説明

リチウムイオン二次電池とその製造方法

【課題】 リチウムイオン二次電池の生産効率を向上させる技術を提供する。
【解決手段】 リチウムイオン二次電池は、セパレータ5を介して正極電極6と負極電極4が対向している正負極の対が複数積層されている電池構造体18を備える。負極電極4Xの負極集電体20Xには、第1貫通孔30が形成されている。正極電極6の正極集電体26には、第2貫通孔32が形成されている。負極電極4Yの負極集電体20Yには、第3貫通孔34が形成されている。電池構造体18の積層方向の端部に配置されている負極電極4Xの負極集電体20Xの開孔率は、負極電極4Yの負極集電体20Yの開孔率及び正極電極6の正極集電体26の開孔率よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池では、電池容量を向上させるために、正極電極及び負極電極で使用する材料の検討が活発に行われている。リチウム元素を含まない材料で正極電極及び負極電極を製造すると、リチウムイオン二次電池の電池容量を向上させることができることが知られている。典型的に、正極電極は正極集電体と正極活物質で構成されており、負極電極は負極集電体と負極活物質で構成されている。ここで上記知見をより正確に表現すると、正極活物質及び負極活物質で使用する材料をリチウム元素を含まない材料とすれば、リチウムイオン二次電池の電池容量を向上させることができる。
【0003】
しかしながら、正極活物質及び負極活物質の双方がリチウム元素を含まない材料である場合、少なくとも正極活物質及び負極活物質の一方にリチウムイオンをドーピングすることが必要である。この場合、正極電極及び/又は負極電極とともにリチウム金属を電解液内に配置し、正極活物質及び/又は負極活物質にリチウムイオンをドーピングする。なお、以下の説明では、正極電極と負極電極に共通する特徴を説明する場合に、単に「電極」と称する場合がある。同様に、正極集電体と負極集電体を単に「集電体」と称し、正極活物質と負極活物質を単に「活物質」と称することがある。
【0004】
特許文献1には、正極活物質及び負極活物質の双方がリチウム元素を含まない材料で構成されているリチウムイオン二次電池が開示されている。特許文献1では、負極活物質にリチウムイオンをドーピングする。貫通孔を有する正極集電体と貫通孔を有する負極集電体を用いて電池構造体を作製し、リチウム箔と負極電極を電気的に接続した状態で電解液に浸す。リチウム箔からリチウムイオンが放出され、リチウムイオンが、上記した貫通孔を通過して負極活物質にドーピングされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−40370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池の生産効率を向上させるためには、活物質に対するリチウムイオンのドーピング速度を速くすることが好ましい。集電体の開孔率を大きくすれば、リチウムイオンのドーピング速度を速くすることができると考えられる。しかしながら、集電体の開孔率を大きくすると、集電体の強度が低下し、電極が破損することがある。そのため、従来の技術では、集電体の開孔率を大きくすることには限界があり、生産効率を十分に向上させることができない。本明細書は、活物質に対するリチウムイオンのドーピング速度を速くすることにより、リチウムイオン二次電池の生産効率を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの研究の結果、リチウムイオンのドーピング速度は、積層方向の端部に配置されている集電体の開孔率に大きく依存することが判明した。換言すると、リチウムイオンの移動速度は、積層方向の中間に配置されている集電体(積層方向の端部以外に配置されている集電体)の開孔率にはほとんど依存しないことが判明した。すなわち、積層方向の端部に配置されている集電体の開孔率のみを大きくすれば、積層方向の中間に配置されている集電体の開孔率を小さくしても、リチウムイオンのドーピング速度が速くなるという知見を得た。積層方向の中間では集電体の開孔率を大きくする必要がないので、積層方向の中間の電極の強度は維持される。その結果、電池構造体の全体としては強度を維持することができる。
【0008】
