内側方向から外側方向に伸びると仮定すると、足のこのような動きは抑制されない。
【0028】
引っ張り力を加えたときのマトリックス層40の伸縮度は、上述のように、少なくとも部分的に孔43の形状によって決まる。マトリックス層40の材料およびセグメント41の太さ(thickness)を含む他の因子もマトリックス層40の伸縮度に影響を与える。上記に列挙されたポリマー材料の多くについては、孔43の面積とセグメント41の面積との適切な比は少なくとも1.5:1であってよい。
【0029】
上述のように、孔43は細長い四辺形の構成を有し、孔43は、縁部44aおよび44bに対して平行な方向よりも縁部44aおよび44bに対して垂直な方向の方が長い。いくつかの履物製品では、他の構成を有する孔43を形成すると有益である場合がある。図6Aを参照すると、孔43が、縁部44aおよび44bに対して垂直な方向よりも縁部44aおよび44bに対して平行な方向の方が長い、マトリックス層40の代替構成の一部が示されている。図6Bは、孔43が方形または細長い形状以外の形状を有する別の構成を示している。図6Cを参照すると、孔43が、丸い形状を有するように示されている。孔43は、図6Dに示されているように楕円形状を呈してもよい。いくつかの態様では、孔43は、図6Eおよび6Fに示されているように、六角形を有するように形成することができる。さらに、孔43は、図6Gおよび6Hに示されている形状に類似した形状を有してよい。したがって、孔43の形状は様々であってよい。
【0030】
マトリックス層40は、アッパー20の大部分を形成するように図1〜3に示されている。しかし、本発明のさらなる局面では、アッパー20は、それぞれの異なる材料または材料のそれぞれの異なる組み合わせを有する複数の層を含んでよく、マトリックス層40は、少なくとも1つの層または少なくとも1つの層の一部を形成することができる。一例として、マトリックス層40の全体的な構成を有する要素を足前部領域11または踵領域13に限定することができ、アッパー20の残りの部分は別の構成を有してよい。さらに、ブーティーまたはソック(sock)を、足を受け入れ、かつ履物10が摩耗したときに足とマトリックス層40の間を延びるように、アッパー20内の空隙内に配置することができる。
【0031】
様々なセグメント41の太さは実質的に一定であってよい。いくつかの態様では、セグメント41の太さは、セグメント41が縁部44aに隣接してより太い太さを有し、縁部44bに隣接してより細い太さを有するように縁部44aおよび44b間で徐々に細くなっていく。この太さは、踵領域13内のセグメント41が領域11および12内のセグメント41よりも細くなるように変化してもよい。セグメント41の断面形状も、たとえば円形、楕円形、方形、または三角形を含むように変化させてよい。断面は、楕円形または矩形で形成した場合、太さを上回る長さを有し、より長い表面を足に隣接して配置することができる。
【0032】
次に、図7A〜7Dを参照して、履物10を製造する方法について論じる。マトリックス層40は、図7Aに示されているようにポリマー材料から型50で単体(すなわち、一体)構成に形成することができる。型50は、上部51および下部52を含んでいる。図示のように、下部52の表面は、マトリックス層40の全体的な形状を有するくぼんだ領域53を含んでいる。代替として、上部51または部分51および52の両方が、マトリックス層40の形状のくぼんだ部分を有してよい。使用時には、部分51および52を互いに重なり合い接触する位置に配置し、くぼんだ領域53にポリマー材料を射出する。ポリマー材料が加硫または硬化した後、図7Aに示されているように、部分51および52を分離し、マトリックス層40を取り外す。
【0033】
