説明

半導体ウエハ研磨用組成物、及びその製造方法

【課題】デバイスウエハ等の平面及びエッジ部分の研磨において、ウエハ等の平面部にパーティクル汚染、金属汚染を起こしにくい半導体ウエハ研磨用組成物を提供すること。
【解決手段】テトラアルコキシシランを酸触媒で加水分解して得た活性珪酸水溶液に、水酸化第4アンモニウムを加えてpHをアルカリとし、加熱してシリカ粒子を成長させて得られたコロイダルシリカを含有する半導体ウエハ研磨用組成物であって、前記シリカ粒子が、電子顕微鏡観察による短軸方向の平均直径が5〜50nmであり、長軸方向の長さが短軸の1.2〜10倍である非球状の形状を有し、BET法より算出される平均粒子径が5〜100nmであり、かつ、前記半導体ウエハ研磨用組成物がpH緩衝溶液を含むことにより、25℃においてpH8〜11の間で緩衝作用を有することを特徴とする半導体ウエハ研磨用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハあるいは表面に金属膜、酸化物膜、窒化物膜等(以下、金属膜等と記載する)が形成された半導体デバイス基板等の半導体ウエハの平面及びエッジ部分に研磨加工を施すウエハ研磨用組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶等半導体素材を原材料としたIC、LSIあるいは超LSI等の電子部品は、シリコンあるいはその他の化合物半導体の単結晶インゴットを薄い円板状にスライスしたウエハに、多数の微細な電気回路を書き込み分割した小片状の半導体素子チップを基に製造されるものである。インゴットからスライスされたウエハは、ラッピング、エッチング、更には研磨(以下ポリッシングと記載することもある)という工程を経て、平面及びエッジ面が鏡面に仕上げられた鏡面ウエハに加工される。ウエハは、その後のデバイス工程にてその鏡面仕上げされた表面に微細な電気回路が形成されて行くのであるが、現在、LSIの高速化の観点から、配線材料は従来のアルミニウムからより電気抵抗の低い銅に、配線間の絶縁膜は、シリコン酸化膜からより誘電率の低い低誘電率膜に、更に銅と低誘電率膜の間に銅が低誘電率膜中に拡散することを防止するためのタンタルや窒化タンタルによるバリア膜を介した構造を有する配線形成プロセスに移行している。こうした配線構造の形成と高集積化のために、層間絶縁膜の平坦化、多層配線の上下配線間の金属接続部(プラグ)形成や埋め込み配線形成などに繰り返し頻繁に研磨工程が行われる。この平面の研磨においては、合成樹脂発泡体あるいはスウェード調合成皮革等よりなる研磨布を展張した定盤上に半導体ウエハを載置し、押圧回転しつつ研磨用組成物溶液を定量的に供給しながら加工を行う方法が一般的である。
エッジ面は上記の金属膜等が不規則に堆積した状態となっている。半導体素子チップに分割されるまではウエハは最初の円板状の形状を保ったままエッジ部を支えにした搬送等の工程が入る。搬送時にウエハの外周側面エッジが不規則な構造形状であると、搬送装置との接触により微小破壊が起こり微細粒子を発生する。その後の工程で発生した微粒子が散逸して精密加工を施した面を汚染し、製品の歩留まりや品質に大きな影響を与える。この微粒子汚染を防止するために、金属膜等の形成後に半導体ウエハのエッジ部分を鏡面研磨する加工が必要となっている。
【0003】
上述のエッジ研磨は、研磨布支持体の表面に、合成樹脂発泡体、合成皮革あるいは不織布等からなる研磨布を貼付した研磨加工機に、半導体ウエハのエッジ部分を押圧しながら、シリカ等の研磨砥粒を主成分とする研磨用組成物溶液を供給しつつ、研磨布支持体とウエハもしくはどちらか一方を回転させて達成される。この際用いられる研磨用組成物の砥粒としては、シリコンウエハのエッジ研磨に用いられるものと同等のコロイダルシリカや、デバイスウエハの平面研磨に用いられるヒュームドシリカやセリア、アルミナなどが提案されている。特にコロイダルシリカやヒュームドシリカは微細な粒子であるため平滑な鏡面を得られ易く注目されている。このような研磨用組成物は「スラリー」とも呼ばれ、以下にそのように記載することもある。
【0004】
