説明

リチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器およびその製造方法

【課題】 リチウム含有化合物用熱処理容器及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器は、リチウム含有化合物を熱処理するときにリチウム含有化合物が配されるリチウム含有化合物用熱処理容器において、60〜95mass%でアルミナを含有する基部と、20〜80mass%でスピネルを含有してなり、基部と一体に形成された表面部と、を有することを特徴とする。また、本発明の製造方法は、アルミナ系粉末を配置する工程と、スピネル系粉末をアルミナ系粉末の上方に配置する工程と、圧縮して成形する工程と、焼成する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被熱処理化合物が熱処理されるときに被熱処理化合物が配される熱処理容器及びその製造方法に関し、詳しくは、リチウム含有化合物を熱処理するときに用いるリチウム含有化合物用熱処理容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の化合物、特に無機系化合物が熱処理工程を経て製造されている。熱処理(加熱)は、通常、耐熱性の熱処理容器に被熱処理化合物(無機系化合物やその原料)を配した状態で行われる。熱処理容器には、耐熱性だけでなく、被熱処理化合物に対して安定であることが求められている。
【0003】
上記の熱処理工程を経て製造される無機系化合物のひとつに、リチウム含有化合物がある。このリチウム含有化合物は、たとえば、リチウムイオン電池の正極活物質に用いられている、LiMnO系化合物、LiNi1/3Co1/3Mn1/3系化合物、LiMn系化合物、LiCoO系化合物、LiNiO系化合物、をあげることができる。
【0004】
リチウムイオン二次電池用正極活物質(リチウム含有化合物)は、原料粉末を焼成して製造される。このリチウム含有化合物の熱処理(焼成)は、一般的にアルミナ、ムライト、コージェライト、スピネル等の耐熱性を備えた材質を主な構成成分として焼成された容器(匣鉢)に収納して行われる。たとえば、特許文献1に記載された匣鉢が用いられる。
【0005】
従来のコージェライトを主成分とする匣鉢は、高い耐熱衝撃性を有するが、リチウムとの反応性が高いため、反応生成物の混入により熱処理後のリチウム含有化合物の純度が低下するという問題があった。特に、リチウムイオン電池の正極活物質においては、このような不純物が混入すると、リチウムイオン電池の電池性能の低下を引き起こすだけでなく、短絡の発生源となるおそれがある。
【0006】
また、アルミナやスピネルを主成分とする匣鉢は、リチウムとの反応性は低いが、熱膨張係数が高く、含有率が高くなるほど、熱衝撃による割れが生じ易くなるという問題があった。このため、アルミナやスピネルの含有率を高くする事が困難となっていた。
【0007】
特許文献1には、スピネル,コージェライト,ムライトからなる匣鉢が記載されている。これらの材質は、上記の各組成によるそれぞれの問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−292704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、被熱処理化合物を汚染することが抑えられた熱処理容器、特にリチウム含有化合物用熱処理容器及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者等は熱処理容器、特にリチウム含有化合物用熱処理容器及びその製造方法について検討を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器は、リチウム含有化合物を熱処理するときにリチウム含有化合物が配されるリチウム含有化合物用熱処理容器において、基部全体を100mass%としたときに、60〜95mass%でアルミナ(Al)を含有する基部と、表面部全体を100mass%としたときに、20〜80mass%でスピネルを含有してなり、基部と一体に形成され、リチウム含有化合物用熱処理容器のうちリチウム含有化合物と当接する表面を形成する表面部と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法は、60〜95mass%でアルミナ(Al)を含有するアルミナ系粉末を非圧縮状態で配置する工程と、20〜80mass%でスピネルを含有するスピネル系粉末を、アルミナ系粉末の上方に、非圧縮状態で配置する工程と、アルミナ系粉末とスピネル系粉末が重なった方向に圧縮して、成形する工程と、成形体を焼成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器は、リチウム含有化合物と当接する表面部が、リチウム含有化合物との反応性が低いスピネルを多量に含有することで、熱処理時にリチウム含有化合物と反応を生じて、その生成物がリチウム含有化合物を汚染することが抑制される。そして、基部が耐熱性に優れたアルミナを多量に含有することで、熱衝撃時の割れの発生を抑える。
【0014】
すなわち、本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器は、リチウム含有化合物との反応性が抑えられたことでリチウム含有化合物の汚染が抑えられ、かつ熱衝撃による割れ(破損)が抑えられた容器となっている。
【0015】
本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法は、上記の本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器を製造できる効果を発揮する。さらに、本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法は、アルミナ系粉末とスピネル系粉末とを積層し、圧縮して成形することで、積層方向での剥離が抑えられたリチウム含有化合物用熱処理容器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】試料1〜3の弾性率の測定結果を示した図である。
