説明

光路変換ミラーおよびその作製方法

【課題】形状精度及び歩留まり良く製造可能な光路変換ミラー及びその作製方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る光路変換ミラー109は、ミラー溝104の内部に形成され、該ミラー溝底面と少なくとも一つの壁面とで挟まれる領域に、硬化させられた液状硬化物質からなる斜面構造体108を有する光路変換ミラー109であって、該ミラー溝104の少なくとも一つの壁面に切れ込み形状112を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、光路変換ミラーに関し、より詳細には、平面光導波回路内を伝播する導波光の入出力において使用される、反射面の角度及び形状制御性の高い光路変換ミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
平面光導波回路と他の光機能素子、例えばフォトダイオードやレーザーダイオードとの光結合構造として、光導波回路内の導波路端部に光路変換ミラーを設け、回路面に対し略垂直方向に光を入出力する垂直光路変換構造が有望視されている。
【0003】
そこで、石英系光導波路をはじめとする各種導波路材料に幅広く適用でき、鏡面精度、光導波路とのアラインメント精度が極めて高く、高性能かつ生産性の高い光路変換ミラーの構造及び作製方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図7(a)に、従来の光路変換ミラーの構造を示す(特許文献1参照)。光導波回路内の導波路の一端部に、コア701より深いミラー溝702(特許文献1においては、「光取り出し溝」と表現されている)が設けられ、このミラー溝702の内部に硬化させられた液状硬化物質からなるミラー支持体斜面703が形成され、ここへ金などの反射材704が形成された構造となっている。このミラー支持体の表面は液状硬化物質の表面張力により極めて平滑なものとなるため、非常に鏡面精度の高いミラーを得ることができる。また、ミラー支持体は光導波路内の溝の中に直接形成されるため、光導波路とのアラインメント精度も高い。
【0005】
上記光路変換ミラーの作製方法としては、まず光導波路が形成された光回路にミラー溝702を形成し、次にミラー溝内部に液状硬化物質に対し高い接触角θHを呈する高接触角領域と、液状硬化物質に対し低い接触角θLを呈する低接触角領域とを形成し、その後に液状硬化物質を注入して前記低接触角領域を濡れさせ、硬化させることによりミラー支持体斜面703を形成し、最後に支持体斜面に金などの反射材704を形成する。ここで、所望の角度θを有するミラー支持体斜面703を形成するためには、θL≦θ≦θHが成立している必要がある。このような高接触角領域と低接触角領域とを形成する方法としては、以下のような方法が示されている。すなわち、基板の斜め上方35.3度の角度から、Tiを0.1μmの厚みで斜めに蒸着を行う。すると、図7(b)の網掛け部分705は影となって、ここにはTiは付着しない。次に、基板を回転させながら、影ができないようにCrを0.1μmの厚みで全面に蒸着する。希フッ酸液に浸漬してTiをCrでリフトオフすると、図7(b)の網掛けの領域705は、液状硬化物質に対して濡れが良く(低接触角領域)、一方、それ以外の領域は表面処理剤が残るため液状硬化物質に対して濡れが悪くなる(高接触角領域)。ここへ液状硬化物質を供給すると、自動的に高接触角領域と低接触角領域との境界で液状硬化物質がせき止められるので、容易にミラー支持体斜面703を形成することができる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−84183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、液状硬化物質を用いた従来の光路変換ミラーの作製においては、前述の通り、液状硬化物質に対し高接触角を与える表面処理剤(以下、コート剤という)をミラー溝底面及び壁面に塗布し、パタニングする工程が含まれる。しかしながら、一般にエッチングプロセスによって形成される擬垂直なミラー溝壁面にコート剤を簡便かつ安定的に塗布することは困難であった。