リチウムイオンを活物質にドーピングする場合、電池構造体の外側にリチウムイオンを供給する材料(以下、リチウムイオン供給体と称する)を配置し、電極(正極電極又は負極電極)とリチウムイオン供給体の間に電圧を印加する。あるいは、リチウムイオン供給体と電池構造体の端部の電極とを直接接触(短絡)させ、活物質にリチウムイオンをドーピングする。リチウムイオンは、電池構造体の外側から内側へ向けて、集電体の貫通孔を通過しながら移動する。リチウムイオンが電池構造体の内部に向けて移動する際に、積層方向の端部に配置されている集電体は、全てのリチウムイオンを通過させることが必要である。そのため、リチウムイオンの移動抵抗を減少させるために、積層方向の端部に配置されている集電体の開孔率は、大きい程好ましい。
【0009】
リチウムイオンの一部が積層方向端部の活物質に留まるので、電池構造体の内部では、集電体に到達するリチウムイオンの数が少ない。そのため、積層方向の中間に配置する集電体は、積層方向端部の集電体のように大きな貫通孔を形成しなくても、リチウムイオンの移動抵抗を増大させない。積層方向の中間に配置されている集電体は、電極の強度を維持するために、積層方向の端部に配置されている集電体よりも開孔率を小さくすることができる。
【0010】
本明細書で開示する技術は、上記知見に基づいて完成したものである。本明細書で開示するリチウムイオン二次電池は、セパレータを介して正極電極と負極電極が対向している正負極の対が複数積層されている。また、正極電極の集電体及び負極電極の集電体の各々には、厚み方向に貫通する孔が形成されている。さらに、積層方向の端部に配置されている端部電極の集電体の開孔率が、端部電極の間に配置されている中間電極の集電体の開孔率よりも大きい。
【0011】
上記したリチウムイオン二次電池では、正極電極と負極電極を交互に積層することにより、積層型の電池構造体を形成している。上記したように、端部電極の集電体の開孔率を大きくし、中間電極の集電体の開孔率を小さくすることにより、リチウムイオンのドーピング速度を速くしつつ、電池構造体の強度を維持することができる。なお、全ての集電体が貫通孔を有しているので、電池構造体の積層方向の中間に配置されている活物質にもリチウムイオンがドーピングされている。
【0012】
上記したように、端部電極の集電体の開孔率を大きくすると、端部電極の強度が低下する虞がある。そのため、端部電極の集電体が、他の電極の集電体よりも厚いことが好ましい。端部電極の強度の低下をも抑制することができる。
【0013】
上記のリチウムイオン二次電池では、リチウムイオンが正極活物質にドーピングされていても、負極活物質にドーピングされていてもよい。しかしながら、リチウムイオンは、負極活物質にドーピングされていることが好ましい。リチウムイオンが正極活物質にドーピングされているよりもリチウムイオンが負極活物質にドーピングされている方が、負極の電位が低下するので、電池容量を高くすることができる。この場合、端部電極が負極電極であれば、端部電極の活物質にリチウムイオンの一部が留まるので、中間電極におけるリチウムイオンの移動抵抗が増大することを抑制することができる。
【0014】
上記のように、本明細書で開示するリチウムイオン二次電池は、セパレータを介して正極と負極が対向している電極対が複数積層されている電池構造体を備える。本明細書では、そのリチウムイオン二次電池の製造方法をも提供する。その製造方法は、電極形成工程と、積層工程と、配置工程と、ドーピング工程を備える。電極形成工程では、厚み方向に貫通する孔が形成された集電体を用いて、正極電極と負極電極を形成する。積層工程では、正極電極と負極電極を交互に積層して電池構造体を作製する。配置工程では、容器内に電池構造体を配置し、電池構造体の積層方向の外側にリチウムイオン供給体を配置する。ドーピング工程では、リチウムイオンを、正極電極と負極電極の少なくとも一方にドーピングする。上記積層形成工程では、他の電極の集電体よりも開孔率が大きな集電体を用いて作成した電極を、電池構造体の積層方向端部に配置する。なお、リチウムイオン供給体として、単体のリチウム金属(Li)、リチウム化合物等を利用することができる。リチウム化合物の例として、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、Li5FeO4、Li2MnO3、LiFePO4、LiV24等が挙げられる。
【0015】
ドーピング工程では、電池構造体の端部の電極とリチウムイオン供給体を短絡させ、活物質にリチウムイオンをドーピングしてもよい。あるいは、正極電極又は負極電極と、リチウムイオン供給体の間に電圧を印加してリチウムイオンをドーピングしてもよい。リチウムイオン供給体と電極(正極電極又は負極電極)との電位差を調整することができるという観点から、後者の方法がより好ましい。リチウムイオン供給体と電極との電位差を調整することにより、ドーピング速度を調整することができる。
