説明

内視鏡用封止部材および内視鏡

【課題】高い気密性を確保するとともに、摺動性に優れる内視鏡用封止部材およびこの内視鏡用封止部材を備える内視鏡を提供すること。
【解決手段】Oリング(内視鏡用封止部材)100は、ピストン20の外面(外周面)とシリンダ12の内面(内周面)とにそれぞれ密接し、押圧部11の押圧操作に伴って前記内面に摺接しつつ移動し、内視鏡内部の気密性を保持している。このOリング100は、弾性材料で構成された芯部と、この芯部の外周部を被覆する被覆層とを備えている。被覆層は、主として炭素系物質で構成されている。これにより、被覆層とシリンダ12の内面との摺動抵抗を低減し、吸引ボタン10の待機状態と操作状態との切り替えを円滑かつ確実に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用封止部材および内視鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、体腔内から例えば体液や血液等の液体を吸引する機能等を有しており、これらの作動は、付属のボタン(吸引ボタン)の押圧操作によりなされる。
【0003】
このボタンは、シリンダとシリンダ内に進退自在に設けられたピストンと、これらの間の気密性を確保するためのOリング(内視鏡用封止部材)とで構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
一般に、Oリングは、弾性材料で構成されており、特に、摩擦抵抗の大きい材料で構成される場合には、その表面にシリコーンオイル等の潤滑剤を塗布することが行われている。
【0005】
ところが、潤滑剤を使用する場合、所定時間の経過毎に、これを繰り返してOリングの表面へ塗布する操作が必要となり手間がかかるという問題がある。また、潤滑剤を付与する量が多過ぎると、管路が潤滑剤で閉塞してしまうという問題が生じることもある。
【0006】
その他、内視鏡の各部にOリングが使用されているが、各Oリングが設けられた部分においても前記と同様の問題が生じるおそれがある。
【0007】
【特許文献1】特開2000−271067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い気密性を確保するとともに、摺動性に優れる内視鏡用封止部材およびこの内視鏡用封止部材を備える内視鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(14)の本発明により達成される。
(1) 互いに摺接する内視鏡部品同士の間に設けられ、これらの間を封止する内視鏡用封止部材であって、
弾性材料で構成された芯部と、該芯部の外周部を被覆し、主として炭素系物質で構成された被覆層とを備えることを特徴とする内視鏡用封止部材。
【0010】
これにより、高い気密性を確保するとともに、摺動性に優れる内視鏡用封止部材が得られる。
【0011】
(2) 前記被覆層は、柔軟性を有するものである上記(1)に記載の内視鏡用封止部材。
【0012】
これにより、被覆層は、芯部の変形に対して容易に追従することができるため、芯部から剥離するのをより確実に防止することができる。
【0013】
(3) 前記炭素系物質は、ダイヤモンドライクカーボンを主成分とするものである上記(1)または(2)に記載の内視鏡用封止部材。
【0014】
これにより、被覆層表面の摺動抵抗を極めて小さくすることができるとともに、被覆層の耐久性を向上させることができる。すなわち、内視鏡の操作性および耐久性をより向上させることができる。
【0015】
(4) 前記弾性材料は、フッ素ゴムおよびシリコーンゴムの少なくとも一方を主成分とするものである上記(3)に記載の内視鏡用封止部材。
【0016】
フッ素ゴムおよびシリコーンゴムは、その弾性が特に高く、また、ダイヤモンドライクカーボンとの密着性に優れている。このため、内視鏡用封止部材に摺動に伴う変形力(応力)が加わった場合でも、芯部はその変形力に追従して容易に変形することができる。これにより、内視鏡内部の気密性をより確実に保持することができる。
【0017】
(5) 前記被覆層は、気相成膜法により形成されたものである上記(3)または(4)に記載の内視鏡用封止部材。
【0018】
これにより、均一で緻密な被覆層を得ることができるため、被覆層表面の摺動抵抗を低減することができる。
【0019】
(6) 前記気相成膜法は、プラズマCVD法である上記(5)に記載の内視鏡用封止部材。
【0020】
これにより、プラズマによって芯部の表面の活性を高めることができ、被覆層と芯部との密着性をより向上させることができる。
【0021】
