説明

便器洗浄水生成装置及び便器洗浄システム

【課題】 形成蓄積された尿石を溶解除去可能な便器洗浄水生成装置及び便器洗浄システムを提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも一対の電極の間に電圧を印加することにより放電を生じさせ酸化窒素ガスを生成可能な放電器と、前記放電器により生成された前記酸化窒素ガスを導入する導入口を有する貯水部と、前記貯水部に水を導入する給水路と、前記給水路を開閉し、前記貯水部に水を導入する第1の開閉弁と、前記貯水部から水を排出する排水路と、前記排水路を開閉する第2の開閉弁と、前記放電器、前記第1の開閉弁及び前記第2の開閉弁を制御可能な制御部と、を備え、前記制御部は、前記放電器において生成させた前記酸化窒素ガスを前記導入口を介して前記貯水部に導入させることにより前記貯水部に貯水された水に溶解させ、前記酸化窒素ガスが溶解された水を前記第2の開閉弁を開いて前記排水路に排出させることを特徴とする便器洗浄水生成装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器洗浄水生成装置及び便器洗浄システムに関し、特に、酸化窒素ガスと洗浄水との反応により生成させた酸性水を水洗便器や排水管等に流し、尿石の蓄積を解消する便器洗浄水生成装置及び便器洗浄システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水洗便器は、使用者のボタン操作等による手動洗浄、あるいは、便器の前に人が立ったことを検出し便器の使用が終了した時点で自動的に上水又は中水を流す自動洗浄により清浄度が維持される。しかし、小便器や大便器においては、「尿石」が配管内に付着して排水の通過路を狭くしたり、便器の表面に付着して外観を損ね、細菌繁殖の温床となって臭気を放つようになる。一旦付着してしまった尿石は、通常の清掃では除去することは難しく、ブラシで強く擦らないと取れない。また、排水管に形成蓄積された尿石を、ブラシ等を用いて直接除去することが極めて困難なため、この尿石の除去は、専門の業者に依頼する必要があり、大きな負担となっている。
【0003】
この水洗便器の衛生方法を見てみると、例えば、尿石形成の主原因であるバクテリアを殺菌する方法が開示されている(特許文献1)。しかし、この衛生方法に関しては、尿石の生成を抑制するものであり、すでに固着した尿石を除去可能とするためには改善の余地があった。
【0004】
また、洗浄水に酸性物質を添加してスケールの固着を未然に防止せんとする方法が開示されている(特許文献2)。しかし、この方法の場合、酸性物質等の薬剤補給が必要であり、メンテナンスやコストなどの点で改善が必要であった。
【特許文献1】特開2000−80701号公報
【特許文献2】特開平10−1995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、形成蓄積された尿石を溶解除去可能な便器洗浄水生成装置及び便器洗浄システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
少なくとも一対の電極の間に電圧を印加することにより放電を生じさせ酸化窒素ガスを生成可能な放電器と、
前記放電器により生成された前記酸化窒素ガスを導入する導入口を有する貯水部と、
前記貯水部に水を導入する給水路と、
前記給水路を開閉し、前記貯水部に水を導入する第1の開閉弁と、
前記貯水部から水を排出する排水路と、
前記排水路を開閉する第2の開閉弁と、
前記放電器、前記第1の開閉弁及び前記第2の開閉弁を制御可能な制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記放電器において生成させた前記酸化窒素ガスを前記導入口を介して前記貯水部に導入させることにより前記貯水部に貯水された水に溶解させ、前記酸化窒素ガスが溶解された水を前記第2の開閉弁を開いて前記排水路に排出させることを特徴とする便器洗浄水生成装置が提供される。
【0007】
また、本発明の他の一態様によれば、
上記の便器洗浄水生成装置と、
水洗便器と、
を備えたことを特徴とする便器洗浄システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、放電技術を利用して酸性水を生成させ、小便器や大便器あるいはそれらの排水管に流すことにより、形成蓄積された尿石を溶解除去し、それと同時に節水も可能な便器洗浄水生成装置及び便器洗浄システムを提供することができ、産業上のメリットは多大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる便器洗浄水生成装置を用いた洗浄システムの要部構成を例示する模式図である。
また、図2は、本発明の実施の形態にかかる洗浄システムの動作を例示するフローチャートである。
【0010】
本実施形態の便器洗浄水生成装置は、制御部10と、放電器20と、貯水部30と、給水弁60と、給水路B1と、第1開閉弁V1と、排水路B2と、第2開閉弁V2と、を備える。すなわち、給水弁60の上流には、貯水部30に水を供給する給水路B1が設けられ、給水弁60の下流には、貯水部30から水を排水する排水路B2が設けられる。そして、給水弁60の上流側の給水路B1には第1開閉弁V1が設けられ、また、貯水部30から給水弁60の下流側に至る排水路B2には第2開閉弁V2が設けられている。
【0011】
貯水部30には、貯水部からの洗浄水の流入を防止する逆止弁(逆流防止弁)25を介して放電器20が接続されている。放電器20と貯水部30と給水弁60と第1開閉弁V1と第2開閉弁V2は、制御部10により同期化制御される。第2開閉弁V2や貯水部30などの洗浄水に接する部分は、耐酸性からなる材料で形成することが望ましい。
【0012】
そして、通常使用する「通常洗浄モード」と後述する「酸性水洗浄モード」と、を例えばタイマー等により定期的に切替えて実施可能とされている。
【0013】
「通常洗浄モード」においては、例えば制御部10により給水弁60が開閉することにより、小便器70に洗浄水が供給されて水洗洗浄が実施される。この時、典型的には図示しない人体センサからの人体検知信号により、便器70が使用されたことを検出して、洗浄水を自動的に流す。または、便器70を使用する使用者がバルブやボタンなどを操作することにより、便器70に洗浄水を流すようにしてもよい。
