説明

光波干渉計測装置

【課題】空気組成に空間的な分布があっても高精度な屈折率補正が可能な測長干渉計を提供する。
【解決手段】干渉計測用の多波長光源10を用いて、参照面52と被検面53の間の光路長差を計測して該光路長差の幾何学的距離を算出する光波干渉計測装置において、分圧計測用光源20と、多波長光源の波長における空気の分散を計測する分散干渉計30と、分散干渉計における空気の成分気体の分圧を計測する第1分圧検出器40と、多波長光源の波長における参照面と被検面の間の光路長差を計測する測長干渉計50と、測長干渉計における成分気体の分圧を計測する第2分圧検出器60と、第1分圧検出器の検出結果によって分散干渉計における成分気体以外の空気分散比を算出し、成分気体以外の空気分散比と第2分圧検出器の検出結果から測長干渉計の空気の分散を算出し、参照面と被検面の間の光路長差の幾何学的距離を算出する解析器70とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の距離や位置を計測する為の光波干渉計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光波干渉計測により距離を計測する方法はよく知られている。光波干渉計測による測長は、測長基準となる参照面によって反射される参照光束と、被検体に取り付けた被検面によって反射される被検光束との干渉信号により、被検光束の波長を目盛りとした測長を実現する。被検光束光路の屈折率により測長の目盛りとなる波長が変化するため、大気中にて測長する場合、高精度測長を実現するためには、高精度な屈折率補正が不可欠となる。
【0003】
特許文献1には、一般環境、つまり大気密度の空間分布が存在する環境において高精度に屈折率を補正する方法が開示されている。大気の屈折率分散を利用して2つ以上の波長の光路長計測値から屈折率と距離を同時に計測する事から2色法として知られる。
【0004】
特許文献2では、分散計測用の干渉計を配置し、距離計測干渉計の測定光路の分散を分散計測用干渉計の計測結果を用いる事で高精度な屈折率補正を実現する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−281717号公報
【特許文献2】米国特許第6330065号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の2色法では屈折率分散はEdlen等の屈折率式により算出されるが、屈折率式の精度は10−8程度しかなく高精度な補正には精度不足である事に加え、測長環境の空気組成によっても屈折率分散の誤差が発生するという課題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法では、分散計測用の干渉計の計測光路と距離計測用干渉計の計測光路の大気組成が異なる場合には、分散干渉計の空気分散と距離計測干渉計の空気分散に差が生じるため、屈折率補正精度が低下するという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、空気組成に空間的な分布があっても高精度な屈折率補正が可能な光波計測装置を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面としての光波干渉計測装置は、干渉計測用の多波長光源を用いて、参照面と被検面の間の光路長差を計測して該光路長差の幾何学的距離を算出する光波干渉計測装置において、分圧計測用光源と、前記多波長光源の波長における空気の分散を計測する分散干渉計と、前記分散干渉計における空気の成分気体の分圧を計測する第1分圧検出器と、前記多波長光源の波長における前記参照面と前記被検面の間の光路長差を計測する測長干渉計と、前記測長干渉計における前記成分気体の分圧を計測する第2分圧検出器と、前記第1分圧検出器の検出結果によって前記分散干渉計における前記成分気体以外の空気分散比を算出し、前記成分気体以外の空気分散比と前記第2分圧検出器の検出結果から前記測長干渉計の空気の分散を算出し、前記参照面と前記被検面の間の光路長差の幾何学的距離を算出する解析器とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空気組成に空間的な分布があっても高精度な屈折率補正が可能な光波計測装置を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の光波干渉計測装置を示した図である。(実施例1)
【図2】代表的な空気組成ガスの吸収線を示した図である。
【図3】本発明の解析器で実施されるフローチャートである。(実施例1)
【図4】本発明の光波干渉計測装置を示した図である。(実施例2)
【図5】本発明の干渉計測用光源の波長を示した図である。(実施例2)
【図6】本発明の解析器で実施されるフローチャートである。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の実施例1における装置構成を示した図である。本実施例の光波干渉計測装置は、干渉計測用の多波長光源10、分圧計測用光源20、分散干渉計30、第1分圧検出器40、測長干渉計50、第2分圧検出器60と解析器70からなる。
【0014】
以下では本発明の光波干渉計測装置について図1を用いて詳細を説明する。
【0015】
単一周波数スペクトラムを有する光源1を射出した光束(以下では基本波と称す)は、一部の光束を無偏光ビームスプリッタ(NPBS)で分岐したのち2倍波生成ユニット2に入射する。2倍波生成ユニット2では非線形光学素子を用いて光源1の1/2の波長を有する光束を生成し射出する(以下では2倍波と称す)。2倍波生成ユニット2としては、周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)を使用することで安価かつ省スペース化が可能である。PPLN以外では、外部共振器や、光源1の共振器内部に非線形光学結晶を配置する事で高効率な波長変換が実現可能である。この場合にはPPLNに対し装置構成が複雑になるがPPLNの透過波長帯域以下でも使用可能という利点がある。光源1と2倍波生成ユニット2により構成される2波長光源を多波長光源10とする。
【0016】
多波長光源10を射出した基本波はNPBS6で2つに分割され、一方は周波数シフトユニット3に入射する。以下では周波数シフトユニット3を透過する光束を基本波周波数シフト光束、他方を基本波光束と称す。周波数シフトユニット3では入射光束の周波数をdfだけシフトした後、入射成分と直交成分に偏光回転を行う。周波数シフトは音響光学素子(AOM)にて行う。周波数シフト量は図示されない基準発振器により高精度に管理されているものとする。周波数シフトユニット3を射出後の基本波周波数シフト光束は基本波光束とNPBS7で合波された後2つに分割される。分割された一方の光束は基本波基準信号検出器11へ入射し、式(1)で表わされる基本波周波数シフト光束と基本波光束の干渉信号Iref(λ)を生成する。
【0017】
【数1】

