説明

加飾シートの製造方法

【課題】インサート成形法に使用する場合においても、目標とする立体的意匠の美観を忠実に再現し得るようにした加飾シートの製造方法を提供する。
【解決手段】基体シート10の背面にエンボス加工により凹凸形状面11を形成し、凹凸形状面11上にUV硬化性インキ層12を形成し、UV照射によるUV硬化性インキ層12の硬化後、UV硬化性インキ12層上に絵柄層13を形成する。したがって、インサート成形の際に基体シート10が加熱されても凹凸形状はそのまま保持されるので、製造される加飾シート1は目標とする立体的意匠の美感を忠実に再現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布目等の立体的意匠を持つ、車両の内装材等に使用する加飾シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の加飾シートの製造方法として、目標とする立体的意匠のポジ形状の凹凸を形成した付形部材を透明の熱可塑性樹脂製のシート材の片面に加熱しつつ押し付けて、前記片面に付形部材の凹凸のネガ形状の凹凸を形成する加熱付形工程(以下、このように付形部材の凹凸のネガ形状の凹凸を形成する加工をエンボス加工と呼ぶ)と、シート材を冷却する冷却工程と、前記片面に光輝材を含有するインキまたは塗料を塗布して、凹凸の外表面に密着する塗膜を形成する塗装工程と、塗膜を乾燥する乾燥工程とを備える技術が特許文献1に開示されている。エンボス加工によるシート材への凹凸形成は、切削による凹凸形成と比べて複雑かつ比較的大きな凹凸を容易に形成できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4165623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、エンボス加工によってシート材に凹凸が形成された従来の加飾シートを用い、インサート成形法で樹脂成形品との一体物である加飾成形品を形成すると、シート材に形成された凹凸形状が成形樹脂の熱により元の平面に戻ろうとすることによって目標とする立体的意匠の美観を忠実に再現できないことがあった。
【0005】
本発明は、インサート成形法に使用する場合においても、目標とする立体的意匠の美観を忠実に再現し得る加飾シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記目的を達成するため、以下のような特徴を備える。
【0007】
本発明の加飾シートの製造方法は、基体シートの背面にエンボス加工により凹凸形状面を形成し、
凹凸形状面上にUV硬化性インキ層を形成し、
UV照射によるUV硬化性インキ層の硬化後、UV硬化性インキ層上に絵柄層を形成することを特徴とする。
【0008】
また、上記の発明において、基体シートの背面側からのUV照射によりUV硬化性インキ層を硬化させてもよい。
【0009】
本発明の加飾成形品の製造方法は、上記の発明の加飾シートの製造方法で形成された加飾シートを、基体シートの表面が金型キャビティに面するように金型内に配置した後、型閉じして金型内に成形樹脂を流し込み、冷却固化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の加飾シートの製造方法は、基体シートの背面に凹凸形状面を形成し、凹凸形状面上にUV硬化性インキ層12を形成し、UV照射によりUV硬化性インキ層12を硬化させる。したがって、インサート成形の際に基体シートが加熱されても凹凸形状はそのまま保持されるので、製造される加飾シートは目標とする立体的意匠の美感を忠実に再現できる。
【0011】
本発明の加飾シートの製造方法は、基体シートの背面側からのUV照射によってUV硬化性インキ層12を硬化させる。したがって、UV硬化性インキ層12が確実に硬化して、インサート成形の際に基体シートが加熱されても凹凸形状がそのまま保持されるので、製造される加飾シートは目標とする立体的意匠の美感を忠実に再現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の加飾シートの製造方法を示す断面図である。
【図2】本発明の加飾シートの製造方法に使用できる、挟みローラを備える凹凸形成装置を示す断面図である。
【図3】本発明の加飾シートの製造方法に使用できる、凹凸形成用の熱プレス機を示す断面図である。
【図4】本発明の加飾成形品の製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の加飾成形品の製造方法により形成された加飾成形品を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0014】
本発明の加飾シート1の製造方法は、基体シート10の背面にエンボス加工により目標とする立体的意匠のネガ形状の凹凸形状面11を形成した後(図1(a)参照)、凹凸形状面11上にUV硬化性インキ層12を形成し、次いでUV照射でUV硬化性インキ層12を硬化させた後(図1(b)参照)、UV硬化性インキ層12上に絵柄層13を形成するものである(図1(c)参照)。
【0015】
基体シート10の材質としては、アクリル樹脂や、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂などがある。基体シート10の厚みは20〜500μmの範囲とするのが好ましい。厚さが20μm未満であると、UV硬化性インキ層12や絵柄層13を保護する機能が低下する問題がある。また、500μmを越えると、絞り加工するのに大きな熱量が必要になり、また材料費も高くなるという不具合がある。
