説明

光軸補正装置

【課題】レーザ媒質に損傷が生じた場合でも、自動的にレーザ媒質に入射される光軸を補正し、レーザ媒質の損傷箇所を回避することができる光軸補正装置を提供する。
【解決手段】入射された励起光により励起されレーザ光を発振するレーザ媒質20と光共振を行うための複数のミラー10,30とを有し、光共振されたレーザ光を出力する光共振器と、光共振器に入射する励起光の光軸を平行移動させる第1シフター70と、光共振器により出力されたレーザ光の光軸を平行移動させる第2シフター80と、レーザ光の出力の大きさを検知する4象限光検出器90と、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさに基づき第1シフター70と第2シフター80とを制御して光共振器に入射する励起光の光軸の平行移動量及び光共振器により出力されたレーザ光の光軸の平行移動量を制御する制御部100とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ媒質を利用して光を増幅する光共振器に入射される光軸を自動補正する光軸補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザ装置等に用いられる光共振器は、相対して平行に置かれた2つの平面鏡や凹面鏡等の共振器ミラー、あるいは光を当該光共振器内部で循環させるための複数の反射鏡により構成される。図7に示す従来のリングキャビティー光共振器は、入射側ミラー10、レーザ媒質20、出射側ミラー30、及び2枚の調整ミラー40,50から構成される。このリングキャビティー光共振器は、入射された励起光により励起したレーザ媒質20がレーザ光を発振し、レーザ媒質20、出射側ミラー30、調整ミラー40、調整ミラー50、及び入射側ミラー10の順に内部を循環させ、増幅させる。効率よく増幅するため、これらのミラーは、非常に高い精度(例えば数百μrad程度)を持って調整されており、循環する光を励起されたレーザ媒質20に入射することにより増幅する。
【0003】
急激な熱変化や光入力等によりレーザ媒質20に損傷が発生した場合、出力されるレーザのパワーは、著しく低下してしまう。したがって、安定したレーザ光を供給するためにレーザ媒質の損傷に対する対策が必要とされており、図7に示すような従来の光共振器においてレーザ媒質20に損傷が発生した場合には、操作人は、レーザ媒質20の位置を平行移動させ、損傷箇所を避けて使用する必要があった。
【0004】
特許文献1には、レーザ媒質やミラー等の光学部品が急激な熱変化や光入力による損傷を受けることを防止し、信頼性の向上を図り得る高出力パルスレーザ装置の運転方法が記載されている。この運転方法は、レーザ媒質を励起光源により励起させてレーザ光を出射させ、該レーザ光をミラー間で共振させて出射させる発振部と、該発振部から出射されるレーザ光を遮断可能で且つレーザ光の透過率を調節可能な伝送部と、前記発振部から伝送部を介して導入されるレーザ光を増幅して出射させる増幅部と、前記発振部と増幅部に対して冷却水を供給する冷却系統とを備えた高出力パルスレーザ装置の運転方法であり、起動時、発振部と増幅部に対して冷却系統から供給される冷却水の流量を徐々に増加させ、伝送部によりレーザ光を遮断した状態で発振部の励起光源へ供給する電流値を徐々に高め、レーザ光の出力が定格出力に達した時点で、伝送部によるレーザ光の遮断状態を解除しつつ、伝送部によるレーザ光の透過率を最小から最大へ向け徐々に増加させて増幅部へレーザ光を導入すると共に、増幅部へ供給する励起用の電流値を定格電流値以下の所要値から徐々に高めるようにしたものである。
【0005】
この結果、レーザ媒質やミラー等の光学部品に、急激な熱変化や急激な光入力が生じることが回避され、これらの光学部品が損傷を受けるのを防止するとともに、信頼性の向上を図り得る。
【特許文献1】特開2005−33124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の高出力パルスレーザ装置の運転方法は、冷却系統により光学部品の損傷を回避するものであるが、既にレーザ媒質に損傷が生じてしまった場合においては、効果をもたらすものではない。
【0007】
また、レーザ媒質に損傷が発生した場合に、レーザ媒質を自動的に移動させる構造を備えることは、非常に困難である。これは、レーザ媒質が光を増幅する際に発熱するため、構造を簡素化して熱伝導率を高める必要があるからである。しかしながら、操作人が直接レーザ媒質を平行移動させるとすると、操作人は、光共振器を解体し、レーザ媒質の損傷箇所を確認するとともに当該損傷箇所を回避するように平行移動させる必要があり、手間もかかる。
【0008】