【図2】試料4〜6の弾性率の測定結果を示した図である。
【図3】試料10〜14の弾性率の測定結果を示した図である。
【図4】試料15〜19の弾性率の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(熱処理容器)
本発明の熱処理容器は、耐熱性の高い材質よりなる基部と、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質を多量に含む(主な構成成分とし)表面部と、が一体に形成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の熱処理容器は、耐熱性の高い材質よりなる基部を有することで、熱処理容器の耐熱性を確保することができる。
【0019】
そして、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質を多量に含む(主な構成成分とし)表面部を有することで、被熱処理化合物に熱処理を施したときに、被熱処理化合物が熱処理容器と反応を生じて反応生成物が生成することが抑えられる。この結果、被熱処理化合物が反応生成物により汚染されることが抑えられる。
【0020】
さらに、被熱処理化合物が熱処理容器と反応を生じることが抑えられていることから、被熱処理化合物の組成が熱処理の前後で変化する(熱処理容器と反応を生じる元素が被熱処理化合物から減少して組成が変化する)ことが抑えられる。
【0021】
ここで、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質は、熱膨張率が高く、その結果として熱処理容器の耐熱衝撃性が低下しやすくなるが、本発明では、耐熱性の高い基部に一体に形成されており、この基部が表面部の熱膨張を規制することとなり、熱処理容器の耐熱衝撃性が向上する。
【0022】
この結果、本発明の熱処理容器は、被熱処理化合物を汚染することが抑えられ、かつ耐熱衝撃性に優れた熱処理容器となっている。
【0023】
本発明の熱処理容器において、基部及び表面部を形成する材質は、特に限定されるものではなく、熱処理される被熱処理化合物の材質及び熱処理条件により適宜決定される。
【0024】
本発明の熱処理容器において、基部は、耐熱性の高い材質のみから形成されるだけでなく、耐熱性の高い材質を主な構成成分として含有する場合も含む。耐熱性の高い材質は、基部全体を100mass%としたときに、60〜95mass%が好ましく、70〜90mass%がより好ましい。含有割合がこれらの範囲を外れると基部の耐熱性が低下して基部(熱処理容器)に損傷(割れ)を生じ易くなる。
【0025】
本発明の熱処理容器において、基部の気孔率は、容器を熱処理に使用した時に割れが生じない程度に調整されていればよく、従来の熱処理容器での気孔率に比較して低いことが好ましい。気孔率は、10〜30%であることが好ましく、15〜25%であることがより好ましい。気孔率がこれらの範囲より低くなると熱処理による割れが発生しやすくなり、これらの範囲より高くなると被熱処理化合物が侵食しやすくなり表面の剥離等による熱処理容器の汚染の原因となる。
【0026】
本発明の熱処理容器において、表面部は、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質を多量に含むように(主な構成成分として)形成される。これにより、被熱処理化合物との当接面が、被熱処理化合物と反応を生じることが抑えられ、被熱処理化合物の汚染が抑えられる。
【0027】
本発明の熱処理容器において、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質の含有割合は特に限定されるものではなく、熱処理容器全体を100mass%としたときに、20〜80mass%が好ましく、30〜70mass%がより好ましい。含有割合がこれらの範囲より低くなると被熱処理化合物との間で反応を生じやすくなり、含有割合がこれらの範囲を超えて高くなると容器に割れが生じやすくなる。
【0028】
本発明の熱処理容器において、表面部は、残部が基部を形成する材質よりなることが好ましい。基部を形成する材質を表面部も含有することで、基部において得られる耐熱性の向上の効果を表面部にも付与できる。
【0029】
さらに、基部を形成する材質を表面部の含有することとなり、表面部と基部とが当接して形成されたときに、両部の接合性が向上し、界面における剥離がより抑えられる。
【0030】
本発明の熱処理容器において、表面部の気孔率は容器を熱処理に使用した時に割れが生じない程度に調整されていればよく、従来の熱処理容器での気孔率に比較して低いことが好ましい。気孔率は、10〜30%であることが好ましく、15〜25%であることがより好ましい。気孔率がこれらの範囲より低くなると熱処理による割れが発生しやすくなり、これらの範囲より高くなると被熱処理化合物が侵食しやすくなり表面の剥離等による熱処理容器の汚染の原因となる。
【0031】
本発明の熱処理容器は、表面部と基部とが一体に形成されている。表面部と基部が一体に形成されることで、熱処理時に一方(表面部)が体積変化を生じようとしても、一体に形成された他方(基部)が体積変化を規制する。この結果、熱処理容器全体の過剰な体積変化が規制され、熱処理容器の割れの発生が抑えられる。つまり、熱処理容器の耐熱衝撃性が向上する。
【0032】
表面部及び基部の割合は、いずれも特に限定されるものではなく、熱処理される被熱処理化合物の材質及び熱処理条件により適宜決定される。
【0033】
