説明

加水分解性シリル基含有ジオ−ル、その製造方法、それを使用したポリウレタン樹脂及びその製造方法

【課題】 2つの一級の水酸基と加水分解性シリル基を有する加水分解性シリル基含有ジオ−ル及びその製造方法を提供すること、更に、それをポリイソシアネートと重付加反応することによって加水分解性シリル基を側鎖にペンダント状に導入した新規なウレタン樹脂を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される加水分解性シリル基含有ジオール、その製造方法、ウレタン樹脂及びその製造方法に関するものである。
【0000】
【化1】


(式中、R1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基であり、R2は炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3およびR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、R5は、−CO−NH−R6−NH−CO−であり、R6は炭素原子数が2〜18の有機基である。また式中、Xは、1〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性シリル基と一級の水酸基を2つ有する加水分解性シリル基含有ジオールの製造法、それを使用したポリウレタン樹脂及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加水分解性シリル基とイソシアネート基等と反応性を有する官能基とを併せ持つ、いわゆるシランカップリング剤は数多く知られている。例えばイソシアネート基と反応性を有する官能基がアミノ基であるアミノシラン、メルカプト基であるメルカプトシラン等がある。
このようなシランカップリング剤を使用して、ウレタン樹脂を変性する場合、通常末端にイソシアネート基を有するウレタン樹脂プレポリマーを合成し、これとアミノシラン又はメルカプトシランとを反応させるのが定法である。
しかし、アミノシランの場合、アミノ基はイソシアネート基との反応が速すぎ、特に芳香族のイソシアネート化合物との反応では、副反応が起こり易く、ゲル化する場合があるという問題を有している。またメルカプトシランの場合、メルカプト基はイソシアネート基と反応するが、反応速度が非常に遅く、ウレタン化触媒を使用しないと反応が進行しない。ウレタン化触媒は、加水分解性シリル基の加水分解と縮合反応の触媒にもなり、メルカプト基とイソシアネート基の反応中にシリル基の加水分解と縮合反応が起こり、ゲル化するという問題が発生する。
イソシアネート基との反応速度が好適な官能基は、水酸基(OH基)であり、特に一級の水酸基である一級水酸基を2つ有するシランカップリング剤が出来れば、イソシアネート基との反応速度が好適なため、ウレタン樹脂のジオール成分として使用でき、ウレタン樹脂の側鎖に加水分解性シリル基を数多く導入でき、シリル基の加水分解と縮合反応による架橋反応での架橋密度が高くすることができ、又ウレタン樹脂の分子量も大きくできるというメリットもある。
しかし、一級水酸基を二つ有するシランカップリング剤で、工業的に供給が可能なものはまだ実用化されていない。
【0003】
加水分解性シリル基を有するオリゴマータイプのジオールは既に知られている。
この化合物は、連鎖移動剤としてのチオグリセリンに加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリレートをラジカル重合して得られる、片末端に2つの水酸基を有するオリゴマーである(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、このオリゴマーは、1)一級と二級の水酸基を有しており、二級の水酸基がイソシアネートとの反応が遅いため、ウレタン化に時間がかかる。2)チオグリセリンと反応していない、すなわち水酸基を有していないオリゴマーが副生する。かかる水酸基を有していないオリゴマーは、イソシアネート化合物と反応しないため、ウレタン樹脂に組み込まれず、ウレタン樹脂にブレンドされた状態となり、徐々にブリードアウトしたり、水や溶剤によって抽出されたりする等の問題点を有している。
【0004】
【特許文献1】特許第3055167号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、2つの一級の水酸基と加水分解性シリル基を有する加水分解性シリル基含有ジオ−ル及びその製造方法を提供すること、更に、それをポリイソシアネートと重付加反応することによって加水分解性シリル基を側鎖にペンダント状に導入した新規なウレタン樹脂及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、加水分解性シリル基を有する一級アミンに水酸基を有するモノアクリレートをマイケル付加反応させて末端に加水分解性シリル基を有するアミノアルコールとし、これにジイソシアネートを反応させると、加水分解性シリル基を有するジオールが得られることを発見するに及んで、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、一般式(1)
【0007】
【化1】

(式中、R1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基であり、R2は炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3およびR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、R5は、−CO−NH−R6−NH−CO−であり、R6は炭素原子数が2〜18の有機基である。また式中、Xは、1〜3の整数である。)で示される加水分解性シリル基含有ジオールを提供するものである。
【0008】
また本発明は、一般式(2)
【0009】
【化2】