そこで、本発明は、レーザ媒質に損傷が生じた場合でも、自動的にレーザ媒質に入射される光軸を補正し、レーザ媒質の損傷箇所を回避することができる光軸補正装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光軸補正装置は、上記課題を解決するために、入射された励起光により励起されレーザ光を発振するレーザ媒質と光共振を行うための複数のミラーとを有し、光共振されたレーザ光を出力する光共振器と、前記光共振器に入射する励起光の光軸を平行移動させる第1シフターと、前記光共振器により出力されたレーザ光の光軸を平行移動させる第2シフターと、前記レーザ光の出力の大きさを検知する光検知部と、前記光検知部により検知されたレーザ光の出力の大きさに基づき前記第1シフターと前記第2シフターとを制御して前記光共振器に入射する励起光の光軸の平行移動量及び前記光共振器により出力されたレーザ光の光軸の平行移動量を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る光軸補正装置によれば、レーザ媒質に損傷が生じた場合でも、自動的にレーザ媒質に入射される光軸を補正し、レーザ媒質の損傷箇所を回避して安定したレーザ光の出力を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の光軸補正装置の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の実施例1に係る光軸補正装置の構成を示すブロック図である。この光軸補正装置は、第1共振器ミラー10a、レーザ媒質20、第2共振器ミラー30a、ビームスプリッタ60、第1シフター70、第2シフター80、4象限光検出器90、及び制御部100で構成される。本実施例において、第1共振器ミラー10a、レーザ媒質20、及び第2共振器ミラー30aは、光共振器を構成する。なお、図1は、当該光軸補正装置を上方から見た図である。
【0013】
入射された励起光により励起されレーザ光を発振するレーザ媒質20と、光共振を行うための複数のミラーである第1共振器ミラー10a及び第2共振器ミラー30aとを有する光共振器は、光共振されたレーザ光を出力する。
【0014】
第1共振器ミラー10aと第2共振器ミラー30aとは、レーザ媒質20を挟んで互いに対向配置され、レーザ光を多数回往復させて光共振させる。通常、これらの共振器ミラーは、密閉された容器内に設けられる。また、レーザ媒質20は、レーザ光を増幅させる。
【0015】
第1シフター70は、光共振器に入射する前の励起光の光軸上に設置され、光共振器に入射する励起光の光軸を平行移動させる。具体的には、第1シフター70は、所定の屈折率を有しており、入射される励起光の光軸に対してヨー方向あるいはピッチ方向に所定角度傾けることにより、入射された光軸を平行移動させ、光共振器内の第1共振器ミラー10aに出力する。
【0016】
同様に、第2シフター80は、光共振器により出力されたレーザ光の光軸上に設置され、光共振器により出力されたレーザ光の光軸を平行移動させる。第2シフター80の目的は、第1シフター70により平行移動された光軸の位置を逆側に同量だけ平行移動させることにより、本来の光軸位置に戻すことである。これにより、光共振器内において光軸の平行移動が行われたとしても、第2シフター80は、常に同方向にレーザ光を供給する。
【0017】
第2シフター80は、必ずしも第1シフター70と同じ屈折率及び厚さを有する必要は無いが、本実施例においては、簡単のために第1シフター70と同じ材質であり、同じ屈折率及び厚さを有するものとする。第1シフター70と第2シフター80による光軸の平行移動については、後述する。
【0018】
ビームスプリッタ60は、光共振器により出力されたレーザ光(第2共振器ミラー30aから出力されたレーザ光)の一部を4象限光検出器90に対して反射し、残りを透過する。ビームスプリッタ60により透過されたレーザ光は、第2シフター80に入力される。ビームスプリッタ60が4象限光検出器90に対して反射するレーザ光の強度は、強い強度である必要は無く、例えば光共振器により出力されたレーザ光の強度の1パーセントから数パーセント程度でよい。
【0019】
4象限光検出器90は、本発明の光検知部に対応し、レーザ光の出力の大きさを検知する。具体的には、4象限光検出器90は、4つの光検知器により構成され、各光検知器に入射された光量に比例した電流を出力するものである。4象限光検出器90は、当該4つの光検知器の各々により検知されたレーザ光の出力の大きさを合計することにより、光共振器により光共振されビームスプリッタ60により反射されたレーザ光の出力の大きさを検知する。ここで、ビームスプリッタ60により反射されるレーザ光の出力の大きさは、ビームスプリッタ60に入射されるレーザ光の出力全体に対して常に一定の割合の大きさである。したがって、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさに基づいて、光共振器により出力されたレーザ光の出力全体の大きさを調べることが可能である。
