説明

作業車輌の前輪操向装置

【課題】配置するスイッチを少ない個数とするものでありながら、操舵方向及び複数段階の操舵角を検出することが可能な作業車輌の前輪操向装置を提供する。
【解決手段】前輪操向装置20は、大径部45a,45c,45f及び小径部45b,45d,45e,45gを有する軸状カム部材45と、該軸状カム部材45が貫通配置された位置検出シリンダ43と、該位置検出シリンダ43に固定された左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42とからなる操舵位置検出装置40を備えて構成されている。軸状カム部材45は、操向操作に基づいて移動し、中立状態から最大操舵角となるまでの間に、操舵角に応じた複数回の状態変化を出力させることができ、操舵方向及び複数段階の操舵角を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の作業車輌の前輪操向装置に係り、詳しくは、車輌の前輪の操舵角を検出する操舵角検出手段を備えた作業車輌の前輪操向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばトラクタ等の作業車輌は、ステアリングホイール等の操作に基づく前輪の操舵角を検出する操舵角検出手段を有する前輪操向装置を備えている(例えば、特許文献1,2参照)。また、このような作業車輌には、圃場端でUターンする際の動作を補助するための自動制御機能として、車輌後部に装着した作業機を自動的に上昇させる機能、前輪の駆動速度を増速する機能、及び旋回内側の後輪のブレーキを作動させる機能等が備えられたものがあり、これら自動制御機能は前輪の操舵角に基づいて作動するように構成されている。
【0003】
上記特許文献1に示すような前輪操向装置の操舵角検出手段は、前輪の操向操作に基づいて移動するカムと、それぞれの自動制御機能ごとに設けられると共に設置位置を調節可能としたスイッチとを備えており、前輪の操向操作に基づいて該カムの凸部がスイッチを切換えて、各自動制御機能を作動させる。
【0004】
また、上記特許文献2に示すような前輪操向装置の操舵角検出手段は、前輪の操向操作に基づいて移動するカムと、左右両方向の第1の設定角で出力を切換える第1のスイッチと、左右両方向の第2の設定角で出力を切換える第2のスイッチとを備えており、前輪の同方向の操向操作で2段階に自動制御機能を作動させるタイミングを有することで作業精度の向上を図っている。
【0005】
【特許文献1】特許第3289510号公報
【特許文献2】特開2002−205564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の操舵角検出手段は、同じタイミングで作動する自動制御機能ごとにスイッチを設けており、複数段階の操舵角を検出するためには、それだけスイッチの個数を配置しなければならず、前輪操向装置の構造が複雑化してしまう虞があった。また、該操舵角検出手段は、1つの自動制御機能に対して左旋回を検出するスイッチと右旋回を検出するスイッチとが必要となっており、例えば2個のスイッチですべての自動制御機能を作動させる場合には、すべての自動制御機能が同じタイミングでしか作動できず、作業精度の向上を妨げてしまうという問題があった。
【0007】
さらに、上記特許文献2の操舵角検出手段は、2個のスイッチによって2段階の自動制御機能を作動させるタイミングを有しているが、左右どちらに操向操作を行った場合にも同じ出力しか検出できないため操舵方向を検出することができない。このため、該操舵角検出手段は、操舵方向を検出する場合、操舵方向を検出するためのスイッチやセンサを別個に設けなくてはならず、前輪操向装置の構造が複雑化してしまう虞があった。
【0008】
そこで本発明は、配置するスイッチを少ない個数とするものでありながら、操舵方向及び複数段階の操舵角を検出することが可能な作業車輌の前輪操向装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図14参照)、前輪(5)の操舵角を検出する操舵角検出手段(40,140,240,340)を有する作業車輌(1)の前輪操向装置(20)において、
前記操舵角検出手段(40,140,240,340)は、
操舵角に基づいて変位するカム(45,145,245,345)と、
前記カム(45,145,245,345)の形状に基づいて信号を出力する2個のスイッチ(41,42,141,142)と、を備え、
前記カム(45,145,245,345)の形状を前記前輪(5)の操舵角が中立状態から最大操舵角となるまでの間に、前記2個のスイッチ(41,42,141,142)のうち少なくとも一方が複数回のオン・オフの出力変化を行う形状とした、
ことを特徴とする作業車輌の前輪操向装置(20)にある。
【0010】