【0016】
上記したように、正極活物質及び負極活物質の双方がリチウム元素を含まない材料である場合、いずれかの活物質にリチウムイオンをドーピングすることが必要である。そのため、本明細書に開示する技術は、正極活物質及び負極活物質の双方がリチウム元素を含まない材料である場合に特に有用である。しかしながら、正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方がリチウム元素を含む材料である場合でも、電池容量を向上させるために、リチウムイオンを活物質にドーピングすることがある。本明細書で開示する技術は、リチウムイオンが活物質にドーピングされたリチウムイオン二次電池であれば、正極活物質及び負極活物質の材料に限定されることなく適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本明細書で開示される技術によると、リチウムイオン二次電池の生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】リチウムイオン二次電池の要部断面図を示す。
【図2】電池構造体の部分拡大図を示す。
【図3】端部電極の集電体の平面図を示す。
【図4】中間電極の集電体の平面図を示す。
【図5】中間電極の集電体の変形例を示す。
【図6】端部電極の集電体の変形例を示す。
【図7】リチウムイオン二次電池の製造工程を説明する図を示す(1)。
【図8】リチウムイオン二次電池の製造工程を説明する図を示す(2)。
【図9】実験に用いた電池構造体の基本構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、積層型の電池構造体18を備えている。電池構造体18は、正極電極6と負極電極4が対向している電極対(正負極の対)7を複数個備える。電極対7は、正極電極6とセパレータ5と負極電極4を備えている。正極電極6と負極電極4は、セパレータ5を介して対向している。セパレータ5によって、正極電極6と負極電極4が絶縁されている。電池構造体18では、正極電極6と負極電極4が交互に積層されている。全ての正極電極6が正極端子12に電気的に接続されており、全ての負極電極4が負極端子2に電気的に接続されている。電池構造体18は、電解液とともに電池ケース16内に配置されている。電解液は、電池ケース16内の空間14を満たしているとともに、電池構造体18が有する隙間も満たしている。
【0020】
図1では、積層方向の端部に配置されている負極電極4Xと、積層方向の中間部に配置さている負極電極4Yを区別している。負極電極4Yと正極電極6は、負極電極4Xの間に配置されている。負極電極4Xは、電池構造体18の端部電極ということができる。負極電極4Yと正極電極6は、電池構造体18の中間電極ということができる。
【0021】
図2は、電池構造体18の部分拡大図を示す。図2に示すように、正極電極6は、正極集電体26と正極活物質24を備えている。正極活物質24は、正極集電体26の両面に設けられている。負極電極4は、負極集電体20と負極活物質22を備えている。積層方向端部の負極電極4Xでは、負極活物質22が、負極集電体20Xの片面に設けられている。積層方向中間部の負極電極4Yでは、負極活物質22が、負極集電体20Yの両面に設けられている。負極活物質22には、リチウムイオンがドーピングされている。
【0022】
正極活物質24と負極活物質22が、セパレータ5を介して対向している。第1貫通孔30が負極集電体20Xに形成されており,第2貫通孔32が正極集電体26に形成されており、第3貫通孔34が負極集電体20Yに形成されている。第1貫通孔30は、負極集電体20Xを厚み方向に貫通している。第2貫通孔32は、正極集電体26を厚み方向に貫通している。第3貫通孔34は、負極集電体20Yを厚み方向に貫通している。詳細は後述するが、第1貫通孔30のサイズは、第2貫通孔32及び第3貫通孔34のサイズよりも大きい。なお、第2貫通孔32及び第3貫通孔34のサイズは等しい。
【0023】
負極集電体20及び正極集電体26について説明する。図3は負極集電体20Xの平面図を示し、図4は負極集電体20Y及び正極集電体26の平面図を示す。図3に示すように、複数の第1貫通孔30が負極集電体20Xに形成されており、並列に並んでいる。なお、ここでいう「並列に並ぶ」とは、隣接する4個の第1貫通孔30の中心を結ぶ線が矩形40を形成するように、第1貫通孔30を並べることである。第2貫通孔32及び第3貫通孔34も並列に並んでいる(図4を参照)。