(式中、R2は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3およびR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、Xは、1〜3の整数である。)
で示されるシリル化合物と一般式(3)
CH=CHCOO−R1−OH・・・(3)
(式中、R1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基、又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基である。)
で示される水酸基を有するアクリル化合物とを反応させて、一般式(4)
【0010】
【化3】

(式中、R1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基であり、R2は炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3およびR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、Xは、1〜3の整数である。)
で示されるアミノアルコールとし、次いでこのアミノアルコール2モルにジイソシアネート1モルを反応させることを特徴とする加水分解性シリル基含有ジオ−ルの製造方法を提供するものである。
また本発明は、分子中に前記加水分解性シリル基含有ジオールの成分単位とポリイソシアネートの成分単位を有する、数平均分子量が5,000〜500,000のウレタン樹脂を提供するものである。
さらに本発明は、前記加水分解性シリル基含有ジオ−ルとポリイソシアネートとを必須成分として、重付加反応することを特徴とするウレタン樹脂の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により、加水分解性シリル基と一級の水酸基を2つ有する加水分解性シリル基含有ジオールを容易に合成することができる。このジオールは、2つの一級水酸基(OH基)を有するため、ポリイソシアネートとの反応性に優れ、かつ加水分解性シリル基を側鎖にペンダント状に導入した新規なウレタン樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の加水分解性シリル基含有ジオールは、一般式(1)で示されるものである。
【0013】
【化4】

【0014】
この一般式(1)中、R1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基であり、R2は炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3およびR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、R5は、−CO−NH−R6−NH−CO−であり、R6は炭素原子数が2〜18の有機基である。また式中、Xは、1〜3の整数である。
これらのうち、R1が炭素原子数が2〜5であるものが好ましい。またR5中のR6が炭素原子数が4〜8のアルキレン基が好ましい。
【0015】
この一般式(1)で示されるジオールは、一般式(2)
【0016】
【化5】

で示される化合物と一般式(3)
CH=CHCOO−R1−OH (3)
で示される水酸基を有するアクリル化合物とを反応させて得られる、一般式(4)
【0017】
【化6】

で示されるアミノアルコール2モルに、ジイソシアネート1モルを反応させることにより得ることができる。
一般式(2)中、R2は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3およびR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、Xは、1〜3の整数である。このうち、反応性の点ではR3がメチル基であることが好ましく、また反応性生物の安定性の点ではR3が炭素原子数が2〜9のアルキル基であることが好ましい。
一般式(2)で示される化合物[以下化合物(I)という]は、加水分解性シリル基含有一級アミン化合物であり、例えばγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0018】
また前記一般式(3)中、R1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基である。これらのうち、炭素原子数が2〜5のアルキレン基が好ましい。
一般式(2)で示される水酸基を有するアクリル化合物[以下化合物(II)という]は、水酸基を有するモノアクリレートであり、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジプロピレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールモノアクリレート、トリプロピレングリコールモノアクリレート等が挙げられる。
【0019】
次に前記化合物(I)と前記化合物(II)とを反応させて得られる、一般式(4)で示されるアミノアルコール[以下アミノアルコール(III)という]について説明する。
まずこの反応を模式的に示すと下記の通りとなる。
【0020】
【化7】

【0021】
アミノアルコール(III)中のR1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基であり、R2は炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3及びR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、Xは、1〜3の整数である。
【0022】
このアミノアルコール(III)2モルにジイソシアネート1モルを反応させることにより、本発明の一般式(4)で示される加水分解性シリル基含有ジオールを合成することができる。
【0023】
【化8】