一方、本実施形態による「酸性水洗浄モード」の洗浄を行う場合、まず、制御部10により給水弁60及び第2開閉弁V2を閉じつつ、第1開閉弁V1を開ける。すると、給水路B1を介して第1開閉弁V1の下流に設けられた「貯水部30」に水道水Wが貯留される(ステップS100)。なお、ステップS100において、第1開閉弁V1を開くタイミングと第2開閉弁V2を閉じるタイミングとは、どちらが先でもよい。すなわち、第1開閉弁V1を開いてから第2開閉弁V2を閉じてもよく、あるいは、第2開閉弁V2を閉じてから第1開閉弁V1を開いてもよい。
【0014】
これに引き続き、またこのステップと同時に、後述するように、空気を「放電器20」で分解して生成させた窒素酸化物(NOx)を主成分とする酸化窒素ガスを、逆止弁25を介して貯水部30に導入し、酸性水を生成させる(ステップS110)。
なお、このステップS110においては、貯水部30に導入したガスがそのまま第2開閉弁V2から排水路B2を介して外部に漏出しないように、第2開閉弁V2を閉じてから酸化窒素ガスを貯水部30に導入することが望ましい。
【0015】
なお、本願明細書において「空気分解ガス」とは、空気中で放電させることにより生成されるガスをいい、空気を構成するガスが単に分解したガスのみならず、これら分解したガスが新たに結合して生成されるガスも含むものとする。例えば、単に窒素(N)あるいは酸素(O)などが分解したガスのみならず、窒素と酸素とが新たに結合して生成される酸化窒素ガスも、「空気分解ガス」に含まれるものとする。
【0016】
またここで、ステップS110は、「通常洗浄モード」と並行して実施できる。つまり、第1開閉弁V1と第2開閉弁V2を閉めた状態で貯水部30に貯留された水に酸化窒素ガスを供給しつつ、給水弁60を開けて通常の水道水Wを便器60に供給することができる。こうすることにより、貯水部30に貯留された貯水に対して、例えば数十分あるいは数時間に亘って酸化窒素ガスを供給することにより、所定の濃度(pH)の酸性水を生成することができる。
【0017】
所定の濃度の酸性水が得られたら、所定のタイミングにより貯水部30の下流に設けられた第2開閉弁V2を開け、給水管50に合流した給水管50を介して、生成した酸性水を小便器70へ供給させる(ステップS120)。このようにして供給された酸性水が尿石を溶解することにより、水洗便器70や排水管80における尿石の形成を予防しつつ、すでに形成蓄積された尿石を溶解除去することができる。
またこの際に、貯水部30から酸性水を流すと同時に、給水弁60を開いて水道水Wにより希釈しながら便器70に流してもよい。つまり、貯水部30で生成した酸性水を、排水路B2を介して排出しつつ、これと同時に、給水管50に設けられた給水弁60を開けて、水道水Wで希釈した酸性水を供給しても、水洗便器70や排水管80に形成された尿石を溶解除去することができる。このようにすれば、所定のpHの酸性水を供給しつつ、貯水部30の容量をコンパクトにでき、便器洗浄水生成装置を小型化することができる。
【0018】
以上説明したように、本実施形態によれば、放電を利用して酸性水を生成させ、小便器及びその配管に供給することにより、尿石の溶解除去が可能となり、それと同時に、後述するように節水効果も得られる。
【0019】
次に、本実施形態に用いることができる放電器20及び貯水部30についてさらに具体的に説明する。
図3(a)は本実施形態に係る洗浄水生成装置の放電器20の模式図であり、(b)はそのA−A線の断面図であり、(c)は貯水部30に酸化窒素ガスを供給する状態を例示する模式図である。
【0020】
図3(a)及び(b)に表したように、放電器20としては、Packed Bed方式の放電リアクタを用いることができる。この放電リアクタは、例えば、円柱状の内側電極21と、その周囲を取り囲むように設けられた円筒状の外側電極22との間に、多数の誘電体ペレット23を充填した構造を有する。例えば、内側電極21と外側電極22との間隔を14ミリメータ程度とし、ペレット23の粒径を1ミリメータ程度とした場合、電極21、22間に、100ヘルツ〜数キロヘルツ、1キロボルト〜10キロボルトの交流電圧を印加すると、誘電体ペレット23の空隙において放電が発生する。そこに、空気を通気させると、空気が窒素原子や酸素原子などに一旦分解された後、再結合により例えば、NO(一酸化窒素)やNO(二酸化窒素)などの酸化窒素ガスや、O(オゾン)などの空気分解ガスが生成される。
【0021】
ここで、誘電体ペレットの材料としては、例えばチタン酸バリウム(BaTiO)等の強誘電体を用いることができる。
【0022】
図3(c)に表したように、貯水部30としてのタンクの溜めた貯水に、例えば、バブラー106等を用いて、上述した酸化窒素ガスを溶解させると、例えば、硝酸(HNO)水溶液や亜硝酸(HNO)水溶液等の酸性水が生成される。
ここで、本実施形態に用いることができる他の放電方法として、グロー放電を用いたOAUGDP(One Atmosphere Uniform Glow Discharge Plasma)や触媒間でプラズマ放電させるPACT(Plasma- Assisted Catalytic Technology)やコロナ放電や無声放電等が挙げられる。
【0023】
また、後に詳述するように、低電圧で空気を分解させると、オゾン分子(O)を含む空気分解ガスが形成されるが、これらオゾンを水道水に溶解させて得られるオゾン水溶液は殺菌効果は有するが、弱酸性のため、尿石を溶解する効果は希薄である。ただし、後述するように、放電電圧を切り替えることにより、「殺菌水洗浄モード」としてのオゾン水溶液と、「酸性水洗浄モード」としての酸性水と、を選択的に切替えて、あるいは併用して使用することができる。
【0024】
次に、放電器20によるNOxガスの生成特性について説明する。
図4は、放電リアクタの主面に垂直方向の反応路長における電圧に対するNOxガス生成量の推移を例示するグラフ図である。ここで、横軸を電圧(キロボルト)とし、縦軸をNOxガス生成量(ppm)とした。
【0025】
本実験は、図3に関して前述した放電リアクタを用いて、以下の条件で評価を行った。すなわち、放電リアクタの電極間距離を14.5ミリメートル、反応路長Lを3種類(Lが117ミリメータ、42ミリメータ、11ミリメータ)、電極間に印加する電圧の周波数を1000Hz、Packed bed方式放電リアクタに空気を2リットル/分で通気させながら、印加放電してNOxガスを生成させた。
【0026】
同図に表したように、いずれの反応路長においても電圧の増加に伴い、NOxガスが増加し、例えば、印加電圧が5キロボルトのとき、反応路長Lが117ミリメータの放電リアクタにおいてNOxガス生成量が950ppmとなる。
【0027】
