説明

低レベルのホルデインを有するオオムギ

本発明は、セリアック病の患者による摂取に適した食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法に関する。具体的には、本発明は、ホルデインが低レベルの食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法に関する。また、本発明の方法に使用することができる粒を産生するオオムギ植物も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリアック病の患者による摂取に適した食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法に関する。具体的には、本発明は、ホルデインが低レベルの食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法に関する。また、本発明の方法に使用することができる粒を産生するオオムギ植物も提供する。
【背景技術】
【0002】
セリアック病(coeliac(celiac) disease)(CD、celiac sprueとも称される)は、T細胞媒介性の小腸の自己免疫疾患であり、この疾患は、コムギ(グルテニンおよびグリアジンからなるグルテン)、オオムギ(ホルデイン)またはライムギ(セカリン)に由来する、特定の貯蔵タンパク質(正確にはプロラミンとして知られている)の摂取によって、感受性の個人において誘導される。オートムギのプロラミン(アベニン)は、大部分のセリアック病にとっては許容されるが(Hogberg et al., 2004; Perraho et al., 2004a)、少数のセリアック病においては陽性の反応を誘導し得る(Lundin et al., 2003; Peraaho et al., 2004b)。セリアック病は、少なくともオーストラリア、北米および南米、ヨーロッパ、アフリカおよびインドの人口の0.25-1%において生じるが(Hovell et al., 2001; Fasano et al., 2003; Treem 2004)、この疾患は、恐らくは過小診断されている。未治療のセリアック病の症状および被害の認知が増したことにより、オーストラリアにおける診断の比率が、1年間当たり15%増加した。白人および西アジアの人種の約4人に1人が、セリアック病の必須の決定因子であるが十分な決定因子ではないHLA-DQ8または-DQ2対立遺伝子を有する(Treem 2004)。しかしながら、これらの対立遺伝子を有する人々の約20人に1人のみが、セリアック病を発症する。1日当たりわずか10ミリグラムのグルテンの摂取でも、症状が誘導され得るので、現在のところ、唯一の治療は、コムギ、オオムギおよびライムギを完全に回避することである(Biagi et al., 2004)。
【0003】
未診断や未治療の場合、セリアック病は、特に幼児において、命の危険となり得る深刻な健康被害となる。セリアック病は、小腸の吸収性絨毛の変形を引き起こし、絨毛の破壊を誘導し得る。その結果、栄養素の吸収が困難になり、このことは、体重減少、疲労、ミネラル欠乏症、皮膚炎および暗視の喪失だけでなく、通常は膨張、下痢およびさしこみを含む激しい腸の痛みと関連し得る。未治療のセリアック病の対象は、例えば、小腸のカルチノーマの危険性が10倍高まる、非ホジキンリンパ腫の危険性が3-6倍高まる、腸T細胞リンパ腫の危険性が28倍高まるといったように、ガンの危険性が増大する。セリアック病は、また、I型糖尿病の危険性も3倍高くなる(Peters et al., 2003; Peters et al., 2003; Verkarre et al., 2004)。セリアック病の患者においては、精神の抑鬱の症状も5倍増加することが報告されている(Pynnonen et al., 2004)。
【0004】
セリアック病の分子的機序は、現在のところ、プロラミンの特定のアミノ酸配列に対する反応であることが合理的に理解されている(Sollid 2002; Hadjivassiliou et al., 2004)。プロリンおよびグルタミンが豊富な、あまり分解されなかったプロラミンペプチドは、腸粘膜におけるヒト組織トランス-グルタミナーゼ(tTG)(キーとなるグルタミン残基を脱アミノ化する)が標的とする基質モチーフと一致する。得られた負電荷を有するグルタミン酸により、脱アミド化されたプロラミンは、特定のクラスのHLA分子(DQ2またはDQ8)へと結合することとなる(Kim et al., 2004)。腸の内皮を標的とする特定のT細胞クローン、所謂DQ2(8)/CD4+制限T細胞が、増殖するように刺激され、絨毛委縮または抗体産生をもたらすリンホカインを遊離する(Hadjivassiliou et al., 2004)。これらのT細胞クローンは、食事の摂取後約6日間で腸の末梢血中で最大濃度に達する(Anderson et al., 2000)。それ故、精製タンパク質の腸での毒性は、T細胞がIFN-γ(セリアック病の発病に必須のサイトカイン)を産生する能力を測定することによって、感度良く且つ特異的に求めることができる。それ故、セリアック病は、アレルギーというよりむしろ、プロラミンがあたかも侵入病原菌であり、活発な免疫応答を誘導するように、プロラミンに反応する宿主の免疫系によって引き起こされるようである。
【0005】
コムギグルテンは、単量体のグリアジンおよび多量体のグルテンを含む数百の異なるが関連したタンパク質から構成される。グリアジンは、グルテン画分の約半分を占め、α-グリアジンは、グリアジンの50%を超える(Wieser et al., 1994; Gellrich et al., 2003)。現在のところ、大部分のセリアック病の毒性データは、α-グリアジン(最初にクローニングされ完全に配列が求められたプロラミン)に焦点が当てられている(Kasarda et al., 1984)。コムギα-グリアジンのセリアック病に対する毒性は、大部分は、キーとなる17のアミノ酸エピトープ内の一つのグルタミン残基によって決定される(Arentz-Hansen et al., 2000; Anderson et al., 2000; Shan et al., 2002)。この領域にポイントミューテーションを有し、毒性を有さない天然に存在するペプチドおよび合成ペプチドが同定されている(Vader et al., 2003)。それ故、他の非毒性であるが機能的なプロラミン分子も同定できると考えられているようである。現在のところ、セリアック病に対する毒性の有用な予測は、アミノ酸配列またはコードする遺伝子のヌクレオチド配列について特徴づけられた、わずかのプロラミンに限定されている。
【0006】
オオムギは、食物および飲料の産生用の、より涼しい気温で広く生育されている二倍体の穀草類である。オオムギの種子のタンパク質は、水、塩溶液、水性アルコールおよび塩基性または酸性溶液への溶解度に応じて、それぞれ、アルブミン、グロブリン、プロラミン(ホルデイン)およびグルテリンに分類される。オオムギの種子の貯蔵タンパク質のほぼ半分が、プロラミン画分に見出される。これらのプロラミンは、主に、発芽後の生長および発達のための炭素、窒素または硫黄源として機能する貯蔵タンパク質である。ホルデインは、種子のタンパク質の約40%を占めるが、生長中の植物の窒素の供給に依存する。オオムギプロラミンをコードする遺伝子座は、主にオオムギの麦芽の質およびビールの製造における泡の形成およびかすみの原因となるために、良く調べられている。オオムギには、4つのクラスのプロラミン、1H染色体上のHor 2、Hor 1、Hor 3およびHor 5遺伝子座によってそれぞれコードされるB、C、Dおよびγ-ホルデインが存在する(Shewry et al., 1999)。これらの遺伝子座は、単一のプロラミン(例えばDホルデイン)から、20-30のメンバーを含むタンパク質ファミリー(例えばBおよびCホルデイン)までの様々なタンパク質をコードする。BおよびCホルデインは、比較的に、より豊富であり、それぞれ、ホルデイン全体の約70%および24%を占める。Dおよびγ-ホルデインは、マイナーな成分であり、それぞれ約2-4%である。ホルデインの分子量は、約35kDa〜100kDaまで様々である。コムギのα-グリアジンと近い相同性を有するオオムギのプロラミンは存在していないが、ホルデインはセリアック病患者にとって毒性であることが広く受け入れられている(Williamson & Marsh 2000)。オオムギの個々のホルデインがセリアック病を誘導する程度は、未だ報告されていない。
【0007】
ビールは、麦芽にしたオオムギから作られる広く消費されている製品であり、それ故、ビールは、セリアック病の患者には適さず、一般的には患者の食事から除外するべきであると広く考えられている。Kanerva et al., (2005)は、ビールの全てではないが1つのメンバーにおいては、低いレベルのプロラミンを同定することができた。医師や栄養士は、ビールを含む如何なるコムギ、オオムギまたはライムギ含有製品をひたすら避けることを、セリアック病の患者に一般的に勧めている。アメリカ合衆国においては、「グルテンフリー」のFDAの定義は、製品が、グルテンフリーの原料のみから調製されることを、すなわち、コムギ、オオムギまたはライムギを全く含まないことを要件とする。国際食品規格委員会は、200ppm(キログラムまたはリットル当たり0.2g)以下のグルテンを含む食品に、「グルテンフリー」のラベルを許可しており、これは、「グルテンフリー」についての欧州の標準でもある。大部分のセリアック病の患者は、1日当たり約10mgのグルテンまでであれば、ひどい作用ももたらさず、許容される(Thompson 2001)。
【0008】
セリアック病の患者に対するプロラミンの毒性は、ELISAなどのイムノアッセイを用いて特異的に検出することができる(Ellis et al., 1990; Sorell et al., 1998)。これらのアッセイは、タンパク質と抗体との間の特異的な相互作用に依存する。ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)およびHPLCも使用されている(Kanerva et al., 2005; Marchylo et al., 1986; Sheehan and Skerritt, 1997)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Abdullah et al. (1986) Biotechnology 4:1087
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故、セリアック病に感受性の対象用の食物および飲料製品において使用できる、実質的に低いレベルのセリアック病誘導性ホルデインを有するオオムギについての需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
オオムギには、4つのクラスのプロラミン、Hor 2、Hor 1、Hor 3およびHor 5遺伝子座によってそれぞれコードされるB、C、Dおよびγ-ホルデインが存在する。本発明者は、少なくともB、CおよびDクラスが、セリアック病の対象において望ましくない炎症性応答を誘導することを見出した。
【0012】
減少したレベルで特定のクラスのホルデインを産生する様々なオオムギの変異体が、同定されているが、この減少は、他のクラスのホルデインの産生が増加することによって少なくとも相殺されることも観察されていた。このことは、オオムギの種子には、種子が生存するために必須の特定のレベルのホルデインを確実にもたらす代償的メカニズムを有することが示唆するものである。驚くべきことに、本発明者は、オオムギのホルデイン産生の、全てではないが、大部分が、無効となり、種子中の窒素の主要な保存形態が喪失するにもかかわらず、野外でオオムギ植物を発芽および産生でき、生存能力のある種子を得ることができることを見出した。これらの種子は、特に、セリアック病の対象による摂取のための食物および飲料の製造に有用である。
【0013】
それ故、1つの態様においては、本発明により、食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法であって、オオムギ粒(grain)、または前記オオムギ粒から産生された麦芽、粉もしくは全粒を、少なくとも1つの他の食物または飲料成分と混合する工程であって、前記粒、麦芽、粉または全粒が、対応する野生型のオオムギ植物に由来する粒、または対応する野生型のオオムギ植物に由来する粒から同じ方法で産生された麦芽、粉もしくは全粒と比較して、約25%以下のレベルのホルデインを含み、それにより、前記食物または麦芽に基づく飲料を製造する工程を含む方法を提供する。
【0014】
好ましくは、粒、麦芽、粉または全粒は、対応する野生型のオオムギ植物、または同じ方法で産生された野生型の麦芽、粉または全粒と比較して、約15%以下の、約10%以下の、約7.5%以下の、約5%以下の、より好ましくは、約2.5%以下のレベルのホルデインを含む。
【0015】
野生型のオオムギ植物の例としては、これらに制限されるわけではないが、Bomi、Sloop、Carlsberg II、K8またはL1が含まれる。
【0016】
他の実施態様においては、粒は、対応する野生型のオオムギ植物と比較して、約25%以下の、約20%以下の、約15%以下の、約10%以下の、約7.5%以下の、約5%以下の、より好ましくは、約2.5%以下のレベルのB、Cおよび/もしくはDホルデインまたはこれらの組み合わせを含む。麦芽、粉または全粒は、同じ程度に減少したレベルのB、Cおよび/もしくはDホルデインまたはこれらの組み合わせを含み得る。
【0017】
他の実施態様においては、粉は、約0.4%未満の、約0.3%未満の、約0.2%未満の、より好ましくは、約0.1%未満のホルデインを含む。前記粒から産生された粉におけるホルデインのレベルは、アルコール分画などの既知の任意の方法によって求めることができる。
【0018】
1つの実施態様においては、粒は、少なくとも約2.4gの平均重量(100粒の重量)を有する。好ましくは、粒は、約2.4g〜約6gの平均重量、より好ましくは、約3.5g〜約6gの平均重量を有する。
【0019】
他の実施態様においては、粒のスターチ含量は、少なくとも約50%(w/w)である。より好ましくは、粒のスターチ含量は、約50%〜約70%(w/w)である。スターチ含量は、当該業界の任意の既知の方法を使用して求めることができる。例えば、実施例4の方法を使用することができる。
【0020】
更なる実施態様においては、粒から産生された粉のセリアック病に対する毒性は、対応する野生型のオオムギ植物の粒から産生された粉の約50%未満、約25%未満、より好ましくは約10%以下である。セリアック病に対する毒性は、当該業界で知られている任意の手法を使用して求めることができる。例えば、実施例1で記される方法を使用することができる。
【0021】
更に他の実施態様においては、粒から産生された麦芽は、約200ppm未満のホルデイン、約125ppm未満のホルデイン、より好ましくは約75ppm未満のホルデインを含む。ホルデイン含量は、当該業界で知られている任意の手法を使用して求めることができる。例えば、実施例7で記される方法を使用することができる。
【0022】
他の実施態様においては、オオムギの粒のゲノムの少なくとも約50%が、オオムギ栽培品種Sloopのゲノムと同一である。
【0023】
好ましくは、粒は、対応する野生型のオオムギ植物と比較して、ホルデインクラスのクラスB、CおよびDのうちの少なくとも1つ、少なくとも2つまたは3つ全てのレベルの減少をもたらす遺伝的変異についての、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ以上の遺伝子座についてホモ接合である植物に由来する。より好ましくは、これらの遺伝的変異は、大部分または全てのB-ホルデインをコードする遺伝子を、Hor2遺伝子座で欠失したアレル、および/または、オオムギのLys3遺伝子座でのミュータントアレルである。
【0024】
1つの実施態様においては、粒は、非トランスジェニック植物に由来する。例えば、粒は、Riso 56とRiso 1508との間の交配、またはこれらの親の系統にそれぞれ存在するhor2およびlys3変異を含むその子孫に由来することができる。好ましくは、このような子孫植物は、Riso 56またはRiso 1508と実質的に異なる遺伝的バックグラウンドを含み、例えば、これらの親の系統の約25%未満の遺伝的バックグラウンドを含む。
【0025】
他の実施態様においては、粒は、トランスジェニック植物に由来する。
【0026】
トランスジェニック植物の1つの実施態様は、粒中の少なくとも1つのホルデインの産生を下方制御するポリヌクレオチドをコードするトランスジーンを含む植物である。好ましくは、この実施態様のポリヌクレオチドは、ホルデインをコードする遺伝子を1つ、好ましくは1つ以上の発現を下方制御するアンチセンスポリヌクレオチド、センスポリヌクレオチド、触媒性ポリヌクレオチド(catalytic polynucleotide)、人工的マイクロRNAまたは二本鎖RNA分子である。
【0027】
トランスジェニック植物の他の実施態様は、セリアック病の患者に対してより低い毒性である、好ましくは非-毒性であるプロラミンをコードするトランスジーンを含む植物である。セリアック病の患者に対して非-毒性であるプロラミンの例は、これらに制限されるわけではないが、オートムギアベニンおよびトウモロコシゼインを含む。
【0028】
1つの実施態様においては、方法は、粒から粉または全粒を製造する工程を含む。
【0029】
特に好ましい実施態様においては、方法は、更に、粒から麦芽を製造する工程を含む。1つの実施態様においては、方法は、更に、乾燥させ発芽させた粒を2つ以上の内胚乳画分、内皮層画分、殻画分、幼芽鞘画分および麦芽根画分へと分画する工程;および、あらかじめ決められた量の2つ以上の画分を組み合わせ、混合する工程を含む。
【0030】
麦芽およびビーズの製造については、オオムギの種子の重要な成分は、スターチである。しかしながら、減少したレベルのホルデインを有するオオムギ変異体のスターチレベルは、以前に、その種子を麦芽およびビールの製造に適さないようにすることが予期された減少したレベルのスターチとなることが示された。本発明者は、特に、驚くべきことに、オオムギのホルデインの産生の、全部では無いが大部分が消失したオオムギの種子を、市販の製造物の適した特徴を有する麦芽およびビールを製造するのに使用することができることを見出した。それ故、特に好ましい実施態様においては、麦芽に基づく飲料は、ビールまたはウィスキーであり、その方法は、粒を発芽する工程を含む。
【0031】
1つの実施態様においては、麦芽に基づく飲料は、少なくとも2%、より好ましくは少なくとも4%のアルコールを含むビールである。好ましくは、アルコールは、エタノールである。
【0032】
更なる実施態様においては、麦芽に基づく飲料は、約1ppm未満のホルデインを含むビールである。
【0033】
更なる実施態様においては、粒の少なくとも約50%が、麦芽化の際に用いられる典型的な条件下での吸水後3日以内に、発芽する。
【0034】
本発明の方法を使用して製造することができる食品の例としては、これらに制限されるわけではないが、粉、スターチ、発酵させて膨らませたパンもしくはパン種の入ってないパン、パスタ、麺、家畜飼料、朝食用シリアル、スナック食品、ケーキ、麦芽、ペストリーまたはオオムギ粉に基づくソースを含む食物が含まれる。
【0035】
好ましくは、食物または麦芽に基づく飲料は、ヒトの摂取用である。更に好ましい実施態様においては、食物または飲料の摂取の後、セリアック病の患者は、少なくとも1つのセリアック病の症状も発症しない。
【0036】
他の態様においては、本発明は、食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法であって、1つもしくは複数のオオムギの粒のタンパク質および約200ppm未満のホルデインを含む麦芽、ならびに/または、1つもしくは複数のオオムギの粒のタンパク質および約0.4%未満のホルデインを含む粉と、少なくとも1つの他の食物または飲料成分とを混合することによって、食物または麦芽に基づく飲料を製造する工程を含む、方法を提供する。
【0037】
1つの実施態様においては、方法は、麦芽および/または粉を得る工程を含む。
【0038】
更なる他の態様においては、本発明は、食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法であって、オオムギの粒、または前記粒に由来する麦芽、粉もしくは全粒と、少なくとも1つの他の食物または飲料成分とを混合することによって、食物または麦芽に基づく飲料を製造する工程を含み、粒に由来する粉が、約0.4%未満のホルデインを含み、および/または粒に由来する麦芽が、約200ppm未満のホルデインを含む、方法を提供する。
【0039】
1つの実施態様においては、方法は、麦芽および/または粉を得る工程を含む。
【0040】
1つの態様においては、本発明は、対応する野生型のオオムギ植物に由来する粒と比較して、約25%以下のレベルのホルデインを含む粒を産生するオオムギ植物を提供する。
【0041】
好ましくは、粒は、対応する野生型のオオムギ植物の粒と比較して、約15%以下の、約10%以下の、約7.5%以下の、約5%以下の、より好ましくは約2.5%以下のレベルのホルデインを含む。
【0042】
野生型のオオムギ植物の例には、これらに制限されるわけではないが、Bomi、Sloop、Carlsberg II、K8またはL1が含まれる。
【0043】
更なる実施態様においては、粒は、対応する野生型のオオムギ植物の粒と比較して、約25%以下の、約20%以下の、約15%以下の、約10%以下の、約7.5%以下の、約5%以下の、より好ましくは約2.5%以下のレベルのB、Cおよび/もしくはDホルデインまたはこれらの任意の組み合わせを含む。
【0044】
更なる実施態様においては、粒から産生される粉は、約0.4%未満の、約0.3%未満の、約0.2%未満の、より好ましくは約0.1%未満のホルデインを含む
【0045】
1つの実施態様においては、粒は、少なくとも約2.4gの平均質量(100粒の質量)を有する。好ましくは、粒は、約2.4g〜約6gの平均質量、より好ましくは、約3.5g〜約6gの平均質量を有する。
【0046】
更なる実施態様においては、粒のスターチ含量は、少なくとも約50%(w/w)である。より好ましくは、粒のスターチ含量は、約50%〜約70%(w/w)である。
【0047】
更なる実施態様においては、粒から産生された粉のセリアック病に対する毒性は、対応する野生型のオオムギ植物の粒から産生された粉の約50%未満、約25%未満、より好ましくは約10%以下である。
【0048】
更に他の実施態様においては、粒から産生された麦芽は、約200ppm未満のホルデイン、約125ppm未満のホルデイン、より好ましくは約75ppm未満のホルデインを含む。
【0049】
他の実施態様においては、オオムギの粒のゲノムの少なくとも約50%が、オオムギ栽培品種Sloopのゲノムと同一である。
【0050】
好ましくは、粒は、対応する野生型のオオムギ植物と比較して、ホルデインクラスのクラスB、CおよびDのうちの少なくとも1つ、少なくとも2つまたは3つ全てのレベルの減少をもたらす遺伝的変異についての、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ以上の遺伝子座についてホモ接合である植物に由来する。
【0051】
1つの実施態様においては、粒は、非トランスジェニック植物に由来する。例えば、粒は、Riso 56とRiso 1508との間の交配、またはこれらの親の系統にそれぞれ存在するhor2およびlys3変異を含むその子孫に由来することができる。好ましくは、このような粒は、Riso 56またはRiso 1508と実質的に異なる遺伝的バックグラウンドを含み、例えば、これらの親の系統の約25%未満の遺伝的バックグラウンドを含む。
【0052】
他の実施態様においては、粒は、トランスジェニック植物に由来する。
【0053】
トランスジェニック植物の1つの実施態様は、粒中の少なくとも1つのホルデインの産生を下方制御するポリヌクレオチドをコードするトランスジーンを含む植物である。好ましくは、この実施態様のポリヌクレオチドは、ホルデインをコードする遺伝子を1つ、好ましくは1つ以上の発現を下方制御するアンチセンスポリヌクレオチド、センスポリヌクレオチド、触媒性ポリヌクレオチド、人工的マイクロRNAまたは二本鎖RNA分子である。
【0054】
トランスジェニック植物の他の実施態様は、セリアック病の患者に対してより低い毒性である、好ましくは非-毒性であるプロラミンをコードするトランスジーンを含む植物である。セリアック病の患者に対して非-毒性であるプロラミンの例は、これらに制限されるわけではないが、オートムギアベニンを含む。
【0055】
更なる実施態様においては、粒の少なくとも約50%が、麦芽化で用いられる典型的な条件下での吸水後3日以内に、発芽する。
【0056】
他の態様においては、本発明は、粒を産生するオオムギ植物であって、粒に由来する粉が、約0.4%未満のホルデイン、および/または粒に由来する麦芽が、約200ppm未満のホルデインを含む、オオムギ植物を提供する。
【0057】
他の態様においては、本発明は、本発明のオオムギ植物の粒を提供する。
【0058】
更なる態様においては、本発明は、オオムギ粒を製造する方法であって、
a)本発明のオオムギ植物を栽培する工程;
b)粒を収穫する工程;および
c)場合によっては、粒を加工する工程
を含む方法を提供する。
【0059】
好ましくは、植物は、野原において商業用スケールで栽培する。例えば、1つの実施態様においては、方法は、少なくとも1ヘクタールの領域の野原で、少なくとも1000の、より好ましくは少なくとも5000の植物を栽培する工程を含む。
【0060】
また、粒に由来する粉、全粒、スターチまたは他の生成物を製造する方法であって、
a)本発明の粒を得る工程;
b)粒を加工して、粉、全粒、スターチまたは他の製品を製造する工程
を含む、方法を提供する。
【0061】
更なる態様においては、本発明は、本発明のオオムギ植物または本発明の粒から産生された生成物を提供する。
【0062】
1つの実施態様においては、生成物は食物製品または麦芽に基づく飲料製品である。
【0063】
好ましくは、麦芽に基づく飲料は、ビールまたはウイスキーである
【0064】
他の実施態様においては、生成物は、非食物製品、好ましくは、スターチを含むまたは少なくとも約50%のスターチからなる非食物製品である。例としては、これらに制限されるわけではないが、フィルム、被膜、接着剤、紙、建築材料および包装材料、またはエタノールなどの非スターチ製品が含まれる。
【0065】
更に他の実施態様においては、本発明は、本発明の方法を使用して製造された食物または麦芽に基づく飲料を提供する。
【0066】
1つの実施態様においては、麦芽に基づく飲料は、少なくとも約2%の、より好ましくは少なくとも約4%のアルコールを含むビールである。好ましくは、アルコールはエタノールである。
【0067】
更なる実施態様においては、麦芽に基づく飲料は、約1ppm未満のホルデインを含むビールである
【0068】
他の態様においては、本発明は、1つまたは複数のオオムギの粒のタンパク質および約1ppm未満のホルデインを含むビールを提供する。1つの実施態様においては、ビールは、約0.5ppm未満のホルデインを有する。
【0069】
好ましくは、ビールは、少なくとも約2%の、より好ましくは少なくとも約4%のアルコールを含む。好ましくは、アルコールはエタノールである。
【0070】
オオムギの粒のタンパク質の例としては、これらに制限されるわけではないが、9kDa 脂質オオムギタンパク質1(LTP1)およびプロテインZが含まれる。
【0071】
他の態様においては、本発明は、1つまたは複数のオオムギの粒のタンパク質および約0.4%未満のホルデインを含む粉を提供する。
【0072】
1つの実施態様においては、粉は、約0.3%未満の、約0.2%未満の、より好ましくは約0.1%未満のホルデインを含む。
【0073】
好ましくは、粉は、約7mg未満の、より好ましくは約5mg未満の、アルコール可溶性タンパク質/gm 乾燥重量粉を含む。
【0074】
更に他の実施態様においては、本発明は、1つまたは複数のオオムギの粒のタンパク質および約200ppm未満のホルデインを含む麦芽を提供する。
【0075】
1つの実施態様においては、麦芽は、約125ppm未満の、より好ましくは約75ppm未満のホルデインを含む。
【0076】
更なる態様においては、本発明は、セリアック病の患者による摂取のための食物および/または麦芽に基づく飲料を製造するために使用することができるオオムギの粒を同定する方法であって、
a)1つまたは複数の以下の物質を入手する工程;
i)前記粒を産生することができる植物に由来するサンプル、
ii)粒、
iii)粒から製造された麦芽、および/または
iv)前記粒の抽出物;
b)工程a)に由来する物質を、少なくとも1つのホルデインおよび/またはホルデインをコードする少なくとも1つの遺伝子について分析する工程を含み、
粒によって産生されるホルデインの量が多くなるほど、粒が、セリアック病の患者による摂取のための食物および/または麦芽に基づく飲料を製造するのに適さない、方法を提供する。
【0077】
1つの実施態様においては、サンプルは粒であり、工程b)は、Bおよび/またはCホルデインについて物質を分析する工程を含む。このことは、当該業界における任意の既知の手法を使用して実施することができ、例えば、ELISAアッセイなどの免疫学的方法を使用して実施することができる。実施例1に記載された方法を使用することができる。1つの実施態様においては、工程b)は、工程a)に由来する物質を、セリアック病の患者に経口投与し、患者から得られたT細胞の1つまたは複数のオオムギホルデインに対する免疫応答性を求める工程を含む。
【0078】
更なる実施態様においては、工程a)に由来するサンプル物質は、ゲノムDNAを含み、工程b)は、1つまたは複数の機能的ホルデイン遺伝子の不存在を検出する工程を含む。また、これは、当該業界の任意の既知の手法を使用して実施することができる。例えば、実施例9で概略を記す遺伝子増幅工程を実施する。
【0079】
1つの実施態様においては、方法は、本発明によるオオムギ植物、粒または麦芽を、多くの植物、粒または麦芽から、繁殖または使用のために選択する工程を含む。このような選択は、直接的にまたは間接的に、物質のセリアック病に対する毒性の減少に基づく。
【0080】
更なる態様においては、本発明は、対象におけるセリアック病の発生または重篤化を予防または低減する方法であって、対象に本発明の食物もしくは麦芽に基づく飲料、または本発明の粒を経口投与する工程を含む、方法を提供する。本願明細書においては、病気の発生または重篤化の低減とは、野生型のオオムギから調製した等量の食物または飲料を投与することと比較したものであると理解される。食物または飲料は、セリアック病の患者に栄養素、すなわち多くの量の栄養素を提供しながら、病気の徴候を誘発するリスクを減少させるのに使用することができる。
【0081】
更なる態様においては、本発明は、対象に栄養素を経口投与し、同時にセリアック病の発生または重篤化を予防または低減する医薬の製造のための、本発明の食物もしくは麦芽に基づく飲料、または本発明の粒の使用を提供する。
【0082】
明らかであるように、本発明の1つの態様の好ましい特性および特徴は、本発明の任意の他の態様に適用可能である。
【0083】
本願明細書をとおして、用語「含む(comprise)」または「comprises」または「comprising」などの変化用語は、言及された要素、整数もしくは工程または要素、整数もしくは工程のグループを含有する意味を含むが、任意の他の要素、整数もしくは工程または要素、整数もしくは工程のグループを除外するものでないと理解される。
本発明を、以後、以下の非制限的な実施例および添付の図を参照に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、コムギ(a)、オオムギ(b)、オートムギ(c)、トウモロコシ(d)またはブランクのグラジエン(e)に由来する、A280nmクロマトグラムを示す、総プロラミン抽出物の逆相FPLCの結果である。0.2gの粉に相当するプロラミンをロードした。酸化DTTは、(DTTOX)として示す。クロマトグラムは、明確化のために補正した。
【図2】図2は、ホルデインの逆相FPLCの結果である。オオムギ抽出物に由来するホルデインの画分1(#1)、2(#2)、3(#3)、4(#4)、5(#5)または6(#6)の単離中のA280nm(実線)および溶媒組成(破線)を示す代表的なクロマトグラムを示す。連続インジェクションを行い、(太字で)示した画分をプールした。
【図3】図3は、20μgのホルデイン画分#1-6の、SDS-PAGEによる分析結果である(ゲルを0.06%のクマシーブルーG250を用いて染色)。スタンダードの分子量(kDa、BenchMark, Invitrogen)の位置を、左のレーンに示す。
【図4】図4は、食事提供を行ってから6日後のセリアック病の患者から単離したT細胞における、オオムギ、コムギ、オートムギまたはトウモロコシに由来する総プロラミン調製物によるIFN-γ産生刺激を示す(tTGによる事前の処理を行った場合(●、n=21)または行わなかった場合(○、n=13))。IFN-γがポジティブなコロニーをカウントし、SFU±S.E.として表した。エラーバーは、S.E.が記号よりも小さい場合は記載していない。
【図5】図5は、食事提供を行ってから6日後のセリアック病の患者から単離したT細胞における、ホルデイン画分#1、2、3、4、5および6によるIFN-γ産生刺激を示す(tTGによる事前の処理を行った場合(●、n=21)または行わなかった場合(○、n=13))。IFN-γがポジティブなコロニーをカウントし、SFU±S.E.として表した。エラーバーは、S.E.が記号よりも小さい場合は記載していない。
【図6】図6は、単離したホルデイン画分の解析用逆相HPLCクロマトグラムを示す。オオムギから精製したホルデイン画分#1、2、3、4、5、6のHPLCの間のA280nmを示す代表的なクロマトグラムを示す。比較のために、クロマトグラムを、D、CおよびBホルデインの溶出(実線)を示す野生型オオムギ(Himalaya)だけでなく、主にCホルデインを蓄積する変異体R56についても示す。
【図7】図7は、Riso56およびRiso1508中のプロラミンの特徴を、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングによって示したものである。表示されたオオムギ系統に由来する、実施例1で精製した20μgのプロラミンを、30分間室温で、6.6M尿素、2%(w/v)SDS、1%(w/v)DTT、62.5mM Tris-HCl(pH 6.8)および0.01%(w/v)ブロモフェノールブルーを含むバッファー中でインキュベートし、2連ずつ12%アクリルアミドゲルにロードし、200Vで40分間電気泳動した。ゲルを、192mMグリシン、25mM Tris-baseおよび20%(v/v)メタノールを含む転写バッファー中で、10分間リンスし、100Vで1時間ニトロセルロース(Amersham Hybond C+)に転写した。左の膜は、3%(w/v)トリクロロ酢酸、3% 5-スルホサリチル酸中の0.2%(w/v)ポンソーSを用いて染色し、水中で簡単に脱色したものである。右の膜は、PBST中の5%脱脂乳において1時間ブロッキングし、その後、PBST中のマウスモノクローナル抗体12224(Skerrit,1998)とインキュベートし、PBSTで10分間3回洗浄し、PBST中のヒツジの抗-マウス-HRP(Selenius)とインキュベートし、PBSTで5分間3回洗浄し、Amersham ECL試薬を使用して製造者の取扱説明者に従ってインキュベートし、Amersham Hyperfilmに露光したものである。MAb12224は、総グルテン抽出物に対して免疫して得られたものであり、全てのホルデインおよびプロラミンを検出する(Skerrit,1988)。
【図8】図8は、野生型BomiおよびCarlsberg IIと比較した、Riso56およびRiso1508におけるホルデイン抽出物の逆相FPLCを示す。ホルデインを、実施例1で示したように表示した系統から精製し、0.2gの粉に相当する量を、実施例1の最初のFPLC方法を使用して、FPLCカラムにインジェクトした。C-ホルデイン(C-Hor)およびB-ホルデイン(B-Hor)の溶出時間を示す。
【図9】図9は、種子当りに基づいてロードしたアルコール可溶性タンパク質の代表的なSDS-PAGEを示す。Riso1508およびRiso56間での交配に由来する個々のF2オオムギの種子に由来するプロラミン抽出物(10μl)を、前記したように抽出した。30、50、70および100kDaのタンパク質スタンダードの位置を、左のラインに示す。親系統Riso1508およびRiso56ならびに野生型(Bomi)のタンパク質プロファイルも示す。推定されるダブルヌル(putative double null)から得られた6つのレーンは、非常に少量のタンパク質(null)を含み、他の6つのレーンは、非常に低減したレベルのタンパク質を含んでいた(reduced)。
【図10】図10は、等量のタンパク質に基づいてロードしたアルコール可溶性タンパク質の代表的なSDS-PAGEを示す。個々のF2オオムギの種子から抽出した20μgのアルコール可溶性タンパク質を含むサンプルを電気泳動し、ゲルをクマシーブルーで染色した。親の系統(Riso1508およびRiso56)および野生型(Bomi)に由来するサンプルも泳動した。最も外側と中央のライン(10kDa)は、既知の分子量のタンパク質スタンダードを含み、30、50、70および100kDaのバンドの位置を示す。
【図11】図11は、F3オオムギの種子に由来するアルコール可溶性抽出物のRP-FPLCを示す。アルコール可溶性タンパク質を、個々のF3種子から前記したように抽出した;2つの種子に由来する上清を組み合わせ、50μlを逆相FPLCカラムにインジェクトし、実施例1で記したように溶出した。
【図12】図12は、実施例4で示すように、野生型のオオムギ(Sloop、Carlsgerg II、Bomi)、シングルヌルの親(single null parent)(Riso 56、Riso 1508)およびJ4、J1、BB5、G1、5RB系統の植物のF4種子に由来する粉サンプルをn=2で、水溶性(A)、塩可溶性(B)、アルコール可溶性(C)および尿素可溶性(D)タンパク質の含量を求めた結果である。トータルの抽出可能なタンパク質(E)含量を、個々の画分の含量を合計することによって求めた。総タンパク質含量も、Dumasの方法に従った元素分析によって測定した(F)。タンパク質含量は、平均値±SEとして示す。
【図13】図13は、実施例5で示すように、様々な粉サンプルから精製されたホルデインのセリアック病に対する毒性を、食事提供から6日間経過後のセリアック病の患者から単離したT細胞を用いて求め、平均のスポット形成単位(SFU)±SEを粉の生体重に対してプロットした結果である。(A)明確化のために、平均のSFUは、酵素、組織型トランスグルタミナーゼの存在下(+tTG)または不存在下(-tTG)での、野生型のオオムギ(Sloop)またはダブルヌルの系統(G1)から精製したホルデインについてのみ示す。全ての場合において、tTGでの処理により、セリアック病について予期されるように、ホルデインの毒性を増した。(B)SFUを、また、tTG処理した、野生型オオムギ(Sloop)、シングルヌルの親(R56、R1508)およびF4種子(4BH)の4つの粉サンプルからの精製ホルデインについても示す。
【図14】図14は、実施例9で示すように、コントロール遺伝子(gannma3-Hor)またはB-ホルデイン遺伝子(H-Hor)のいずれかについて特異的な遺伝子配列を、9RE、4BH系統の個々のF苗または親のR56系統のDNA抽出物から増幅した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0085】
[一般的な手法および定義]
特に他に定義しない限り、本願明細書で使用する全ての技術的および科学的用語は、当該業界(例えば、植物育種、食物テクノロジー、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、タンパク質化学、および生化学)における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有するものとする。
【0086】
他に指摘しない限り、本発明において使用されるリコンビナントタンパク質、細胞培養および免疫学的手法は、当業者に良く知られた標準的な手法である。このような手法は、J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T. A. Brown (editor), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D.M. Glover and B.D. Hames (editors), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996)、F.M. Ausubel et al., (editors), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley- Interscience (1988, including all updates until present), Ed Harlow and David Lane (editors) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988)およびJ.E. Coligan et al., (editors) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons (including all updates until present)などの情報源の文献を介して記載され、説明されている。
【0087】
本願明細書で使用する場合、用語「オオムギ」は、Hordeum属の任意の種を指し、その先祖だけでなく、他の種との交配により産生した子孫をも含む。オオムギの好ましい形態は、Hordeum vulgare種である。
【0088】
セリアック病は、早期乳児期後の全ての年齢のグループにおいて遺伝学的に素因を有する個人に生じる、小腸の自己免疫疾患である。この病気は著しく過小評価されているが、インド-ヨーロッパ語族の約1%が罹患している。セリアック病は、コムギにおいて見出されたグルテンタンパク質であるグリアジン(および、オオムギやライムギなどの他の栽培品種を含むTriticeaeの類似のタンパク質)に対する反応によって引き起こされる。グリアジンへの暴露により、酵素である組織型トランスグルタミナーゼが、グリアジンを修飾し、免疫系が腸組織と交差反応し、炎症反応を引き起こす。これにより、小腸の内側が平坦化し、栄養素の吸収を妨げる。唯一の効果的な治療は、生涯にわたるグルテンフリーの食事である。この病気は、幾つかの他の名前で呼ばれ、その名前は、coeliac disease (with ligature)、c(o)eliac sprue、非熱帯性スプルー(non-tropical sprue)、地方病性スプルー(endemic sprue)、グルテン性腸炎(gluten enteropathy)またはグルテン感受性腸炎(gluten-sensitive enteropathy)およびグルテン不耐性(gluten intolerance)を含む。セリアック病の症状は、個人間で非常に異なる。セリアック病の症状には、以下の1つまたは複数を含み得る;おなら、反復性腹部膨張および腹痛、慢性の下痢、便秘、白色便、悪臭便または脂肪便、体重減少/体重増加、疲労、原因不明の貧血(疲労を誘発する少ない数の赤血球)、骨または関節の痛み、骨粗しょう症、骨減少、行動変化、足における疼きとしびれ(神経損傷に由来)、菌痙攣、発作、月経期間の喪失(しばしば過剰な体重減少を理由とする)、不妊、反復流産、成長遅延、幼児の成長障害、口内部のかすかな痛み、いわゆるアフター性潰瘍、歯の変色またはエナメル喪失ならびに疱疹状皮膚炎と呼ばれる痒みを伴う皮膚発疹。幾つかのより一般的な徴候には、疲労感、断続的な下痢、腹痛または腹部の痙攣、消化不良、鼓腸、膨満および体重減少が含まれる。セリアック病は、例えば、WO 01/025793に記載されているように、診断することができる。
【0089】
本願明細書で使用する場合は、用語「セリアック病の対象に非毒性」とは、食物または飲料の摂取が、セリアック病の対象にセリアック病の徴候が生じないことを指す。本願明細書で記載するように、対応する野生型のオオムギ植物から調製された食物または飲料は、病気の徴候をもたらす。
【0090】
用語「種子」および「粒」は、本願明細書においては、相互変換可能に使用される。「粒」は、一般的に、成熟して収穫した粒を指すが、更には、本願明細書によれば、例えば粉砕または研磨などの加工後の粒(大部分の粒は無傷のままである)または吸水もしくは発芽後の粒も指す。成熟した粒は、一般的に、約18-20%未満の水分含量を有する。野生型のオオムギの粒(粒全体)は、一般的に、9-12重量%のタンパク質を含み、この約30-50重量%(典型的には35重量%)がプロラミンであることから、野生型のオオムギの粒は、約3-4重量%のプロラミンを有する。プロラミンは、ほとんど内胚乳に存在し、全粒重量の約70%を占める。
【0091】
本願明細書で使用する場合、用語「対応する野生型の」オオムギ植物とは、本発明の植物の遺伝子型の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも99%、更により好ましくは99.5%を含むが、変わらないホルデインレベルを有する粒を産生する植物を指す。1つの実施態様においては、「対応する野生型の」オオムギ植物は、粒中のホルデイン産生が減少した遺伝的変異を導入するための植物育種実験において使用される栽培品種である。他の実施態様においては、「対応する野生型の」オオムギ植物は、粒中のホルデイン産生を減少させるトランスジーンを導入する親の栽培品種である。更なる実施態様においては、「対応する野生型の」オオムギ植物は、出願日における、オオムギ粒の市販の製品のために使用される栽培品種、例えば、これらに制限されるわけではないが、Bomi、Sloop、Carlsberg II、K8、Ll、Vlamingh、Stirling、Hamelin、Schooner、Baudin、Gairdner、Buloke、WI3586-1747、WI3416、Flagship、Cowabbie、Franklin、SloopSA、Sloop Vic、Quasar、VB9104、Grimmett、Cameo*Arupo 31-04、Prior、Schooner、Unicom、Harrington、Torrens、Galleon、Morex、Dhow、Capstan、Fleet、Keel、Maritime、Yarra、Dash、Doolup、Fitzgerald、Molloy、Mundah、Onslow、Skiff、Unicorn、Yagan、Chebec、Hindmarsh、Chariot、Diamant、Koral、Rubin、Bonus、Zenit、Akcent、Forum、Amulet、Tolar、Heris、Maresi、Landora、Caruso、Miralix、Wikingett Brise、Caruso、Potter、Pasadena、Annabell、Maud、Extract、Saloon、Prestige、Astoria、Eio、Cork、Extract、Lauraである。1つの実施態様においては、「対応する野生型の」オオムギ植物は、Hor2、Hor1、Hor3およびHor5遺伝子座によってコードされるB、C、Dおよびγ-ホルデインを含む機能的ホルデインタンパク質をコードする機能的ホルデイン遺伝子の完全な補完物を含むために、変わらないホルデインレベルを有する粒を産生する。
【0092】
本願明細書で使用する場合、用語「1つまたは複数のオオムギの粒のタンパク質」とは、オオムギの粒によって産生される天然に存在するタンパク質を指す。このようなタンパク質の例は、当業者に知られている。具体的な例としては、これらに制限されないが、9kDaの脂質輸送タンパク質1(LTP1)などのオオムギアルブミン(レビューについてDouliez et al.(2000)および例としてのSwiss-prot Accession No. P07597を参照)およびプロテインZ(Brandt et al.(1990)およびGenbank Accession No.P06293を参照)を含み、これらは、そのプロセッシングを受けた(成熟)形態だけでなく、本発明の麦芽、粉、全粒、食物または麦芽に基づく飲料の製造の結果として生じる変性形態および/または断片を含む。
【0093】
本願明細書で使用する場合、用語「麦芽」は、オオムギの麦芽を指し、用語「粉」はオオムギの粉を指し、用語「全粒」はオオムギの全粒を指し、用語「ビール」はオオムギのビールを指す。より具体的には、本発明の麦芽、粉、ビール、全粒、食物製品等の供給源は、オオムギの粒の加工に由来する(たとえば、粉砕および/または発酵)。これらの用語には、粒の混合物から製造される麦芽、粉、ビール、全粒、食物製品などが含まれる。好ましい実施態様においては、麦芽、粉、ビール、全粒、食物製品などを製造するために使用される粒の少なくとも50%が、オオムギの粒である。
【0094】
本願明細書で名詞として使用される用語「植物」は、例えば、市販のオオムギ産生のために野外で栽培した植物などの植物全体を指す。「植物部位」は、植物性の構造(例えば葉、茎)、根、花器官/構造、種子(胚、内胚乳および種皮)、植物組織(例えば維管束組織、基本組織等)、細胞、デンプン粒または前記の産物を指す。
【0095】
「トランスジェニック植物」、「遺伝子組み換え植物」またはその変形語句は、同じ種、亜種または栽培品種の野生型植物には存在しない遺伝子コンストラクト(「トランスジーン」)を含む植物を指す。本願明細書で使用される「トランスジーン」は、バイオテクノロジーの業界における通常の意味を有し、リコンビナントDNAまたはRNA手法によって産生または改変された遺伝子配列であって、植物細胞に導入された遺伝子配列を含む。トランスジーンは、植物細胞に由来する遺伝子配列を含み得る。典型的には、トランスジーンを、例えば形質転換などのヒト行う操作によって植物へと導入させるが、任意の方法を当業者は認識するので、使用することができる。
【0096】
「核酸分子」は、例えばDNA、RNAまたはオリゴヌクレオチドなどのポリヌクレオチドを指す。ゲノム起源または合成起源のDNAまたはRNA、二本鎖または一本鎖のDNAまたはRNA、本願明細書で定義する特定の活性をもたらすためのカルボハイドレート、脂質、タンパク質または他の物質と組み合わせたDNAまたはRNAとしうる。
【0097】
本願明細書で使用する「操作可能に連結した」は、2つ以上の核酸(例えばDNA)断片間の機能的な関係を指す。典型的には、転写される配列に対する転写調節因子(プロモーター)の機能的関係を指す。例えば、プロモーターを、適切な細胞において本願明細書で定義するポリヌクレオチドなどのコード配列の転写を刺激または調節する場合、コード配列に操作可能に連結させる。一般的に、転写される配列に操作可能に連結したプロモーター転写調節因子は、物理的に、転写される配列に隣接する、すなわち、これらは、cis-作用性である。しかしながら、幾つかの転写調節因子、例えばエンハンサーは、転写を増大するコード配列に、物理的に隣接せずとも良く、近接しなくとも良い。
【0098】
本願明細書で使用する場合、用語「遺伝子」は、最も広い意味をとり、構造遺伝子のタンパク質コード領域を含み、かつ、5'および3'末端の両方で少なくとも2kbの距離でコード領域に近接して位置する配列(遺伝子の発現に関与する配列)を含む、デオキシリボヌクレオチド配列を含む。コード領域の5'に位置し、mRNA上に位置する配列を、5'非-翻訳配列と称する。コード領域の3'すなわち下流に位置し、mRNA上に位置する配列を、3'非-翻訳配列と称する。用語「遺伝子」には、遺伝子のcDNAおよびゲノム形態の両方が含まれる。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と称される非-コード配列で中断され得るコード配列を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)へと転写する遺伝子の断片であり、イントロンは、エンハンサーなどの調節因子を含み得る。イントロンは、核または一次転写産物から取り除かれ、すなわち、「スプライシングを受ける」。それ故、イントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)転写産物には存在しない。mRNAは、翻訳の間、新生ポリペプチドのアミノ酸の配列または順番を特定する機能を有する。用語「遺伝子」には、本願明細書で記載する本発明のタンパク質の全てまたは一部をコードする合成分子または融合分子、および、前記に任意の1つに相補的なヌクレオチド配列が含まれる。
【0099】
本願明細書で使用する場合、用語「他の食物または飲料成分」は、動物による摂取に適した任意の物質、好ましくはヒトによる摂取に適した任意の物質を指す。例としては、これらに制限されるわけではないが、水、他の植物種に由来する粒、糖などが含まれる。
【0100】
本願明細書で使用する場合、用語「少なくとも1つのホルデインの低減したレベルをもたらす遺伝子変異」は、ホルデイン産生を減少させるオオムギ植物の任意の多型を指す。遺伝子変異は、例えば、ホルデイン遺伝子またはその一部の欠失、またはオオムギ遺伝子の転写を減少させる変異である。このような遺伝子変異の例は、Riso 56、Riso 527およびRiso 1508中に存在する。ここで、このような植物を、本発明の方法のために使用することができる。更にその上、本発明の植物は、これらのオオムギ変異体の任意の変異体の間で交配させることができる。好ましい実施態様においては、本発明の植物は、Riso 56とRiso 1508との間の交配、または、これらの系統に存在するhor2およびlys3変異を含むその子孫である。1つの実施態様において、植物は、Riso 527とRiso 1508との間の交配ではない。
【0101】
本願明細書で使用する場合、反対のことを言及しない限り、用語「約」は、対象とする値に照らし合わせて、任意の合理的な範囲とする。好ましい実施態様においては、用語「約」は、特定の値の±10%、より好ましくは±5%である。
【0102】
[プロラミンおよびホルデイン]
穀草類のプロラミン(コムギではグリアジン、オオムギではホルデイン、ライムギではセカリン、オートムギではアベニンおよびトウモロコシではゼインとして知られている)は、オートムギおよびコメを除いて、全ての穀草類の粒における主な内胚乳貯蔵タンパク質である(Shewry and Halford, 2002)。ホルデインは、オオムギ種子の総タンパク質の35-50%を占める(Jaradat, 1991)。これらは、4つのグループ、A(γホルデインとしても知られている)、B、CおよびD(移動が高い順)に分けられる(Field et al., 1982)。Bホルデインは、主なタンパク質画分であり、そのイオウ含量の点で、Cホルデインとは異なる(Kreis and Shewry, 1989)。Bホルデインは、トータルの70-80%を占め、Cホルデインは10-20%を占める(Davies et al., 1993)。Aホルデインは、貯蔵画分であるとは一般的に考えられていないのに対して、Dホルデインは、高分子量グルテンと相同性を示す。ホルデインは、残りの関連する穀草類のプロラミンと共に、ナピンなどの他の貯蔵タンパク質とは異なり、接合胚それ自身では発現していない。ホルデインは、種子の発生の中期から後期の間にデンプン質胚乳で主に発現すると考えられている。
【0103】
オオムギホルデインのアミノ酸配列の例(Accession No;NCBIにおける記載;gi detailsとして提供)には、必ずしも制限されないが、以下を含む。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【0104】
本発明の1つの実施態様は、セリアック病の対象に非毒性でるプロラミンを含むトランスジェニックオオムギ植物に関する。本願明細書で示すように、このようなプロラミンの例は、オートムギのアベニンおよびトウモロコシのゼインである。オートムギのアベニンのアミノ酸配列の例(Accession No;NCBIにおける記載;gi detailsとして提供)には、必ずしも制限されないが、以下を含む。
【化8】