【0016】
基体シート10の背面にエンボス加工により凹凸形状面11を形成するためには、挟みローラ102を備える凹凸形成装置を使用できる(図2参照)。この凹凸形成装置は、シート送り出しロール100とシート巻き取りロール101との間のシート走行路に、上流側から順に、挟みローラ102と、冷却区間103と、塗装機104と、UV照射装置105とを配置して構成されている。挟みローラ102は、押圧ローラ102aと、周面に目標となる立体的意匠のポジ形状の凹凸を形成した付形ローラ102bとで構成されている。そして、挟みローラ102を加熱しつつ回転させて、挟みローラ102にシート送り出しロール100から繰出される基体シート10を通過させる。これによれば、基体シート10の背面に付形部材たる付形ローラ102bの押し付けで付形ローラ102bの周面の凹凸のネガ形状の凹凸形状面11が形成される。
【0017】
次に、冷却区間103で基体シート10を自然冷却した後、塗装機104により基体シート10の凹凸形状面11の形成面にUV硬化性インキを塗布してUV硬化性インキ層12を形成し、次いで、UV照射装置105に基体シート10を通過させてUV硬化性インキ層12にUVを照射してUV硬化性インキ層12を硬化させ、かくて得られた加飾シート1をシート巻き取りロール101に巻取る。こうして製造される加飾シート1はUV硬化性インキ層12が硬化していて、インサート成形の際に基体シート10が加熱されても凹凸形状はそのまま保持されるので、目標とする立体的意匠の美感を忠実に再現できる。
【0018】
ここでUV照射を基体シートの背面側から行うようにすると、UV硬化性インキ層12を確実に硬化させることができる。したがって、こうして製造される加飾シート1は目標とする立体的意匠の美感を忠実に再現できる。
【0019】
なお、冷却区間103の下流端で基体シート10を所要の長さに切断してからUV硬化性インキ層12の形成とUV照射とを行うようにしても良い。
【0020】
また、上記実施形態では、基体シート10の背面に挟みローラ102を用いて凹凸形状面11を形成したが、図3に示す熱プレス機110を用いて凹凸形状面11を形成しても良い。これを詳述するに、熱プレス機110は、内部に蒸気や冷却水を流して加熱・冷却する下側と上側の1対の型ホルダ110a,110bを備えており、下側の型ホルダ110aの上面に、目標とする立体的意匠のポジ形状の凹凸を形成したシリコン材から成る付形型110cを定盤110dを介して載置し、付形型110c上に基体シート10をセットした状態で両型ホルダ110a,110bを約180〜190℃の蒸気で加熱しつつ上側の型ホルダ110bを下降させ、この型ホルダ110bの下面に取付けた定盤110eと付形型110cとの間に基体シート10を2〜20kg/cmの圧力で3〜5分挟圧して、基体シート10の下面に付形型110cの凹凸のネガ形状の凹凸を形成し、次に、両型ホルダ110a,110bに冷却水を3〜5分流して基体シート10を冷却した後、上側の型ホルダ110bを上昇させて基体シート10を取出す。なお、付形型110cはエポキシ樹脂やエッチング状の鉄板やNi,Cu,Fe等の金属製の電鋳板で製作しても良い。鉄板や電鋳板を用いる場合は、加熱蒸気の温度を上記の値より少し低めにする。なお、型ホルダ110a,110bを電熱で加熱することも可能である。
【0021】
ところで、熱プレス機110を用いる場合は、予め所要の長さに切断した基体シート10を1枚宛熱プレス機110に着脱する必要があるのに対し、挟みローラ102を用いる場合は、シート送り出しロール100から繰り出される長尺の基体シート10に連続して凹凸形状面11を形成でき、生産性の向上を図れる。一方、加飾シート1が小物である場合、付形型110cの方が付形ローラ102bに比し短期間で安価に製作できるから、熱プレス機110を用いた方が多機種少量生産や試作レベルの製造では製造効率が良く、更に、熱プレス機110を用いて冷却工程も行うことができるためスペースも取らず有利である。また、付形型110cは平板にポジ形状の凹凸を形成したものであるから、基体シート10にネガ形状の凹凸形状面11を鮮明に形成し易く、品質も向上する。
【0022】
UV硬化性インキ層12として使用する樹脂は、反応性二重結合または反応性エポキシ基を有するプレポリマーと反応性希釈剤とを含むものである。反応性二重結合を有するプレポリマーとしては、たとえば不飽和ポリエステル・アルキッドアクリレート・ポリエステルアクリレート・ウレタンアクリレート・シリコンアクリレート・ジエン系アクリレート・メラミンアクリレート・低分子量のビニル共重合体の側鎖の官能基を利用してアクリロイル基を導入したもの、あるいはこれらのプレポリマーをイソシアネート化合物で変性したものなどがある。また、反応性エポキシ基を有するプレポリマーとしては、たとえば反応性エポキシアクリレート・光によって分解してルイス酸を発生させる化合物を光重合開始剤として反応性エポキシ化合物を開環重合させた組成物などがある。
【0023】
反応性希釈剤としては、2−エチルヘキシルアクリレート・2−ヒドロキシエチルアクリレート・テトラフルフリールアクリレートなどの単官能性モノマー、1−3ブタジオールジアクリレート・ジエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどの多官能性モノマーなどをあげることができる。反応性希釈剤は、紫外線塗装用インキの粘度調製・プレポリマーとの架橋・次に積層される絵柄層13との密着性の向上などの目的で使用するものである。
【0024】
