説明

光ファイバセンサケーブル、歪検出装置及び歪検出方法

【課題】温度補償用光ファイバをケーブル内に配置することなく正確な歪測定値を得ることができ、長尺製造が可能な光ファイバセンサケーブルの提供。
【解決手段】ケーブル外被に埋設された少なくとも1本以上の歪検出用光ファイバと、ケーブル外被内又は外側に設けられ、内部に温度調節した流体を流すことで前記歪検出用光ファイバを恒温に保持する可撓性の温度調節用流体流路とを有することを特徴とする光ファイバセンサケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高分解能BOTDA(Brillouin Optical Time Domain Analysis)を用いて構造物などの変形に伴うブリルアン散乱光の周波数シフト量からその変形量などを計測するための光ファイバセンサケーブル、該光ファイバセンサケーブルを用いた歪検出装置及び歪検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、BOTDAにより構造物などの被測定対象の歪を検出するために用いられている光ファイバセンサケーブルの一般的な構造を例示する図である。この従来の光ファイバセンサケーブル1は、ケーブル外被3に埋設された歪検出用光ファイバ2と、そのケーブル外被3内に介在4を介してルースに収容された温度補償用光ファイバ5とを備えて構成されている。この従来の光ファイバセンサケーブル1は、ケーブル外被3を通して歪検出用光ファイバ2に印加される歪を高分解能BOTDAを用いて測定することで、例えば構造物等の変形や水圧等を検知することができる。また、ケーブル外被3内に、温度補償用光ファイバ5をルースな状態で収容しているので、この温度補償用光ファイバ5に印加される歪により、前記歪検出用光ファイバ2で検出した歪値の温度補償を行うことができるようになっている。
【0003】
また、従来の光ファイバセンサケーブルの具体的な例示としては、例えば、特許文献1〜5が挙げられる。
特許文献1には、樹脂チューブ、筒状に組み立て可能な樹脂ベルト中に光ファイバを有することで、持ち運び、作業性を向上した長尺物光ファイバセンサが開示されている。
特許文献2には、ケーブルシース上にマーカーを入れることで、捻れ等による余計な歪の印加を防いで直線的に敷設が可能な光ファイバケーブルが開示されている。
特許文献3には、光ファイバセンサの周囲に恒温水(例えば、25℃±1℃)を循環流通させた光ファイバセンサが開示されている。
特許文献4には、光ファイバひずみセンサの周囲に一定温度の空気を循環させ、恒温槽とした光ファイバひずみセンサが開示されている。
特許文献5には、先端部外部環境が恒温(例えば300℃以上)になる光ファイバケーブルの周囲に冷却剤を注入して、ケーブル先端の温度を下げる構造の光ファイバケーブルが開示されている。
【特許文献1】特開2004−101414号公報
【特許文献2】特開2000−75174号公報
【特許文献3】特開平5−19123号公報
【特許文献4】特開2000−356568号公報
【特許文献5】特開2006−301009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバセンサケーブルにおいて、歪検出用光ファイバで検出されるブリルアンシフト量は、光ファイバの伸び(圧縮)によるシフトと温度によるシフトの2つのパラメータの影響を受ける。そして、このパラメータを分解するためには、図1に示すように、ケーブル中に歪検出用光ファイバ2と温度補償用光ファイバ5との2種類の光ファイバを混在させたり、或いは、2種のケーブルを並列に敷設する方法が提案されている。これら光ファイバのうち温度補償用光ファイバ5については、図1に示すのように、ケーブル外被3に印加される応力による歪の影響を受けないよう、ルース構造とする必要があり、このため、温度補償用光ファイバ5の周囲をアラミド繊維などの介在4で覆ったり、ジェリーで満たす構造を採用していた。
【0005】
前記の通り、ケーブルのブリルアンシフト量は、ファイバに印加される歪変化成分と屈折率分布の温度変化成分に分解される。
Δν=ζ(Δε)+η(ΔN(T))
(式中、Δνはブリルアンシフト量、Δεはファイバの歪変化量、ΔN(T)は屈折率分布の温度変化量をそれぞれ表す。)
周囲温度の変化に伴い、ケーブル自体も伸縮(TM,シース剤の線膨張)するため、Δεは、Δε=Δε(L)+Δε(T)と分けられる。
ここでΔε(L):布設スパン変化に伴うケーブル歪変化量(初期歪を与えた状態で布設した場合は、Δε(L)≠0)、Δε(T):環境温度変化により生じるケーブル伸縮歪変化量を表す。
