光増幅装置およびレーザ加工装置
【課題】光増幅ファイバを用いた光増幅装置の出力光パルスごとのピーク値を検出するための技術を提供する。
【解決手段】波高値検出器16は、光増幅ファイバから出力された出力光パルス群のパワーを検出する。受光素子15は、複数のパルスを含む光パルス群を受光して、その光パルス群を電流信号に変換する。電流/電圧変換回路31は、受光素子15から出力される電流を電圧に変換する。積分回路32は、電流/電圧変換回路31の出力電圧を積分する。PGA(Programmable Gain Amplifier)33は、積分回路32から出力された信号を増幅してAD変換回路34に与える。PGA33のゲインは信号処理回路40からのゲイン設定信号によって設定される。信号処理回路40は、パルス群の繰り返し周波数が高いほどゲインが高くなるようにPGA33のゲインを調整する。
【解決手段】波高値検出器16は、光増幅ファイバから出力された出力光パルス群のパワーを検出する。受光素子15は、複数のパルスを含む光パルス群を受光して、その光パルス群を電流信号に変換する。電流/電圧変換回路31は、受光素子15から出力される電流を電圧に変換する。積分回路32は、電流/電圧変換回路31の出力電圧を積分する。PGA(Programmable Gain Amplifier)33は、積分回路32から出力された信号を増幅してAD変換回路34に与える。PGA33のゲインは信号処理回路40からのゲイン設定信号によって設定される。信号処理回路40は、パルス群の繰り返し周波数が高いほどゲインが高くなるようにPGA33のゲインを調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増幅装置およびレーザ加工装置に関し、特に、MOPA(Master Oscillator and Power Amplifier)方式のファイバ増幅器から光パルスを安定的に発生させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工装置においては、レーザ光のパワーが加工品質に影響を与える。このため、レーザ加工装置から発せられるレーザ光のパワーを制御するための技術がこれまでに提案されている。
【0003】
たとえば特開2010−10274号公報(特許文献1)は、ファイバレーザ発振器から出力されるレーザパルスの平均パワーおよびピークパワーを測定して、その測定結果をLD(レーザダイオード)駆動回路にフィードバックする構成を開示する。
【0004】
また、たとえば特開2010−171131号公報(特許文献2)には、ファイバレーザに入射される種光を発するレーザ光源が、主照射期間にはパルス光を発し、予備照射期間には実質的な連続光を発することが開示されている。連続光のパワーは、パルス光のピークパワーよりも小さい。さらに、特開2010−171131号公報(特許文献2)には、予備照射期間における励起光のパワーを主照射期間における励起光のパワーよりも低下させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−10274号公報
【特許文献2】特開2010−171131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2010−10274号公報(特許文献1)に開示された方法では、レーザ光パルスの平均パワーおよびピークパワーが測定される。この方法では、複数のパルスの強度の均一性をモニタできないため、複数のパルスの強度を均一に制御することが難しいと考えられる。一方、特開2010−171131号公報(特許文献2)は、パルスのパワーを検出する構成を具体的に開示していない。
【0007】
ファイバ増幅器はレーザダイオード(LD)によって励起されることが多い。しかしながらファイバ増幅器のレーザ出力を変化させる場合、励起LDの出力が変化してからレーザ出力が変化するまでの時間(応答時間)が、1ms程度あるいはそれ以上かかることがある。したがってパルスの繰り返し周波数が高くなるほど、パルスごとにその強度を測定して、測定結果をパルス強度の制御にフィードバックすることが難しくなる。このような理由によって、ファイバ増幅器では、一般に、レーザ出力の平均パワーの測定値がレーザ出力の制御にフィードバックされる。
【0008】
一方、ファイバ増幅器に入力されるシード光の光源には、LDが用いられることが多い。したがってシード光パルスの条件をさまざまに変えることができる。たとえば、繰り返し周波数を広範囲で変化させる、あるいは、ns程度のパルス幅を有する複数のパルスからなるパルス群を生成することができる。
【0009】
このようにシード光を変化させると、ピーク値の変動範囲が極めて広くなる。したがって、ファイバ増幅器の場合には、パルスごとにピーク値を検出することがより一層難しい。一方で、レーザ出力を安定させるためには、複数のパルスの強度を均一に制御することが要求される。
【0010】
本発明の目的は、光増幅ファイバを用いた光増幅装置の出力光パルスごとのピーク値を検出するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある局面に係る光増幅装置は、シード光を励起光によって増幅する光増幅ファイバと、シード光を、複数のパルスからなるパルス群として、発光期間に複数回発生させるシード光源と、発光期間の直前の非発光期間に第1のレベルのパワーを有する励起光を発生させ、発光期間に第1のレベルより高い第2のレベルのパワーを有する励起光を発生させる励起光源と、光増幅ファイバから出力された出力光パルス群のパワーを検出するための検出器と、検出器の検出値に基づき非発光期間における励起光のパワーを制御して、発光期間の間に発生する出力光パルス群のパワーを制御する制御部とを備える。検出器は、出力光パルス群を受ける受光素子と、受光素子の出力信号を積分する積分回路と、積分回路の出力信号に基づいて、検出値を生成するAD変換回路とを含む。
【0012】
好ましくは、検出器は、積分回路の出力信号を増幅してAD変換回路に与える可変利得増幅器をさらに含む。制御部は、発光期間に発生させるべきパルス群の繰り返し周波数に応じて、可変利得増幅器の利得を変化させる。
【0013】
好ましくは、制御部は、繰り返し周波数が高いほど利得を高くする。
好ましくは、制御部は、AD変換回路が可変利得増幅器の出力信号のピークをアナログデジタル変換するように、AD変換回路がアナログデジタル変換を実行するタイミングを制御する。当該タイミングは、パルス群に含まれる複数のパルスのうちの最初のパルスが発生してからの遅延時間によって決定される。
【0014】
好ましくは、制御部は、繰り返し周波数、およびパルス群に含まれる複数のパルスの個数に応じて遅延時間を変化させる。
【0015】
本発明の他の局面に係るレーザ加工装置は、上記のいずれかに記載の光増幅装置を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光増幅ファイバを用いた光増幅装置の出力光パルスごとのピーク値を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成例を示した図である。
【図2】実施の形態1に係るレーザ加工装置によるレーザ発光のタイミング図である。
【図3】図2に示したレーザ発光のタイミングをより詳細に説明した図である。
【図4】予備励起期間における励起光パワーに依存して初回パルスのパワーが変化することを説明した波形図である。
【図5】実施の形態1に従うパルスのパワーの安定化の原理を説明した波形図である。
【図6】パルスのピークパワーを検出するための具体的な構成例を示したブロック図である。
【図7】遅延時間の保存形式を模式的に示した図である。
【図8】パルス群の繰り返し周波数に対するパルス群の平均パワーおよびパルス群のピークパワーの関係を示した図である。
【図9】AD回路によるAD変換のタイミングを説明するための図である。
【図10】図9に示した波形の具体例を示した図である。
【図11】AD変換回路34に入力される信号の振幅と、PGA33のゲインとの関係を示した図である。
【図12】PGA33のゲイン設定の他の例を示した図である。
【図13】実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
本明細書では「パルス群」との用語は、ある時間間隔で時間軸上に並べられた複数の光パルスを意味する。ただし、パルス群に含まれる光パルスを明示的に指す場合を除き、本明細書では、パルス群を「パルス」と称する。また、本明細書では、「LD」との用語は、半導体レーザを表す。
【0020】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成例を示した図である。図1を参照して、レーザ加工装置100は、光増幅装置と、その光増幅装置からのレーザ光を走査するためのレーザビーム走査機構14とを含む。光増幅装置は、光増幅ファイバ1と、シードLD2と、励起LD3と、アイソレータ4,6と、コンバイナ5と、エンドキャップ12と、ドライバ21,22と、受光素子15と、波高値検出器16と、制御装置20と、入力部25とを備える。
【0021】