【0024】
図3及び図4に示すように、集電体20X,20Y及び26の単位面積当たりに形成されている貫通孔の数は等しい。一方、第1貫通孔30のサイズは、第2貫通孔32及び第3貫通孔34のサイズよりも大きい。そのため、負極集電体20Xの開孔率は、負極集電体20Y及び正極集電体26の開孔率よりも大きい。第1貫通孔30の径R30は、100〜500μmであることが好ましい。一方、第2貫通孔32の径R32及び第3貫通孔34の径R34は、50〜300μmであることが好ましい。また、負極集電体20Xの開孔率は10〜60%であることが好ましく、負極集電体20Y及び正極集電体26の開孔率は10〜60%であることが好ましい。
【0025】
なお、リチウムイオン二次電池100では、負極集電体20Xの開孔率が、負極集電体20Y及び正極集電体26の開孔率よりも大きければよい。そのため、必ずしも第1貫通孔30のサイズを、第2貫通孔32及び第3貫通孔34のサイズよりも大きくする必要はない。例えば、図5に示すように、負極集電体20Y及び正極集電体26に、第2貫通孔32a及び第3貫通孔34aを形成してもよい。第2貫通孔32aの径R32a及び第3貫通孔34aの径R34aは、第1貫通孔30の径R30と等しい(図3を参照)。図5に示す負極集電体20Y及び正極集電体26の場合、集電体20Y及び26の単位面積当たりに形成されている貫通孔32a及び34aの数が、負極集電体20Xに形成されている第1貫通孔30の数よりも少ない。
【0026】
なお、集電体20X,20Y及び26に形成する貫通孔は、必ずしも並列に並べる必要はない。例えば、図6に示すように、複数の第1貫通孔30を、千鳥状に並べてもよい。「千鳥状に並べる」とは、隣接する4個の第1貫通孔30の中心を結ぶ線が菱形42を形成するように、第1貫通孔30を並べることである。換言すると、隣接する3個の第1貫通孔30の中心を結ぶ線が正三角形を形成するように、第1貫通孔30を並べることである。
【0027】
上記したように、負極集電体20Xの開孔率は、負極集電体20Y及び正極集電体26の開孔率よりも大きい。そのため、負極集電体20Xは、負極集電体20Y及び正極集電体26よりもリチウムイオンが通過し易い。なお、リチウムイオンが集電体20X,20Y及び26を通過するのは、主に製造過程であり、負極集電体20にリチウムイオンをドーピングする工程である。リチウムイオン二次電池100が使用(充放電)されているときは、リチウムイオンは、セパレータ5を通って正極活物質24と負極活物質22の間を移動する。
【0028】
ここで、図7及び図8を参照し、リチウムイオン二次電池100の製造方法を説明する。まず、貫通孔30,32,34を有する集電体20X,26,20Yを用いて、正極電極6と負極電極4を形成する(電極形成工程)。電極形成工程は、集電体20X,26,20Yに貫通孔30,32,34を形成する貫通孔形成工程と、集電体20X,26,20Yに活物質22,24を塗布する活物質塗布工程を備える。貫通孔形成工程では、正極集電体26に第2貫通孔32を形成し、負極集電体20Yに第2貫通孔32と同じサイズの第3貫通孔34を形成する。そして、負極集電体20Yよりも厚みが厚い負極集電体20Xに、第2貫通孔32及び第3貫通孔34よりも大きな第1貫通孔30を形成する。
【0029】
活物質塗布工程では、負極集電体20の表面に負極活物質22を塗布し、正極集電体26の表面に正極活物質24を塗布する。活物質の塗布方法は公知なので説明を省略する。このときに、負極集電体20Xに塗布する負極活物質22の厚みを、負極集電体20Yに塗布する負極活物質22の厚みと等しくなるように調整する。なお、電極形成工程では、貫通孔を有する市販の集電体を購入し、その集電体の表面に活物質を塗布してもよい。
【0030】
次に、セパレータ5を介して、正極電極6と負極電極4を交互に積層して、電池構造体18を作製する(積層工程)。積層工程では、負極電極4Xを、積層方向の両端に配置する。すなわち、他の電極(正極電極6及び負極電極4Y)よりも集電体の開孔率が大きい負極電極4Xを、積層方向の両端に配置する。正極電極6及び負極電極4Yは、積層方向において、負極電極4Xに挟まれた位置に配置する。なお、図7は、電池構造体18の積層方向の一端だけを示している。
【0031】
次に、容器(図示省略)内に電池構造体18を配置し、電池構造体18の両端にリチウム箔36を配置する(配置工程)。リチウム箔36は、リチウムイオン供給体の一例である。リチウム箔36は、セパレータ5を介して負極集電体20Xに対向する位置に配置する。その後、容器内に電解液を供給する。