図5は、放電リアクタの反応路長に対するNOxガス生成量の推移を例示するグラフ図である。横軸を反応路長(ミリメータ)とし、縦軸をNOxガス生成量(ppm)とした。

いずれの印加電圧においても、反応路長の増加に伴いNOxガス生成量はほぼ比例して増加し、例えば、反応路長が117ミリメートルのとき、NOxガス生成量が950ppmという結果が得られた。
【0028】
図6は、本実施形態にかかる洗浄水生成装置の「酸性水洗浄モード」における動作を例示する模式図であり、図1の領域Rの部分に相当する。図6については、図1乃至図5に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
すなわち、図6(a)に表したように、タンク(貯水部)30の上部には、タンクへ水道水Wを給水するための給水路B1が、第1開閉弁V1を介して接続され、タンク30の底部には、ガス逃げ防止部35を介してタンク30の貯水を排出するための排水路B2が、第2開閉弁V2及びガス逃げ防止部35を介して、給水管に合流するように設けられている。タンク30の上面には、タンク系内の空気を系外に排出したり、系外の空気を系内に取り込んだり、系内に存在するガスを循環させることが可能な環状給気管が設けられており、その環状給気管には放電器20とポンプP1と切替弁Sと、が設けられている。なお、放電器20とポンプP1との配置関係は、図示したものと逆でもよい。つまり、タンク30からみて、ポンプP1よりも放電器20を近く設けてもよい。また、ガス逃げ防止部35の構造について限定はしないが、例えば、U字状にすると、水が滞留するので酸化窒素ガスの排出を防止できる。
ここで、図6(a)に表したように切替弁Sを「開」状態にすると、系内と系外が連通し、図6(b)に表したように切替弁Sを「閉」状態にすると、系内と系外とが遮断される。 また、放電器20に接続された電源スイッチSVを「ON」すると、放電器20において放電が生じ、酸化窒素ガスが発生する。一方、電源スイッチSVを「OFF」すると、放電が発生しない状態になる。
【0029】
まず、図6(a)に表したように、第1開閉弁V1と切替弁Sとを開けつつ、第2開閉弁V2を閉じ、ポンプP及び電源スイッチSVを停止させ、系内の空気を系外に逃がしながら、タンクに水道水を、例えば、200ミリリットル程度、貯留する。
【0030】
そして、図6(b)に表したように、第1開閉弁V1と切替弁Sとを閉じ、ポンプP1を起動させつつ、放電器20の電源スイッチSVをONする。このようにして、放電器20で生成した酸化窒素ガスをポンプP1により強制的に貯水中へ導入し、酸性水を生成することができる。この際、例えば多孔質状のバブラーを用いて貯水中でバブリングさせることにより、酸化窒素ガスを効率的に溶解させることができる。そして、所定の濃度の酸性水が得られるまで、系内に残存する酸化窒素ガスを循環再利用して、同様の工程を繰り返すと、効率よく酸性水が得られる(ステップS110)。
【0031】
しかる後に、図6(c)に表したように第1開閉弁V1を閉じ、ポンプP1を停止し、電源スイッチSVをOFFにし、切替弁Sを開けつつ、第2開閉弁V2を開くと、貯留した酸性水がタンク30の下流のバイパスを介して給水管に合流し、小便器へ供給される(ステップS120)。これにより、後述するように小便器のトラップ部や排水管などに付着した尿石を溶解させることができる。
【0032】
また、この際に、ガス逃げ防止手段35として、排水路B2に「トラップ」を設けることにより封水を形成すれば、貯水部30の中に残留する酸化窒素ガスなどの空気分解ガスが気体状態のままで排水路B2を介して便器などに放出されることを防止できる。この場合のトラップとしては、U字状のトラップでもよく、いわゆるワントラップなど、各種のものを用いることができる。
また、ガス逃げ防止手段としては、トラップの代わりに、例えば貯水部30に水位センサー32を設け、最低の水位レベルを規定してもよい。つまり、酸性水を排出した時、貯水部30の排水口が酸性水により封じられた状態とすれば、貯水部30の中に残留する酸化窒素などの空気分解ガスが排水路を介して便器などに放出されることを防止できる。
【0033】
または、例えば、酸性水を排出した時、第2開閉弁V2の上流側の酸性水が完全に排出される前に第2開閉弁V2を閉じるように制御部10が第2開閉弁V2の開閉のタイミングを制御してもよい。このようにすれば、貯水部30の排水口が酸性水により封じされた状態となり、貯水部30の中に残留する酸化窒素などの空気分解ガスが排水路を介して便器などに放出されることを防止できる。
【0034】
図7は、本実施形態にかかる洗浄水生成装置の第2の具体例を表す模式図である。図7についても、図1乃至図6に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0035】
本具体例の基本構造は図6に関して前述したものと同様であるが、タンク30と放電器20との間に設けられたポンプP1を回避するように、第3開閉弁V3を有するバイパスが設けられている。
その動作に際しては、まず、図7(a)に表したように、第1開閉弁V1と第3開閉弁V3と切替弁Sとを開け、第2開閉弁V2を閉じ、電源スイッチSVをOFFにし、ポンプP1を停止させつつ、系内圧力を逃がしながら、第1開閉弁V1を開けて、タンク30に水道水を貯水させる。
【0036】
そして、図7(b)に表したように、第1開閉弁V1と第2開閉弁V2と第3開閉弁V3と切替弁7とを閉じ、電源スイッチSVをONにし、ポンプP1を起動させる。すると、放電器20により生成された酸化窒素ガスがポンプP1により押圧され、タンク30内の貯水に導入されて、酸性水が生成する。ここで、図6に関して前述した具体例と同様に、系内に残存する空気を循環再利用できるため、所定の酸性水が得られるまで、同様の工程を繰り返し行い、効率よく酸性水を生成できる。
【0037】
しかる後に、図7(c)に表したように、第1開閉弁V1を閉じ、第2開閉弁V2及び第3開閉弁V3を開け、ポンプP1を停止し、電源スイッチSVをOFFにし、切替弁Sを開けることにより、系内に空気を導入しつつ、タンク30下流の小便器70に酸性水を供給し、小便器のトラップ部や排水管などに付着した尿石を溶解させることができる。またこの場合も、図6に関して前述したように、ガス逃げ防止手段35としてトラップを設けることにより、封水を形成して、酸化窒素ガスの排水路から外部への漏出を防止できる。または、水位センサー32などにより貯水部30の水位レベルを規定して「封水」を維持することによっても、酸化窒素ガスが排水路から外部に漏出することを防止できる。