表面部は、熱処理容器全体を100mass%としたときに、5〜40mass%で含まれることが好ましい。表面部の割合がこれらの範囲より低くなると十分な被熱処理化合物との反応抑制効果を得ることができなくなり、これらの範囲より高くなると熱処理容器の割れや表面部の剥離,剥落の原因となる。
【0034】
本発明の熱処理容器において、表面部は、基部側の界面が、凹凸形状をなしていることが好ましい。このように形成されることで、表面部が他部と当接する界面が絡み合った複雑な形状(凹凸形状)を形成することとなり、強固に接合されることとなる。この結果、表面部の剥離(剥落)が生じなくなる。また、表面部が体積変化しようとしても、より強固にその変形を規制することができる。
【0035】
本発明の熱処理容器において、基部と表面部との間に、表面部よりも被熱処理化合物に対して反応性の低い材質の含有割合が少ないひとつ以上の中間部を有することが好ましい。このような構成となることで、基部〜表面部の積層方向において、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質が含有される割合が徐々に変化するようになり、急激な特性の変化が生じなくなる。
【0036】
複数の中間部は、表面部側から基部側に進むにつれて、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質の含有割合が少なくなっていることが好ましい。
【0037】
本発明の熱処理容器において、熱処理される被熱処理化合物,被熱処理化合物が配される熱処理容器の材質(被熱処理化合物に対して反応性の低い材質)は、特に限定されるものではなく、両者の反応性の関係から、適宜決定できる。たとえば、被熱処理化合物としてはリチウムイオン電池の正極活物質に用いられるリチウム含有化合物を、表面部に含まれる被熱処理化合物に対して反応性の低い材質としてはスピネルを、基部に含まれる耐熱性に優れた材質としてアルミナ,ムライトを、あげることができる。
【0038】
本発明の熱処理容器において、被熱処理部材に施される熱処理は、本発明の熱処理容器に被熱処理化合物を配した状態で加熱する処理だけでなく、被熱処理化合物を生成するための加熱(焼成)処理を含む。すなわち、熱処理温度が限定されるものではない。また、熱処理時の雰囲気についても、熱処理容器と反応を生じないことが好ましいこと以外は、限定されるものではない。
【0039】
本発明の熱処理容器は、被熱処理化合物を配する(保持する)ことができる形状であれば、その形状が特に限定されるものではない。たとえば、被熱処理化合物をその上面に配する(保持する,固定する)略板状の形状,上方又は側方が開口した槽状(筒状)の形状,槽状(筒状)の開口を蓋部材で覆う閉鎖形状(いわゆる、匣鉢),等の形状をあげることができる。なお、本発明の熱処理容器において、被熱処理化合物と当接しない部分は、異なる材質で形成されていてもよい。
【0040】
このとき、本発明の熱処理容器で熱処理される被熱処理化合物は、粉末状,成形された成形体、のいずれの形態で熱処理容器に配されていてもよい。
【0041】
(リチウム含有化合物用熱処理容器)
本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器(以下、本発明の熱処理容器と称する)は、リチウム含有化合物を熱処理するときにリチウム含有化合物が配されるリチウム含有化合物用熱処理容器である。本発明の熱処理容器において、熱処理されるリチウム含有化合物は、その化学式中にリチウム(Li)を含んでいる化合物であればよく、さらにリチウムを含んでいる化合物を混合した混合物であってもよい。
【0042】
そして、本発明の熱処理容器は、基部と、表面部とを有する。
【0043】
本発明の熱処理容器において、基部は、基部全体を100mass%としたときに、60〜95mass%でアルミナ(Al)を含有する。
【0044】
本発明の熱処理容器の基部に主要な構成材料として含まれるアルミナは、耐熱性に優れた材質である。基部がこのアルミナを多量に含むことで、基部及び熱処理容器の耐熱性が向上する。そして、本発明の熱処理容器は、全体を100mass%としたときに、60〜95mass%でアルミナを含有することで、耐熱衝撃性が向上する。ここで、含有割合が60mass%より低くなるとリチウム含有化合物との間で反応を生じやすくなり、95mass%を超えると熱処理容器に割れが生じやすくなる。より好ましい含有割合は、70〜90mass%である。
【0045】
また、アルミナは、リチウム含有化合物に対する反応性が比較的低い材質である。つまり、本発明の熱処理容器は、表面部を形成しない基部においてもアルミナを多量に含むことで、リチウム含有化合物を熱処理したときに、リチウム含有化合物が熱処理容器と反応を生じて反応生成物が生成することが抑えられる。この結果、被熱処理化合物が反応生成物により汚染されることが抑えられる。
【0046】
本発明の熱処理容器において、表面部は、表面部全体を100mass%としたときに、20〜80mass%でスピネルを含有してなり、基部と一体に形成され、リチウム含有化合物用熱処理容器のうちリチウム含有化合物と当接する表面を形成する。
【0047】
リチウム含有化合物と当接する表面部が、リチウム含有化合物との反応性が低いスピネルを多量に含有することで、熱処理時にリチウム含有化合物と反応を生じて、その生成物がリチウム含有化合物を汚染することが抑制される。この結果、リチウム含有化合物が反応生成物により汚染されることが抑えられる。
【0048】
そして、本発明の熱処理容器において、表面部は、表面部全体を100mass%としたときに、20〜80mass%でスピネルを含有する。スピネルを20〜80mass%で含有することで、リチウム含有化合物との反応を抑えられるとともに、耐熱衝撃性が向上する。ここで、含有割合が20mass%より低くなるとリチウム含有化合物との間で反応を生じやすくなり、80mass%を超えると熱処理容器に割れが生じやすくなる。より好ましい含有割合は、30〜70mass%である。
【0049】