ここでΔε(T)∝Tの関係がある。
∴Δν=ζ(Δε(L)+Δε(T))+η(ΔN(T)) …(1)
ζ(χ)=αχの関係がある(ブリルアン周波数シフトはファイバ歪量に対してリニアにシフトする)ことから、
ζ(Δε(L)+Δε(T))=α・Δε(L)+α・Δε(T)
∴Δν=ζ(Δε(L)+Δε(T))+η(ΔN(T))=α・Δε(L)+α・Δε(T)+η(ΔN(T))となり、センシングの目的として、Δε(L)の変化をみる必要がある。
仮に、無張力でケーブルに温度変化を与えた場合、Δε(L)=0であるから、このときのΔν’は、
Δν’=ζ(Δε(T))+η(ΔN(T)) …(2)
となり、ζ(E(T))=α・Δε(T)であるから、
Δν’=α・Δε(T)+η(ΔN(T))
Δν−Δν’=α・Δε(L)となる。
従って、ΔνからΔν’を除すれば、ε(L)の変化をみることが可能となる。このΔν’に相当するブリルアンシフト量を計測するのが従来の温度補償用光ファイバである。
【0006】
しかしながら、図1に示す構造の従来の光ファイバセンサケーブルにおいて、ケーブル外被内に温度補償用光ファイバを収容する際に、該ファイバをアラミド繊維で覆った場合には、水中などで使用する場合に水走りが生じる問題がある。また、温度補償用光ファイバの周囲にジェリーを充填した構造では、ファイバ口出しの際の取り扱い時のべたつきなどにより作業性が悪化する等の問題がある。また、何らかの応力によりケーブルがつぶれたり、内部の光ファイバの余長が開放されたりしてしまい、温度補償用光ファイバに伸び歪が加わった場合、温度補償機能が失われ、正確な歪測定ができなくなってしまうという問題があった。
さらに、テンションメンバ等を配置しないものについては、ヒートサイクルにより歪検出用光ファイバが樹脂の線膨張により伸縮し、ロス増を起こし、測定自体が不可能になる現象が発生した。
【0007】
また、前述した特許文献1〜5には、次のような問題があった。
特許文献1には、温度補償ファイバの実装や方法に関しての記載はなく、温度補償された正確な歪量を検出することができない。
特許文献2に開示された光ファイバケーブルは、該ケーブルの両末端が固定される場合、ルースユニットを外側にしてケーブルを曲げた際に、ルースユニット中の光ファイバに伸び歪が生じてしまうことで、正確な温度補償ができない可能性がある。
特許文献3の光ファイバセンサでは、光ファイバセンサの周囲に恒温水を循環流通させており、この水流路はケーブルと一体化されておらず、且つ可撓性は無いものなので、長尺化してリールに巻くことは不可能であることから、長尺の光ファイバセンサケーブルを構成することは困難である。
特許文献4の光ファイバひずみセンサでは、センサ周囲の温度を恒温化するためのエアー流路はケーブルと一体化されておらず、且つ可撓性は無いものなので、長尺化してリールに巻くことは不可能であることから、長尺の光ファイバセンサケーブルを構成することは困難である。
特許文献5に開示された光ファイバケーブルは、内部の光ファイバユニットがルースとなるため移動してしまう可能性が高く、歪検知という目的を達成できる構造ではない。また、特許文献5には、光ファイバセンサ部を冷却することが記載されているが、ケーブル内を一定温度に保つ方法は記載されていない。また、特許文献5では、冷却剤として具体的に液体ヘリウム、液体アルゴンなどの低温液化ガス(流体)が記載されているが、気体に関しての記載はない。さらに、特許文献5には、光ファイバを長手方向で連続的に一定温度に保つ方法は記載されていない。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、温度補償用光ファイバをケーブル内に配置することなく正確な歪測定値を得ることができ、長尺製造が可能な光ファイバセンサケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、ケーブル外被に埋設された少なくとも1本以上の歪検出用光ファイバと、ケーブル外被内又は外側に設けられ、内部に温度調節した流体を流すことで前記歪検出用光ファイバを恒温に保持する可撓性の温度調節用流体流路とを有することを特徴とする光ファイバセンサケーブルを提供する。
【0010】
本発明の光ファイバセンサケーブルにおいて、複数本の前記温度調節用流体流路が、前記歪検出用光ファイバを中心に撚り合わされた状態でケーブル外被内に設けられたことが好ましい。
【0011】
本発明の光ファイバセンサケーブルにおいて、複数本の前記温度調節用流体流路が、前記歪検出用光ファイバに縦添えした状態でケーブル外被内に設けられた構成としても良い。