以上、本実施形態に係る便器洗浄水生成装置の基本動作について説明した。
【0038】
図8は、本実施形態に用いることができる洗浄モードの切替を例示するフローチャートである。
【0039】
すなわち、上述したような放電器20に5キロボルト(kV)程度の高電圧を印加し、空気を分解した場合、NOxガスリッチな混合ガスが生成される。一方、2キロボルト(kV)程度の低電圧を印加した場合は、逆にOガスリッチの混合ガスが生成される。これは、Nガスの解離エネルギーとOガスとの解離エネルギーが異なるからであり、放電により与えるエネルギーが高いとNOxガスリッチな混合ガスが得られ、放電により与えるエネルギーが低いとオゾンガスリッチな混合ガスが生成される。
【0040】
このように、印加する電圧により空気分解ガスの成分が変化することから、この性質を利用して、小便器の不具合に合わせて「殺菌水洗浄モード」あるいは「酸性水洗浄モード」を選択することが可能となる。
例えば、低い印加電圧で空気を放電分解させた場合、オゾンガスリッチな空気分解ガスが生成されるため、この空気分解ガスを水道水に導入して得られるオゾン水を用いて、小便器や排水管を殺菌する「殺菌水洗浄モード」を実行できる。また一方、高電圧の印加によりNOxガスリッチな空気分解ガスを生成させ、酸性水を用いて尿石を溶解除去させる「酸性水洗浄モード」を実行できる。このように、放電器20への印加電圧を変えることにより、それぞれ目的に合わせた洗浄モードを適宜実施することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態によれば、水道水のみを流す洗浄水量に対して、節水することができる。これは、本実施例の「尿石除去モード」を適宜実行することにより、少ない水量でも尿石の蓄積や臭気の発生などを防止できるからである。
【0042】
次に、本発明の他の具体例にかかる洗浄システムについて説明する。
図9は、本発明の第2の具体例にかかる便器洗浄水生成装置を用いた洗浄システムの要部構成を例示する模式図である。
本具体例においては、給水弁60の上流から分岐され、上流側に第1開閉弁V1と、下流側に第2開閉弁V2とを有する貯水部30を介して排水管80に接続された排水路B2が設けられている。貯水部30には逆止弁を介して放電器20が設けられており、放電器20と貯水部30と第1開閉弁V1と第2開閉弁V2と給水弁60と、は制御部10で同期化制御されている。また、放電器20を介して酸化窒素ガスを貯水部30に供給するポンプ(図示せず)を適宜設けることができる。
【0043】
本具体例において、「通常洗浄モード」の場合は、水道水Wが給水弁60が開閉することにより、小便器70が洗浄される。
一方、「酸性水洗浄モード」の洗浄を行う場合、まず、給水弁60及び第2開閉弁を閉じつつ、第1開閉弁V1を開く。すると、水道水Wは、この第1開閉弁V1を介して、貯水部30に導入され貯留される。それと同時に、空気を放電器20で分解して生成させたNOxガスを、逆止弁25を介して貯水部30に導入し、酸性水を生成する(ステップS110)。
【0044】
しかる後に、貯水部30の下流に設けられた第2開閉弁V2を開け、排水管80に酸性水を供給する(ステップS120)。このようにして、排水管80に形成蓄積された尿石を溶解除去することができる。
【0045】
また、本具体例においても、給水弁60と第2開閉弁V2の両方を開くことにより、排水管80において酸性水を水道水Wで希釈することができる。このようにすれば、酸性水の濃度を所定の範囲に調整しつつ、貯水部30の容量をコンパクトにでき、便器洗浄水生成装置を小型化できる。
【0046】
図10は、本発明の第3の具体例にかかる便器洗浄水生成装置を用いた洗浄システムの要部構成を例示する模式図である。
本具体例の基本構造は、図9に関して前述した第2具体例と同様であるが、第2開閉弁V2の下流の排水路B2が小便器70のトラップ部74及びリム72に連設されている。そのため、「酸性水洗浄モード」の洗浄を行う場合、貯水部30で生成された酸性水が、尿石の発生頻度の高いトラップ部74及びリム73に集中的に排出され、これらの部分に形成蓄積された尿石を効率的に溶解させ、小便器が衛生に保たれる。
【0047】
また、本具体例においても、給水弁60と第2開閉弁V2の両方を開き、第1の開閉弁60を介して水道水Wを便器70に供給しつつ、貯水部30の酸性水を排水路B2を介して便器70のトラップ部74及びリム部73に供給することもできる。これにより、酸性水の濃度を、便器70で所定の範囲まで希釈でき、貯水部30の容量をコンパクトにできるので、便器洗浄水生成装置を小型化できる。
【0048】
図11は、本発明の第4の具体例にかかる洗浄システムの要部構成を例示する模式図である。
本具体例においては、給水弁60の下流に、逆止弁25を介して放電器20が接続された貯水部30が設けられ、さらにその下流に第2開閉弁V2を介して、小便器70が設けられている。ここで、給水弁60と第1開閉弁V1と放電器20は、制御部10によって同期化制御されている。また、図10に関して前述した第2具体例と同様に、放電器20を介して酸化窒素ガスを貯水部30に送出するためのポンプ(図示せず)を設けることができる。
【0049】
本実施例において、「通常洗浄モード」の場合は、給水弁60と第2開閉弁V2をそれぞれ開くことにより、貯水部30を介して水道水Wが小便器70に供給され洗浄される。この際、放電器20やポンプ(図示せず)は起動しないので、酸化窒素ガスは生成されない。
【0050】
一方、「酸性水洗浄モード」の洗浄を行う場合、給水弁60を開け、第2開閉弁V2を閉じ、貯水部30に水道水Wを貯水する(ステップS100)。それと同時に、空気を放電器20で分解して生成させたNOxガスを、逆止弁25を介して貯水部30に導入し、酸性水を生成する(ステップS110)。
【0051】
しかる後に、第2開閉弁V2を開き、貯水部で生成した酸性水を小便器70に排出させると(ステップS120)、水洗便器70や排出管80などに形成蓄積した尿石を溶解することができる。
【0052】
以上説明したように、これら各具体例においても、放電技術を利用して酸性水を生成し、小便器やその配管に流すことにより、形成蓄積された尿石を溶解除去し、また悪臭の解消や尿石の形成蓄積の予防効果も得られる。また、通常洗浄の水量を減らすことができるため、節水効果も得られる。
次に、水洗便器で尿石が形成蓄積されやすい部分について説明する。
図12及び図13は、小便器70の基本構造を例示する(a)正面図及び(b)A−A線の断面図である。