(7) 前記被覆層は、シリコンを含有するものである上記(1)または(2)に記載の内視鏡用封止部材。
これにより、被覆層表面の摺動抵抗の更なる低減を図ることができる。
【0022】
(8) 前記炭素系物質は、炭素以外にシリコンを含有するものである上記(7)に記載の内視鏡用封止部材。
【0023】
これにより、被覆層表面の摺動抵抗を低減し、内視鏡部品の操作を円滑かつ確実に行うことができる。
【0024】
(9) 前記被覆層は、前記芯部の外周部に供給されたシリコン含有炭素系物質を反応させることにより形成されたものである上記(7)または(8)に記載の内視鏡用封止部材。
これにより、均一かつ均質な被覆層を比較的容易に得ることができる。
【0025】
(10) 前記弾性材料は、フッ素ゴムを主成分とするものである上記(7)ないし(9)のいずれかに記載の内視鏡用封止部材。
【0026】
これにより、例えば、高温加熱処理を施された場合においても、芯部が劣化するのをより確実に防止し、内視鏡内部の気密性をより確実に保持することができる。
【0027】
(11) 前記被覆層の平均厚さは、0.1〜10μmである上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の内視鏡用封止部材。
【0028】
これにより、被覆層の強度を維持しつつ、内視鏡用封止部材として十分な摺動性を得ることができる。
【0029】
(12) 上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の内視鏡用封止部材を備えることを特徴とする内視鏡。
これにより、操作性および耐久性に優れた内視鏡を得ることができる。
【0030】
(13) 前記内視鏡用封止部材は、Oリングである上記(12)に記載の内視鏡。
【0031】
(14) 前記内視鏡用封止部材の外周部には、実質的に潤滑剤が存在しない上記(12)または(13)に記載の内視鏡。
【0032】
これにより、内視鏡用封止部材の表面に潤滑剤を繰り返し付与する手間や、管路が潤滑剤で閉塞してしまうという問題が生じることを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、高い気密性を確保するとともに、摺動性に優れる内視鏡用封止部材が得られる。
また、かかる内視鏡用封止部材を備える内視鏡は、操作性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の内視鏡用封止部材および内視鏡について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0035】
図1は、本発明の内視鏡用封止部材の斜視図(一部断面図)、図2は、本発明の内視鏡を示す全体図、図3は、図2に示す内視鏡における全体配管を示す概略図、図4は、図2に示す内視鏡が備える接眼部の構成を示す縦断面図、図5は、図2に示す内視鏡が備える操作ノブの構成を示す縦断面図、図6は、図2に示す内視鏡が備える吸引ボタンの待機状態(第1の状態)を示す縦断面図、図7は、図2に示す内視鏡が備える吸引ボタンの操作状態(第2の状態)を示す縦断面図である。
【0036】
なお、以下では、図2〜図4、図6および図7中の下側を「先端」、上側を「基端」として説明する。また、図5では、図が繁雑になるのを避けるため、断面を示す斜線を省略して示す。
【0037】
図2に示す内視鏡(ファイバースコープ)1は、可撓性を有する長尺の可撓管部21と可撓管部21の先端側に設けられた湾曲部22とを備える挿入部可撓管2と、挿入部可撓管2の基端側に設けられ、術者が把持して内視鏡1全体を操作する操作部3と、該操作部3の基端側に設けられ、被写体の像を直接観察する接眼部4と、光源装置(図示せず)に着脱可能に装着される差込部6と、操作部3と差込部6とを接続する可撓性を有する長尺の接続部可撓管5とを備えている。以下、各部の構成について説明する。
【0038】
これらのうち、挿入部可撓管2は、例えば生体等の管腔内に挿入される挿入部を構成するものである。挿入部可撓管2の内部(中空部)には、例えば、光ファイバー、電線ケーブル、ワイヤー(いずれも図示せず)や、図3に示す吸引チャンネル7を構成するチューブ類等の内蔵物が配置、挿通されている。
【0039】
可撓管部21と接続部可撓管5とは、それぞれ、中空部を有する(管状の)芯材の外周を外皮で被覆した内視鏡用可撓管で構成されている。内視鏡用可撓管等の外皮は、例えば各種ゴム材料等の弾性材料や合成樹脂材料等で構成されている。
【0040】
湾曲部22は、通常、互いに回動自在に連結された複数(多数)の節輪と、該節輪の外周に被覆された網状管と、該網状管の外周に被覆された外皮とで構成されており、湾曲可能になっている。この湾曲部22の外皮(湾曲ゴム)は、例えば各種ゴム材料等の柔軟な弾性材料で構成されている。