請求項2に係る本発明は(例えば図4,5,7,10,11,14参照)、前記操舵角検出手段(40,140,240,340)は、前記2個のスイッチ(41,42,141,142)のそれぞれの出力信号に基づいて操舵方向及び複数の操舵角を判断する判断部(60)を備えてなる、
ことを特徴とする請求項1記載の作業車輌の前輪操向装置(20)にある。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明によると、前輪の操舵角が中立状態から最大操舵角となるまでの間に、2個のスイッチのうち少なくとも一方が複数回のオン・オフの出力変化を行う形状のカムを備えたので、配置するスイッチを2個のみとするものでありながら、前輪の操舵角が中立状態から最大操舵角となるまでの間に、操舵角に応じた複数回の状態変化を出力させることができ、操舵方向及び複数段階の操舵角を検出することができる。
【0013】
請求項2に係る本発明によると、2個のスイッチのそれぞれの出力信号に基づいて操舵方向及び複数の操舵角を判断する判断部を備えているので、例えば各種の自動制御機能を操舵角に応じた最適なタイミングで作動させることができ、作業精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に関する第1の実施の形態を図1乃至図10に沿って説明する。
【0015】
図1に示すように、本第1の実施の形態に係るトラクタ(作業車輌)1は、エンジン3及びミッションケース4等から構成される走行機体2と作業機(図示せず)とで構成されており、該走行機体2は、操向輪である前輪5、及び後輪6により支持されている。該エンジン3は、ボンネット11に覆われており、該ボンネット11の後方には運転席12を有している。また、左右の前輪5の間には、エンジン3からの動力をミッションケース4を介して前輪5に伝達すると共に、ステアリングホイール13の操作に基づいて前輪5を操向させる前輪操向装置20が備えられている。該前輪操向装置20は、フロントアクスルケース21、及びこれに沿設された油圧シリンダ装置35等によって構成されている。
【0016】
一方、走行機体2の後部には、回転刃(図示せず)等を有する作業機が昇降リンク機構(図示せず)を介して連結されている。該昇降リンク機構は1個のトップリンクと左右一対のロアリンクを備える三点式のもので、このような回転刃を有する作業機以外にも種々の作業機を選択して装着可能である。また、昇降リンク機構は、走行機体2側に配置されたリフトシリンダ83(図6参照)の伸長/収縮動作によって上下に回動される。つまり、該リフトシリンダ83を油圧駆動して作業機を上昇/下降動作させることが可能である。
【0017】
また、上記運転席12には、座席14、左右のブレーキペダル(図示せず)、及び走行操作機器であるステアリングホイール13等が配設されている。さらに、該ステアリングホイール13の前方及び座席14の側方には、作業機操作機器である操作パネル(図示せず)が配置されており、該座席14の側方に配置された操作パネルの下方には、後述するマイコンユニット50が配置されている。
【0018】
さらに、上記ミッションケース4には、エンジン3から伝達された動力を、所望のタイミングで通常よりも増速させて前輪5に伝達することが可能な前輪増速装置78(図6参照)が備えられている。
【0019】
フロントアクスルケース21は、図2に示すように、走行機体2の左右方向に延びて形成されたセンタケース25及び該センタケース25の左右両端部に固定されるキングピンケース26を備えている。該センタケース25の中央部分前方側には、図3に示すように、突出部25aが固定されている。そして、フロントアクスルケース21は、該突出部25aを回動可能に支持するフロントブラケット32、及び後方部分を回動可能に支持するリヤブラケット33にて、走行機体2と一体のメインフレーム31に対して、機体前後方向の軸心周りに上下揺動自在に支持されている。
【0020】
上記センタケース25には、図2に示すように、デフリングギヤ22a及びデフピニオン22b等を有するフロントディファレンシャル22、及び該フロントディファレンシャル22の左右方向にそれぞれ駆動連結されたデフシャフト23が内装されている。上記キングピンケース26には、キングピン28が内装されており、該キングピン28は、その上方側においてデフシャフト23と駆動連結されている。
【0021】
また、キングピン28は、その下方側において前輪車軸29に駆動連結されており、該前輪車軸29は、キングピン28を中心に回動自在に設けられた車軸ケース27に内装されている。該車軸ケース27には、ナックルアーム30が一体的に固定されており、該ナックルアーム30は、キングピンケース26上面側でキングピン28の中心軸上となる部分に回動自在に連結し、車軸ケース27と共にキングピン28を中心に回動自在に構成されている。
【0022】