光増幅ファイバ1は、光増幅成分である希土類元素が添加されたコア、およびそのコアの周囲に設けられるクラッドを有する。コアに添加される希土類元素の種類は特に限定されず、たとえばEr(エルビウム)、Yb(イッテルビウム)、Nd(ネオジム)などがある。以下では希土類元素はYbであるとして説明する。光増幅ファイバ1は、たとえばコアの周囲に1層のクラッドが設けられたシングルクラッドファイバでもよいし、コアの周囲に2層のクラッドが設けられたダブルクラッドファイバでもよい。
【0022】
シードLD2はシード光を発するレーザ光源である。シード光の波長は、たとえば1000〜1100nmの範囲から選択された波長である。ドライバ21はシードLD2にパルス状の電流を繰り返して印加することにより、シードLD2をパルス駆動する。すなわちシードLD2からはパルス状のシード光が発せられる。
【0023】
シードLD2から出射されるシード光はアイソレータ4を通過する。アイソレータ4は一方向の光のみを透過し、その光と逆方向に入射する光を遮断する機能を実現する。本発明の実施の形態では、アイソレータ4はシードLD2からのシード光を透過させるとともに光増幅ファイバ1からの戻り光を遮断する。これによって光増幅ファイバ1からの戻り光がシードLD2に入射するのを防ぐことができる。シードLD2に光増幅ファイバ1からの戻り光が入射した場合にはシードLD2が損傷するおそれがあるが、アイソレータ4を設けることでこのような問題を防ぐことができる。
【0024】
励起LD3は、光増幅ファイバ1のコアに添加された希土類元素の原子を励起するための励起光を発する励起光源である。希土類元素がYbの場合、励起光の波長はたとえば915±10nmとなる。ドライバ22は、励起LD3を駆動する。
【0025】
コンバイナ5はシードLD2からのシード光と励起LD3からの励起光とを結合して光増幅ファイバ1に入射させる。
【0026】
光増幅ファイバ1、シードLD2、および励起LD3はMOPA(Master Oscillator and Power Amplifier)方式のファイバ増幅器を構成する。光増幅ファイバ1に入射した励起光はコアに含まれる希土類元素の原子に吸収され、原子が励起される。シードLD2からのシード光が光増幅ファイバ1のコアを伝搬すると、励起された原子がシード光により誘導放出を起こすためシード光が増幅される。すなわち光増幅ファイバ1は、シード光を励起光によって増幅する。
【0027】
光増幅ファイバ1がシングルクラッドファイバである場合、シード光および励起光はともにコアに入射する。これに対し、光増幅ファイバ1がダブルクラッドファイバである場合、シード光はコアに入射し、励起光は第1クラッドに入射する。ダブルクラッドファイバの第1クラッドは励起光の導波路として機能する。第1クラッドに入射した励起光が第1クラッドを伝搬する過程で、コアを通過するモードによりコア中の希土類元素が励起される。
【0028】
アイソレータ6は、光増幅ファイバ1によって増幅され、かつ光増幅ファイバ1から出射されたシード光(光パルス)を通過させるとともに光増幅ファイバ1に戻る光を遮断する。アイソレータ6を通過した光パルスは、光ファイバの端面から大気中に出射される。エンドキャップ12は、ピークパワーの高い光パルスが光ファイバから大気中に出射される際に光ファイバの端面と大気との境界面で生じるダメージを防止するために設けられる。
【0029】
ビームスプリッタ13は、エンドキャップ12から出力された光パルスを2つのパルスに分割する。一方のパルスは、加工用のレーザ光としてレーザビーム走査機構14に入力され、他方のパルスはレーザ光のパワーをモニタするために受光素子15に入力される。
【0030】
受光素子15は、たとえばフォトダイオードによって構成される。波高値検出器16は、受光素子15からの信号により、光パルスのピークパワー(波高値)を検出する。波高値検出器16によって検出された波高値は、制御装置20に送られる。
【0031】
レーザビーム走査機構14は、レーザ光を二次元方向に走査するためのものである。図示しないが、レーザビーム走査機構14は、たとえばエンドキャップ12からの出射光であるレーザビームの径を所定の大きさに調整するためのコリメータレンズ、および、コリメータレンズを通過後のレーザビームを加工対象物50の表面上で二次元方向に走査するためのガルバノスキャナ、レーザビームを集光するためのfθレンズ等を含んでもよい。加工対象物50の表面上でレーザ光L、すなわちレーザ加工装置100からの出力光が二次元方向に走査されることにより、金属等を素材とする加工対象物50の表面が加工される。たとえば加工対象物50の表面に文字や図形等からなる情報が印字(マーキング)される。
【0032】
制御装置20は、ドライバ21,22およびレーザビーム走査機構14を制御することによりレーザ加工装置100の動作を統括的に制御する。入力部25は、たとえばユーザからの情報を受付ける。制御装置20は、入力部25からの情報に基づいて、ドライバ21,22を制御するとともに、レーザビーム走査機構14の動作を制御する。
【0033】
制御装置20は、たとえば所定のプログラムを実行するパーソナルコンピュータにより実現される。入力部25はユーザが情報を入力することができる装置であれば特に限定されず、たとえばマウス、キーボード、タッチパネル等を用いることができる。
【0034】
シードLD、励起LD、アイソレータ等の特性は温度により変化し得る。したがって、これらの素子の温度を一定に保つための温度コントローラをレーザ加工装置に備えることがより好ましい。
【0035】
レーザ加工装置100からレーザ光を出力させる場合において、シードLD2はドライバ21によって駆動されることにより、パルス状のシード光を発生させる。シード光をシードLD2から繰り返し発生させる場合、シード光の繰返し周波数は、ドライバ21からシードLD2に供給されるパルス電流の繰り返し周波数に依存する。ドライバ21から出力されるパルス電流の繰り返し周波数は制御装置20によって制御される。
【0036】
制御装置20はドライバ22を制御することによって励起LD3が発する励起光のパワーを変化させる。励起LD3は、ドライバ22から供給されるバイアス電流に応じたパワーを有する励起光を出力する。ドライバ22から出力されるバイアス電流の大きさは制御装置20によって制御される。
【0037】
図2は、実施の形態1に係るレーザ加工装置によるレーザ発光のタイミング図である。図2を参照して、予備励起期間には、ドライバ22がバイアス電流(図2において励起LD電流と示す)を励起LD3に供給して励起光を発生させるが、シードLD2は、光パルス(図2ではシードLDパルスと示す)を発生させない。一方、本励起期間には、励起光およびシードLDパルスの両方が発生する。したがって本励起期間には、ファイバ増幅器からレーザ光が出力される。
【0038】
予備励起期間における励起LD電流は本励起期間における励起LD電流よりも小さい。すなわち励起LD3は、予備励起期間において第1のレベルのパワーの励起光を発生させ、本励起期間において、第2のレベルのパワーの励起光を発生させる。第2のレベルは第1のレベルよりも高い。
【0039】
図3は、図2に示したレーザ発光のタイミングをより詳細に説明した図である。図3を参照して、シードLD2は、本励起期間に、複数のシード光パルス1aからなるパルス群1Gを周期tprdで繰り返し発生させる。シードLD2のバイアス電流を変調させることによって、パルス群1Gが所定の周期で発生する。本励起期間は、ファイバ増幅器からレーザ光が出力される発光期間に対応する。一方、予備励起期間には、シードLD2にバイアス電流が供給されないため、非発光期間となる。
【0040】
本励起期間の間にファイバ増幅器から出力される複数のパルス群のうち、最初に出力されるパルス群および最後に出力されるパルス群を、以下では「初回パルス」および「最終パルス」とそれぞれ称する。
【0041】
図4は、予備励起期間における励起光パワーに依存して初回パルスのパワーが変化することを説明した波形図である。図4(a)は、予備励起期間における励起光パワーを小さくした場合にファイバ増幅器から出力されたパルスを示した波形図である。図4(b)は、予備励起期間における励起光パワーを大きくした場合にファイバ増幅器から出力されたパルスを示した波形図である。図4(a)および図4(b)を参照して、予備励起期間における励起LD電流が小さい場合には、励起光パワーが小さいため、予備励起期間の間に光増幅ファイバ1に蓄積されるエネルギーが少ない。このため、初回パルスのパワーが小さい。光増幅ファイバ1への励起光パワーの供給と光増幅ファイバ1からの光エネルギーの放出とが繰り返されるうちに、光増幅ファイバ1に蓄積されるエネルギーが増加してほぼ一定のレベルに達する。これにより、パルスのパワーが安定化する。
【0042】
逆に、予備励起期間における励起LD電流が大きい場合には、予備励起期間の間に光ファイバ内に蓄積されたエネルギーが大きくなる。このため、初回パルスのパワーが大きくなる。この場合、光増幅ファイバ1への励起光パワーの供給と光増幅ファイバ1からの光エネルギーの放出とが繰り返されるうちに、光増幅ファイバ1に蓄積されるエネルギーが減少してほぼ一定のレベルに達する。これにより、パルスのパワーが安定化する。
【0043】
図4に示されるように、予備励起期間における励起光のパワー(励起LD電流)が適切でない場合には、初回パルスのパワーと一定時間経過後のパルスのパワーとの間に差が生じる。このようなパワーの差によって加工品質の低下といった問題が発生する。
【0044】