マトリックス層40を型50から取り外す際、図7Bに示されているように、縁部44aに隣接してラスティング(lasting)要素28を固定する。ラスティング要素28は、マトリックス層40に接着剤によって固定することができる。しかし、マトリックス層40を熱可塑性ポリマーで形成する際、ボンディング(bonding)を使用してマトリックス層40をラスティング要素28に接合することができる。ラスティング要素28の適切な材料には、たとえば、織布・不織布を問わない繊維製品、またはポリマーシート材料が含まれる。代替として、ポリマー材料を射出する前にラスティング要素28を型50内に(すなわち、くぼんだ領域53内に)配置することができる。ポリマー材料を型50内に射出する際、ポリマー材料の一部がラスティング要素28に接触し、加硫するかまたはそうでなければ硬化するかあるいは重合され、それによってラスティング要素28がマトリックス層40に固定される。いくつかの態様では、マトリックス層40の一部がラスティング要素28に機械的に接合される密着構成を利用することができる。
【0034】
ラスティング要素28が縁部44aに固定された後、図7Cに示されているように、コード27をマトリックス層40に組み込む。上記に指摘したように、コード27は、ループ45を通して延び、縁部44cおよび44dを互いに接合するのに利用される。特に、コード27は、スロート24内のループ45を通し、足首開口部26に隣接するループ45を通し、縁部44cおよび44dを形成するループ45を通して延びる。コード27を組み込む前に、縁部44cおよび44dを互いに隣接させて配置する。次に、コード27は縁部44cおよび44dに沿ってループ45を通って延び、縁部44cおよび44dを互いに接合する。図7Cを見ると分かるように、このようにコード27をマトリックス層40に組み込むと、マトリックス層40がアッパー20の一般的な形状に形成され始める。さらに、この時点で踵要素48を組み込むことができる。1本のコード27を使用する代わりに、以下に詳しく論じるように2本以上のコード27を利用することができる。
【0035】
履物10を製造するプロセスにおけるさらなる段階を図7Dに示す。ここでは、レース25およびストロベル(strobel)ソック29をマトリックス層40に接合する。コード27がループ45を通して延びると、少なくともスロート24において様々なセグメント41とコード27の間に孔が形成され、これらの孔にレース25を通すことができる。したがって、レース25を、スロート24を横切ってジグザグパターンを描いて延びるようにアッパー20に組み込むことができる。ストロベルソック29は、アッパー20内の空隙の下面を形成する。上述のように、ラスティング要素28を縁部44aに接合する。ストロベルソック29をマトリックス層40に接合する際、ストロベルソック29をラスティング要素28に縫い付けるか、接着剤で結合するか、またはそうでなければ接合することができる。次に、ソール構造30をアッパー20に接合して履物10の製造を事実上完了する。さらに、この時点で爪先要素49を組み込むことができる。いくつかの態様では、マトリックス層40またはラスティング要素28の一部をソール構造30に機械的に接合する密着構成を利用することができる。さらに、マトリックス層20が足前部領域11または踵領域13の周りを延びる領域では、図7Dに示されているようにラスティング要素28をまとめてこれらの領域におけるアッパー20の丸められた構成を容易にすることができる。すなわち、ラスティング要素28は、製造プロセス時にマトリックス層40をまとめるのを容易にする。
【0036】
従来の履物製品では、アッパーは特定のサイズを有する履物に適合するように形成される。たとえば、サイズ10用に形成されるアッパーはサイズ9.5用に形成されるアッパーよりも大きい。マトリックス層40を利用することの利点は、あるサイズのマトリックス層40を一連の履物サイズに使用できることである。たとえば、単一の型を利用して5つの実質的に同一のマトリックス層40を形成することができ、8から10までのサイズを有する個々の履物製品にマトリックス層40を組み込むことができる。上述のように、マトリックス層40は、縁部44aおよび44bに対して平行な方向で伸び率がより高くなるように構成される。マトリックス層40をアッパーに組み込む際に伸ばすことによって、連続的に大きくなるサイズを有する履物にマトリックス層40を組み込むことができる。状況によっては、マトリックス層40の圧縮を利用してマトリックス層40を連続的に小さくなる履物製品に組み込むことができる。すなわち、図8に示されているように、個々のマトリックス層40を、一連の足のサイズを受け入れるサイズの履物製品に組み込むことができる。
【0037】
