説明

ワイヤーソー切断工法

【課題】この発明は、基準面から突出し、切断位置の断面において角部を有する多角断面突出部材を、効率よく基準面直近で切断するワイヤーソー切断工法を提供することを目的とする。
【解決手段】天井面310から突出する中間杭300を、無端状のワイヤー11を回転させて切断するワイヤーソー切断工法であって、中間杭300を、ワイヤー11で切断する切断位置の断面において角部を有するH型鋼で構成するとともに、切断位置を、中間杭300における天井面310の直近位置とし、切断開始時において、中間杭300のフランジ300aの角部のワイヤー11への角当たりを防止する補助プーリ110を有する補助プーリ機構100を、該基準面直近基端位置にセットするワイヤー11に対応して中間杭300に装備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、本体コンクリートに巻き込まれた中間杭の切断撤去の際において、中間杭の天井直近部分をワイヤーで切断する等の基準面から突出する突出部材を基準面直近で切断するワイヤーソー切断工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、構造物の一部や部材を切断する際に、ダイヤモンド砥粒を埋め込んだビーズを一定間隔に配置して結合した無端状のワイヤーを駆動プーリで回転させ、切断するワイヤーソー切断工法が多用されている。しかし、例えば、H型鋼材等の多角形断面の部材を切断する際において、ワイヤーが角部に引っ掛かるとワイヤーの損傷が著しくなる。ワイヤーの損傷が著しくなると、ワイヤーが破断し、施工効率が低下するとともに、ワイヤーが高価であるため、施工コストが増大する。
【0003】
このような問題に対して、例えば、特許文献1に記載の補助プーリを柱部材の両外側に配置することによって、ワイヤーへの角部の角当たりを防止し、ワイヤーが角部に引っ掛かることを防止できると考えられる。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の補助プーリは、ワイヤーが係止する係止溝の両側にフランジを備えているため、例えば、柱部材を天井際で切断する際において、補助プーリのフランジの厚み分、天井から控えた位置でしかワイヤーで切断できず、天井部分に残された柱部材の切り残し部分を処理する必要があり、工程の効率化を図ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−286752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、基準面から突出し、切断位置の断面において角部を有する多角断面突出部材を、効率よく基準面直近で切断するワイヤーソー切断工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、基準面から突出する突出部材を、無端状のワイヤーを回転させて切断するワイヤーソー切断工法であって、前記突出部材を、前記ワイヤーで切断する切断位置の断面において角部を有する多角断面突出部材で構成するとともに、前記切断位置を、前記多角断面突出部材における前記基準面直近の基端部である基準面直近基端位置とし、切断開始時において、前記多角断面突出部材の前記角部の前記ワイヤーへの角当たりを防止する角当たり防止部材を、該基準面直近基端位置にセットする前記ワイヤーに対応して装備することを特徴とする。
【0008】
上記基準面は、天井面、床面、側壁面あるいは柱面等とすることができる。
したがって、上記突出部材は、天井面や床面から突出する仮設の中間杭、支持杭、柱部材や側壁面、あるいは側壁面から突出する水平方向の突出部材とすることができる。なお、上記多角断面突出部材は、H型鋼やI型鋼等の型鋼や板状の鋼材や、高強度のコンクリート等で構成した多角形断面の部材等で構成することができる。
【0009】
また、上記基準面直近は、天井面、床面、側壁面あるいは柱面等で構成する上記基準面の際であり、基準面に沿う態様、あるいは基準面との間にわずかなクリアランスを有する近傍を含む概念である。
【0010】
上記角当たり防止部材は、前記多角断面突出部材の前記角部とワイヤーとの間に介在させて角部へ角当たりを防止するプーリの保護部材や、前記多角断面突出部材の前記角部へ角当たりすることを防止するためにワイヤーの向きをガイドするガイド部材等で構成することができる。
【0011】
また、ワイヤーに対応して装備する角当たり防止部材は、角当たり防止機能がワイヤーに作用するように、多角断面突出部材に装着する角当たり防止部材、あるいは基準面に装着する角当たり防止部材等とすることができる。
【0012】