【0020】
また、4象限光検出器90は、レーザ光の光軸の位置を検知する。具体的には、4象限光検出器90は、お互いに近接して配置された4つの光検知器により構成されており、4つの光検知器の各々が独立して入力されたレーザ光の強度を測定し、測定結果を制御部100に出力する。したがって、4象限光検出器90は、4つの光検知器の各々がそれぞれ検知したレーザ光の出力及びその合計値に基づき、各光検知器における信号の比率からビーム形状やレーザ光の位置を検知することができる。
【0021】
制御部100は、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさに基づき、第1シフター70と第2シフター80とを制御して光共振器に入射する励起光の光軸の平行移動量及び光共振器により出力されたレーザ光の光軸の平行移動量を制御する。
【0022】
具体的には、制御部100は、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値以上になるように第1シフター70と第2シフター80とを制御する。また、制御部100は、第1シフター70による光軸平行移動量と第2シフター80による光軸平行移動量とが連動するように制御することで、第2シフター80から出力されるレーザ光の光軸位置が定位置であるように制御する。
【0023】
さらに制御部100は、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の光軸の位置に基づき第1シフター70による光軸平行移動量を制御する。具体的には、制御部100は、第1シフター70を制御する際に、光軸平行移動量の目標値を有しており、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の光軸の位置が当該目標値に達しているか否かを判断し、目標値に達していない場合には目標値に達するまで光軸の平行移動を継続し、目標値に達した場合には光軸の平行移動を停止する。すなわち、制御部100は、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の光軸の位置に基づいて第1シフター70による光軸の平行移動量を測定することができるとともに、測定した光軸の平行移動量を第1シフター70の回転角度の制御にフィードバックすることができる。
【0024】
図2は、第1シフター70及び第2シフター80による光軸の平行移動を説明する図である。なお、図1に示すように、本来は第2共振器ミラー30aと第2シフター80との間にビームスプリッタ60が備えられているが、ここでは省略する。
【0025】
図2(a)において、第1シフター70に対して垂直に入射した励起光は、入射角が0度であるため屈折せずに第1シフター70を直進し、第1共振器ミラー10a、レーザ媒質20、及び第2共振器ミラー30aから構成された光共振器に入力される。光共振器において発振・増幅されたレーザ光は、第2シフター80に出力される。第2シフター80に対して垂直に入射したレーザ光は、入射角が0度であるため屈折せずに第2シフター80を直進して出力される。
【0026】
一方、図2(b)において、第1シフター70に対して所定の入射角度で入射した励起光は、所定の屈折率を有する第1シフター70内にて屈折し、光軸を平行移動されて光共振器に入力される。光共振器において発振・増幅されたレーザ光は、第2シフター80に出力される。第2シフター80に対して所定の入射角度で入射したレーザ光は、所定の屈折率を有する第2シフター80内にて屈折し、光軸を平行移動されて出力される。その際に、第2シフター80は、第2シフター80から出力されるレーザ光の光軸位置が図2(a)に示すように光軸の平行移動が行われなかった際の光軸位置に一致するように制御されている。したがって、第2シフター80から出力されるレーザ光の光軸位置は、定位置にあり、光共振器内において光軸の平行移動が行われたとしても常に不変である。
【0027】
図3は、本発明に使用されるシフター70aに対して光が入射した際の光軸の平行移動量を説明する図である。本実施例において使用されている第1シフター70と第2シフター80とは、図3及び図4におけるシフター70aと同じものであるとする。
【0028】
厚さtのシフター70aが屈折率nを有しているものとし、シフター70aに対して入射される光の入射角をθとすると、光軸の平行移動量Dは、以下に示す式により表される。
【数1】

【0029】
図4は、本発明に使用されるシフター70aの制御方法を説明する図である。シフター70aは、所定の屈折率を有しており、入射される励起光の光軸に対してヨー方向あるいはピッチ方向に所定角度傾けることにより、入射された光軸を平行移動させる。