これらの図面に表したように、排水管80に接続された小便器70は、人体と対向するように開口部を有する陶器製のボウル71を有する。
【0053】
人体と対向するボウル71に排出された尿水は、ボウル71面に沿って下垂しつつ、小便器70底部に設けられたトラップ部74で収集され、その下方に連通した排水管80へ排出される。ここで、開口部の縁面にはボウル方向に向けて折り曲げられたリム部73が洗浄水のガイドと尿水の跳ね返り防止のために設けられている。
【0054】
上述した「通常洗浄モード」の場合、小便器70の内側天井部に給水管50が連通して設けられたスプレッダー72から放出された水道水Wは、ボウル71に沿って下方に流れながら、リム部73にまで拡がり、ボウル71表面に付着した尿水を除去してトラップ部74に排出する。ここで、トラップ部下方に設けられたU字形状の排水管80には、洗浄に使用した水道水Wで希釈された尿水が、「封水」として滞留されており、下水管から発せられる悪臭の逆流を防止している。
【0055】
このような小便器70において、例えば破線Dで囲まれたリム部73の裏側などは、見えづらくまた通常使用する掃除用治具は届きにくいため、尿石が形成蓄積されやすい。また、排尿が収集されるトラップ部74は、尿水が付着する頻度が高いため、尿石が形成されやすい。また、封水が滞留する排水管80も、通常使用する掃除用治具で洗浄することは極めて困難なため、尿石が形成蓄積しやすい。
【0056】
これに対して、本実施形態によれば、これらの見えづらく掃除用治具が届きにくい場所においても、酸性水を供給することで、尿石を溶解し、衛生状態を保つことができる。
【0057】
またこの時、スプレッダー72を介して放出された酸性水は、小便器70のトラップに滞留した排水や排水管80に滞留した封水により適宜希釈され、「生活環境の保全に関する環境基準における排水基準(pH:5.8以上8.6以下)」を満たすように酸性水のpHが増加した後に、排出させることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、小便器だけでなく、大便器についても同様に尿石を溶解除去できる。
図14は、大便器において尿石が形成蓄積されやすい箇所を例示する(a)正面図と(b)上面図と(c)A−A線の断面図である。
大便器90は、地面から上方に向かって開口する開口部を有する陶器製のボウル71を有する。このボウル71の底部には、排泄物を一時的に収容するためのリセス部93が設けられ、このリセス部93底部と排水管80とは、排水溝85により連通されている。排水溝85と排水管80との接合部上方には逆流防止として「空気層」が設けられている。また、開口部の周縁にはボウル方向に折り曲げられたリム部73が尿水の跳ね返り防止に設けられている。
【0059】
排水溝85と排水管80との内角に水面が形成される程度に、洗浄水が「封水」として滞留され、下水管から発せられる悪臭の逆流を抑制している。
【0060】
「通常洗浄モード」の場合、排出された排泄物は、リセス部で一旦収容される。そして、大便器90に浄水用の水道水Wが供給され、排水溝85と排水管80との接合部の空気層が排水管へ流出し、水道水Wで満たされた状態になりサイホン現象が生ずる。水道水Wの流れを受けた排泄物は、水道水Wで充満された排水溝85を介して排水管80へ一気に排出される。その後、再度、大便器に浄水が上述した程度に満たされる。
【0061】
しかし、破線Dで囲まれた、リム部73及び排水溝85は、尿水や汚水が付着しても、見えづらく通常使用する掃除用治具は届きにくいため、尿石が形成蓄積されやすい。また、排泄物が収集されるリセス部93は、排泄物の付着する頻度が高いため、尿石が形成されやすい。また、封水が滞留する排水管80は、通常使用する掃除用治具で洗浄することは極めて困難なため、尿石の形成により狭窄される。
【0062】
これに対して、本実施形態によれば、見えづらく、また掃除用治具が届きにくい場所においても、洗浄水に酸性水を用いることで、尿石を溶解し、尿石の形成を予防できるため、衛生状態を保つことができる。
【0063】
また、このような大便器90の場合も、「酸性水洗浄モード」における排水のpHは、図12及び図13に関して前述したものと基本的に同様である。
【0064】
以上、本発明の実施形態に用いることができる水洗便器の基本構造について説明した。
【0065】
次に、本実施形態により小便器あるいは大便器を洗浄するタイミングについて説明する。
【0066】
すなわち、図1に関して前述した制御部10は酸性水をあるタイミングで小便器あるいは大便器に供給して、尿石を溶解除去することができる。
【0067】
そのタイミングは、例えば、(1)使用回数や、(2)定刻や、(3)使用実績学習モード等により行うことができる。いずれの方法においても、酸性水を流した後、すぐに通常洗浄すると酸性水が希釈されてしまうので、なるべく使用されない時間帯に流すことが望ましい。
【0068】
まず、(1)使用回数に応じて流す場合、「通常洗浄モード」がある回数使用される毎に「酸性水洗浄モード」に切り替わり、酸性水が水洗便器に供給され、その後、「通常洗浄モード」に切り替わり、同様の操作が繰り返される。
【0069】
(2)定刻に応じて流す場合、所定の時刻において、または所定の時間が経過すると自動的に「酸性水洗浄モード」に切り替わり、酸性水が水洗便器に供給され、その後、「通常洗浄モード」に切り替わり、同様の操作が繰り返される。この時間間隔は、例えば数十分あるいは数時間時間単位とすることができる。この場合も、人が水洗便器を使用しない、あるいは使用頻度の少ない、例えば、夜間に「酸性水洗浄モード」を実行することが望ましい。
【0070】
図15は、一日のバクテリアの繁殖挙動を例示する時間に対するバクテリア数の関係を例示する模式図である。
ここで、横軸は時間(時)であり、縦軸はバクテリア数(CFU(Colony Forming Unit)/ml)であるとした。
【0071】
小便器70が利用されやすい昼間の時間帯は、使用頻度が比較的高いため、洗浄回数も高く、バクテリアが繁殖しにくい環境にある。それに対して、夜間は便器を使用する頻度が低下するため、洗浄回数も低下するので、バクテリアが繁殖しやすく、昼間のバクテリア数より夜間の方が高くなる。これが毎日繰り返されることで、悪臭が発生したり、水洗便器及び排水管80に尿石が形成蓄積される。
【0072】