個々のマトリックス層40を様々な履物サイズに利用することができる場合、履物10の製造効率が高くなる。個々のマトリックス層40を利用して右足または左足を受け入れるように履物10を形成することができる。図5に示されているように、マトリックス層40は、概ね対称的な構造を有し、したがって、右足または左足用の履物10に組み込むことができる。マトリックス層40が対称的ではない状況では、単に裏返すかまたはそうでなければマトリックス層40の向きを逆にすることによって、個々のマトリックス層40は右足または左足を受け入れることができる。したがって、マトリックス層40の1つの構成が右足用の履物10にも左足用の履物10にも適しているという点で、履物10の製造効率がさらに高められる。
【0038】
上述のように、マトリックス層40は、縁部44aおよび44bに対して垂直な方向よりも縁部44aおよび44bに対して平行な方向でより高い伸び率を有するように構成される。状況によっては、縁部44aおよび44bに対して平行な方向でより低い伸び率が必要とされる場合がある。縁部44aおよび44bに対して平行な方向の伸び率を変化させる一方法では、角度46a〜46dのラジアン測定値が修正される。しかし、これは縁部44aおよび44bに対して垂直な方向の伸び率も変化させるという効果を有する。縁部44aおよび44bに対して垂直な方向の伸び率を実質的に変化させずに縁部44aおよび44bに対して平行な方向の伸び率を変化させるために、図9Aに示されているように1つまたは複数の接続部材47を利用してもよい。接続部材47は、選択された孔43を二分し、角度44cから角度44dまで延びてこれらの孔43の伸縮度を制限する。
【0039】
履物10は、上記では、単一のマトリックス層40を備えた履物として論じられている。図9Bを参照すると、一対のマトリックス層40が履物10に組み込まれている。一方のマトリックス層40はアッパー20の外面を形成し、他方のマトリックス層40はアッパー20の内面を形成している。すなわち、各マトリックス層は、同一の広がりを呈し、履物10の外面および内面を交互に形成している。各マトリックス層40は同じ材料で形成することができる。代替として、たとえば、外面を形成するマトリックス層40を、耐摩耗性を有する材料として選択された材料で形成することができ、内面を形成するマトリックス層40を、履き心地を良くする材料または(たとえば、装着者が履物10を裸足で履くのを可能にするために)触覚特性を向上させた材料として選択された材料で形成することができる。したがって、マトリックス層40はそれぞれ、協働して履物10に有益な特性をもたらす様々な材料で形成することができる。
【0040】
履物10は、図1〜3では、足首開口部26が足首の下部領域の周りを延びる構成を有するように示されている。しかし、図9Cでは、履物10は、ユーザの足首の周りを延び、足首開口部26の位置を足首の上部領域まで上昇させる延長マトリックス40'を含むように示されている。図示のように、延長マトリックス40'は、ループ45に類似しており、かつコード27を受け入れ、それによって延長マトリックス40'を履物10に接合する様々なループ45'を含んでいる。コード27は、上向きに延び、踵領域13の背面に沿って延長マトリックス40'の縁部同士を接合しており、レース25は延長マトリックス40'の前部に沿って延びている。コード27およびレース25のそれぞれを調整することによって、マトリックス層40'を足首の周りに嵌める方法を修正することができる。延長マトリックス40'は、上記では、マトリックス層40から分離された要素として論じられている。しかし、いくつかの態様では、延長マトリックス層40'をマトリックス層40を有する単体構成で形成することができる。
【0041】
上記にマトリックス層40に関して論じたように、コード27はループ45を通して延びており、少なくともスロート24における様々なセグメント41とコード27の間に孔が形成されている。この場合、これらの孔にレース25を通すことができる。同様の構成を延長マトリックス40'に利用することができる。代替として、図9Cに示されているように、レース25は直接ループ45'を通して延びることができる。したがって、ループ45および/またはループ45'は、コード27ではなくレース25を受け入れ、レーシングシステムを形成することができる。
【0042】