【0041】
差込部6は、ほぼ有底筒状をなす基部61と、該基部61の底部から先端側に延びるように設置された光源用コネクタ(差込軸)62とを有している。内視鏡1の使用時には、この光源用コネクタ62を光源装置に差し込むことにより、内視鏡1と光源装置とが光学的に接続される。
【0042】
そして、光源装置に内蔵された光源から発せられた光は、光源用コネクタ62内、基部61内、接続部可撓管5内、操作部3内、挿入部可撓管2内に連続して配設された光ファイバー束によるライトガイド(図示せず)を通り、挿入部可撓管2の先端部より観察部位に照射され、照明する。
【0043】
前記照明光により照明された観察部位からの反射光(被写体像)は、挿入部可撓管2内および操作部3内に連続して配設された光ファイバー束によるイメージガイド(図示せず)を通り、接眼部4へ伝達される。
【0044】
図4に示すように、接眼部4の内部には、その中央部にイメージガイドの基端部41が設置されている。この基端部41の基端側(図4中、上側)には、接眼レンズ42aおよび42bが設けられ、これらがほぼ円筒状の接眼枠4aの内腔部に所定位置で固定されている。
【0045】
この接眼枠4aは、先端方向および基端方向に移動可能に接眼筒4bに支持され、この接眼筒4bの先端部が操作部3に固定されている。
【0046】
また、接眼筒4bの先端部外周には、被せ環4dが固定され、接眼筒4bと被せ環4dとの間に、視度環4cがイメージガイドの基端部41を中心に回転可能に設けられている。
【0047】
前述した反射光は、イメージガイド内を通り、基端部41まで到達し、接眼レンズ42aおよび42bを通して観察される。この際、視度環4cを回転操作することにより、イメージガイドの基端部41と接眼レンズ42aおよび42bとの距離を調整し、焦点位置を調整できるようになっている。
【0048】
このような接眼部4を構成する内視鏡部品のうち、接眼枠4aが接眼筒4bに摺接し、視度環4cが接眼筒4bおよび被せ環4dに摺接しており、これらの部品同士の間には、それぞれ、本発明の内視鏡用封止部材が適用されたOリング100が設けられている。
そして、各Oリング100により、これらの部品同士の間が気密的に封止されている。
【0049】
また、図2に示すように、操作部3には、その側面に、湾曲部22を遠隔操作して湾曲させるための操作機構30や、内視鏡1内に配設された吸引チャンネル7の流路を開閉するための吸引ボタン10等が設置されている。
【0050】
図5に示すように、操作機構30は、操作部3に固定された軸体35と、この軸体35を中心に、いずれも回転可能に設けられた操作ノブ31、32およびロックレバー33、34とで構成されている。
【0051】
操作ノブ31、32を回転操作することにより、挿入部可撓管2内に配設されたワイヤー(図示せず)が牽引されて、湾曲部22が4方向に湾曲し、その方向を変えることができる。
【0052】
また、ロックレバー33、34を反時計回りに回転操作することにより、湾曲部22を所望の湾曲状態で固定することができ、一方、この状態から時計回りに回転操作することにより、湾曲状態で固定された湾曲部22の固定を解除することができるようになっている。
【0053】
このような操作機構30を構成する内視鏡部品のうち、ロックレバー33が操作ノブ31に摺接し、操作ノブ31が操作ノブ32に摺接し、操作ノブ32がロックレバー34に摺接しており、これらの部品同士の間には、それぞれ、本発明の内視鏡用封止部材が適用されたOリング100が設けられている。
そして、各Oリング100により、これらの部品同士の間が気密的に封止されている。
【0054】
吸引ボタン10は、図3に示すように吸引チャンネル7の途中に設けられ、この流路を開閉し得るよう構成されている。
【0055】
吸引チャンネル7は、その先端側から、チャンネルチューブ51、連通管17a、シリンダ12、吸引接続管14aおよび外部吸引チューブ50とを備えている。
【0056】
吸引ボタン10は、図6および図7に示すように、内腔部120を備えるシリンダ12と、このシリンダ12の内腔部120内に軸線方向に沿って進退自在に設けられたピストン20と、ピストン20を外方に付勢する戻しバネ25と、操作部3外に突出するピストン20の端部に取り付けられた押圧部11とを有している。
【0057】
そして、吸引ボタン10の押圧部11を押圧することにより、ピストン20の押し込み操作を行うことができる。
【0058】
