説明

加工シミュレーション装置

【課題】 干渉領域の体積を判断する必要をなくし、工具モデルの干渉を的確にチェックできる加工シミュレーション装置を提供する。
【解決手段】 モデル格納部4に機械モデル11、治具モデル12、素材モデル13、工具モデル14を格納する。工具モデル14として、素材モデル13の削り取りに使用する切削用工具モデル14Aと、干渉チェックに使用する干渉チェック用工具モデル14Bとを用意する。切削送りの軸移動指令に従って、切削用工具モデル14Aにより素材モデル13を削り取り、素材モデル13の形状を更新する。早送りの軸移動指令に従って、干渉チェック用工具モデル14Bと素材モデル13、治具モデル12、機械モデル11との干渉をチェックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NCプログラムや手動操作による軸移動指令に従い、工具モデルと素材モデルの相対位置を制御し、工具モデルによる素材モデルの削り取りと、工具モデルと少なくとも素材モデルとの干渉チェックとを行う加工シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の加工シミュレーション装置は、一つの工具モデルで素材モデルの削り取りと干渉チェックとを行っている。つまり、軸移動指令により工具モデルと素材モデルとの相対位置を制御し、軸移動指令が切削送り指令であるときに、工具モデルと素材モデルとが重なり合った部分を切削領域として素材モデルから取り除き、軸移動指令が早送り指令であるときに、重なり合った部分を干渉領域としてチェックしている。
【0003】
具体的には、図5(a)に示すように、まず、ディスプレイ50の画面上に、被加工物を載置するテーブルを示す機械モデル51と、被加工物を把持する治具を示す治具モデル52と、被加工物を示す素材モデル53と、加工に使用する工具を示す工具モデル54とを表示する。次に、切削送りの軸移動指令に従い、工具モデル54と機械モデル51、治具モデル52、素材モデル53とを相対移動し、工具モデル54と素材モデル53が重なり合った部分を切削領域55として算出し、この領域55を素材モデル53から取り除き、素材モデル53の形状を更新する。
【0004】
このとき、例えば図6(a)に示すように、実際の加工で直径dの工具540を使用する場合、工具モデル54を断面が工具540と同じ直径の円形となる円柱形状に定義すると、切削領域55は工具モデル54と同じ断面積の円柱形状に算出される。あるいは、図6(b)に示すように、工具モデル54を断面が工具540と同じ直径の円筒に内接する多角形となる多角柱形状で近似的に定義すると、切削領域55は工具モデル54と同じ断面積の多角柱形状に算出される。
【0005】
続いて、図5(b)に示すように、早送りの軸移動指令に従い、工具モデル54を素材モデル53から逃がす場合、工具モデル54と素材モデル53、治具モデル52、機械モデル51との干渉をチェックする。このとき、工具モデル54として、図6に示す円柱形状または多角柱形状に定義したモデルを使用し、円柱形状または多角柱形状の切削領域55を取り除いた後の素材モデル53との干渉の有無がチェックされる。
【0006】
しかし、この干渉チェックによると、素材モデル53から切削領域55を取り除くときの計算誤差により、切削領域55を取り除いた更新後の素材モデル53の切削部(図5bに示す凹部)が工具モデル54と完全に一致しないことがある。こうした場合、干渉チェックにおいて工具モデル54と素材モデル53との微少な干渉を検知し、アラームが発生してしまう。そこで、従来は、更新後の素材モデル53の切削部と工具モデル54とが重なり合う部分を干渉領域として定め、干渉領域の体積を算出し、算出値が予め定めた許容値を超えない場合は、干渉と見なさないようにしている。
【0007】
なお、以下に挙げる特許文献1,2には、干渉チェック機能を備えた加工シミュレーション装置が記載されている。
【特許文献1】特許第2628914号公報
【特許文献2】特開2000−284819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の加工シミュレーション装置によると、工具モデル54の干渉を判断するために干渉領域の体積を算出しているので、実際に使用する工具の大小、加工深さの違い等により干渉領域の体積に違いが生じ、本来干渉として検知すべき工具モデル54と素材モデル53との接触を見逃してしまう可能性があった。