そこで、本実施例によれば、例えば、バクテリアが繁殖しやすい夜間に前述したような酸性水で洗浄すると、夜間におけるバクテリアの数が昼間と同等あるいはそれ以下に抑制しつつ、尿石も除去することができ、昼間の使用開始直後においても不快感なく水洗便器を使用できる。この時、例えば、便器の使用頻度が低下してバクテリアの数が増加を始める時間、例えば20時に酸性水を流すと、翌日に再び便器が使用されて通常洗浄モードが実行されるまでの間、酸性水により尿石を溶解させることができ、効果的である。
また、この場合も、酸性水の生成は、昼間の時間帯に実行させることもできる。すなわち、図2に関して前述したように、貯水部30に酸化窒素ガスを供給しながら「通常洗浄モード」を実行することができる。従って、昼間の時間帯に酸性水の生成プロセスを続け、所定の濃度(pH)の酸性水を生成して、夜間の所定のタイミングで酸性水を便器に供給することができる。
一方、(3)使用実績学習モードを用いる場合、例えば過去数日間の水洗便器の使用頻度データに基づいて酸性水を流すタイミングを統計的に決定することができる。
【0073】
図16は、使用実績学習モードでデータ取りした使用頻度データの変化を例示する模式図である。ここで、1日を24ブロックの時間帯に分割し、カウンタと認識と、が記録される。
【0074】
この使用実績学習モードとして、使用者が小便器70を使用したか否かを人体検知センサ等により検知する。使用者が使用したことを検知しないブロックにはカウンタに「1」を増加し、使用者が使用したブロックにはカウンタに「0」が代入される。すなわち、前日カウンタが1であったブロックに使用者が使用すればカウンタは「0」になり、使用者が使用しなければカウンタは「2」になる。このようにして、3日間カウンタを演算し、3日間にカウンタが「3」であるブロックを「未使用ブロック」と認識する。そして、それ以外のブロックは使用者が小便器70を使用していると推定することができる。このような頻度学習は、常に継続して実施させることもできる。つまり、使用頻度に関して、常に最新の情報を学習させることも可能である。なお、ここでは、1日を24ブロックの時間帯に分割する方法を説明したが、異なる数のブロックに分割してもよく、またこれとは別に、周期的に計時を行うタイマ手段として、時刻に関連づけて統計的に推定してもよい。
【0075】
そして、このようにして得られた使用頻度のデータに基づき、「酸性水洗浄モード」のタイミングを決定する。例えば、「未使用ブロック」の時間帯の開始時に「酸性水洗浄モード」を実行すると、その後直ちに「通常洗浄モード」が実施されて酸性水が希釈されてしまうことを防ぎ、尿石を効率的に溶解除去できる。
【0076】
以上説明したようなタイミングにより水洗便器あるいは排水管に酸性水を流出させると、尿石を有効に溶解除去できる。
以上、本実施形態により小便器あるいは大便器を洗浄させるタイミングについて説明した。
【0077】
次に、本発明者が実施した実験を参照しつつ、本発明の実施形態についてさらに詳細に説明する。
(実験1)
図17は、本実施形態の便器洗浄水生成装置の構成要素をモデル化した実験装置を例示する模式図である。
本実験装置は、エアポンプ109から取り込んだ空気を流量計108を介して放電器20(リアクタ)に給気し、NOxガスを生成させる。このNOxガスを、バブラー106を介して約200ミリリットルの水道水Wを含むビーカー120内に導入してバブリングを行い、酸性水を生成させ、そのpH挙動を測定した。ここで、エアポンプ109の給気量は、毎分2000ミリリットルとした。
【0078】
ここで、水道水Wは、茅ヶ崎市(神奈川県)で採取した市水である。また、放電器20においては、Pecked bed方式の放電リアクタ(誘電体はペレット状のチタン酸バリウム(BaTiO))を用い、その放電経路長は42mmとし、周波数1キロヘルツ、10キロボルトの交流電圧を印加した。
【0079】
図18は、本実験において得られた反応時間に対するpH挙動を例示するグラフ図である。ここで、横軸はバブリング時間(分)であり、縦軸はpHである。
バブリング時間の増加に伴い、水道水のpHが低下する傾向が認められ、例えば、放電開始から約25分後にはpH「4」の酸性水が得られた。つまり、本実験によれば、200ミリリットルの水道水Wを25分程度でpH「4」の酸性水にできることが確認された。
【0080】
(実験2)
次に、尿石の蓄積と、酸性水による尿石の溶解について調べた実験2について説明する。 図19は、希釈された尿水を静的放置した場合の経時的様態を例示する(a)外観写真と(b)領域Cの拡大写真である。
本実験の詳細な条件は以下の通りである。
すなわち、先端が窄まったシリンダ形状の蓋付きビーカー120に、尿水1〜10vol%と水道水99〜90vol%との組成比からなる希釈された尿水を一日あたり5回の頻度で置換しつつ、静止放置する実験を4ヶ月間実施した。その結果、同図に表すように、ビーカー120内部の開口部H付近に尿石125が形成されている状態が確認できた。
【0081】
次に、このビーカーに含まれる尿水をpH4〜5の酸性水に置換し、静止放置を1ヶ月間行った。
図20は、図19に表したビーカー120に酸性水を充填し、静的放置したときの経時的様態を表す(a)外観写真と(b)領域Cの拡大写真である。
【0082】
その結果、同図に表すように、形成蓄積した尿石がほぼ完全に溶解されたことが確認できた。以上のことから、尿石はpH4〜5程度の酸性水により溶解されることが確認された。
【0083】
(実験3)
次に、尿石の溶解速度について調べた実験3について説明する。
図21は、尿石を酸性水に浸水させるための簡易的な装置図である。
すなわち、pHの異なる複数の酸性水124を含むビーカー120を準備した。そして、2棟のビルディング(Aビル及びBビル)に設置されたトイレからそれぞれ回収した尿石122を、これらビーカー120にそれぞれ投入して、6時間、静的に放置した。なお、それぞれのビーカー120に投入した尿石の量は、いずれも1グラムとした。そして、6時間後に酸性水124に含まれるリン酸イオン濃度を測定した。
【0084】
図22は、この実験により得られた酸性水のpHとリン酸イオン濃度との関係を例示するグラフ図である。
尿石122を採取したビルディング(AビルあるいはBビル)によらず、酸性水124のpHの低下(強酸化)に伴い、リン酸イオン濃度は増加する傾向が見受けられた。例えば、Aビルでは、酸性水のpHが7から5に低下する場合、リン酸イオン濃度は23ppmから33ppmへ増加し、pH変化に対するリン酸イオン濃度差は10ppmであることが判明した。なおここで、AビルとBビルの結果から異なるのは、それぞれのビルのトイレの排水構造や使用態様などが異なることにより、形成蓄積された尿石122の特性が異なるからであると考えられる。
【0085】