実際に、壁面上へのコート剤塗布にムラが生じクラッド材料が露出してしまったり、塗布したコート剤が薄すぎて壁面荒れによる凸凹がコート表面に現れてしまったりすることで濡れ性が向上してしまう等、塗布状態は不安定であった。図8は、このような塗布状態の不安定性に起因する問題の一例を示す図であり、従来技術により作製した光路変換ミラーの上面図、およびミラー溝壁面とミラー支持体801を形成する液状硬化物質が接触する部分の拡大斜視図である。このミラー溝には、コート剤の塗布状態が不安定である部分802、及びコート剤の塗布状態が安定している部分803がある。図8(a)では、ミラー溝壁面に対して液状硬化物質がせき止められ、設計どおりのミラー支持体形状が得られているが、図8(b)に示すように、本来せき止めたい位置を越えて液状硬化物質が浸み出してしまったために、ミラー支持体形状が歪んでしまうこともある。ミラー支持体形状の歪みは、ミラー反射角度の精度劣化や反射ビーム形状の歪みによる搭載素子との光結合効率劣化の要因となる。また、浸み出した液状硬化物質がミラー溝壁面に沿ってミラー溝全体に行き渡り、ミラー溝を埋めてしまうという現象も生じていた。以上のような現象は、ミラー性能と製造歩留まりの低下をもたらすため、大きな問題となっていた。
【0008】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、作製工程中にミラー溝壁面の濡れ性制御を安定かつ簡便に行うことができ、それによって形状精度及び歩留まり良く製造可能な光路変換ミラー及びその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ミラー溝の内部に形成され、該ミラー溝底面と少なくとも一つの壁面とで挟まれる領域に、硬化させられた液状硬化物質からなる斜面構造体を有する光路変換ミラーにおいて、該ミラー溝の少なくとも一つの壁面に切れ込み形状を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、基板上に形成された、下部クラッド、コア、上部クラッドからなる光導波路の一端部に設けられた、上部クラッド上面から少なくともコアよりも深く掘り込まれたミラー溝の内部に形成され、該ミラー溝底面と少なくとも一つの壁面とで挟まれる領域に硬化させられた液状硬化物質からなる斜面構造体を有する、光導波路の入出力光を基板上方又は下方に光路変換するミラーにおいて、該ミラー溝の少なくとも一つの壁面に切れ込み形状を有することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の光路変換ミラーであって、前記ミラー溝壁面の切れ込みが前記ミラー溝底面と交わる点を基点として、前記ミラー溝壁面及び前記ミラー溝底面にパタニングした濡れ性の境界線に沿って、濡れ性の良い領域が液状硬化物質によって埋められたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の光路変換ミラーであって、前記ミラー溝壁面の切れ込み内部が、少なくともミラー斜面形成工程中の一時点において、前記液状硬化物質に対し濡れ性の悪い物質によって覆われることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、光路変化ミラーであって、導波路コアが露出する第一の壁面と、前記第一の壁面に対し、略平行に対向する第二の壁面と、前記第二の壁面に対し、略垂直に交わる第三の壁面及び第四の壁面と、前記第二の壁面に沿って、硬化させられた液状硬化物質からなるミラー支持体とを備え、前記第三の壁面及び前記第四の壁面に切れ込みが形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、光路変換ミラーであって、導波路コアが露出する第一の壁面と、前記第一の壁面に対し、略平行に対向する第二の壁面と、前記第二の壁面に対し、略垂直に交わる第三の壁面及び第四の壁面と、前記第四の壁面に略垂直に交わる第五の壁面と、前記第二の壁面及び前記第四の壁面に沿って、硬化させられた液状硬化物質からなるミラー支持体とを備え、前記第三の壁面及び前記第五の壁面に切れ込みが形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、光路変換ミラーであって、導波路コアが露出する第一の壁面と、前記第一の壁面に対し