【0018】
ここでλ-は基本波の真空波長、OPD(λ)は基本波基準信号検出器11へ到達するまでの基本波周波数シフト光束と基本波光束の光路長差である。干渉信号Iref(λ)は、解析器70で計測される。
【0019】
多波長光源10を射出した2倍波も基本波と同様に2倍波用周波数シフトユニット4を用い、式(2)で表わされる干渉信号Iref(λ)を生成する。
【0020】
【数2】

【0021】
ここで干渉信号Iref(λ)は2倍波基準信号検出器12で検出されるとし、λは2倍波の真空波長、OPD(λ)は2倍波基準信号検出器12へ到達するまでの2倍波周波数シフト光束と2倍波光束の光路長差である。2倍波用基準信号検出器12で検出される干渉信号は解析器70で計測される。
【0022】
NPBS7を透過しダイクロイックミラー(DIM)5に入射する基本波の光束は、NPBS8を透過しDIM5に入射する2倍波の光束と合波される。
【0023】
DIM5を通過した基本波光束と2倍波光束は、DIM21に入射し、分圧計測用光源20の射出光束と合波される。本実施例では分圧計測を行う空気組成気体は水蒸気であるため、分圧計測用光源20は水蒸気吸収線に波長が等しいDFBレーザを用いる。図2に代表的な空気組成気体(成分気体)である水蒸気、二酸化炭素、酸素の吸収線強度の波長分布を示す。水蒸気は近赤外波長域に0.9μm、1.1μm、1.4μmの吸収帯を有するため、必要な吸収強度に応じて分圧計測用光源20の波長を決定すればよい。二酸化炭素や酸素の分圧計測を行う場合には吸収線波長は0.75〜2.0μm程度の波長であるため、分圧計測用光源20としてはDFBレーザを使用する事ができる。
【0024】
DIM21で合波後の多波長光源10と分圧計測光源20の射出光束はNPBS22で2つに分割され、透過光束は分散干渉計30に入射し、反射光束は測長干渉計50に入射する。
【0025】
分散干渉計30に入射した光束は偏光ビームスプリッタ(PBS)31で2つに分割される。多波長光源10の射出光束に関しては、基本波光束と2倍波光束がPBS31を透過し、基本波周波数シフト光束と2倍波周波数シフト光束はPBS31で反射される。分圧計測光源20の射出光束はPBS31で2分割される。以降、PBS31を透過する光束を分散被検光束、反射する光束を分散参照光束と称す。分散参照光束はPBS31で反射後、ミラー32で反射され分散被検光束と平行に伝播した後、真空セル33に入射する。真空セル33は長さLで内部が真空封じ切りとなっているため分散参照光束は真空中をLだけ伝搬する事になる。真空セル33を透過後の光束はコーナーキューブ29で反射された後再び真空セル33を透過し、ミラー35で反射された後PBS36で反射される。一方、分散被検光束は真空セル33と同一長さLの空気中を伝搬した後、コーナーキューブ29で反射され、再び空気中を伝搬しPBS36で分散参照光束と合波される。本実施例では分散干渉計30として光路長が1往復となる上記の構成を用いたが、被検光束と参照光束が平行な配置となる差動干渉計の構成であって、且つ参照光束が真空セル内を通る構成であれば他の干渉計構成を用いても構わない。例えば、差動平面干渉計は干渉計の波長補正用途に良く用いられているが、多波長光源10と分圧計測用光源20の波長帯域で使用可能な差動平面干渉計を分散干渉計として用いる事ができる。
【0026】
分散干渉計30近傍には図示されない環境計測器が配置され、分散干渉計の初期化時に使用する温度・気圧・湿度などの環境値を解析器70から取得可能であるものとする。
【0027】
分散干渉計30を射出した光束はDIM34で多波長光源10と分圧計測用光源20の光束に分離される。
【0028】
分圧計測用光源20の射出光束はDIM34で反射され第1分圧検出器40に入射する。第1分圧検出器40内ではPBS41で分散参照光束成分と分散被検光束成分に再び分離され、分散参照光束成分は検出器42、分散被検光束成分は検出器43でそれぞれの強度が検出される。検出器42で検出される光量をI1ref、検出器43で算出される光量をI1testとする。また、水蒸気の吸収線強度をS、吸収線の規格化形状関数をψ(λ)、分散干渉計30の被検光路における水蒸気の分圧をpw1とすると透過率の関係から式(3)で表わされる。
【0029】
【数3】