そして、本発明の熱処理容器では、表面部と基部とが一体に形成されている。表面部と基部が一体に形成されることで、熱処理時に一方(表面部)が体積変化を生じようとしても、一体に形成された他方(基部)が体積変化を規制する。この結果、熱処理容器全体の過剰な体積変化が規制され、熱処理容器の割れの発生が抑えられる。
【0050】
このように本発明の熱処理容器は、リチウム含有化合物との反応性が抑えられたことでリチウム含有化合物の汚染が抑えられ、かつ熱衝撃による割れ(破損)が抑えられた容器となっている。
【0051】
本発明の熱処理容器において、表面部は、残部が基部を形成する材質よりなることが好ましい。基部を形成する材質を表面部も含有することで、基部において得られる耐熱性の向上の効果を表面部にも付与できる。
【0052】
さらに、基部を形成する材質を表面部も含有することで、表面部と基部とが当接した状態で形成されたときには、両部の接合性が向上し、界面における剥離が生じなくなる。
【0053】
本発明の熱処理容器において、表面部は、熱処理容器全体を100mass%としたときに、5〜40mass%で含まれることが好ましい。表面部の割合がこれらの範囲より低くなると十分なリチウム含有化合物との反応抑制効果を得ることができなくなり、これらの範囲より高くなると熱処理容器の割れや表面部の剥離,剥落の原因となる。より好ましい表面部の割合は、10〜30mass%である。
【0054】
本発明の熱処理容器において、基部は、基部全体を100mass%としたときに、5〜30mass%でSiO(シリカ)を含有することが好ましい。シリカは、熱処理容器の耐熱衝撃性を向上する効果を発揮する化合物である。しかし、シリカは、熱処理されるリチウム含有化合物との反応性を有しており、上記したように、表面部が基部を形成される材質を含有する場合には、その含有量が少ない方が好ましい。このため、シリカの含有量がこの範囲となることで、熱処理容器の耐熱衝撃性を向上しつつ、リチウム含有化合物の汚染を抑えることができる。10〜20mass%であることがより好ましい。
【0055】
シリカの含有割合がこの範囲より低くなると、相対的にアルミナの含有割合が増加し、耐熱衝撃性の向上の効果が得にくくなり、含有割合がこの範囲より高くなると、リチウム含有化合物と反応を生じやすくなり、場合によっては、反応生成物に起因するリチウム含有化合物の汚染が生じやすくなる。
【0056】
基部は、アルミナとムライトから形成されることが好ましい。アルミナはAlの化学式で表される化合物であり、ムライトはAl(アルミナ)とSiO(シリカ)の化合物(アルミノケイ酸塩)であり、Al13Siの組成式を備えている。つまり、アルミナとムライトから形成されることで、リチウム含有化合物と反応を生じやすい物質(化合物)が含まれなくなり、本発明の熱処理容器が耐熱衝撃性を向上しつつ、リチウム含有化合物の汚染を抑えることができる。本発明においては、リチウム含有化合物と反応を生じやすい物質(化合物)を含まないことが好ましく、このような物質としては、MgO(マグネシア)を例示することができる。ここで、アルミナとムライトから形成されるとは、アルミナとムライトのみから形成されることだけではなく、アルミナとムライトを主成分として形成することも含む。さらに、本発明においては、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0057】
本発明の熱処理容器において、基部は、アルミナとムライトのみから形成されることが好ましい。アルミナとムライトのみから形成されることで、リチウム含有化合物と反応性を有する他の無機元素が含まれなくなり、本発明の熱処理容器が耐熱衝撃性を向上しつつ、リチウム含有化合物の汚染を抑えることができる。たとえば、従来の匣鉢の主要構成材料であるコーディエライトには、MgO(マグネシア)が含有されており、このマグネシアはリチウム含有化合物と反応を生じて反応生成物を生成する。
【0058】
本発明の熱処理容器において、表面部は、基部側の界面が、凹凸形状をなしていることが好ましい。このように形成されることで、表面部が他部と当接する界面が絡み合った複雑な形状(凹凸形状)を形成することとなり、強固に接合されることとなる。この結果、表面部の剥離(剥落)が生じなくなる。また、表面部が体積変化しようとしても、より強固にその変形を規制することができる。
【0059】
本発明の熱処理容器において、基部は、10〜30%の気孔率を有することが好ましい。気孔率がこれらの範囲より低くなると熱処理による割れが発生しやすくなり、この範囲より高くなるとリチウムの浸食による剥離の原因となる。
【0060】
本発明の熱処理容器において、基部と表面部との間に、表面部よりも被熱処理化合物に対して反応性の低い材質の含有割合が少ないひとつ以上の中間部を有することが好ましい。このような構成となることで、基部〜表面部の積層方向において、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質が含有される割合が徐々に変化するようになり、急激な特性の変化が生じなくなる。
【0061】
複数の中間部は、表面部側から基部側に進むにつれて、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質の含有割合が少なくなっていることが好ましい。
【0062】
(熱処理容器の製造方法)
本発明の熱処理容器の製造方法は、上記の熱処理容器、及び上記熱処理容器をリチウム含有化合物の熱処理に適用するリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法である。すなわち、本発明の製造方法は、それぞれの熱処理容器を製造する製造方法である。
【0063】
本発明の熱処理容器は、耐熱性の高い材質を配する工程と、その上方に表面部を形成するための被熱処理化合物に対して反応性の低い材質を多量に含む(主な構成成分とし)材質を配する工程と、各工程により得られた積層物を、それぞれが重なった方向に圧縮して成形する工程と、成形体を焼成する工程と、を有する。焼成前に成形体を常温で乾燥する工程を有していることが好ましい。