【0009】
また、加工済みの箇所に工具を前回とは異なる位相で再進入させる場合、工具モデル54を図6(b)に示す断面多角形に定義した加工シミュレーションでは、図6(c)に示すように、位相の変化によって工具モデル54の頂点位置がズレるため、切削領域55の体積に変化がなくても、干渉領域の体積(位相を変化させた後の工具モデル54と、位相を変化させる前の工具モデルによる切削領域を取り除いた素材モデル53と、が干渉する領域の体積)が許容値を超え、順当な接触を干渉と誤って検知する可能性がある。しかも、この種の誤検知を排除するためには、多様な場面に応じた種々の許容値を設定する必要があり、システムが複雑になるという課題があった。
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解決し、干渉領域の体積を判断する必要をなくし、工具モデルと素材モデルとの干渉を的確にチェックできる加工シミュレーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、軸移動指令に従い工具モデルと素材モデルとの相対位置を制御し、工具モデルによる素材モデルの削り取りと、工具モデルと少なくとも素材モデルとの干渉チェックとを行う加工シミュレーション装置において、次の手段(1)、(2)を提供する。
【0012】
(1)素材モデルと工具モデルとを格納する格納手段と、軸移動指令に従って工具モデルを移動させたときの軌跡に基づいて素材モデルの形状を更新する更新手段とを備え、格納手段に、工具モデルとして、軌跡に基づいて素材モデルを削り取り更新するための切削用工具モデルと、干渉チェックに使用する干渉チェック用工具モデルとを設けたことを特徴とする加工シミュレーション装置。
【0013】
(2)干渉チェック用工具モデルが、切削用工具モデルよりも小さい形状に定義されていることを特徴とする加工シミュレーション装置。
例えば、切削用工具モデルは断面が相対的に大きな円形に定義され、干渉チェック用工具モデルは断面が相対的に小さな円形に定義される。また、計算を簡素化するために、切削用工具モデルの断面を多角形で近似的に定義し、干渉チェック用工具モデルの断面を前記多角形に内接する円形に定義してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加工シミュレーション装置によれば、切削用工具モデルと干渉チェック用工具モデルとを使い分けるので、干渉領域の体積を判断する必要性がなくなる。このため、本来検知すべき干渉を見逃したり、順当な接触を干渉と誤検知したりする可能性が少なくなる。即ち、二種類の工具モデルを用いた簡単なシステムにより、干渉チェックを的確に行うことができるという効果がある。
【0015】
また、干渉チェック用工具モデルを切削用工具モデルよりも小さい形状に定義することにより、素材モデルを更新する際に発生する計算誤差を干渉チェック用工具モデル側で許容し、システム側の負担を軽減できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、工作機械に用いられる加工シミュレーション装置の全体的な構成を概念的に示す。この加工シミュレーション装置1は、装置全体を制御するシミュレーション制御部2と、シミュレーション画面を表示するディスプレイ3と、各種モデルを格納するモデル格納部4と、NCプログラムや手動操作による軸移動指令を含む加工データを記憶する加工データ記憶部5と、シミュレーションに使用するプログラムやパラメータを記憶するシミュレーションデータ記憶部6と、モデル同士の干渉を検知したときにアラームを発生する警報部7と、オペレータが入力操作する入力部8とから構成されている。
【0017】
モデル格納部4には、主軸頭やテーブル等の機械要素を定義した機械モデル11、チャックやホルダ等の治具を定義した治具モデル12、被加工物の形状を定義した素材モデル13、被加工物を加工する工具の形状を定義した工具モデル14などが格納されている。そして、シミュレーション制御部2が、切削送りの軸移動指令に従って、工具モデル14と機械モデル11、治具モデル12、素材モデル13との相対位置を制御し、工具モデル14により素材モデル13を削り取る状態をディスプレイ3の画面上に表示する。また、早送りの軸移動指令に従って、工具モデル14と素材モデル13、治具モデル12、機械モデル11との干渉をチェックし、干渉チェックの状態をディスプレイ3の画面上に表示するようになっている。