【0030】
検出器42、検出器43で得られる検出信号は解析器70で計測される。
【0031】
DIM34を透過した多波長光源10の射出光束はDIM37で基本波光束と2倍波光束に分離され、基本波が検出器38、2倍波は検出器39で検出される。検出器38および検出器39で検出される干渉信号をそれぞれ基本波分散信号I1meas(λ)、2倍波分散信号I1meas(λ)とすると、式(4)、(5)で表わされる。
【0032】
【数4】

【0033】
【数5】

【0034】
検出器38、検出器39で得られる検出信号は解析器70で計測される。
【0035】
一方、NPBS22で反射した光束は測長干渉計50に入射し、PBS51で2つに分割される。多波長光源10の射出光束に関しては、基本波光束と2倍波光束がPBS51を透過し、基本波周波数シフト光束と2倍波周波数シフト光束はPBS51で反射される。分圧計測光源20の射出光束はPBS51で2分割される。以降、PBS51を透過する光束を測長被検光束、反射する光束を測長参照光束と称す。測長参照光束はPBS51で反射された後、測長基準(測定基準位置)に固定された参照面52により反射される。参照面52としてはコーナーキューブを用いる。参照面52は必ずしも単独で測長基準に固定される必要はなく、PBS51と参照面52を一体の干渉計ユニットとし、そのユニットを測長基準に取り付けても構わない。参照面52で反射された測長参照光束は再びPBS51に入射後反射される。一方、PBS51透過後の測長被検光束は被検物体上に取り付けられた被検面53により反射される。被検面53もコーナーキューブを用いる。被検面53で反射された測長被検光束はPBS51に入射後透過し測長参照光束と合波される。
【0036】
本実施例では干渉計方式として被検面53及び参照面52にコーナーキューブを使用する線形干渉計方式を採用したが、平面干渉計方式や差動平面干渉方式を用いても構わない。
【0037】
測長干渉計50の射出光束はDIM64で多波長光源10の射出光束と、分圧計測用光源20の射出光束に分離される。
【0038】
DIM64を反射した分圧計測光源20の射出光束は第2分圧検出器60に入射する。第2分圧検出器60への入射光束は、第1分圧検出器40と同様にPBS61で測長参照光束成分と測長被検光束成分に分離され、それぞれ検出器62と検出器63で検出される。検出器62で検出される光量をI2ref、検出器63で算出される光量をI2testとすると、測長被検光路の光路上の平均水蒸気分圧をpw2、測長被検光束と測長参照光束の光路差の幾何学的距離をL、として式(6)の関係となる。
【0039】
【数6】