この発明により、基準面から突出し、切断位置の断面において角部を有する多角断面突出部材を、効率よく基準面直近で切断することができる。
詳しくは、前記多角断面突出部材における前記基準面直近の基端部である基準面直近基端位置とし、切断開始時において、前記多角断面突出部材の前記角部の前記ワイヤーへの角当たりを防止する角当たり防止部材を、該基準面直近基端位置にセットする前記ワイヤーに対応して装備する、つまり、多角断面突出部材の基準面直近基端位置をワイヤーで切断する切断開始時において、装着した角当たり防止部材により、前記ワイヤーが前記多角断面突出部材の前記角部に角当たりせず、多角断面突出部材の基準面直近基端位置を切断することができる。
【0013】
したがって、ワイヤーが多角断面突出部材の角部に引っ掛かって損傷することを防止できるとともに、多角断面突出部材の基準面直近基端位置を切断するため、基準面部分に切り残し部分が生じず、切り残し部分を処理する必要がなく、工程の効率化を図ることができる。
【0014】
この発明の態様として、前記角当たり防止部材を、前記多角断面突出部材を切断する切断進行方向に対して交差する交差方向において、前記多角断面突出部材の両外側に配置する補助プーリで構成し、該補助プーリを、前記ワイヤーの係止を許容する係止溝と、該係止溝に対して前記基準面と反対側のみに配置するフランジとで構成する片フランジプーリで構成することができる。
【0015】
この発明により、前記ワイヤーが前記多角断面突出部材の前記角部に角当たりせず、ワイヤーが多角断面突出部材の角部に引っ掛かって損傷することなく、多角断面突出部材の基準面直近基端位置を確実に切断することができる。したがって、工程の更なる効率化を図ることができる。
【0016】
詳しくは、前記多角断面突出部材を切断する切断進行方向に対して交差する交差方向において、前記多角断面突出部材の両外側に補助プーリを配置することによって、ワイヤーへの角部の角当たりを防止し、ワイヤーが角部に引っ掛かることを防止できる。
【0017】
さらに、基準面よりフランジの厚み分控えた位置を切断することとなる通常の両フランジを有する補助プーリを用いた場合と比較し、補助プーリを前記ワイヤーの係止を許容する係止溝と、該係止溝に対して前記基準面と反対側のみに配置するフランジとで構成する片フランジプーリで構成することにより、基準面直近の基準面直近基端位置を確実に切断することができる。
【0018】
したがって、ワイヤーが多角断面突出部材の角部に引っ掛かることなく、多角断面突出部材の基準面直近基端位置を確実に切断することができ、工程の更なる効率化を図ることができる。
【0019】
またこの発明の態様として、前記角当たり防止部材を、前記多角断面突出部材の角部に対して装着するとともに、前記ワイヤーの係止を許容する係止溝を前記基準面側に備え、該係止溝における前記角部に対応する対応部位を、切断方向に対して曲面構成した角部装着角当たり防止部材で構成することができる。
【0020】
上記角部装着角当たり防止部材は、多角断面突出部材と同様の材料や同程度の強度を有する材料で構成する部材とすることができ、例えば、鋼製部材や高強度セメント系材料とで構成することができる。
【0021】
この発明により、前記ワイヤーが前記多角断面突出部材の前記角部に角当たりせず、ワイヤーが多角断面突出部材の角部に引っ掛かって損傷することなく、多角断面突出部材の基準面直近基端位置を確実に切断することができる。したがって、工程の更なる効率化を図ることができる。
【0022】
詳しくは、前記角当たり防止部材を、前記多角断面突出部材の角部に対して装着するとともに、前記ワイヤーの係止を許容する係止溝における前記角部に対応する対応部位を、切断方向に対して曲面構成した角部装着角当たり防止部材で構成することによって、ワイヤーへの角部の角当たりを防止し、ワイヤーが角部に引っ掛かることを防止できる。さらに、前記ワイヤーの係止を許容する係止溝を前記基準面側に備えたことにより、基準面直近の基準面直近基端位置を確実に切断することができる。
【0023】
したがって、ワイヤーが多角断面突出部材の角部に引っ掛かることなく、多角断面突出部材の基準面直近基端位置を確実に切断することができ、工程の更なる効率化を図ることができる。
【0024】
またこの発明の態様として、前記角部装着角当たり防止部材を、無収縮モルタルで構成することができる。
この発明により、所望の形状の角部装着角当たり防止部材を容易に形成することができる。詳しくは、無収縮モルタルを用いることにより、前記多角断面突出部材の角部に対して装着するとともに、前記ワイヤーの係止を許容する係止溝における前記角部直近を曲面構成する角部装着角当たり防止部材を、所望の強度を備えて容易に形成することができる。
【0025】
