説明

リンク式倍力装置におけるアジャスタ機構

【課題】 調整部に無理な力が掛かることもなく、高い調整精度が確保できるリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構を提供することを目的とする。
【解決手段】 各ブレーキアームの過ストロークに伴って前記各アジャスタギヤを回転させるアジャスタレバー10の揺動支軸を各リンク7の略中間部における出力軸支点8と略一致させたことにより、簡素な構造のリンク式倍力装置を採用しつつ、ブレーキアームの基端部からの挙動に左右されることの少ないリンク7の略中間部における出力軸支点8に、アジャスタレバー10の揺動支軸が略一致しているので、リンク7の揺動およびブレーキアームの揺動に影響されることなく、アジャスタ機構6の調整が行えて、調整部の剛性等の影響を受けることなく、高い調整精度が確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの軸動により拡開揺動する一対のリンクの略中間部における出力軸支点と各ブレーキアームの基端部とを、それぞれアジャスタギヤとアジャスタナットとの相対回転により軸間距離を調整するアジャスタ機構を介して連結したリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキを搭載する車両、特に鉄道車両用のディスクブレーキでは、一対のブレーキアームの基端部を拡開してそれらの開放端部に設けられたパッドアッセンブリをブレーキロータの両側から挟圧してブレーキ動作を行う梃子式のキャリパブレーキが知られている。これらの梃子式のキャリパブレーキにあって、前記パッドアッセンブリが摩耗すると、ブレーキが効き始める時期が遅れて制動距離が長くなるものであった。そこで、ブレーキアームに過ストロークが発生することがないように、通常、隙間調整機構であるアジャスタ機構をアクチュエータとブレーキアームの基端部との間に配設される。そのようなアジャスタ機構として、例えば、下記特許文献1に記載されたブレーキシリンダがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−164159号公報(公報要約書参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示されたブレーキシリンダは、図7に示すように、シリンダ本体102に対して相対移動するピストン103と、該ピストン103とともに移動する軸棒104と、該軸棒104に取り付けられた押棒105と、該押棒105の前記シリンダ本体102からの突出長さをブレーキ作動の際に調整する突出長さ調整手段106とを備えており、前記押棒105は前記ピストン103の移動方向と平行に延びる軸孔を有する円筒状に形成されるとともに、該軸孔の内面の少なくとも一部に雌ネジ151が螺刻され、前記軸棒104は、外面の少なくとも一部に前記雌ネジ151と螺合する雄螺子141が螺刻され前記軸孔に螺挿されるとともに、外部からの軸周りの回転力を付与する回転力付与手段と係合可能な係合部142を有するものである。
【0005】
このような突出長さ調整手段106を備えたブレーキシリンダ101において、圧力室102b内への圧力供給によって、ピストン103を図7(B)に示したように、軸棒104および105を介して連結部材107を、シリンダ本体102における第1ケーシング121に対して拡開方向に移動させる。これによって、連結部材107と第1ケーシング121とのそれぞれに接続された図示外のブレーキアームを揺動させてブレーキ動作が行われる。パッドアッセンブリに摩耗が生じた場合には、蓋部108を取り外して軸棒104における係合部142に、外部からハンドルレンチ等のソケットを係合させて回転させることで、押棒105の雌ネジ151に対する軸棒104の雄ネジ141の螺合を進行させて、軸棒104と押棒105との軸方向距離を拡大させることで、ブレーキアームの過ストロークを抑制する隙間調整が可能となる。
【0006】
しかしながら、このような従来のアジャスタ機構にあっては、調整作業が外部からのハンドルレンチ等を用いた手動により行われて作業が面倒であった。そこで、手動調整の面倒さを排除した自動隙間調整機構を施したものも採用されているが、ボディ剛性の影響を受けてオーバーアジャストやパッドクリアランスの調整幅が大きくなってしまう傾向が避けられず、また、ブレーキアームからの無理な力が掛かって調整部を破損することもあった。
【0007】