図5は、実施の形態1に従うパルスのパワーの安定化の原理を説明した波形図である。図5を参照して、実施の形態1では、初回パルスのピークパワーと最終パルスのピークパワーとが比較される。それらの比較結果が、予備励起期間の間の励起LDのバイアス電流値にフィードバックされて、初回パルスのパワーと最終パルスのパワーとの差分を0に近づける。これによって、初回パルスから、安定したレーザ出力を得ることができる。図1に示されるように、パルスのピークパワーは受光素子15および波高値検出器16によって検出される。
【0045】
図6は、パルスのピークパワーを検出するための具体的な構成例を示したブロック図である。図6を参照して、波高値検出器16は、電流/電圧変換回路31と、積分回路32と、PGA(Programmable Gain Amplifier)33と、AD変換回路34とを含む。また、制御装置20は、信号処理回路40と、メモリ41とを含む。
【0046】
受光素子15は、光パルスを受光して、その光パルスを電流信号に変換する。電流/電圧変換回路31は、受光素子15から出力される電流を電圧に変換する。積分回路32は、電流/電圧変換回路31の出力電圧を積分する。
【0047】
図3に示すように、この実施の形態では、複数の短パルス(たとえば時間幅がnsのオーダー)からなるパルス群を発生させる。積分回路32は、所定の時定数で複数の短パルスの波形を積分する。これによってパルス群に含まれる短パルスの個数に依存した振幅の変化を低減することができ、1つのパルス群におけるピークパワー(振幅)を得ることができる。
【0048】
パルス群のピーク値は、そのパルス群に含まれるパルスの数に応じて変化する。このため、ピーク値の変動範囲が極めて広くなる。一例を示すと、繰り返し周波数の範囲が2桁(1倍〜100倍)であり、パルス群に含まれるパルスの数が1〜20まで可変であるとする。この場合、パルス群のピーク値は1000倍近く変動する。したがって、パルスごとのピーク値を検出することが難しい。
【0049】
同一の励起パワーの場合には、パルス群のエネルギーの積分値は、パルス数によらずほぼ同じである。実施の形態1では、このことを利用して、パルス群に含まれるパルスを積分回路32により平均化する。これにより、積分回路32から出力される電気信号の振幅を、パルス群に含まれるパルスの数によらずほぼ同一にすることができる。パルス群に含まれる短パルスの個数に依存した振幅の変化を積分回路32によって低減することができるので、1つのパルス群におけるピークパワー(振幅)を得ることができる。
【0050】
PGA33は、積分回路32から出力された信号を増幅する。PGA33は可変利得増幅器であり、そのゲインは信号処理回路40からのゲイン設定信号によって設定される。繰り返し周波数が高くなるほど1つのパルス群におけるピークパワー(振幅)が低下するので、信号処理回路40は、繰り返し周波数が高いほどゲインが高くなるようにPGA33のゲインを調整する。なお、AD変換回路34に入力される信号の振幅がAD変換回路34のダイナミックレンジ内となるように、PGA33のゲインが設定される。
【0051】
AD変換回路34は、たとえば高速AD変換回路によって実現され、PGA33から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。AD変換回路34によるAD変換のタイミングは、信号処理回路40からの制御信号によって制御される。具体的には、シード光の発光の開始(パルス群に含まれる複数のパルスのうちの最初のパルスの発生)から所定の遅延時間が経過した後に、PGA33からの信号がAD変換される。パルス群のパワーのピークにおいてAD変換回路34がAD変換を行なうように遅延時間が決定される。これにより、パルス群のピークパワーすなわち波高値が検出値として取得される。AD変換回路34により取得された波高値(デジタル信号)は、AD変換回路34から信号処理回路40に送られる。
【0052】
信号処理回路40は、初回パルスと最終パルスとで波高値を比較する。初回パルスの波高値が最終パルスの波高値よりも高い場合、信号処理回路40は、予備励起期間における励起LDのバイアス電流値を低下させるための信号を生成し、予備励起期間に、その信号をドライバ22に与える。逆に、初回パルスの波高値が最終パルスの波高値よりも低い場合、信号処理回路40は、予備励起期間における励起LDのバイアス電流値を上昇させるための信号を生成し、予備励起期間に、その信号をドライバ22に与える。ドライバ22は、信号処理回路40からの信号によって、予備励起期間における励起LD3のバイアス電流値を低下あるいは上昇させる。これにより励起LD3からの励起光のパワーが変化する。
【0053】
メモリ41は、たとえば不揮発性のメモリによって実現され、AD変換回路34によるAD変換のタイミングに関する情報、すなわち上記の遅延時間を予め記憶する。
【0054】
図7は、遅延時間の保存形式を模式的に示した図である。図7を参照して、遅延時間は、テーブル形式でメモリ41に保存される。具体的には、パルス群の繰り返し周波数の範囲(一例を示すと100kHz〜120kHz)と、1つのパルス群に含まれるパルスの数との組み合わせに対して、1つの最適値が特定される。なお、遅延時間の保存形式は、テーブル形式に限定されず、たとえばデータベース形式でメモリ41に記憶されていてもよい。
【0055】
次に、図6に示した回路構成に基づいて行なわれるパルス波高値の検出について、より詳しく説明する。
【0056】
図8は、パルス群の繰り返し周波数に対するパルス群の平均パワーおよびパルス群のピークパワーの関係を示した図である。図8を参照して、励起光のパワーが一定である場合には、繰り返し周波数が高くなるほどパルスのピークパワーが低下する。これに対して、平均パワーは、繰り返し周波数に対してほぼ一定に保たれる。なお、平均パワーが同じである場合、パルスのピーク値は繰り返し周波数にほぼ反比例する。
【0057】
図9は、AD回路によるAD変換のタイミングを説明するための図である。図6および図9を参照して、受光素子15および電流/電圧変換回路31によって、複数のパルスからなる電気信号が出力される。積分回路32は、複数のパルスを積分する。積分回路32からの出力信号はPGA33によって増幅される。
【0058】
最初のパルスの発生から所定の遅延時間dが経過した後に、AD変換回路34にADタイミング信号が送られる。PGA33からの信号のピーク付近においてAD変換回路34がAD変換を行なうように遅延時間dが決定される。これによりパルス群のピークパワーの値を取得することができる。
【0059】
なお、図9では、複数のパルスの包絡線の形状は右肩上がりの三角形となる。ただし、複数のパルスの包絡線の形状は、このように限定されず、他の形状であってもよい。たとえば、複数のパルスの強度が全て同じでもよい。包絡線の形状によらず、積分回路によって、複数のパルスの間でのピークの変動を低減することができるという効果が得られる。
【0060】
図10は、図9に示した波形の具体例を示した図である。図10(a)は、パルス群に含まれるパルスの数が1である場合のレーザパルスの波形と積分処理後の電気信号波形を示す図である。図10(b)は、パルス群に含まれるパルスの数が20である場合のレーザパルスの波形と積分処理後の電気信号波形を示す図である。図10(c)は、積分処理および増幅後の信号波形のAD変換のタイミングを説明するための波形図である。
【0061】
図10(a)、図10(b)を参照して、電圧のレンジによりレーザパルス波形のピーク値を評価すると、図10(a)に示したレーザ光波形のピーク値と、図10(b)に示したレーザ光波形のピーク値との比率は約5:2である。すなわち、図10(a)に示したレーザパルス波形のピーク値は、図10(b)に示したレーザパルス波形のピーク値の約2.5倍(電圧レンジでの評価による)となる。これは、図10(a)に示したレーザパルスのピーク値は、図10(b)に示したレーザパルスのピーク値の約7倍であることに対応する。一方、積分処理後の電気信号についてみると、図10(a)に示す電気信号と図10(b)に示す電気信号とはほぼ同じピーク値を有している。
【0062】
図10(c)を参照して、AD変換タイミング信号は、パルス群に含まれる最初のパルス光(このパルス光はシード光でも出力パルス光でもよい)から所定の時間だけ遅延して発生させる。これにより、積分回路およびPGAにより処理された電気信号を検出できる。さらに、電気信号を積分することによって、信号のパルス幅が広くなるので、ADタイミング信号の時間的な変動に対してAD変換値の変動の割合が小さくなるという効果をえることができる。
【0063】
図11は、AD変換回路34に入力される信号の振幅と、PGA33のゲインとの関係を示した図である。図11を参照して、PGA33のゲインは、繰り返し周波数が高くなるにつれてステップ状に高くなる。周波数f1〜f5は、ゲインが切り替えられるときの繰り返し周波数を示している。このようなゲインの変化は、信号処理回路40からPGA33に送られるゲイン設定信号によって実現される。
【0064】
図8に示されるように、繰り返し周波数が高くなるほどピークパワーが減少する。ゲインが切り替えられない場合(たとえば最大のゲインのまま固定された場合)には、繰り返し周波数が低下するほど、AD変換回路34の入力信号の振幅が増大する。したがって、AD変換回路34の入力信号の振幅がAD変換回路34のダイナミックレンジを超える可能性がある。図11に示されるようにゲインを変化させることで、AD変換回路34のダイナミックレンジを超えないように信号振幅のレベルを抑えることができる。したがって、信号のピーク値を検出することができる。