シリカ砥粒を主成分とする研磨用組成物は、アルカリ成分を含む溶液が一般的で、加工の原理は、アルカリ成分による化学的作用、具体的には酸化珪素膜や金属膜等の表面に対する侵食作用とシリカ砥粒の機械的な研磨作用を併用したものである。具体的には、アルカリ成分の侵食作用により、ウエハ等被加工物表面に薄い軟質の侵食層が形成される。その侵食層を微細砥粒粒子の機械的研磨作用により除去する機構と推定されており、この工程を繰り返すことにより加工が進むと考えられている。被加工物の研磨後、洗浄工程が施され被加工面及びエッジ部からシリカ砥粒やアルカリ液が取り除かれる。
【0005】
この洗浄工程において、ウエハ表面に銅、鉄、アルミニウムなどの金属が残存する問題が指摘されている。特にアルカリ性での酸化珪素表面の研磨加工は、金属が金属水酸化物となって酸化珪素表面に強く結合し、洗浄による除去が困難であるとされている。このため、洗浄方法の改善が強く求められていると同時に、研磨剤の高純度化が求められている。しかしながら、洗浄方法の煩雑化や、研磨速度の大幅な低下を伴うため、課題の解決に至っていない。
また、シリコンウエハの研磨加工では、研磨剤中に存在する金属不純物、特に銅はウエハ内部に深く拡散し、ウエハ品質を劣化させ、半導体デバイスの特性を著しく低下させるという事実が明らかとなっている。そのため、比較的高価で研磨力の低い、アルコキシシランを原料としたコロイダルシリカの使用を余儀なくされている。
【0006】
従来から半導体ウエハの鏡面研磨では、テトラアルコキシシランを原料とした様々な研磨用組成物が提案されている。
特許文献1には、0.5〜10%の水酸化第4級アンモニウムと分散剤として0.01〜0.001%の界面活性剤の存在下にて、珪酸エステル(テトラアルコキシシラン)を加水分解後、60〜70℃で濃縮する方法により、粒子径10nm程度のシリカゾルを得る方法が記載されている。
特許文献2には、反応媒体を、1リットル当たり0.002〜0.1モルのアルカリ濃度と30モル以上の水濃度に保ちながら、この反応媒体に上記アルカリ1モルに対してSi原子として7〜80モルとなる量のアルキルシリケート(テトラアルコキシシラン)を加え、この反応媒体の沸点以下の温度でこのアルキルシリケートを加水分解させると共に、この加水分解によって生じた珪酸の重合を進行させて粒径3〜100nmの粒子径を有するコロイダルシリカの製造方法が開示されている。
特許文献3には、珪酸メチル(テトラメトキシシラン)の加水分解による長径/短径比が1.4〜2.2の繭型のシリカ粒子から成るコロイダルシリカが記載されている。
特許文献4には、水ガラス法の活性珪酸水溶液に代替して、アルキルシリケート(テトラアルコキシシラン)の加水分解液を使用し、アルカリには水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用して、非球状のシリカ粒子を含有するコロイダルシリカが得られることが記載されている。
【0007】
特許文献1の方法では、生成シリカ粒子径をコントロールする改善はできるが、粒子形状を細長くすることはできず、不純物として界面活性剤が最終製品に存在する問題点がある。
特許文献2の方法は、アルキルシリケートを水中で加水分解する方法であるが、生成シリカ粒子径をコントロールすることはできるが、粒子形状を細長くすることはできない。
特許文献3に記載のコロイダルシリカはアルコキシシランをシリカ源とするので高純度で好ましく、非球状のシリカ粒子も得られているが、反応系にアンモニアと大量のアルコールを必要とし、これらの成分の除去や価格など不利な一面がある。
特許文献1〜3の方法では、いずれもアルカリ触媒による加水分解のため、比較的低温そして短時間で加水分解が行われる。このようにして得られたコロイダルシリカは粒子の密度が低いため、活性珪酸をビルドアップ方式で粒子成長させて製造した水ガラス法のコロイダルシリカに比べ、研磨速度が遅いという欠点がある。
シリカ粒子の密度に関しては、特許文献10に詳細な記載がある。
特許文献4はアルコキシシランをシリカ源とするので高純度で好ましく、非球状のシリカ粒子も得られているが、このコロイダルシリカを用いて研磨用のコロイダルシリカとするための具体的な内容は記載されていない。
【0008】
また、第4アンモニウムとコロイダルシリカを組み合わせた研磨用組成物も多く提案されている。
特許文献5には、コロイダルシリカの粒子成長工程で使用するアルカリ剤として、水酸化ナトリウムの代わりに水酸化テトラメチルアンモニウムを使用してコロイダルシリカを製造し、実質的にナトリウムを含有しない研磨用高純度コロイダルシリカが記載されている。