上記油圧シリンダ装置35は、図4に示すように、センタケース25に対して固定されたシリンダ部36と、該シリンダ部36に貫通配置されピストンロッド37とを備えて構成されている。該シリンダ部36には、内部に形成された油室と、後述する油圧制御装置70とを連通するための油圧ポート39,39が設けられている。該ピストンロッド37は、左右両端部がそれぞれロッドエンド38を介してナックルアーム30に連結されている。
【0023】
また、油圧シリンダ装置35には、詳しくは後述する操舵位置検出装置(操舵角検出手段)40が並設されている。
【0024】
上記マイコンユニット50は、図5に示すように、CPU51、RAM52、フラッシュメモリ53を有するマイクロコンピュータ(以下、マイコン)(判断部)60、電源61、不揮発性メモリであるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)54、通信回路62、ドライバ(駆動回路)55などを用いて構成される電子回路である。該マイコンユニット50の入力側には、電源61のほか、上記操舵位置検出装置40の左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42が接続されている。また、このほかにも、旋回アップ制御切換スイッチ65、前輪増速・オートブレーキ制御切換スイッチ66等の各種スイッチ、またリフトロッドシリンダセンサ67、ポジションレバーセンサ68等の各種センサが接続されている。
【0025】
なお、旋回アップ制御切換スイッチ65とは、ステアリングホイール13により一定角以上の操舵角を与えられたことが検出されると、マイコン60からの制御信号に基づき、作業機を設定された上限位置まで自動的に上昇させる制御のオン・オフを切換えるスイッチである。これにより例えば圃場端部等でUターンする場合などでも、ステアリングホイール13の操作だけで作業機を設定上限位置まで上昇させることができ、操作の容易化が可能となる。
【0026】
また、前輪増速・オートブレーキ制御切換スイッチ66とは、ステアリングホイール13により一定角以上の操舵角を与えられると、その操舵量に基づきマイコン60からの制御信号に基づき、旋回内側の後輪6のブレーキ装置(図示せず)が制動作動される制御のオン・オフを切換えるスイッチである。すなわち、ステアリングホイール13を操作することにより、旋回内側の後輪6にブレーキが作用する。これにより、例えば圃場端部等でも小回り旋回が可能となっている。
【0027】
なお、マイコン60には、これらのほかにも図示を省略した、耕耘の深さを調整する耕深調整ボリュームスイッチ等のスイッチ類やセンサ類も接続されている。
【0028】
また、該マイコンユニット50の出力側には、LCDで構成された表示部56のほか、ランプ(LEDを含む)57、ブザー58、ソレノイド(例えばリフトシリンダ上昇用ソレノイド)59等がドライバ55を介して接続されている。
【0029】
上記油圧制御装置70は、図6に示すように、パワーステアリングポンプ72、油圧リフトポンプ73、パワーステアリングユニット74、リリーフバルブ75、フローデバイダバルブ77、油圧リフト装置82、オイルタンク71、及びフィルタ87,88等によって構成されている。なお、本第1の実施の形態に係るトラクタ1の油圧制御装置70は、実際には、ほかにも多くのバルブや油路等を有しているが、説明の便宜上、省略して示している。
【0030】
パワーステアリングユニット74は、パワーステアリングポンプ72からの作動油を、ステアリングホイール13の操作に基づいて切換えられるパワーステアリングバルブ74aを介して該ステアリングホイール13の操作に基づく左右それぞれの油圧ポート39に供給するように構成されており、シリンダ部36のピストンロッド37を油圧動作させることで前輪5が操舵される。
【0031】
フローデバイダバルブ77には、油圧リフトポンプ73からの作動油が、リリーフバルブ75及びフィルタ88を介して供給されており、該フローデバイダバルブ77からは、上記前輪増速装置78の前輪増速用電磁切換えバルブ78aと、ブレーキシリンダ80を油圧動作させる自動ブレーキ旋回用電磁切換えバルブ80cとに供給されている。前輪増速用電磁切換えバルブ78aは、上記マイコン60からの制御信号に基づいて切換えられることにより、作動油を供給して前輪増速装置78を作動させる。自動ブレーキ旋回用電磁切換えバルブ80cは、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42の検出信号に基づくマイコン60からの制御信号に基づいて、左右いずれかのブレーキシリンダ80a,80bに作動油を供給し、旋回内側のブレーキ装置を作動させる。
【0032】