図9Cの履物10の追加の特徴は、側面21および22の各々上ならびに足前部領域11と足中部領域12の接合部に配置された安定性マトリックス40''に関する。安定性マトリックス40''は、マトリックス層40の一部と重なり合い、足の側面の安定性を高める。図示のように、安定性マトリックス40''は、概ね三角形状を有するが、本発明の範囲内の様々な形状を有してよい。安定性マトリックス40''は、足前部領域11と足中部領域12の接合部に位置するように示されているが、同様の要素を履物10の他の領域に配置することができる。安定性マトリックス40''はソール構造30の外部に固定されるように示されているが、安定性マトリックス40''は他の位置に固定することもできる。
【0043】
上記に論じたように、セグメント41の太さは、マトリックス層40の伸縮度に影響を与える。履物10の横方向安定性を向上させるには、図9Dに示されているようにセグメント41の太さを選択的に太くし、横方向運動時の安定性を高めることができる。図示のように、踵領域13および足中部領域12の一部内のセグメント41は、より太い太さを呈している。さらに、安定性マトリックス40''に関連するセグメントもより太い太さを呈する。いくつかの態様では、マトリックス層40の他の領域および延長マトリックス40'の一部は、より太い太さを呈してよい。したがって、より太いセグメント41を履物10の任意の領域に利用して安定性を高めることができる。
【0044】
バスケットボールなどのスポーツ時において、横方向への運動時には踵の安定性がより高いと有益である。セグメント41の太さを太くすることは、安定性を高める一方法を構成する。この方法の他にまたはこの方法と組み合わせて、図9Eに示されているように、アッパー20に補強構造60を組み込むことができる。特に、補強構造60を、踵領域13の周りを延び、かつ安定性を高めるように、ソール構造30およびマトリックス層40の外部に固定することができる。さらなる態様では、他の構成の補強構造60を足中部領域12に配置して足のアーチを支持するか、または他の構成の補強構造60を足前部領域11に配置することができる。したがって、様々な補強構造をアッパー20に組み込んで安定性を高めることができる。
【0045】
上記に図9C〜9Eに関して論じた様々な概念を他の構成の履物10に適用することもできる。図9Fを参照すると、たとえばランニング、テニス、またはクロストレーニングに適した構成を有する履物10に安定性マトリックス40''が組み込まれている。さらに、プレート状構成を有する補強構造60'が踵領域13に組み込まれている。
【0046】
1本のコード27を使用する代わりに2本以上のコード27を利用することができる。図10Aを参照すると、第1のコード27'は、スロート24内のループ45および足首開口部26に隣接するループ45を通して延びることができる。縁部44cおよび44dを形成するループ45を通して第2のコード27''が延びることもできる。さらに、第2のコード27''は、踵要素48に固定され、第2のコード27''を締め付けて第2のコード27''の相対的な位置を保持する固定具48'を通して延びている。この構成では、2本のコード27'および27''を、履物10のフィット感を向上させるようにそれぞれ独立に調整することができる。たとえば、ユーザは、図10Bに示されているように、コード27''の上部を引き上げて締め付け、踵領域13のフィット感を向上させることができる。同様に、ユーザは、第2のコード27''を緩めて踵領域13に追加的な体積を形成することができる。実際、第2のコード27''を締め付け緩めると、縁部44cおよび44dの相対的な位置が移動して(すなわち、縁部44cおよび44d間の空間が小さくなるかまたは大きくなって)踵領域13のフィット感が調整される。いくつかの態様では、縁部44cに沿ったループ45を、縁部44dに沿ってループ45を通して延び縁部44cおよび44dを接合する突起で形成することができる。したがって、コード27以外の構造を利用して縁部44cおよび44dを接合することができる。
【0047】