【0030】
シフター70aは、シフターの中心軸(ヨー軸及びピッチ軸)を中心に回転可能な機構を有しており、制御部100の制御に基づいてヨー方向及びピッチ方向に角度の調整が行われる。すなわち、制御部100は、シフター70aの中心を基準として、垂直軸、水平軸を独立してあおり(水平及び鉛直方向のシフター角度)調整する。本実施例において制御部100は、第1シフター70(又は第2シフター80)をヨー方向に所定角度傾けさせることにより光軸を左右方向に平行移動させることができるとともに、第1シフター70(又は第2シフター80)をピッチ方向に所定角度傾けさせることにより光軸を上下方向に平行移動させることができる。したがって、制御部100は、1度の制御において必ずしもピッチ方向又はヨー方向のいずれか一方のみ角度を調整できるわけではなく、同時にピッチ方向とヨー方向の両方の角度を調整することもでき、上下左右いずれの方向に対しても柔軟に光軸の平行移動を行うことができる。
【0031】
なお、図4におけるシフター70aは、ヨー方向及びピッチ方向のいずれに対しても動かされていない状態を示しており、入射光軸に対して入射面が垂直になるよう(入射角が0度)に設置されているため、光軸の平行移動を行わずに光を直進させる。
【0032】
このように構成された本発明の実施例1に係る光軸補正装置の動作を説明する。まずレーザ媒質20に損傷が生じていない場合において、第1シフター70と第2シフター80とは、図2(a)に示すように、ヨー方向とピッチ方向のいずれに対しても傾いていない。したがって、第1シフター70に対して垂直に入射した励起光は、入射角が0度であるため屈折せずに第1シフター70を直進し、第1共振器ミラー10a、レーザ媒質20、及び第2共振器ミラー30aから構成された光共振器に入力される。
【0033】
光共振器において発振・増幅されたレーザ光は、第2共振器ミラー30aから出力されて、ビームスプリッタ60に入力される。ビームスプリッタ60は、光共振器により出力されたレーザ光(第2共振器ミラー30aから出力されたレーザ光)の一部を4象限光検出器90に対して反射し、残りを透過する。ビームスプリッタ60により透過されたレーザ光は、第2シフター80に入力される。第2シフター80に対して垂直に入射したレーザ光は、入射角が0度であるため屈折せずに第2シフター80を直進して出力される。
【0034】
4象限光検出器90は、光共振器により光共振されビームスプリッタ60により反射されたレーザ光の出力の大きさ及び光軸位置を検知し、検知結果を制御部100に出力する。
【0035】
制御部100は、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値以上であるか否かを判断する。レーザ光の出力の大きさが所定値以上である場合には、制御部100は、レーザ媒質20に損傷が生じていないものと判断し、第1シフター70及び第2シフター80のピッチ方向あるいはヨー方向に対する傾斜角度を変更することなく継続して現在位置に固定する。
【0036】
レーザ媒質20に損傷が生じた場合には、光共振器により出力されるレーザ光全体の出力の大きさが低減する。したがって、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値未満となり、制御部100は、レーザ媒質20に損傷が生じたものと判断する。その際に制御部100は、現時点における第1シフター70のピッチ方向あるいはヨー方向に対する角度をレーザ媒質20の損傷箇所として記憶する。なお、制御部100は、最初にレーザ媒質20に損傷が生じたときのみならず、レーザ媒質20に損傷が生じるたびに生じた時点における角度をレーザ媒質20の損傷箇所として記憶する。これにより、制御部100は、レーザ媒質20に複数の損傷が生じたとしても、レーザ出力が低下したときの第1シフター70の角度を蓄積しておくことで、損傷位置を把握することができる。
【0037】
次に制御部100は、第1シフター70と第2シフター80とを制御して光共振器に入射する励起光の光軸の平行移動量及び光共振器により出力されたレーザ光の光軸の平行移動量を制御する。具体的には、制御部100は、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値以上になるように第1シフター70と第2シフター80とを制御する。第1シフター70と第2シフター80とは、制御部100の制御に基づき、光軸を平行移動させる。その際に、制御部100は、以前にレーザ媒質20に損傷を生じたことがある場合には、記憶されているレーザ媒質20の損傷箇所を避けるようにして光軸の平行移動先を決定する。
【0038】