また、フローデバイダバルブ77からの作動油は、油圧リフト装置82に供給され、リフトロッドシリンダ81及びリフトシリンダ83を作動させる。リフトロッドシリンダ81は、フローデバイダバルブ77からの作動油が、油圧リフト装置82を介してリフトロッドシリンダ用電磁切換えバルブ81aに供給され、該リフトロッドシリンダ用電磁切換えバルブ81aから、傾斜設定ボリュームスイッチ(図示せず)の設定に基づくマイコン60の制御信号に基づいて作動油が供給されることにより、上記作業機の左右傾斜角度を変更させる。さらに、リフトシリンダ83は、フローデバイダバルブ77からの作動油が、リフトシリンダコントロールバルブ84に供給され、該リフトシリンダコントロールバルブ84から、各種自動制御スイッチの操作に基づくマイコン60の制御信号や運転席12に配置されたレバーの操作に基づいて作動油が供給されることにより、上記作業機を上昇/下降動作させる。
【0033】
次に、本発明の要部である操舵位置検出装置40について説明する。
【0034】
操舵位置検出装置40は、図4及び図7に示すように、油圧シリンダ装置35に並設された位置検出シリンダ43と、該位置検出シリンダ43に固定された左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42と、位置検出シリンダ43に貫通配置された軸状カム部材(カム)45と、位置検出シリンダ43内部に配置され、該軸状カム部材45を中央部分に付勢するスプリング46,46とによって構成されている。
【0035】
該軸状カム部材45は、左右両端部付近において接続部材47,47によって油圧シリンダ装置35のピストンロッド37に固定されており、ステアリングホイール13の操作に基づいた該ピストンロッド37の移動に合わせて移動するように構成されている。なお、軸状カム部材45には、左右両端部付近において、上記接続部材47の代わりに、ピストンロッド37に接続されない、鍔状のカム側プレートが配置され、かつピストンロッド37の左右両端部付近には、該カム側プレートに対して所定量の隙間を有するように鍔状のロッド側プレートが配置されるように構成しても良い。つまり、軸状カム部材45は、ピストンロッド37がステアリングホイール13の操作に基づいて移動する際、上記所定量の隙間分(例えば、前輪5の切れ角30度分)だけ移動し、カム側プレートとロッド側プレートとが当接して移動される。これにより、軸状カム部材45は、ピストンロッド37(ステアリングホイール13)の移動に対して、所謂「遊び」を有するようにすることができる。
【0036】
また、軸状カム部材45は、位置検出シリンダ43内部に配置される中央側部分において、該位置検出シリンダ43の内径と略々同じ外径となる大径部45a,45c,45fと、該大径部45a,45c,45fより小さい外径となる小径部45b,45d,45e,45gとが形成されている。
【0037】
左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42は、位置検出シリンダ43に固定された状態で基端側から先端側に付勢される検出部41a,42aをそれぞれ備えており、該検出部41a,42aが、軸状カム部材45の小径部45b,45d,45e,45gに接した状態から大径部45a,45c,45fに乗り上げた際にスイッチがオフからオンに切換わるように構成されている。そして、これら左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42と軸状カム部材45とは中央部分Aに対して左右対称となるように配置されている。
【0038】
次に、本発明に係るトラクタ1の制御について説明する。
【0039】
例えば操作者が運転席12にあり電源入切操作手段であるイグニッションをオンにするなどして電源61を投入し、上記旋回アップ制御切換スイッチ65及び前輪増速・オートブレーキ制御切換スイッチ66がオンされると、図8に示す操舵位置検出制御が開始される(S1)。
【0040】
ついで、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42からの検出信号を動作検出値Pに変換する(S2)。動作検出値Pとは、マイコン60が左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42からの信号を検出しないオフの際に値を0とし、信号を検出するオンの際に値を1とした場合に、数式
P=2×左検出スイッチ41の値+2×右検出スイッチ42の値 ・・・(α)
によって算出される値である。
【0041】
即ち、トラクタ1が直進状態の際には、図9に示すように、操作者によりステアリングホイール13(図1及び図6参照)が操作されず、ピストンロッド37(図4参照)が作動せず、軸状カム部材45も移動されない。このため、左検出スイッチ41が軸状カム部材45の小径部45b、右検出スイッチ42が小径部45eにそれぞれ位置しており、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42共にオフとなり信号が検出されず値は0となる。つまり、上記数式αにより、
P=2×0+2×0=0
となる。
【0042】