またこの発明の態様として、前記基準面を天井とするとともに、前記基準面から突出する突出部材を、前記天井に巻き込まれた態様のH型鋼製柱部材とし、床面に設置したワイヤーソー装置本体に備えた駆動プーリの回転による前記ワイヤーの回転を、前記天井直近における該天井に平行な回転に変換する回転変換手段を備えることができる。
【0026】
この発明により、一旦、角当たり防止部材を装着しながら基準面直近基端位置にワイヤーをセットすることにより、床面に設置したワイヤーソー装置本体に備えた駆動プーリの回転による前記ワイヤーの回転を、回転変換手段によって、前記天井直近における該天井に平行な回転に変換し、基準面直近基端位置をワイヤーで切断することができる。
【0027】
また、角当たり防止部材を装着しているため、天井部分に対して直近である基準面直近基端位置を切断するワイヤーがH型鋼製柱部材の角部に引っ掛かって損傷することを防止できる。したがって、天井近傍の高所での作業をワイヤーのセット時以外における天井近傍の高所での作業頻度を低減でき、工程の効率化及び安全性をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明により、基準面から突出し、切断位置の断面において角部を有する多角断面突出部材を、効率よく基準面直近で切断するワイヤーソー切断工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】補助プーリ機構の斜視図。
【図2】補助プーリについての説明図。
【図3】切断対象である中間杭の説明図。
【図4】中間杭を切断するためにセットした補助プーリ仕様ワイヤーソー装置についての説明図。
【図5】中間杭を切断するためにセットした補助プーリ仕様ワイヤーソー装置の要部についての拡大説明図。
【図6】補助プーリ仕様ワイヤーソー装置による切断状況についての平面図。
【図7】補助ガイド機構の斜視図による説明図。
【図8】中間杭を切断するためにセットした補助ガイド仕様ワイヤーソー装置についての説明図。
【図9】中間杭を切断するためにセットした補助ガイド仕様ワイヤーソー装置の要部についての拡大説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明の本実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は補助プーリ機構100の斜視図を示し、図2は補助プーリ110についての説明図を示し、図3は切断対象である中間杭300の説明図を示している。
詳しくは、図2(a)は補助プーリ110の正面図を示し、図2(b)は補助プーリ110の断面図を示している。さらに、図3(a)は中間杭300の断面図を示し、図3(b)は中間杭300の正面図を示している。
【0031】
また、図4は中間杭300を切断するためにセットした補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1についての説明図を示し、図5は中間杭300を切断するためにセットした補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1の要部についての拡大説明図を示し、図6は補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1による切断状況についての平面図を示している。
【0032】
詳しくは、図4(a)は中間杭300を切断するためにセットした補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1についての正面図を示し、図4(b)は補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1を構成するワイヤーソー装置本体10の平面図を示している。
【0033】
さらに、図5(a)は同状態の補助プーリ機構100部分の拡大正面図を示し、図5(b)は補助プーリ機構100部分の拡大平面図を示し、図5(c)は図5(a)におけるa部の拡大図を示している。
【0034】
補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1は、図4に示すように、ワイヤーソー装置本体10と、鉛直方向機構30と、補助プーリ機構100とで構成し、例えば、中間杭300等の部材を切断するための装置である。
【0035】
なお、ワイヤーソー装置本体10は、無端状に形成したワイヤー11を駆動プーリ12によって回転させて部材を切断する従来のワイヤーソー装置と同じ構造であるため詳細な説明は省略するものとして、概略的に説明すると、ダイヤモンド砥粒を埋め込んだビーズ(図示省略)を一定間隔に配置して結合し、可撓性のあるワイヤー11を無端状に形成するとともに、回転する駆動プーリ12でワイヤー11を回転させながら、駆動プーリ12を切断対象から離れる方向に移動させてワイヤー11に張力を作用させ、張力を保持した状態で切断対象を切断する構成である。