【化9】

【0105】
[麦芽]
本発明によって提供された麦芽に基づく飲料には、開始物質の一部または全体として麦芽を使用することによって製造されるアルコール飲料(蒸留飲料を含む)および非-アルコール飲料が含まれる。例としては、ビール、発泡酒(低-麦芽ビール飲料)、ウィスキー、低-アルコールの麦芽に基づく飲料(例えば、1%未満のアルコールを含む麦芽に基づく飲料)および非-アルコール飲料が含まれる。
【0106】
麦芽化は、制御した浸漬および発芽に続き、オオムギの粒を乾燥させる工程である。この連続した事象は、粒の改変をもたらす多くの酵素の合成にとって重要であり、主に死滅した内胚乳細胞壁をばらばらにし、粒の栄養素を移動させる工程である。後に行う乾燥工程においては、香りおよび色を、化学的褐変反応によって産生させる。麦芽の第一の使用は飲料製造のためであるが、他の工業的工程においても利用され、例えば、パン・菓子製造業においては酵素源として、食品製造業においては芳香剤および着色剤として、例えば、麦芽もしくは麦芽粉として、または間接的に麦芽シロップ等として利用される。
【0107】
1つの実施態様においては、本発明は、麦芽組成物を製造する方法に関する。方法は、好ましくは、
(i)本発明のオオムギ植物の粒を提供する工程、
(ii)前記粒を浸漬する工程、
(iii)浸漬した粒を予め決められた条件下で発芽させる工程、および
(iv)前記発芽した粒を乾燥する工程
を含む。
【0108】
例えば、麦芽は、Hoseney(Principles of Cereal Science and Technology, Second Edition, 1994: American Association of Cereal Chemists, St. Paul, Minn.)において記載された任意の方法によって製造することができる。しかしながら、麦芽を製造するための任意の他の適した方法(例えば、これらに限定されないが、麦芽を焙煎する方法を含む、特殊麦芽の製造方法)も、本発明とともに使用することができる。1つの非制限の例を実施例6において記載する。
【0109】
麦芽は、本発明のオオムギ植物から産生される粒のみを使用して、または他の粒を含む混合物において調製することができる。
【0110】
麦芽は、ビール製造のために主に使用されるが、蒸留酒の製造にも使用される。ビール製造は、麦芽汁製造、主発酵および二次発酵、ならびに後処理を含む。最初に、麦芽を粉砕し、水へと攪拌し、加熱する。この「マッシング」の間に、麦芽化によって活性化した酵素が、穀粒のスターチを、発酵可能な糖へと分解する。産生した麦芽汁を浄化し、酵母を加え、混合物を発酵させ、後処理を実施する。
【0111】
他の実施態様においては、麦芽汁組成物は、麦芽から調製することができる。前記麦芽汁は、第一および/または第二および/または更なる麦芽汁としうる。一般的に、麦芽汁組成物は、高い含有量のアミノ酸窒素および発酵可能なカルボハイドレート(主にマルトース)を有する。典型的には、麦芽汁は、水と麦芽をインキュベート、すなわち、マッシングすることによって調製される。マッシングの間に、麦芽/水組成物に、追加のカルボハイドレート豊富な組成物、例えばオオムギ、トウモロコシまたはコメ付加物を補充することができる。麦芽化されていない穀草類の付加物は、通常、活性な酵素を含まず、それ故、糖変換に必須の酵素の供給を麦芽または外来性の酵素に頼ることとなる。
【0112】
一般的に、麦芽汁の製造における最初の工程は、水がマッシング段階において穀物粒子に接近しやすいように、麦芽を粉砕することであり、このことは、基本的には、基質の酵素的分解を伴う麦芽化工程の延長である。マッシングの間に、粉砕した麦芽を、水等の液体画分とともにインキュベートする。温度は、一定に保つか(等温マッシング)、徐々に上げる。いずれの場合においても、麦芽化およびマッシング中に産生される可溶性物質は、前記液体画分中へ抽出され、その後、濾過によって麦芽汁および麦芽粕として呼ばれる残留固体粒子へと分離する。この麦芽汁は、第一の麦芽汁とも呼ばれる。濾過後、第二の麦芽汁が得られる。更なる麦芽汁は、この手法を繰り返すことによって調製することができる。麦芽汁の製造のための適した手法の非制限的な例は、Hoseney(前記)に記載されている。
【0113】
麦芽汁組成物は、また、本発明のオオムギ植物またはその一部を、1つまたは複数の適した酵素(例えば、酵素組成物または酵素混合組成物、例えば、UltrafloまたはCereflo(Novozymes))とインキュベートすることによって調製することができる。麦芽汁組成物は、また、麦芽および麦芽化されていないオオムギ植物またはその一部の混合物を使用して、任意に、前記手順の間に1つまたは複数の適した酵素を添加することによって、調製することができる。加えて、セリアック病に関連する毒性アミノ架橋を特異的に破壊するプロピル-エンドペピチダーゼ酵素を、麦芽汁の発酵中に添加し、残ったホルデインの毒性を低減することができる(De Angelis et al., 2007; Marti et al., 2005; Stepniak et al., 2006)。
【0114】
[粒の加工]
本発明のオオムギの粒を、当該業界において知られた任意の手法を使用して加工し、食物または非食物製品を製造することができる。
【0115】
1つの実施態様においては、製品は、全粒粉(超微細に粉砕した全粒粉、例えば超微細に粉砕した全粒粉、全粒粉または約100%の粒から調製された粉)である。全粒粉には、精粉(refined flour)成分(微細な粉または微細な粉)および粗い画分(超微細に粉砕した粗い画分)を含む。
【0116】
精粉は、例えば、精麦を破砕およびふるいわけすることによって調製された粉としうる。食品医薬品局(FDA)は、オオムギ精粉のカテゴリーに含まれるためには、粉が特定の粒子サイズを満たすことを求めている。精粉の粒子サイズは、98%以上が、「212マイクロメーター(U.S. Wire 70)」と称される編んだワイヤークロスの穴よりも大きくない穴を有するクロスを通る粉として記載されている。
【0117】
粗い画分には、少なくとも1つのふすまおよび胚を含む。例えば、胚は、オオムギ穀粒中に存在する胚のプラントである。胚には、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラルおよびファイトニュートリエント、例えばフラボノイドが含まれる。ふすまは、幾つかの細胞膜を含み、顕著な量の脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラルおよびファイトニュートリエント、例えばフラボノイドを有する。更には、粗い画分には、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラルおよびファイトニュートリエント、例えばフラボノイドも含む澱粉層を含み得る。澱粉層は、技術的には内胚乳の一部と考えられているが、ふすまと同じ特性を多く示し、典型的には、破砕工程の間に、ふすまおよび胚とともに取り除かれる。澱粉層は、タンパク質、ビタミンおよびファイトニュートリエント、例えばフェルラ酸を含む。
【0118】
更に、粗い画分は、精粉成分とブレンドしうる。好ましくは、粗い画分は、均一に、精粉成分とブレンドする。粗い画分および精粉成分を均一にブレンドすることによって、輸送の間、サイズによる粒子の層形成を、減少させるのに役立つ。粗い画分は、精粉成分と混合し、全粒粉を形成することができ、それにより、精粉と比較して、栄養価、繊維含量および抗酸化能が増した全粒粉を提供することが可能となる。例えば、粗い画分または全粒粉は、様々な量で、焼き菓子、スナック製品および食物製品において精粉または全粒粉を置き換えるのに使用することができる。本発明の全粒粉(すなわち、超微細に粉砕した全粒粉)は、また、自家製の焼き菓子における使用のために、消費者に直接市販されることもできる。例示的な実施態様においては、全粒粉の造粒プロファイルは、全粒粉中の98重量%の粒子が、212マイクロメートル未満となるものである。
【0119】
更なる実施態様においては、全粒粉および/または粗い画分のふすまおよび胚中に存在する酵素は、全粒粉および/または粗い画分を安定化するために不活性化される。本発明によって、不活性化は、阻害、変性等をも意味すると考えられる。安定化は、蒸気、熱、放射線、またはふすまおよび胚葉に存在する酵素を不活性する他の処置を使用する工程である。ふすまおよび胚中の天然に存在する酵素は、粉中の化合物への変化を触媒し、粉の料理特性および保存期間に悪影響を及ぼす。不活性化された酵素は、粉中に存在する化合物への変化を触媒することはなく、それ故、安定化された粉は、その料理特性を保持し、より長い保存期間を有する。例えば、本発明は、粗い画分を粉砕するために、two-stream milling techniqueを実施しうる。粗い画分がいったん分離して安定化されると、その後、粗い画分は、グラインダー、好ましくはギャップミル(gap mill)を介して破砕し、約500マイクロメートル以下の粒子サイズ分布を有する粗い画分を形成する。例示的な実施態様においては、ギャップミルのチップスピードを、115m/s〜144m/sの間で作動させる。高いチップスピードは熱が発生する。工程中に発生した熱および空気の流れは、粗い画分の微生物の量を減少させる。更なる実施態様においては、ギャップミルにおける破砕の前に、粗い画分は、平均95,000コロニー形成単位/グラム(cfu/g)の好気性生菌数、および、平均1,200cfu/gの大腸菌数を有しうる。ギャップミルを介した通過の後に、粗い画分は、平均10,00cfu/gの好気性生菌数および平均900cfu/gの大腸菌数を有しうる。それ故、微生物量は、本発明の粗い画分においては、著しく減少しうる。シフト後、500マイクロメートルより大きな粒子サイズを有する任意の細かく挽いた粗い画分を、更なる粉砕のための工程へと戻しうる。
【0120】
更なる実施態様においては、全粒粉または粗い画分は、食物製品の成分としうる。例えば、食物成分は、ベーグル、ビスケット、パン、ロールパン、クロワッサン、ダンプリング、イングリッシュマフィン、マフィン、ピタパン、クイックブレッド、冷蔵した/冷凍した生地製品、生パン、ベークドビーンズ、ブリトー、チリ、タコス、タマーリ、トルティーヤ、ポットパイ、レディトゥイート・シリアル、レディトゥイート・ミール、詰め物、電子レンジ可能な食事、ブラウニー、ケーキ、チーズケーキ、コーヒーケーキ、クッキー、デザート、ペストリー、スイートロール、キャンディーバー、パイクラスト、パイフィリング、ベビーフード、ベイキングミックス、バター、パン粉付け、グレイビーミックス、ミートイクステンダー、肉代用食品、シーズニングミックス、スープミックス、グレイビー、ルー、サラダドレッシング、スープ、サワークリーム、ヌードル、パスタ、ラーメンヌードル、チャーメンヌードル、ローメンヌードル、アイスクリーム含有物、アイスクリームバー、アイスクリームコーン、アイスクリームサンドウィッチ、クラッカー、クルトン、ドーナツ、エッグロール、押出しスナック、フルーツおよびグレインバー、電子レンジ可能なスナック製品、栄養バー、パンケーキ、不完全ベーキングパン製品、プレッツェル、プディング、グラノーラベースの製品、スナックチップ、スナック食品、スナックミックス、ワッフル、ピザクラスト、動物食品またはペットフードとしうる。
【0121】
代替的な実施態様においては、全粒粉または粗い画分は、栄養補助食品の成分としうる。例えば、栄養補助食品とは、食事に添加する、1つまたは複数の成分、典型的には以下の成分:ビタミン、ミネラル、ハーブ、アミノ酸、酵素、抗酸化剤、ハーブ、スパイス、プロバイオティクス、抽出物、プレバイオティクスおよび繊維を含む製品としうる。本発明の全粒粉または粗い画分は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素および繊維を含む。例えば、粗い画分は、濃縮された量の食物繊維だけではなく、健康な食事に必要である他の必須栄養素、例えばビタミンB、セレン、クロム、マンガン、マグネシウムおよび抗酸化剤を含む。例えば、22グラムの本発明の粗い画分は、個人の1日に推奨される繊維の摂取の33%を供給する。更に、14グラムは、個人の1日に推奨される繊維の摂取の20%を供給するのに必要な全てをまかなう。それ故、粗い画分は、個人の繊維の摂取のための優れた補給源である。よって、この実施態様においては、全粒粉または粗い画分は、栄養補助食品の成分としうる。栄養補助食品は、個人の健康全般に役立つ任意の既知の栄養成分、例えば、これらに制限されないが、ビタミン、ミネラル、他の繊維成分、脂肪酸、抗酸化剤、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ルテイン、リボース、オメガ-3脂肪酸、および/または他の栄養成分を含み得る。
【0122】
更なる実施態様においては、全粒粉または粗い画分は、繊維サプリメントまたはその成分としうる。多くの最近の繊維サプリメント、例えば、サイリウムハスク、セルロース誘導体および加水分解されたグアーガムは、繊維含量を超えては制限された栄養価しか有さない。加えて、多くの繊維サプリメントは、望ましくないテクスチャーを有し、味が悪い。全粒粉または粗い画分から調製された繊維サプリメントは、繊維だけでなくタンパク質および抗酸化剤の供給をも促進しうる。繊維サプリメントは、これらに制限されないが、以下の形態で供給しうる:インスタント飲料ミックス、レディトゥドリンク飲料、栄養バー、ウエハース、クッキー、クラッカー、ゲルショット、カプセル、ガム、チュアブルタブレットおよび錠剤。1つの実施態様では、風味付けされたシェイクまたは麦芽タイプの飲料の形態の繊維サプリメントが提供され、この実施態様は、特に、子供のための繊維サプリメントとして魅力的であろう。
【0123】
更なる実施態様においては、粉砕工程を、multi-grain flour、multi-barley flourまたはmulti-grain coarse fractionを調製するために使用しうる。例えば、1つのタイプのオオムギに由来するふすまおよび胚を破砕し、他のタイプのオオムギの細かく挽いた内胚乳または全粒粉とブレンドしうる。代替的に、1つのタイプの粒のふすまおよび胚を破砕し、他のタイプの粒の細かく挽いた内胚乳または全粒粉とブレンドしうる。更なる実施態様においては、第一のタイプのオオムギまたは粒に由来するふすまおよび胚を、第二のタイプのオオムギまたは粒に由来するふすまおよび胚とブレンドし、multi-grain coarse fractionを産生しうる。本発明は、1つまたは複数の粒のふすま、胚、内胚乳および全粒粉の1つまたは複数の任意の組合せを混合する工程を含むと考えられる。このmulti-grain、multi-barleyアプローチは、特別な粉を調製するのに使用することができ、そして、複数のタイプの粒またはオオムギの質および栄養含量を利用して、1つの粉を調製するのに使用することができる。
【0124】
本発明の全粒粉は、様々な粉砕化工程を解して製造される。例示的な実施例としては、単一の蒸気内で粒の内胚乳、ふすまおよび胚を別個の蒸気へと分離させることなく、粒を破砕する工程を含む。清潔で強化した粒を第一の通過グラインダー、例えば、ハンマーミル、ローラーミル、ピンミル、インパクトミル、ディスクミル、空気摩擦ミル、ギャップミル等へと移す。1つの実施態様においては、グラインダーはギャップミルとしうる。破砕後、粒を取り出し、ふるいへと移す。細かく挽いた粒子をふるいにかけるために当該業界で知られた任意のふるいを使用しうる。ふるいを通った物質は、本発明の全粒粉であり、更に加工する必要はない。ふるい上に残った物質は、第二の画分と称する。第二の画分は、更なる粒子低減が必要である。それ故、この第二の画分を、第二の通過グラインダーへと移しうる。粉砕後、第二の画分を第二のふるいに移しうる。第二のふるいを通った物質は、本発明の全粒粉である。ふるい上に残った物質を、第四の画分と称し、粒子サイズを低減する更なる加工が必要である。第二のふるい上の第四の画分を、フィードバックループを介した更なる加工のために、第一の通過グラインダーか、第二の通過グラインダーに戻す。本発明の代替的な実施態様においては、工程は、より高いシステム能を提供するために、複数の第一のパスグラインダーを含みうる。
【0125】
本発明の全粒粉、粗い画分および/または粒製品は、当該業界で知られた任意の粉砕方法によって製造し得ると考えられる。更に、本発明の全粒粉、粗い画分および/または粒製品は、発酵、インスタント化、押し出し、カプセル化、あぶる、ローストなどの多くの他の方法によって改変または強化し得ると考えられる。
【0126】
[ホルデインの産生を下方制御するポリヌクレオチド]
1つの実施態様においては、本発明の粒および/または本発明の方法において使用される粒は、粒中の少なくとも1つのホルデインの産生を下方制御するポリヌクレオチドをコードするトランスジーンを含むトランスジェニックオオムギ植物に由来する。このようなポリヌクレオチドの例には、これらに制限されるわけではないが、アンチセンスポリヌクレオチド、センスポリヌクレオチド、触媒性ポリヌクレオチド、人工的マイクロRNAまたは二本鎖RNA分子が含まれる。粒中に存在する場合、これらのポリヌクレオチドのそれぞれは、翻訳のために利用されるホルデインmRNAを減少させる。
【0127】
(アンチセンスポリヌクレオチド)
用語「アンチセンスポリヌクレオチド」は、ホルデインをコードする特定のmRNA分子の少なくとも一部に相補的であり、mRNAの翻訳などの転写後のイベントを妨害することができるDNAもしくはRNAまたはこれらの組み合わせを意味すると理解すべきである。アンチセンス方法の使用は、当該業界でよく知られている(例えば、G. Hartmann and S. Endres, Manual of Antisense Methodology, Kluwer (1999)を参照)。植物中でのアンチセンス手法の使用は、Bourque(1995)およびSenior(1998)によって論評されている。Senior(1998)は、アンチセンス方法は、現在では、遺伝子発現を調節する非常によく確立された手法であると述べている。
【0128】
本発明のオオムギ植物中のアンチセンスポリヌクレオチドは、生理学的条件下で標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズする。本願明細書で使用する場合、用語「生理学的条件下でハイブリダイズするアンチセンスポリヌクレオチド」とは、ポリヌクレオチド(完全にまたは部分的に一本鎖である)が、オオムギホルデインなどのタンパク質をコードするmRNAと、二本鎖ポリヌクレオチドを、オオムギ細胞中の通常の条件下で少なくとも形成することができることを意味する。
【0129】
アンチセンス分子は、遺伝子発現またはスプライシングイベントにおける制御に効果を及ぼす構造遺伝子または配列に対応する配列を含み得る。例えば、アンチセンス配列は、本発明の遺伝子の標的化コード領域またはその5'-非翻訳領域(UTR)もしくは3'-UTRまたはこれらの組み合わせに対応し得る。アンチセンス配列は、部分的には、転写の間または転写後にスプライシングによって除去されるイントロン配列に相補的であり得るが、好ましくは、標的遺伝子のエクソン配列のみに相補的である。一般的には、UTRは非常に相違していることを考えると、これらの領域を標的することにより、遺伝子阻害のより高い特異性がもたらされる。
【0130】
アンチセンス配列の長さは、少なくとも19の連続したヌクレオチド、好ましくは少なくとも50のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも100、200、500または1000のヌクレオチドとすべきである。完全な遺伝子転写産物に相補的な全長の配列を使用し得る。長さは、最も好ましくは100-2000のヌクレオチドである。標的転写産物に対するアンチセンス配列の同一性は、少なくとも90%、より好ましくは95-100%とすべきである。アンチセンスRNA分子は、当然ながら、分子を安定化する機能を有し得る無関係の配列も含み得る。
【0131】
(触媒性ポリヌクレオチド)
用語「触媒性ポリヌクレオチド/核酸」とは、特異的に異なる基質を認識し、この基質の化学的改変を触媒するDNA分子もしくはDNA含有分子(当該業界では「デオキシリボザイム」としても知られている)またはRNA分子もしくはRNA含有分子(「リボザイム」としても知られている)を指す。触媒性核酸中の核酸塩基は、塩基A、C、G、T(およびRNAについてはU)とし得る。
【0132】
典型的には、触媒性核酸は、標的核酸の特異的な認識のためのアンチセンス配列、および酵素様の切断活性を有する核酸(本願明細書では「触媒ドメイン」と称する)を含む。特に本願発明において有用なリボザイムのタイプは、ハンマーヘッドリボザイム(Haseloff and Gerlach, 1988, Perriman et al., 1992)およびヘアピンリボザイム(Shippy et al., 1999)である。
【0133】
本発明のオオムギ植物におけるリボザイムおよびリボザイムをコードするDNAは、当該業界でよく知られた方法を使用して、化学的に合成し得る。リボザイムは、また、RNAポリメラーゼプロモーター(例えば、T7 RNAポリメラーゼまたはSP6 RNAポリメラーゼのプロモーター)に操作可能に連結したDNA分子(転写後にRNA分子を産生する)からも調製し得る。ベクターがDNA分子に操作可能に連結したRNAポリメラーゼプロモーターも含む場合は、リボザイムを、RNAポリメラーゼおよびヌクレオチドとインキュベーションすることによって、in vitroで産生し得る。別の実施態様においては、DNAを発現カセットまたは転写カセットへと挿入し得る。合成後、RNA分子を、リボザイムを安定化しRNaseに対する抵抗性を付与する能力を有するDNA分子にライゲーションすることによって、改変し得る。
【0134】
本願明細書で記載するアンチセンスポリヌクレオチドのように、触媒性ポリヌクレオチドも、標的核酸分子(例えば、オオムギホルデインをコードするmRNA)に、「生理学的条件下」で、すなわちオオムギ細胞中の条件下でハイブリダイズすることができるべきである。
【0135】
(RNA干渉)
RNA干渉(RNAi)は、特に、特定のタンパク質の産生を特異的に阻害するのに有用である。理論に束縛されるのを望むわけではないが、Waterhouse et al., (1998)は、dsRNA(二本鎖RNA)をタンパク質産生を減少させるのに使用し得るメカニズムについてのモデルを提供した。この手法は、対象とする遺伝子のmRNAまたはその一部(本発明の場合、本発明によるポリヌクレオチドをコードするmRNA)に基本的に同一である配列を含むdsRNA分子の存在に負っている。好都合なことには、dsRNAを、リコンビナントベクターまたは宿主細胞において単一のプロモーターから産生し得る。この系においては、センスおよびアンチセンス配列は、無関係の配列の両側に配置され、この無関係の配列がループ構造を形成し、センスおよびアンチセンス配列がハイブリダイズし、dsRNA分子の形成が可能となる。本発明の適したdsRNA分子のデザインおよび産生は、当業者の能力の範囲内であり、特に、Waterhouse et al., (1998)、Smith et al., (2000)、WO 99/32619、WO 99/53050、WO 99/49029およびWO 01/34815が考慮される。
【0136】
1つの例においては、不活性化する標的遺伝子に相同性を有する少なくとも部分的に二本鎖(duplex)のRNA産物の合成を行うDNAを導入する。それ故、DNAは、RNAへと転写された場合に、二本鎖RNA領域を形成するようにハイブリダイズすることができるセンスおよびアンチセンス配列の両方を含む。好ましい実施態様においては、センスおよびアンチセンス配列は、RNAへと転写された場合にスプライシングにより除去されるイントロンを含むスペーサー領域によって分離される。この配置は、遺伝子サイレンシングをより効率的に行うことが示されている。二本鎖領域は、1つのDNA領域または2つのDNA領域のいずれかから転写される1つまたは2つのRNA分子を含み得る。二本鎖分子の存在により、二本鎖RNAおよび標的植物遺伝子に由来する相同的なRNA転写産物の両方を破壊する内因性の植物システムに由来する応答が誘導され、標的遺伝子の活性を効率良く減少または除去すると考えられている。
【0137】
ハイブリダイズするセンスおよびアンチセンス配列の長さは、それぞれ、少なくとも19の連続したヌクレオチド、好ましくは少なくとも30または50のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも100、200、500または1000のヌクレオチドとすべきである。完全な遺伝子転写産物に対応する全長の配列を使用し得る。長さは、最も好ましくは100-2000ヌクレオチドである。標的転写産物に対するセンスおよびアンチセンス配列の同一性は、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95-100%とすべきである。RNA分子は、当然ながら、分子を安定化する機能を有し得る無関係の配列も含み得る。RNA分子は、RNAポリメラーゼIIまたはRNAポリメラーゼIIIプロモーターの制御下において発現し得る。後者の例には、tRNAまたはsnRNAプロモーターが含まれる。
【0138】
好ましい低分子干渉RNA(「siRNA」)分子は、標的mRNAの約19-21の連続したヌクレオチドに同一であるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、標的mRNA配列は、ジヌクレオチドAAで始まり、約30-70%(好ましくは30-60%、より好ましくは40-60%、より好ましくは約45-55%)のGC含量を含み、導入されるオオムギ植物のゲノムにおいて標的以外の如何なるヌクレオチド配列とも高い同一性を有さない(例えば、標準的なBLASTサーチによって求めた場合に)。
【0139】
(マイクロRNA)
マイクロRNA調節は、一般的なRNAi/PTGSから枝分かれした、遺伝子調節へと発展させるRNAサイレンシング経路の明確に分化した分枝である。マイクロRNAは、特徴的な逆方向反復を有する遺伝子様エレメントにコードされた小分子RNAの特定のクラスである。転写された場合、マイクロRNA遺伝子は、ステム-ループ構造を有する前駆体RNAを生じ、この前駆体から、その後、マイクロRNAが得られる。マイクロRNAは、典型的には、約21ヌクレオチド長である。放出されたmiRNAは、配列特異的な遺伝子抑制を行うArgonauteタンパク質の特定のサブセットを含むRISC様複合体へと導入される(例えば、Millar and Waterhous, 2005; Pasquinelli et al., 2005; Almeida and Allshire, 2005を参照)。
【0140】
(共抑制(cosuppression))
使用し得る他の分子生物学的アプローチは、共抑制である。共抑制のメカニズムは、よく理解されていないが、転写後の遺伝子サイレンシング(PTGS)に関与していると考えらており、この点において、アンチセンス抑制の多くの例と非常に類似しているかもしれない。共抑制は、遺伝子またはその断片の過剰なコピーを、植物へと、その発現のためのプロモーターに関してセンスの配置で導入することを含む。センス断片のサイズ、標的遺伝子領域への対応性、および標的遺伝子に対する配列同一性の程度は、前記したアンチセンス配列と同様である。幾つかの例においては、遺伝子配列の更なるコピーが、標的植物遺伝子の発現を干渉する。共抑制アプローチを実施する方法については、WO 97/20936およびEP 0465572を参照せよ。
【0141】
(核酸コンストラクト)
トランスジェニック植物を産生するのに有用な核酸コンストラクトは、標準的な手法を使用して容易に調製し得る。
【0142】
mRNAをコードする領域を挿入する場合、コンストラクトは、イントロン配列を含み得る。これらのイントロン配列は、植物中でのトランスジーンの発現を助ける。用語「イントロン」は、標準的な意味において、転写されるが、タンパク質をコードしておらず、翻訳の前にスプライシングにより除去される遺伝子断片を意味するものとして使用する。イントロンは、トランスジーンが翻訳産物をコードする場合は、5'-UTRまたはコード領域に挿入し、あるいは、トランスジーンが翻訳産物をコードしない場合は、転写領域に挿入し得る。しかしながら、好ましい実施態様においては、任意のポリペプチドをコードする領域は、単一のオープンリーディングフレームとして提供される。当業者ならば理解するように、このようなオープンリーディングフレームは、ポリペプチドをコードするmRNAを逆転写することによって得ることができる。
【0143】
対象とするmRNAをコードする遺伝子の適切な発現を確実に行うために、核酸コンストラクトは、典型的には、1つまたは複数の調節因子、例えば、プロモーター、エンハンサーおよび転写終結配列またはポリアデニル化配列を含む。このような因子は、当該業界でよく知られている。
【0144】
調節因子を含む転写開始領域は、植物中での調節されたまたは構成的な発現のために提供される。好ましくは、発現は、少なくとも種子の細胞中で行われる。
【0145】
植物細胞中で活性となる多くの構成的プロモーターが開示されている。植物中での構成的発現に適したプロモーターには、これらに制限されるわけではないが、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ゴマノハグサモザイクウイルス(FMV)35S、サトウキビバチルスウイルスプロモーター、ツユクサ黄色モットルウイルスプロモーター、リボース-1,5-ビス-ホスフェートカルボキシラーゼの小サブユニットに由来する光誘導性プロモーター、コメ細胞質型トリオースホスフェートイソメラーゼプロモーター、シロイヌナズナのアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、ライスアクチン1遺伝子プロモーター、マンノピンシンターゼおよびオクトピンシンターゼプロモーター、Adhプロモーター、スクロースシンターゼプロモーター、R遺伝子コンプレックスプロモーター、ならびにクロロフィルα/β結合タンパク質遺伝子プロモーターが含まれる。これらのプロモーターは、植物中で発現させたDNAベクターを産生するのに使用されてきた;例えば、WO 84/02913を参照。これらのプロモーターの全ては、様々なタイプの植物で発現可能なリコンビナントDNAベクターを産生するのに使用されてきた。