【0065】
図12は、PGA33のゲイン設定の他の例を示した図である。図12を参照して、AD変換回路34の入力信号の振幅が標準レベルの場合、ゲイン切り替え周波数はf1,f2,f3,f4,f5である。これに対して、入力信号の振幅が標準レベルよりも高い場合には、ゲイン切り替え周波数はf1a,f2a,f3a,f4a,f5aである。このように、入力信号の振幅のレベルに応じて、ゲイン切り替え周波数を個別に設定してもよい。これによって、PGAのゲインのばらつきを吸収することが可能になる。
【0066】
以上のように実施の形態1によれば、光増幅装置は、光増幅ファイバ1からの出力光パルス群を受ける受光素子15と、受光素子15の出力信号を積分する積分回路32と、積分回路32の出力信号に基づいて、検出値を生成するAD変換回路34とを備える。積分回路32によって、複数のパルスの間でのピークの変動が低減される。これにより、短パルス(たとえばパルス幅がnsレベル)を含む出力光パルス群のパワーを検出することができる。
【0067】
さらに実施の形態1によれば、光増幅装置は、積分回路32の出力信号を増幅してAD変換回路34に与える可変利得増幅器(PGA33)をさらに備える。信号処理回路40は、発光期間に発生させるべきパルス群の繰り返し周波数に応じて、PGA33の利得を変化させる。これにより、繰り返し周波数が広く変化する場合においても、出力光パルス群のパワーを検出することができる。
【0068】
したがって、実施の形態1によれば、出力光パルス群ごとにピーク値を検出することが可能になる。これにより、制御装置20は、その検出されたピーク値を用いて、非発光期間(予備励起期間)における励起光のパワーを制御できる。したがって、実施の形態1によれば、ファイバ増幅器を用いたレーザ加工装置において、レーザパルスのピーク値の均一化を実現できる。
【0069】
[実施の形態2]
図13は、実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成図である。図13を参照して、レーザ加工装置101は、2段のファイバ増幅器により構成された光増幅器を備える。この点において実施の形態2に係るレーザ加工装置は実施の形態1に係るレーザ加工装置と異なる。図1および図13を参照して、レーザ加工装置101は、カプラ7と、光増幅ファイバ8と、励起LD9A,9Bと、コンバイナ10と、アイソレータ11と、受光素子17と、波高値検出器18と、ドライバ23とをさらに備える点においてレーザ加工装置100と異なる。
【0070】
カプラ7は、光増幅ファイバ1からアイソレータ6を介して出力された光パルスを、コンバイナ10に送られる光パルスと、受光素子17に送られる光パルスとに分配する。コンバイナ10は、カプラ7からのレーザ光と、励起LD9A,9Bからのレーザ光とを結合して光増幅ファイバ8に入射させる。
【0071】
励起LD9A,9Bはドライバ23により駆動される。ドライバ23は制御装置20によって制御される。光増幅ファイバ8は、カプラ7からのレーザ光を励起LD9A,9Bからのレーザ光によって増幅する。すなわちカプラ7からのレーザ光はシード光であり、励起LD9A,9Bからのレーザ光は励起光である。励起LD9A,9Bから発せられる励起光のパワーは予備励起期間において小さくなり、本励起期間において大きくなる。
【0072】
アイソレータ11は、光増幅ファイバ8から出力されるレーザ光を通過させるとともに、光増幅ファイバ8に戻るレーザ光を遮断する。
【0073】
受光素子17は、カプラ7からの光パルスを受けて、その光パルスの強度を示す信号を出力する。波高値検出器18は、受光素子17からの信号により、光パルスの波高値を検出する。波高値検出器18によって検出された波高値は、制御装置20に送られる。
【0074】
受光素子17および波高値検出器18の構成は、受光素子15および波高値検出器16の構成とそれぞれ同様である。したがって、制御装置20は、実施の形態1と同様の方法によって、光増幅ファイバ1から出射される出力光パルス群のパワーの値を波高値検出器18から取得する。同じく、制御装置20は、実施の形態1と同様の方法によって、光増幅ファイバ8から出射される出力光パルス群のパワーの値を波高値検出器16から取得する。レーザ加工装置101の他の部分の構成はレーザ加工装置100の対応する部分の構成と同様であるので以後の説明は繰り返さない。
【0075】
実施の形態2によれば、受光素子17および波高値検出器18によって検出されたパルスのピーク値に基づいて、制御装置20は、ドライバ22を制御する。これにより、光増幅ファイバ1から出射されるパルス群の初回パルスと最終パルスとでピーク値が等しくなるように、光増幅ファイバ1から出射されるパルスを制御できる。さらに、受光素子15および波高値検出器16によって検出されたパルスのピーク値に基づいて、制御装置20は、ドライバ23を制御する。
【0076】
これにより、最終の増幅段、すなわち光増幅ファイバ8から出射される複数のパルスのうちの初回パルスと最終パルスとでピーク値が等しくなるように、光増幅ファイバ8から出射されるパルスを制御できる。光増幅ファイバ8から出射されるパルスを制御する方法は実施の形態1に係る制御方法と同じ方法を適用できるので詳細な説明は以後繰り返さない。
【0077】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、出力光パルス群ごとにパワーを検出することができる。したがって、実施の形態2によれば、増幅段の数が複数であっても、最終の増幅段から安定したレーザパルス出力を得ることができる。なお、増幅段の数は複数であれば2段に限定されず、3段あるいはそれより大きくてもよい。
【0078】
また、各増幅段に設けられる励起LDの個数は図1あるいは図13に示されたように限定されるものではなく、励起LDの個数は任意に設定可能である。
【0079】
また、上記の実施の形態では、「繰り返し周波数」は、シード光パルスの繰り返し周波数であるとしたが、光増幅ファイバから出力される出力光パルスの繰り返し周波数であってもよい。いずれの場合であっても、本発明の実施の形態では、発光期間に発生させるべきパルス(シード光パルスまたは光増幅ファイバからの出力光パルス)の繰り返し周波数が高くなるほど、PGAのゲインが高く設定される。
【0080】
さらに、上記の各実施の形態では、光増幅装置の利用形態の1つとしてレーザ加工装置を開示したが、本発明の実施の形態に係る光増幅装置の用途は、レーザ加工装置に限定されるものではない。
【0081】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1,8 光増幅ファイバ、1G パルス群、1a シード光パルス、2 シードLD、3,9A,9B 励起LD、4,6,11 アイソレータ、5,10 コンバイナ、7 カプラ、12 エンドキャップ、13 ビームスプリッタ、14 レーザビーム走査機構、15,17 受光素子、16,18 波高値検出器、20 制御装置、21〜23 ドライバ、25 入力部、31 電流/電圧変換回路、32 積分回路、33 PGA、34 AD変換回路、40 信号処理回路、41 メモリ、50 加工対象物、100,101 レーザ加工装置、L レーザ光。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増幅装置およびレーザ加工装置に関し、特に、MOPA(Master Oscillator and Power Amplifier)方式のファイバ増幅器から光パルスを安定的に発生させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工装置においては、レーザ光のパワーが加工品質に影響を与える。このため、レーザ加工装置から発せられるレーザ光のパワーを制御するための技術がこれまでに提案されている。
【0003】
たとえば特開2010−10274号公報(特許文献1)は、ファイバレーザ発振器から出力されるレーザパルスの平均パワーおよびピークパワーを測定して、その測定結果をLD(レーザダイオード)駆動回路にフィードバックする構成を開示する。
【0004】
また、たとえば特開2010−171131号公報(特許文献2)には、ファイバレーザに入射される種光を発するレーザ光源が、主照射期間にはパルス光を発し、予備照射期間には実質的な連続光を発することが開示されている。連続光のパワーは、パルス光のピークパワーよりも小さい。さらに、特開2010−171131号公報(特許文献2)には、予備照射期間における励起光のパワーを主照射期間における励起光のパワーよりも低下させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−10274号公報
【特許文献2】特開2010−171131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2010−10274号公報(特許文献1)に開示された方法では、レーザ光パルスの平均パワーおよびピークパワーが測定される。この方法では、複数のパルスの強度の均一性をモニタできないため、複数のパルスの強度を均一に制御することが難しいと考えられる。一方、特開2010−171131号公報(特許文献2)は、パルスのパワーを検出する構成を具体的に開示していない。