また、トラクタ1が直進状態から操作者によってステアリングホイール13が操作され、左操舵(1)をする際には、該ステアリングホイール13の操作に基づいてピストンロッド37が左方向へ作動し、これに伴い軸状カム部材45も左方向に移動される。このため、左検出スイッチ41が軸状カム部材45の大径部45a、右検出スイッチ42が大径部45fにそれぞれ位置しており、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42共にオンとなり信号が検出されるため値は1となる。つまり、上記数式αにより、
P=2×1+2×1=3
となる。
【0043】
さらに、トラクタ1が上記左旋回状態からさらにステアリングホイール13が操作され、最大操舵角付近とされる左操舵(2)をする際には、ピストンロッド37がさらに左方向へ作動し、これに伴い軸状カム部材45もさらに左方向に移動される。このため、左検出スイッチ41は軸状カム部材45の大径部45aに位置したままであるが、右検出スイッチ42が小径部45gに位置しており、左検出スイッチ41はオン状態となり値が1となり、右検出スイッチ42は再びオフ状態となり値が0となる。つまり、上記数式αにより、
P=2×1+2×0=2
となる。
【0044】
一方、トラクタ1が直進状態から操作者によってステアリングホイール13が操作され、右操舵(1)をする際には、該ステアリングホイール13の操作に基づいてピストンロッド37が右方向へ作動し、これに伴い軸状カム部材45も右方向に移動される。このため、左検出スイッチ41が軸状カム部材45の大径部45c、右検出スイッチ42が大径部45aにそれぞれ位置しており、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42共にオンとなり信号が検出されるため値は1となる。つまり、上記数式αにより、
P=2×1+2×1=3
となる。
【0045】
また、トラクタ1が上記右旋回状態からさらにステアリングホイール13が操作され、最大操舵角付近とされる右操舵(2)をする際には、ピストンロッド37がさらに右方向へ作動し、これに伴い軸状カム部材45もさらに右方向に移動される。このため、右検出スイッチ42は軸状カム部材45の大径部45aに位置したままであるが、左検出スイッチ41が小径部45dに位置しており、左検出スイッチ41は再びオフ状態となり値が0となり、右検出スイッチ42はオン状態となり値が1となる。つまり、上記数式αにより、
P=2×0+2×1=1
となる。
【0046】
その後、図8に示すように、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42からの検出信号を変換した動作検出値Pの読み込みが行われる(S3)。該動作検出値Pが、P=0であった場合、上記のように略々直進状態を判定する(S4)。この際、マイコン60は、旋回アップ制御及び前輪増速・オートブレーキ制御等に関しての制御信号を出力しない(図9も併せて参照)。
【0047】
また、動作検出値Pが、P=1であった場合、上記のように右方向への大きな旋回動作である右操舵(2)状態であることを判定する(S5)。つまり、例えば圃場端部での右回りのUターンであることを判定し、マイコン60は、前輪増速・オートブレーキ制御に関して前輪増速装置78を作動させると共に、自動ブレーキ旋回用電磁切換えバルブ80cによって旋回内側となる右側ブレーキシリンダ80bを作動させるように制御信号を出力する(図6及び図9も併せて参照)。
【0048】
さらに動作検出値Pが、P=2であった場合、上記のように左方向への大きな旋回動作である左操舵(2)状態であることを判定する(S6)。つまり、例えば圃場端部での左回りのUターンであることを判定し、マイコン60は、前輪増速・オートブレーキ制御に関して前輪増速装置78を作動させると共に、自動ブレーキ旋回用電磁切換えバルブ80cによって旋回内側となる左側ブレーキシリンダ80aを作動させるように制御信号を出力する(図6及び図9も併せて参照)。
【0049】
また、動作検出値Pが、P=3であった場合、上記のように左方向または右方向への比較的小さな旋回動作である左操舵(1)または右操舵(1)であることを判定する(S7)。つまり、例えば圃場端部におけるUターンの初期段階であることを判定し、マイコン60は、旋回アップ制御に関してリフトシリンダコントロールバルブ84によってリフトシリンダ83を作動させ、作業機を上昇させるように制御信号を出力する(図6及び図9も併せて参照)。そして、以上動作検出値Pに基づいた処理を行った後に操舵位置検出制御が終了する(S8)。
【0050】
以上のように、本発明の第1の実施の形態に係るトラクタ1は、前輪5の操舵角が中立状態から最大操舵角となるまでの間に、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42のうち少なくとも一方が複数回のオン・オフの出力変化を行う形状の軸状カム部材45を備えたので、配置するスイッチが2個のみの簡単な構成とするものでありながら、前輪5の操舵角が中立状態から最大操舵角となるまでの間に、操舵角に応じた複数回の状態変化を出力させることができ、操舵方向及び複数段階の操舵角を検出することができる。