、略平行に対向する第二の壁面と、前記第二の壁面に対し、略垂直に交わる第三の壁面及び第四の壁面と、前記第三の壁面に対し、略垂直に交わる第五の壁面と、前記第四の壁面に対し、略垂直に交わる第六の壁面と、前記第二の壁面、前記第三の壁面、及び前記第四の壁面に沿って、硬化させられた液状硬化物質からなるミラー支持体とを備え、前記第五の壁面及び前記第六の壁面に切れ込みが形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、基板上に形成された、下部クラッド、コア、上部クラッドからなる光導波路の一端部に設けられ、光導波路の入出力光を基板上方又は下方に光路変換する光路変換ミラーの作製方法であって、前記光導波路の一端部に上部クラッド上面から少なくともコアよりも深くミラー溝を形成する第一の工程と、該ミラー溝の少なくとも一部を撥水処理する第二の工程と、前記ミラー溝の前記撥水処理されていない底面と前記ミラー溝壁面とに挟まれた部位に液状硬化物質を供給し傾斜面を形成する第三の工程と、前記液状硬化物質を硬化させる第四の工程と、前記硬化した液状硬化物質の傾斜面上に反射膜を形成する第五の工程とを備え、前記第一の工程において、前記ミラー溝の少なくとも一つの壁面に切れ込み形状を形成することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の光路変換ミラーの作製方法であって、前記第二の工程は、撥水処理のため液状のコート剤を前記ミラー溝内部全面に塗布する工程を含み、前記コート剤塗布工程において、前記コート剤が毛管効果により前記切れ込みに吸い上げられることで、前記切れ込み内部が周囲の壁面より厚くコートされることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項8または9に記載の光路変換ミラーの作製方法であって、前記第二の工程は、感光性撥水コート膜を前記ミラー溝内部全面に形成し、露光現象によって所望のパタニングを行う工程を含むことを特徴とする。
【0019】
壁面に切れ込み形状を有するミラー溝内にコート剤を塗布すると、コート剤は毛管効果によってこの切れ込み内部に吸い上げられるため、切れ込みの内部はコート剤によって充填されたような状態となる。このため、切れ込み内部にはコート剤乾燥後も周囲の壁面より厚くコート剤が残留し、少なくとも同部分に関しては、塗布ムラや壁面荒れの影響により濡れ性が不安定になるという従来の問題を回避することができる。切れ込み以外の部分は従来通り濡れ性の不安定な状態となるが、所望のミラー支持体形状を得るためには、液状硬化物質を停止させたい部分にのみ濡れ性の悪い状態が形成されていればよいので、切れ込みの位置を適切に設計すればその他の部分の濡れ性の不安定さは問題にならない。すなわち、液状硬化物質によって濡らされるべき部分に関しては、後にコート剤をパタニング除去するので塗布状態の不安定性は問題にならず、また液状硬化物質によって濡らされるべきでない部分のうち、液状硬化物質と接する部分(注入した液状硬化物質を停止させたい部分)を除く部分については、そもそも濡れ性がいかなる状態であろうとミラー支持体の形状には影響がない。従って、ミラー溝壁面の適切な位置に切れ込みを形成すると、所望のミラー支持体形状を安定して得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、作製工程中にミラー溝壁面の濡れ性制御を安定かつ容易に行うことができ、それによって形状精度及び歩留まりの高い光路変換ミラーを形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に示す実施例において、光導波回路については、Si基板上に形成されたSiO2を主成分とするガラスからなる石英系光導波回路を用いる。光導波回路としては、他にも、ポリマー導波路や、石英基板上に形成されたガラス導波路などを用いることもできる。クラッド及びコアは火炎堆積法により形成することが好ましいが、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成しても良い。また、ミラー溝はドライエッチング法により作製する。ミラー斜面構造体を形成するための液状硬化物質としては、エポキシ系接着剤樹脂を用いる。液状硬化物質としては、他にも、アクリル樹脂等を用いることもできる。また、形成されたミラー斜面構造体は、液状硬化物質を硬化させた後にその表面に金を蒸着させるなどして、反射材を形成することにより光路変換ミラーとする。