そこで本発明では、前記従来のアジャスタ機構における諸課題を解決して、調整部に無理な力が掛かることもなく、高い調整精度が確保できるリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため本発明は、アクチュエータの軸動により拡開揺動する一対のリンクの略中間部における出力軸支点と各ブレーキアームの基端部とを、それぞれアジャスタギヤとアジャスタナットとの相対回転により軸間距離を調整するアジャスタ機構を介して連結したリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構において、前記各ブレーキアームの過ストロークに伴って前記各アジャスタギヤを回転させるアジャスタレバーの揺動支軸を前記各リンクの略中間部における出力軸支点と略一致させたことを特徴とする。また本発明は、前記各アジャスタレバー間をバランススプリングにより連結したことを特徴とする。また本発明は、前記各アジャスタギヤによるアジャスタ機構の短縮方向への回転を阻止する逆止爪を配設したことを特徴とする。また本発明は、前記逆止爪の支軸を前記各リンクの略中間部における出力軸支点と略一致させたことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アクチュエータの軸動により拡開揺動する一対のリンクの略中間部における出力軸支点と各ブレーキアームの基端部とを、それぞれアジャスタギヤとアジャスタナットとの相対回転により軸間距離を調整するアジャスタ機構を介して連結したリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構において、前記各ブレーキアームの過ストロークに伴って前記各アジャスタギヤを回転させるアジャスタレバーの揺動支軸を前記各リンクの略中間部における出力軸支点と略一致させたことにより、簡素な構造のリンク式倍力装置を採用しつつ、ブレーキアームの基端部からの挙動に左右されることの少ないリンクの略中間部における出力軸支点に、アジャスタレバーの揺動支軸が略一致しているので、リンクの揺動およびブレーキアームの揺動に影響されることなく、アジャスタ機構の調整が行えて、調整部の剛性等の影響を受けずに、高い調整精度が確保できる。
【0010】
また、前記各アジャスタレバー間をバランススプリングにより連結した場合は、アジャスタ機構に軸力が作用してアジャスタギヤが回転しにくくなっても、アジャスタレバー間に連結されたバランススプリングが伸びて、アジャスタレバーが回転移動ではなく平行移動の挙動を示して、アジャスタギヤを必要以上の力で回転させようとしないので、アジャスタギヤを破損することが防止される。さらに、前記各アジャスタギヤによるアジャスタ機構の短縮方向への回転を阻止する逆止爪を配設した場合は、確実にアジャスタ機構をパッドアッセンブリ摩耗を補完する拡張方向に調整できて、短縮方向へ逆行することがないので、高い調整精度が確保できるとともに、パッドアッセンブリ交換時にアジャスタを戻す際にアジャスタギヤは逆回転しないために、アジャスタナットのみを回転してアジャスタ機構を交換前の位置に縮小できる。
【0011】
さらにまた、前記逆止爪の支軸を前記各リンクの略中間部における出力軸支点と略一致させた場合は、前記アジャスタレバーの挙動と同様に、リンクの揺動等により誤作動することなく、常に同じ位置にて逆止機能を保持し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構の1実施例の要部正面図である。
【図2】同、要部背面図および側面図である。
【図3】同、図2(B)の要部拡大図である。
【図4】同、要部の一部分解斜視図である。
【図5】同、本発明のリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構が採用されたブレーキ装置の全体平面図である。
【図6】同、ブレーキ装置の全体正面図である。
【図7】従来の調整手段が採用されたブレーキシリンダの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構を実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。本発明のリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構は、図1に示すように、アクチュエータの軸動により拡開揺動する一対のリンク7、7の略中間部における出力軸支点8と各ブレーキアームの基端部とを、それぞれアジャスタギヤとアジャスタナットとの相対回転により軸間距離を調整するアジャスタ機構6を介して連結したリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構において、前記各ブレーキアームの過ストロークに伴って前記各アジャスタギヤを回転させるアジャスタレバー10の揺動支軸を前記各リンクの略中間部における出力軸支点8と略一致させたことを特徴とする。