【0146】
プロモーターは、温度、光またはストレスなどの因子によって調節され得る。通常は、調節因子は、発現させる遺伝子配列の5'に提供される。コンストラクトは、また、nos 3'またはocs 3'ポリアデニル化領域または転写終結配列などの転写を増大させる他の因子も含み得る。
【0147】
5'非-翻訳リーダー配列は、異種の遺伝子配列を発現するために選択されたプロモーターから由来させることができ、望むならば、mRNAの翻訳を増大させるように特異的に修飾することができる。トランスジーンの発現を最適化するレビューについては、Koziel et al., (1996)を参照せよ。5'非-翻訳領域は、また、植物ウイルスRNA(特に、タバコモザイクウイルス、タバコエッチウイルス、トウモロコシ委縮モザイクウイルス(maize dwarf mosaic virus)、アルファルファモザイクウイルス)から、適した真核遺伝子、植物遺伝子(コムギおよびトウモロコシクロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子リーダー)から、または合成遺伝子配列から得ることができる。本発明は、非-翻訳領域がプロモーター配列を付随する5'非-翻訳配列に由来するコンストラクトの使用に制限されるものではない。リーダー配列は、また、無関係のプロモーターまたはコード配列に由来し得る。本発明に有用なリーダー配列は、トウモロコシHsp70リーダー(US 5,362,865およびUS 5,859,347)およびTMVオメガエレメントを含む。
【0148】
転写の終結は、キメラベクター中で対象とするポリヌクレオチドに操作可能に連結した3'非-翻訳DNAによって達成される。リコンビナントDNA分子の3'非-翻訳領域は、植物中でRNAの3'末端へのアデニル酸ヌクレオチドの付加を引き起こすように機能するポリアデニル化シグナルを含む。3'非-翻訳領域は、植物細胞中で発現する様々な遺伝子から得ることができる。ノパリンシンターゼ3'非-翻訳領域、エンドウ小サブユニットRubisco遺伝子に由来する3'非翻訳領域、ダイズ7S種子貯蔵タンパク質遺伝子に由来する3'非翻訳領域が、一般的に使用されている。アグロバクテリウム腫瘍-誘導(Ti)プラスミド遺伝子のポリアデニル化シグナルを含む3'転写、非-翻訳領域も適する。
【0149】
典型的には、核酸コンストラクトは、選択マーカーを含む。選択マーカーは、外来性核酸分子で形質転換した植物または細胞を同定およびスクリーニングするのに役立つ。選択マーカー遺伝子は、オオムギ細胞に抗生物質耐性もしくは除草剤耐性を付与するか、または、マンノースなどの基質の利用を可能とする。選択マーカーは、好ましくは、オオムギ細胞にハイグロマイシン耐性を付与する。
【0150】
好ましくは、核酸コンストラクトは、安定的に、植物のゲノムに挿入されている。従って、核酸は、分子をゲノム中へと導入させることを可能とする適切な因子を含むか、または、コンストラクトは、植物細胞の染色体へと挿入されることができる適切なベクター中に位置する。
【0151】
本発明の1つの実施態様は、核酸分子を宿主細胞へと伝達することができる任意のベクターへと挿入させた、本願明細書で記載したトランスジーンを少なくとも含むリコンビナントベクターの使用を含む。このようなベクターは、本発明の核酸分子に天然では近接して存在しておらず、好ましくは核酸分子が由来する種とは異なる種に由来する核酸配列である異種の核酸配列を含む。ベクターは、RNAまたはDNAのいずれか、原核生物または真核生物由来のいずれかとすることができ、典型的にはウイルスまたはプラスミドである。
【0152】
植物細胞の安定なトランスフェクションに適した、またはトランスジェニック植物の確立に適した多くのベクターが、例えば、Pouwels et al., Cloning Vectors: A Laboratory Manual, 1985, supp. 1987; Weissbach and Weissbach, Methods for Plant Molecular Biology, Academic Press, 1989;およびGelvin et al., Plant Molecular Biology Manual, Kluwer Academic Publishers, 1990に記載されている。典型的には、植物発現ベクターは、例えば、5'および3'調節配列の翻訳制御下で、1つまたは複数のクローン化された植物遺伝子および優性選択マーカーを含む。このような植物発現ベクターは、また、プロモーター調節領域(例えば、誘導性もしくは構成的、環境調節型もしくは生長調節型、または細胞特異的もしくは組織特異的発現を制御する調節領域)、翻訳開始部位、リボソーム結合部位、RNAプロセシングシグナル、転写終結部位、および/またはポリアデニル化シグナルを含み得る。
【0153】
[トランスジェニック植物]
本発明の意味において定義されるトランスジェニックオオムギ植物には、リコンビナント手法を使用して、望む植物または植物源において少なくとも1つのポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドの産生を引き起こすように遺伝的に改変された植物(この植物の一部および細胞も)およびその子孫が含まれる。トランスジェニック植物は、当該業界に知られた手法、例えば、A. Slater et al., Plant Biotechnology - The Genetic Manipulation of Plants, Oxford University Press (2003)およびP. Christou and H. Klee, Handbook of Plant Biotechnology, John Wiley and Sons (2004)に一般的に記載された手法を使用して調製し得る。
【0154】
好ましい実施態様においては、トランスジェニック植物は、子孫が望む表現型を失わないように、導入した各遺伝子およびそれぞれの遺伝子(トランスジーン)についてホモ接合性である。トランスジェニック植物は、また、例えば、ハイブリッド種子から生長させたF1子孫などにおいては、導入したトランスジーンについてはヘテロ接合性である。このような植物は、当該業界においてよく知られている、雑種強勢などの有用性をもたらし得る。
【0155】
遺伝子の細胞への直接的な伝達について、以下の4つの一般的な方法が開示されている:(1)化学的方法(Graham et al., 1973);(2)物理的方法、例えば、マイクロインジェクション(Capecchi, 1980);エレクトロポレーション(例えば、WO 87/06614、US 5,472,869、5,384,253、WO 92/09696およびWO 93/21335を参照);およびパーティクルガン(gene gun)(例えば、US 4,945,050およびUS 5,141,131を参照);(3)ウイルスベクター(Clapp, 1993; Lu et al., 1993; Eglitis et al., 1988);ならびに(4)受容体-媒介メカニズム(Curiel et al., 1992; Wagner et al., 1992)。
【0156】
使用し得る促進方法には、例えば、微粒子銃等が含まれる。形質転換核酸分子を植物細胞へと伝達する方法の1つの例は、微粒子銃である。この方法は、Yang et al., Particle Bombardment Technology for Gene Transfer, Oxford Press, Oxford, England (1994)にレビューされている。核酸分子でコーティングされた非-生物的粒子(微粒子)は、推進力によって、細胞へと伝達される。粒子の例としては、タングステン、金、プラチナ等から構成される粒子が含まれる。微粒子銃の特に有用な点は、高い再現性で単子葉植物を形質転換する効率的な手法であるのに加えて、プロトプラストの単離も必要なく、アグロバクテリア感染も必要ないことである。促進によってDNAをトウモロコシ細胞へと伝達する方法の例示的な実施態様は、微粒子銃α-粒子伝達システム(biolisticsα-particle delivery system)であり、このシステムは、DNAでコーティングした粒子を、ステンレス鋼またはナイテックススクリーン(Nytex screen)などのスクリーンを介して、懸濁液中で培養したトウモロコシ細胞でコーティングしたフィルター表面上へと進ませるのに使用することができる。本発明を用いた使用のための粒子伝達システムは、Bio-Rad Laboratoriesから購入可能であるhelium acceleration PDS-1000/He gunである。
【0157】
撃ち込みのために、懸濁液中の細胞を、フィルター上に濃縮し得る。撃ち込む細胞を含むフィルターを、微粒子銃停止プレート(microprojectile stopping plate)の下に適切な距離で置く。望む場合は、1つまたは複数のスクリーンも、銃と撃ち込む細胞との間に置く。
【0158】
代替的に、未成熟の胚または他の標的細胞を、固体の培養培地上に配置し得る。撃ち込む細胞を、微粒子銃停止プレートの下に適切な距離で置く。望む場合は、1つまたは複数のスクリーンを、促進デバイスと撃ち込む細胞との間に置く。本願明細書で示す手法の使用を介して、一過的にマーカー遺伝子を発現する1000以上までの細胞のfociを得ることができる。外来性遺伝子産物を撃ち込み後48時間に発現するfocus中の多くの細胞は、しばしば、10分の1から、平均で3分の1である。
【0159】
パーティクルガンによる形質転換においては、撃ち込み前の培養条件および撃ち込みパラメーターを最適化し、最大の数の安定な形質転換体を産生し得る。撃ち込みの物理的および生物学的パラメーターの両方は、この分野において重要である。物理的因子は、DNA/微粒子の操作に関連した因子、または、巨大粒子もしくは微小粒子のいずれかれの飛行および速度に影響を与える因子である。生物学的因子には、撃ち込み前および撃ち込み直後の細胞の操作に関連した全ての工程、撃ち込みに関連する傷を軽減するのに役立つ標的細胞の浸透圧調整、ならびに、直線状DNAまたはインタクトなスーパーコイルのプラスミドなどの形質転換DNAの特性が含まれる。撃ち込み前の操作は特に、未成熟の胚の形質転換の成功には重要であると考えられている。
【0160】
他の代替的な実施態様においては、プラスチドを安定に形質転換し得る。高等植物におけるプラスチド形質転換について開示された方法には、選択マーカーを含むDNAのパーティクルガン伝達であって、このDNAをプラスチドゲノムへ相同的組み換えを介して標的化させるパーティクルガン伝達が含まれる(US 5,451,513、US 5,545,818、US 5,877,402、US 5,932,479およびWO 99/05265)。
【0161】
従って、条件を完全に最適化するために、小スケールでの試験において、様々な態様の撃ち込みパラメーターを調整することを希望するであろうと考えられる。特に、ギャップ距離、飛行距離、組織距離およびヘリウム圧力などの物理的パラメーターを調整することを希望するであろう。また、レシピエント細胞の生理学的状態に影響を及ぼし、それ故、形質転換および組込み効率に影響を与える条件を改変することによって、傷を減少させる因子を最小化するであろう。例えば、浸透圧状態、組織水和および継代培養段階またはレシピエント細胞の細胞周期を、最適な形質転換のために調整し得る。他の一般的な調整を実施することは、当業者であるならば、本願明細書に照らし合わせて理解するであろう。
【0162】
アグロバクテリア-媒介性トランスファーは、遺伝子を植物細胞へと導入するために広く使用されているシステムである。なぜならば、DNAを完全な植物組織へと導入することができ、このことにより、プロトプラストからのインタクトな植物の再生の必要性を避けることができるからである。DNAを植物細胞へと導入するためのアグロバクテリア-媒介性植物組込みベクターの使用は、当該業界でよく知られている(例えば、US 5,177,010、US 5,104,310、US 5,004,863、US 5,159,135を参照)。更に、T-DNAの組込みは、比較的に正確な方法であり、再構成をほとんど生じない。トランスファーされるDNAの領域は、より広い配列によって定義され、介在DNAが、通常は植物ゲノムへと挿入される。
【0163】
現在のアグロバクテリア形質転換ベクターは、アグロバクテリアだけでなく大腸菌でも複製することができ、このことにより、記載されている一般的な操作が可能とする(Klee et al., In: Plant DNA Infectious Agents, Hohn and Schell, eds., Springer-Verlag, New York, pp. 179-203 (1985))。更にその上、アグロバクテリア-媒介性遺伝子トランスファーについてのベクターの技術的有用性により、ベクター中の遺伝子の配置および制限酵素部位が改良され、様々なポリペプチドをコードする遺伝子を発現できるベクターの構築が容易になった。記載されたベクターは、プロモーターの側面に位置した一般的なマルチ-リンカー領域および挿入されたポリペプチドコード遺伝子の直接的な発現のためのポリアデニル化部位を有し、本発明の目的に適する。加えて、armedおよびdisarmed Ti geneの両方を含むアグロバクテリアを、形質転換のために使用し得る。アグロバクテリア-媒介性形質転換が有効であるこれらの植物品種においては、遺伝子トランスファーの優れたおよび明確な特性が原因で、選択方法である。
【0164】
アグロバクテリア形質転換方法を使用して形成されたトランスジェニック植物は、一般的に、1つの染色体上に単一の遺伝子座を含む。このようなトランスジェニック植物は、加えた遺伝子について半接合性であるとみなし得る。加えた構造遺伝子についてホモ接合性であるトランスジェニック植物(すなわち、2つの加えた遺伝子を、染色体対の各染色体上の同じ位置に含むトランスジェニック植物)がより好ましい。ホモ接合性トランスジェニック植物は、単一の加えた遺伝子を含む独立したトランスジェニック植物分離個体を交配(自家授粉)させ、得られた種子の幾つかを発芽させ、得られた植物を対象遺伝子について分析することによって、得ることができる。
【0165】
また、2つの異なるトランスジェニック植物を交配させて、2つの独立して分離した外来性遺伝子を含む子孫を得ることもできることも理解される。適切な子孫の自家授粉により、両方の外来性遺伝子についてホモ接合性である植物を産生し得る。栄養繁殖のように、親植物への戻し交配および非-トランスジェニック植物との異系交配も考えられる。
【0166】
植物プロトプラストの形質転換は、リン酸カルシウム法、ポリエチレングリコール処理、エレクトロポレーションおよびこれらの処置の組み合わせに基づく方法を使用して達成し得る。これらのシステムの異なる植物種への適用は、プロトプラストから特定の植物株を再生する能力に依存する。プロトプラストからの穀草類の再生のための例示的な方法は、開示されている(Fujimura et al., 1985; Toriyama et al., 1986; Abdullah et al., 1986)。
【0167】
細胞の形質転換の他の方法も使用することができ、これらに制限されないが、花粉への直接的DNAトランスファーによって、植物の生殖器官へのDNAの直接的インジェクションによって、または、未成熟な胚の細胞へのDNAの直接的インジェクションに続く乾燥した胚の再水和によって、DNAの植物への導入が含まれる。
【0168】
単一の植物プロトプラスト形質転換体または様々な形質転換した外植片からの植物の再生、生長および栽培は、当該業界でよく知られている(Weissbach et al., In: Method for Plant Molecular Biology, Academic Press, San Diego, Calif., (1988))。この再生および生長方法は、典型的には、形質転換させた細胞を選択する工程、根を下ろした小植物体段階を介した通常の胚の発達段階を介したこれらの個々の細胞を培養する工程を含む。トランスジェニック胚および種子は、同じように再生される。得られた根を下ろしたトランスジェニック芽は、土壌などの植物の生長に適切な生育場所に埋められる。
【0169】
外来性の遺伝子を含む植物の生長または再生は、当該業界でよく知られている。好ましくは、再生させた植物は自家授粉され、ホモ接合性のトランスジェニック植物を提供する。そうでなければ、再生させた植物から得られた花粉を、農学的に重要な系統の種子植物と交配させる。結果として、これらの重要な系統の植物に由来する花粉を、再生させた植物に授粉させるのに使用する。望む外来性核酸を含む本発明のトランスジェニック植物を、当該業界でよく知られている方法を使用して栽培する。
【0170】
基本的にはAgrobacterium tumefaciensの使用により双子葉植物を形質転換し、トランスジェニック植物を得る方法は、ワタ(US 5,004,863、US 5,159,135、US 5,518,908)、ダイズ(US 5,569,834、US 5,416,011)、アブラナ(US 5,463,174)、ピーナッツ(Cheng et al., 1996)およびエンドウ(Grant et al., 1995)について開示されている。
【0171】
外来性核酸の導入による植物への遺伝的変異を導入するための、または、プロトプラストまたは未成熟の植物胚からの植物の再生のためのオオムギなどの穀草類植物の形質転換方法は、当該業界でよく知られている。例えば、CA 2,092,588、AU 61781/94、AU 667939、US 6,100,447、PCT/US/97/10621、US 5,589,617、US 6,541,257およびWO 99/14314を参照せよ。好ましくは、トランスジェニックオオムギ植物は、Agrobacterium tumefaciensを介した形質転換方法によって産生される。望む核酸コンストラクトを有するベクターを、組織培養植物もしくは外植片、またはプロトプラストなどの適した植物系の再生可能なオオムギ細胞へと導入し得る。
【0172】
再生可能なオオムギの細胞は、好ましくは、未成熟の胚、成熟した胚、これらに由来するカルス、または分裂組織の胚盤に由来する。
【0173】
トランスジェニック細胞または植物中のトランスジーンの存在を確認するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅またはサザンブロット分析を、当業者によく知られた方法を使用して実施することができる。トランスジーンの発現産物を、任意の様々な方法で、産物の特性に依存して検出することができ、このような方法には、ウェスタンブロットおよび酵素アッセイが含まれる。タンパク質発現を定量し異なる植物組織における複製を検出するための1つの特に有用な方法は、GUSなどのレポーター遺伝子を使用することである。いったんトランスジェニック植物が得られれば、栽培して、望む表現型を有する植物組織およびその一部を産生できる。植物組織または植物の一部を刈りいれ、および/または、種を回収し得る。種子は、望む特性を有する組織または部分を有する更なる植物を栽培する源として利用し得る。
【0174】
[Tilling]
本発明の植物を、TILLING(Targeting Induced Local Lesions In Genomes)として知られた方法を使用して産生し得る。第一の工程において、新規の一塩基対変化などの導入する変異を、種子を化学的変異源で処理することによって、植物集団に誘導し、その後、植物を変異が安定に遺伝される世代へと進ませる。集団の全てのメンバーからDNAを抽出し、種子を保存し、長時間繰り返してアクセス可能な供給源を調製する。
【0175】
TILLINGアッセイについては、PCRプライマーは、対象とする単一の遺伝子標的を特異的に増幅するようにデザインされる。標的が遺伝子ファミリーの一員または倍数体ゲノムの一部である場合は、特異性は特に重要である。次に、ダイで標識したプライマーを、複数の個体のプールしたDNAからPCR産物を増幅するために使用し得る。これらのPCR産物を変性させ、再度アニーリングして、ミスマッチの塩基対を形成させる。ミスマッチまたはヘテロ二本鎖は、天然に存在する単一ヌクレオチド多型(SNPs)(すなわち、集団に由来する幾つかの植物は、同じ多型を有すると考えられる)および誘導されたSNPs(すなわち、ごく少数の個体植物のみが変異を示すと考えられる)を表す。ヘテロ二本鎖の形成後、Cel IなどのミスマッチDNAを認識して切断するエンドヌクレアーゼの使用が、TILLING集団中に新規のSNPsを発見するのに重要である。
【0176】
このアプローチを使用することにより、何千もの植物をスクリーニングし、ゲノムの任意の遺伝子または特定の領域中に単一の塩基対変化だけでなくわずかな挿入または欠失(1-30bp)を有する個体を同定し得る。アッセイに供したゲノム断片は、0.3〜1.6kbのサイズ範囲とし得る。8倍のプール、1.4kbの断片(SNP検出がノイズが原因で問題がある断片の末端はカウントせず)およびアッセイ当たり96レーンで、この組み合わせにより、ゲノムDNAの百万塩基対を一回のアッセイでスクリーニングすることが可能となり、このことから、TILLINGはハイスループット手法であることは明らかである。
【0177】
TILLINGは、更に、Slade and Knauf (2005)およびHenikoff et al., (2004)において記載されている。
【0178】
変異の効率的な検出を可能とすることに加えて、ハイスループットTILLING手法は、天然の多型の検出についても理想的である。それ故、未知の相同性DNAを既知の配列とのヘテロ二本鎖化によって精査することによって、多型部位の数および位置が明らかとなる。少なくとも幾つかの反復数多型を含む、ヌクレオチド変化ならびにわずかな挿入および欠失が同定される。このことは、Ecotillingと称される(Comai et al., 2004)。
【0179】
各SNPは、数ヌクレオチド以内のおおよその位置によって登録される。それ故、各ハプロタイプは、その移動度に基づいて達成し得る。配列データは、ミスマッチ-切断アッセイのために使用した同じ増幅DNAのアリコートを使用して、相対的に少し増加させた努力により得ることができる。単一の反応のために左または右の配列プライマーが、多型への近接性により選択される。シークエンサーのソフトウェアにより、マルチプルアライメントが実施され、それぞれに場合においてゲルバンドで確認される塩基変化が発見される。
【0180】
ecotillingは、全長を配列決定するよりも、より安価に実施することができ、この方法は、現在、最もSNP発見のために使用されている。変異をかけた植物に由来するDNAのプールではなく、整列させたecotypic DNAを含むプレートをスクリーニングに供し得る。検出が塩基対に近いレベルの解像度でゲル状でなされ、バックグラウンドパターンがレーン間で一定であるために、同一のサイズのバンドをマッチさせることができ、それ故、単一の工程でSNPsを発見し、遺伝子型を決定し得る。この方法においては、スクリーニングのために使用した同じPCR産物のアリコートをDNA配列決定に供し得るという事実によって、SNPの最終的な配列決定が単純であり、効率的である。
【実施例】
【0181】
[実施例1:材料および方法]
(プロラミンの単離および精製)
穀草類からプロラミンを単離するために、全粒粉(10g)を、30分間25℃で、20mMトリエタノールアミン-HCl(TEA)、1%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム、1%(w/v)ポリエチレングリコール(MW 6000; PEG6000)および200μlの植物プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma #P9599)を含む200mlのバッファー(pH8に調整)中で攪拌した。懸濁液を7000gで15分間遠心し、ペレットを2回以上洗浄し、水性バッファーに溶解するタンパク質を除去した。洗浄したペレット中のプロラミンを、1%(w/v)ジチオトレイトール(DTT)、1%(w/v)PEG6000、1%(w/v)アスコルビン酸ナトリウムを含む40mlの50%(v/v)プロパン-2-オール中に、30分間25℃で攪拌することによって、溶解させた。懸濁液を遠心し、プロラミンを、上清から、2倍の容積のプロパン-2-オールを用いて沈殿させ、-20℃で保存した。必要であるならば、10gの粉に相当するアリコートを、160g、4℃で10分間遠心により沈殿させ、ペレットを、25mM TEA、8Mの新たに調製した脱イオン尿素および1% DTTを含む10mlのバッファー(バッファーA)(pH6に調整)、または前記した他のバッファー中に再溶解させた。
【0182】
トータルのプロラミン画分を、各粒サンプルから、逆相-高速タンパク質液体クロマトグラフィー(RP-FPLC)によって、以下のように精製した:プロラミン(200μl)を、一連の類似の3mlのカラムと連結した1mlのResource RPC column(Pharmacia)へとインジェクトした。カラムを、2mlの95%の溶媒A/5%の溶媒Bで洗浄し、プロラミンを、95%の溶媒A/5%の溶媒Bから100%の溶媒Bへと2ml/分でリニアグラジエントを行うことにより、30mlで溶出した。溶媒Aは、水中の0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)であり、溶媒Bは、60%(v/v)の含水アセトニトリル中の0.1%(v/v)TFAであった。タンパク質ピークに対応する溶出液をプールした。溶媒コントロールとして、タンパク質インジェクションを行わなかった実験において、同じようにプールした画分を用いた。
【0183】
オオムギのホルデインを、更に、RP-FPLCによって、以下のように分画した:手順は、溶出グラジエントを、溶媒Bの濃度を4mlで50%、17mlで52%、34mlで56%、37mlで58%、41mlで60%、44mlで62%、47mlで64%、50mlで66%、53mlで100%、57mlで100%となるように変更した以外は、上記に従った。1mlの画分を集め、A280ピークに対応する画分11-14(#1)、19-23(#2)、31-34(#3)、43-51(#4)、53-58(#5)および63-64(#6)をプールした。
【0184】
(分析方法)
プロラミン画分を、6M尿素、2%(w/v)SDS、1%(w/v)DTT、0.01%(w/v)ブロモフェノールブルー、0.0625M Tris-HCl(pH 6.8)中に、25℃で溶かし、SDS-PAGEにより、以下のように調べた。プロラミン-SDS溶液の5μlのアリコートを、pre-cast 245x110x0.5mm、8-18%ポリアクリルアミドグラジエントゲル(ExcelGel Pharmacia)を使用したSDS-PAGEゲル上にロードし、600Vで90分間で15℃で泳動した。ゲルを、10%酢酸中の40% MeOHで、30分間洗浄し、その後、10分間水で洗浄した。プロラミンを、ゲルを8.5%リン酸中の0.06%(w/v)コロイド状Coomassie G250に30分間浸すことによって染色し、ゲルを一晩、水中で脱色した。各ゲルを、10kDa standard protein ladder(BenchMark, Invitrogen)を用いてキャリブレーションした。
【0185】
ホルデイン画分は、また、50%(v/v)水性イソプロピルアルコール、1%(w/v)DTT中に溶かし、過剰なビニル-ピリジンで処理してジ-スルフィド結合を減少させて、逆相-HPLC(RP-HPLC, Larroque et al., 2000)(オオムギRiso56またはRiso1508系統(完全なBまたはCホルデインファミリーが、それぞれ、変異のために蓄積されない(Doll, 1983))から単離したプロラミンを用いてキャリブレーションした)によって調べた。
【0186】
抽出物または画分中のタンパク質レベルを、Bradfordの方法(1976)によって求めた。典型的には、タンパク質含量は、96穴プレート中で、10μlの各DTT/プロパン-2-オール上清を、Coomassie protein assay concentrate(BioRAD)の水での5倍希釈液200μlに加え、ガンマグロブリンに対してキャリブレーションし、595nmの吸光度を測定することによって、測定した。
【0187】
(ex vivo T細胞毒性アッセイ)
プロラミン(2M尿素中の50mg/ml)を、1mM CaCl2を含むPBSで希釈し、62.5、250、625、2500または6250μgプロラミン/mlを調製し、25μlの各溶液を100μlのモルモット肝臓tTG(トランスグルタミナーゼ(Sigma, T5398)、1mM CaCl2を含むPBS中の25μg/mlのtTG)に添加し、6時間37℃でインキュベートした。非-脱アミド化溶液を、同じように、tTGの不存在下でのインキュベーションによって調製した。溶媒コントロールを、最も高いプロラミン濃度について添加した。他のコントロールは、626fEEと称される既知の毒性ω-グリアジンペプチドを50μg/mlで単独で、または、破傷風トキソイド(50 light forming units/ml)とともに含む。DQ2-ω-1としても知られているω-グリアジンペプチド626fEEは、アミノ酸配列QPEQPFPQPEQPFPWQP(配列番号1)を有し、Mimotopes, Melbourne, Australiaによって合成された。その同一性および純度(91%)を、マススペクトルおよびHPLCによって確認した。破傷風トキソイドは、Commonwealth Serum Laboratories, Melbourneから入手した。全ての溶液を-20℃で凍結した。
【0188】