【0018】
図2は、工具モデル14の構成を示す。この加工シミュレーション装置1では、工具モデル14として、切削用工具モデル14Aと干渉チェック用工具モデル14Bとが実際の加工に使用する工具(工具1、工具2・・・)毎に用意されている。切削用工具モデル14Aは素材モデル13の削り取りに用いられ、干渉チェック用工具モデル14Bが素材モデル13、治具モデル12、機械モデル11との干渉チェックに用いられる。シミュレーション制御部2は、加工データ記憶部5に記憶された軸移動指令に従って切削用工具モデル14Aを移動させたときの工具軌跡に基づいて、素材モデル13の形状を更新するとともに、干渉チェック用工具モデル14Bと他のモデル11〜13との干渉チェックを行い、干渉を検知したときに警報部7においてアラームを発生させる。
【0019】
図3は、実際の工具140、切削用工具モデル14A、干渉チェック用工具モデル14B及び切削領域15の断面形状を示す。切削用工具モデル14Aと干渉チェック用工具モデル14Bは、それぞれ全体として工具140に相似する円柱または多角柱形状に定義される。例えば、図3(a)に示すように、直径dの工具140を使用する場合、切削用工具モデル14Aは、断面(工具軸線と直交する断面)が工具140と同じ直径の円形に定義される。干渉チェック用工具モデル14Bは、断面が切削用工具モデル14Aより小さい直径の円形に定義される。素材モデルを更新するための切削領域15は、切削用工具モデル14Aと同じ直径の円柱形状として求められ、素材モデル13から取り除かれる。
【0020】
あるいは、図3(b)に示すように、切削用工具モデル14Aは、断面が工具140と同じ直径の円に内接する多角形として近似的に定義される。干渉チェック用工具モデル14Bは、断面が切削用工具モデル14Aの多角形に内接する円形又はそれよりも小径の円形に定義される。素材モデルを更新するための切削領域15は、切削用工具モデル14Aと同じ大きさの多角柱形状として求められる。図3(c)に示すように、切削用工具モデル14Aを断面八角形に定義した場合、八角形の内接円の直径は外接円の直径(工具径)の0.924倍であるから、干渉チェック用工具モデル14Bの直径をd×0.924以下とすることで、図3(b)に示す切削領域との干渉を避けることができる干渉チェック用工具モデル14Bが得られる。
【0021】
図4は、切削用工具モデル14A及び干渉チェック用工具モデル14Bを用いた加工シミュレーション方法を示す。まず、素材モデル13の削り取りにあたり、図4(a)に示すように、円柱形状または多角柱形状の切削用工具モデル14Aを加工データ記憶部5に記憶された軸移動指令に従って位置決めした後、切削送りの軸移動指令に従い、切削用工具モデル14Aと、機械モデル11、治具モデル12、素材モデル13とを相対移動し、切削用工具モデル14Aにより素材モデル13の一部を削り取る。このとき、素材モデル13と切削用工具モデル14Aとが重なり合った部分を切削領域15として算出し、切削領域15を素材モデル13から取り除き、素材モデル13の形状を更新する。
【0022】
次に、加工データ記憶部5に記憶された軸移動指令が早送りの場合、シミュレーション制御部2は、工具モデルと、機械モデル、治具モデル、素材モデルとの干渉をチェックするため、図4(b)に示すように、切削用工具モデル14Aに替え干渉チェック用工具モデル14Bをモデル格納部4から読み出す。干渉チェック用工具モデル14Bとしては、切削用工具モデル14Aよりも小さい円柱形状あるいは多角柱形状モデルを使用する。そして、図4(c)に示すように、早送りの軸移動指令に従い、干渉チェック用工具モデル14Bを素材モデル13から逃がす過程において、素材モデル13と干渉チェック用工具モデル14Bとの干渉をチェックを行う。その後、加工データ記憶部5に記憶された早送りの軸移動指令に従い、干渉チェック用工具モデル14Bを移動させながら、このモデル14Bと治具モデル12及び機械モデル11との干渉をチェックし、干渉が発生したときに、警報部7からアラームを発生させる。