【0064】
耐熱性の高い材質を配する工程は、製造されたときに上記の熱処理容器において基部となる部材(材料)を配する工程である。すなわち、その後の工程を経ることで、上記の熱処理容器の基部が形成される。
【0065】
その上方に表面部を形成するための被熱処理化合物に対して反応性の低い材質を多量に含む(主な構成成分とし)材質を配する工程は、製造されたときに上記の熱処理容器において表面部となる部材(材料)を配する工程である。基部となる材質が配された上方に、表面部となる材質が配されることで、基部と表面部とが積層した構成の熱処理容器が製造される。
【0066】
本発明の製造方法において、耐熱衝撃性(耐熱性)の高い材質、及び、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質を配する形態については、特に限定されるものではなく、粉末を非圧縮の状態で配する方法、粘土状(スラリー状)として配する方法、これらを組み合わせる方法、等の方法をあげることができる。これらのうち、粉末を非圧縮の状態で配する方法であることが最も好ましい。
【0067】
各工程により得られた積層物を、それぞれが重なった方向に圧縮して成形する工程は、積層物を所定の形状に成形するだけでなく、基部及び表面部を一体にすることができる。このとき、成形体を、所望の気孔率を有するように成形することが好ましい。成形体の気孔率を所望の気孔率とすることで、製造される熱処理容器の気孔率を所望の気孔率とすることができる。
【0068】
成形体を焼成する工程は、成形体を焼成して熱処理容器を製造する。
【0069】
本発明の製造方法において、耐熱性の高い材質を配する工程、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質を配する工程等の材質を積層状態に配する工程では、界面に凹凸を形成する工程を有することが好ましい。この工程を有することで、本発明の製造方法により製造される熱処理容器が、基部、表面部、中間部等の界面における剥離が生じにくくなる。
【0070】
(リチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法)
本発明のリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法は、まず、60〜95mass%でアルミナ(Al)を含有するアルミナ系粉末を非圧縮状態で配置する工程を施す。アルミナ系粉末を非圧縮の状態で配置することで、その後の工程で成形したときに、基部の界面が絡み合った界面となり、熱処理容器において基部が界面で剥離しなくなる。また、熱処理容器の体積変化を、より規制することができる。
【0071】
アルミナ系粉末が、60〜95mass%でアルミナ(Al)を含有する粉末(混合粉末)よりなることで、製造される熱処理容器及びその基部の耐熱衝撃性が向上する。
【0072】
次に、20〜80mass%でスピネルを含有するスピネル系粉末を、アルミナ系粉末の上方に、非圧縮状態で配置する工程が施される。この工程は、表面部となるスピネル系粉末を配置する工程であり、この工程を有することで、表面部を有する熱処理容器を製造できる。
【0073】
スピネル系粉末が、20〜80mass%でスピネルを含有する粉末(混合粉末)よりなることで、表面部がリチウム含有化合物との反応を抑えられるとともに、耐熱衝撃性が向上する。
【0074】
スピネル系粉末は、アルミナ系粉末の上方に配置すればよく、アルミナ系粉末の直上方であっても、アルミナ系粉末に別の粉末(中間層を形成するための粉末)を配置し、その上に配置してもよい。
【0075】
そして、アルミナ系粉末とスピネル系粉末が重なった方向に圧縮して、成形する工程では、先の各工程で配されたアルミナ系粉末とスピネル系粉末とを圧縮して成形することで、成形体を形成し、熱処理容器の形状に成形される。
【0076】
成形体を、常温で乾燥する工程を有することが好ましい。成形体を乾燥することで、その後の焼成工程において、成形体(熱処理容器)が割れや変形(寸法精度の低下)を生じることを抑えることができる。
【0077】
成形体を焼成する工程は、成形体を焼成する工程であり、粉末が圧縮された状態の成形体を焼成することで、熱処理容器が製造される。
【0078】
本発明の製造方法において、スピネル系粉末は、残部がアルミナ系粉末であることが好ましい。スピネル系粉末がアルミナ系粉末を含有することで基部を形成する材質を表面部も含有することとなり、基部において得られる耐熱衝撃性の向上の効果を表面部にも付与できる。
【0079】
さらに、表面部と基部とが当接した状態で形成されたときに、基部を形成する材質をともに含有することで、両部の接合性が向上し、界面における剥離が生じなくなる。
【0080】
本発明の製造方法において、スピネル系粉末は、全体を100mass%としたときに、20〜80mass%で含まれることが好ましい。つまり、スピネル系粉末から形成される表面部の割合が20〜80mass%で含まれることが好ましい。スピネル系粉末の割合が、これらの範囲より低くなると十分なリチウム含有化合物との反応抑制効果を得ることができなくなり、80mass%を超えると熱膨張率の違いから割れや剥離の原因となる。より好ましい含有割合は、30〜70mass%である。
【0081】
本発明の製造方法において、アルミナ系粉末は、アルミナ系粉末全体を100mass%としたときに、5〜30mass%でシリカ粉末(SiO)を含有することが好ましい。シリカは、熱処理容器の耐熱衝撃性を向上する効果を発揮する化合物である。また、シリカは、熱処理されるリチウム含有化合物中のリチウム含有化合物との反応性を有しており、上記したように、表面部が基部を形成される材質を含有する場合には、その含有量が少ない方が好ましい。このため、シリカの含有量がこの範囲となることで、熱処理容器の耐熱衝撃性を向上しつつ、リチウム含有化合物の汚染を抑えることができる。10〜20mass%であることがより好ましい。