【0040】
検出器62と検出器63で得られる検出信号は解析器70で計測される。
【0041】
DIM64を透過した多波長光源10の射出光束はDIM57で基本波光束と2倍波光束に分離され、基本波が検出器58、2倍波は検出器59で検出される。検出器58および検出器59で検出される干渉信号をそれぞれ基本波測長信号I2meas(λ)、2倍波測長信号I2meas(λ)とすると、式(7)、(8)で表わされる。
【0042】
【数7】

【0043】
【数8】

【0044】
検出器58、検出器59で得られる検出信号は解析器70で計測される。
【0045】
以上で装置構成の説明を完了し、以下では図3に基づき解析器70内での計算方法について詳細を説明する。
【0046】
図3は本実施例の解析器70で実施される計算フローを示している。計算フローは、分散干渉計30の光路長と水蒸気分圧の検出結果から乾燥空気(水蒸気以外の空気)の分散比を算出する工程S107と、測長干渉計50の光路長と水蒸気分圧の検出結果と乾燥空気分散比から幾何学的距離を算出する工程S112を有する。点線はデータの流れを示している。
【0047】
計測が開始されると、工程S102の繰り返し計測ループが実行される。計測を所定の回数行って、計測を完了する。以下でiの添え字はi番目の計測ループの計測結果である事を示すものとする。
【0048】
工程S103では分散干渉計30の初期化の必要性を判断する。本実施例の分散干渉計30は相対測定型(測定履歴に対する相対的な位置変化を計測する)である。従って、最初の計測ループや干渉計光軸が遮光された場合などは測定値が不定となる為に初期化が必要となる。
【0049】
工程S103で初期化が必要と判断された場合には工程S104で分散干渉計周辺の環境計測を実施する。
【0050】
工程S105では分散干渉計30の光路長算出を行う。まず解析器70内部の位相計を用いて、基本波基準信号と基本波分散信号の位相差φ(λ)と、2倍波基準信号と2倍波分散信号の位相差φ(λ)の計測を行う。基本波と2倍波の光路長は、それぞれ式(9)で表される。
【0051】
【数9】

【0052】
ここでN11,N12はそれぞれの計測波長における干渉次数である。干渉次数N11,N12は式(10)或いは式(11)を用いて算出する。
【0053】
工程S103で初期化を実施した場合には、工程S104の環境計測結果を用い式(10)により干渉次数を算出する。ここでn(λ、t、p、pw)は環境計測値からの屈折率の算出式であり、Edlenの式やCiddorの式を用いる事ができる。また、round()は引数を整数に丸める関数を表すものとする。
【0054】
【数10】

【0055】
初期化が不要なi番目の計測ループにおいてはi−1番目の計測ループの計測値より式(11)に基づいて算出する。
【0056】
【数11】

【0057】
工程S106では水蒸気分圧の算出を行う。第1分圧検出器40の計測結果I1ref,I1testより、式(3)を用いて分散干渉計における水蒸気の分圧pw1は式(12)で算出される。
【0058】
【数12】

【0059】
工程S107では光路長計測結果から得られる光路長と水蒸気分圧の算出結果から、水蒸気以外の空気(乾燥空気,または成分気体以外の空気)の分散比を算出する。一般に空気の屈折率式は、
【0060】
【数13】

【0061】
と近似される。ここでDは、温度t、圧力p、二酸化炭素濃度xに依存する空気の密度項、K(λ)は乾燥空気の分散、g(λ)は水蒸気の分散である。式(13)は水蒸気分圧のみの表現であるが他の空気組成ガスに着目する場合も同様の定式化が可能である。具体的にはガス固有の分散項とガス分圧の積を式(13)に追加すれば良い。式(9)、式(12)より、乾燥空気の分散比は式(14)で算出する。
【0062】
【数14】

【0063】
以上で分散干渉計30側の算出フローを完了する。以下では測長干渉計50の算出フローを説明する。
【0064】
工程S108では測長干渉計50の初期化の必要性を判断する。工程S103と同様、最初の計測ループや干渉計光軸が遮光された場合などは測定値が不定となる為初期化が必要となる。
【0065】
工程S108で初期化が必要と判断された場合には工程S109で原点復帰を実施する。原点復帰では、被検体を駆動し、測長基準位置から既知の位置に配置されたフォトスイッチ通過時の測長値を用いて干渉次数を決定する。原点復帰の際には測長干渉計周辺の環境計測も同時に実施する。干渉次数の詳細な決定方法は工程S110で詳細を述べる。
【0066】
工程S110では測長干渉計50の光路長算出を行う。分散干渉計30と同様、解析器70内部の位相計により、基本波基準信号と基本波測長信号の位相差φ(λ)と、2倍波基準信号と2倍波測長信号の位相差φ(λ)の計測を行う。基本波と2倍波(複数の波長)の光路長は測長被検光束と測長参照光束の光路差の幾何学的距離をLとして式(15)で表される。
【0067】
【数15】