また、制御部100は、第1シフター70による光軸平行移動量と第2シフター80による光軸平行移動量とが連動するように制御することで、第2シフター80から出力されるレーザ光の光軸位置が定位置であるように制御する。例えば、制御部100は、第1シフター70をヨー方向に+10度傾けた場合には、連動するように第2シフター80をヨー方向に−10度傾けて、第2シフター80から出力されるレーザ光の光軸位置が変わらないように制御する。
【0039】
また、制御部100は、光軸の平行移動を行う際に、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の光軸の位置に基づき第1シフター70による光軸平行移動量を計測し、第1シフター70の回転角度の制御にフィードバックする。
【0040】
制御部100は、第1シフター70及び第2シフター80を制御して光軸の平行移動を行った結果、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値以上となった場合に、第1シフター70及び第2シフター80の動作を停止し、その位置に固定する。4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが依然として所定値未満である場合には、制御部100は、第1シフター70及び第2シフター80の動作を継続し、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値以上となる角度(レーザ媒質20に損傷が生じていない箇所)を捜索する。
【0041】
以上説明したように、本発明の実施例1に係る光軸補正装置によれば、構成が簡単であり、レーザ媒質20に損傷が生じた場合でもレーザ媒質20を操作人等が移動させる必要が無く、自動的にレーザ媒質20に入射される光軸を補正し、レーザ媒質の損傷箇所を回避して安定したレーザ光の出力を確保することができる。
【0042】
さらに、第1シフター70による光軸平行移動量と第2シフター80による光軸平行移動量とが連動するように制御し、第2シフター80から出力されるレーザ光の光軸位置が定位置であるように制御するので、光共振器内において光軸の平行移動が行われたとしても、第2シフター80は、常に同方向にレーザ光を供給する。
【0043】
また、制御部100は、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値以上になるように第1シフター70と第2シフター80とを制御するので、レーザ媒質20の損傷が生じていない場所を捜索して安定した出力のレーザ光を確保することができる。
【0044】
また、制御部100は、光軸の平行移動を行う際に、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の光軸の位置に基づき第1シフター70による光軸平行移動量を計測し、第1シフター70の回転角度の制御にフィードバックするので、光軸の平行移動を正確に行うことができる。
【0045】
また、光検知部として4象限光検出器90を用いるので、容易にレーザ光全体の出力及び光軸の位置を同時に知ることができる。
【実施例2】
【0046】
次に、本発明の実施例2を説明する。図5は本発明の実施例2に係る光軸補正装置の構成を示すブロック図である。この光軸補正装置が実施例1に係る光軸補正装置と異なる点は、第2シフター80と4象限光検出器90の位置が入れ替わっている点である。すなわち、4象限光検出器90は、光共振器により出力されたレーザ光がビームスプリッタ60を透過した位置に設けられている。また、第2シフター80は、ビームスプリッタ60によりレーザ光が反射された位置に設けられている。
【0047】
ビームスプリッタ60は、光共振器により出力されたレーザ光(第2共振器ミラー30aから出力されたレーザ光)の一部を4象限光検出器90に対して透過し、残りを反射する。ビームスプリッタ60により反射されたレーザ光は、第2シフター80に入力される。ビームスプリッタ60が4象限光検出器90に対して透過するレーザ光の強度は、強い強度である必要は無く、例えば光共振器により出力されたレーザ光の強度の1パーセントから数パーセント程度でよい。すなわちビームスプリッタ60は、実施例1の場合と異なり、入力されたレーザ光の大部分を反射し、一部のみを透過する。
【0048】
その他の構成は、実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0049】
このように構成された本発明の実施例2に係る光軸補正装置の動作を説明する。光共振器により増幅されたレーザ光を第2共振器ミラー30aが出力するところまでは実施例1と同様である。ビームスプリッタ60は、光共振器により出力されたレーザ光(第2共振器ミラー30aから出力されたレーザ光)の一部を4象限光検出器90に対して透過し、残りを反射する。ビームスプリッタ60により反射されたレーザ光は、第2シフター80に入力される。
【0050】