また、シリンダ12の側面には、吸引口14が開口している。この吸引口14には、吸引接続管14aの一端側が接続され、内腔部120に連通している。一方、吸引接続管14aの他端側には、外部吸引装置(図示せず)に連通する外部吸引チューブ50の一端側が接続されている。
【0059】
また、シリンダ12の底部には、共通口17が開口しており、この共通口17には、連通管17aの一端側が接続され、内腔部120に連通している。一方、連通管17aの他端側は、チャンネルチューブ51の基端近傍に接続され、このチャンネルチューブ51の先端は、挿入部可撓管2の先端で開放している。
【0060】
ピストン20の外周側には、シリンダ12からの突出部を囲むように、ピストン受け筒27が設けられている。また、ピストン20のシリンダ12と反対側の端部には、押圧部11の取り付け座24が螺合により連結されている。
【0061】
この取り付け座24とピストン受け筒27の底面との間に、圧縮コイルスプリングで構成された戻しバネ25が圧縮状態で配置されている。
【0062】
このようにして、ピストン20と押圧部11とが一体化され、戻しバネ25により常に外方(シリンダ12の口部から突出する方向)に付勢された状態になっている。
【0063】
ピストン20には、そのシリンダ12側に、L字状をなす貫通孔26が形成されている。この貫通孔26は、ピストン20の底面と側面とにそれぞれ開口しており、ピストン20が図6に示す第1の位置にあるとき、吸引接続管14aと連通管17aとの連通を許容しない状態(以下、「待機状態」と言う。)となり、図7に示す第2の位置にあるとき、吸引接続管14aと連通管17aとが貫通孔26を介して連通する状態(以下、「操作状態」と言う。)となる。
【0064】
内視鏡1の使用時には、外部吸引チューブ50の他端側には、吸引手段が接続され、吸引チャンネルが連通した状態では、挿入部可撓管2の先端から体腔内の体液や血液等を吸引することができる。
【0065】
このような吸引ボタン10を構成する内視鏡部品のうち、ピストン20がシリンダ12に摺接しており、これらの部品同士の間には、本発明の内視鏡用封止部材が適用されたOリング100が設けられている。
【0066】
そして、このOリング100により、これらの部品同士の間が気密的に封止されている。
【0067】
Oリング(本発明の内視鏡用封止部材)100は、図4〜図7に示すように、内視鏡1の各部に適用されている。なお、以下、図6および図7に示す吸引ボタン10を一例に、Oリング100について詳述する。
【0068】
Oリング100は、図1に示すように、弾性材料で構成された芯部101と、この芯部101の外周部を被覆する被覆層102とを備えている。
【0069】
そして、Oリング100は、ピストン20の外面(外周面)とシリンダ12の内面(内周面)とにそれぞれに密接し、押圧部11の押圧操作に伴って、シリンダ12の内面に摺接しつつ移動する。これにより、内視鏡1の内部の気密性を保持している。
【0070】
芯部101を構成する弾性材料としては、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、天然ゴムのような各種ゴム材料や、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマーのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
上記の材料は、弾性が高いため、Oリング100と密接している部材の接触面の形状に対する追従性に優れている。したがって、芯部101を上記の材料で構成したOリング100は気密性に優れたものとなる。
【0072】
また、特に、被覆層102が柔軟性を有することにより、芯部101の変形に対して容易に追従することができるため、芯部101から剥離するのをより確実に防止することができる。
【0073】
被覆層102は、主として炭素系物質で構成されている。炭素系物質は、高い潤滑性と炭素原子同士の共有結合に起因した高い硬度を有している。これにより、被覆層102とシリンダ12の内面との摺動抵抗を低減し、吸引ボタン10の待機状態と操作状態との切り替えを円滑かつ確実に行うことができる。
【0074】
ここで、従来のOリングでは、摺動性を向上させるために、その表面にシリコーンオイル等の潤滑剤の付与が行われている。この場合、所定時間の経過毎に、繰り返してOリングの表面へ潤滑剤を付与することが必要となり手間がかかるという問題がある。また、潤滑剤を付与する量が多過ぎると、管路が潤滑剤で閉塞してしまうという問題が生じることもある。
【0075】