【0036】
なお、本実施形態において切断対象を、図3(b)に示すように、上端部301が天井部に巻き込まれるとともに、下部が床部に巻き込まれる態様で、鉛直方向に天井面310から突出する中間杭300としている。中間杭300は、2枚のフランジ300aとウェブ300bとで断面H型に形成されたH型鋼で構成され、天井部や床面部を含む構造物の構築の際に、仮設された支持杭であり、構造物の構築が完了すると切断撤去する部材である。
【0037】
この中間杭300の切断においては、天井面310の直近で切断しなければ、天井面310における中間杭300の切り残し部分を、グラインダやサンダー等の手持ち工具を用い、高所作業で切除撤去する必要があり、工程的にも、安全性においても負担となる。
【0038】
そこで天井面310の直近で中間杭300を、ワイヤー11で切断するために用いる補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1の補助プーリ機構100について、続いて説明する。
補助プーリ機構100は、床面320に設置されたワイヤーソー装置本体10で水平方向に回転するワイヤー11を、後述する鉛直方向機構30で鉛直方向に変換して天井面310の付近まで導き、天井面310の際において補助プーリ機構100の回転方向変換プーリ機構130で天井面310に平行な回転に変換するとともに、天井面310の直近で中間杭300を切断するための装置である。
【0039】
補助プーリ機構100は、切断進行方向Xに平行に配置した移動レール120、移動レール120上を切断進行方向Xに移動する補助プーリ110、及び回転方向変換プーリ機構130(図5)で構成している。
【0040】
なお、図1において、回転方向変換プーリ機構130の図示は省略している。また、移動レール120と補助プーリ110との組み合わせは、切断進行方向Xに直交する進行直交方向Yにおける中間杭300の両側において、中間杭300から適宜の間隔を隔てて配置される一対構成である。
【0041】
補助プーリ110は、図2に示すように、巻き胴部111と、巻き胴部111の下端において径外側に拡がる下側フランジ部112とで構成する上部開放型の片フランジプーリである。
【0042】
なお、巻き胴部111をワイヤー11の径に応じた高さで形成するとともに、巻き胴部111の側壁111aを、下側フランジ部112のフランジ上面112aに対してオーバーハング状となるように上側を外向きにわずかに傾斜させているため、側壁111aと上面112aとの間に張力を保持した状態で係止するワイヤー11が、開放された上方に外れることはない。
【0043】
また、補助プーリ110は、下側フランジ部112の内部において、回転中心となる軸ピン113に対する回転ベアリング114を装着し、軸ピン113に対してスムーズな回転を実現している。
【0044】
移動レール120は、マグネット式ロッドレスシリンダで構成している。移動レール120を構成するマグネット式ロッドレスシリンダは、シリンダチューブ内にマグネットを装備したピストンが内蔵されており、ピストンがスライドすると、シリンダチューブの外側に取り付けられたスライド基台121が追従する構成であり、軸ピン113を介して補助プーリ110をスライド基台121に固定している。なお、スライド基台121を介した補助プーリ110の移動レール120における移動は、左右の補助プーリ110が同期するように、図示省略された操作装置あるいは制御装置によって制御されている。
【0045】
回転方向変換プーリ機構130は、後述する鉛直方向機構30で鉛直方向の回転に変換され、天井面310の際まで導かれたワイヤー11の回転を、天井面310に平行な垂直方向に変換するための上側変換プーリ131と、上側変換プーリ131による鉛直方向機構30の鉛直軸に対する回動を許容する回動機構132とで構成している。
【0046】
このように補助プーリ機構100を構成することによって、補助プーリ110は、回転自在な状態で、移動機構によって、移動レール120の長手方向、つまり切断進行方向Xに移動することができる。
【0047】
そして、図1に示すように、中間杭300の進行直交方向Yに配置した一対の補助プーリ110に対してワイヤー11を係止することにより、ワイヤー11を、中間杭300の外側で平面視コ字状とすることができる。
【0048】