【0014】
以下、本発明のリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構の1実施例について説明する。図5および図6に示すように、適宜のサポート1を介してボディ2が車体静止部に固定され、該ボディ2の下部両側に一対のブレーキアーム3、3の中間部がブレーキアーム軸23、23によって軸支される。ブレーキアーム3、3の各開放端にはブレーキホルダ4が支持され、該ブレーキホルダ4にはパッドアッセンブリ5が装着される。そして、ブレーキアーム3、3の各基端部には、後述するリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構6の出力軸を構成するアジャスタナット13の外側端13Aが連結される。
【0015】
図1に示すように、アクチュエータの軸動(別途の流体圧や電動モータ等のアクチュエータにより軸動されるウェッジ15の軸動の他、ウェッジ15自体が流体圧や電動モータ等により軸動するアクチュエータを構成する場合でもよい)により拡開揺動する一対のリンク7、7の略中間部における出力軸支点8と各ブレーキアーム3(図5、6)の基端部とを、それぞれアジャスタギヤとアジャスタナットとの相対回転により軸間距離を調整するアジャスタ機構6を介して連結される。前記一対のリンク7、7の揺動の各支軸18は、下端部に配設されたストラット17の両端部に配置される。リンク7、7の上端の各揺動端部にはそれぞれローラ16がローラ軸19により軸支されている。
【0016】
図1、2に示すように、ウェッジ15の軸動に伴い、ウェッジ15の両側の斜面15A、15Aがローラ16、16を介してリンク7、7を拡開すると、リンク7、7の中間部の出力軸支点8からのアジャスタ機構6を介した前記ブレーキアーム3の基端部へは倍力されて出力される。後述するアジャスタギヤとアジャスタナットとの相対回転により軸間距離を調整するアジャスタ機構6のアジャスタギヤ12は、パッドアッセンブリ5の摩耗に起因したブレーキアーム3の過ストローク時に揺動するアジャスタレバー10によって回転調整されるように構成されている。本発明では、アジャスタレバー10の揺動支軸は、前記各リンク7の略中間部における出力軸支点8と略一致させて構成されている。そして、各リンク7の略中間部における出力軸支点8を揺動支軸とする各アジャスタレバー10の基端部側同士はバランススプリング9が張設されて連結される。
【0017】
図2(B)の要部拡大図である図3を参照しつつ、図1において、パッドアッセンブリ5の摩耗に起因したブレーキアーム3の過ストローク時には、アジャスタ機構6におけるアジャスタナット13も外側へ過ストローク移動する。その際、アジャスタレバー10は出力軸支点8を中心として揺動端部である上側が外側(ブレーキアーム3の基端部側)へ揺動する。図2(B)に示すように、アジャスタレバー10を上方へ付勢する復帰スプリング20とアジャスタレバー10をアジャスタギヤ12側に付勢する押圧スプリング21とのバランスにより、アジャスタレバー10のアジャスタギヤ12への確実な噛合と調整のための揺動および復帰動作がなされる。
【0018】
図3および一部分解斜視図である図4に示すように、過ストローク時のアジャスタレバー10は出力軸支点8を中心として揺動端部の上側が外側(すなわち下側)へ揺動すると、アジャスタギヤ12を図示で右回転させて、ラチェット歯をひとつ送る。その際、アジャスタレバー10の対向側のアジャスタギヤ12にはストッパ11における逆止爪22が係止されて配設されている。この逆止爪22は、アジャスタギヤ12によるアジャスタ機構の短縮方向への回転を阻止する機能を有する。逆止爪22はリンク7の略中間部における出力軸支点8に基端部が支持されたストッパ11に設置され、その先端の孔部は、図4に示すように、アジャスタギヤ12の基部の軸部が前記出力軸支点8に軸支されたアジャスタソケット14に嵌合される際に、アジャスタギヤ12の基部の軸部とともに支持される。
【0019】