このグラフ図に基づいて、尿石の経時的な溶解率の算出方法を以下に説明する。
まず、尿石122を分析した結果、無機物の含有率は5パーセントであった。その無機物がリン酸カルシウム(Ca(PO:分子量310)である場合、1グラムの尿石122に含有されるリン酸イオン(分子量190)の含有量は30.7ミリグラムになる。
【0086】
これに対して、図22に表した結果から、酸性水が6ミリリットル中に溶解したリン酸イオンの質量は60マイクログラム(10ppm×6ミリリットル)である。
上述したデータにより、1グラムの尿石をpH5の酸性水に6時間浸水させた溶解率は、約0.2%(60マイクロリットル/30.7ミリグラム)程度であると推定できる。また、逆算すると、尿石を完全に溶解(溶解率100%)するためには、約3000時間(125日)を要することとなる。
【0087】
しかし、実際は、小便器70を洗浄する際に、例えば、洗浄水が尿石に外力として作用して下流に押し流そうとする力が加わる。酸性水の使用により尿石の組織の一部が溶解されると砕けやすくなるため、尿石を完全に除去しなくても、通常洗浄の水流などによって下流に流れ去る確率が高くなる。その結果として、便器や排水管に形成蓄積された尿石を、例えば、1ヶ月あるいはそれ以内の短期間で除去することも可能であると考えられる。
以上、本発明者が実施した実験を参照しつつ、本発明の効果について説明した。
次に、本実施形態の便器洗浄水生成装置を設置するレイアウトの具体例について説明する。
【0088】
図23は、本実施形態に用いることができる便器洗浄水生成装置の設置態様を例示した模式図である。
本具体例においては、小便器70上部と給水管50との接合部に、例えば、立方体状の筐体に収容された便器洗浄水生成装置110が設置されている。
このような場所に設置すると、新たに設置スペースを設けることなく、通常使用していないスペースを有効的に活用できる。
【0089】
図24は、本実施形態の便器洗浄水生成装置の設置態様の第2の具体例を例示した模式図である。
本具体例においては、便器洗浄水生成装置110は、小便器70の上部に内蔵されている。このような構造にすると、美観を損ねることなく、また、外力等の影響を受けることなく設置できる。
【0090】
図25は、本実施形態の便器洗浄水生成装置の設置態様の第3の具体例を例示した模式図である。
本具体例の便器洗浄水生成装置110は、小便器70の背後の壁面に埋入されており、人目につかないように施工されている。パネル112に人体検知センサ114が設けられ、使用者を検知可能とされている。
【0091】
以上、本発明を水洗便器について用いた具体例について説明したが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
例えば、本発明は、大便器90の洗浄水の生成に用いても同様の作用効果が得られる。この場合、フラッシュバルブ式の大便器90についても、ロータンク式の大便器90についても、本発明を適用できる。
その他、便器洗浄水生成装置にかかる開閉弁、貯水部、放電器、制御部、バイパスをはじめとする各要素について当業者が適宜設計変更して採用したものも、本発明の要旨を有する限りにおいて本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態にかかる便器洗浄水生成装置を用いた洗浄システムの要部構成を例示する模式図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる便器洗浄水生成装置の「酸性水洗浄モード」の動作を例示するフローチャートである。
【図3】実施形態に係る洗浄水生成装置の(a)放電器20と(b)放電器20のA−A線の断面図と(c)貯水部と、を例示する模式図である。
【図4】放電リアクタの主面に垂直方向の反応路長における電圧に対するNOxガス生成量の推移を例示するグラフ図である。
【図5】放電リアクタの反応路長に対するNOxガス生成量の推移を例示するグラフ図である。
【図6】図1に上述した本実施形態にかかる洗浄水生成装置の「酸性水洗浄モード」における領域Rの動作を例示する工程断面図である。
【図7】図1に上述した本実施形態にかかる洗浄水生成装置の領域Rの動作を例示する第2の具体例を表す工程断面図である。
【図8】本実施形態に用いることができる他の洗浄モードを例示するフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態にかかる便器洗浄水生成装置を用いた洗浄システムの要部構成を例示する第2の実施例である。
【図10】本発明の実施の形態にかかる便器洗浄水生成装置を用いた洗浄システムの要部構成を例示する第3の実施例である。
【図11】本発明の実施の形態にかかる便器洗浄水生成装置を用いた洗浄システムの要部構成を例示する第4の実施例である。
【図12】本実施形態に用いることができる小便器70の基本構造を例示する(a)正面図及び(b)A−A線の断面図である。
【図13】本実施形態に用いることができる小便器70の他の基本構造を例示する(a)正面図及び(b)A−A線の断面図である。
【図14】大便器90において尿石が形成蓄積されやすい箇所を例示する(a)正面図と(b)上面図と(c)A−A線の断面図である。
【図15】一日のバクテリアの繁殖挙動を例示する時間に対するバクテリア数の関係を例示する模式図である。
【図16】使用実績学習モードでデータ取りした使用頻度データの変化を例示する模式図である。
【図17】本実施形態の便器洗浄水生成装置の構成要素をモデル化した実験装置を例示する模式図である。
【図18】図17に上述した実験装置を用いた実験1を例示する反応時間に対するpH挙動を例示するグラフ図である。
【図19】希釈された尿水を4ヶ月間、静的放置したときの経時的様態を例示する(a)外観写真と(b)領域Cの拡大写真である。
【図20】図19で用いた試料に酸性水を浸水させ、1ヶ月間、静的放置したときの経時的様態を例示する(a)外観写真と(b)領域Cの拡大写真である。
【図21】尿石を酸性水に浸水させるための簡易的な装置図である。
【図22】上述する図21の実験装置を用いた酸性水のpHとリン酸イオン濃度の関係を例示するグラフ図である。
【図23】本実施形態に用いることができる便器洗浄水生成装置の設置場所を例示した具体例である。
【図24】本実施形態に用いることができる洗浄システムの設置場所を例示した第2の具体例である。
【図25】本実施形態に用いることができる洗浄システムの設置場所を例示した第3の具体例である。
【符号の説明】
【0093】
10 制御部
20 放電器
21 陽極