この状態で、ワイヤー11を回転させるとともに、張力を保持しながら、移動機構により補助プーリ110を切断進行方向Xに移動させることにより、ワイヤー11により、切断ライン302で中間杭300を切断することができる。
【0049】
なお、この時の切断ライン302は、ワイヤー11の径よりわずかに広い切断幅となり、その位置は、巻き胴部111の上面111bから下側フランジ部112の上面112aの範囲に略一致することとなる。
【0050】
続いて、上述したように、巻き胴部111の上面111bで切断することのできる補助プーリ110を用いた補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1により、天井面310の直近で中間杭300を切断する場合について説明する。
【0051】
上述したように、補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1は、床面320に載置したワイヤーソー装置本体10と、鉛直方向機構30と、中間杭300における天井面310の付近に装着する補助プーリ機構100とで構成している。
ワイヤーソー装置本体10及び補助プーリ機構100の構成については、上述の通りである。
【0052】
鉛直方向機構30は、ワイヤーソー装置本体10の前部分に装着し、水平方向に回転するワイヤー11の回転を鉛直方向に変換する下側変換プーリ31と、下側変換プーリ31によって鉛直方向の回転に変換されたワイヤー11の挿通を許容するワイヤーカバー32とで構成している。
【0053】
下側変換プーリ31は、図4(b)に示すように、進行直交方向Yにおける中間杭300の両側に配置されたワイヤーカバー32に対して、鉛直方向に回転変換したワイヤー11を導く必要があるため、中間杭300側に向かって拡がる平面視ハ字状に配置された一対構成である。
【0054】
ワイヤーカバー32は、進行直交方向Yにおいて中間杭300の両側に配置した一対の補助プーリ110及び移動レール120に対応し、中間杭300の両側位置に配置される。
【0055】
このように構成されたワイヤーカバー32及び補助プーリ機構100は、固定手段40(41,42)によって中間杭300に対して固定する構成である。固定手段40は、補助プーリ機構100を固定する上部固定手段41と、ワイヤーカバー32の下部を固定する下部固定手段42とがあり、それぞれは、2本の切断進行方向Xの水平部材41a,42aと、進行直交方向Yの水平部材41b,42bとで構成し、中間杭300のフランジ300aに対してブルマン304で固定している。
【0056】
さらに、固定する上部固定手段41は、図5に示すように、2本の切断進行方向Xの水平部材41a上に、平面視逆コ字状の載置板41cを固定し、載置板41c上に移動レール120を固定している。
【0057】
上述のように構成し、固定手段40によって中間杭300に固定した鉛直方向機構30のワイヤーカバー32の上端部32aに対して回転方向変換プーリ機構130を装着するとともに、中間杭300のフランジ300aに取り付けた側面視三角形状の支持台座303の上面に移動レール120を取り付ける。
【0058】
このとき、図5(c)に示すように、移動レール120上を移動する補助プーリ110の側壁111aが、天井面310に対してわずかに離間する位置で、天井面310に対して平行になるように、移動レール120を取り付ける。
【0059】
この状態で、ワイヤーソー装置本体10の駆動プーリ12を回転させることにより、ワイヤーソー装置本体10で水平方向に回転するワイヤー11を鉛直方向機構30で鉛直方向に変換しながら天井面310の付近まで導き、回転方向変換プーリ機構130によって、天井面310の際で水平方向に変換することができる。
【0060】
そして、進行直交方向Y両側の補助プーリ110を同期させながら切断進行方向Xに移動させることにより、図5(c)に示すように、補助プーリ110に係止するワイヤー11で、天井面310の直近で中間杭300を切断することができる。
【0061】
天井面310の直近で中間杭300を切断した後、中間杭300の下側をワイヤーソー装置本体10やガス切断機等により切断することで、中間杭300は切断撤去することができる。なお、中間杭300を天井面310の直近で切断するために用いた鉛直方向機構30や補助プーリ機構100は、天井面310の近くでの取り外し作業を行うことなく、撤去された中間杭300から取り外せばよい。
【0062】
このように、補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1を用いた中間杭300のワイヤーソー切断工法は、ワイヤー11での中間杭300切断後に、天井面310に中間杭300の切り残しが生じることがないため、中間杭300の切り残し部を処理するための高所作業を必要とせず、切断後に天井面310に中間杭300の切り残しが生じる従来のワイヤーソー切断工法に比べて工程的にも安全性にも優れている。