【0032】
次に、図8に示すように、リチウム箔36を外部電源37の負極に接続し、負極電極4を外部電源37の正極に接続する。その後、負極電極4とリチウム箔36の間に電圧を印加する(ドーピング工程)。負極電極4が高電位になるので、リチウム箔36から負極電極4(負極電極4X及び負極電極4Y)に向けてリチウムイオン38が移動する。すなわち、リチウムイオン38が、電池構造体18の内部に向けて移動する。これにより、リチウムイオン38が、負極活物質22にドーピングされる。ドーピング工程の詳細については後述する。ドーピング工程が終了した後、残存したリチウム箔36を除去し、電池構造体18を電解液とともに電池ケース16内に配置する。その後、電池ケース16を密封することにより、図1に示すリチウムイオン二次電池100が完成する。なお、ドーピング工程は、電池ケース16内で実施してもよいし、電池ケース16とは別の容器内で実施してもよい。
【0033】
ドーピング工程について、さらに詳細に説明する。図8に示すように、リチウム箔36と負極集電体20Xの間には、セパレータ5が介在するだけである。そのため、通電を開始すると、多くのリチウムイオン38が、リチウム箔36から負極集電体20Xに到達する。負極集電体20Xは開孔率が大きいので、リチウムイオン38は、負極集電体20Xをスムーズに通過することができる。すなわち、負極集電体20Xは、多量のリチウムイオン38を電池構造体18の内部に通過させることができる。負極集電体20Xを通過したリチウムイオン38の一部は、負極電極4Xの負極活物質22に留まる。
【0034】
負極電極4Xの負極活物質22を通過し、さらに電池構造体18の内部に移動するリチウムイオン38も存在する。これらのリチウムイオン38は、セパレータ5,正極活物質24を通過して正極集電体26に達する。正極集電体26に達するまでに、リチウムイオン38の移動速度は低下している。また、負極電極4Xの負極活物質22に留まったリチウムイオン38の分だけ、正極集電体26に達するリチウムイオン38の数は減少している。そのため、正極集電体26の開孔率が負極集電体20Xの開孔率よりも小さくても、リチウムイオン38は、正極集電体26をスムーズに通過することができる。同様に、負極集電体20Yの開孔率が負極集電体20Xの開孔率よりも小さくても、リチウムイオン38は、負極集電体20Yをスムーズに通過することができる。
【0035】
正極集電体26及び負極集電体20Yの開孔率を小さくすることにより、正極電極6及び負極電極4Yの強度が低下することを抑制することができる。なお、負極電極4Xは、負極集電体20Xの厚みt20Xを正極集電体26の厚みt26及び負極集電体20Yの厚みt20Yよりも厚くすることにより、強度が低下することを抑制している(図2を参照)。また、負極集電体20Y及び正極集電体26の開孔率を小さくすると、上記した活物質塗布工程において、負極活物質22及び正極活物質24の表面に凹凸が生じることを抑制することができる。活物質22,24の表面に凹凸が存在すると、電流が電極間を偏って流れ、電池寿命が低下することがある。負極集電体20Y及び正極集電体26の開孔率を小さくすることにより、電極間に流れる電流を均一にすることができるので、電池寿命の低下を抑制することができる。
【0036】
上記したように、電池構造体18の端部に配置されている負極集電体20Xには、多くのリチウムイオン38が供給される。そのため、負極集電体20Xの開孔率を正極集電体26及び負極集電体20Yの開孔率と同程度にすると、負極集電体20Xが抵抗となり、リチウムイオン38が電池構造体18内に速やかに移動することができない。その結果、電池構造体18の中間部に配置されている負極活物質22に対して、リチウムイオン38が速やかにドーピングされない。電池構造体18に対するリチウムイオン38のドーピング速度が低下する。それにより、リチウムイオン二次電池100の生産効率が低下する。積層方向の端部に配置する負極集電体20Xの開孔率を他の集電体(正極集電体26,負極集電体20Y)の開孔率よりも大きくすることにより、強度及び電池寿命の低下を抑制しつつ、生産効率を向上させることができる。
【0037】
上記ドーピング工程では、負極電極4とリチウム箔36の間に電圧を印加して、リチウムイオンを負極活物質22にドーピングする。この方法は、負極電極4とリチウム箔36の電位差を調整できるという点で有用な方法である。しかしながら、負極集電体20Xとリチウム箔36を直接接触させ、両者を短絡させることによりリチウムイオンをドーピングする方法を採用してもよい。この方法は、外部電源37を必要としない簡便なドーピング方法である。