【0051】
また、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42のそれぞれの出力信号に基づいて操舵方向及び複数の操舵角を判断するマイコン60を備えているので、例えば各種の自動制御機能を操舵角に応じた最適なタイミングで作動させることができ、作業精度を向上させることができる。
【0052】
なお、操舵位置検出装置40は、図4及び図7に示すように、カム部材を軸状としたものを説明したが、このほかにも、別の形態としてカム部材を円筒形状としても本発明を適用することができる。即ち、フロントアクスルケース21におけるセンタケース25の端部に固定されるキングピンケース26の上端部に操舵位置検出装置140を設けるようにすることができる。
【0053】
操舵位置検出装置140は、図10(a)、(b)に示すように、カムケース143と、該カムケース143に固定された左検出スイッチ141及び右検出スイッチ142と、円筒カム部材145とによって構成されている。該カムケース143は、中空円筒状に形成され、キングピンケース26に一体に固定されている。円筒カム部材145は、カムケース143の中空部分に配置されており、ピン部材91,91によってナックルアーム130に固定されている。また、円筒カム部材145は、外周面を切欠いた形状の凹部145b,145d,145e,145gと、これら凹部によって構成される凸部145a,145c、145fとが形成されている。
【0054】
左検出スイッチ141及び右検出スイッチ142は、カムケース143に固定された状態で基端側から先端側に付勢される検出部141a,142aをそれぞれ備えており、該検出部141a,142aが、円筒カム部材145の凹部145b,145d,145e,145gに接した状態から凸部145a,145c,145fに乗り上げた際にスイッチがオフからオンに切換わるように構成されている。そして、これら左検出スイッチ141及び右検出スイッチ142と円筒カム部材145とは中央部分A´に対して対称となるように配置されている。
【0055】
以上のように構成された操舵位置検出装置140は、ナックルアーム130に固定された円筒カム部材145が、カムケース143に対してステアリングホイール13の操作に基づいて回動(移動)するので、上記操舵位置検出装置40と同様の作用及び効果となる。
【0056】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態を図11ないし図13に沿って説明する。なお、本第2の実施の形態においては、一部の変更を除き、第1の実施の形態と同様な部分に、同符号を付して、その説明を省略する。
【0057】
本第2の実施の形態に係るトラクタ1は、第1の実施の形態に係る操舵位置検出装置40の軸状カム部材45に比して、大径部及び小径部の数を増加させた軸状カム部材245を有する操舵位置検出装置240に変更したものである。該軸状カム部材245は、図11に示すように、位置検出シリンダ43内部に配置される中央側部分において、該位置検出シリンダ43の内径と略々同じ外径となる大径部245b,245d,245f,245h,245j,245l,245m,245o,245q,245s,245u,245wと、該大径部245b,・・・,245wより小さい外径となる小径部245a,245c,245e,245g,245i,245k,245n,245p,245r,245t,245vとが形成されている。
【0058】
以上のように構成された軸状カム部材245を備えた操舵位置検出装置240は、例えばステアリングホイール13が、操舵位置検出制御を行う際の基準位置となる直進位置(図11中「N」で示す位置)にされているとき、左検出スイッチ41が小径部245gに位置し、出力状態がオフであり、また右検出スイッチ42が小径部245rに位置し、出力状態がオフとなっており、動作検出値Pの値は0となっている。このとき、マイコン60は、この状態を現在の操舵位置としてRAM52(図5参照)に記憶させる。
【0059】
この状態からステアリングホイール13により左操舵の操作が行われ、軸状カム部材245が左方向へ移動し始めると、L1−1に示すように、左検出スイッチ41は、小径部245g上から大径部245f上に移動し、出力状態がオフからオンに切換わる。この際、右検出スイッチ42は、小径部245r上のままであり、出力状態はオフとなっている。また、図12に示すように、この状態での動作検出値Pの値は2となる。このとき、マイコン60は、この動作検出値Pの値2を前回の値0と比較し、操舵位置L1−1であることを認識し、左操舵であることを判断すると共に、これをRAM52に記憶させる。
【0060】