【0063】
さらには、上述したように、天井面310の直近で中間杭300を切断するための準備工として、補助プーリ機構100や鉛直方向機構30を天井面310の近くの高所作業で一旦装着すれば、鉛直方向機構30や補助プーリ機構100は、天井面310の近くでの高所作業による取り外し作業を行うことなく、撤去された中間杭300から取り外すことができ、高所作業の回数を低減でき、工程的にも安全性にも優れている。
【0064】
また、中間杭300は、フランジ300aとウェブ300bとで構成する平面視H型であるため、中間杭300を切断する際に、ワイヤー11がフランジ300aの角部に引っ掛かるとワイヤー11の損傷が著しくなる。
【0065】
しかし、進行直交方向Y両側の補助プーリ110を同調させながら切断進行方向Xに移動させることにより、ワイヤー11は中間杭300より広い平面視コ字状を保ちながら中間杭300を切断できるため、ワイヤー11がフランジ300aの角部に引っ掛かることなく、スムーズに切断することができる。
【0066】
したがって、ワイヤー11がフランジ300aの角部に引っ掛かって損傷を受け、高価であるワイヤー11が破断するおそれのある従来のワイヤーソー切断工法に比べて、施工効率の低下や施工コストの増大を抑制することができる。
【0067】
また、図6に示すように、補助プーリ110が切断進行方向Xの前方に移動しても、回動機構132によって、上側変換プーリ131が、鉛直方向機構30の鉛直軸に対して回動するため、中間杭300を切断するワイヤー11に追従して回動し、スムーズに切断することができる。
【0068】
なお、上述の説明においては、補助プーリ機構100を用いることで、天井面310の直近を、中間杭300のフランジ300aの角部に角当たりしないように構成したが、これに限定されず、例えば、図7乃至図9に示すように、補助ガイド200を用いた補助ガイド仕様ワイヤーソー装置2であってもよい。図7は補助ガイド機構200の斜視図による説明図を示し、図8は中間杭300を切断するためにセットした補助ガイド仕様ワイヤーソー装置2についての説明図を示し、図9は中間杭300を切断するためにセットした補助ガイド仕様ワイヤーソー装置2の要部についての拡大説明図を示している。
【0069】
詳しくは、図7(a)は中間杭300に補助ガイド機構200を装着した状態の正面側からの斜視図を示し、図7(b)は同状態の背面側からの斜視図を示している。
【0070】
また、図8(a)は中間杭300を切断するためにセットした補助プーリ仕様ワイヤーソー装置2についての正面図を示し、図8(b)は補助ガイド仕様ワイヤーソー装置2を構成するワイヤーソー装置本体10の平面図を示している。さらに、図9(a)は同状態の補助ガイド機構200部分の拡大正面図を示し、図9(b)は補助ガイド機構200部分の拡大平面図を示し、図9(c)は図9(a)におけるa部の拡大図を示している。
【0071】
補助ガイド仕様ワイヤーソー装置2は、ワイヤーソー装置本体10、鉛直方向機構30及び補助ガイド機構200を備えている。なお、ワイヤーソー装置本体10及び鉛直方向機構30は、上述の補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1におけるワイヤーソー装置本体10及び鉛直方向機構30と同じ構成であるため、説明は省略する。
【0072】
補助ガイド機構200は、切断進行方向Xにおける後方側のフランジ300aの両角部に装着する角部補助ガイド210と、フランジ300aに沿って装着される補助ガイドレール220と、回転方向変換プーリ機構130とで構成している。なお、回転方向変換プーリ機構130は、上述の補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1における回転方向変換プーリ機構130と同じ構成であるため、説明は省略する。
【0073】
角部補助ガイド210は、フランジ300aの角部に装着される平面視L型の基台部211と、基台部211の上面211aにおいてワイヤー11が係止させる側が円弧に形成された円弧形成部212とを、無収縮モルタルで一体構成している。
【0074】
円弧形成部212は、ワイヤー11の径とほぼ同じ高さに形成されるとともに、側面212aを内側に凸な円弧側面で形成している。
なお、角部補助ガイド210を無収縮モルタルで構成しているため、切断対象である中間杭300の形状に応じた形状を、所望の強度で容易に形成することができる。
【0075】