【0024】
化合物(III)を2モルと、ジイソシアネート1モルとを反応させ、水酸基を残してNH基とジイソシアネートのNCO基とを反応させるものである。この場合、一般式(4)中のR5は、−CO−NH−R6−NH−CO−であり、R6は炭素原子数が2〜18の有機基である。
【0025】
化合物(III)の有する2級アミノ基とジイソシアネートのイソシアネート基と反応させ、化合物(III)を尿素結合で2量化し、加水分解性シリル基を有するジオールを合成するものである。
かかるジイソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートやヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、水添キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートなどの脂肪族或は脂環族ジイソシアネートが挙げられる。これらのうち、水酸基と反応しないでアミンとのみ反応させる点で、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートが好ましい。
【0026】
上記した加水分解性シリル基含有ジオールの製造条件としては、特に限定はないが、通常は0〜120℃、好ましくは20〜80℃で、無溶剤か、適当な有機溶媒又は水、又はポリオール若しくは多価アルコールの存在下で、反応させることにより得ることができる。
【0027】
有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの有機溶媒は、反応の最初に全量用いても、その一部を分割して反応の途中に用いても良い。
【0028】
前記ポリオールとしては、例えば末端にヒドロキシル基を有する、ポリエステル、ポリエ−テル等が挙げられる。
前記多価アルコ−ルとしては、特に限定はしないが、エチレングリコ−ル、1,3−及び1,2−プロピレングリコ−ル、1,4−及び1,3−及び2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサングリコ−ル、1,8−オクタンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、シクロヘキサンジメタノ−ル、1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)−シクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオ−ル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオ−ル、ジエチレングリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、トリプロピレングリコ−ル、ジブチレングリコ−ル等が挙げられる。
【0029】
通常、加水分解性シリル基は、加水分解して、シリル基がシラノール基になりやすい。アルコールや、ポリオールや、多価アルコールといった、水酸基(OH基)を有する化合物は、このシリル化合物の加水分解を防止する効果がある。このため、本発明の加水分解性シリル基含有ジオールは、これらの水酸基を有する化合物の存在下で行った方が、合成反応中及び保存中の、加水分解安定性が改良されるので好ましい。
【0030】
次に、本発明の加水分解性シリル基含有ジオールをポリイソシアネートと重付加反応することによって得られる新規なウレタン樹脂とその製造方法について説明する。
本発明のウレタン樹脂は、加水分解性シリル基をウレタン樹脂の側鎖にペンダント状に導入した、5,000〜500,000の数平均分子量を有するウレタン樹脂である。
【0031】
このウレタン樹脂は、本発明の一般式(4)の加水分解性シリル基含有ジオールと、通常のポリウレタン樹脂の原料として使用されるポリオール、ポリイソシアネートなどを反応させることによって得ることができる。
【0032】
かかるポリオールとしては、本発明の一般式(4)で表される加水分解性シリル基含有ジオール化合物以外に、通常ポリウレタン樹脂の原料として使用されるポリオ−ル、低分子ポリオ−ル等を併用することができる。
【0033】
かかるポリオールとしては、末端に水酸基を有する、ポリエステル、ポリカ−ボネ−ト、ポリエステルカ−ボネ−ト、ポリエ−テル、ポリエ−テルカ−ボネ−ト、ポリエステルアミド等が挙げられるが、これらのうちポリエステル、ポリカ−ボネ−ト及びポリエ−テルが好ましい。
【0034】
前記ポリエステルは、末端に水酸基を有するものであり、二価アルコ−ルと二塩基性カルボン酸との反応により得ることができる。二塩基性カルボン酸の代わりに、対応の無水物又は低級アルコ−ルのジエステル或いはその混合物もポリエステルの製造に使用することができる。
【0035】
ポリエステルの製造に使用する二価アルコ−ルとしては、エチレングリコ−ル、1,3−及び1,2−プロピレングリコ−ル、1,4−及び1,3−及び2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサングリコ−ル、1,8−オクタンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、シクロヘキサンジメタノ−ル、1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)−シクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオ−ル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオ−ル、ジエチレングリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、トリプロピレングリコ−ル、ジブチレングリコ−ル等が挙げられる。
【0036】
二塩基性カルボン酸としては、脂肪族、脂環族、芳香族及び/又は複素環式とすることができ、不飽和であっても或いは例えばハロゲン原子で置換されても良い。これらカルボン酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメチン酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロイソフタル酸、無水ヘキサヒドロイソフタル酸、無水エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、ダイマ−脂肪酸、例えばオレイン酸、ジメチルテレフタレ−ト及び混合テレフタレ−トが挙げられる。
【0037】
前記末端に水酸基を有するポリエステルは、末端の一部にカルボキシル基を有することもできる。例えば、ε−カプロラクトンの様なラクトン、又はε−ヒドロキシカプロン酸の様なヒドロキシカルボン酸を原料とするポリエステルも使用することができる。
【0038】
末端に水酸基を有するポリカ−ボネ−トとしては、例えば、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、ジエチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル及び/又はポリテトラメチレングリコ−ルの様なジオ−ルとジアルキルカーボネート(例えば、ジエチルカーボネート)、ジアリルカ−ボネ−ト(例えばジフェニルカ−ボネ−ト)もしくは環式カ−ボネ−ト(例えばプロピレンカ−ボネ−ト)との反応生成物が挙げられる。
【0039】
また末端に水酸基を有するポリエ−テルとしては、反応性水素原子を有する出発化合物と、例えば酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化ブチレン、酸化スチレン、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリンの様な酸化アルキレン又はこれら酸化アルキレンの混合物との反応生成物が挙げられる。