前記したプレポリマーおよび反応性希釈剤には、必要により光重合開始剤を添加する。光重合開始剤は、紫外線により重合反応を開始させるために使用するものである。このような光重合開始剤としては、たとえばアセトフェノン・ベンゾフェノンなどのカルボニル化合物、エトラメチル−チウラムモノサルファイト・チオキサンソンなどのイオウ化合物、アリルアゾニウム塩などのアゾ化合物などが使用できる。
【0025】
また、凹凸形状面11を表面より視認させるため、UV硬化性インキ層12には着色剤を添加する。着色剤として適切な色の顔料または染料を添加してもよいが、光輝材を添加してもよい。光輝材としては、マイカ等のパール顔料やアルミ片等のメタリック顔料が使用できる。このようにすると、加飾シート1を凹凸形状面11の形成面を裏面にして見たとき、表面から入射した光線が凹凸形状面11の外表面に密着するUV硬化性インキ層12の内表面でUV硬化性インキ層12に含まれる光輝材により乱反射され、加飾シート1の表面に凹凸形状面11が鮮明に浮び上り、目標とする立体的意匠の美感が忠実に再現される。
【0026】
絵柄層13は、成形品を加飾するための柄を表現する機能を有する層である。絵柄層13の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。絵柄層13の形成方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。絵柄層13の厚さとしては、1〜30μmが好ましい。絵柄層13は着色インキに限らず、金属蒸着層等を形成して金属光沢のある意匠表現をする場合もある。金属蒸着層の材質としては、アルミ、クロム、銅、スズなどを用いる。金属蒸着層の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いればよい。
【0027】
必要により形成される接着層14の材質としては、ウレタン樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル−ケトン樹脂、アクリル−ビニル樹脂、アクリル樹脂などがある。接着層14の形成方式としては、例えばグラビア印刷がある。
【0028】
上記の加飾シートの製造方法で形成された加飾シート1をインサート成形法により樹脂成形品2の表面と接着して加飾成形品3を形成する方法を説明する。
【0029】
樹脂成形品2としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等の公知の熱可塑性樹脂がいずれも使用できる。これらの樹脂は単独あるいは2種以上を混合して使用することも可能である。
【0030】
インサート成形法によって加飾シート1を樹脂成形品2の表面と接着するには、次のようにして行う(図4参照)。まず、加飾シート1を基体シート10の表面が金型キャビティに面するように、可動型と固定型とからなる樹脂成形用の金型21内に配置する。その際、加飾シート1を枚葉のシートとして1枚ずつ送り込んでもよいし、長尺のシートとして必要部分を間欠的に送り込んでもよい。枚葉のシートとする場合、予め金型キャビティ面の三次元形状に沿うように予備成形してもよい。長尺のシートと場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、長尺のシートと金型21との見当が一致するようにするとよい。また、長尺のシートを間欠的に送り込む際に、シートの位置をセンサーで検出した後にシートを可動型と固定型とで固定するようにしてもよい。
【0031】
加飾シート1を金型21内に配置した後、型閉じする(図4(a)参照)。次いで金型内に溶融した成形樹脂を流し込み、冷却固化して樹脂成形品2を形成する(図4(b)参照)。最後に金型21を開いて樹脂成形品2の表面に加飾シート1が接着された加飾成形品3を取り出す(図4(c)参照)。こうして加飾成形品3が得られる(図5参照)。
【符号の説明】
【0032】
1 加飾シート
2 樹脂成形品
3 加飾成形品
10 基体シート
11 凹凸形状面
12 UV硬化性インキ層12
13 絵柄層
14 接着層
21 金型
100 シート送り出しロール
101 シート巻き取りロール
102 挟みローラ
102a 押圧ローラ
102b 付形ローラ
103 冷却区間
104 塗装機
105 UV照射装置
110 熱プレス機
110a 型ホルダ
110b 型ホルダ
110c 付形型
110d 定盤
110e 定盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートの背面にエンボス加工により凹凸形状面を形成し、
凹凸形状面上にUV硬化性インキ層を形成し、
UV照射によるUV硬化性インキ層の硬化後、UV硬化性インキ層上に絵柄層を形成することを特徴とする加飾シートの製造方法。
【請求項2】
基体シートの背面側からのUV照射によりUV硬化性インキ層を硬化させる請求項1に記載の加飾シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の加飾シートの製造方法で形成された加飾シートを、基体シートの表面が金型キャビティに面するように金型内に配置した後、型閉じして金型内に成形樹脂を流し込み、冷却固化することを特徴とする加飾成形品の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−31437(P2011−31437A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178515(P2009−178515)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】