【0038】
なお、正極集電体26の開孔率と負極集電体20Yの開孔率は異なっていてもよい。重要なことは、積層方向の端部に配置されている負極集電体20Xの開孔率が、積層方向の中間部に配置されている正極集電体26及び負極集電体20Yの開孔率よりも大きいことである。また、正極集電体26の厚みと負極集電体20Yの厚みは異なっていてもよい。正極集電体26の厚みと負極集電体20Yの厚みは、リチウムイオン二次電池の特性に併せて適宜選択することができる。さらに、負極集電体20Xの厚みが負極集電体20Yの厚みと同じであってもよい。負極電極4Xの強度が負極電極4Yの強度よりも弱くなる可能性があるものの、負極電極4Y及び正極電極6が十分な強度を有していれば、電池構造体18の全体としては強度が維持される。
【0039】
(実験例)
複数の電池構造体60を作製し、活物質に対するリチウムイオンのドーピング速度について実験を行った。図9は、実験で用いた電池構造体60の基本的な構造を示す。電池構造体60では、負極電極54を積層方向の両端に配置した。3個の負極電極54と2個の正極電極56を、セパレータ58を介して交互に積層した。負極電極54の外側にリチウム箔52を配置し、負極電極54を外部電源50の正極に接続し、リチウム箔52を外部電源50の負極に接続した。なお、本実験では、負極電極54の集電体と正極電極56の集電体の全てに、0.3mmのパンチング孔(貫通孔)を形成した。
【0040】
本実験では、負極電極54の開孔率、正極電極56の開孔率、負極電極54及び正極電極56の貫通孔の配置位置を変化させて電池構造体60を作製した。そして、負極電極54とリチウム箔52の間に電圧を加え、リチウムイオンのドーピング速度を測定した。得られた結果について、リチウムイオンのドーピング速度を目的変数(基準変数)とし、負極電極54の開孔率、正極電極56の開孔率、負極電極54及び正極電極56の貫通孔の配置位置を説明変数として多変量解析を行った。なお、貫通孔の配置位置(質的変数)については、千鳥を1とし、並列を2とした。実験で用いた試料を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
多変量解析の結果、下記式1に示す回帰式が得られた。下記式1に示すように、回帰式では、負極電極54に関する説明変数のみが採用された。なお、下記回帰式の相関係数は98%であった。下記式1より、リチウムイオンのドーピング速度は、負極電極の開孔率、及び、負極電極の貫通孔の配置位置に依存することが明らかとなった。
(ドーピング速度)=8.7×(負極の開孔率)-108×(負極の貫通孔の配置位置)・・(式1)
【0043】
上記回帰式1では、正極電極56に関する説明変数は採用されなかった。これは、積層方向の中間部に配置されている電極(集電体)の場合、開孔率,貫通孔の配置位置を変化させても、リチウムイオンのドーピング速度に影響を与えないことを示している。また、上記回帰式1から明らかなように、負極の開孔率を大きくすれば、リチウムイオンのドーピング速度が速くなることが確認された。すなわち、端部に配置する電極(上記実験の場合は負極)の集電体の開孔率を大きくすれば、中間部に配置される集電体の開孔率に係らず、リチウムイオンのドーピング速度が速くなることが確認された。
【0044】
上記した実施形態のリチウムイオン二次電池では、端部電極の集電体の開孔率が中間電極の集電体の開孔率よりも大きければよく、リチウムイオン二次電池を構成する部品の材料は様々なものを使用することができる。以下に、リチウムイオン二次電池の構成部品について、好ましい材料の一例を示す。
【0045】
(負極集電体)
負極集電体として、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)等、又はそれらの複合材料を用いることができる。特に、銅又は銅を含む複合材料であることが好ましい。
【0046】
(負極活物質)
負極活物質は、リチウムイオンが侵入及び脱離可能な材料を用いる。電池容量を向上させるため、リチウム(Li)を含まない材料であることが好ましく、例えば、天然黒鉛,メソカーボンマイクロビーズ,高配向性グラファイト,ハードカーボン,ソフトカーボン等の炭素材料,酸化ケイ素(SiO)等を用いることができる。負極活物質は、必要に応じて導電材,結着剤等とともに負極集電体に塗布される。なお、リチウム,ナトリウム等のアルカリ金属を使用することもできる。