これにより、操舵位置検出装置240は、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42のうち少なくともどちらか一方の出力状態が切換わるたびに、動作検出値Pの値が前回の値と異なることを認識し、前回の動作検出値Pの値と比較することで操舵位置を判断することによって、操舵位置L1−1,L1−2,L1−3,L2−1,L2−2,L2−3,L3−1,L3−2,L3−3,R1−1,R1−2,R1−3,R2−1,R2−2,R2−3,R3−1,R3−2,R3−3、及び直進位置Nを検出することができる。つまり、左右の最大操舵角の間において、直進位置Nを含め19段階の操舵角を検出することができる。
【0061】
また、操舵位置検出装置240によって操舵方向及び操舵角を検出する場合には、このほかにも、マイコン60がRAM52に現在の位置を記憶し、左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42の検出信号に基づく動作検出値Pによって、該現在位置からの操舵方向を判断し、該操舵方向側の位置を新たに記憶する方法がある。
【0062】
つまり、図13に示すように、操舵位置検出制御が開始され、直進状態を認識すると、マイコン60は、直進位置をRAM52に記憶し、その後、例えば左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42の検出信号に基づいた動作検出値P=1を得ると、右操舵であることを判断して、位置R1−1をRAM52に記憶する。次に、動作検出値P=3を得ると、さらに右操舵であることを判断し、位置R1−2をRAM52に記憶する。ついで、動作検出値P=1を得ると、左操舵であることを判断し、位置R1−1を記憶する。以上のような制御を行うことにより、操舵位置検出装置240は、左右の最大操舵角の間において直進状態を含む19段階の操舵角を検出することができる。
【0063】
なお、操舵位置検出装置240において、以上のような制御を行う場合には、操舵位置検出制御開始後、動作検出値P=0となる直進位置をマイコン60に認識させることが必要である。
【0064】
<第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態を図14に沿って説明する。なお、本第3の実施の形態においては、一部の変更を除き、第1の実施の形態と同様な部分に、同符号を付して、その説明を省略する。
【0065】
本第3の実施の形態に係るトラクタ1は、第1の実施の形態に係る操舵位置検出装置40の軸状カム部材45に比して、大径部及び小径部の数を増加させた軸状カム部材345を有する操舵位置検出装置340に変更したものである。該軸状カム部材345は、図14に示すように、位置検出シリンダ43内部に配置される中央側部分において、該位置検出シリンダ43の内径と略々同じ外径となる大径部345b,345d,345f,345h,345j,345k,345m,345o,345q,345s,345uと、該大径部345b,・・・,345uより小さい外径となる小径部345a,345c,345e,345g,345i,345l,345n,345p,345r,345tとが形成されている。また、大径部345fは、他の大径部より長さが大きく形成されている。
【0066】
以上のように構成された軸状カム部材345を備えた操舵位置検出装置340は、ステアリングホイール13の操作時における、左検出スイッチ41の出力状態が変化する際の右検出スイッチ42の出力状態を検出することで、操舵方向を判断する。
【0067】
つまり、操舵位置検出装置340は、A4〜A7に示すように、直進状態において、左検出スイッチ41が大径部345fに位置しており、出力状態がオンとなっている。この状態からステアリングホイール13により左操舵の操作が行われ、軸状カム部材345が左方向へ移動し始めると、A4に示すように、左検出スイッチ41は、大径部345f上から小径部345e上に移動し、出力状態がオンからオフに切換わる。このとき、右検出スイッチ42は、大径部345q上にあり、出力状態がオンとなっている。
【0068】
また、軸状カム部材345が左方向へ移動する左操舵の状態において、A2、A8、及びA10でも同様に、左検出スイッチ41の出力状態がオンからオフに切換わる際には、右検出スイッチ42の出力状態がオンとなっている。即ち、操舵位置検出装置340は、左検出スイッチ41の出力状態がオンからオフに切換わる際に、右検出スイッチ42の出力を検出し、この出力状態がオンとなっている場合には、左操舵の状態であることが判断できる。
【0069】
一方、操舵位置検出装置340は、直進状態における左検出スイッチ41が大径部345fに位置した状態から、ステアリングホイール13により右操舵の操作が行われ、軸状カム部材345が右方向へ移動し始めると、A7に示すように、左検出スイッチ41は、大径部345f上から小径部345g上に移動し、出力状態がオンからオフに切換わる。このとき、右検出スイッチ42は、小径部345n上にあり、出力状態がオフとなっている。