これに対して、本発明では、Oリング100は、摺動性(潤滑性)に優れる被覆層102を有することから、表面への潤滑剤の付与を省略することができる。すなわち、Oリング100の外周部には、実質的に潤滑剤が存在しない。したがって、Oリング100の表面に潤滑剤を繰り返し付与する手間や、管路が潤滑剤で閉塞してしまうという問題が生じることを確実に防止することができる。
【0076】
前記炭素系物質としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン等のうちの1種または2種以上を組み合わせたものが挙げられる。
【0077】
被覆層102は、炭素系物質の中でも、ダイヤモンドライクカーボンを主成分とする物質で構成されているのが好ましい。ダイヤモンドライクカーボンは、結晶粒界がほとんど存在しないアモルファス構造が支配的であるため、その表面の摩擦係数は非常に小さい。このため、Oリング100の摺動抵抗をより低減することができる。さらには、ダイヤモンドライクカーボンは、その構造中にダイヤモンド構造を含んでいるため、硬度が極めて高く、したがって耐磨耗性にも優れている。
【0078】
また、被覆層102が、ダイヤモンドライクカーボンを主材料として構成される場合、芯部101は、フッ素ゴムおよびシリコーンゴムの少なくとも一方を主成分とする弾性材料で構成されているのが好ましい。
【0079】
フッ素ゴムおよびシリコーンゴムは、その弾性が特に高く、また、ダイヤモンドライクカーボンとの密着性に優れている。このため、芯部101をこれらゴムの少なくとも一方を主成分とする弾性材料で構成することにより、Oリング100に対して、摺動に伴う変形力(応力)が加わった場合でも、芯部101はその変形力に追従して容易に変形することができる。これにより、被覆層102はシリンダ12の内面に確実に密接し、内視鏡内部の気密性をより確実に保持することができる。
【0080】
このような被覆層102は、各種の方法で形成することができるが、気相成膜法により形成されたものであるのが好ましい。気相成膜法を用いることにより、均一で緻密な被覆層102を得ることができるため、被覆層102表面の摺動抵抗を低減することができる。
【0081】
気相成膜法としては、熱CVD、プラズマCVD(RFプラズマCVD、ECRプラズマCVD等)、レーザーCVDなどの化学蒸着法(CVD)、化学スパッタリング、物理スパッタリング等のスパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング等が挙げられる。
【0082】
また、このような気相成膜法の中でも、特にプラズマCVD法により形成されたものであるのがより好ましい。
【0083】
プラズマCVD法は、プラズマによって芯部101の表面の活性を高めることができ、被覆層102と芯部101との密着性をより向上させることができる。さらには、一度の処理で形成される被覆層102の面積が大きく、生産効率が優れている。したがって、被覆層102の形成に好適に適用することができる。
【0084】
以下、気相成膜法の一例として、プラズマCVD法により、ダイヤモンドライクカーボンを主材料とする被覆層102を形成する方法について説明する。
【0085】
芯部101は、反応室内に略平行に配置された上下2つの電極(上部電極および下部電極)の間に固定される。そして、反応室内を減圧状態とした後、電極間に原料ガスを導入する。
【0086】
反応室内の原料ガス導入後の真空度としては、例えば、0.1〜100Pa程度であるのが好ましく、1〜70Pa程度であるのがより好ましい。真空度が前記上限値を超える場合、反応室内の原料ガス以外のガスの影響により、得られるダイヤモンドライクカーボンにおいて目的とする十分な特性が得られない場合がある。一方、真空度が前記下限値を下回る場合、より高価な排気ポンプが必要になるため、好ましくない。
【0087】
原料ガスとしては、例えば、メタン、エチレン、ベンゼン等の炭化水素ガス等を用いることができる。
【0088】
次に、下部電極を接地し、上部電極に高周波電圧を印加して、原料ガスを分解するとともに、芯部101の外周部にダイヤモンドライクカーボンを堆積させ、被覆層102を形成する。
【0089】
高周波電圧は、高周波出力が100W〜10kW程度となるように設定するのが好ましく、300W〜1kW程度となるように設定するのがより好ましい。
【0090】
また、この際の高周波電圧の周波数は、100kHz〜1000MHz程度(例えば、工業用周波数である13.56MHz)に設定するのが好ましい。
【0091】
また、堆積速度は、特に限定されないが、0.05〜30μm/h程度であるのが好ましく、0.1〜20μm/h程度であるのがより好ましい。被覆層102の堆積速度が前記下限値未満であると、成膜に時間がかかり、Oリング100および内視鏡1の生産性が低下する。一方、被覆層102の堆積速度が上限値を超えると、被覆層102の厚さのバラツキが大きくなり易い。