履物10が摩耗し、マトリックス層40が足または足の周りを延びるソックのすぐ隣に位置することがある。いくつかの態様では、図11に示されているように、マトリックス層40と足の間をライナー70が延びることができる。ライナー70は一般に、アッパー20内に形成された空隙の形状に対応する形状を有している。履物10の安定性を高めるために、ライナー70を形成する繊維製品材料は、半剛性の支持体72を受け入れる様々なポケット71を有してよい。ポケット71および支持体72は、概ね鉛直方向に延びて足首の内側および外側に沿って支持することができる。または、支持体72は足首の周りを延びるかもしくは足に隣接して延びることができる。
【0048】
アッパー20とライナー70の間の顕著な移動を防止するために、ライナー70の下面に固定具73を組み込んでよく、アッパー20の内部に対応する固定具を組み込んでよい。たとえば、固定具73がフック・ループ固定システムのフック部である場合、ループ部をアッパー20内に位置させることができる。固定具73は、ライナー70の下面およびアッパー20内の空隙の下面上に配置された、ネオプレンなどの非滑り材料であってもよい。ライナー70をアッパー20内に配置すると、固定具73は、アッパー20に対するライナー70のさらなる移動を効果的に制限し、それによって足をしっかりと位置決めする。固定具73のフック・ループ固定システムの代わりに、たとえばスナップ、ボタン、および接着剤を含む他の種類の固定システムを利用することができる。さらに、固定具73の位置は、側面および裏面を含む、ライナー70の下面以外の位置を含む様々な位置のいずれであってもよい。したがって、固定具の種類および位置は様々であってよい。
【0049】
ライナー70は一般に、履物10の履き心地を向上させる。ある移動時には、マトリックス層40の一部が足に圧力を加えることがあり、ライナー70は足の広い領域にわたって圧力を分散させる働きを有する。ライナー70にフォーム材料を組み込んで履き心地をさらに向上させることができ、ライナー70の材料は、足を冷却し汗の消散を可能にするように通気性であってもよい。ライナー70を形成する材料は、防水性または耐水性であってもよい。
【0050】
コード27がループ45を通して延びる際、ループ45は捩れるかまたはそうでなければ回転してコード27に適応することができる。マトリックス層40を形成する材料は、この回転に適応するのに十分な程度の可とう性を有してよいが、この回転はマトリックス層40の材料へのさらなる応力を生じさせる。図12を参照すると、マトリックス層40は、ループ45が捩れるかまたは回転した構造を有するように形成される構成を有するように示されている。図5では、ループ45は、マトリックス層40の残りの部分と同一平面を形成している。これに対して、図12は、ループ45がマトリックス層40の残りの部分に対して傾斜した構成を示している。すなわち、ループ45は、コード27を追加的に著しく捻るかまたは回転させる必要無しにコード27に適応する、捩れるかまたはそうでなければ回転した構成を有するように形成されている。図12では、ループ45は、マトリックス層40の残りの部分に対して45度の角度に傾斜するように示されているが、さらなる構成では5度〜90度の範囲であってよい。
【0051】
本発明は、上記および添付の図面に様々な態様を参照して開示される。しかし、この開示によって満たされる目的は、本発明の各局面に関する様々な特徴および概念の一例を示すことであり、本発明の各局面の範囲を限定することではない。当業者には、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱せずに上述の各態様に多数の変形および修正を施しうることが認識されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物の内側および外側の少なくとも一方に沿って延びる マトリックス構造を含み、マトリックス構造が、互いにクロスして複数の交差部および孔を規定する複数のセグメントから形成され、交差部の少なくとも一部がそれぞれ、第1の角度および第2の角度を規定し、第1の角度が実質的に鉛直な方向に向けられた鋭角であり、第2の角度が実質的に水平な方向に向けられた鈍角である、アッパー(upper)と、
アッパーに固定されたソール構造とを含む、履物製品。
【請求項2】
セグメントの少なくとも一部が湾曲した構成を呈する、請求項1記載の履物製品。
【請求項3】