【0082】
シリカの含有割合がこの範囲より低くなると、相対的にアルミナの含有割合が増加し、耐熱衝撃性の向上の効果が得にくくなり、含有割合がこの範囲より高くなると、リチウム含有化合物と反応を生じやすくなり、場合によっては、反応生成物に起因するリチウム含有化合物の汚染が生じやすくなる。
【0083】
アルミナ系粉末は、アルミナ粉末とムライト粉末の混合粉末であることが好ましい。アルミナはAlの化学式で表される化合物であり、ムライトはAl(アルミナ)とSiO(シリカ)の化合物(アルミノケイ酸塩)であり、Al13Siの組成式を備えている。つまり、アルミナとムライトから形成されることで、リチウム含有化合物と反応を生じやすい物質(化合物)が含まれなくなり、本発明の熱処理容器が耐熱衝撃性を向上しつつ、リチウム含有化合物の汚染を抑えることができる。本発明においては、リチウム含有化合物と反応を生じやすい物質(化合物)を含まないことが好ましく、このような物質としては、MgO(マグネシア)を例示することができる。ここで、アルミナとムライトから形成されるとは、アルミナとムライトのみから形成されることだけではなく、アルミナとムライトを主成分として形成することも含む。さらに、本発明においては、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0084】
本発明の製造方法において、アルミナ系粉末は、アルミナ粉末とムライト粉末のみからなることが好ましい。アルミナ粉末とムライト粉末のみから形成されることで、リチウム含有化合物と反応性を有する他の無機元素が含まれなくなり、本発明の熱処理容器が耐熱衝撃性を向上しつつ、リチウム含有化合物の汚染を抑えることができる。たとえば、従来の匣鉢の主要構成材料であるコーディエライトには、MgO(マグネシア)が含有されており、このマグネシアはリチウム含有化合物と反応を生じて反応生成物を生成する。
【0085】
本発明の製造方法において、アルミナ系粉末とスピネル系粉末との間に、スピネル系粉末よりもスピネルの含有割合が少ないひとつ以上の中間粉末を配する工程を有することが好ましい。このような構成となることで、基部〜表面部の積層方向において、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質が含有される割合が徐々に変化する中間部を熱処理容器が持つこととなり、急激な特性の変化が生じなくなる。
【0086】
複数の中間粉末は、スピネル系粉末側からアルミナ系粉末側に進むにつれて、スピネルの含有割合が少なくなっていることが好ましい。
【0087】
本発明の製造方法において、成形する工程及び焼成する工程の成形条件および焼成条件は、適宜決定できるものであるが、製造される処理容器,その基部,その表面部,その中間部が、10〜30%の気孔率を有することが好ましい。より好ましい気孔率は、15〜25%である。気孔率がこれらの範囲より低くなると熱処理容器に割れが生じやすくなり、これらの範囲より高くなるとリチウム浸食による剥離の原因となるとともに、耐熱衝撃性が低下して熱処理容器に割れ(損傷)が生じやすくなる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0089】
本発明の実施例として、板状のリチウム含有化合物用熱処理容器を製造した。
【0090】
(実施例1)
アルミナ粉末,ムライト粉末,コーディエライト粉末及びその他の添加剤を、表1に示した質量部で秤量し、十分に混合した。これにより、試料A〜Cのアルミナ系粉末を調整した。
【0091】
【表1】

【0092】
スピネル系粉末として、粒度が200(mesh)のスピネル粉末と、試料A〜Cと、を等重量部(等質量部)で混合した混合粉末をスピネル系粉末として用いた。
【0093】
まず、十分に混合した試料A〜Cのアルミナ系粉末を、成形型のキャビティに投入して、その底面に非圧縮の状態で配置した。
【0094】
つづいて、配置されたアルミナ系粉末の上に、スピネル系粉末を投入して、非圧縮の状態で配置した。ここで、アルミナ系粉末及びスピネル系粉末の混合割合(質量比)を表2に示した。
【0095】
【表2】

【0096】
次に、それぞれの粉末が配置した成形型を押圧して正方形の板状に成形した。この成形は、6kN/cmの圧力で加圧して行われた。
【0097】
その後、成形体を、室温で24時間保持して乾燥した。
【0098】
その後、大気雰囲気で1350℃で5時間保持して焼結させた(焼成した)。
【0099】
焼成後、放冷して板状のリチウム含有化合物用熱処理容器(試料1〜6)が製造された。
【0100】
試料1〜3のリチウム含有化合物用熱処理容器は、耐熱性に優れたアルミナを87.2mass%で含む基部と、基部を形成する試料Aを60〜95mass%で含み、かつリチウムとの反応性が低いスピネルを5〜40mass%で含む表面部と、が一体に形成された熱処理容器となっている。
【0101】
試料4〜6のリチウム含有化合物用熱処理容器は、アルミナ,ムライト及びコーディエライトを主成分として含有する基部と、基部を形成する試料Cを60〜95mass%で含み、かつリチウムとの反応性が低いスピネルを5〜40mass%で含む表面部と、が一体に形成された熱処理容器となっている。
【0102】
製造された試料1〜6のリチウム含有化合物用熱処理容器の気孔率,嵩比重,見掛け比重をそれぞれ測定し、測定結果を表2に合わせて示した。
【0103】
気孔率及び嵩比重の測定は、JIS R 1614(真空法)に規定された方法で行われた。
【0104】
見掛け比重は、重量(質量)と体積を測定し、重量を体積で除算して求めた。
【0105】
表2に示したように、試料1〜3の熱処理容器は、試料4〜6の熱処理容器に対して、かなり小さな気孔率を有していることが確認できる。
【0106】
(評価)