特許文献6には、弱酸と強塩基、弱酸と弱塩基あるいは弱酸と弱塩基の何れかの組み合わせのものを添加することによって、pH8.7〜10.6の間で緩衝作用を有する緩衝溶液として調整された酸化珪素コロイド溶液が記載されており、強塩基として水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられている。
特許文献7には、酸化珪素微粒子のコロイド状分散液にアルカリ成分と酸成分とを加えた緩衝作用を持つ研磨用組成物であって、アルカリ成分として水酸化第4アンモニウム、酸成分として炭酸を用いたものが記載されている。
特許文献8には、ピーナッツ形状のコロイダルシリカと水酸化テトラメチルアンモニウムを含有する研磨組成物が記載されている。コロイダルシリカは扶桑化学工業株式会社の製品と記載されている。
特許文献9には、水酸化第4アンモニウムと珪酸エステル(テトラアルコキシシラン)とを反応させて得られたコロイド状シリカ生成物と酸化剤とを含有するCMP用研磨剤が記載されている。珪酸エステルはTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)またはコリンであるとも記載されている。
特許文献5記載のコロイダルシリカは、ナトリウムが存在しないため極めて好ましい研磨剤である。しかしながら、水酸化第4アンモニウムだけでは研磨時のpH変動が大きく、安定した研磨速度が得られない。
特許文献5及び特許文献6に記載のコロイダルシリカは水ガラスを原料としており、アルコキシシランを原料としたものに比べ不純物量は多い。
特許文献7では、ヒュームドシリカを用いる記載があり、やや高純度ではあるが、アルコキシシランを原料としたものに比べ不純物量は多い。
特許文献8記載のコロイダルシリカは扶桑化学工業株式会社の製品と記載されているので、アルコキシシランをアルカリ触媒により加水分解した製品であって、研磨力は低い。また、水酸化第4アンモニウムだけでは研磨時のpH変動が大きく、安定した研磨速度が得られない。
特許文献9記載のコロイド状シリカはアルコキシシランをアルカリ触媒により加水分解した製品であって、研磨速度は低い。また、水酸化第4アンモニウムだけでは研磨時のpH変動が大きく、安定した研磨速度が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−209910号公報
【特許文献2】特開平6−316407号公報
【特許文献3】特開平11−60232号公報 特許請求の範囲
【特許文献4】特開2001−48520号公報 特許請求の範囲と実施例
【特許文献5】特開2003−89786号公報
【特許文献6】特開平11−302634号公報 特許請求の範囲と実施例
【特許文献7】特開2000−80349号公報 特許請求の範囲と実施例
【特許文献8】特表2005−518668号公報
【特許文献9】特開2001−23938号公報 特許請求の範囲
【特許文献10】特許公報第3758391号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、半導体ウエハ表面に生じる微粒子及び金属の汚染を抑制し、かつ高い研磨速度を維持しつつ、良好な面状態が得られる半導体ウエハの平面及びエッジ部分の鏡面研磨用組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、テトラアルコキシシランを酸触媒で加水分解して得た活性珪酸水溶液と水酸化第4アンモニウムによって得られるコロイダルシリカを、pH8〜11の間で緩衝作用を有するコロイド液とすることで、高い研磨速度を維持しつつ、半導体ウエハ表面に生じる微粒子及び金属汚染を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本願の第一の発明は、テトラアルコキシシランを酸触媒で加水分解して得た活性珪酸水溶液に、水酸化第4アンモニウムを加えてpHをアルカリとし、加熱してシリカ粒子を成長させて得られたコロイダルシリカを含有する半導体ウエハ研磨用組成物であって、前記シリカ粒子が、電子顕微鏡観察による短軸方向の平均直径が5〜50nmであり、長軸方向の長さが短軸の1.2〜10倍である非球状の形状を有し、BET法より算出される平均粒子径が5〜100nmであり、かつ、前記半導体ウエハ研磨用組成物がpH緩衝溶液を含むことにより、25℃においてpH8〜11の間で緩衝作用を有することを特徴とする半導体ウエハ研磨用組成物である。