補助ガイドレール220は、角部補助ガイド210の切断進行方向Xにおける前方面210aから前方のフランジ300aに沿って水平に固定されたL型アングルであり、上面220aが角部補助ガイド210の上面211aと同じ高さとなるようにフランジ300aに固定される。
【0076】
なお、角部補助ガイド210及び補助ガイドレール220は、ブルマン304によって中間杭300のフランジ300aに対して固定される。また、フランジ300aに対する角部補助ガイド210及び補助ガイドレール220の固定は、角部補助ガイド210の円弧形成部212の側面212aが天井面310に接する高さに設定している。
【0077】
この高さで補助ガイド機構200(210,220)を固定することにより、図9(c)に示すように、角部補助ガイド210の基台部211の上面211a及び補助ガイドレール220の上面220aと、天井面310との間に、ワイヤー11の径と同じ高さクリアランスが形成される。
【0078】
また、進行直交方向Yにおけるフランジ300aの両角部に装着した角部補助ガイド210の円弧形成部212の側面212aにワイヤー11を係止することにより、ワイヤー11は、中間杭300の外側で、角部が円弧状である平面視略コ字状を形成することができる。
【0079】
この状態で、上述の補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1と同様に、ワイヤーソー装置本体10の駆動プーリ12を回転させ、鉛直方向機構30で鉛直方向に変換し、回転方向変換プーリ機構130で天井面310の際で水平方向の回転に変換されたワイヤー11は、まず補助ガイド機構200における角部補助ガイド210の円弧形成部212の円弧部分を切削する。
【0080】
円弧形成部212の切削が終わるとワイヤー11はフランジ300aを切断し始めるが、フランジ300aの角部に装着した補助ガイド機構200の円弧形成部212の切削に連続して切断するため、フランジ300aの角部にワイヤー11が角当たりすることはない。
【0081】
よって、ワイヤー11がフランジ300aの角部に引っ掛かることなく、スムーズに切断することができる。したがって、ワイヤー11がフランジ300aの角部に引っ掛かって損傷を受け、高価なワイヤー11が破断するおそれのある従来のワイヤーソー切断工法に比べて、施工効率の低下や施工コストの増大を抑制することができる。
【0082】
また、角部補助ガイド210の基台部211の上面211a及び補助ガイドレール220の上面220aと、天井面310との間に形成されたクリアランス部分をワイヤー11は通りながら、中間杭300を精度良く切断するため、ワイヤー11は天井面310の直近で中間杭300を切断することができる。
【0083】
天井面310の直近で中間杭300を切断した後、中間杭300の下側をワイヤーソー装置本体10やガス切断機等により切断することで、中間杭300は切断撤去することができる。なお、中間杭300を天井面310の直近で切断するために用いた鉛直方向機構30や補助ガイド機構200は、天井面310の近くでの取り外し作業を行うことなく、撤去された中間杭300から取り外せばよい。
【0084】
このように、補助プーリ仕様ワイヤーソー装置2を用いた中間杭300のワイヤーソー切断工法は、ワイヤー11での中間杭300切断後に、天井面310に中間杭300の切り残しが生じることがないため、中間杭300の切り残し部を処理するための高所作業を必要とせず、切断後に天井面310に中間杭300の切り残しが生じる従来のワイヤーソー切断工法に比べて工程的にも安全性にも優れている。
【0085】
さらには、上述したように、天井面310の直近で中間杭300を切断するための準備工として、補助ガイド機構200や鉛直方向機構30を天井面310の近くの高所作業で一旦装着すれば、鉛直方向機構30や補助ガイド機構200は、天井面310の近くでの取り外し作業を行うことなく、撤去された中間杭300から取り外すことができ、高所作業の回数を低減でき、工程的にも安全性にも優れている。
【0086】
また、ワイヤー11による切断位置が切断進行方向Xの前方に移動しても、回動機構132によって、上側変換プーリ131が、鉛直方向機構30の鉛直軸に対して回動するため、中間杭300を切断するワイヤー11に追従して回動し、スムーズに切断することができる。
【0087】
この発明の構成と、上述の本実施形態との対応において、
この発明の基準面は、天井面310に対応し、
以下同様に、
突出部材、H型鋼製柱部材、及び多角断面突出部材は、中間杭300に対応し、
基準面直近基端位置は、天井面310の直近に対応し、
角当たり防止部材は、補助プーリ110または角部補助ガイド210に対応し、
交差方向は、進行直交方向Yに対応し、
補助プーリ及び片フランジプーリは、補助プーリ110に対応し、