【0012】
本発明の光ファイバセンサケーブルにおいて、複数本の前記歪検出用光ファイバが、ケーブル外被内に設けられた前記温度調節用流体流路を中心に撚り合わされ又は縦添えした状態でケーブル外被内に設けられた構成としても良い。
【0013】
本発明の光ファイバセンサケーブルにおいて、ケーブル外被の外周に前記温度調節用流体流路を撚り合わせ又は縦添えした構成としても良い。
【0014】
本発明の光ファイバセンサケーブルにおいて、前記歪検出用光ファイバの左右に、前記温度調節用流体流路とその外側に抗張力体とを順に並べた状態で、これらをケーブル外被で一括被覆してなり、且つケーブル外被断面形状が非円形である構成としても良い。
【0015】
また本発明は、本発明に係る前記光ファイバセンサケーブルと、その温度調節用流体流路に恒温の流体を供給する恒温流体供給手段と、歪検出用光ファイバに加わる歪値を測定するBOTDAとを有することを特徴とする歪検出装置を提供する。
【0016】
また本発明は、本発明に係る前記歪検出装置を用い、被測定対象に光ファイバセンサケーブルを敷設し、その温度調節用流体流路に恒温の流体を供給して歪検出用光ファイバを所定温度とし、該歪検出用光ファイバに加わる歪をBOTDAを用いて構造物などの変形に伴うブリルアン散乱光の周波数シフト量からその変形量を計測することで、温度補償用光ファイバを用いずに歪値を測定することを特徴とする歪検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光ファイバセンサケーブルは、ケーブル外被に埋設された少なくとも1本以上の歪検出用光ファイバと、ケーブル外被内又は外側に設けられ、内部に温度調節した流体を流すことで歪検出用光ファイバを恒温に保持する可撓性の温度調節用流体流路とを有する構成としたので、温度調節用流体流路に一定温度の流体を送ることで歪検出用光ファイバの温度を一定に保ち、温度補償用光ファイバをケーブル中に配置することなく正確な歪測定値を得ることが可能となる。
これにより、温度補償用光ファイバの配置が必要なくなり、計測に必要な光ファイバが1本で済むので、センサケーブルを安価にできる。
また、温度調節用流体流路に気体や液体を常時循環させることで、水中での使用が可能となる。
また、温度調節用流体流路と歪検出用光ファイバとを一体化したので、長尺センサケーブルの製造、ボビン巻きが可能となる。
また、歪検出用光ファイバに与えられる温度変化による樹脂の線膨張が緩和され、歪検出用光ファイバ自体の温度特性を良好にすることができ、温度変化の大きい地域でも良好な伝送特性を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図2は、本発明の光ファイバセンサケーブルの第1実施形態を示し(a)は一部透視した斜視図、(b)は断面図である。図2中、符号10は光ファイバセンサケーブル、11は歪検出用光ファイバ、12は温度調節用流体流路である可撓性の中空パイプ、13はケーブル外被である。
【0019】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル10は、ケーブル外被13に埋設された歪検出用光ファイバ11と、ケーブル外被内に設けられ、内部に温度調節した流体を流すことで歪検出用光ファイバ11を恒温に保持する温度調節用流体流路としての中空パイプ12とからなっている。本実施形態では、ケーブル外被13の断面のほぼ中心に歪検出用光ファイバ11が配置され、これに2本の中空ケーブル12が撚り合わされた構造になっている。この撚り合わせ方法は特に限定されず、横巻き、SZ巻きなどとすることができる。
【0020】
歪検出用光ファイバ11は、その材質、コア径、クラッド径、被覆の構造などに関して、特に限定されず、従来より周知の各種光ファイバの中から適宜選択して使用することができ、特に、強度や安定性に優れ、且つ良好な伝送特性が得られることから、石英ガラス系光ファイバに1層以上の被覆を施した光ファイバ素線や光ファイバ心線などを用いることが好ましい。
【0021】
中空パイプ12としては、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、これらの材料を組み込んだエラストマー材料等のプラスチック、ゴム、金属などの材料からなる中空パイプを用いることができる。
【0022】