【0040】
かかる反応性水素原子を有する出発化合物としては、水、ビスフェノ−ルA及び二価アルコ−ルが挙げられる。この二価アルコールは、前記ポリエステルポリオ−ルの原料として記載したものを使用することができる。
【0041】
前記ウレタン樹脂の原料である低分子ポリオ−ルの例としては、前記した二価アルコ−ルが挙げられる。
【0042】
次に、本発明のウレタン樹脂の原料であるポリイソシアネートとしては、
R(NCO)(式中、Rは任意の二価の有機基)
によって示されるジイソシアネ−トが挙げられる。
【0043】
かかるポリイソシアネートとしては、具体的には、例えばテトラメチレンジイソシアネ−ト、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、ドデカメチレンジイソシアネ−ト、シクロヘキサン−1,3−及び1,4−ジイソシアネ−ト、1−イソシアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(=イソホロンジイソシアネ−ト)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(=ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、2−及び4−イソシアナトシクロヘキシル−2´−イソシアナトシクロヘキシルメタン、1,3−及び1,4−ビス−(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、ビス−(4−イソシアナト−3−メチルシクロヘキシル)メタン、1,3−及び1,4−テトラメチルキシリデンジイソシアネ−ト、2,4−及び/または2,6−ジイソシアナトトルエン、2,2´−、2,4´−及び/または4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネ−ト、p−及びm−フェニレンジイソシアネ−ト、キシリレンジイソシアネ−ト、ジフェニル−4,4´−ジイソシネ−ト等が挙げられる。これらのうち、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、4,4’−MDIと略す)が好ましい。
【0044】
ウレタン樹脂の製造条件としては、特に限定はないが、通常は0〜120℃、好ましくは40〜80℃で適当な有機溶媒又は水の存在下で、又は無溶剤で、前記のウレタン化原料を、触媒なしで、或いは公知のウレタン化触媒を用いるか或いは反応遅延剤を添加して、撹拌混合させるものである。更に、ウレタン化反応の終点或いは終点近くで、一官能性の活性水素を有する化合物を加えて、未反応のイソシアネート基を実質的に無くすこともできる。
【0045】
有機溶媒の例としては、前記の加水分解性シリル基含有ジオールを製造するとき使用したものを用いることができる。この有機溶媒は、ウレタン化反応の最初に全量用いても、その一部を分割して反応の途中に用いても良い。
【0046】
また前記ウレタン化触媒としては、ジブチルスズジイソシアネート、オクチル酸第一スズのようなスズ化合物、ジアザビシクロウンデセンような3級アミン、あるいは、そのカルボン酸塩等が挙げられ、その使用量はウレタン樹脂の固形分に対して、10ppm〜1000ppmが適当である。
【0047】
反応遅延剤としては、通常リン酸等の酸が使用される。使用量はウレタン樹脂の固形分に対して10ppm〜1000ppmが適当である。
【0048】
一官能性の活性水素を有する化合物としては、メタノール、ブタノールなどのモノアルコールが使用される。
【0049】
また本発明の加水分解性シリル基含有ジオール化合物、ポリオール及びポリイソシアネートの使用割合は、NCO/OHの当量比で、ポリマー化の場合は、通常0.95〜1.05、好ましくは0.98〜1.03、プレポリマー化の場合は、通常1.05〜2.5、好ましくは1.5〜2.0が用いられる。
【0050】
本発明のウレタン樹脂の数平均分子量は、5,000〜500,000であり、30,000〜150,000が好ましい。またウレタンプレポリマーとしては、数平均分子量が1,000〜10,000のものが好ましい。
【0051】
また本発明のウレタン樹脂は、前記ウレタンプレポリマーに鎖伸長剤を反応させることにより得ることもできる。鎖伸長剤としては、有機ジアミン等が使用される。
【0052】
かかる有機ジアミンとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジアミン(DAM)、ジアミノエタン、1,2−又は1,3−ジアミノプロパン、1,2−又は1,3−又は1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、N,N´−ビス−(2−アミノエチル)ピペラジン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチル−シクロヘキサン(=イソホロンジアミン)、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノ−3−ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2−、1,3−及び1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノプロパン、ノルボルネンジイソシアネート等が挙げられ、ヒドラジン、アミノ酸ヒドラジド、セミ−カルバジドカルボン酸のヒドラジド、ビス(ヒドラジド)及びビス(セミカルバジド)等も使用することができる。
これら有機ジアミンを用いた鎖伸長反応条件としては、特に限定はしないが、通常80℃以下、好ましくは0〜70℃の温度で良好な撹拌条件下で実施される。
【0053】
本発明のウレタン樹脂の製造方法には、必要に応じて反応の任意の時点で、酸化防止剤等の安定剤、滑剤、非溶剤、顔料、充填剤、帯電防止剤その他の添加剤を加えることができる。
【0054】
前記製造方法により、加水分解性シリル基を側鎖にペンダント状に導入したウレタン樹脂を得ることができる。
この加水分解性シリル基が、シロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成して自己架橋することにより、通常ウレタン樹脂が溶解するような溶剤(例えばジメチルホルムアミド、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなど)に溶解しなくなり、耐薬品性、耐熱性などが向上する。
このため本発明のウレタン樹脂は、従来のウレタン樹脂に比較して耐久性に優れ、合成皮革、人工皮革、工業用部品、フィルム、塗料、接着剤などの用途に使用することができる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の加水分解性シリル基を側鎖に有するウレタン樹脂について、その合成例を示し、本発明を更に具体的に説明する。本発明はこれら合成例に限定されるものではない。尚、合成例中の部及び%は断りのない限り重量に関するものである。
【0056】
[実施例1]トリエトキシシリル基を有するジオールの合成例
窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口丸底フラスコに、トリエトキシシリルプロピルアミン(日本ユニカー製 A−1100)158g(0.72モル)を仕込み均一に混合した。次いで、滴下ロートを使用して、2−ヒドロキシエチルアクリレート83.5g(0.72モル)を、内温を35〜45℃に保ちながら、約60分で投入した。その後内温を40〜45℃に保ちながら5時間攪拌した。赤外分光光度計でアクリル2重結合の吸収が消滅していることを確認した。次に、氷水で冷却しながら、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)60.5g(0.36モル)を内温を30〜40℃に保ちながら、約30分かけて滴下ロートで滴下した。滴下終了後、内温を30〜40℃に保ちながら、1時間攪拌した。ブロムチモールブルー(BTB)の1%エタノール溶液で、黄色ないし黄緑色を呈すること、すなわち、未反応のトリエトキシシリルプロピルアミンが残っていないことを確認した。更に、赤外分光光度計でイソシアネート基のピークが無いことを確認して、取り出した。得られたトリエトキシシリル基を有するジオールは常温でほとんど無色透明な液体であった。