4象限光検出器90は、光共振器により光共振されビームスプリッタ60により透過されたレーザ光の出力の大きさ及び光軸位置を検知し、検知結果を制御部100に出力する。
【0051】
その他の動作については実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。なお、図5において、破線の軌道は、第1シフター70と第2シフター80とがヨー方向とピッチ方向のいずれに対しても傾いておらず、入射角が0度の場合の軌道を示す。また実線の軌道は、第1シフター70と第2シフター80とがヨー方向あるいはピッチ方向に対して所定角度傾いている場合の軌道である。
【0052】
以上説明したように、本発明の実施例2に係る光軸補正装置によれば、ビームスプリッタ60に入力されるレーザ光の反射量が大きく透過量が少ない場合においても、実施例1の効果と同じ効果を得ることができる。
【実施例3】
【0053】
次に、本発明の実施例3を説明する。図6は本発明の実施例3に係る光軸補正装置の構成を示すブロック図である。この光軸補正装置が実施例1に係る光軸補正装置と異なる点は、図7で説明したリングキャビティー光共振器と同様に、入射側ミラー10、レーザ媒質20、出射側ミラー30、及び2枚の調整ミラー40,50により光共振器を構成する点と、調整ミラー40の背面に4象限光検出器90が設けられている点、及びビームスプリッタ60が設けられていない点である。
【0054】
このリングキャビティー光共振器は、入射された励起光により励起したレーザ媒質20がレーザ光を発振し、レーザ媒質20、出射側ミラー30、調整ミラー40、調整ミラー50、及び入射側ミラー10の順に内部を循環させ、増幅させる。効率よく増幅するため、これらのミラーは、非常に高い精度(例えば数百μrad程度)を持って調整されており、循環する光を励起されたレーザ媒質20に入射することにより増幅する。
【0055】
調整ミラー40は、入射されたレーザ光の一部を透過させ、4象限光検出器90に入射させる。
【0056】
その他の構成は、実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0057】
このように構成された本発明の実施例3に係る光軸補正装置の動作を説明する。まずレーザ媒質20に1度も損傷が生じていない場合において、第1シフター70及び第2シフター80は、光軸に対して垂直(入射角が0度)である。その際に、励起光及びレーザ光は、図6における破線の軌道を進む。
【0058】
光共振器において発振・増幅されたレーザ光の一部は、調整ミラー40を透過して4象限光検出器90に入力される。4象限光検出器90は、光共振器により光共振されたレーザ光の出力の大きさ及び光軸位置を検知し、検知結果を制御部100に出力する。
【0059】
さらに、光共振器において発振・増幅されたレーザ光は、出射側ミラー30から出力されて、第2シフター80に入力される。第2シフター80に対して垂直に入射したレーザ光は、入射角が0度であるため屈折せずに第2シフター80を直進して出力される。
【0060】
制御部100は、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値以上であるか否かを判断する。レーザ光の出力の大きさが所定値以上である場合には、制御部100は、レーザ媒質20に損傷が生じていないものと判断し、第1シフター70及び第2シフター80のピッチ方向あるいはヨー方向に対する傾斜角度を変更することなく継続して現在位置に固定する。
【0061】
レーザ媒質20に損傷が生じた場合には、光共振器において光共振されるレーザ光全体の出力の大きさが低減する。したがって、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値未満となり、制御部100は、レーザ媒質20に損傷が生じたものと判断する。その際に制御部100は、現時点における第1シフター70のピッチ方向あるいはヨー方向に対する角度をレーザ媒質20の損傷箇所として記憶する。
【0062】
次に制御部100は、第1シフター70と第2シフター80とを制御して光共振器に入射する励起光の光軸の平行移動量及び光共振器により出力されたレーザ光の光軸の平行移動量を制御する。具体的には、制御部100は、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値以上になるように第1シフター70と第2シフター80とを制御する。第1シフター70と第2シフター80とは、制御部100の制御に基づき、光軸を平行移動させる(図6における実線の軌道)。その際に、制御部100は、以前にレーザ媒質20に損傷を生じたことがある場合には、記憶されているレーザ媒質20の損傷箇所を避けるようにして光軸の平行移動先を決定する。
【0063】