【0092】
また、プラズマCVD法により得られる被覆層102は、特に高い柔軟性を有するものとなる。
【0093】
また、被覆層102は、シリコンを含有することもできる。これにより、被覆層102表面の摺動抵抗の更なる低減を図ることもできる。さらに、これにより、被覆層102は、より柔軟性を有するものとなる。
【0094】
このような被覆層102は、例えば、前記のようにして得られた被覆層102にシリコンを打ち込む(ドープする)ことにより得られたものでもよいが、炭素以外にシリコンを含有する炭素系物質(以下、「シリコン含有炭素系物質」と言う。)を主材料として構成されたものが好ましい。
【0095】
このシリコン含有炭素系物質は、低摩擦、低粘着性等の特性を有している。また、シリコン含有炭素系物質で被覆層102を構成することにより、被覆層102においてシリコンを均一に存在させることができる。これにより、被覆層102とシリンダ12の内面との摺動抵抗をより確実に低減することができる。
【0096】
また、被覆層102が、シリコンを含有する場合、芯部101は、フッ素ゴムを主成分とする弾性材料で構成されているのが好ましい。
【0097】
フッ素ゴムは、耐熱性、耐薬品性等の耐久性に優れているため、被覆層102の形成プロセス中において、例えば、高温加熱処理を施された場合においても、芯部101が劣化するのをより確実に防止することができる。したがって、フッ素ゴムで構成される芯部101とシリコンを含有する被覆層102との密着性をより向上させることができる。これにより、Oリング100は、内視鏡内部の気密性をより確実に保持することができる。
【0098】
シリコン含有炭素系物質で構成される被覆層102は、シリコン含有炭素系物質の前駆体を含有する前駆体含有液を芯部101の外周部に供給し、前駆体同士を反応させる方法等により形成することができる。
【0099】
前駆体含有液の市販品としては、例えば、ニューラバフロンコート(バルカーエラストマー社製)等を用いることができる。
【0100】
また、前駆体含有液の供給方法としては、例えば、ディッピング法、刷毛塗り、スプレーコート法等の各種塗布方法が挙げられる。
【0101】
そして、例えば、前駆体含有液中に有機溶媒が含まれる場合には、この有機溶媒を除去するとともに、前駆体同士を反応させ、主としてシリコン含有炭素系物質で構成される被覆層102を形成することができる。
【0102】
この前駆体同士の反応を行う処理方法としては、例えば、加熱処理、UV照射処理等が挙げられる。このうち、前記処理方法は、加熱処理であるのが好ましい。これにより、均一な処理をより容易に行うことができる。
【0103】
加熱処理を用いた場合、その温度は特に限定されないが、30〜400℃程度であるのが好ましく、40〜300℃程度であるのがより好ましい。加熱処理の温度が前記下限値未満であると、前駆体の反応に時間がかかり、Oリング100および内視鏡1の生産性が低下する。一方、加熱処理の温度が前記上限値を超えると、前駆体が分解したり、芯部101が劣化したりするおそれがある。
【0104】
これらの方法を用いることにより、均一かつ均質な被覆層102を比較的容易に得ることができる。
【0105】
なお、被覆層102の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5μmであるのがより好ましい。これにより、被覆層102の強度を維持しつつ、内視鏡1の摺動部に組み込まれるOリング100として十分な摺動性を得ることができる。
【0106】
このようなOリング100では、その表面の摺動抵抗を極めて小さくすることができるとともに、被覆層102の耐久性を向上させることができる。また、芯部101との密着性が高いものを得ることができる。
【0107】
したがって、このようなOリング100を適用することにより、吸引ボタン10および内視鏡1の操作性および耐久性をより向上させることができる。
【0108】
なお、Oリング100の断面形状は、図1に示すような円形の他、例えば、楕円形、長方形、正方形等のいかなるものであってもよい。
【0109】
以上、本発明の内視鏡用封止部材および内視鏡を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0110】
例えば、本発明の内視鏡の各部は、同様の機能を発揮する任意の部材と置換することができ、また、任意の部材を追加することもできる。
【0111】
また、本実施形態では、Oリング100が芯部101と被覆層102とで構成されたものであったが、芯部101と被覆層102との間には、1層以上の任意の目的(例えば、密着性の向上等)の層を設けるようにしてもよい。