【0023】
この実施形態の加工シミュレーション装置1によれば、切削用工具モデル14Aと干渉チェック用工具モデル14Bとを使い分けるので、従来とは異なり、干渉領域の体積を許容値と比較するという中間的な処理を省いて、干渉の有無だけを直接的に判断できる。このため、工具軌跡のズレによる干渉チェック用工具モデル14Bと他のモデル11〜13との微少な接触を見逃すおそれがなく、工具位相の変化による順当な干渉を誤検知する可能性も低下する。また、干渉チェック用工具モデル14Bを切削用工具モデル14Aよりも小さく定義することで、素材モデル13を更新する際に発生する計算誤差を干渉チェック用工具モデル14B側で許容し、システム側の負担を軽減することも可能である。
【0024】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するように、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の構成を適宜に変更して実施することも可能である。
(1)一つの切削用工具モデル14Aに対し、大きさが異なる複数の干渉チェック用工具モデル14Bを組み合わせること。
(2)図2に示す切削用工具モデル14Aを刃具モデル14A−1とシャンクモデル14A−2として定義し、刃具モデル14A−1を切削工具用モデル14Aとして、シャンクモデル14A−2を干渉チェック用工具モデル14Bとして使用すること。即ち、刃具モデル14A−1により切削送りの軸移動指令に従い素材モデル13を更新すると共に、シャンクモデル14A−2により機械モデル、治具モデル、素材モデルとの干渉チェックを行う、あるいは、刃具モデル14A−1とシャンクモデル14A−2により干渉チェックを行い、刃具モデル14A−1のみが素材モデル13に重なり合った場合には、干渉とみなさない処理を行うことにより、素材モデルの更新と干渉チェックを行うこと。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態を示す加工シミュレーション装置の構成図である。
【図2】工具モデルの構成を示す概略図である。
【図3】切削用及び干渉チェック用工具モデルの断面形状を示す概略図である。
【図4】加工シミュレーション方法を示す工程図である。
【図5】従来の加工シミュレーション装置を示す概略図である。
【図6】従来の工具モデルの断面形状を示す概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1 加工シミュレーション装置
2 シミュレーション制御部
3 ディスプレイ
4 モデル格納部
5 加工データ記憶部
6 シミュレーションデータ記憶部
7 警報部
8 入力部
11 機械モデル
12 治具モデル
13 素材モデル
14 工具モデル
14A 切削用工具モデル
14A−1 刃具モデル
14A−2 シャンクモデル
14B 干渉チェック用工具モデル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸移動指令に従い工具モデルと素材モデルとの相対位置を制御し、工具モデルによる素材モデルの削り取りと、工具モデルと少なくとも素材モデルとの干渉チェックとを行う加工シミュレーション装置において、
前記素材モデルと工具モデルとを格納する格納手段と、軸移動指令に従って工具モデルを移動させたときの軌跡に基づいて素材モデルの形状を更新する更新手段とを備え、
前記格納手段に、工具モデルとして、前記軌跡に基づいて前記素材モデルを削り取り更新するための切削用工具モデルと、前記干渉チェックに使用する干渉チェック用工具モデルとを設けたことを特徴とする加工シミュレーション装置。
【請求項2】
前記干渉チェック用工具モデルが、切削用工具モデルよりも小さい形状に定義されていることを特徴とする請求項1記載の加工シミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−230571(P2009−230571A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76574(P2008−76574)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】