ケーブル外被13としては、この光ファイバセンサケーブル10を建設物等のモルタル・コンクリート中に埋設可能なように、耐アルカリ性を有することが望まれる。また、土砂やそれに含まれる水分の浸透を防ぐために、耐水特性についても有することが望まれる。このようなケーブル外被13としては、ポリエチレン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS系樹脂、また、これらの材料を組み込んだエラストマー材料が望ましい。
【0023】
この中空パイプ12内に流す流体としては、水などの液体や空気などの気体が挙げられ、その中でも水が特に好ましい。
【0024】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル10は、とう道、ダム、堤防、橋梁、建物のようなモルタル、コンクリート構造物等の各種構造物、地中、岩盤内などの被測定対象に敷設し、中空パイプ12に一定温度とした水などの流体を送ることで歪検出用光ファイバ11の温度を一定に保ち、BOTDAを用いて歪検出用光ファイバ11のブリルアン散乱光を測定し、被測定対象の変形に伴うブリルアン散乱光の周波数シフト量から、その変形量を正確に計測することができる。
【0025】
本実施形態の光ファイバセンサケーブル10は、ケーブル外被13に歪検出用光ファイバ11とこれを恒温に保つための温度調節用流体流路である中空パイプ12とを埋設した構造としたので、中空パイプ12に一定温度の流体を送ることで歪検出用光ファイバ11の温度を一定に保ち、温度補償用光ファイバをケーブル中に配置することなく正確な歪測定値を得ることが可能となる。これにより、温度補償用光ファイバの配置が必要なくなり、計測に必要な光ファイバが1本で済むので、センサケーブルを安価にできる。
また、中空パイプ12に気体や液体を常時循環させることで、水中での使用が可能となる。
また、中空パイプ12と歪検出用光ファイバ11とを一体化したので、長尺センサケーブルの製造、ボビン巻きが可能となる。
また、歪検出用光ファイバ11に与えられる温度変化による樹脂の線膨張が緩和され、歪検出用光ファイバ11自体の温度特性を良好にすることができ、温度変化の大きい地域でも良好な伝送特性を保持することができる。
【0026】
図3は、本発明の光ファイバセンサケーブルの第2実施形態を示す一部透視した斜視図である。本実施形態の光ファイバセンサケーブル14は、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10とほぼ同様の構成要素を備え、同じ構成要素には同一符号を付してある。本実施形態の光ファイバセンサケーブル14は、2本の中空パイプ12を歪検出用光ファイバ11の両側に縦添えに配置した点で異なっている。
本実施形態の光ファイバセンサケーブル14は、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10と同様の効果を得ることができる。
【0027】
図4は、本発明の光ファイバセンサケーブルの第3実施形態を示す断面図である。本実施形態の光ファイバセンサケーブル15は、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10とほぼ同様の構成要素を備え、同じ構成要素には同一符号を付してある。本実施形態の光ファイバセンサケーブル15は、歪検出用光ファイバ11の周囲に6本の中空パイプ12を撚り合わせ、又は縦添えに配置している点で異なっている。
本実施形態の光ファイバセンサケーブル15は、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10と同様の効果を得ることができる。
【0028】
図5は、本発明の光ファイバセンサケーブルの第4実施形態を示す断面図である。本実施形態の光ファイバセンサケーブル16A〜16Cは、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10とほぼ同様の構成要素を備え、同じ構成要素には同一符号を付してある。本実施形態では、中空パイプ12の断面形状を変更した場合を例示している。この中空パイプ12の断面形状は、図5(a)に示すように円形にのみ限定されるものではなく、図5(b)に示すように断面四角形でも良いし、図5(c)に示すように断面三角形としても良い。
本実施形態の光ファイバセンサケーブル16A〜16Cは、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10と同様の効果を得ることができる。
【0029】