21人の、生検により確定診断されたHLA-DQ2+のセリアック病の対象(厳密なグルテンフリーの食事を少なくとも3ヶ月間着実に実行した)に、150gのボイルしたオオムギを毎日、3日間にわたり提供し、食事の一部(その他は、グルテンフリーを維持)として摂取してもらった。ヘパリン化された静脈血液を、食事提供の開始前または開始後6日目に直接回収し、抹消血単核球(PBMC)を、各血液サンプルからFicoll-Hypaque density centrifugation(Anderson et al., 2000)によって単離した。PBMC細胞を、10%の加熱-不活性化してプールしたヒトAB血清を含む完全HT-RPMI培地(Invitrogen)中に再懸濁した。脱アミド化または非-脱アミド化プロラミンおよびコントロール溶液を解凍し、25μlを、100μlのPBMCを含むウェル(ウェル当り3-8x105 PBMC)に添加した。これらを37℃で一晩96穴プレート(MAIP-S-45; Millipore, Bedford, MA)中で培養した。コントロール培地は、1mM CaCl2を含む25μlのPBSに添加することによって、調製した(バッファーのみのコントロール)。最終的なプロラミン濃度を2.5、10、25、100または250μg/mlとし、最終的な尿素濃度を50mMとした。各培養液で産生したIFN-γのレベル(各プロラミンの毒性の指標)を、供給業者(Mabtech, Stockholm, Sweden)の取扱説明書に従って、二次抗体を使用してスポット形成することによって、視覚的にアッセイし、スポット形成単位(SFU)を、automated ELISPOT reader(AID Autoimmun Diagnostika GmbH; Germany)を使用してカウントした。結果を、平均のスポット形成単位(SFU)±S.E.で表した。典型的には、SFU/106 PBMCのアッセイ内での変動係数の割合は、6人のセリアック病の対象(全てが>20SFU/ウェルを有する)における0.5x106細胞を用いてインキュベートしたポジティブコントロールの6回の二重アッセイに基づいて、14%であった。
【0189】
(統計分析)
分散分析(ANOVA)またはGenStatを使用したt検定を用いて、食事付与前(n=10)または食事付与後(n=21)のセリアック病の対象から単離し、ホルデイン、プロラミンまたはコントロールでインキュベートしたT細胞によって産生された平均SFUについて得られた差異の顕著性を求めた。
【0190】
21人の食事付与後の個人についての応答曲線は非常に異なっており、ばらつきの大部分は、これらの差異が原因であった。異なる患者の応答性を考慮に入れるために、ランダム係数モデルをフィットさせた。これは、Residual Maximum Liklihood(REML)を使用して実施し、対象(患者)および患者間の食事提供(タンパク質濃度)を含むランダム項を可能とする混合モデル分析であった。ばらつきの実質的な不均一性を安定化させるために、データを分析前にログ変換した。ゼロカウントの問題を処理するために、ログにする前に、1を全てのデータに加えた。モデル内で固定した項は、それらの相互作用とともに、含まれていたtTGおよびホルデイン画分の存在または非存在とした。
【0191】
双曲線モデルも、21人の食事付与後の患者に由来する、6つのtTGホルデイン画分または4つのtTG処理穀草類プロラミン調製物に曝したT細胞についての未変換の平均SFUにフィットさせた。
【0192】
(オオムギ形質転換)
形質転換したオオムギ植物は、Tingay et al.,(1997)の方法によって産生することができる。バイナリーベクター中の遺伝子コンストラクトを、強毒性のアグロバクテリウム株(AGL1)へと、三親接合(tri-parental conjugation)によって導入することができ、その後、トランスジーンおよび選択マーカー遺伝子(CaMV35Sプロモーターから発現される、ハイグロマイシン耐性をコードする)を含むT-DNAを、未成熟のオオムギ胚の胚盤の再生可能細胞へと導入するのに使用する(以下参照)。
【0193】
Golden Promise品種に由来するオオムギ種子を、開花後12-15日に、グリーンハウスで生長させた植物の穂から取り出し、10分間20%(v/v)ブリーチ中で滅菌し、その後、一回95%エタノールで、7回滅菌水でリンスする。胚(約1.5〜2.5mmのサイズ)をその後、無菌条件下で種子から取り出し、軸を各胚から切除する。胚を、カルス誘導培地を含むペトリディッシュ上に、切り口を下にして置く。アグロバクテリウム接合完了体(transconjugant)を、スペクチノマイシン(50mg/L)およびリファンピシン(20mg/L)を含むMG/L培養液(5gマンニトール、1g L-グルタミン酸、0.2g KH2PO4、0.1g NaCl、0.1g MgSO4・7H2O、5gトリプトン、2.5g酵母抽出物および1μgビオチン、リットル当り、pH 7.0)中で、給気しながら、28℃で、約2-3x108細胞/mlの濃度へと増殖させる。その後、約300μlの細胞懸濁物を、ペトリディッシュ中の胚へと添加する。2分後、余分な液体をプレートからチップで取り、切断面(胚盤の軸側)が上になるように胚を反転させる。その後、胚をカルス誘導培地の新たなプレートへと移し、暗黒下で2-3日間24℃で静置する。胚を、選択性(50μg/mlハイグロマイシンおよび15μg/mlチメンチン)を有するカルス誘導培地に移す。
【0194】
胚をこの培地に2週間暗黒下で24℃で維持する。正常なカルスを、その後、分割し、新鮮な選択培地上に置き、更に2週間24℃で暗黒下でインキュベートする。この後、胚を24℃で光を当てながら2週間、サイトカイニンを含む再生培地でインキュベートし、サイトカイニンおよびオーキシンを含む発根培地に、3回、2週間移す。十分に生長しきっていない植物を、その後、土壌混合物に移し、噴霧ベンチ上に2週間維持し、最終的に、温室に移す。
【0195】
(ガンマ線照射を含む変異方法)
D、C、Bまたはγ-ホルデインの発現を減少させるオオムギ内の遺伝子の変異は、ガンマ線照射または化学的変異誘発(例えば、メタンスルホン酸エチル(EMS))を介して達成することができる。ガンマ線誘導変異については、種子を、60Co源から20-50kRで照射することができる(Zikiryaeva and Kasimov, 1972)。EMS変異誘発は、Mullins et al. (1999)のように、種子をEMS(0.03%、v/v)で処理することによって実施することができる。B+Cダブルヌルバックグラウンドにおいて、変異を導入した粒を、減少させたタンパク質もしくはホルデイン含量または変化させた粒の形態に基づいて、同定し、前記した方法によって確認することができる。1つのホルデイン遺伝子中の変異体を第二の変異体と交配して、変異体を組み合わせることができ、内胚乳中のホルデインが実質的に欠いている非-トランスジェニックのオオムギ種を産生することができる。
【0196】
[実施例2:セリアック病に対するオオムギホルデインの毒性]
(オオムギおよび他の穀草類のプロラミン組成)
プロラミンを、アルコール可溶性タンパク質として、セリアック病毒性穀草類であるオオムギおよびコムギ、低毒性のオーツムギおよび非毒性のトウモロコシから単離し、実施例1に記載したように、1ラウンドのRP-FPLCによって精製した。RP-FPLCにおけるA280nによって測定したプロラミンのタンパク質溶出プロファイル(図1)は、溶媒グラジエントを急激に増加させることによって溶出させた個々のタンパク質が原因で、一連の部分的に分解したピークを示した。各穀草類について10回精製して得られたタンパク質を含む画分を組み合わせ、凍結乾燥した。様々な穀草類(2g)に由来するプロラミンの典型的な収率は、トウモロコシ:10mg、オーツムギ:23mg、オオムギ:73mg、コムギ:114mgであった。各穀草類に由来する総プロラミンを凍結乾燥し、ex vivo T細胞アッセイにおいて試験するために保存した(以下)。溶媒コントロールも、RP-FPLC手順によって調製した。
【0197】
オオムギプロラミン(ホルデイン)は、また、実施例1において記載したように、RP-FPLCによって分画した。最初の実験における分画の間に得られた溶出プロファイルを、図2に示す。6つのピークが得られ、それぞれに由来するタンパク質を回収した。20回の連続したインジェクションにより得られた対応するプール画分を組み合わせ、凍結乾燥した。4gの全粒粉から得られた典型的な収率は、画分1:19mg、画分2:26mg、画分3:14mg、画分4:104mg、画分5:24mgおよび画分6:11mgであった。
【0198】
各画分中のホルデイン同一性を、実施例1において記載したように、SDS-PAGEによって確立し、分析用RP-HPLCによって確認した。結果を図3および6に示す。HPLCでは、画分#1が約39%のDホルデイン(SDS-PAGE上で90kDa)および約61%のCホルデイン(SDS-PAGE上で48kDa)を含むことが示された(図3、#1)。画分#2は、SDS-PAGEおよびHPLCの両方によって示されたように、Cホルデインを含んでいた。画分#3は、ブロードなタンパク質バンドを含んでいた(SDS-PAGE上で約45kDaであったが、HPLCでは、CおよびBホルデインの両方の溶出に対応する、6つのピークに分解された)。その組成は、HPLCによって、約43%および57%のCおよびBホルデインをそれぞれ含むものとして、試算した。画分#4、5、6はBホルデインを含み、これらのフラクションは、また、少量のγホルデインも含んでいる可能性があった。これらのホルデイン画分の二次元電気泳動および一般的なマスフィンガープリンティングによっては、個々のホルデインを明白に同定するための、十分な、特徴的なペプチド断片が産生されなかった。これは、単離したホルデインとデータベースで利用可能な配列との間のわずかな配列の差異が原因であろう。それ故、この実験の分画によって、オオムギから特定のホルデインについて濃縮されたが、完全な精製ではなかった。更なる精製は、イオン交換手法と組み合わせた、更なるラウンドのRP-FPLCまたはRP-FPLCによって達成することができる。
【0199】
各ホルデイン画分のサンプルを、tTG(タンパク質中のグルタミン残基をグルタミン酸残基へと変換させる)を用いて処理し、または処理せず、その後、T細胞アッセイにおける使用のために凍結乾燥した。
【0200】
(毒性アッセイ)
確認されたセリアック病の対象から単離したPBMCを使用したT細胞アッセイを、実施例1に記載したように実施し、総プロラミン調製物およびホルデイン画分の毒性を確立した。PBMCを、オオムギを用いた食事提供の前後で単離し、プロラミンサンプルをtTGで処理したか、または処理しなかった。食事提供の前の10人のセリアック病の部分集団から単離したT細胞は、プロラミンに反応しなかった。分散分析を用いた統計分析では、全てのtTG処理したプロラミン、ペプチドまたはホルデイン画分の最も高い濃度についてのIFN-γポジティブスポットの平均値(グループ平均SFU±S.E. 1.52±0.18)と、コントロール培地(平均SFU±S.E. 1.40±0.45)との間には、顕著な差異は存在しなかったことが示された(P=0.77)。対照的に、この分析で、食事提供前のT細胞は、プロラミンと比較して、ポジティブコントロールである破傷風トキソイド(平均SFU±S.E. 22.3±4.72)に強く反応したことが示された(P<0.001)。このことは、単離されたT細胞が機能的であり、既知の毒素に反応しうることを示すものであり、食事提供前に単離した集団においては、プロラミン反応性T細胞が少なかったことが確認された。
【0201】
食事提供前にはプロラミンに対する応答性が欠如していたこととは対照的に、食事提供後に単離したT細胞は非常に反応性であった。食事提供してから6日後、21人のセリアック病の対象から単離したT細胞は、非-脱アミノ化プロラミンに暴露したグループの小集団(n=13)から得られたT細胞と比較して、tTG処理したプロラミンに強く反応した。図4は、穀草類のうちで、総オオムギプロラミンが、最も高いSFU数を誘導し、コムギ、オートムギおよびトウモロコシの順で減少した(図4のパネルA、B、C、D)。トウモロコシプロラミンは、これらのアッセイにおいて、低い用量依存性T細胞応答を誘導したにもかかわらず、通常は、食事提供においても応答を誘導せず、セリアック病の患者にとって安全な穀草類であると考えられる。腸の消化により、全体のトウモロコシプロラミンに存在するエピトープを破壊するが、我々のアッセイにおいてはインタクトなままであり、in vitroでT細胞を刺激した。
【0202】
ホルデイン画分の中では、画分#1、#2および#3が、ホルデイン画分#4、#5および#6よりも高いSFU数を示した(図5)。
【0203】
アッセイでのプロラミン濃度が増すにつれて、IFN-γスポットの数も双曲線の様式で、酵素とその基質との間でしばしば見られるミカエリス-メンテン酵素カイネティクスと同じように、増加した(図4および5)。しかしながら、これらの細胞アッセイについて何故生じたのかは不明であった。
【0204】
各96穴プレートには、多くの内部ポジティブおよびネガティブコントロールを含んでいた。コントロール培地と溶媒コントロールとを比較した場合に、平均SFUの間にわずかではあるが顕著な差異(P<0.001)が存在した(それぞれ、tTGの存在下および非存在下の場合で、コントロール培地SFU 2.75±0.67および1.49±0.24;溶媒コントロールSFU 2.64±0.23および2.75±0.23)。統計的に顕著であるにも関わらず、これらの値は、ポジティブコントロールまたはプロラミン含有アッセイ中の食事提供後のSFUと比較して非常に小さかった。このことにより、溶媒の不純物が擬陽性を生じなかったことが確認された。ポジティブコントロールペプチド626fEEは、常に、高い応答を示した(それぞれ、tTGの存在下および非存在下の場合で、平均SFU±S.E. 29.55±4.38および33.60±2.97)。626fEEのtTGへの応答の欠如が予期された。なぜならば、このペプチドは、10番目の残基にグルタミンが有するものとして合成され、毒性についてはtTG処理は関係ないからである。溶媒コントロールの添加によっては、ポジティブ626fEEペプチドの応答を顕著には阻害せず(P=0.13)、このことにより、溶媒の不純物が偽陰性を生じなかったことが確認された。破傷風トキソイドコントロールのプレート間の一致性(P=0.193)により、プロラミンに対するT細胞応答性の差異がプレート間のばらつきを原因とするわけではなく、異なる対象に由来するT細胞集団の異なる感度が原因であることが確認された。
【0205】
同じプロラミン濃度に対する異なる対象間のばらつきは、200倍もあった。それゆえ、ランダム係数REMLモデルを、標準化したSFUデータにフィットさせ、異なる濃度のタンパク質が原因で患者応答における曲率を可能とするモデルが、濃度に関わらず単一の患者応答をフィットさせるモデルと比較して、データに、顕著に良好なフィット(P<0.001)を付与し、1982.28(1616df)から1640.91(1613df)に変化する逸脱度を有することを見出した。tTG(P<0.001)およびプロラミン画分(P<0.001)を原因とする主な効果は非常に顕著であり、それらの間に相互作用は存在しなかった。このことにより、プロラミン応答性T細胞が、オオムギを用いた食事提供後6日で、セリアック病の対象に誘導されたことが確認された。対数目盛りで、標準化されたSFUデータについてフィットさせた平均は、1.614(tTG非存在)および2.026(tTG存在)であり(鎖の標準誤差0.0527)、このことにより、tTGを用いた前処理は、応答に顕著な効果を及ぼすことが確認された。ホルデイン画分#1-#6についてのフィットさせた平均値は、それぞれ、1.903、1.909、1.956、1.693、1.724および1.733であった(SED 0.0826)。これらの結果は、ホルデイン画分が2つの顕著に異なる毒性のグループに分類(ホルデイン画分#1、#2および#3が、ホルデイン画分#4、#5および#6よりも毒性が高いグループを形成する)されたことを示す。
【0206】
最も毒性の高いホルデイン画分が逆相FPLCおよびHPLCから最初に溶出され、それゆえ、後に溶出される、より毒性の低い後に溶出される画分よりも極性が高くなることは興味深いことであった。
【0207】
(結論)
食事提供後6日目に、21人のセリアック病の対象から単離したT細胞は、セリアック病について予期されたように(Hadjivassiliou et al., 2004; Kim et al., 2004)、非-脱アミド化プロラミンと比較して、tTG処理したプロラミンに強く反応した。このことは、脱アミド化プロラミンとキータンパク質中の結合部位(炎症性タンパク質を炎症応答に関与するCD4+T細胞上の受容体に提示する)(例えばHCL-DQ2分子)との間の相互作用によって説明されうる。
【0208】
ホルデイン画分の毒性においては測定可能な差異が存在しているにもかかわらず、全てのホルデインは、大部分のセリアック病の患者にとって安全とみなされているトウモロコシおよびオートムギプロラミンよりも顕著に高い毒性であった。統計分析によって、オオムギプロラミンおよびホルデイン画分#1、#2および#3(DおよびCホルデインを含む)が最も毒性の高いグループを形成したことが示された。主にBホルデインを含むホルデイン画分#4、#5および#6およびコムギプロラミンは、第二の毒性が弱いグループを形成した。オートムギおよびトウモロコシプロラミンは、最も低い毒性のグループを形成した。このことにより、オオムギ摂取によってセリアック病の患者において誘導されたT細胞は、コムギおよびオートムギに対して感受性がより弱かったことが指摘された。これは、オオムギプロラミンの大部分を占めるエピトープが、コムギおよびオートムギプロラミンのエピトープと著しく異なることが原因であるかもしれない。フィットさせたデータにより、オートムギはオオムギのプロラミンよりも顕著に弱い毒性を示すことが指摘されたが、同じ濃度のオートムギプロラミンに対して、異なる対象間で50倍のばらつきが存在しており、21人の対象のうちの5人に由来するT細胞が、最も高いプロラミン濃度で、20を越えるSFUを有していた。このことは、オートムギに対する重篤な腸内応答を有する個人の他の報告と一致していた(Arentz-Hansen et al., 2004; Lundin et al., 2003)。
【0209】
このデータに基づき、食事提供において、ホルデイン画分の全てが、セリアック病の患者において腸の顕著な応答が誘導されるようであると考えられた。このことから、全てのホルデイン画分は、完全にセリアック病患者に対して非毒性であるオオムギを産生するために、欠失させるか、または改変させる必要があることが示唆された。また、主な成分であるホルデインBおよびCも、まず第一に、取り除くか、または改変させるべきであることも示唆された。
【0210】
[実施例3:BおよびCホルデインの両方を減少させたオオムギの粒の産生]
ホルデイン合成または蓄積に影響を及ぼす多くのホルデイン変異体が、以前に同定された。これらのオオムギ変異体は、粒中のホルデインを減少させる目的では単離されず、粒中の増加したリシンレベルについて単離・選択し、その後で、ホルデインについて減少していることを見出すものであった。
【0211】
最初にDoll et al.(1976)によって記載された変異体Riso 7は、親であるBomiの高速中性子処理後に同定した。この変異体は、遺伝子中に、Bomiと比較してプロラミンの29%減少およびタンパク質のリシン含量の10%増加をもたらす劣性変異を含んでいた。リシンが少ないプロラミンの減少は、他の、比較的にリシンリッチな貯蔵タンパク質によって補われ、リシン含量の上昇がもたらされた。粒収率およびスターチ含量は、親と比較して、それぞれ、6%および7%減少していた(Talberg, 1982; Doll, 1983)。
【0212】
最初にDoll et al.(1973)によって記載された変異体Riso 56は、親であるCarlserg IIのガンマ線変異によって産生された。穀粒のサイズ、粒収率およびプロラミン含量は、それぞれ、親と比較して30%、47%および25%減少したが、変異体の粒中のタンパク質のリシン含量は、親と比較して13%増加していた。減少したホルデイン含量は、増加した非-タンパク質窒素および水および塩可溶性タンパク質と関連していた(Shewry PR et al., 1980)。Riso 56におけるタンパク質の高いリシン含量は、第5染色体上(Ullrich and Eslick, 1978)の、Hor2ca(Doll, 1980)と命名された遺伝子座での劣性変異が原因であった。変異体には、オオムギのBホルデインをコードするHor2遺伝子座に由来する80-90kbのDNAの欠失を含んでいた。Bホルデインタンパク質の発現は、変異体において75%減少したが、Cホルデインの発現は2倍増加した(Kreis et al., 1983)。欠失は、Riso 56において存在する第2染色体と第5染色体との間の転座に関連していなかった(Olsen, 1977)。
【0213】
最初にDoll et al.(1973)によって記載された変異体Riso 527も、ガンマ線変異によって産生されたが、親はBomiであった。穀粒のサイズ、粒収率およびプロラミン含量は、それぞれ、親と比較して13%、25%および20%減少したが、変異体のタンパク質のリシン含量は、12%増加していた。変異は、lys6iと命名された第6染色体上の遺伝子中の劣性変異であった(Jensen, 1979)。この変異体は、減少したレベルのDホルデインおよび増加したレベルのB1ホルデインを有していた(Klemsdal et al., 1987)。
【0214】
Riso 1508を、親であるBomiのEMS変異後に同定した(Doll et al., 1973; Ingerversen et al., 1973; Doll, 1973)。穀粒のサイズ、粒収率およびプロラミン含量は、それぞれ、親と比較して8%、12%および70%減少したが、変異体のタンパク質のリシン含量は、42%増加していた。高いリシン含量は、オオムギ第7染色体のセントロメア領域近くに位置する遺伝子中の劣性変異が原因であった(Karlsson, 1977)。この遺伝子は、最初は、shrunken endosperm xenia sex3cと命名されたが(Ullrich and Eslick, 1977)、現在では、一般的にlys3aとして知られている(Tallberg, 1977)。変異体の粒中のタンパク質タイプの相対レベルが変化し、水溶性のタンパク質(アルブミン/グロブリン)は、トータルの種子タンパク質窒素が27%から46%へと増加し、プロラミンは、親と比較して70%減少し、トータルの種子タンパク質窒素が29%から9%へと減少した(Ingerversen et al., 1973; Doll, 1973)。Riso 1508においては、親と比較して、植物を高いレベルの窒素肥料の元で生長させた場合、遊離のアミノ酸および非-タンパク質窒素の両方が4倍増加した(Koeie and Kreis, 1978)。Shewry et al., (1978)は、塩可溶性、非-タンパク質窒素のレベルが二倍になることを確認した。Riso 1508においては、Bomiと比較して、ホルデインとしての種子窒素の割合は70%に減少し、塩可溶性タンパク質が70%増加した。詳細な分子分析によって、BおよびCホルデインのレベルは、それぞれ80%および93%減少したが、Dホルデインは4倍増加したことが示された。タンパク質蓄積に対するこれらの効果は、mRNAの豊富さまたは安定性の変化が原因であった(Kreis et al., 1984)。これは、Riso 1508変異体において、BおよびCホルデインをコードする遺伝子のプロモーターの増加したメチル化によって媒介されたのであろう(Sorensen et al, 1996)。Riso 1508のより小さな種子サイズは、主に、スターチの合成が減少したことが原因であった(Koeie and Breis, 1978; Kreis and Doll, 1980; Doll, 1983)。糖は2倍に増えたが、スターチ合成は、親と比較して、Riso 1508においては約20-30%減少した。Kreis(1979)は、β-アミラーゼレベルがRiso 1508中では減少していると報告したが、Hejgaard and Boisen(1980)は、同等のレベルのβ-アミラーゼを報告した。
【0215】
Hiprolyは、エチオピアの遺伝資源CI 3947から同定された自然発生変異体であり(Munck et al., 1970)、総タンパク質およびタンパク質リジンの両方の増加したレベルを有し、野生型のオオムギと比較して、20-30%増加していた(Doll, 1983)。野生型のオオムギと交配させた場合、高いタンパク質含量は失われるが、増加したタンパク質リシン含量は維持された。このことにより、これらの特徴は、独立して遺伝することが実証された。増加したリシン含量は、第7染色体上のlys遺伝子中の劣性変異が原因であった。変異体は、水可溶性および塩可溶性タンパク質のレベルが増大しており、それにより、リシン含量も増大していた。高リシン変異体であるRisoとは異なり、Hiprolyにおいては、ホルデインレベルおよび種子重量は、戻し交配した子孫において減少しなかった。非-タンパク質窒素も増加しなかった。β-アミラーゼの含量は、4倍増加した(Hejgaard and Boisen, 1980)。
【0216】
(親のRiso 56およびRiso 1508系統の特徴)
親のRiso 56およびRiso 1508系統によって蓄積されたプロラミンの特徴を、SDS-PAGEおよび逆相HPLCによって確認した。粒から抽出した塩可溶性タンパク質を、電気泳動によって分離し、膜に転写した(ウェスタンブロッティング)。総タンパク質について染色した膜(図7、左の膜)、または、プロラミン特異的モノクローナル抗体(総グルテニン抽出物に対して免疫し、全てのホルデインおよびプロラミンを検出する、マウスモノクローナル抗体MAb12224(Skerritt, 1988))を用いて処理した膜(右の膜)上のタンパク質パターンにより、Riso 56においては、Riso 527におけるレベルと比較して、Bホルデインのレベルは非常に少ないが、Cホルデインは増加していたことが示された。抗体検出により、Riso 56抽出物中のBホルデインのレベルは極端に低かったことが確認された(点線で囲った四角)。Riso 56において見られた、Bホルデインとともに移動した3つのタンパク質は、恐らくはγ-ホルデインである。Riso 1508においては、Bホルデインの蓄積は減少したが、Cホルデインはほとんど検出できなかった(点線で囲った四角)。このことは、出版された文献と一致していた。相対的にマイナーなプロラミン成分であるDホルデインのレベルは、このゲルで使用したタンパク質のローディング量では、増加しなかったと考えられた。
【0217】
図8は、逆相FPLC分析後における、精製した抽出物中の異なるホルデインの相対レベルを示す。0.2gの粉に相当するホルデイン抽出物を、実施例1に記載したように、FPLCによって分析した。それ故、A280で検出した領域は、各サンプルの相対的タンパク質含量に比例していた。Riso 56においては、親であるCarlsberg IIと比較して、Cホルデインのレベルは400%増加し、Bホルデインのレベルは86%減少した。Riso 1508においては、親であるBomiと比較して、CおよびBホルデインは減少した(それぞれ、91%および86%)。これらのパターンは、開示されたデータと類似していた。
【0218】
(両方のホルデイン変異を有する種子の同定)
Riso 56およびRiso 1508系統の植物を、Riso 1508を除雄し、2日後に、新しいRiso 56の花粉を用いて授粉させることによって、交配した。10粒のF1種子を発芽させて、F1植物を生長させ、自家授粉させた。F2種子を成熟したときに回収した。
【0219】
集団中の二重変異体を同定するために、各288粒のF2種子の半分を、それぞれ、ステンレス鋼のボールを備えたプラスチックマイクロチューブ中で、砕いて細かくして粉末にし、30/秒で3×1.5分間、96 well Vibration Mill(Retsch Gmbh, Rheinische)中で攪拌した。水性バッファーのアリコート(400μl)を、各チューブに添加し、水溶性タンパク質を抽出した。バッファーは、20mMトリエチルアミン-HCl(TEA)、1%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム、1%(w/v)PEG6000および植物プロテアーゼ阻害剤(Sigma P9599)の1/1000希釈物を含み、室温(RT)でpH 8であった。各チューブの中身を再度攪拌し、その後、160g、10分間RTで遠心した。水不溶性の粉ペレットを2回以上同じ方法で洗浄し、それぞれの上清をプールし、水溶性画分を得た。その後、ペレット中のアルコール可溶性プロラミンを、400μlの1%(w/v)DTT含有50%(v/v)水性プロパノール-2-オールを添加し、前記したようにチューブを攪拌し、その後30分間RTでインキュベーションし、前記したように第二ラウンドの攪拌および遠心を行うことによって、抽出した。抽出したプロラミンを含むそれぞれの上清をプールし、新しいチューブに移した。DTT/プロパン-2-オール上清中のタンパク質含量を、クマシー試薬(BioRAD)を用いて測定し、200μlアリコート中のプロラミンを、400μlのプロパン-2-オールを用いて沈殿させ、-20℃で一晩保存した。
【0220】
半分の種子からの各プロラミン抽出物のアリコートを、実施例1に記載したように、SDS-PAGEによりBおよびCホルデインの欠失について調べた(図9)。種子ベースで、スクリーニングゲルにロードした。各レーンは1/20の種子の相当物を有していた。具体的には、抽出物を、40kDa(Bホルデイン特異的)および70kDa(Cホルデイン特異的)における特徴的なホルデインタンパク質のバンドの不存在または減少について調べた。親のRsio 56およびRiso 1508系統の種子は、BおよびCホルデインそれぞれについて減少したが、100kDaにおいて低レベルのDホルデインを含んでいた(図9)。大部分のF2種子抽出物は、D、CおよびBホルデインが存在する野生型のパターンを含んでおり(図9)、このことにより、2つの親の系統間の効果的な交配を行えたことが確認された。16粒の種子は、BおよびCホルデインの両方が欠失しており、それ故、親に存在した遺伝子変異の両方についてホモ接合性であると考えられた。これらは、288粒の半分の種子から同定された(頻度0.055)。この値は、2つの単一の劣性変異の組み合わせについて予期された、16粒に対して1粒の頻度(0.0625)と類似していた。
【0221】
F2の半分の種子のアルコール可溶性抽出物中の総タンパク質レベルを、野生型および親の種子のレベルと比較した。データを表1に示す。F2種子の抽出物中のタンパク質レベルは、野生型の20%未満に減少し、幾つかの場合においては、15%未満であった。これらの値は、抽出物に存在する、遊離のタンパク質などの非-タンパク質窒素化合物によって水増しされたかもしれない。
【0222】
【表1】