孔が実質的に四辺形の形状を呈する、請求項1記載の履物製品。
【請求項4】
マトリックス構造が単体のポリマー要素から形成される、請求項1記載の履物製品。
【請求項5】
マトリックス構造の縁部がアッパーのスロート(throat)領域を規定し、スロート領域に隣接して位置する孔を通してレース(lace)が延びている、請求項1記載の履物製品。
【請求項6】
マトリックス構造の縁部がアッパーの足首開口部を規定し、足首開口部に隣接して位置する孔を通してコード(cord)が延びている、請求項5記載の履物製品。
【請求項7】
マトリックス構造の縁部対が、履物の足首領域を通過して鉛直に延び、かつ互いに隣接して位置し、縁部対を互いに接合するように縁部対に隣接して位置する孔を通してコードが延びている、請求項1記載の履物製品。
【請求項8】
孔の面積がセグメントの面積よりも大きい、請求項1記載の履物製品。
【請求項9】
セグメントの面積と孔の面積の比がマトリックス構造全体にわたって変化し、履物の足中部(midfoot)領域での該比が、履物の足前部(forefoot)領域および踵領域での該比よりも高い、請求項1記載の履物製品。
【請求項10】
孔を二分するように孔を通して接続要素が延びており、接続要素が第2の角度対の2つの間を延びている、請求項1記載の履物製品。
【請求項11】
マトリックス構造と同一の広がりをもつ別のマトリックス構造を含む、請求項1記載の履物製品。
【請求項12】
マトリックス構造が、マトリックス構造の縁部上に配置された様々なループを規定する、請求項1記載の履物製品。
【請求項13】
ループがコードを受け入れる、請求項12記載の履物製品。
【請求項14】
ループが、マトリックス層の残りの部分の平面に対して回転される、請求項12記載の履物製品。
【請求項15】
第1の縁部および反対側の第2の縁部を規定するマトリックス構造を含み、マトリックス構造が、第1の縁部と第2の縁部の間を延びる複数の細長いセグメントから形成され、セグメントが複数の交差部および孔を規定し、交差部は、2つのセグメントが互いにクロスする地点であり、孔は、セグメント同士の間の領域であり、交差部の少なくとも一部が、第1の角度対および第2の角度対を規定し、第1の角度対が、第1の縁部および第2の縁部に対して実質的に垂直な方向に向けられた鋭角であり、第2の角度対が、第1の縁部および第2の縁部に対して実質的に平行な方向に向けられた鈍角である、アッパーと、
アッパーに固定されたソール構造とを含む、履物製品。
【請求項16】
マトリックス構造が単体のポリマー要素から形成される、請求項15記載の履物製品。
【請求項17】
マトリックス構造がU字構成を有する、請求項15記載の履物製品。
【請求項18】
マトリックス構造のU字構成が、中央領域と中央領域から延びる側面領域対とを有し、中央領域が履物の足前部領域内に位置し、側面領域対が、履物の足中部領域および踵領域を通過して延びるように位置する、請求項17記載の履物製品。
【請求項19】
側面領域対の端部が、踵領域内で共に接合される、請求項18記載の履物製品。
【請求項20】
第1の縁部にラスティング(lasting)要素が固定され、ラスティング要素が、マトリックス構造をソール構造に接合するように第1の縁部の少なくとも一部に沿って延びている、請求項15記載の履物製品。
【請求項21】
ラスティング要素が、マトリックス構造の材料とは異なる材料から形成される、請求項20記載の履物製品。
【請求項22】
ラスティング要素が繊維製品材料から形成される、請求項20記載の履物製品。
【請求項23】
第1の縁部がソール構造に隣接して位置し、第2の縁部がアッパーのスロート領域および足首開口部を規定する、請求項15記載の履物製品。
【請求項24】
スロート領域に隣接して位置する孔を通してレースが延びている、請求項23記載の履物製品。
【請求項25】
セグメントの、第2の縁部に隣接して位置する端部が、複数の開口部を規定し、コードが、該開口部を通ってスロート領域および足首開口部の周りを延びている、請求項23記載の履物製品。
【請求項26】
マトリックス構造が、第1の縁部と第2の縁部の間を延びる第3の縁部対を含み、第3の縁部がアッパーの踵領域内に位置し、コードが第3の縁部同士を互いに接合する、請求項25記載の履物製品。
【請求項27】
孔の面積がセグメントの面積よりも大きい、請求項15記載の履物製品。