図6は、本発明の光ファイバセンサケーブルの第5実施形態を示す断面図である。本実施形態の光ファイバセンサケーブル17は、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10とほぼ同様の構成要素を備え、同じ構成要素には同一符号を付してある。本実施形態の光ファイバセンサケーブル17は、歪検出用光ファイバ11を複数本(図示した例示では2本)用い、中空パイプ12の外周に複数本の光ファイバ11を撚り合わせ、又は縦添えに配置している点で異なっている。
本実施形態の光ファイバセンサケーブル17は、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10と同様の効果を得ることができる。
【0030】
図7は、本発明の光ファイバセンサケーブルの第6実施形態を示す断面図である。本実施形態の光ファイバセンサケーブル18は、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10とほぼ同様の構成要素を備え、同じ構成要素には同一符号を付してある。本実施形態の光ファイバセンサケーブル18は、歪検出用光ファイバ11を埋設したケーブル外被13の外周に、中空パイプ12を撚り合わせ、又は縦添えに配置している点で異なっている。
本実施形態の光ファイバセンサケーブル18は、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10と同様の効果を得ることができる。
【0031】
図8は、本発明の光ファイバセンサケーブルの第7実施形態を示す断面図である。本実施形態の光ファイバセンサケーブル19A,19Bは、歪検出用光ファイバ11の左右に、中空パイプ12とその外側に抗張力体20とを順に並べた状態で、これらをケーブル外被13で一括被覆してなり、且つケーブル外被13の断面形状を矩形状としている。また、図8(a)の光ファイバセンサケーブル19Aは、ケーブル外被13に切目のないタイプであり、図8(b)の光ファイバセンサケーブル19Bは、ケーブル外被13に切目21を形成したタイプである。
本実施形態の光ファイバセンサケーブル19A,19Bは、前記第1実施形態の光ファイバセンサケーブル10と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0032】
[実施例]
φ0.9mm光ファイバ心線上に、内径φ2mm、外径φ2.5mmの中空パイプ(材料:ポリアミド樹脂)を2本、ピッチ200mmで横巻きし、その上に樹脂(ポリエチレン)を被覆して、φ6.3mmの図2に示す構造の光ファイバセンサケーブル(以下、実施例と言う)を作製した。
【0033】
[比較例]
φ0.9mm光ファイバ心線を埋設し、φ6.3mmのポリエチレン製の中空体(ケーブル外被)を作製し、この中空内に介在とともに温度補償用光ファイバコードを挿入し、図1に示す構造の光ファイバセンサケーブル(以下、比較例と言う)を作製した。
【0034】
[性能比較試験]
前記実施例及び比較例のケーブルについて、図9のような装置で、初期歪を与えた場合と与えない場合で、恒温槽内で温度を変化させた際のBOTDA25を用いた歪測定を実施し、比較例での温度補償用光ファイバケーブル、および歪ゲージを用いた測定結果と比較を行った。なお、実施例は測定時にケーブル11端末の中空パイプ12をループさせて接続部23とし、温度調節装置26によって20℃に保持した冷却液を循環させた。歪検出用光ファイバ11は、両端に接続用の光ファイバ24を融着接続してBOTDA25と接続した。また、ケーブル11内の歪検出用光ファイバ11は、製造時に初期歪を受けているため、無荷重状態、20℃における歪値を初期歪とし、その後、一定歪を印加した際の歪変化量を測定した。結果を表1にまとめて記す。
【0035】
【表1】

【0036】
測定の結果、実施例で温度調整有りの場合、歪ゲージ、比較例の温度補償ファイバ入りセンサーケーブルと同様に測定可能であることが確認された。ただし、実施例において温度調整がない場合(循環水を抜いた状態)には、温度による歪の影響、すなわちケーブルの線膨張による伸び(圧縮)の影響を受けて、伸び(圧縮)のみの歪検出は不可能であった。
【0037】
また、実施例のケーブル条長500mに−30/+70℃×20サイクルのヒートサイクルを印加した際の伝送損失(波長1.55μm)を計測した。その結果を図10に示す。図10から、実施例のセンサケーブルは損失変動が0.014dB/kmと低く、良好な伝送特性を有することが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来の光ファイバセンサケーブルの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の光ファイバセンサケーブルの第1実施形態を示し(a)は一部透視した斜視図、(b)は断面図である。