<DMSOを溶媒としたH−NMRの測定結果>
1.1ppm:−Si(OCH2CH3)
3.7ppm:−Si(OCH2CH3)
6.2ppm:尿素結合(−NH−CO−N)
尚、H−NMRではアクリル性2重結合及びウレタン結合は検出されなかった。
【0057】
[実施例2]トリエトキシシリル基を有するジオールの合成例
窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口丸底フラスコに、3−メチル1,5ペンタンジオールとアジピン酸からのクラポール P−510(ポリエステルポリオール、数平均分子量=500 クラレ(株)製)300g、トリエトキシシリルプロピルアミン(日本ユニカー製 A−1100)158g(0.72モル)を仕込み均一に混合する。次いで、滴下ロートを使用して、2−ヒドロキシエチルアクリレート83.5g(0.72モル)を、内温を35〜45℃に保ちながら、約60分で投入した。その後内温を40〜45℃に保ちながら、5時間攪拌した。赤外分光光度計でアクリル2重結合の吸収が消滅していることを確認した。次に、氷水で冷却しながらヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)60.5g(0.36モル)を内温を30〜40℃に保ちながら、約30分かけて滴下ロートで滴下した。滴下終了後内温を30〜40℃に保ちながら、1時間攪拌した。ブロムチモールブルー(BTB)の1%エタノール溶液で、黄色ないし黄緑色を呈すること、すなわち、未反応のトリエトキシプロピルアミンが残っていないことを確認した。更に、赤外分光光度計でイソシアネート基のピークが無いことを確認して、取り出した。得られたジオールは常温でほとんど無色透明な液体で、密栓状態では、長期間安定であった。
<DMSOを溶媒としたH−NMRの測定結果>
1.1ppm:−Si(OCH2CH3)
3.7ppm:−Si(OCH2CH3)
6.2ppm:尿素結合(−NH−CO−N)
尚、H−NMRではアクリル性2重結合及びウレタン結合は検出されなかった。
【0058】
[実施例3]トリメトキシシリル基を有するジオールの合成例
窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口丸底フラスコに、3−メチル1,5ペンタンジオールとアジピン酸からのクラポール P−510
300g、トリメトキシシリルプロピルアミン(日本ユニカー製 A−1110)129g(0.72モル)を仕込み均一に混合した。次いで、滴下ロートを使用して、2−ヒドロキシエチルアクリレート83.5g(0.72モル)を、内温を35〜45℃に保ちながら、約60分で投入した。その後内温を40〜45℃に保ちながら、5時間攪拌した。次に、赤外分光光度計でアクリル2重結合の吸収が消滅していることを確認した。次に、氷水で冷却しながら、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)60.5g(0.36モル)を内温を30〜40℃に保ちながら、滴下ロートを使用して約30分かけて投入した。投入後内温を30〜40℃に保ちながら、1時間攪拌した。ブロムチモールブルー(BTB)の1%エタノール溶液で、黄色ないし黄緑色を呈すること、すなわち、未反応のトリメトキシシリルプロピルアミンが残っていないことを確認した。更に、赤外分光光度計でイソシアネート基のピークが無いことを確認して、取り出した。得られたジオールは常温でほとんど無色透明な液体で、密栓状態では、長期間安定であった。
<DMSOを溶媒としたH−NMRの測定結果>
1.2ppm:−Si(OCH2CH3)
3.8ppm:−Si(OCH2CH3)
6.2ppm:尿素結合(−NH−CO−N)
尚、H−NMRではアクリル性2重結合及びウレタン結合は検出されなかった。
【0059】
[実施例4]トリエトキシシリル基を有するジオールの合成例
実施例2において、窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口丸底フラスコに、クラポール P−510の代わりに3−メチル1,5−ペンタンジオールを使用する以外は、実施例2と同様にしてトリエトキシシリル基を有するジオールの合成をおこなった。得られたジオールは常温でほとんど無色透明な液体で、密栓状態では、長期間安定であった。
<DMSOを溶媒としたH−NMRの測定結果>
1.1ppm:−Si(OCH2CH3)
3.7ppm:−Si(OCH2CH3)
6.2ppm:尿素結合(−NH−CO−N)
尚、H−NMRではアクリル性2重結合及びウレタン結合は検出されなかった。
【0060】
[実施例5]トリエトキシシリル基を有するジオールの合成例
実施例1において、2−ヒドロキシエチルアクリレートを83.5g(0.72モル)使用する代わりに4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)を103.7g(0.72モル)使用する以外は、実施例1と同様に合成した。得られたトリエトキシシリル基を有するジオールは常温でほとんど無色透明な液体であった。
<DMSOを溶媒としたH−NMRの測定結果>
1.1ppm:−Si(OCH2CH3)
3.4ppm:−CH2CH2CH2CH2OH
3.7ppm:−Si(OCH2CH3)
6.2ppm:尿素結合(−NH−CO−N)
尚、H−NMRではアクリル性2重結合及びウレタン結合は検出されなかった。
【0061】
[実施例6]トリエトキシシリル基を有するジオールの合成例
実施例2において、2−ヒドロキシエチルアクリレートを83.5g(0.72モル)使用する代わりに4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)を103.7g(0.72モル)使用する以外は、実施例1と同様に合成した。得られたジオールは常温でほとんど無色透明な液体で、密栓状態では、長期間安定であった。
<DMSOを溶媒としたH−NMRの測定結果>
1.1ppm:−Si(OCH2CH3)
3.4ppm:−CH2CH2CH2CH2OH
3.7ppm:−Si(OCH2CH3)
6.2ppm:尿素結合(−NH−CO−N)
尚、H−NMRではアクリル性2重結合及びウレタン結合は検出されなかった。
【0062】
[実施例7]トリエトキシシリル基をペンダント状に有するウレタン樹脂の合成
窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口丸底フラスコに、数平均分子量が2,000のポリテトラメチレンエーテルジオール100部、実施例1で得られたシリル基含有ジオール化合物5部、溶剤としてジメチルホルムアミド(DMF)336部、4,4’−MDI 27.8部、を混合して70℃において2時間反応した後、40℃にて、4,4’−ジフェニルメタンジアミン(DAM) 11.0部を加えて、2時間反応し、樹脂濃度30%、粘度 300dPa.s、のポリウレタン樹脂溶液を得た。
<反射型赤外分光光度計での測定結果>
未反応のイソシアネート基のピークが無いことが確認された。又、810cm-1に−Si(OC25)に起因するピークが認められた。さらに1720cm-1にウレタン結合(−NHCOO−)のピークが認められた。
<DMSOを溶媒としたH−NMRの測定結果>
1.1ppm:−Si(OCH2CH3)
3.7ppm:−Si(OCH2CH3)