【0068】
式(15)においてN21,N22は干渉次数である。工程S109で原点復帰を行った場合には、フォトスイッチの位置をLpsとして式(16)で干渉次数を算出する。
【0069】
【数16】

【0070】
初期化が不要なi番目の計測ループにおいてはi−1番目の計測ループの計測結果より式(17)で算出する。
【0071】
【数17】

【0072】
工程S111では測長干渉計50の測長被検光束の光路における水蒸気分圧の算出を行なう。第2分圧検出器60の計測結果I2ref,I2testは式(6)で表される為、測長干渉計における水蒸気の分圧pw2は式(18)で算出される。
【0073】
【数18】

【0074】
ここでOPL(λ)はLの近似値として使用している。一般に光路長と幾何学的距離は10−4オーダで一致する為、分圧の計算には十分な精度が得られる。精度が不足する場合には工程S112で算出されるLを用いて分圧を再計算する事で高精度化を行えばよい。
【0075】
工程S112では測長被検光束と測長参照光束の光路差の幾何学的距離の算出を行う。式(13)の屈折率式を用いて式(15)の光路長式を展開すると式(19)を得る。
【0076】
【数19】

【0077】
式(19)から空気密度項D(t、p、x)を除去し幾何学的距離Lについて解くと式(20)を得る。
【0078】
【数20】

【0079】
式(20)を用い、工程S107の乾燥空気分散比K(λ)/K(λ)、工程S110の光路長OPL(λ)、OPL(λ)、工程S111の水蒸気分圧pw2を代入する事でLの算出が実現する。
【0080】
以上述べたように本発明に依れば、分散干渉計30と測長干渉計50の空気組成が一致しない場合でも、空気組成の不一致をもたらすガスの分圧を計測する事でその影響を補正する事が可能となる。更に、共通な空気組成成分については測長環境下の分散比を実測して計算に反映する事で高精度に幾何学的距離の算出が可能となる。
【実施例2】
【0081】
つぎに、図4を用いて本発明の実施例2について説明する。図4は本発明の実施例2の装置構成図である。
【0082】
本実施例では、波長走査光源110を追加し多波長光源100を構成し、波長走査光源110の波長における光路長を検出するための検出器120、130、140を追加する事で干渉次数を含む絶対光路長を直接計測可能としている。
【0083】
以下では図4を用いて詳細を説明する。
【0084】
波長走査光源110を射出した光束はNPBS113で2つに分割され、一方は周波数シフトユニット111に入射する。以下では周波数シフトユニット111を透過する光束を波長走査周波数シフト光束、他方を波長走査光束と称す。
【0085】
波長走査光源110の波長λは時間的に変化し、短波長端の波長λ41と長波長端の波長λ42間の走査を繰り返す。ここで波長λ41及び波長λ42は図示されないガスセルやエタロン等の波長基準に対し安定化され、その波長の安定性は保証されているものとする。
【0086】
図5に基本波の波長λと2倍波の波長λと波長走査光源の波長λ41とλ42の関係を示す。後述する絶対光路長の干渉次数決定の為に、λとλ41の波長差は10nm程度、λ41とλ42の波長差は数10pm程度とする。λ41とλ42の波長差を少なくすることでDFB−LD等の安価な光源でも波長走査が実現可能となる。
【0087】
周波数シフトユニット111は他の周波数シフトユニットと同様に周波数をdfだけシフトした後、入射成分と直交成分に偏光を回転して射出する。周波数シフトユニット111を射出した波長走査周波数シフト光束はNPBS114で波長走査光束と合波された後に2つに分割される。NPBS114を通過後、波長走査基準信号検出器120に入射する光束を波長走査基準光束、他方を波長走査計測光束と称す。波長走査基準光束は、波長走査基準信号検出器120において式(21)で表わされる干渉信号Iref(λ)を生成する。
【0088】
【数21】