係止溝は、巻き胴部111の側壁111aと下側フランジ部112の上面112aとの間、あるいは円弧形成部212の側面212aに対応し、
フランジは、下側フランジ部112に対応し、
多角断面突出部材の角部は、中間杭300におけるフランジ300aの角部に対応し、
角部装着角当たり防止部材は、角部補助ガイド210に対応し、
回転変換手段は、回転方向変換プーリ機構130及び鉛直方向機構30に対応し、
ワイヤーソー切断工法は、補助プーリ仕様ワイヤーソー装置1または補助ガイド仕様ワイヤーソー装置2を用いたワイヤーソー切断工法に対応するも、
この発明は、上述の本実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0088】
例えば、上述の説明においては、天井面310に上部が巻き込まれた中間杭300を切断対象としたが、天井面310から突出する側壁面等であってもよい。また、基準面を天井面310としたが、床面、側壁面あるいは柱面等としてもよく、その場合、側壁面から突出する水平方向の突出部材としてもよい。さらには、切断対象は、H型鋼のみならずI型鋼等の型鋼や板状の鋼材等であってもよい。
また、角部補助ガイド210を無収縮モルタルで構成したが、中間杭300と同じ鋼材や高強度セメント系材料で構成してもよい。
【0089】
なお、上述の説明においては、鉛直方向機構30、及び補助プーリ機構100や補助ガイド機構200を、切断対象である中間杭300に対して固定したが、天井面310、床面320、あるいはワイヤーソー装置本体10から固定してもよい。しかし、取り外しの高所作業の有無や、天井面310の直近での切断精度の観点から、中間杭300に対して固定する方法がより好ましい。
【符号の説明】
【0090】
1…補助プーリ仕様ワイヤーソー装置
2…補助ガイド仕様ワイヤーソー装置
11…ワイヤー
30…鉛直方向機構
110…補助プーリ
111…巻き胴部
111a…側壁
112…下側フランジ部
112a…上面
130…回転方向変換プーリ機構
210…角部補助ガイド
212…円弧形成部
212a…側面
300…中間杭
300a…フランジ
310…天井面
X…切断進行方向
Y…進行直交方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準面から突出する突出部材を、無端状のワイヤーを回転させて切断するワイヤーソー切断工法であって、
前記突出部材を、前記ワイヤーで切断する切断位置の断面において角部を有する多角断面突出部材で構成するとともに、
前記切断位置を、前記多角断面突出部材における前記基準面直近の基端部である基準面直近基端位置とし、
切断開始時において、前記多角断面突出部材の前記角部の前記ワイヤーへの角当たりを防止する角当たり防止部材を、該基準面直近基端位置にセットする前記ワイヤーに対応して装備する
ワイヤーソー切断工法。
【請求項2】
前記角当たり防止部材を、
前記多角断面突出部材を切断する切断進行方向に対して交差する交差方向において、前記多角断面突出部材の両外側に配置する補助プーリで構成し、
該補助プーリを、
前記ワイヤーの係止を許容する係止溝と、
該係止溝に対して前記基準面と反対側のみに配置するフランジとで構成する片フランジプーリで構成した
請求項1に記載のワイヤーソー切断工法。
【請求項3】
前記角当たり防止部材を、
前記多角断面突出部材の角部に対して装着するとともに、前記ワイヤーの係止を許容する係止溝を前記基準面側に備え、該係止溝における前記角部に対応する対応部位を、切断方向に対して曲面構成した角部装着角当たり防止部材で構成した
請求項1に記載のワイヤーソー切断工法。
【請求項4】
前記角部装着角当たり防止部材を、
無収縮モルタルで構成した
請求項3に記載のワイヤーソー切断工法。
【請求項5】
前記基準面を天井とするとともに、
前記基準面から突出する突出部材を、前記天井に巻き込まれた態様のH型鋼製柱部材とし、
床面に設置したワイヤーソー装置本体に備えた駆動プーリの回転による前記ワイヤーの回転を、前記天井直近における該天井に平行な回転に変換する回転変換手段を備えた
請求項1乃至4のうちいずれかに記載のワイヤーソー切断工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−152850(P2012−152850A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13583(P2011−13583)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【出願人】(391004768)日本ファステム株式会社 (9)
【Fターム(参考)】