【請求項28】
セグメントの面積と孔の面積の比がマトリックス構造全体にわたって変化し、履物の足中部領域での該比が、履物の足前部領域および踵領域での該比よりも高い、請求項15記載の履物製品。
【請求項29】
孔が実質的に四辺形の形状を呈する、請求項15記載の履物製品。
【請求項30】
接続要素が、孔を通して、かつ第1の縁部および第2の縁部に対して実質的に平行な方向に延びている、請求項15記載の履物製品。
【請求項31】
接続要素が第2の角度対の2つの間を延びている、請求項30記載の履物製品。
【請求項32】
セグメントの少なくとも一部が湾曲した構成を呈する、請求項15記載の履物製品。
【請求項33】
ソール構造が第1の長さを有し、別の履物製品が、第2の長さを有するソール構造を有し、第1の長さが第2の長さよりも短く、履物製品のマトリックス構造および該別の履物製品のマトリックス構造が実質的に同一の寸法を有し、該別の履物製品のマトリックス構造が、該別の履物製品のソール構造に適合するように第1の縁部および第2の縁部に対して平行な方向に伸ばされる、請求項15記載の履物製品。
【請求項34】
履物の足前部領域内の鋭角が、履物の足中部領域内の鋭角よりも小さい、請求項15記載の履物製品。
【請求項35】
マトリックス構造と同一の広がりをもつ別のマトリックス構造を含む、請求項15記載の履物製品。
【請求項36】
マトリックス構造が、マトリックス構造の縁部上に配置された様々なループを規定する、請求項15記載の履物製品。
【請求項37】
ループがコードを受け入れる、請求項36記載の履物製品。
【請求項38】
少なくとも1つのループの一部が、マトリックス層の残りの部分の平面に対して回転される、請求項36記載の履物製品。
【請求項39】
履物の少なくとも内側側面および外側側面に沿って延びるポリマー層を有し、ポリマー層が、履物の長手方向軸に対して実質的に垂直に延びるように向けられた細長い構成を有する複数の孔を規定し、長手方向軸が、履物の足前部領域と踵領域の間を延びる、アッパーと、
アッパーに固定されたソール構造とを含む、履物製品。
【請求項40】
孔が実質的に四辺形の形状を呈する、請求項39記載の履物製品。
【請求項41】
孔が、第1の角度対および第2の角度対を規定する実質的に四辺形の形状を呈し、第1の角度対が、長手方向軸に対して実質的に垂直に向けられた鋭角であり、第2の角度対が、長手方向軸に対して実質的に平行な方向に向けられた鈍角である、請求項39記載の履物製品。
【請求項42】
ポリマー層が第1の縁部および反対側の第2の縁部を規定し、ポリマー層が、第1の縁部と第2の縁部の間の方向に延びる複数のセグメントから形成され、セグメントが孔を規定する、請求項39記載の履物製品。
【請求項43】
セグメントの少なくとも一部が湾曲した構成を呈する、請求項42記載の履物製品。
【請求項44】
ポリマー層が単体のポリマー要素から形成される、請求項39記載の履物製品。
【請求項45】
ポリマー層の縁部にラスティング要素が固定され、ラスティング要素が、縁部の少なくとも一部に沿って延びてポリマー層をソール構造に接合し、ラスティング要素は、ポリマー層の材料とは異なる材料から形成される、請求項39記載の履物製品。
【請求項46】
ラスティング要素が繊維製品材料から形成される、請求項45記載の履物製品。
【請求項47】
ポリマー層の第1の縁部がソール構造に隣接して位置し、ポリマー層の第2の縁部がアッパーのスロート領域および足首開口部を規定する、請求項39記載の履物製品。
【請求項48】
スロート領域に隣接して位置する孔を通してレースが延びている、請求項47記載の履物製品。
【請求項49】
セグメントの、第2の縁部に隣接して位置する端部が、複数の開口部を規定し、コードが、該開口部を通ってスロート領域および足首開口部の周りを延びている、請求項47記載の履物製品。
【請求項50】
孔の面積がポリマー層の面積よりも大きい、請求項39記載の履物製品。
【請求項51】
ポリマー層の面積と孔の面積の比がマトリックス構造全体にわたって変化し、履物の足中部領域での該比が、履物の足前部領域および踵領域での該比よりも高い、請求項39記載の履物製品。
【請求項52】