【0089】
ここでλは波長走査光束の真空波長、OPD(λ)は波長走査基準信号検出器120へ到達するまでの波長走査周波数シフト光束と波長走査光束の光路長差である。干渉信号Iref(λ)は解析器70で計測される。
【0090】
NPBS114を通過した波長走査計測光束はDIM112で基本波計測光束と合波され、実施例1における基本波計測光束や2倍波計測光束と同様に分散干渉計30及び測長干渉計50に入射しそれぞれの干渉信号を生成する。波長走査計測光束の分散干渉計30における干渉信号は検出器130で検出され、その干渉信号(波長走査分散信号)は式(22)で表わされる。
【0091】
【数22】

【0092】
同様に、波長走査計測光束による測長干渉計50における干渉信号は検出器140で検出されその検出信号(波長走査測長信号)は式(23)で表わされる。
【0093】
【数23】

【0094】
以上で装置構成に関する説明を完了する。以下では図6に基づき計測フローの説明を行う。本実施例の計測フローは、初期化工程が不要となる点と、光路長算出工程が絶対光路長算出工程となる点が、実施例1に対する変更点である。
【0095】
工程S102は実施例1と同様である為説明を省略する。
【0096】
工程S200では分散干渉計30の絶対光路長を算出する。一般に2つの波長λ、λのビートに相当する合成波長を用いて測長範囲を拡大する方法は良く知られている。具体的には2つの波長λ、λの合成波長をΛab=λ・λ/|λ―λ|とするとき、干渉位相をそれぞれφ、φとして、測長値は波長λと合成波長Λabそれぞれについて式(24)で表される。
【0097】
【数24】

【0098】
ここでN、Nabはそれぞれ波長λと合成波長Λabの干渉次数、n(λ)、n(λ,λ)は波長λの屈折率と合成波長Λabの群屈折率である。波長λによる表現と、合成波長Λabによる表現のいずれも干渉次数項が存在する為、波長の整数倍の曖昧差は存在するものの、Λab>>λである為、合成波長により測長範囲が拡大される事になる。
【0099】
分散干渉計30の3つの波長λ、λ41、λ42について、λとλ41の合成波長をΛ14、λ41とλ42の合成波長をΛ44とすると式(25)を得る。
【0100】
【数25】

【0101】
先述した様に、波長走査光源110の波長をλ<<(λ41−λ)<<(λ42−λ41)なる関係とした為、合成波長はλ<<Λ14<<Λ44となる。また、本実施例では合成波長による測長精度が短い合成波長又は波長の1/2以下となるように合成波長を設定している。従って最長の合成波長Λ44の計算結果から逐次的にそれぞれの干渉次数を決定すれば波長λの干渉次数Nを決定する事ができる。更に本発明では、最長の合成波長Λ44を波長走査により生成している為、干渉次数N44は波長λ41からλ42までの波長走査時に発生する位相飛び数に相当する。従ってこれをカウントする事で最長合成波長Λ44以上の測長範囲についても絶対測長が実現する。具体的には干渉次数Nは式(26)で算出する。
【0102】
【数26】

【0103】
ここで屈折率および群屈折率はほぼ等しいとして省略した。その差が無視できない場合には推定される使用環境に基づき固定値を代入する、或いは環境計測を行ってその値を用いても構わない。
【0104】
以上の方式によれば合成波長による計測結果は干渉次数Nの決定にしか用いない為、絶対測長を実現しながらも実施例1に示した通常の干渉計測と同等の精度で光路長の計測が可能である。
【0105】
尚、本実施例では波長走査光源110を追加する事で干渉次数決定を実現したが、最長合成波長Λ44の最大値が測長範囲の最大値以上であれば波長走査の必要はない。また必ずしも波長走査を行わなくても光源を追加し合成波長を拡大する事によっても絶対測長の実現は可能である。その他の手段としては光源1の波長を走査することにより追加の光源なしで絶対測長を実現しても構わない。ただしこの場合には光源1に必要な波長走査量は10nm程度と大きくなる為、DFB−LDではなく外部共振器型半導体レーザ等の使用が必要になる。
【0106】
式(26)により基本波分散計測光束の干渉次数Nが決定した後、2倍波分散計測光束の干渉次数Nは式(27)で算出する。
【0107】
【数27】