【0007】
ファイバ増幅器はレーザダイオード(LD)によって励起されることが多い。しかしながらファイバ増幅器のレーザ出力を変化させる場合、励起LDの出力が変化してからレーザ出力が変化するまでの時間(応答時間)が、1ms程度あるいはそれ以上かかることがある。したがってパルスの繰り返し周波数が高くなるほど、パルスごとにその強度を測定して、測定結果をパルス強度の制御にフィードバックすることが難しくなる。このような理由によって、ファイバ増幅器では、一般に、レーザ出力の平均パワーの測定値がレーザ出力の制御にフィードバックされる。
【0008】
一方、ファイバ増幅器に入力されるシード光の光源には、LDが用いられることが多い。したがってシード光パルスの条件をさまざまに変えることができる。たとえば、繰り返し周波数を広範囲で変化させる、あるいは、ns程度のパルス幅を有する複数のパルスからなるパルス群を生成することができる。
【0009】
このようにシード光を変化させると、ピーク値の変動範囲が極めて広くなる。したがって、ファイバ増幅器の場合には、パルスごとにピーク値を検出することがより一層難しい。一方で、レーザ出力を安定させるためには、複数のパルスの強度を均一に制御することが要求される。
【0010】
本発明の目的は、光増幅ファイバを用いた光増幅装置の出力光パルスごとのピーク値を検出するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある局面に係る光増幅装置は、シード光を励起光によって増幅する光増幅ファイバと、シード光を、複数のパルスからなるパルス群として、発光期間に複数回発生させるシード光源と、発光期間の直前の非発光期間に第1のレベルのパワーを有する励起光を発生させ、発光期間に第1のレベルより高い第2のレベルのパワーを有する励起光を発生させる励起光源と、光増幅ファイバから出力された出力光パルス群のパワーを検出するための検出器と、検出器の検出値に基づき非発光期間における励起光のパワーを制御して、発光期間の間に発生する出力光パルス群のパワーを制御する制御部とを備える。検出器は、出力光パルス群を受ける受光素子と、受光素子の出力信号を積分する積分回路と、積分回路の出力信号に基づいて、検出値を生成するAD変換回路とを含む。
【0012】
好ましくは、検出器は、積分回路の出力信号を増幅してAD変換回路に与える可変利得増幅器をさらに含む。制御部は、発光期間に発生させるべきパルス群の繰り返し周波数に応じて、可変利得増幅器の利得を変化させる。
【0013】
好ましくは、制御部は、繰り返し周波数が高いほど利得を高くする。
好ましくは、制御部は、AD変換回路が可変利得増幅器の出力信号のピークをアナログデジタル変換するように、AD変換回路がアナログデジタル変換を実行するタイミングを制御する。当該タイミングは、パルス群に含まれる複数のパルスのうちの最初のパルスが発生してからの遅延時間によって決定される。
【0014】
好ましくは、制御部は、繰り返し周波数、およびパルス群に含まれる複数のパルスの個数に応じて遅延時間を変化させる。
【0015】
本発明の他の局面に係るレーザ加工装置は、上記のいずれかに記載の光増幅装置を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光増幅ファイバを用いた光増幅装置の出力光パルスごとのピーク値を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成例を示した図である。
【図2】実施の形態1に係るレーザ加工装置によるレーザ発光のタイミング図である。
【図3】図2に示したレーザ発光のタイミングをより詳細に説明した図である。
【図4】予備励起期間における励起光パワーに依存して初回パルスのパワーが変化することを説明した波形図である。
【図5】実施の形態1に従うパルスのパワーの安定化の原理を説明した波形図である。
【図6】パルスのピークパワーを検出するための具体的な構成例を示したブロック図である。
【図7】遅延時間の保存形式を模式的に示した図である。
【図8】パルス群の繰り返し周波数に対するパルス群の平均パワーおよびパルス群のピークパワーの関係を示した図である。
【図9】AD回路によるAD変換のタイミングを説明するための図である。
【図10】図9に示した波形の具体例を示した図である。
【図11】AD変換回路34に入力される信号の振幅と、PGA33のゲインとの関係を示した図である。
【図12】PGA33のゲイン設定の他の例を示した図である。
【図13】実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
本明細書では「パルス群」との用語は、ある時間間隔で時間軸上に並べられた複数の光パルスを意味する。ただし、パルス群に含まれる光パルスを明示的に指す場合を除き、本明細書では、パルス群を「パルス」と称する。また、本明細書では、「LD」との用語は、半導体レーザを表す。
【0020】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成例を示した図である。図1を参照して、レーザ加工装置100は、光増幅装置と、その光増幅装置からのレーザ光を走査するためのレーザビーム走査機構14とを含む。光増幅装置は、光増幅ファイバ1と、シードLD2と、励起LD3と、アイソレータ4,6と、コンバイナ5と、エンドキャップ12と、ドライバ21,22と、受光素子15と、波高値検出器16と、制御装置20と、入力部25とを備える。
【0021】
光増幅ファイバ1は、光増幅成分である希土類元素が添加されたコア、およびそのコアの周囲に設けられるクラッドを有する。コアに添加される希土類元素の種類は特に限定されず、たとえばEr(エルビウム)、Yb(イッテルビウム)、Nd(ネオジム)などがある。以下では希土類元素はYbであるとして説明する。光増幅ファイバ1は、たとえばコアの周囲に1層のクラッドが設けられたシングルクラッドファイバでもよいし、コアの周囲に2層のクラッドが設けられたダブルクラッドファイバでもよい。
【0022】
シードLD2はシード光を発するレーザ光源である。シード光の波長は、たとえば1000〜1100nmの範囲から選択された波長である。ドライバ21はシードLD2にパルス状の電流を繰り返して印加することにより、シードLD2をパルス駆動する。すなわちシードLD2からはパルス状のシード光が発せられる。
【0023】
シードLD2から出射されるシード光はアイソレータ4を通過する。アイソレータ4は一方向の光のみを透過し、その光と逆方向に入射する光を遮断する機能を実現する。本発明の実施の形態では、アイソレータ4はシードLD2からのシード光を透過させるとともに光増幅ファイバ1からの戻り光を遮断する。これによって光増幅ファイバ1からの戻り光がシードLD2に入射するのを防ぐことができる。シードLD2に光増幅ファイバ1からの戻り光が入射した場合にはシードLD2が損傷するおそれがあるが、アイソレータ4を設けることでこのような問題を防ぐことができる。
【0024】
励起LD3は、光増幅ファイバ1のコアに添加された希土類元素の原子を励起するための励起光を発する励起光源である。希土類元素がYbの場合、励起光の波長はたとえば915±10nmとなる。ドライバ22は、励起LD3を駆動する。
【0025】
コンバイナ5はシードLD2からのシード光と励起LD3からの励起光とを結合して光増幅ファイバ1に入射させる。
【0026】
光増幅ファイバ1、シードLD2、および励起LD3はMOPA(Master Oscillator and Power Amplifier)方式のファイバ増幅器を構成する。光増幅ファイバ1に入射した励起光はコアに含まれる希土類元素の原子に吸収され、原子が励起される。シードLD2からのシード光が光増幅ファイバ1のコアを伝搬すると、励起された原子がシード光により誘導放出を起こすためシード光が増幅される。すなわち光増幅ファイバ1は、シード光を励起光によって増幅する。
【0027】
光増幅ファイバ1がシングルクラッドファイバである場合、シード光および励起光はともにコアに入射する。これに対し、光増幅ファイバ1がダブルクラッドファイバである場合、シード光はコアに入射し、励起光は第1クラッドに入射する。ダブルクラッドファイバの第1クラッドは励起光の導波路として機能する。第1クラッドに入射した励起光が第1クラッドを伝搬する過程で、コアを通過するモードによりコア中の希土類元素が励起される。
【0028】
アイソレータ6は、光増幅ファイバ1によって増幅され、かつ光増幅ファイバ1から出射されたシード光(光パルス)を通過させるとともに光増幅ファイバ1に戻る光を遮断する。アイソレータ6を通過した光パルスは、光ファイバの端面から大気中に出射される。エンドキャップ12は、ピークパワーの高い光パルスが光ファイバから大気中に出射される際に光ファイバの端面と大気との境界面で生じるダメージを防止するために設けられる。
【0029】
ビームスプリッタ13は、エンドキャップ12から出力された光パルスを2つのパルスに分割する。一方のパルスは、加工用のレーザ光としてレーザビーム走査機構14に入力され、他方のパルスはレーザ光のパワーをモニタするために受光素子15に入力される。