【0063】
[実施例8]トリエトキシシリル基をペンダント状に有するウレタン樹脂の合成
窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口丸底フラスコに、数平均分子量が2,000のポリ1,6ヘキサンカーボネートジオール100部、実施例1で得られたシリル基含有ジオール5部、1,4ブタンジオール5部、溶剤としてジメチルホルムアミド(DMF)336部、4,4’−MDI 27.8部を混合して70℃において8時間反応した後、メタノールを0.2部を投入し、1時間反応し、樹脂濃度30%、粘度 300dP.s、のウレタン樹脂溶液を得た。
<反射型赤外分光光度計での測定結果>
未反応のイソシアネート基のピークが無いことが確認された。又、810cm-1に−Si(OC25)に起因するピークが認められた。さらに1730cm-1にウレタン結合(−NHCOO−)のピークが認められた。
<DMSOを溶媒としたH−NMRの測定結果>
1.1ppm:−Si(OCH2CH3)
3.7ppm:−Si(OCH2CH3)
【0064】
[比較例1]チオグリセリンを連鎖移動剤とした、オリゴマー法で合成した加水分解性シリル基を有するジオールを使用したウレタン樹脂の合成
実施例8において実施例1で得られたジオールの代わりにチオグリセリンを連鎖移動剤としてトリエトキシシリルプロピルメタアクリレートとメチルメタクリレートを重量比で、5/5の比率でラジカル共重合して、分子量約2000としたジヒドロキシ末端のシリル基含有オリゴマーを使用して、樹脂濃度30%、粘度 300dP.sのポリウレタン樹脂溶液を得た。反応時間は実施例8の約2倍要した。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基であり、R2は炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3およびR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、R5は、−CO−NH−R6−NH−CO−であり、R6は炭素原子数が2〜18の有機基である。また式中、Xは、1〜3の整数である。)
で示される加水分解性シリル基含有ジオール。
【請求項2】
一般式(2)
【化2】