【0223】
F2系統間のプロラミンレベルの観察された差異は、患者に由来する他の遺伝子または変異の分離が原因かもしれない。
【0224】
20μgのタンパク質を含む、1倍の容積のDTT/プロパン-2-オール上清を取り、SpeediVac中で真空下でそれぞれを乾燥させ、62.5mM Tris-HCl(pH 6.8)、12.5%(w/v)グリセロール、2%(w/v)SDS、1%(w/v)DTTおよび0.112%(w/v)ブロモフェノールブルーを含む20μlのバッファー中でタンパク質を溶解し、ボイリングウォーターバス中で90秒間加熱することによって、追加のタンパク質ゲルを泳動した。前記したように、各溶液を、プレキャストSDS-ポリアクリルアミドゲル上にロードし、電気泳動し、染色し、調べた。典型的なゲルを図10に示す。選択されたF2種子の大部分が、BおよびCホルデインの両方が欠失していると考えられ、「ダブルヌル」であると思われた。各レーンを、ダイ-結合タンパク質アッセイによって測定した同じ量のタンパク質でロードしたとしても、ダブルヌルに由来する抽出物の大部分が、コントロールよりも実質的に少ないタンパク質を含むと考えら、特には、20kDaよりも大きいタンパク質性物質はほとんど含んでいなかった。このことは、抽出物中に、ダイ-結合タンパク質アッセイによって求めた見かけのタンパク質レベルを水増しさせる非-タンパク質窒素化合物(例えば、遊離のアミノ酸)の存在によって説明されうる。この効果は、また、Riso 1508の抽出物についても観察され、タンパク質のバンドとして泳動したトータルの染色可能な物質が、Riso 56またはBomiと比較して、消滅していた。Riso 1508は、より多くの遊離のアミノ酸などの非-タンパク質窒素を蓄積することが示されている(Koie and Kreis, 1978)。
【0225】
F2種子の横断面も調べた。野生型と比較した場合、幾つかの場合において、見かけのダブルヌル種子の内胚乳が、適度に縮んでおり、他の場合は、より激しく縮んでいたように見えた。
【0226】
各F2種子の残り半分を、湿らせたろ紙上で発芽させ、F2植物体を温室内の土壌に移し、栽培して成熟させ、F3種子を得た。様々な植物生長および収率パラメーターを測定した(表2)。
【0227】
【表2】