【0112】
これらのOリング100は、いずれも内視鏡1内の摺接しつつ移動する部品同士の間に設けられ、これらの間を気密的かつ確実に封止する。これにより、内視鏡1の内部の気密性が確保され、オートクレーブ等の滅菌処理を繰り返し行った場合でも、水蒸気や過酸化水素系消毒液等が内部に浸透するのを確実に防止して、内視鏡1が故障するのを確実に防止することができる。
【0113】
また、Oリング100は、摺動抵抗が低いため、内視鏡1の操作の際に、各部の操作を円滑かつ確実に行うことができる。すなわち、内視鏡1の操作性の向上を図ることができる。
【0114】
また、本発明の内視鏡用封止部材は、内視鏡に用いられる各種Oリングやその他の封止部材等にも適用することができる。
【実施例】
【0115】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
1.内視鏡の準備
以下に示すようにして、各実施例および各比較例において、それぞれ、10個の内視鏡を準備した。
【0116】
(実施例1)
まず、各種サイズのフッ素ゴム製の芯部を用意した。
【0117】
そして、プラズマCVD法により、芯部の外周部にダイヤモンドライクカーボンで構成された被覆層を形成して、Oリングを得た。
【0118】
以下に、プラズマCVDの条件を示す。
・高周波出力:1kW
・周波数 :13.56MHz
・真空度 :6Pa
なお、得られた被覆層の平均厚さは1μmであった。
【0119】
次に、これらのOリングを内視鏡(ペンタックス株式会社製、「EG−2930」)の各部に組み込んだ。
【0120】
(実施例2)
シリコーンゴム製の芯部を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてOリングを得た。 なお、得られた被覆層の平均厚さは1μmであった。
【0121】
次に、これらのOリングを内視鏡(ペンタックス株式会社製、「EG−2930」)の各部に組み込んだ。
【0122】
(実施例3)
まず、各種サイズのフッ素ゴム製の芯部を用意した。
【0123】
そして、シリコン含有炭素系物質の前駆体と有機溶剤とを含有する前駆体溶液として、ニューラバフロンコート(バルカーエラストマー社製)を用意し、この前駆体溶液中に前記芯部を浸漬した。これにより、この芯部の外周部に前駆体溶液を塗布した。
【0124】
次いで、前駆体溶液が被覆された芯部を加熱処理することにより、芯部の外周部に、主としてシリコン含有炭素系物質で構成された被覆層を形成して、Oリングを得た。
【0125】
以下に、加熱処理の条件を示す。
・加熱温度 :170℃
・加熱時間 :3時間
・加熱雰囲気:窒素ガス
なお、得られた被覆層の平均厚さは1μmであった。
【0126】
次に、これらのOリングを内視鏡(ペンタックス株式会社製、「EG−2930」)の各部に組み込んだ。
【0127】
(比較例1)
各種サイズのフッ素ゴム製のOリングを用意した。
【0128】
次に、これらのOリングを内視鏡(ペンタックス株式会社製、「EG−2930」)の各部に組み込んだ。
【0129】
(比較例2)
各種サイズのシリコーンゴム製のOリングを用意した。
【0130】
次に、これらのOリングを内視鏡(ペンタックス株式会社製、「EG−2930」)の各部に組み込んだ。
【0131】
(比較例3)
各種サイズのフッ素ゴム製のOリングを用意した。
そして、Oリングの表面にシリコーンオイルを塗布した。
【0132】
次に、これらのOリングを内視鏡(ペンタックス株式会社製、「EG−2930」)の各部に組み込んだ。
【0133】
2.評価
各実施例および各比較例の内視鏡に対して、それぞれ、吸引ボタンの押圧操作および操作ノブの回転操作を繰り返し行った。
【0134】
そして、このときの吸引ボタンの1回目の力量と5000回目の力量とを、SHIMADZU製オートグラフにより測定した。
【0135】
また、操作ノブの1回目の回転トルクと5000回目の回転トルクとを、トルクレンチにより測定した。
【0136】
なお、比較例3の内視鏡では、押圧操作および回転操作の各10回毎に、Oリングの表面にシリコーンオイルを塗布した。
この結果を表1に示す。
【0137】
なお、表1中の数値は、いずれも、10個の内視鏡で測定された測定値の平均値である。
【0138】
【表1】

【0139】
表1に示すように、各実施例の内視鏡では、いずれも、吸引ボタンおよび操作ノブの各部において、5000回目および1回目の各操作に要する力量および回転トルクに変化はなかった。
【0140】