【0030】
受光素子15は、たとえばフォトダイオードによって構成される。波高値検出器16は、受光素子15からの信号により、光パルスのピークパワー(波高値)を検出する。波高値検出器16によって検出された波高値は、制御装置20に送られる。
【0031】
レーザビーム走査機構14は、レーザ光を二次元方向に走査するためのものである。図示しないが、レーザビーム走査機構14は、たとえばエンドキャップ12からの出射光であるレーザビームの径を所定の大きさに調整するためのコリメータレンズ、および、コリメータレンズを通過後のレーザビームを加工対象物50の表面上で二次元方向に走査するためのガルバノスキャナ、レーザビームを集光するためのfθレンズ等を含んでもよい。加工対象物50の表面上でレーザ光L、すなわちレーザ加工装置100からの出力光が二次元方向に走査されることにより、金属等を素材とする加工対象物50の表面が加工される。たとえば加工対象物50の表面に文字や図形等からなる情報が印字(マーキング)される。
【0032】
制御装置20は、ドライバ21,22およびレーザビーム走査機構14を制御することによりレーザ加工装置100の動作を統括的に制御する。入力部25は、たとえばユーザからの情報を受付ける。制御装置20は、入力部25からの情報に基づいて、ドライバ21,22を制御するとともに、レーザビーム走査機構14の動作を制御する。
【0033】
制御装置20は、たとえば所定のプログラムを実行するパーソナルコンピュータにより実現される。入力部25はユーザが情報を入力することができる装置であれば特に限定されず、たとえばマウス、キーボード、タッチパネル等を用いることができる。
【0034】
シードLD、励起LD、アイソレータ等の特性は温度により変化し得る。したがって、これらの素子の温度を一定に保つための温度コントローラをレーザ加工装置に備えることがより好ましい。
【0035】
レーザ加工装置100からレーザ光を出力させる場合において、シードLD2はドライバ21によって駆動されることにより、パルス状のシード光を発生させる。シード光をシードLD2から繰り返し発生させる場合、シード光の繰返し周波数は、ドライバ21からシードLD2に供給されるパルス電流の繰り返し周波数に依存する。ドライバ21から出力されるパルス電流の繰り返し周波数は制御装置20によって制御される。
【0036】
制御装置20はドライバ22を制御することによって励起LD3が発する励起光のパワーを変化させる。励起LD3は、ドライバ22から供給されるバイアス電流に応じたパワーを有する励起光を出力する。ドライバ22から出力されるバイアス電流の大きさは制御装置20によって制御される。
【0037】
図2は、実施の形態1に係るレーザ加工装置によるレーザ発光のタイミング図である。図2を参照して、予備励起期間には、ドライバ22がバイアス電流(図2において励起LD電流と示す)を励起LD3に供給して励起光を発生させるが、シードLD2は、光パルス(図2ではシードLDパルスと示す)を発生させない。一方、本励起期間には、励起光およびシードLDパルスの両方が発生する。したがって本励起期間には、ファイバ増幅器からレーザ光が出力される。
【0038】
予備励起期間における励起LD電流は本励起期間における励起LD電流よりも小さい。すなわち励起LD3は、予備励起期間において第1のレベルのパワーの励起光を発生させ、本励起期間において、第2のレベルのパワーの励起光を発生させる。第2のレベルは第1のレベルよりも高い。
【0039】
図3は、図2に示したレーザ発光のタイミングをより詳細に説明した図である。図3を参照して、シードLD2は、本励起期間に、複数のシード光パルス1aからなるパルス群1Gを周期tprdで繰り返し発生させる。シードLD2のバイアス電流を変調させることによって、パルス群1Gが所定の周期で発生する。本励起期間は、ファイバ増幅器からレーザ光が出力される発光期間に対応する。一方、予備励起期間には、シードLD2にバイアス電流が供給されないため、非発光期間となる。
【0040】
本励起期間の間にファイバ増幅器から出力される複数のパルス群のうち、最初に出力されるパルス群および最後に出力されるパルス群を、以下では「初回パルス」および「最終パルス」とそれぞれ称する。
【0041】
図4は、予備励起期間における励起光パワーに依存して初回パルスのパワーが変化することを説明した波形図である。図4(a)は、予備励起期間における励起光パワーを小さくした場合にファイバ増幅器から出力されたパルスを示した波形図である。図4(b)は、予備励起期間における励起光パワーを大きくした場合にファイバ増幅器から出力されたパルスを示した波形図である。図4(a)および図4(b)を参照して、予備励起期間における励起LD電流が小さい場合には、励起光パワーが小さいため、予備励起期間の間に光増幅ファイバ1に蓄積されるエネルギーが少ない。このため、初回パルスのパワーが小さい。光増幅ファイバ1への励起光パワーの供給と光増幅ファイバ1からの光エネルギーの放出とが繰り返されるうちに、光増幅ファイバ1に蓄積されるエネルギーが増加してほぼ一定のレベルに達する。これにより、パルスのパワーが安定化する。
【0042】
逆に、予備励起期間における励起LD電流が大きい場合には、予備励起期間の間に光ファイバ内に蓄積されたエネルギーが大きくなる。このため、初回パルスのパワーが大きくなる。この場合、光増幅ファイバ1への励起光パワーの供給と光増幅ファイバ1からの光エネルギーの放出とが繰り返されるうちに、光増幅ファイバ1に蓄積されるエネルギーが減少してほぼ一定のレベルに達する。これにより、パルスのパワーが安定化する。
【0043】
図4に示されるように、予備励起期間における励起光のパワー(励起LD電流)が適切でない場合には、初回パルスのパワーと一定時間経過後のパルスのパワーとの間に差が生じる。このようなパワーの差によって加工品質の低下といった問題が発生する。
【0044】
図5は、実施の形態1に従うパルスのパワーの安定化の原理を説明した波形図である。図5を参照して、実施の形態1では、初回パルスのピークパワーと最終パルスのピークパワーとが比較される。それらの比較結果が、予備励起期間の間の励起LDのバイアス電流値にフィードバックされて、初回パルスのパワーと最終パルスのパワーとの差分を0に近づける。これによって、初回パルスから、安定したレーザ出力を得ることができる。図1に示されるように、パルスのピークパワーは受光素子15および波高値検出器16によって検出される。
【0045】
図6は、パルスのピークパワーを検出するための具体的な構成例を示したブロック図である。図6を参照して、波高値検出器16は、電流/電圧変換回路31と、積分回路32と、PGA(Programmable Gain Amplifier)33と、AD変換回路34とを含む。また、制御装置20は、信号処理回路40と、メモリ41とを含む。
【0046】
受光素子15は、光パルスを受光して、その光パルスを電流信号に変換する。電流/電圧変換回路31は、受光素子15から出力される電流を電圧に変換する。積分回路32は、電流/電圧変換回路31の出力電圧を積分する。
【0047】
図3に示すように、この実施の形態では、複数の短パルス(たとえば時間幅がnsのオーダー)からなるパルス群を発生させる。積分回路32は、所定の時定数で複数の短パルスの波形を積分する。これによってパルス群に含まれる短パルスの個数に依存した振幅の変化を低減することができ、1つのパルス群におけるピークパワー(振幅)を得ることができる。
【0048】
パルス群のピーク値は、そのパルス群に含まれるパルスの数に応じて変化する。このため、ピーク値の変動範囲が極めて広くなる。一例を示すと、繰り返し周波数の範囲が2桁(1倍〜100倍)であり、パルス群に含まれるパルスの数が1〜20まで可変であるとする。この場合、パルス群のピーク値は1000倍近く変動する。したがって、パルスごとのピーク値を検出することが難しい。
【0049】
同一の励起パワーの場合には、パルス群のエネルギーの積分値は、パルス数によらずほぼ同じである。実施の形態1では、このことを利用して、パルス群に含まれるパルスを積分回路32により平均化する。これにより、積分回路32から出力される電気信号の振幅を、パルス群に含まれるパルスの数によらずほぼ同一にすることができる。パルス群に含まれる短パルスの個数に依存した振幅の変化を積分回路32によって低減することができるので、1つのパルス群におけるピークパワー(振幅)を得ることができる。
【0050】
PGA33は、積分回路32から出力された信号を増幅する。PGA33は可変利得増幅器であり、そのゲインは信号処理回路40からのゲイン設定信号によって設定される。繰り返し周波数が高くなるほど1つのパルス群におけるピークパワー(振幅)が低下するので、信号処理回路40は、繰り返し周波数が高いほどゲインが高くなるようにPGA33のゲインを調整する。なお、AD変換回路34に入力される信号の振幅がAD変換回路34のダイナミックレンジ内となるように、PGA33のゲインが設定される。
【0051】