このように構成して、ストッパ11における逆止爪22の配設は、確実にアジャスタ機構をパッドアッセンブリ摩耗を補完する拡張方向に調整できて、短縮方向へ逆行することがないので、高い調整精度が確保できるとともに、パッドアッセンブリ交換時にアジャスタを戻す際にアジャスタギヤ12は逆回転しないために、アジャスタナット13のみを回転してアジャスタ機構6を交換前の位置に縮小できる。その際、前記逆止爪22を設けたストッパ11の支軸を前記各リンク7の略中間部における出力軸支点8と略一致させて、前記アジャスタレバー10の挙動と同様に、リンク7の揺動等により誤作動することなく、常に同じ位置にて逆止機能を保持させることができる。
【0020】
かくして、各アジャスタギヤ12を回転させるアジャスタレバー10の揺動支軸が前記各リンク7の略中間部における出力軸支点8と略一致させたことにより、簡素な構造のリンク式倍力装置を採用しつつ、ブレーキアーム3の基端部からの挙動に左右されることの少ないリンク7の略中間部における出力軸支点8においてアジャスタ機構の調整が行えて、調整部の剛性等の影響を受けることなく、高い調整精度が確保できる。しかも、各アジャスタレバー10、10間をバランススプリング9により連結したことによって、アジャスタ機構6に軸力が作用してアジャスタギヤ12が回転しにくくなっても、バランススプリング9が伸びて、アジャスタレバー10が回転移動ではなく平行移動の挙動を示して、アジャスタギヤ12を必要以上の力で回転させようとしないので、アジャスタギヤ12の破損が防止される。
【0021】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、ブレーキアクチュエータの形式(液体圧あるいは空気圧等の流体式、電磁あるいはモータ等による電気式、あるいは歯車列を用いた機械式等も採用され得る。実施例のウェッジ自体が流体圧や電動モータ等により軸動するアクチュエータを構成してもよい)、アジャスタ機構のリンクにおける出力軸支点およびブレーキアームの基端部との連結部の関連構成、出力軸支点の位置すなわちリンク式倍力装置における倍力比率、アジャスタギヤとアジャスタナットとの相対回転による調整形態(螺子による螺合の他、突起と傾斜溝の係合等も採用され得る)、アジャスタレバーのリンクにおける出力軸支点への軸支形態、各アジャスタレバーへのバランススプリングの連結形態、ストッパにおける逆止爪の設置形態、逆止爪の形状、ストッパのリンクにおける出力軸支点への支持形態等については適宜選定できる。また、実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構は、好適には鉄道車両のキャリパ型ディスクブレーキに適用されるが、自動車等の車両や産業用ディスクブレーキ等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0023】
6 アジャスタ機構
7 リンク
8 リンク出力軸支点
9 バランススプリング
10 アジャスタレバー
13 アジャスタナット
15 ウェッジ
16 ローラ
17 ストラット
18 支軸
19 ローラ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの軸動により拡開揺動する一対のリンクの略中間部における出力軸支点と各ブレーキアームの基端部とを、それぞれアジャスタギヤとアジャスタナットとの相対回転により軸間距離を調整するアジャスタ機構を介して連結したリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構において、前記各ブレーキアームの過ストロークに伴って前記各アジャスタギヤを回転させるアジャスタレバーの揺動支軸を前記各リンクの略中間部における出力軸支点と略一致させたことを特徴とするリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構。
【請求項2】
前記各アジャスタレバー間をバランススプリングにより連結したことを特徴とする請求項1に記載のリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構。
【請求項3】
前記各アジャスタギヤによるアジャスタ機構の短縮方向への回転を阻止する逆止爪を配設したことを特徴とする請求項2に記載のリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構。
【請求項4】
前記逆止爪の支軸を前記各リンクの略中間部における出力軸支点と略一致させたことを特徴とする請求項3に記載のリンク式倍力装置におけるアジャスタ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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