これに対して、比較例1および比較例2の吸引ボタンでは、いずれも、5000回目までに、各Oリングが摩擦破損してしまった。
【0141】
また、比較例1および比較例2の操作ノブでは、いずれも、5000回目までに、各Oリングが摩擦破損してしまった。
【0142】
一方、比較例3の吸引ボタンでは、5000回目において押圧操作に要する力量は、1回目よりも小さくなった。また、比較例3の操作ノブでは、5000回目において回転操作に要する回転トルクは、1回目よりも小さくなった。しかし、これらを保持するには、10回の押圧操作毎および回転操作毎にシリコーンオイルの塗布を必要とし、極めて操作性に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明の内視鏡用封止部材の斜視図(一部断面図)である。
【図2】本発明の内視鏡を示す全体図である。
【図3】図2に示す内視鏡における全体配管を示す概略図である。
【図4】図2に示す内視鏡が備える接眼部の構成を示す縦断面図である。
【図5】図2に示す内視鏡が備える操作ノブの構成を示す縦断面図である。
【図6】図2に示す内視鏡が備える吸引ボタンの待機状態(第1の状態)を示す縦断面図である。
【図7】図2に示す内視鏡が備える吸引ボタンの操作状態(第2の状態)を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0144】
1 内視鏡
2 挿入部可撓管
3 操作部
4 接眼部
4a 接眼枠
4b 接眼筒
4c 視度環
4d 被せ環
5 接続部可撓管
6 差込部
7 吸引チャンネル
10 吸引ボタン
11 押圧部
12 シリンダ
14 吸引口
14a 吸引接続管
17 共通口
17a 連通管
20 ピストン
21 可撓管部
22 湾曲部
24 取り付け座
25 戻しバネ
26 貫通孔
27 ピストン受け筒
30 操作機構
31、32 操作ノブ
33、34 ロックレバー
35 軸体
41 基端部
42a、42b 接眼レンズ
50 外部吸引チューブ
51 チャンネルチューブ
61 基部
62 光源用コネクタ
100 内視鏡用封止部材
101 芯部
102 被覆層
120 内腔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに摺接する内視鏡部品同士の間に設けられ、これらの間を封止する内視鏡用封止部材であって、
弾性材料で構成された芯部と、該芯部の外周部を被覆し、主として炭素系物質で構成された被覆層とを備えることを特徴とする内視鏡用封止部材。
【請求項2】
前記被覆層は、柔軟性を有するものである請求項1に記載の内視鏡用封止部材。
【請求項3】
前記炭素系物質は、ダイヤモンドライクカーボンを主成分とするものである請求項1または2に記載の内視鏡用封止部材。
【請求項4】
前記弾性材料は、フッ素ゴムおよびシリコーンゴムの少なくとも一方を主成分とするものである請求項3に記載の内視鏡用封止部材。
【請求項5】
前記被覆層は、気相成膜法により形成されたものである請求項3または4に記載の内視鏡用封止部材。
【請求項6】
前記気相成膜法は、プラズマCVD法である請求項5に記載の内視鏡用封止部材。
【請求項7】
前記被覆層は、シリコンを含有するものである請求項1または2に記載の内視鏡用封止部材。
【請求項8】
前記炭素系物質は、炭素以外にシリコンを含有するものである請求項7に記載の内視鏡用封止部材。
【請求項9】
前記被覆層は、前記芯部の外周部に供給されたシリコン含有炭素系物質を反応させることにより形成されたものである請求項7または8に記載の内視鏡用封止部材。
【請求項10】
前記弾性材料は、フッ素ゴムを主成分とするものである請求項7ないし9のいずれかに記載の内視鏡用封止部材。
【請求項11】
前記被覆層の平均厚さは、0.1〜10μmである請求項1ないし10のいずれかに記載の内視鏡用封止部材。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の内視鏡用封止部材を備えることを特徴とする内視鏡。
【請求項13】
前記内視鏡用封止部材は、Oリングである請求項12に記載の内視鏡。
【請求項14】
前記内視鏡用封止部材の外周部には、実質的に潤滑剤が存在しない請求項12または13に記載の内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−271890(P2006−271890A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99975(P2005−99975)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】