AD変換回路34は、たとえば高速AD変換回路によって実現され、PGA33から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。AD変換回路34によるAD変換のタイミングは、信号処理回路40からの制御信号によって制御される。具体的には、シード光の発光の開始(パルス群に含まれる複数のパルスのうちの最初のパルスの発生)から所定の遅延時間が経過した後に、PGA33からの信号がAD変換される。パルス群のパワーのピークにおいてAD変換回路34がAD変換を行なうように遅延時間が決定される。これにより、パルス群のピークパワーすなわち波高値が検出値として取得される。AD変換回路34により取得された波高値(デジタル信号)は、AD変換回路34から信号処理回路40に送られる。
【0052】
信号処理回路40は、初回パルスと最終パルスとで波高値を比較する。初回パルスの波高値が最終パルスの波高値よりも高い場合、信号処理回路40は、予備励起期間における励起LDのバイアス電流値を低下させるための信号を生成し、予備励起期間に、その信号をドライバ22に与える。逆に、初回パルスの波高値が最終パルスの波高値よりも低い場合、信号処理回路40は、予備励起期間における励起LDのバイアス電流値を上昇させるための信号を生成し、予備励起期間に、その信号をドライバ22に与える。ドライバ22は、信号処理回路40からの信号によって、予備励起期間における励起LD3のバイアス電流値を低下あるいは上昇させる。これにより励起LD3からの励起光のパワーが変化する。
【0053】
メモリ41は、たとえば不揮発性のメモリによって実現され、AD変換回路34によるAD変換のタイミングに関する情報、すなわち上記の遅延時間を予め記憶する。
【0054】
図7は、遅延時間の保存形式を模式的に示した図である。図7を参照して、遅延時間は、テーブル形式でメモリ41に保存される。具体的には、パルス群の繰り返し周波数の範囲(一例を示すと100kHz〜120kHz)と、1つのパルス群に含まれるパルスの数との組み合わせに対して、1つの最適値が特定される。なお、遅延時間の保存形式は、テーブル形式に限定されず、たとえばデータベース形式でメモリ41に記憶されていてもよい。
【0055】
次に、図6に示した回路構成に基づいて行なわれるパルス波高値の検出について、より詳しく説明する。
【0056】
図8は、パルス群の繰り返し周波数に対するパルス群の平均パワーおよびパルス群のピークパワーの関係を示した図である。図8を参照して、励起光のパワーが一定である場合には、繰り返し周波数が高くなるほどパルスのピークパワーが低下する。これに対して、平均パワーは、繰り返し周波数に対してほぼ一定に保たれる。なお、平均パワーが同じである場合、パルスのピーク値は繰り返し周波数にほぼ反比例する。
【0057】
図9は、AD回路によるAD変換のタイミングを説明するための図である。図6および図9を参照して、受光素子15および電流/電圧変換回路31によって、複数のパルスからなる電気信号が出力される。積分回路32は、複数のパルスを積分する。積分回路32からの出力信号はPGA33によって増幅される。
【0058】
最初のパルスの発生から所定の遅延時間dが経過した後に、AD変換回路34にADタイミング信号が送られる。PGA33からの信号のピーク付近においてAD変換回路34がAD変換を行なうように遅延時間dが決定される。これによりパルス群のピークパワーの値を取得することができる。
【0059】
なお、図9では、複数のパルスの包絡線の形状は右肩上がりの三角形となる。ただし、複数のパルスの包絡線の形状は、このように限定されず、他の形状であってもよい。たとえば、複数のパルスの強度が全て同じでもよい。包絡線の形状によらず、積分回路によって、複数のパルスの間でのピークの変動を低減することができるという効果が得られる。
【0060】
図10は、図9に示した波形の具体例を示した図である。図10(a)は、パルス群に含まれるパルスの数が1である場合のレーザパルスの波形と積分処理後の電気信号波形を示す図である。図10(b)は、パルス群に含まれるパルスの数が20である場合のレーザパルスの波形と積分処理後の電気信号波形を示す図である。図10(c)は、積分処理および増幅後の信号波形のAD変換のタイミングを説明するための波形図である。
【0061】
図10(a)、図10(b)を参照して、電圧のレンジによりレーザパルス波形のピーク値を評価すると、図10(a)に示したレーザ光波形のピーク値と、図10(b)に示したレーザ光波形のピーク値との比率は約5:2である。すなわち、図10(a)に示したレーザパルス波形のピーク値は、図10(b)に示したレーザパルス波形のピーク値の約2.5倍(電圧レンジでの評価による)となる。これは、図10(a)に示したレーザパルスのピーク値は、図10(b)に示したレーザパルスのピーク値の約7倍であることに対応する。一方、積分処理後の電気信号についてみると、図10(a)に示す電気信号と図10(b)に示す電気信号とはほぼ同じピーク値を有している。
【0062】
図10(c)を参照して、AD変換タイミング信号は、パルス群に含まれる最初のパルス光(このパルス光はシード光でも出力パルス光でもよい)から所定の時間だけ遅延して発生させる。これにより、積分回路およびPGAにより処理された電気信号を検出できる。さらに、電気信号を積分することによって、信号のパルス幅が広くなるので、ADタイミング信号の時間的な変動に対してAD変換値の変動の割合が小さくなるという効果をえることができる。
【0063】
図11は、AD変換回路34に入力される信号の振幅と、PGA33のゲインとの関係を示した図である。図11を参照して、PGA33のゲインは、繰り返し周波数が高くなるにつれてステップ状に高くなる。周波数f1〜f5は、ゲインが切り替えられるときの繰り返し周波数を示している。このようなゲインの変化は、信号処理回路40からPGA33に送られるゲイン設定信号によって実現される。
【0064】
図8に示されるように、繰り返し周波数が高くなるほどピークパワーが減少する。ゲインが切り替えられない場合(たとえば最大のゲインのまま固定された場合)には、繰り返し周波数が低下するほど、AD変換回路34の入力信号の振幅が増大する。したがって、AD変換回路34の入力信号の振幅がAD変換回路34のダイナミックレンジを超える可能性がある。図11に示されるようにゲインを変化させることで、AD変換回路34のダイナミックレンジを超えないように信号振幅のレベルを抑えることができる。したがって、信号のピーク値を検出することができる。
【0065】
図12は、PGA33のゲイン設定の他の例を示した図である。図12を参照して、AD変換回路34の入力信号の振幅が標準レベルの場合、ゲイン切り替え周波数はf1,f2,f3,f4,f5である。これに対して、入力信号の振幅が標準レベルよりも高い場合には、ゲイン切り替え周波数はf1a,f2a,f3a,f4a,f5aである。このように、入力信号の振幅のレベルに応じて、ゲイン切り替え周波数を個別に設定してもよい。これによって、PGAのゲインのばらつきを吸収することが可能になる。
【0066】
以上のように実施の形態1によれば、光増幅装置は、光増幅ファイバ1からの出力光パルス群を受ける受光素子15と、受光素子15の出力信号を積分する積分回路32と、積分回路32の出力信号に基づいて、検出値を生成するAD変換回路34とを備える。積分回路32によって、複数のパルスの間でのピークの変動が低減される。これにより、短パルス(たとえばパルス幅がnsレベル)を含む出力光パルス群のパワーを検出することができる。
【0067】
さらに実施の形態1によれば、光増幅装置は、積分回路32の出力信号を増幅してAD変換回路34に与える可変利得増幅器(PGA33)をさらに備える。信号処理回路40は、発光期間に発生させるべきパルス群の繰り返し周波数に応じて、PGA33の利得を変化させる。これにより、繰り返し周波数が広く変化する場合においても、出力光パルス群のパワーを検出することができる。
【0068】
したがって、実施の形態1によれば、出力光パルス群ごとにピーク値を検出することが可能になる。これにより、制御装置20は、その検出されたピーク値を用いて、非発光期間(予備励起期間)における励起光のパワーを制御できる。したがって、実施の形態1によれば、ファイバ増幅器を用いたレーザ加工装置において、レーザパルスのピーク値の均一化を実現できる。
【0069】
[実施の形態2]
図13は、実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成図である。図13を参照して、レーザ加工装置101は、2段のファイバ増幅器により構成された光増幅器を備える。この点において実施の形態2に係るレーザ加工装置は実施の形態1に係るレーザ加工装置と異なる。図1および図13を参照して、レーザ加工装置101は、カプラ7と、光増幅ファイバ8と、励起LD9A,9Bと、コンバイナ10と、アイソレータ11と、受光素子17と、波高値検出器18と、ドライバ23とをさらに備える点においてレーザ加工装置100と異なる。
【0070】
カプラ7は、光増幅ファイバ1からアイソレータ6を介して出力された光パルスを、コンバイナ10に送られる光パルスと、受光素子17に送られる光パルスとに分配する。コンバイナ10は、カプラ7からのレーザ光と、励起LD9A,9Bからのレーザ光とを結合して光増幅ファイバ8に入射させる。
【0071】
励起LD9A,9Bはドライバ23により駆動される。ドライバ23は制御装置20によって制御される。光増幅ファイバ8は、カプラ7からのレーザ光を励起LD9A,9Bからのレーザ光によって増幅する。すなわちカプラ7からのレーザ光はシード光であり、励起LD9A,9Bからのレーザ光は励起光である。励起LD9A,9Bから発せられる励起光のパワーは予備励起期間において小さくなり、本励起期間において大きくなる。