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、複数の図面において同一の符号は同一物を示し、その繰り返しの説明は省略する。
(第1の実施例)
図1に、本発明の実施例1にかかる光路変換ミラーの構成を示す。30μmの下部クラッド層101、6μmのコア層102、20μmの上部クラッド層103からなる石英系光導波回路内の光導波路の一端部に、深さ40μmのミラー溝104およびそれに連接する液状硬化樹脂供給のための流路溝105が形成されている。ミラー溝104の深さは、コアより深ければよいので、通常の光導波回路の上部クラッド層103の厚さを考慮すると、典型的には20〜100μmである。導波路コア102が露出する第一の壁面106に対し、第二の壁面107が略平行に対向し、この第二の壁面107に沿って、硬化させられた液状硬化樹脂からなるミラー支持体斜面108が形成されている。導波路コア102の延長線とミラー支持体斜面108の交点を含むミラー支持体斜面上の一部分には、出射光を反射するためのAuミラー109が形成されている。ミラー支持体の底面の幅はミラー溝深さと同じく40μmであり、従って斜面の角度は45°である。
【0023】
上面から見た第二の壁面107の幅は180μmであり、その両端でそれぞれ第三の壁面110、及び第四の壁面111と略垂直に交わっている。第三の壁面110、及び第四の壁面111には、水平断面形状が一辺5μmの矩形であるような切れ込み112が形成されている。切れ込み112の水平断面の形状は矩形に限らず楕円形や三角形等でもよく、その大きさは、壁面に対する開口部の幅を「切れ込みの開口幅」、壁面に直交する方向についての幅を「切れ込みの奥行き」と定義すると、毛管効果によりコート剤を吸い上げる効果を充分に発揮させる観点から、切れ込みの開口幅および奥行きがそれぞれ1μm〜30μm程度とすることが望ましい。
【0024】
ミラー溝底面及び壁面にはコート剤113が塗布され、パタニングされている。ミラー支持体斜面108とミラー溝底面との交線は、ミラー溝底面のコート剤パタンの境界とほぼ一致している。また、ミラー溝底面のコート剤パタンの境界線と第三の壁面110及び第四の壁面111との交点は、第三の壁面110及び第四の壁面111上の切れ込み112の位置とほぼ一致している。
【0025】
図2は、第二の壁面107と切れ込み112付きの第三の壁面110を拡大したミラー溝の斜視図であり、本実施例にかかる光路変換ミラーにおける切れ込み112の効果について、作製工程を追いながら説明するものである。
【0026】
まず、図2(a)に示すように、切れ込み112付きの壁面を有するミラー溝を形成する。切れ込み112は、ミラー溝底面まで到達している。
【0027】
次に、コート剤をスピンコート法によって塗布する。塗布方法としては他にスプレーコート法などを用いることもできる。ここでコート剤としては、具体的には感光性の撥水コート剤を用いる。感光性撥水コート剤としては、パタニング後に液状硬化樹脂により濡らされるべき部分のコート剤除去を確実にする観点から、ネガ型のものが望ましい。また、ミラー溝底面と壁面のコーナー部分や、後述のように壁面の切れ込み内部にはコート剤が厚く塗布されるため、これを確実に感光させる観点からコート剤は略透明であることが望ましい。
【0028】
コート剤は、図2(b)に示すように、毛管効果により切れ込み内部に吸い上げられるため、切れ込み内部に留まり、切れ込み内部では、感光・乾燥後も周囲の壁面より厚くコートされた状態で安定する。具体的には、切れ込み部を除く壁面のコート厚が、感光・乾燥後で0.5μm以下(膜厚ムラあり)であるような塗布状態においても、切れ込み内部での膜厚は、切れ込みの開口幅及び奥行きにも拠るがおよそ1〜5μm程度で均一となり、これは壁面の荒れのオーダー(数100nm)に対し充分大きいためコート表面は平滑となり、液状硬化樹脂に対し良好な撥水性を発揮する。
【0029】