【0228】
植物の高さ、頂部および茎部の重量、分げつの数、頂部当りの種子、および100粒の種子の重量を測定した。収穫指数は、頂部の重量/(茎部の重量+頂部の重量)の比率から計算した。F3種子を、その後、野原で栽培して、各系統のF4種子を得た。
【0229】
F3種子は、親およびコントロールのSloop系統と比較した場合に、全ての測定したパラメーターにおいて、かなりのばらつきが見られた。多くの見かけのダブルヌルの系統、例えばJ4および6RFは、野生型のsibling K8と比較して、約40%まで種子重量が減少した、または、頂部当りの種子の数が減少した100粒が存在していた。このことは、集団において分離した他の遺伝子だけでなく、収率に影響を及ぼすホルデインBまたはC変異が存在していたことを示唆するものであった。しかしながら、幾つかのF3系統は、親より大きいか同等の種子重量を有し、それ故、他の遺伝子は、Bホルデインおよびlys3α変異とは離れているようであった。
【0230】
横断面において、F3種子の外観は、野生型のsiblingsまたはコントロールであるSloopと比較して、縮んでいるもの(Riso 1508と類似)から、からわずかに縮んでいるもの(Riso 56に類似)まで様々であった。
【0231】
幾つかの系統に由来する8粒のF3種子から得られたトータルの水溶性およびアルコール可溶性タンパク質を、前記したように抽出した。アルコール可溶性および水溶性画分のタンパク質含量を、実施例1に記載されているように、タンパク質スタンダードとしての既知の量のγ-グロブリンを使用することによって、測定した。しかしながら、F3種子の幾つかのサンプル中のトータルのアルコール可溶性のタンパク質レベルは、基本的に、Riso 1508と同じであった。その後、これらの種子サンプルを、野生型のLys3a遺伝子のアレルについて分離し、均一に「ダブルヌル」ではなったことが実証された。
【0232】
(RP-FPLCによるF3種子中のホルデインレベルの定量)
各系統に由来する2粒の種子から得られたアルコール可溶性抽出物を組み合わせ、前記したように、50μlをRP-FPLCによって調べた。クロマトグラムを図11に示す。ホルデインに対応するトータルの領域を、野生型の系統中のレベルと比較して、計算して表した。データ(表3)において、F3粒は野生型のレベルの30%未満の、幾つかの場合においては、20%未満の、更には5.3%という低いホルデインレベルを有していたことが示された。SDS-PAGE後の実質的なタンパク質バンドの欠如は、トータルのアルコールタンパク質レベルが、F3種子における上昇した非-タンパク質窒素レベルが原因で、水増しされたという主張を支持している。
【0233】
【表3】