【0070】
また、軸状カム部材345が右方向へ移動する右操舵の状態において、A1、A3、及びA9でも同様に、左検出スイッチ41の出力状態がオンからオフに切換わる際には、右検出スイッチ42の出力状態がオフとなっている。即ち、操舵位置検出装置340は、左検出スイッチ41の出力状態がオンからオフに切換わる際に、右検出スイッチ42の出力を検出し、この出力状態がオフとなっている場合には、右操舵の状態であることが判断できる。
【0071】
そして、操舵位置検出装置340は、上記のように左検出スイッチ41及び右検出スイッチ42の2つのスイッチによって操舵方向を検出できるものでありながら、マイコン60によって、上記左操舵及び右操舵を判断したことを記憶し、左操舵及び右操舵の回数をカウントすることで操舵角の検出も行うことができる。
【0072】
なお、本発明に係る第3の実施の形態においては、左検出スイッチ41の出力状態がオンからオフに切換わる際の右検出スイッチ42の出力状態を検出することで操舵方向を検出するように説明したが、これに限らず、左検出スイッチ41の出力状態がオフからオンに切換わる際の右検出スイッチ42の出力状態を検出することで操舵方向を検出するようにしても本発明を適用することができる。
【0073】
また、右検出スイッチ42がオンからオフに切換わる際の左検出スイッチ41の出力状態を検出することで操舵方向を検出するように構成しても構わない。ただし、この場合は、軸状カム部材345の大径部及び小径部の位相を左右に反転して配置する必要がある。
【0074】
なお、本発明に係る第2及び第3の実施の形態においては、軸状カム部材245,345を備えた操舵位置検出装置240,340であるように説明したが、これに限らず、第1の実施の形態で説明したような円筒カム部材を備えた操舵位置検出装置としても良いことは勿論である。
【0075】
また、本発明に係る第1、第2、及び第3の実施の形態においては、操舵位置検出装置によって検出された操舵方向及び操舵角を用いる自動制御機能を、前輪増速・オートブレーキ制御及び旋回アップ制御であるように説明したが、これに限らず、他のどのような自動制御機能の動作タイミング等に用いても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るトラクタを示す外観斜視図。
【図2】フロントアクスルケースを示す部分断面図。
【図3】フロントアクスルケースを示す側面断面図。
【図4】フロントアクスルケースを示す上方視図。
【図5】マイコンユニットを示すブロック図。
【図6】油圧制御装置を示す回路図。
【図7】操舵位置検出装置を示す断面図。
【図8】操舵位置検出制御を示すフローチャート。
【図9】操舵位置検出制御を示す説明図。
【図10】別の形態の操舵位置検出装置を示す図で、(a)は縦断面図、(b)は横断面図。
【図11】第2の実施の形態に係る操舵位置検出制御を示す説明図。
【図12】第2の実施の形態に係る操舵位置検出制御による検出状態を示す図。
【図13】第2の実施の形態に係る操舵位置検出制御による検出状態と操舵位置との関係を示す図。
【図14】第3の実施の形態に係る操舵位置検出制御を示す説明図。
【符号の説明】
【0077】
1 トラクタ(作業車輌)
5 前輪
20 前輪操向装置
40,140,240,340 操舵角検出手段(操舵位置検出装置)
41,141 スイッチ(左検出スイッチ)
42,142 スイッチ(右検出スイッチ)
45,245,345 カム(軸状カム部材)
145 カム(円筒カム部材)
60 判断部(マイクロコンピュータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪の操舵角を検出する操舵角検出手段を有する作業車輌の前輪操向装置において、
前記操舵角検出手段は、
操舵角に基づいて変位するカムと、
前記カムの形状に基づいて信号を出力する2個のスイッチと、を備え、
前記カムの形状を前記前輪の操舵角が中立状態から最大操舵角となるまでの間に、前記2個のスイッチのうち少なくとも一方が複数回のオン・オフの出力変化を行う形状とした、
ことを特徴とする作業車輌の前輪操向装置。
【請求項2】
前記操舵角検出手段は、前記2個のスイッチのそれぞれの出力信号に基づいて操舵方向及び複数の操舵角を判断する判断部を備えてなる、
ことを特徴とする請求項1記載の作業車輌の前輪操向装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−58590(P2010−58590A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224741(P2008−224741)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】