22 陰極
23 誘電体ペレット
30 貯水部
35 ガス逃げ防止部
40 便器自動洗浄システム
50 給水管
60 給水弁
70 小便器
71 ボウル
72 スプレッダー
73 リム部
74 トラップ部
80 排水管
85 排水溝
90 大便器
93 リセス部
100 給水タンク
110 便器洗浄水生成装置
112 パネル
114 人体検知センサ
120 ビーカー
122 尿石
124 酸性水
B1 給水路
B2 排水路
D 尿石が形成蓄積されやすい箇所
P 圧力弁
S 切替弁
V1 第一開閉弁
V2 第二開閉弁
V3 第三開閉弁
W 水道水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の電極の間に電圧を印加することにより放電を生じさせ酸化窒素ガスを生成可能な放電器と、
前記放電器により生成された前記酸化窒素ガスを導入する導入口を有する貯水部と、
前記貯水部に水を導入する給水路と、
前記給水路を開閉し、前記貯水部に水を導入する第1の開閉弁と、
前記貯水部から水を排出する排水路と、
前記排水路を開閉する第2の開閉弁と、
前記放電器、前記第1の開閉弁及び前記第2の開閉弁を制御可能な制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記放電器において生成させた前記酸化窒素ガスを前記導入口を介して前記貯水部に導入させることにより前記貯水部に貯水された水に溶解させ、前記酸化窒素ガスが溶解された水を前記第2の開閉弁を開いて前記排水路に排出させることを特徴とする便器洗浄水生成装置。
【請求項2】
前記導入口は、前記貯水部に貯水された水に前記酸化窒素ガスをバブリングさせるバブラーを有することを特徴とする請求項1記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項3】
前記導入口から導入された前記酸化窒素ガスのうちで前記貯水部に貯水された水に溶解しないガスを再び前記導入口から導入する循環路をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項4】
前記貯水部から前記放電器への水の逆流を防止する逆止弁をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項5】
前記酸化窒素ガスを前記貯水部に送出するポンプをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項6】
前記貯水部の水位を検知可能な水位センサをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項7】
前記導入口から導入された前記酸化窒素ガスのうちで前記貯水部に貯水された水に溶解しない酸化窒素ガスの前記排水路から下流側への排出を抑止するガス逃げ防止手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項8】
前記ガス逃げ防止手段は、前記排水路の途上に封水部を形成するものであることを特徴とする請求項7記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項9】
前記ガス逃げ防止手段は、前記第2の開閉弁を開いて前記酸化窒素ガスが溶解された水を前記貯水部から全て排水する前に前記第2の開閉弁を閉じることを特徴とする請求項7または8に記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項10】
前記放電器は、前記少なくとも一対の電極の間に充填された複数の誘電体ペレットを有し、
前記少なくとも一対の電極の間に前記電圧を印加すると前記誘電体ペレット同士の間で前記放電が生ずることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項11】
前記制御部は、タイマを有し、
前記タイマの計測に基づいて前記第2の開閉弁を開くことにより前記酸化窒素ガスが溶解された水を前記排水路に排出させることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記便器洗浄水生成装置が付設される便器の使用回数を格納するカウンタを有し、
前記カウンタの値に基づいて前記第2の開閉弁を開くことにより前記酸化窒素ガスが溶解された水を前記排水路に排出させることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記便器洗浄水生成装置が付設される便器の使用頻度を学習し、
前記学習した使用頻度に基づいて前記第2の開閉弁を開くことにより前記酸化窒素ガスが溶解された水を前記排水路に排出させることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の便器洗浄水生成装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1つに記載の便器洗浄水生成装置と、
水洗便器と、
を備えたことを特徴とする便器洗浄システム。
【請求項15】
前記水洗便器に洗浄水を供給する給水管と、
前記給水管を開閉する給水弁と、
をさらに備え、
前記給水路は、前記給水弁の上流側において前記給水管に連通してなることを特徴とする請求項14記載の便器洗浄システム。
【請求項16】
前記制御部は、前記給水弁と前記第2の開閉弁とを開いて、前記酸化窒素ガスが溶解され前記排水路から排出される水を、前記給水弁を介して供給される水に希釈させることを特徴とする請求項15記載の便器洗浄水発生装置。
【請求項17】
前記水洗便器は、スプレッダーを有し、
前記排水路は、前記スプレッダーに連通してなることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1つに記載の便器洗浄システム。
【請求項18】
前記排水路は、前記水洗便器の下流に設けられる排水管に連通してなることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1つに記載の便器洗浄システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−77665(P2007−77665A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266746(P2005−266746)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】