ソール構造が第1の長さを有し、別の履物製品が、第2の長さを有するソール構造を有し、第1の長さが、第2の長さよりも短く、履物製品のポリマー層および該別の履物製品のポリマー層が実質的に同一の寸法を有し、該別の履物製品のポリマー層が、該別の履物製品のソール構造に適合するように第1の縁部および第2の縁部に対して平行な方向に伸ばされる、請求項39記載の履物製品。
【請求項53】
ポリマー層と同一の広がりをもつ別のポリマー層を含む、請求項39記載の履物製品。
【請求項54】
アッパーとアッパーに固定されたソール構造とを有する履物製品であって、アッパーの少なくとも一部が、履物の少なくとも内側側面および外側側面に沿って延びるポリマー層から成り、ポリマー層が、複数の孔を規定する複数の交差したセグメントを有し、孔が、履物の長手方向に対して実質的に垂直に延びるように向けられた細長い構成を有し、長手方向軸が、履物の足前部領域と踵領域の間を延びる、履物製品。
【請求項55】
孔が実質的に四辺形の形状を呈する、請求項54記載の履物製品。
【請求項56】
セグメントの少なくとも一部が湾曲した構成を呈する、請求項54記載の履物製品。
【請求項57】
孔が、第1の角度対および第2の角度対を規定する実質的に四辺形の形状を呈し、第1の角度対が、長手方向軸に対して実質的に垂直に向けられた鋭角であり、第2の角度対が、長手方向軸に対して実質的に平行な方向に向けられた鈍角である、請求項54記載の履物製品。
【請求項58】
孔の面積がセグメントの面積よりも大きい、請求項54記載の履物製品。
【請求項59】
細長い構成を有する複数の第1の孔を規定する第1のポリマー要素を型によって形成する段階;
第1の長さを有する第1のソール構造に第1のポリマー要素を固定して第1のアッパーの少なくとも一部を形成する段階;
第1のポリマー要素と実質的に同一の第2のポリマー要素を型によって形成する段階;および
第1の長さよりも長い第2の長さを有する第2のソール構造に第2のポリマー要素を固定して第2のアッパーの少なくとも一部を形成する段階
を含む、第1の履物製品および第2の履物製品を製造する方法。
【請求項60】
第1のポリマー要素を第1のソール構造に固定する前に第1のポリマー層を長く伸ばす段階;および
第2のポリマー要素を第2のソール構造に固定する前に、第2のポリマー層を、第1のポリマー層の長さよりも長い長さに伸ばす段階
をさらに含む、請求項59記載の方法。
【請求項61】
第1のポリマー層を形成する段階が、複数の細長く互いに交差するセグメントを形成する段階を含み、第1の孔がセグメント同士の間に形成される、請求項59記載の方法。
【請求項62】
第1のポリマー層を形成する段階が、湾曲した構成を呈するようにセグメントの少なくとも一部を形成する段階をさらに含む、請求項61記載の方法。
【請求項63】
第1のポリマー層を形成する段階が、実質的に四辺形の形状を呈するように孔を形成する段階を含む、請求項59記載の方法。
【請求項64】
第1のポリマー層を形成する段階が、第1の角度対および第2の角度対を規定するように各孔を形成する段階をさらに含み、第1の角度対が、第1の長さの方向に対して実質的に垂直に向けられた鋭角であり、第2の角度対が、第1の長さの方向に対して実質的に平行な方向に向けられた鈍角である、請求項63記載の方法。
【請求項65】
第1のポリマー要素を第1のソール構造に固定する段階が、第1のポリマー要素をラスティング要素に接合する段階を含む、請求項59記載の方法。
【請求項66】
第1のアッパーのスロート領域に隣接して位置する第1の孔にレースを通す段階をさらに含む、請求項59記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−161634(P2012−161634A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−95309(P2012−95309)
【出願日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【分割の表示】特願2008−517224(P2008−517224)の分割
【原出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(505424859)ナイキ インターナショナル リミテッド (249)
【Fターム(参考)】