なお、第二の壁面、及び第三の壁面110の、切れ込み部を除く部分113aのコート剤塗布状態は不安定だが、このうち第二の壁面107側の部分については次工程でコート剤を除去するため塗布状態は問題にならず、また第一の壁面側の部分については最終的に液状硬化樹脂と接触しないためこれも塗布状態は問題にならない。一方、ミラー溝底面、及び第三の壁面110の切れ込み部分113bのコート剤塗布状態は安定している。
【0030】
コート剤を加熱乾燥させた後、通常のフォトリソグラフィによりパタニングする。具体的には、図2(c)に示すように、切れ込みより第二の壁面側の部分をマスクして露光し、現像することで、図2(d)に示すようなパタンを形成する。ミラー溝底面のパタン境界と合うように切れ込みを配置してあるため、濡れ性の良い領域と悪い領域との境界、すなわち液状硬化物質に対する停止線が、ミラー溝の底面から壁面にかけて連続する形で形成される。
【0031】
なお、コート剤のパタニング方法としては、Tiを斜め蒸着した後、Crを全面に蒸着し、希フッ酸液に浸漬してTiでCrをリフトオフした後、コート剤を全面に塗布し、Crエッチング液でコート剤をリフトオフする方法(以下、斜め蒸着法という)を用いることもできる(特許文献1参照)。しかしながら斜め蒸着法では、濡れ性の良い領域と悪い領域との境界線、すなわち本来液状硬化物質をせき止めたい停止線が、ミラー溝壁面上においては鉛直方向に対して斜めとなる。一方で壁面上の切れ込みは通常のエッチングプロセスにより擬鉛直方向に形成されるため、切れ込みと斜め蒸着法による濡れ性の境界線とを重ねることはできない。従ってこの場合、例えば図2(g)に示すように、第三の壁面上の濡れ性境界線とミラー溝底面との交点が、切れ込みとミラー溝底面との交点に一致するようなパタンとすることで、濡れ性境界線を越えて液状硬化物質が浸み出した場合でもミラー溝全体を埋めてしまわないようにするための堤防として、切れ込みを機能させることはできる。しかしながら、液状硬化物質が、濡れ性境界線または切れ込みのどちらで停止するかは不安定であるため、形状安定性に関しては前述のフォトリソグラフィによりコート剤をパタニングする方法より劣ってしまう。この点において、切れ込みの効果を最大限に生かすためには、コート剤のパタニング方法として斜め蒸着法を用いるよりフォトリソグラフィを用いる方が好ましい。
【0032】
次に、図2(e)に示すように、液状硬化樹脂201を供給し、ミラー支持体斜面を形成する。壁面の切れ込み部分は確実に濡れ性の悪い状態となっているため、液状硬化物質は停止線上で確実に停止する。これを加熱し硬化させることで、所望の形状を有するミラー支持体を、形状精度及び歩留まり良く得ることができる。
【0033】
ミラー支持体形成後は、コート剤はそのまま残しても良いが、KOH溶液等を用いて除去しても良い。但し、コート剤は撥水性であるため除去に用いる薬品に対する濡れも悪く、除去するためには長時間の浸漬や超音波等による物理的な除去促進が必要となるため、除去工程の作業負荷は大きい。したがって、あらかじめコート剤をパタニングする工程において、必要最小限パタンのみを残し他の部分を除去してしまうことで、ミラー支持体形成後のコート剤除去工程を不要とすることが望ましい。
【0034】
最後に、図2(f)に示すように、ミラー支持体斜面上にCrを下地としてAuを蒸着させることで反射面を形成し、ミラーの完成となる。
【0035】
(第2の実施例)
図3は、本発明の実施例2にかかる光路変換ミラーの上面図(a)及び斜視図(b)である。本実施例では、ミラー支持体はL字型となっている。すなわち、導波路コア301が露出する第一の壁面302に対し、第二の壁面303が略平行に対向し、第三の壁面304、及び第四の壁面305がそれぞれ第二の壁面303に略垂直に交わり、さらに第五の壁面306が第四の壁面305に略垂直に交わり、第二の壁面303及び第四の壁面305に沿って、硬化させられた液状硬化樹脂からなるミラー支持体が形成されている。本実施例では、第三の壁面304及び第五の壁面306に、切れ込み307が形成されている。
【0036】
(第3の実施例)
図4は、本発明の実施例3にかかる光路変換ミラーの上面図(a)及び斜視図(b)である。本実施例では、ミラー支持体はコの字型となっている。すなわち、導波路コア401が露出する第一の壁面402に対し、第二の壁面403が略平行に対向し、第三の壁面404、及び第四の壁面405がそれぞれ第二の壁面403に略垂直に交わり、さらに第五の壁面406及び第六の壁面407がそれぞれ第三の壁面404及び第四の壁面405に略垂直交わり、第二の壁面403、第三の壁面404及び第四の壁面405に沿って、硬化させられた液状硬化樹脂からなるミラー支持体が形成されている。本実施例では、第五の壁面406及び第六の壁面407に、切れ込み408が形成されている。