【0072】
アイソレータ11は、光増幅ファイバ8から出力されるレーザ光を通過させるとともに、光増幅ファイバ8に戻るレーザ光を遮断する。
【0073】
受光素子17は、カプラ7からの光パルスを受けて、その光パルスの強度を示す信号を出力する。波高値検出器18は、受光素子17からの信号により、光パルスの波高値を検出する。波高値検出器18によって検出された波高値は、制御装置20に送られる。
【0074】
受光素子17および波高値検出器18の構成は、受光素子15および波高値検出器16の構成とそれぞれ同様である。したがって、制御装置20は、実施の形態1と同様の方法によって、光増幅ファイバ1から出射される出力光パルス群のパワーの値を波高値検出器18から取得する。同じく、制御装置20は、実施の形態1と同様の方法によって、光増幅ファイバ8から出射される出力光パルス群のパワーの値を波高値検出器16から取得する。レーザ加工装置101の他の部分の構成はレーザ加工装置100の対応する部分の構成と同様であるので以後の説明は繰り返さない。
【0075】
実施の形態2によれば、受光素子17および波高値検出器18によって検出されたパルスのピーク値に基づいて、制御装置20は、ドライバ22を制御する。これにより、光増幅ファイバ1から出射されるパルス群の初回パルスと最終パルスとでピーク値が等しくなるように、光増幅ファイバ1から出射されるパルスを制御できる。さらに、受光素子15および波高値検出器16によって検出されたパルスのピーク値に基づいて、制御装置20は、ドライバ23を制御する。
【0076】
これにより、最終の増幅段、すなわち光増幅ファイバ8から出射される複数のパルスのうちの初回パルスと最終パルスとでピーク値が等しくなるように、光増幅ファイバ8から出射されるパルスを制御できる。光増幅ファイバ8から出射されるパルスを制御する方法は実施の形態1に係る制御方法と同じ方法を適用できるので詳細な説明は以後繰り返さない。
【0077】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、出力光パルス群ごとにパワーを検出することができる。したがって、実施の形態2によれば、増幅段の数が複数であっても、最終の増幅段から安定したレーザパルス出力を得ることができる。なお、増幅段の数は複数であれば2段に限定されず、3段あるいはそれより大きくてもよい。
【0078】
また、各増幅段に設けられる励起LDの個数は図1あるいは図13に示されたように限定されるものではなく、励起LDの個数は任意に設定可能である。
【0079】
また、上記の実施の形態では、「繰り返し周波数」は、シード光パルスの繰り返し周波数であるとしたが、光増幅ファイバから出力される出力光パルスの繰り返し周波数であってもよい。いずれの場合であっても、本発明の実施の形態では、発光期間に発生させるべきパルス(シード光パルスまたは光増幅ファイバからの出力光パルス)の繰り返し周波数が高くなるほど、PGAのゲインが高く設定される。
【0080】
さらに、上記の各実施の形態では、光増幅装置の利用形態の1つとしてレーザ加工装置を開示したが、本発明の実施の形態に係る光増幅装置の用途は、レーザ加工装置に限定されるものではない。
【0081】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1,8 光増幅ファイバ、1G パルス群、1a シード光パルス、2 シードLD、3,9A,9B 励起LD、4,6,11 アイソレータ、5,10 コンバイナ、7 カプラ、12 エンドキャップ、13 ビームスプリッタ、14 レーザビーム走査機構、15,17 受光素子、16,18 波高値検出器、20 制御装置、21〜23 ドライバ、25 入力部、31 電流/電圧変換回路、32 積分回路、33 PGA、34 AD変換回路、40 信号処理回路、41 メモリ、50 加工対象物、100,101 レーザ加工装置、L レーザ光。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード光を励起光によって増幅する光増幅ファイバと、
前記シード光を、複数のパルスからなるパルス群として、発光期間に複数回発生させるシード光源と、
前記発光期間の直前の非発光期間に第1のレベルのパワーを有する前記励起光を発生させ、前記発光期間に前記第1のレベルより高い第2のレベルのパワーを有する前記励起光を発生させる励起光源と、
前記光増幅ファイバから出力された出力光パルス群のパワーを検出するための検出器と、
前記検出器の検出値に基づき前記非発光期間における前記励起光のパワーを制御して、前記出力光パルス群のパワーを制御する制御部とを備え、
前記検出器は、
前記出力光パルス群を受ける受光素子と、
前記受光素子の出力信号を積分する積分回路と、
前記積分回路の出力信号に基づいて、前記検出値を生成するAD変換回路とを含む、光増幅装置。
【請求項2】
前記検出器は、
前記積分回路の出力信号を増幅して前記AD変換回路に与える可変利得増幅器をさらに含み、
前記制御部は、前記発光期間に発生させるべきパルス群の繰り返し周波数に応じて、前記可変利得増幅器の利得を変化させる、請求項1に記載の光増幅装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記繰り返し周波数が高いほど前記利得を高くする、請求項2に記載の光増幅装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記AD変換回路が前記可変利得増幅器の出力信号のピークをアナログデジタル変換するように、前記AD変換回路がアナログデジタル変換を実行するタイミングを制御し、
前記タイミングは、前記パルス群に含まれる前記複数のパルスのうちの最初のパルスが発生してからの遅延時間によって決定される、請求項2または3に記載の光増幅装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記繰り返し周波数、および前記パルス群に含まれる前記複数のパルスの個数に応じて前記遅延時間を変化させる、請求項4に記載の光増幅装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光増幅装置を備える、レーザ加工装置。
【請求項1】
シード光を励起光によって増幅する光増幅ファイバと、
前記シード光を、複数のパルスからなるパルス群として、発光期間に複数回発生させるシード光源と、
前記発光期間の直前の非発光期間に第1のレベルのパワーを有する前記励起光を発生させ、前記発光期間に前記第1のレベルより高い第2のレベルのパワーを有する前記励起光を発生させる励起光源と、
前記光増幅ファイバから出力された出力光パルス群のパワーを検出するための検出器と、
前記検出器の検出値に基づき前記非発光期間における前記励起光のパワーを制御して、前記出力光パルス群のパワーを制御する制御部とを備え、
前記検出器は、
前記出力光パルス群を受ける受光素子と、
前記受光素子の出力信号を積分する積分回路と、
前記積分回路の出力信号に基づいて、前記検出値を生成するAD変換回路とを含む、光増幅装置。
【請求項2】
前記検出器は、
前記積分回路の出力信号を増幅して前記AD変換回路に与える可変利得増幅器をさらに含み、
前記制御部は、前記発光期間に発生させるべきパルス群の繰り返し周波数に応じて、前記可変利得増幅器の利得を変化させる、請求項1に記載の光増幅装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記繰り返し周波数が高いほど前記利得を高くする、請求項2に記載の光増幅装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記AD変換回路が前記可変利得増幅器の出力信号のピークをアナログデジタル変換するように、前記AD変換回路がアナログデジタル変換を実行するタイミングを制御し、
前記タイミングは、前記パルス群に含まれる前記複数のパルスのうちの最初のパルスが発生してからの遅延時間によって決定される、請求項2または3に記載の光増幅装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記繰り返し周波数、および前記パルス群に含まれる前記複数のパルスの個数に応じて前記遅延時間を変化させる、請求項4に記載の光増幅装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光増幅装置を備える、レーザ加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図10】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図10】
【公開番号】特開2012−248614(P2012−248614A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118040(P2011−118040)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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