【0108】
干渉次数Nの算出においても基本波と2倍波の屈折率比が必要になるが、想定される測長干渉計の使用環境に応じて、固定値を用たり、環境計測を行ってその結果から屈折率比を算出しても構わない。
【0109】
以上で干渉次数N,Nが決定するため、式(9)を用いて絶対光路長を算出し、工程S200を完了する。
【0110】
工程S106〜工程S107は実施例1と同様である為説明を省略する。
【0111】
工程S210では、工程S200と同様に波長走査光束と基本波光束の測定結果に基づき絶対光路長の算出を行う。詳細な手続きは工程S200と同様である為省略する。
【0112】
工程S111では実施例1と同様に、工程S107の空気分散比算出結果と、工程S210の絶対光路長算出結果と、工程S111の測長干渉計50の水蒸気分圧計測結果より、測長干渉計50の参照面52と被検面53の幾何学的距離Lを算出する。
【0113】
以上説明したとおり、本実施例に依れば、絶対測長が可能となる為、初期化動作が不要となり計測の利便性が向上する。さらにレーザトラッカなど相対測長が困難な用途においても空気屈折率の揺らぎの影響を受ける事無く高精度な測長が可能となる。
【符号の説明】
【0114】
10 多波長光源
20 分圧計測光源
30 分散干渉計
40 第1分圧検出器
50 測長干渉計
52 参照面
53 被検面
60 第2分圧検出器
70 解析器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉計測用の多波長光源を用いて、参照面と被検面の間の光路長差を計測して該光路長差の幾何学的距離を算出する光波干渉計測装置において、
分圧計測用光源と、
前記多波長光源の波長における空気の分散を計測する分散干渉計と、
前記分散干渉計における空気の成分気体の分圧を計測する第1分圧検出器と、
前記多波長光源の波長における前記参照面と前記被検面の間の光路長差を計測する測長干渉計と、
前記測長干渉計における前記成分気体の分圧を計測する第2分圧検出器と、
前記第1分圧検出器の検出結果によって前記分散干渉計における前記成分気体以外の空気分散比を算出し、前記成分気体以外の空気分散比と前記第2分圧検出器の検出結果から前記測長干渉計の空気の分散を算出し、前記参照面と前記被検面の間の光路長差の幾何学的距離を算出する解析器と、
を有することを特徴とする光波干渉計測装置。
【請求項2】
前記解析器は、
以下の式を用いて前記参照面と前記被検面の間の光路長差の幾何学的距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の光波干渉計測装置。
【数28】


【数29】


ここで、K(λ)/K(λ)は前記成分気体以外の空気分散比である。λは前記多波長光源の基本波の波長である。λは前記多波長光源の2倍波の波長である。OPL(λ),OPL(λ)は前記分散干渉計における前記多波長光源の各波長の光路長である。Lは前記分散干渉計の真空セルの長さである。g(λ),g(λ)は前記多波長光源の各波長の前記成分気体の分散である。Pw1は前記第1分圧検出器における前記成分気体の分圧である。Lは前記幾何学的距離である。OPL(λ),OPL(λ)は前記測長干渉計における前記多波長光源の各波長の光路長である。Pw2は前記第2分圧検出器における前記成分気体の分圧である。
【請求項3】
前記成分気体の分圧は、前記成分気体の透過率から算出されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光波干渉計測装置。
【請求項4】
前記分圧計測用光源の波長は前記成分気体の吸収線波長であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光波干渉計測装置。
【請求項5】
前記成分気体は水蒸気であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光波干渉計測装置。
【請求項6】
前記解析器は、前記多波長光源の有する複数の波長の光路長計測結果から、前記分散干渉計及び前記測長干渉計の光路長の干渉次数を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の光波干渉計測装置。
【請求項7】
前記多波長光源の有する波長の少なくとも一つは波長走査が可能であり、該波長と前記多波長光源の有する他の波長とで合成波長を生成することを特徴とする請求項6に記載の光波干渉計測装置。
【請求項8】
2つの波長λ、λの合成波長をλ・λ/|λ−λ|とするとき、
前記多波長光源の有する複数の波長のうち2つの波長の合成波長、及び前記合成波長と前記多波長光源の有する複数の波長のうちの他の波長あるいは他の前記合成波長を更に合成して得られる合成波長の最大値が前記分散干渉計及び前記測長干渉計の測長範囲の最大値より大きいことを特徴とする請求項6に記載の光波干渉計測装置。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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