【0037】
(第4の実施例)
図5は、本発明の実施例4にかかる光路変換ミラーの上面図(a)及び斜視図(b)である。本実施例では、ミラー支持体は実施例1と同じくI型となっているが、第三の壁面501、及び第四の壁面502にそれぞれ切れ込み503を複数設けてある。このような形状とすることで、万一、一つの切れ込みに異物等が混入しコート剤の塗布不良が発生したとしても、他の切れ込みにより液状硬化物質を停止させることができるため、液状硬化物質によりミラー溝全体が埋められてしまうような不良の発生をより確実に防止することができる。
【0038】
(第5の実施例)
図6は、本発明の実施例5にかかる光路変換ミラーを用いた光導波路の上面図である。ミラー溝壁面に切れ込みを付加された光路変換ミラーが、250μmピッチのアレイ状に配置されている。入射導波路アレイ601と直交する方向についてのミラーの幅は180μmであり、各ミラー間の幅70μmのスペースをスルー導波路602が通過する構成となっている。この回路上に250μmピッチのフォトダイオードアレイ素子を搭載することで、多チャネルのモニタ回路を非常にコンパクトな形態で実現することができる。各ミラー溝壁面の切れ込みにより、形状精度及び製造歩留まりよくミラーを形成することができるため、このような多チャネルミラーアレイの特性均一性、および回路としての歩留まりは、従来法に比べ大きく向上している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1にかかる光路変換ミラーの上面図(a)及び断面図(b)である。
【図2】本発明の実施例1にかかる光路変換ミラーの部分的な斜視図であり、作製工程を追いながら本発明の効果が得られる原理について説明するための模式図((a)〜(g))である。
【図3】本発明の実施例2にかかる光路変換ミラーの上面図(a)及び斜視図(b)である。
【図4】本発明の実施例3にかかる光路変換ミラーの上面図(a)及び斜視図(b)である。
【図5】本発明の実施例4にかかる光路変換ミラーの上面図(a)及び斜視図(b)である。
【図6】本発明の実施例5にかかる光路変換ミラーを用いた光導波路の上面図である。
【図7】従来の光路変換ミラーの構造を示す図である((a)及び(b))。
【図8】従来の光路変換ミラーの構造を示す図である((a)及び(b))。
【符号の説明】
【0040】
101 下部クラッド層
102 導波路コア層
103 上部クラッド層
104 ミラー溝
105 液状硬化樹脂供給のための流路溝
106 第一の壁面
107 第二の壁面
108 ミラー支持体斜面
109 Auミラー
110 第三の壁面
111 第四の壁面
112 切れ込み
113 コート剤
113a コート剤の塗布状態が不安定である部分
113b コート剤の塗布状態が安定している部分
201 液状硬化樹脂
301 導波路コア
302 第一の壁面
303 第二の壁面
304 第三の壁面
305 第四の壁面
306 第五の壁面
307 切れ込み
401 導波路コア
402 第一の壁面
403 第二の壁面
404 第三の壁面
405 第四の壁面
406 第五の壁面
407 第六の壁面
408 切れ込み
501 第三の壁面
502 第四の壁面
601 入射導波路アレイ
602 スルー導波路
701 コア
702 ミラー溝
703 ミラー支持体斜面
704 反射材
705 低接触角領域
801 ミラー支持体
802 コート剤の塗布状態が不安定である部分
803 コート剤の塗布状態が安定している部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラー溝の内部に形成され、該ミラー溝底面と少なくとも一つの壁面とで挟まれる領域に、硬化させられた液状硬化物質からなる斜面構造体を有する光路変換ミラーにおいて、
該ミラー溝の少なくとも一つの壁面に切れ込み形状を有することを特徴とする光路変換ミラー。
【請求項2】