【0234】
[実施例4:野原で栽培したF4オオムギ粒の特徴]
温室で栽培した、および、野原で栽培した、選択した系統(9RE、J1、G1、4BH)のF4種子、シングルヌルの親(Riso 56およびRiso 1508)ならびに野生型のオオムギ(Sloop、Bomi、およびK8、ダブルヌルの系統と同じ交配に由来する再構成した野生型sibling)の特徴を比較した。
【0235】
(種子の重量)
温室で栽培したF4種子の100粒の種子の重量は、Sloopの60-70%であったのに対して(100粒の種子当り5.47+0.16g)、野原で栽培したF4種子の100粒の種子の重量は、Sloopの58-65%の間であった(4.75+0.04g)。
【0236】
(粒の発芽)
100粒のサンプルのそれぞれを、湿らせたろ紙上で6日間水分を吸収させることによって、2個の選択したF4オオムギ系統から得られた種子の発芽を、野生型のSloopと比較した。発芽を、種皮からの根端の出現として観察した。F4粒は、野生型の粒と同じ速度で発芽するように見え、3日後に約60-70%が発芽した。水分吸収前の37℃での4週間の保存により、両方のF4系統の発芽の割合がわずかに増した。4℃での3日間の処理によって、新たに回収した種子について、同じ増加が達成された。
【0237】
このことにより、F4系統の粒が、如何なる発芽の重篤な遅延も受けないことが実証され、それ故、農学的に有用であることが予期された。
【0238】
(F4粒中のタンパク質レベル)
F4系統の粒中の水溶性、塩可溶性、アルコール可溶性および尿素可溶性タンパク質のレベルを、温室で栽培した、選択した系統(9RE、J1、G1、4BH)のF4種子、シングルヌルの親(Riso 56およびRiso 1508)ならびに野生型のオオムギ(Sloop、Bomi、およびK8)に由来する二重の20mgの全粒粉サンプルを使用して、測定した。
【0239】
水溶性タンパク質を、各粉サンプルから、0.5mlの水を使用して、30分間混合し、混合物を13,000rpmで5分間遠心し、上清を取り除き、ペレット上の抽出を2回繰り返すことによって抽出した。上清をプールし(水溶性抽出物)、ペレットを、3回連続して同じ方法で、0.5mlの0.5M NaCl(塩可溶性抽出物)を使用し、その後、1%(w/v)DTTを含む0.5mlの50%(v/v)プロパン-1-オール(アルコール可溶性抽出物(ホルデイン))を使用し、その後、1%(w/v)DTTを含む8M尿素(尿素可溶性抽出物)を使用して、抽出した。各画分のタンパク質含量を、ダイ結合アッセイ(BioRad)を使用し、製造者の取扱説明書に従って、スタンダードタンパク質としてγ-グロブリンに対して計算して、測定した。データを図12に示す。トータルの抽出可能なタンパク質含量(図12E)を、全ての可溶性画分のタンパク質含量の合計から計算した。
【0240】
加えて、トータルの窒素(Total N;図12F)を、同じ粉の二重の2.5mgサンプルを使用して、1800℃での燃焼および600℃でのN2への分解に続く元素分析、ならびに、質量分析(Dumasの方法)による定量によって、測定した。総タンパク質含量を、式:タンパク質含量 = 「6.63 X トータルの窒素の量」を使用して計算した。MSによる総タンパク質レベルについて得られた図は、合理的なことに、見積もったトータルの抽出可能なタンパク質含量と類似していた。このことは、タンパク質抽出が効率的であったことを示している。
【0241】
F4粒のホルデイン含量(アルコール可溶性タンパク質のレベルとして測定される)は、親(R1508およびR56)の17-39%に、そして、野生型の栽培品種Sloopの7-16%に減少していた。このことにより、野生型オオムギSlooと比較して、これらの粒サンプル中においては、前記でセリアック上の患者に毒性であることが示された総ホルデインのレベルが、約10倍減少していたことが示された。
【0242】
他のタイプのタンパク質、特には水溶性および塩可溶性タンパク質は、オオムギの粒の醸造特性に対して有用な効果を有していると考えられている。F4粒の水溶性および塩可溶性タンパク質のレベルは、野生型のSloop中の水溶性および塩可溶性タンパク質のレベルと類似していたことから、F4粒は、醸造目的で、十分なこれらのタンパク質を有していると考えられた。
【0243】
(脂肪酸含量および組成)
種子の生長および発達の間の主要な窒素シンクが、ホルデインの減少によって除去されたので、変異粒を分析し、発達している種子が、他の成分(幾つかは、粒の使用に対して有害であるかもしれない)の貯蔵を増やすことによって補っているか否かを調べた。F4粒に由来する全粒粉の二重の50mgサンプル中の脂肪酸を抽出し、メチル化し、定量ガスクロマトグラフィー(GC)によって、Folich et al., (1957)の方法を使用して分析した。
【0244】
G1、BB5、J1およびJ4系統のF4粒中の総脂肪酸濃度は、約2.5%から3%(w/w)の範囲で変化し、シングルヌルおよび野生型のオオムギの粒中のレベルと類似していた。ダブルヌルの粒は、上昇したレベルの脂肪酸を含んでいなかったと結論付けた。
【0245】
粒の脂質中の脂肪酸は、主に、リノール酸(C18:2)、オレイン酸(C18:1)およびパルミチン酸(C16:0)を含み、他の脂肪酸は低いレベルであった。シングルヌルの親または野生型のオオムギと比較して、選択されたF4粒において蓄積された個々の脂肪酸の濃度においては、顕著な差異は存在しなかった。特に、F4粒中の、高濃度でヒトに毒性を示すエルカ酸(C22:1n-9)の濃度は、増加していなかった。それ故、変異粒は正常な脂肪酸含量および組成を有していた。
【0246】
(スターチレベル)
スターチは、穀草類の粒の主要な成分であり、典型的には、乾燥重量の約55-65%を占める。スターチレベルは、麦芽化に使用するオオムギにおいては、特に重要である。非常に低いスターチ含量は、醸造中に行われる効率的な発酵を可能とする糖含量が不足する麦芽を形成することとなるので、オオムギ粒中のスターチレベルを測定した。
【0247】
変異体の粒のスターチを単離し、基本的には、Megazyme Method(AACC76.13)に記載されているように、20mgの全粒粉サンプルを使用してアッセイした。F4粒中の総スターチレベルは、57%〜66%(w/w)の範囲であり、51〜64%(w/w)の範囲であったシングルヌルの親および野生型のオオムギのスターチ含量と類似していた。
【0248】
F4オオムギの粒は、粒からの麦芽の産生を可能とするのに十分なスターチを有すると結論付けた。
【0249】
(βグルカンレベル)
変異体の粒中のβ-グルカン含量を、Megazyme Method(AACC32.23)に記載されているように、20mgの全粒粉サンプルを使用してアッセイした。G1、BB5、J1、J4系統の粒中のβ-グルカンレベルは、1.2〜2.6%(w/w)の範囲であり、2.4〜3.3%(w/w)の範囲であったシングルヌルの親の粒および野生型のオオムギの粒のβ-グルカン含量と類似していた。
【0250】
高いβ-グルカンレベルは、貯蔵の間のビール中のチルヘイズの形成に関与している。F4粒のβ-グルカン含量は、野生型の粒と比較して上昇しておらず、そのレベルは、これらの粒の醸造を妨害しないであろうと結論付けた。
【0251】
(遊離のアミノ酸レベル)
遊離のアミノ酸の蓄積の増加は、粒の使用にとって有害となる可能性ある。例えば、十分な量の遊離のアスパラギンは、スターチの存在下で高温に加熱すれば、毒性化合物であるアクリルアミドを形成する可能性がある。
【0252】
粒中の遊離のアミノ酸の含量および組成を、温室で栽培したF4種子に由来する20mgの全粒粉の二重サンプルを使用して、測定した。サンプルを、0.1N HCl中に溶解させ、アリコートを取り出し、乾燥させ、アミノ酸を、Waters AccQTag chemistryを使用して、Australian Proteome Analysis Facility(Sydney)が測定した。
【0253】
オオムギの粉中の最も一般的なアミノ酸は、多い順に、プロリン、アスパラギン、グルタミン酸およびアスパラギン酸であり、約1.5mg/g粉〜0.5mg/g粉の範囲であった。選択されたF4粒中の遊離のプロリン含量は、0.6-1.5mg/gの範囲であり、0.2-1.2mg/gの範囲であったシングルヌルの親および野生型のオオムギの遊離のプロリン含量と類似していた。全ての他の遊離のアミノ酸のレベルは、相応に、F4およびコントロール粒において類似していた。特に、F4粒中の遊離のアスパラギン含量は、G1、BB5およびJ1系統については、約0.5mg/gであり、J4系統については約1.0mg/gであった。シングルヌルの親の粒においては、遊離のアスパラギンのレベルは、0.3または0.9mg/gであり、野生型のオオムギの粒においては、遊離のアスパラギンは、0.3-0.6mg/gの範囲であった。
【0254】
F4粒の遊離のアスパラギン含量は、対応する野生型の粒におけるレベルと類似していたので、麦芽化または粒の他の使用の間での遊離のアスパラギンからのアクリルアミドの産生は、野生型の粒と差異は存在しないと考えられた。
【0255】
遊離のリシンは、動物の栄養において、制限アミノ酸として知られており、それ故、このアミノ酸のレベルは、動物の飼料としての粒の将来的な使用の面から関心が持たれていた。G1、BB5およびJ1系統のF4粒中の遊離のリシン含量は約0.5mg/gであり、J4系統の粒中では、1.0mg/gであった。このことにより、野生型の栽培品種Sloopの粒中のレベルと比較して、181%-1020%増加したことが示された。それ故、F4系統は、Sloopよりも、より良好な遊離のリシンの栄養源であった。
【0256】
[実施例5:F4粒の試験 - T細胞毒性試験]
F4粒のセリアック病に対する毒性を試験するために、ホルデインを、以下に示すように、9RE、J1、G1および4BH系統、シングルヌルの親(Riso 56およびRiso 1508)および野生型のオオムギ(Sloop; Bomi;K8)の野原で栽培した種子に由来する全粒の10gのサンプルから、単離および精製した。精製したホルデインを、セリアック病の集団から単離したT細胞に加えて、セリアック病に対する毒性について試験した。試験は、γ-インターフェロンのレベルについての抗体アッセイを使用して、精製したタンパク質と一晩インキュベーションした後でγ-インターフェロンを産生するT細胞の数を測定することを含む。すなわち、γ-インターフェロンのレベルは、粒中のタンパク質の毒性の程度の指標であった。その後、粉のセリアック病に対する毒性の測定結果を、粒から得られた粉の生体重の関数としてプロットした。
【0257】
(プロラミン(ホルデイン)の精製)
全粒粉(10g)を、30分間25℃で、20mMトリエタノールアミン-HCl(TEA)、1%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム、1%(w/v)ポリエチレングリコール(MW 6000; PEG6000)および1μg/mlのプロテアーゼ阻害税E64およびAEBSF(Sigma)を含む200mlのバッファー(pH8に調整)中で攪拌した。懸濁液を5000gで5分間遠心し、上清を捨て、ペレットを2回以上洗浄した。洗浄したペレット中のタンパク質を、1%(w/v)DTTを含む80mlの50%(v/v)プロパン-2-オール中に、30分間60℃で攪拌することによって、溶解させた。懸濁液を4℃で10分間冷却し、10,000gで10分間4℃で遠心した。上清中のホルデインを含むタンパク質を、2倍の容積のプロパン-2-オールを用いて一晩-20℃で沈殿させ、10,000gで10分間4℃で沈殿させ、ペレットを、8Mの新たに調製した脱イオン尿素、1% DTT、20mM TEAを含む10mlのバッファー(pH6に調整)中に溶解させた。
【0258】
ホルデインを、以下のようにFPLCによって精製した。ホルデイン溶液(1ml)を、Source 15 Reverse Phase Chromatography(RPC, Pharmacia)の8mlカラムへとインジェクトした。カラムを、4mlの5%の溶媒Bで洗浄し、ホルデインを、5%の溶媒Bから35%の溶媒Bへと4ml/分で2.5mlリニアグラジエントを行い、その後、35%の溶媒Bから83%の溶媒Bへと36mlリニアグラジエントを行うことにより、溶出させた。溶媒Aは、水中の0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)であり、溶媒Bは、60%(v/v)の含水アセトニトリル中の0.1%(v/v)TFAであった。25〜43mlに溶出された画分をプールした。溶媒コントロールとして、タンパク質インジェクションを行わなかった実験において、同じようにプールした画分を用いた。10回の連続したインジェクションから得られた対応するプールを組み合わせ、凍結乾燥した。
【0259】
(ex vivo T細胞アッセイ)
FPLCにより精製したホルデイン(2M尿素中50mg/ml)を、1mM CaCl2を含むPBSで希釈し、25、62.5、125、250、625、3750または6250μgホルデイン/mlを調製し、25μlの各溶液を100μlのモルモット肝臓tTG(Sigma;1mM CaCl2を含むPBS中の25μg/mlのtTG)に添加し、6時間37℃でインキュベートした。非-脱アミド化溶液を、同じように、tTGの不存在下でのインキュベーションによって調製した。溶媒コントロールを、最も高いプロラミン濃度について添加した。他のコントロールサンプルは、溶媒コントロールであるか、または、既知の毒素、破傷風トキソイド(50 light forming units/ml、Commonwealth Serum Laboratories, Melbourneから入手)を含むか、あるいは、破傷風トキソイド(50 light forming units/ml)を単独で含む溶媒コントロールのいずれかを含んでいた。全ての溶液を-20℃で凍結した。
【0260】
T細胞を以下のように得た。6人の、生検により確定診断されたHLA-DQ2+のセリアック病の対象(厳密なグルテンフリーの食事を少なくとも3ヶ月間着実に実行した)に、150gのボイルしたオオムギを毎日、3日間にわたり提供した。PBMCを、Ficoll-Hypaque density centrifugationによって、ヘパリン化された静脈血液(食事提供の開始前または開始後6日目に直接回収した)から単離し、10%の加熱-不活性化してプールしたヒトAB血清を含む完全HT-RPMI中に再懸濁した。脱アミド化または非-脱アミド化ホルデインおよびコントロール溶液を解凍し、25μlを、100μlのPBMCを含むウェル(ウェル当り3-8x105 PBMC)に添加し、37℃で一晩96穴プレート(MAIP-S-45; Millipore, Bedford, MA)中で培養し、1mM CaCl2のみを含む25μlのPBSを加えたコントロール培地(添加無し)と比較した。最終的なホルデイン濃度を0、1、2.5、5、10、25、150または250μg/mlとした。最も高い最終的な尿素濃度を10mMとした。IFN-γを、供給業者(Mabtech, Stockholm, Sweden)の取扱説明書に従って、二次抗体を使用して、Anderson et al., (2005)によって以前に記載されたように、可視化し、スポット形成単位(SFU)を、automated ELISPOT reader(AID Autoimmun Diagnostika GmbH; Germany)を使用してカウントした。結果を、計算したホルデインの量を含む粉の当量に対する、平均のスポット形成単位(SFU)±S.E.として表した。各粉サンプルのホルデイン含量を、実施例5において計算し、粉の重量の計算を可能とした。
【0261】
データを、GraphPAD Prismによって分析し、最もフィットする曲線を計算し、平均値+S.E.を用いて示した。データについてのr2値は、0.83より大きく、このことは、得られたデータと最もフィットさせた曲線とが、良好なフィットであったことを示している(図13)。
【0262】
(結果)
食事提供の前の1人のセリアック病の対象から単離されたT細胞は、25μg/mlで添加したプロラミンに対して、オオムギを用いた食事提供後の同じ個人から単離したT細胞よりも反応性は弱かった。29.5±3.0および104±15.9の平均SFR±S.E.が、食事提供の前および後で単離されたT細胞について観察された。このことは、セリアック病に特異的なT細胞が、食事提供によって誘導されたことを示している。
【0263】
食事提供後6日目に単離したT細胞を使用して、ポジティブコントロールである破傷風トキソイドは、tTGの非存在下および存在下で、コンスタントな応答を示した(それぞれ、平均SFU±S.E. 28.1±5.9および20.2±7.4)。溶媒コントロールの添加は、ポジティブコントロールである破傷風トキソイドの応答性を顕著には阻害しなかった(tTGの非存在下および存在下で、それぞれ、平均SFU±S.E. 20.5±4.1および17.6±6.0)。このことにより、溶媒の不純物は、偽陰性も生じず、または、ポジティブな応答を阻害しなったことが確認された。
【0264】
セリアック病について予期されるように(Hadjivassiliou et al., 2004, Kim et al., 2004)、食事提供後6日目のセリアック病の患者から単離したT細胞は、全てのtTGで処理したホルデイン画分に、非-脱アミド化ホルデインに暴露したT細胞と比較して、より強く応答した(図13A;明確化のために、2つのホルデインサンプル(SloopおよびG1)のみへの応答を示す)。このことにより、測定したT細胞応答は、セリアック病の毒性に関連していたことが確認された。
【0265】
ホルデインの濃度が増すほど、SFUの数も、酵素とその基質との間の正常なミカエリス-メンテン酵素カイネティクスについて予期される双曲線の様式で増加した。このような曲線を表すために、2つのパラメーターを一般的に使用する:最も高い濃度で予期されるSFUの最大数であるBmax、および、最大の半分のSFUを誘導するのに必要なタンパク質の濃度であるKd。粉サンプルがより毒性になるほど、Kdはより低くなる。
【0266】
係数KdおよびBmaxを、最も良好にフィットした曲線から計算した。Bmax値は、予期されたように、野生型と変異体との間で顕著には変わらなかった。対照的に、F4系統についてのKd値は、野生型の系統と比較して、10倍高かった(表4)。すなわち、変異体の系統については、野生型の粉よりも約10倍量の粉が、最大値の半分の毒性応答を引き起こすのに必要であった(表4)。それゆえ、F4粒のセリアック病に対する毒性は、野生型の系統と比較して、約10倍低かったと結論付けた。この減少のレベルは、F4粒中のタンパク質測定値によって求まったホルデインレベルの減少と良く一致していた。
【0267】
【表4】

【0268】
F4粒の毒性は、予期されたように、Riso 56よりも低かった。しかしながら、F4粒の毒性は、一方の親であるRiso 1508の毒性と類似していた。このことは、F4粒の更なる遺伝的特徴に基づいて、選択されたF4系統におけるBホルデインタンパク質をコードする遺伝子の変異のヘテロ接合性が原因であることがわかった。このヘテロ接合性により、予期された量を超えてホルデインの含量を上昇させる効果がもたらされる。
【0269】
[実施例6:F4粒の麦芽化]
オオムギ粒の麦芽化に対する適合性を求めるために、スモールスケールでの麦芽化(マイクロ-モルティング(micro-malting))試験を含む分析を実施した。
【0270】
麦芽化の能力に影響を与える1つの因子は、種子のサイズである。F4粒に由来するサンプルを、種子のサイズ分布について、1000粒の種子のうち2.8、2.5または2.2mmのふるいに保持される割合をカウントすることによって分析した。平均で、F4粒は、野生型よりも小さく、親のRiso 1508およびRiso 56の粒とは類似しており、2.5mmのふるいに保持された種子は5%未満であった(表5)。このことは、コントロールであるGalleonおよびSloop系統とは対照的であり、これらの系統においては、種子の90%が2.5mmより大きかった。同じRiso 1508 x Riso 56交配に由来する野生型の系統であるK8の粒も、サイズが小さく、それ故、サイズの大きさの減少の少なくとも一部は、遺伝的バックグラウンドに関連しており、ホルデインレベルが減少したことが直接的には原因でないことに注意すべきである。加えて、より小さな種子のサイズは、粒の浸漬方法の改変によって、補正されるであろう。
【0271】
【表5】

【0272】
種子の水分のレベルは、麦芽化工程に影響を及ぼす可能性がある。水分%および窒素%を、遠赤外線(NIR)分析により、マイクロ-モルティングの前に、分析した。全てのF4粒サンプルの種子の水分のレベルは、11〜11.4%の範囲であり、cv. Galleon(GA11, 8.9%)以外は、コントロール系統と類似していた。ダブルヌルの系統の種子の窒素は、2.3%〜2.5%の範囲であり、コントロール麦芽化に用いたcv. Galleon(1.6%)よりも高かった。麦芽化については、種子の窒素レベルは、最適には、1.5〜2.0%の間である。
【0273】
野原で栽培した、選択された5RB、G1、J1、9RE、4BH系統から得たF4粒、シングルヌルの親(Riso 56およびRiso 1508)および野生型のオオムギK8、栽培品種Bomi、Carlsberg II、SloopおよびGalleon系統に由来するオオムギサンプル(170g)を、16℃で6時間浸漬することによって、水に浸し、その後、7時間空気中に静置し、6時間浸漬し、最後に、15℃で4日間JWMマイクロモルティングシステム中で発芽させた。発芽させた粒を、21時間、最低温度50℃、最高温度80℃でキルンで乾燥焙煎させ、得られた麦芽を、擦りつけたりフルイにかけることによって、根を削除した。
【0274】
麦芽を、全粒のNIRによって、水分(%)および総窒素(乾燥重量%)について、そして、収率(オオムギの最初の重量に対するクリーンにした麦芽の重量の割合として表した)について分析した。
【0275】
加えて、麦芽サンプルを、ハンマーミル中で破砕し、50gのサンプルを45℃〜70℃に加熱した水中に溶かし、450gの最終重量の溶液を得て、抽出(可溶化した粒の重量の割合)、色、可溶化窒素(N)、Kohlbach index(KI:可溶性タンパク質/総タンパク質)、β-グルカン、粘度、AAL(外観最終発酵度、ビール製造酵母を用いた発酵の間の濃さの低下%)について、標準的なEuropean Brewery Convention protocols, http://www.ebc-nl.com/に従って分析した(表6)。
【0276】
麦芽のタンパク質含量は、一般的に、望まれる規格よりも高かった。このことは、麦芽の総窒素および可溶性の窒素によって示されたが、総タンパク質に対する可溶性タンパク質の割合(KI)は、規格に近かった。F4の麦芽汁の色および粘度は、規格と近く、麦芽汁中のβ-グルカンのレベルは低かった。この特徴は、麦芽化にとって許容可能であった。
【0277】
麦芽化方法は、3つの工程:麦芽製造、麦芽汁製造および発酵を含む。全体の効率を、各段階の効率の3つの測定から計算する(それぞれ、収率、抽出およびAAL)。これらは、各工程において、F4粒は、ベンチマークの粒(cv Galleon)よりも約10%効率が悪いことを示している。Galleonと比較して、F4系統では、約1.3倍の粒が、市販の標準品と同等の強みのビールの製造に必要であろう。
【0278】
これらの指摘の全てによって、麦芽をF4粒から製造しうることが示された。
【0279】
【表6】

【0280】
[実施例7:未加工の麦芽サンプルのELISA分析]
実施例6から得られた麦芽汁の約40mlサンプルを凍結し、凍結乾燥し、20mlの6M尿素、1%(w/v)DTT、20mM TEA(pH 6)中で、室温で溶解させた。各サンプルのタンパク質含量を、Bradfordダイ結合方法を使用して測定した。100μlの6M尿素、1% DTTおよび20mM TEA(pH6)中に20μgの麦芽タンパク質を含む連続希釈液を、PBSバッファーで予め平衡化したニトロセルロース膜(Amersham Hybound C+)に、ドットブロット装置(BioRad)中でアプライし、精製したCホルデイン標準(2μg)でキャリブレーションした。溶液を減圧下で膜から抜き、膜を、0.1% Tween 20を含むPBSバッファー(PBST)を用いてリンスし、膜を、0.1% Tween 20を含むPBSバッファー中の5%(w/v)脱脂乳粉末中で、1時間室温でインキュベーションすることによって、ブロッキングした。ホルデインは、PBSTバッファー中で1/2000に希釈した一次抗体(ホースラディッシュペルオキシダーゼがコンジュゲートしたウサギ抗-コムギグリアジン抗体、Sigma)を用いて、30分間室温で検出した。膜を、3回PBSTバッファーを変えながら洗浄し、Amersham ECL western blotting reagent AおよびB(GE Health Care)の1:1(v/v)混合物10ml中でインキュベートすることによって反応させ、Amersham Hyperfilmに30分間露光させることによって、シグナルを検出した。フィルムを現像し、Total Lab TL100 softwareを使用して定量した(Non-liner dynamics, 2006)。
【0281】
選択したF4粒から製造された未加工の麦芽溶液は、58±12.7ppmのホルデイン平均レベルを有していた。
【0282】
このレベルは、オーストラリアでの低グルテン食物としてFSANZが定めた限度である200ppmよりも低く、一貫して、野生型の栽培品種Galleon、Sloop、K8、BomiおよびCarlsberg IIから得られた麦芽についての平均値687±158ppmよりも低かった。また、親であるRiso 56およびRiso 1508から得られた麦芽のホルデイン含量よりもかなり低かった。
【0283】
通常、混合物のグルテン(ホルデイン)含量は、麦芽化、麦芽汁化および発酵方法の間に、劇的に減少し、最終的な安定化させたビールは、グルテン(ホルデイン)含量が、未加工の麦芽に存在する1/1000のレベルになる可能性がある(Dostalek et al., 2006)。
【0284】
それ故、F4麦芽から得られた加工したビール中のホルデインレベルは、約0.05ppmに減少し、野生型のオオムギの粒から得られたビールについて見出された3-40ppmの範囲を十分に下回ることが予想された(Dostalek et al., 2006)。
【0285】
最近、セリアック病の患者の食事中のグルテンの限度について、文献において、複数の推奨が存在している。これらのうちで最も信頼があるものは、多施設での二重盲目プラセボ試験に基づくものであり、10mg/日未満の摂取はセリアック病の患者にとって安全であることを示し、摂取は、50mg/日以下に維持すべきであると推奨している(Catassi et al., 2007)。他の最近の研究により、これらの知見が確認され、Collin et al., 2004では、100ppmのグルテンを含む食物の摂取により、約30mg/日の摂取となり、セリアック病の患者にはそれほどダメージをもたらさないと助言している。FSANZは、ニュージーランドおよびオーストラリアに関する食物の標準を定めている。Codex Alimentarius Commissionは、1963年にFAOおよびWHOによって設立され、Jpoint FAO/WHO Food Standards Programmeの元でプラクティスの基準など、食物の標準、ガイドラインおよび関連する文章を作成しており、ヨーロッパおよび北米についての許容されている法的規制である。Codexは、最近、グルテンフリーの限界を、100pgの食物当り0.05 g N(グルテンとして)未満と決めた。Codexの標準の見直しが提案され、グルテンを含まない穀草類から製造された食物については制限を20ppmにし、グルテンを含む穀草類から製造された食物については制限を200ppmにするよう提案されている(32頁、PROPOSAL P264, REVIEW OF GLUTEN CLAIMS WITH SPECIFIC REFERENCE TO OATS AND MALT、FSANZウェブサイト:http;//www,foodstandards.gov.au/_srcfiles/P264_Gluten_Claims_FAR.pdf#search=%22gluten%20free%22)。
【0286】
前記分析から、F4オオムギ系統から製造されたビールの摂取は、セリアック病の患者についてのグルテンフリー食物として決められた安全制限(前記試験における、および、FSANZおよびCodex Alimentariusによって決められた規制が示す)を十分に下回っていることが結論付けられた。
【0287】
[実施例8:F4系統の更なる特徴]
アルコール可溶性タンパク質を、前記したように、示した各系統について回収したバルクのF4種子から精製した。G1、J1、4BH、5RBおよび9RE系統のF4粒に由来する精製したタンパク質サンプル(20μg)を、6M尿素、2%(w/v)SDS、1%(w/v)DTT、0.01%(w/v)ブロモフェノールブルー、0.0625M Tris-HCl(pH 6.8)中で、25℃で溶解し、SDS-PAGEに供して、0.006%のコロイド状クマシーブルーを用いて染色し、Riso 56、Riso 1508および野生型の系統(K8)から単離したホルデインと比較した。移動を、分子量スタンダードと比較して、分子量を求めた(表7)。
【0288】
タンパク質の配列を、ゲルから切断し、以前に記されているように(Campbell et al., 2001)、MS-MS断片化によってタンパク質の配列決定のために処理した、タンパク質スポットに由来するトリプシン分解物のマス分析によって、NCBI non-redundant databaseに対してサーチして、入手した。
【0289】
【表7】