試料1〜6の熱処理容器として、リチウム含有化合物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)の焼成を行い、試験中の弾性率の変化及び焼成後の状態を観察した。
【0107】
具体的には、以下のようにして行われた。
【0108】
まず、炭酸リチウム粉末(LiCO)を3/2mol%、酸化コバルト粉末(Co)を1/3mol%、二酸化マンガン粉末(MnO)を1mol%、水酸化ニッケル粉末(Ni(OH))を1mol%、となるように秤量し、十分に混合した後に円板状のペレット形状に成形した。このペレットは、φ18mm、厚さ5mm、ひとつ4gとなるように成形された。
【0109】
製造されたペレットを、各試料のリチウム含有化合物用熱処理容器の表面上に載置し、焼成炉内に配置した後に加熱し焼成した。
【0110】
ペレットの焼成は、大気雰囲気で、1100℃まで4時間で昇温し、昇温後1100℃で4時間保持し、その後、大気中で放冷した。
【0111】
放冷後、各試料のリチウム含有化合物用熱処理容器の表面上のペレットを取り除き、別の新たなペレット(未焼成)を載置し、焼成した。加熱は、同様の処理条件で行われた。
【0112】
このペレットの焼成を20回繰り返した。
【0113】
20回の焼成後の各試料の断面を観察した。
【0114】
同様の評価試験を、試料7〜9の熱処理容器についても行った。なお、試料7〜9は、表2にあわせて示した組成を有し、表面部を有さないように形成された熱処理容器である。具体的には、試料7は、試料1〜3の基部のみからなる熱処理容器であり、試料8は試料7と同様にアルミナを多量に含んだ試料Bのみからなる熱処理容器であり、試料9は従来のムライト−コーディエライト系の熱処理容器である。
【0115】
(断面の観察)
試料1〜9の熱処理容器の20回の焼成試験後の各試料の断面を観察した。
【0116】
まず、試料7〜8においては、ペレットとの当接部近傍において、リチウム含有化合物の浸食(浸透・拡散)が観察された。また、当接部近傍に僅かな盛り上がり(体積変化)が確認できた。このリチウム含有化合物の浸食及び体積変化は、試料7より試料8の方が大きかった。なお、ペレットとの当接部近傍において、試料7〜8の表面は、ほぼ平滑な状態が維持されていることが確認できた。
【0117】
試料9においては、ペレットとの当接部近傍において、リチウム含有化合物の浸食(浸透・拡散)が観察された。また、ペレットとの当接部において、表面の荒れおよび盛り上がり(体積変化)が確認できた。この表面の荒れは、容器及びリチウム含有化合物の浸食した部分とは、異なる色をしており、リチウムとの反応生成物であることがわかる。さらに、この表面の荒れは、脆く、簡単に剥落した。この表面の荒れは、ペレットとの当接部が、ペレットのリチウム含有化合物と反応を生じたことにより発生した。
【0118】
試料1〜3においては、試料7〜9において確認された、リチウム含有化合物の浸食(浸透・拡散)及び表面の荒れ(表面近傍の盛り上がり)が確認できなかった。
【0119】
試料4〜6においては、ペレットとの当接部において、表面の荒れが確認できた。この表面の荒れは、脆く、簡単に剥落した。この表面の荒れは、ペレットとの当接部が、ペレットのリチウム含有化合物と反応を生じたことにより発生した。また、ペレットとの当接部近傍において生成した反応生成物は、表面部との界面に、剥落の起点となるクラックが確認できた。つまり、試料4においては、ペレットとの当接部(反応生成物)の表面の荒れだけでなく、反応生成物自体が剥離を生じやすくなっていた。
【0120】
上記したように、試料1〜3の熱処理容器は、リチウム含有化合物との反応性が抑えられたことでリチウム含有化合物の汚染が抑えられ、かつ熱衝撃による割れ(破損)が抑えられた容器となっていることが確認できた。
【0121】
(弾性率)
上記の繰り返しの焼成試験中、試料1〜6の熱処理容器の弾性率を測定した。
【0122】
なお、試験中の弾性率は、1〜6回目でのペレット焼成後、ペレットを取り除いた状態で測定した。測定結果を図1〜2に示した。
【0123】
弾性率の測定は、JIS R 1602(曲げ共振法)に規定の方法で行われた。
【0124】
図1には、試料1〜3,7〜9の弾性率の測定結果を示し、図2には、試料4〜6,7〜9の弾性率の測定結果を示した。図1〜2において、弾性率は、ペレット焼成前の弾性率を100%としたときの割合で示した。図1〜2に示したように、試料1〜9は、いずれも同等程度の弾性率を示している。つまり、各試料1〜3の熱処理容器は、スピネルを含む表面部を有していながら、従来品と同等程度の弾性率(特性)を有していることが確認できる。なお、試料7〜9の熱処理容器(特に試料9の熱処理容器)が従来の製品に該当する。
【0125】
(実施例2)
試料2,5において、表面部を形成するためのスピネル系粉末において、試料Aまたは試料Cとスピネルの混合割合を変化させた混合粉末を用いたこと以外は、実施例1の時と同様にして、試料10〜19の熱処理容器を製造した。試料10〜19の熱処理容器の表面部の原料の割合を、表3に示した。ここで、試料12と試料17は、それぞれ試料2,試料5と同じである。
【0126】
【表3】

【0127】
製造された試料10〜19の熱処理容器において、実施例1の時と同様にして弾性率の変化を測定した。測定結果を図3〜4に示した。
【0128】
図3〜4に示したように、図1〜2の時と同様に、試料10〜19は、いずれも同等程度の弾性率を示している。つまり、各試料10〜14の熱処理容器のように、表面部のスピネルを含む割合が30〜70mass%と変化しても、従来品と同等程度の弾性率(特性)を有していることが確認できる。
【0129】
(比較例)
試料2,5において、表面部を形成するためのスピネル系粉末において、試料Aまたは試料Cとスピネルの混合割合を変化させた混合粉末を用いたこと以外は、実施例1の時と同様にして、試料20〜25の熱処理容器を製造した。
【0130】