基板上に形成された、下部クラッド、コア、上部クラッドからなる光導波路の一端部に設けられた、上部クラッド上面から少なくともコアよりも深く掘り込まれたミラー溝の内部に形成され、該ミラー溝底面と少なくとも一つの壁面とで挟まれる領域に硬化させられた液状硬化物質からなる斜面構造体を有する、光導波路の入出力光を基板上方又は下方に光路変換するミラーにおいて、
該ミラー溝の少なくとも一つの壁面に切れ込み形状を有することを特徴とする光路変換ミラー。
【請求項3】
前記ミラー溝壁面の切れ込みが前記ミラー溝底面と交わる点を基点として、前記ミラー溝壁面及び前記ミラー溝底面にパタニングした濡れ性の境界線に沿って、濡れ性の良い領域が液状硬化物質によって埋められたことを特徴とする請求項2に記載の光路変換ミラー。
【請求項4】
前記ミラー溝壁面の切れ込み内部が、少なくともミラー斜面形成工程中の一時点において、前記液状硬化物質に対し濡れ性の悪い物質によって覆われることを特徴とする請求項2または3に記載の光路変換ミラー。
【請求項5】
導波路コアが露出する第一の壁面と、
前記第一の壁面に対し、略平行に対向する第二の壁面と、
前記第二の壁面に対し、略垂直に交わる第三の壁面及び第四の壁面と、
前記第二の壁面に沿って、硬化させられた液状硬化物質からなるミラー支持体とを備え、
前記第三の壁面及び前記第四の壁面に切れ込みが形成されていることを特徴とする光路変換ミラー。
【請求項6】
導波路コアが露出する第一の壁面と、
前記第一の壁面に対し、略平行に対向する第二の壁面と、
前記第二の壁面に対し、略垂直に交わる第三の壁面及び第四の壁面と、
前記第四の壁面に略垂直に交わる第五の壁面と、
前記第二の壁面及び前記第四の壁面に沿って、硬化させられた液状硬化物質からなるミラー支持体とを備え、
前記第三の壁面及び前記第五の壁面に切れ込みが形成されていることを特徴とする光路変換ミラー。
【請求項7】
導波路コアが露出する第一の壁面と、
前記第一の壁面に対し、略平行に対向する第二の壁面と、
前記第二の壁面に対し、略垂直に交わる第三の壁面及び第四の壁面と、
前記第三の壁面に対し、略垂直に交わる第五の壁面と、
前記第四の壁面に対し、略垂直に交わる第六の壁面と、
前記第二の壁面、前記第三の壁面、及び前記第四の壁面に沿って、硬化させられた液状硬化物質からなるミラー支持体とを備え、
前記第五の壁面及び前記第六の壁面に切れ込みが形成されていることを特徴とする光路変換ミラー。
【請求項8】
基板上に形成された、下部クラッド、コア、上部クラッドからなる光導波路の一端部に設けられ、光導波路の入出力光を基板上方又は下方に光路変換する光路変換ミラーの作製方法であって、
前記光導波路の一端部に上部クラッド上面から少なくともコアよりも深くミラー溝を形成する第一の工程と、
該ミラー溝の少なくとも一部を撥水処理する第二の工程と、
前記ミラー溝の前記撥水処理されていない底面と前記ミラー溝壁面とに挟まれた部位に液状硬化物質を供給し傾斜面を形成する第三の工程と、
前記液状硬化物質を硬化させる第四の工程と、
前記硬化した液状硬化物質の傾斜面上に反射膜を形成する第五の工程とを備え、
前記第一の工程において、前記ミラー溝の少なくとも一つの壁面に切れ込み形状を形成することを特徴とする光路変換ミラーの作製方法。
【請求項9】
前記第二の工程は、撥水処理のため液状のコート剤を前記ミラー溝内部全面に塗布する工程を含み、
前記コート剤塗布工程において、前記コート剤が毛管効果により前記切れ込みに吸い上げられることで、前記切れ込み内部が周囲の壁面より厚くコートされることを特徴とする請求項8に記載の光路変換ミラーの作製方法。
【請求項10】
前記第二の工程は、感光性撥水コート膜を前記ミラー溝内部全面に形成し、露光現象によって所望のパタニングを行う工程を含むことを特徴とする請求項8または9に記載の光路変換ミラーの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−216791(P2008−216791A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56011(P2007−56011)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(591230295)NTTエレクトロニクス株式会社 (565)
【Fターム(参考)】