【0290】
各サンプルに由来するペプチドを、Agilent Zorbax SB-C18 5μm 150x0.5mmカラムに、0.1%(v/v)葉酸/5%(v/v)アセトニトリルを用いて流速20μl/分で1分間結合させ、その後、アセトニトリル濃度を増加させるグラジエント(1分間にわたり5μl/分で0.1(v/v)葉酸/20%(v/v)アセトニトリルへと増加させ、28分間にわたり0.1%(v/v)葉酸/50%(v/v)アセトニトリルへと増加させ、1分間にわたり0.1%(v/v)葉酸/95%(v/v)アセトニトリルへと増加させる)で溶出した。カラムを、5分間にわたる0.1%(v/v)葉酸/95%(v/v)アセトニトリルから0.1%(v/v)葉酸/100%(v/v)アセトニトリルへのグラジエントで、20μl/分で洗浄し、0.1%(v/v)葉酸/5%(v/v)アセトニトリルを用いて、7分間、サンプルに由来するペプチドをアプライする前に、再平衡化した。
【0291】
カラムからの溶出液を、Agilent XCT ion trap mass spectrometerへと、装置のmicronebuliser electrospray ion sourceを介して導入した。ペプチドがカラムから溶出する際に、ion trapが、完全なスペクトル陽イオンスキャン(100-2200m/z)を集め、その後、装置の「SmartFrag」および「Peptide Scan」セッティングに従って、完全なスペクトル中に見られたイオンの4回のMS/MSスキャンを行った。いったん、2つの断片化スペクトルが、任意の特定のm/z値について集まれば、更なる30秒間の分析のための選択から除外され、重複するデータを集めることを避ける。
【0292】
マススペクトルデータのセットは、Agilent's Spectrum Mill software(Rev A.03.02.060)を使用した配列データベースと一致した。擬似陽性の一致は、ソフトウェアの「autovalidation」デフォルトセッティングによって避けられた。これは、ペプチドの一致が、reversed databaseに対しての最も良好な一致よりもかなり良好となる必要性、および、より可能性のあるイオン化および断片化パターンに有利に働く様々なweightingを含む(「proton mobility scoring」)。酸化されたメチオニンは、変化しやすい改変として許容された。
【0293】
タンパク質の配列決定の結果により、選択された系統に由来するF4種子は、予期しなかったことに、B3ホルデインのバンドを、予期されたガンマホルデインおよびDホルデインに加えて、含んでいたことが確認された。ガンマ-1および-3ホルデインのバンドの一致性は、これらのタンパク質がBホルデインバンドと一緒に動くことによって隠されることはないRiso 56変異体からのタンパク質の配列決定によって確認された。このことにより、選択されたF4系統は、完全にはB3ホルデインを欠失していなかったことが示された。
【0294】
[実施例9:BおよびCホルデインを欠失したオオムギ粒の同定]
野原で栽培したG1系統のF4植物の単一の頂部に由来する個々の半分の種子を、一晩、プロテアーゼ阻害剤E64およびAEBSF(1μg/ml)を含む水中で膨張させ、それぞれ、ステンレス鋼のボールを備えたプラスチックマイクロチューブ中で、砕いて細かくして粉末にし、30/秒で3×1.5分間、96 well Vibration Mill(Retsch Gmbh, Rheinische)中で攪拌し、その後、3000gで5分間RTで遠心し、上清を捨てた。水不溶性の粉ペレットを2回以上同じ方法で洗浄し、上清を捨てた。その後、ペレット中のアルコール可溶性ホルデインを、400μlの1%(w/v)DTT含有50%(v/v)水性プロパノール-2-オールを添加し、その後、前記したように攪拌および遠心することによって、抽出した。抽出されたホルデインを含む上清を、新しいチューブに移し、DTT/プロパン-2-オール上清中のタンパク質含量を、クマシー試薬(BioRAD)で測定した。
【0295】
20μgのホルデインに対応する各ホルデイン抽出物のアリコートを、真空下で一晩凍結乾燥し、15μlのSDS-ボイリングバッファー中に溶かし、3分間90℃で加熱し、実施例1に記載したように、プレキャスト12-18% Excell gradient gel(Pharmacia)にロードし、SDS-PAGEによって調べた。約43kDaでの明白なバンドにより個々の種子が分類されることを見出し、16粒の種子中の5粒の抽出物において存在しなかった。このバンドの位置は、以前に同定されたB3ホルデインのバンドと同じであった。
【0296】
タンパク質データにより、G1系統に由来するF4種子はヘテロ接合体であり、1つまたは複数のBホルデインタンパク質により分類されることが確認された。このことは、また、他のF4系統についても確認された。
【0297】
(遺伝子検査)
遺伝子検査を行い、タンパク質データを確認した。野原で栽培した、選択したF4系統に由来する個々の半分の種子を、湿った土壌で発芽させ、2週間温室で、昼は25℃夜は20℃で栽培した。DNAを、0.5cmの葉身から、REDExtract-N-Amp Plant PCR Kit (Sigma)を使用して、取扱説明書にしたがって単離した。B1ホルデインおよびγホルデインに特異的な遺伝子配列を、別個のPCR反応により増幅した(10μlのRMix、1μlのそれぞれのB1ホルデインプライマー(5'B1horおよび3'B1hor)または0.5μgのそれぞれのγ3ホルデイン(5'gamma hor3および3'gamma 3-full)、4μlの植物DNAおよびMilliQ水を20μlに室温で加えて、その後、Eppendorf thermal cycler中で以下の温度プログラムに供した:10分間95℃に続き、30秒間95℃、30秒間56℃、1分間72℃を35サイクル行い、この後、10分間72℃にし、10℃に冷却)。
【0298】
PCRプライマーの配列を以下に示す:
5'B1hor:5'-CAACAATGAAGACCTTCCTC-3' (配列番号2)
3'Blhor:5'-TCGCAGGATCCTGTACAACG-3' (配列番号3)
5'gamma hor3:5'-CGAGAAGGTACCATTACTCCAG-3' (配列番号4)
3'gamma 3-full:5'-AGTAACAATGAAGGTCCATCG-3' (配列番号5)
【0299】
20μlの各PCR反応液を、1cmの、EtBrを含む1%(w/v)アガロースゲルにロードし、100Vで1時間TBEバッファー中で電気泳動し、DNA生成物の蛍光の画像を、GelDoc image system(uvitec)を使用して得た(図14)。
【0300】
γ3ホルデインコントロール遺伝子についての増幅したDNAバンドは、予期されたように、全てのレーンにおいて存在していた(図14、下パネル、gamma3-Hor)。増幅させたBホルデインDNAは、この遺伝子がRiso 56において欠失したことから予期されるように、Riso56に由来する全てのPCRレーンに存在していなかった(図14、上パネル、R56)。Bホルデイン遺伝子について増幅させたDNAバンドは、F4 9REおよび4BH系統の単一の頂部の種子に由来する抽出物中で、分離された(図14、上パネル、9RE、4BH)。このことにより、一つまたは複数のBホルデイン遺伝子が、F4種子の幾つかに存在しており、F3種子は、Riso 56においては、Bホルデイン遺伝子座の欠失についてホモ接合性ではなかったことが示された。このことは、他のF4系統についても示された。この方法は、B1ホルデインが欠失した種子を同定および選択するためのDNAに基づく方法として有用であった。
【0301】
遺伝子検査の結果を使用して、Bホルデイン遺伝子を含まない植物を選択した。12の個々のF5植物(Bホルデイン遺伝子についてヌル、PCRによる)を選択し、生長させて、G1*として知られているF5種子の集団を産生した。個々のG1*(F5の半分の種子)を、単一の頂部から取り出し、湿った土壌中で発芽させ、2週間温室内で昼は25℃で夜は20℃で栽培して、前記したように、DNA単離/PCR分析を行った。対応する半分の種子をホルデイン単離のために使用し、実施例1のように、40μgのホルデインに対するアリコートを取り出し、真空下で一晩凍結乾燥し、15μlのSDSボイリングバッファー中に溶かし、3分間90℃で加熱し、プレキャスト12% Longlife, 1mm gel(Longlife Gels)にロードし、150Vで40分間電気泳動し、染色することによって分析した。
【0302】
PCR分析により、ポジティブコントロール系統であるSloopおよびRiso 1508から単離されたDNAは、予期されたように、Bホルデインのバンドが得られたことが示された。B1ホルデイン遺伝子がわずかに異なるために、Sloopに由来するバンドのサイズは、Riso 1508から増幅されたバンドよりも大きかった。コントロール遺伝子であるγ3ホルデインを、全ての植物から増幅させた。PCRバンドは、6つのG1*の抽出物から増幅されず、これらの植物にはこの遺伝子が存在していないことが確認された。対応する半分の種子におけるホルデインパターンによっても、このことが確認された。よって、如何なるBホルデインバンドもG1*において観察されなかった。それ故、G1*は、検出可能なBホルデインが欠失しており、Bホルデインをコードする遺伝子座についてホモ接合性のヌルであることが推測されると結論付けられた。
【0303】
残りの250粒のF5 G1*種子を発芽させ、苗を試験に供し、Bホルデイン遺伝子についてヌルであることを確認した。以後の世代を、この系統の種子増加について使用した。
【0304】
(ホルデイン含量の分析)
オオムギ種Sloop、R56、R1508およびG1*を、野原の近接した土地で栽培し、成熟した粒を回収し、粉を製造するために加工した。粉サンプル中のホルデインレベルを、前記したように分析した。水、塩溶液、アルコール/DTTおよび尿素に溶けるタンパク質画分を、実施例4のように入手し、それぞれにおけるタンパク質含量を測定した。タンパク質含量を表8に示す(mgタンパク質/mg乾燥重量粉として表す)。それぞれの総タンパク質含量を、サンプルについての画分のタンパク質含量を合計することによって求めた。ホルデインは、アルコール可溶性画分に、他のアルコール可溶性タンパク質(例えば、セルピン、プロテアーゼインヒビター、LTP1およびプロテインZ)とともに含まれていた。
【0305】
【表8】

【0306】
データにより、G1*粒およびそれらから得られる粉中のアルコール可溶性タンパク質含量は、野生型の栽培品種Sloopと比較して22%未満に減少していることが示された。
【0307】
前記で得られたアルコール可溶性タンパク質画分を、実施例5のように、ホルデインについて、FPLCによって濃縮した。各FPLC溶出液中のタンパク質を凍結乾燥させ、10gの粉当りのFPLC精製タンパク質の収率を求めた。このことにより、G1*のホルデイン含量が、Sloopが105mg/10g粉、R56が38mg/10g粉、R1508が24mg/10g粉であったことと比較して、8mg/10g粉未満に減少していたことが示された。これは、G1*粒および粉中のホルデイン含量が、Sloopと比較して少なくとも92%減少したことを示すものである。
【0308】
[実施例10:F4粒を使用したより大きなスケールでの麦芽化および醸造]
より大きなスケールでの麦芽化実験を行い、F4粒を使用した醸造試験のための十分量の麦芽を製造した。これらの試験では、より小さな粒のサイズを他の因子の中で考慮に入れ、以下のように、浸漬手法を改善した。麦芽化チン(malting tin)当り800gの粒サンプルを使用した。浸漬は、17℃で5時間であり、発芽温度を15℃で94時間とした。キルンによる焙煎乾燥は、50-78℃で17時間、50-74℃で17時間とした。麦芽製造では、ジベレリン酸を、必要ではなかったので、使用しなかった。
マッシングレシピ:4.65kgの低グルテン麦芽、10リットルの水、10gの塩化カルシウム、2gの硫酸カルシウム、64-65℃で2時間。
ケトル(kettle):17gのTarget Hop Pellets(10.0% AA)を60分間、21gのHallertau Hop Pellets(4.5% AA)を10分間添加。
【0309】
発酵を、19リットルのバッチ用量で、12℃の発酵温度で、12gのFermentis W34/70 dry yeastを使用して、8日間一次発酵し、その後9日間0℃で冷蔵することによって、行った。その後、ビールを1マイクロのフィルターを通してろ過し、ビア樽中で炭酸ガスを溶け込ませ、逆圧ボトルフィルターで蓋をした。初期比重は1.044であり、発酵製品の最終比重は1.013であり、30IBUのApproximate Bitternessであり、Approximate Alcoholは4.0%(体積比)であった。
【0310】
製造方法の間に測定した他のパラメーターは以下であった:麦芽水分4.2%、抽出71.5、色3.9、WC 1.0、TN 2.63%(乾燥ベース)、SN 1.11、KI 51、粘度1.52、AAL 71.8%、βグルコシダーゼ130mg/l、DP 24。
【0311】
これらの値の全てにより、ビールが、F4粒に由来する麦芽から製造することができたことが示された。
【0312】
より大きなスケールの麦芽化および醸造試験を、G1*オオムギ粒でも実施した。800gmの粒を、Joe White Maltings automated malter中で、指示されたプロトコールに従って、麦芽化した。G1*粒の好ましい麦芽化条件は、3時間17℃での浸漬、4日間15℃での発芽に続く50-80℃でのキルン中での乾燥であることが求まった。G1*粒を浸漬させる時間の最適な長さは、他の粒(Sloop:8時間-9時間-5時間 浸漬/停止/工程プログラム、17℃;R1508:7時間-8時間-3時間 浸漬/停止/工程プログラム、17℃;R56:8時間-10時間-5時間 浸漬/停止/工程プログラム、17℃)と比較してわずかに異なっていた。分析プロトコールは、European Brewing Convention(EBC)またはInstitute of Brewing(IOB)によって特定されたものとした。粒の水分含量は、遠赤外線分光法(NIR)によって測定した。総窒素含量は、Dumasの方法によって測定した。麦芽についてのデータを表9に示す。G1*粒と他の試験した種との1つの顕著な違いは、糖化力であり、G1*およびR1508は、SloopまたはR56粒よりも非常に低かった。それゆえ、このことは、G1*およびR1508におけるlys3変異と関連していた。
【0313】
麦芽化を繰り返し、各種について組み合わせた。各G1*、R56、R1508およびSloop(野生型)系統に由来する約4kgの麦芽を、以下のように、醸造させ、ボトル詰めした。麦芽サンプルを、Tettnang hopを用いて60分間ボイリング温度で苦味をつけ、21-22のbitter unit(IBU)にした。発酵を、US-05 yeast(Fermentis)を用いて18-20℃で行った。発酵生成物を、濾過を行わずにビア樽に入れ、ボトル詰めの前に、炭酸ガスを溶け込ました。全てのビールは、ボトル詰めする際には濁っていたが、2-4週間の保存で透明になった。ビールは、直接ビア樽にいれボトル詰めしたので、顕著な「バタースコッチ」の香りと風味を有していたが、保存の間に弱まった。
【0314】
醸造生成物についてのデータを、表10に示す。G1*粒から製造されたビールのアルコール含有量は、4.2%(体積)であった。G1*ビールは、注いだ後、泡がわずかに少なかったが、十分な程度であった。
【0315】
【表9】

【0316】
【表10】

【0317】
これらの実験により、G1*粒が麦芽化でき、醸造可能なことが示された。
【0318】
G1*粒から製造されたビールのホルデインレベルは、イムノアッセイによって測定したところ、1ppm未満であると考えられ、幾つかの場合では、0.5ppm未満であった。これは、ホルデインレベルが10-41ppmであるコムギビール、9-15ppmのスタウトビール、3-9ppmのラガービールの範囲とは対照的であった。
【0319】
当業者が、多くの変化および/または改変を、特定の実施態様で示した本願発明に、広く記載された本願発明の精神または範囲から逸脱すること無しに、加えうることは理解されるであろう。それ故、本願明細書の実施態様は、あらゆる点で、例示的なものであり、非制限なものであると考えるべきである。
【0320】
本願出願は、US 60/964,672の優先権を主張するものであり、この出願の全ての中身は、参照として本願明細書に組み込まれる。
【0321】
本願明細書で論じたおよび/または参照した全ての出版物は、その中身を本願明細書に組み込まれる。
【0322】
本願明細書中に含めた文書、作用、物質、デバイス、記事などのいずれの論述も、単に本発明の事情を提供するためのものである。従来技術の一部に由来する任意または全てのこれらの事項が、本願出願のそれぞれの請求項の優先日前に存在したという理由で、本願発明が関係する分野における共通の一般的な知識の基礎を形成したり、または、共通の一般的な知識であったことを承認するものとみなすべきでない。
【0323】
[参考文献]




【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法であって、オオムギ粒、または前記オオムギ粒から産生された麦芽、粉もしくは全粒を、少なくとも1つの他の食物または飲料成分と混合する工程であって、前記粒、麦芽、粉または全粒が、対応する野生型のオオムギ植物に由来する粒、または対応する野生型のオオムギ植物に由来する粒から同じ方法で産生された麦芽、粉もしくは全粒と比較して、約25%以下のレベルのホルデインを含み、それにより、前記食物または麦芽に基づく飲料を製造する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記粒が、対応する野生型のオオムギ植物の粒と比較して、約15%以下のレベルのホルデインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒が、対応する野生型のオオムギ植物の粒と比較して、約5%以下のレベルのホルデインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記野生型のオオムギ植物が、Bomi、Sloop、Carlsberg II、K8またはL1である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記粒が、対応する野生型のオオムギ植物の粒と比較して、25%以下のレベルのB、Cおよび/もしくはDホルデインまたはこれらの組み合わせを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記粉が、約4%未満のホルデインを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記粒が、少なくとも約2.4gの平均重量を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記粒が、約2.4g〜約6gの平均重量を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記粒のスターチ含量が、少なくとも約50%(w/w)である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記粒のスターチ含量が、約50%〜約70%(w/w)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記粒から産生された粉のセリアック病に対する毒性が、対応する野生型のオオムギ植物の粒から産生された粉の約50%未満である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記粒から産生された粉のセリアック病に対する毒性が、対応する野生型のオオムギ植物の粒から産生された粉の約25%未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記粒から産生された粉のセリアック病に対する毒性が、対応する野生型のオオムギ植物の粒から産生された粉の約10%である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記粒から産生された麦芽が、約200ppm未満のホルデインを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記粒から産生された麦芽が、約75ppm未満のホルデインを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記オオムギ粒のゲノムの少なくとも約50%が、オオムギの栽培品種Sloopのゲノムと同一である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記粒が、対応する野生型のオオムギ植物と比較して、少なくとも1つのホルデインのレベルを減少させる遺伝子変異について、1つまたは複数の遺伝子座でのホモ接合性である植物に由来する、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記粒が、非トランスジェニック植物に由来する、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記粒が、トランスジェニック植物に由来する、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記植物が、粒中で少なくとも1つのホルデインの産生を下方制御するポリヌクレオチドをコードするトランスジーンを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記植物が、セリアック病の対象に非毒性であるプロラミンをコードするトランスジーンを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記プロラミンが、オートムギアベニンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記粒から粉または全粒を産生する工程を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記粒から麦芽を産生する工程を更に含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記麦芽に基づく飲料が、ビールであり、前記方法が、前記粒を発芽させる工程を含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
乾燥させた発芽した粒を、2以上の内胚乳画分、内皮層画分、殻画分、幼芽鞘画分および麦芽根画分へと分画する工程、および、あらかじめ決められた量の2つ以上の前記画分を組み合わせ、混合する工程を更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記粒の少なくとも約50%が、吸水後3日以内に発芽する、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記食物製品が、粉、スターチ、発酵させて膨らませたパンもしくはパン種の入ってないパン、パスタ、麺、家畜飼料、朝食用シリアル、スナック食品、ケーキ、麦芽、ペストリーまたはオオムギ粉に基づくソースを含む食物である、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記麦芽に基づく飲料が、ビールまたはウィスキーである、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記食物または麦芽に基づく飲料が、ヒトの摂取用である、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記食物または飲料の摂取後に、セリアック病の少なくとも1つの徴候も、前記病気の対象に生じない、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法であって、1つもしくは複数のオオムギの粒のタンパク質および約200ppm未満のホルデインを含む麦芽、ならびに/または、1つもしくは複数のオオムギの粒のタンパク質および約0.4%未満のホルデインを含む粉と、少なくとも1つの他の食物または飲料成分とを混合する工程であって、それにより、前記食物または麦芽に基づく飲料を製造する工程を含む、方法。
【請求項33】
食物または麦芽に基づく飲料を製造する方法であって、オオムギの粒、または前記粒から産生された麦芽、粉もしくは全粒と、少なくとも1つの他の食物または飲料成分とを混合する工程であって、それにより、前記食物または麦芽に基づく飲料を製造する工程を含み、前記粒から産生された粉が、約0.4%未満のホルデインを含み、および/または前記粒から産生された麦芽が、約200ppm未満のホルデインを含む、方法。
【請求項34】
対応する野生型のオオムギ植物に由来する粒と比較して、約25%以下のレベルのホルデインを含む粒を産生する、オオムギ植物。
【請求項35】
前記粒が、対応する野生型のオオムギ植物に由来する粒と比較して、約15%以下のレベルのホルデインを含む、請求項34に記載の植物。
【請求項36】
前記粒が、対応する野生型のオオムギ植物に由来する粒と比較して、約5%以下のレベルのホルデインを含む、請求項34に記載の植物。
【請求項37】
前記野生型のオオムギ植物が、Bomi、Sloop、Carlsberg II、K8またはL1である、請求項34から36のいずれか一項に記載の植物。
【請求項38】
前記粒が、対応する野生型のオオムギ植物に由来する粒と比較して、約90%未満のB、Cおよび/もしくはDホルデインまたはこれらの組み合わせを含む、請求項34から37のいずれか一項に記載の植物。
【請求項39】
前記粒から産生された粉が、約0.4%未満のホルデインを含む、請求項34から38のいずれか一項に記載の植物。
【請求項40】
前記粒が、少なくとも約2.4gの平均重量を有する、請求項34から39のいずれか一項に記載の植物。
【請求項41】
前記粒が、約2.4g〜約6gの平均重量を有する、請求項40に記載の植物。
【請求項42】
前記粒のスターチ含量が、少なくとも約50%(w/w)である、請求項34から41のいずれか一項に記載の植物。
【請求項43】
前記粒のスターチ含量が、約50%〜約70%(w/w)である、請求項42に記載の植物。
【請求項44】
前記粒から産生された粉のセリアック病に対する毒性が、対応する野生型のオオムギ植物の粒から産生された粉の約50%未満である、請求項34から43のいずれか一項に記載の植物。
【請求項45】
前記粒から産生された粉のセリアック病に対する毒性が、対応する野生型のオオムギ植物の粒から産生された粉の約25%未満である、請求項44に記載の植物。
【請求項46】
前記粒から産生された粉のセリアック病に対する毒性が、対応する野生型のオオムギ植物の粒から産生された粉の約10%である、請求項45に記載の植物。
【請求項47】
前記粒から産生された麦芽が、約200ppm未満のホルデインを含む、請求項34から46のいずれか一項に記載の植物。
【請求項48】
前記粒から産生された麦芽が、約75ppm未満のホルデインを含む、請求項47に記載の植物。
【請求項49】
前記植物のゲノムの少なくとも約50%が、オオムギの栽培品種Sloopのゲノムと同一である、請求項34から48のいずれか一項に記載の植物。
【請求項50】
対応する野生型のオオムギ植物と比較して、少なくとも1つのホルデインのレベルを減少させる遺伝子変異について、1つまたは複数の遺伝子座でのホモ接合性である、請求項34から49のいずれか一項に記載の植物。
【請求項51】
非トランスジェニック植物である、請求項34から50のいずれか一項に記載の植物。
【請求項52】
トランスジェニック植物である、請求項34から50のいずれか一項に記載の植物。
【請求項53】
粒中で少なくとも1つのホルデインの産生を下方制御するポリヌクレオチドをコードするトランスジーンを含む、請求項52に記載の植物。
【請求項54】
セリアック病の対象に非毒性であるプロラミンをコードするトランスジーンを含む、請求項52に記載の植物。
【請求項55】
前記プロラミンが、オートムギアベニンである、請求項54に記載の植物。
【請求項56】
前記粒の少なくとも約50%が、吸水後3日以内に発芽する、請求項34から55のいずれか一項に記載の植物。
【請求項57】
粒を産生するオオムギ植物であって、前記粒から産生される粉が、約0.4%未満のホルデインを含み、および/または、前記粒から産生される麦芽が、約200ppm未満のホルデインを含む、植物。
【請求項58】
請求項33から57のいずれか一項に記載のオオムギ植物の粒。
【請求項59】
オオムギ粒を製造する方法であって、
a)請求項34から57のいずれか一項に記載のオオムギ植物を栽培する工程;
b)粒を収穫する工程;および
c)場合によっては、粒を加工する工程
を含む、方法。
【請求項60】
少なくとも1ヘクタールの領域の野原で、少なくとも10,000の植物を栽培する工程を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
粒から得られる粉、全粒、スターチまたは他の生成物を製造する方法であって、
a)請求項58に記載された粒を得る工程;および
b)粒を加工して、粉、全粒、スターチまたは他の生成物を製造する工程
を含む、方法。
【請求項62】
請求項34から57のいずれか一項に記載のオオムギ植物または請求項58に記載の粒から産生される生成物。
【請求項63】
前記生成物が、食物または麦芽に基づく飲料製品である、請求項62に記載の生成物。
【請求項64】
前記麦芽に基づく飲料製品が、ビールまたはウィスキーである、請求項63に記載の生成物。
【請求項65】
前記生成物が、非食物製品である、請求項62に記載の生成物。
【請求項66】
前記非食物製品が、フィルム、被膜、接着剤、建築材料および包装材料からなる群から選択される、請求項65に記載の生成物。
【請求項67】
請求項1から33のいずれか一項に記載の方法を使用して製造される、食物または麦芽に基づく飲料。
【請求項68】
1つまたは複数のオオムギ粒のタンパク質および1ppm未満のホルデインを含むビール。
【請求項69】
少なくとも約2%のエタノールを含む、請求項68に記載のビール。
【請求項70】
1つまたは複数のオオムギ粒のタンパク質および約0.4%未満のホルデインを含む粉。
【請求項71】
約7mg未満のアルコール可溶性タンパク質/gm 乾燥重量粉を含む、請求項70に記載の粉。
【請求項72】
1つまたは複数のオオムギ粒のタンパク質および約200ppm未満のホルデインを含む麦芽。
【請求項73】
セリアック病の対象による摂取のための食物および/または麦芽に基づく飲料を製造するために使用することができるオオムギの粒を同定する方法であって、
a)1つまたは複数の以下の物質を入手する工程;
i)前記粒を産生することができる植物に由来するサンプル、
ii)粒、
iii)粒から産生される麦芽、および/または
iv)前記粒の抽出物;
b)工程a)に由来する物質を、少なくとも1つのホルデインおよび/またはホルデインをコードする少なくとも1つの遺伝子について分析する工程を含み、
粒によって産生されるホルデインの量が多くなるほど、粒が、セリアック病の対象による摂取のための食物および/または麦芽に基づく飲料を製造するのに適さなくなる、方法。
【請求項74】
前記工程b)が、Bおよび/またはCホルデインについて、前記物質を分析する工程を含む、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記工程b)が、前記工程a)に由来する物質を、セリアック病の対象に経口投与する工程、および、対象から得られたT細胞の1つまたは複数のオオムギホルデインに対する免疫応答性を求める工程を含む、請求項73または74に記載の方法。
【請求項76】
前記工程a)に由来する物質が、ゲノムDNAを含み、前記工程b)が、ホルデインを産生することができる1つまたは複数のホルデイン遺伝子の不存在を検出する工程を含む、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
対象におけるセリアック病の発生または重篤化を予防または低減する方法であって、対象に、請求項63、64もしくは67のいずれか一項に記載の食物もしくは麦芽に基づく飲料、または、請求項58に記載の粒を経口投与する工程を含む、方法。
【請求項78】
セリアック病の発生または重篤化を予防または低減するために対象に経口投与するための医薬の製造のための、請求項63、64もしくは67のいずれか一項に記載の食物もしくは麦芽に基づく飲料、または、請求項58に記載の粒の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−535512(P2010−535512A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520382(P2010−520382)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001172
【国際公開番号】WO2009/021285
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【出願人】(302009017)ウォルター アンド エリザ ホール インスティテュート オブ メディカル リサーチ (3)
【出願人】(506415252)グレインズ・リサーチ・アンド・ディヴェロップメント・コーポレーション (1)
【出願人】(507421474)
【氏名又は名称原語表記】Melbourne Health
【Fターム(参考)】