【0047】
(正極集電体)
正極集電体として、アルミニウム、ニッケル、チタン等、又はそれらの複合材料を用いることができる。特に、アルミニウム又はアルミニウムを含む複合材料であることが好ましい。
【0048】
(正極活物質)
正極活物質は、リチウムイオンが侵入及び脱離可能な材料を用いる。電池容量を向上させるため、リチウム(Li)を含まない材料であることが好ましく、例えば、天然黒鉛,メソカーボンマイクロビーズ,高配向性グラファイト,ハードカーボン,ソフトカーボン等の炭素材料,硫黄変性ポリアクリロニトリル等を用いることができる。正極活物質は、必要に応じて導電材,結着剤等とともに正極集電体に塗布される。なお、リチウム,ナトリウム等のアルカリ金属を使用することもできる。
【0049】
(セパレータ)
セパレータは、絶縁性を有する多孔質を用いる。セパレータとして、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂からなる多孔質フィルム、あるいは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、メチルセルロース等からなる織布または不織布を使用することができる。
【0050】
(電解液)
電解液は、非水系の溶媒に支持塩(電解質)を溶解させた非水電解液であることが好ましい。非水系の溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等、又はこれらの混合液を使用することができる。また、支持塩(電解質)として、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF等を使用することができる。
【0051】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0052】
4:負極電極
5:セパレータ
6:正極電極
7:正負極の対(電極対)
18:電池構造体
20:負極集電体
26:正極集電体
100:リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して正極電極と負極電極が対向している正負極の対が複数積層されているリチウムイオン二次電池であって、
前記正極電極の集電体及び前記負極電極の集電体の各々には厚み方向に貫通する孔が形成されており、
積層方向の端部に配置されている端部電極の集電体の開孔率が、前記端部電極の間に配置されている中間電極の集電体の開孔率よりも大きいことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記端部電極の集電体が、他の電極の集電体よりも厚いことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記端部電極が、前記負極電極であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
セパレータを介して正極電極と負極電極が対向している正負極の対が複数積層されている電池構造体を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法であり、
厚み方向に貫通する孔が形成された集電体を用いて前記正極電極と前記負極電極を形成する電極形成工程と、
前記正極電極と前記負極電極を交互に積層して電池構造体を作製する積層工程と、
容器内に前記電池構造体を配置し、前記電池構造体の積層方向の外側にリチウムイオン供給体を配置する配置工程と、
リチウムイオンを前記正極電極と前記負極電極の少なくとも一方にドーピングするドーピング工程と、を備え、
前記積層工程では、他の電極の集電体よりも開孔率が大きな集電体を用いて作成した電極を、前記電池構造体の積層方向端部に配置することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記ドーピング工程では、前記正極電極又は前記負極電極と、前記リチウムイオン供給体との間に電圧を印加することを特徴とする請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−58378(P2013−58378A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195792(P2011−195792)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】