また、制御部100は、第1シフター70による光軸平行移動量と第2シフター80による光軸平行移動量とが連動するように制御することで、第2シフター80から出力されるレーザ光の光軸位置が定位置であるように制御する。
【0064】
また、制御部100は、光軸の平行移動を行う際に、4象限光検出器90により検知されたレーザ光の光軸の位置に基づき第1シフター70による光軸平行移動量を計測し、第1シフター70の回転角度の制御にフィードバックする。
【0065】
その他の動作については実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
以上説明したように、本発明の実施例3に係る光軸補正装置によれば、光共振器としてリングキャビティー光共振器を採用した場合においても、実施例1の効果と同じ効果を得ることができるとともに、ビームスプリッタ60が不要である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、入力された励起光に基づきレーザ媒質において発振・増幅されたレーザ光を出力する光共振器を備えた装置、例えば光波妨害装置、レーザ発振器等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施例1に係る光軸補正装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る光軸補正装置の第1シフター及び第2シフターによる光軸の平行移動を説明する図である。
【図3】本発明の実施例1に係る光軸補正装置に使用されるシフターに対して光が入射した際の光軸の平行移動量を説明する図である。
【図4】本発明の実施例1に係る光軸補正装置に使用されるシフターの制御方法を説明する図である。
【図5】本発明の実施例2に係る光軸補正装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例3に係る光軸補正装置の構成を示すブロック図である。
【図7】従来のリングキャビティー光共振器の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0068】
10 入射側ミラー
10a 第1共振器ミラー
20 レーザ媒質
30 出射側ミラー
30a 第2共振器ミラー
40 調整ミラー
50 調整ミラー
60 ビームスプリッタ
70 第1シフター
70a シフター
80 第2シフター
90 4象限光検出器
100 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射された励起光により励起されレーザ光を発振するレーザ媒質と光共振を行うための複数のミラーとを有し、光共振されたレーザ光を出力する光共振器と、
前記光共振器に入射する励起光の光軸を平行移動させる第1シフターと、
前記光共振器により出力されたレーザ光の光軸を平行移動させる第2シフターと、
前記レーザ光の出力の大きさを検知する光検知部と、
前記光検知部により検知されたレーザ光の出力の大きさに基づき前記第1シフターと前記第2シフターとを制御して前記光共振器に入射する励起光の光軸の平行移動量及び前記光共振器により出力されたレーザ光の光軸の平行移動量を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする光軸補正装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1シフターによる光軸平行移動量と前記第2シフターによる光軸平行移動量とが連動するように制御することで、前記第2シフターから出力されるレーザ光の光軸位置が定位置であるように制御することを特徴とする請求項1記載の光軸補正装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記光検知部により検知されたレーザ光の出力の大きさが所定値以上になるように前記第1シフターと前記第2シフターとを制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光軸補正装置。
【請求項4】
前記光検知部は、前記レーザ光の光軸の位置を検知し、
前記制御部は、前記光検知部により検知された前記レーザ光の光軸の位置に基づき前記第1シフターによる光軸平行移動量を制御することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の光軸補正装置。
【請求項5】
前記光検知部は、4つの光検知器により構成された4象限光検出器であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の光軸補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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