【図3】本発明の光ファイバセンサケーブルの第2実施形態を示す一部透視した斜視図である。
【図4】本発明の光ファイバセンサケーブルの第3実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の光ファイバセンサケーブルの第4実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明の光ファイバセンサケーブルの第5実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明の光ファイバセンサケーブルの第6実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明の光ファイバセンサケーブルの第7実施形態を示す断面図である。
【図9】実施例で用いた歪検出装置の構成図である。
【図10】実施例の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
10、14,15,16A〜16C、17,18,19A,19B…光ファイバセンサケーブル、11…歪検出用光ファイバ、12…中空パイプ(温度調節用流体流路)、13…ケーブル外被、20…抗張力体、21…切目、22…恒温槽、23…接続部、24…光ファイバ、25…BOTDA、26…温度調節装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル外被に埋設された少なくとも1本以上の歪検出用光ファイバと、ケーブル外被内又は外側に設けられ、内部に温度調節した流体を流すことで前記歪検出用光ファイバを恒温に保持する可撓性の温度調節用流体流路とを有することを特徴とする光ファイバセンサケーブル。
【請求項2】
複数本の前記温度調節用流体流路が、前記歪検出用光ファイバを中心に撚り合わされた状態でケーブル外被内に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバセンサケーブル。
【請求項3】
複数本の前記温度調節用流体流路が、前記歪検出用光ファイバに縦添えした状態でケーブル外被内に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバセンサケーブル。
【請求項4】
複数本の前記歪検出用光ファイバが、ケーブル外被内に設けられた前記温度調節用流体流路を中心に撚り合わされ又は縦添えした状態でケーブル外被内に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバセンサケーブル。
【請求項5】
ケーブル外被の外周に前記温度調節用流体流路を撚り合わせ又は縦添えしたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバセンサケーブル。
【請求項6】
前記歪検出用光ファイバの左右に、前記温度調節用流体流路とその外側に抗張力体とを順に並べた状態で、これらをケーブル外被で一括被覆してなり、且つケーブル外被断面形状が非円形をなしていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバセンサケーブル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光ファイバセンサケーブルと、その温度調節用流体流路に恒温の流体を供給する恒温流体供給手段と、歪検出用光ファイバに加わる歪値を測定するBOTDAとを有することを特徴とする歪検出装置。
【請求項8】
請求項7に記載の歪検出装置を用い、被測定対象に光ファイバセンサケーブルを敷設し、その温度調節用流体流路に恒温の流体を供給して歪検出用光ファイバを所定温度とし、該歪検出用光ファイバに加わる歪をBOTDAを用いて構造物などの変形に伴うブリルアン散乱光の周波数シフト量からその変形量を計測することで、温度補償用光ファイバを用いずに歪値を測定することを特徴とする歪検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−20017(P2009−20017A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183461(P2007−183461)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】