(式中、R2は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3およびR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、Xは、1〜3の整数である。)
で示されるシリル化合物と一般式(3)
CH=CHCOO−R1−OH ・・・(3)
(式中、R1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基、又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基である。)
で示される水酸基を有するアクリル化合物とを反応させて、一般式(4)
【化3】

(式中、R1は、炭素原子数が1〜9のアルキレン基又は炭素原子数が2〜9のジ又はトリアルキレンエーテル基であり、R2は炭素原子数が1〜9のアルキレン基、R3およびR4は、炭素原子数が1〜9のアルキル基であり、Xは、1〜3の整数である。)
で示されるアミノアルコールとし、次いでこのアミノアルコール2モルにジイソシアネート1モルを反応させることを特徴とする加水分解性シリル基含有ジオ−ルの製造法。
【請求項3】
分子中に請求項1に記載の加水分解性シリル基含有ジオールの成分単位とポリイソシアネートの成分単位を有する、数平均分子量が5,000〜500,000のウレタン樹脂。
【請求項4】
請求項1に記載の加水分解性シリル基含有ジオ−ルとポリイソシアネートとを必須成分として、重付加反応することを特徴とするウレタン樹脂の製造方法。


【公開番号】特開2006−225309(P2006−225309A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40527(P2005−40527)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】