これらの試料20〜25の熱処理容器は、焼成工程において、クラックが発生した。すなわち、熱処理容器の製造ができなかった。
【0131】
上記のように、試料1〜3,10〜14の熱処理容器は、リチウム含有化合物との反応性が抑えられたことでリチウム含有化合物の汚染が抑えられ、かつ熱衝撃による割れ(破損)が抑えられた容器となっている。
【0132】
さらに、実施例の熱処理容器は、基部を形成するためのアルミナ系粉末と、表面部を形成するためのスピネル系粉末とが積層した状態で、一度の成形(加圧)で成形体を成形している。つまり、熱処理容器の製造において、成形にかかるコストを低減できた。
【0133】
(実施例の変形形態)
上記の実施例では、板状の熱処理容器を用いて、ペレット状のリチウム含有化合物の焼成を行ったが、熱処理容器の形状及びリチウム含有化合物の配置形態は、これらに限定されるものではない。
【0134】
熱処理容器は、上方又は側方が開口した槽状(筒状)の形状,槽状(筒状)の開口を蓋部材で覆う閉鎖形状(いわゆる、匣鉢),等の形状としてもよい。また、リチウム含有化合物は、粉末状であってもよい。
【0135】
特に、熱処理容器が槽状の形状であり、リチウム含有化合物が粉末状であるときに、上記した実施例の熱処理容器の効果をより発揮できる。
【0136】
具体的には、槽状の容器の内部に粉末状のリチウム含有化合物を入れて焼成(熱処理)する時には、焼成後に、槽状の容器の開口を下方に向けて焼成後のリチウム含有化合物を取り出す。このとき、熱処理容器の内表面(リチウム含有化合物との当接面)に反応生成物による剥離が生じていないため、焼成後のリチウム含有化合物の汚染が生じない。
【0137】
対して、たとえば、本発明の比較例となる試料7〜9の同様の形状の容器では、リチウム含有化合物との当接面に反応生成物に起因する剥離が生じている。そして、リチウム含有化合物を取り出すときに、リチウム含有化合物と同時に反応生成物が熱処理容器から取り出される。つまり、反応生成物が、リチウム含有化合物を汚染する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有化合物を熱処理するときに該リチウム含有化合物が配されるリチウム含有化合物用熱処理容器において、
基部全体を100mass%としたときに、60〜95mass%でアルミナを含有する基部と、
表面部全体を100mass%としたときに、20〜80mass%でスピネルを含有してなり、該基部と一体に形成され、該リチウム含有化合物用熱処理容器のうち該リチウム含有化合物と当接する表面を形成する表面部と、
を有することを特徴とするリチウム含有化合物用熱処理容器。
【請求項2】
前記表面部は、残部が前記基部を形成する材質よりなる請求項1記載のリチウム含有化合物用熱処理容器。
【請求項3】
前記表面部は、前記リチウム含有化合物用熱処理容器全体を100mass%としたときに、5〜40mass%で含まれる請求項1〜2のいずれかに記載のリチウム含有化合物用熱処理容器。
【請求項4】
前記基部は、該基部全体を100mass%としたときに、5〜30mass%でシリカを含有する請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム含有化合物用熱処理容器。
【請求項5】
前記基部は、アルミナとムライトから形成される請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム含有化合物用熱処理容器。
【請求項6】
前記表面部は、前記基部側の界面が、凹凸形状をなしている請求項1〜5のいずれかに記載のリチウム含有化合物用熱処理容器。
【請求項7】
前記基部は、10〜30%の気孔率を有する請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム含有化合物用熱処理容器。
【請求項8】
60〜95mass%でアルミナを含有するアルミナ系粉末を非圧縮状態で配置する工程と、
20〜80mass%でスピネルを含有するスピネル系粉末を、該アルミナ系粉末の上方に、非圧縮状態で配置する工程と、
該アルミナ系粉末と該スピネル系粉末が重なった方向に圧縮して、成形する工程と、
成形体を焼成する工程と、
を有することを特徴とするリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法。
【請求項9】
前記スピネル系粉末は、残部が前記アルミナ系粉末である請求項8記載のリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法。
【請求項10】
前記スピネル系粉末は、全体を100mass%としたときに、20〜80mass%で含まれる請求項8〜9のいずれかに記載のリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法。
【請求項11】
前記アルミナ系粉末は、全体を100mass%としたときに、5〜30mass%でシリカ粉末を含有する請求項8〜10のいずれかに記載のリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法。
【請求項12】
前記アルミナ系粉末は、アルミナ粉末とムライト粉末の混合粉末である請求項8〜11のいずれかに記載のリチウム含有化合物用熱処理容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206916(P2012−206916A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75473(P2011−75473)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【特許番号】特許第5005100号(P5005100)
【特許公報発行日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】