【0013】
pH8〜11の間で緩衝作用を有する緩衝溶液を形成する組み合わせは、数多くあるが、本願に使用する緩衝溶液は、弱酸と強塩基の組み合わせが好ましい。弱酸としては、25℃における酸解離定数の逆数の対数値(pKa)が8.0〜12.5にある弱酸が使用でき、炭酸、ホウ酸、リン酸等が、使用できる。
更に、弱酸を構成する陰イオンが、炭酸イオン及び/または炭酸水素イオンであり、かつ強塩基を構成する水酸化第4アンモニウムの陽イオンがコリンイオン、テトラメチルアンモニウムイオンもしくはテトラエチルアンモニウムイオンまたはこれらの混合物であることが好ましい。
上記半導体ウエハ研磨用組成物は、該緩衝溶液の濃度を高くすること、及び/または、強酸と水酸化第4アンモニウムの塩を有することによって、25℃における導電率が、シリカ粒子1重量%あたり15mS/m以上200mS/m以下であることが好ましい。
【0014】
また、本願の第二の発明は、請求項1に記載の半導体ウエハ研磨用組成物の製造方法であって、シリカ濃度1〜8モル/リットル、酸濃度0.0018〜0.18モル/リットル、水濃度2〜30モル/リットルの範囲の組成で、テトラアルコキシシランを加水分解して活性珪酸水溶液を調製する第一工程、第一工程で調製した活性珪酸をシリカ濃度が0.2〜1.5モル/リットルの範囲となるように水で希釈し、次いでpHが8〜11となるように水酸化第4アンモニウムを加えた後、加熱してコロイド粒子を成長させる第二工程、第二工程で製造したコロイド粒子を限外濾過により濃縮してシリカ濃度が20〜50重量%のコロイダルシリカ溶液を作製する第三工程、第三工程で作製したコロイダルシリカ溶液にpH緩衝組成となるよう弱酸と水酸化第4アンモニウムを加える第四工程、よりなる半導体ウエハ研磨用組成物の製造方法により達成される。
更に、上記の半導体ウエハ研磨用組成物の製造方法において、第二工程と第三工程の間にコロイド粒子をさらに成長させる工程を施すことが好ましく、より平均粒子径が大きいコロイダルシリカを作製することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の非球状のコロイダルシリカ粒子を用い、水酸化第4アンモニウムを含み、さらに特定範囲でのpH緩衝作用を持つ研磨用組成物を用いることにより、半導体ウエハの研磨において、微粒子の付着数は極めて低くなり、研磨面の欠点は殆ど見られず、循環液のpHの変化もなく高い研磨力が安定して得られるという優れた効果を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】製造例1で得られた長径/短径比の平均値が10〜15のシリカ粒子のTEM写真である。
【図2】製造例1で得られた長径/短径比の平均値が4のシリカ粒子のTEM写真である。
【図3】製造例2で得られた長径/短径比の平均値が4のシリカ粒子のTEM写真である。
【図4】製造例3で得られた長径/短径比の平均値が5のシリカ粒子のTEM写真である。
【図5】製造例4で得られた長径/短径比の平均値が10〜15のシリカ粒子のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
市販のコロイダルシリカは通常ナトリウムで安定化されており、20〜50重量%のシリカ(SiO)成分と、0.07〜0.22重量%のナトリウム成分を含有している。コロイダルシリカを安定化させる原料としては、一般に水酸化ナトリウムが用いられる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物は精製が難しく不可避的に製品に金属類の混入を招く。一方、本発明で用いた水酸化第4アンモニウムは、アルカリ金属の水酸化物に比べ、金属汚染の原因となる金属を極めて少なくした製品を得ることが可能である。本発明においてテトラアルコキシシランを酸触媒で加水分解して得た活性珪酸水溶液に加える水酸化第4アンモニウムは特に限定されないが、コリン、水酸化テトラメチルアンモニウムもしくは水酸化テトラエチルアンモニウムが好ましい。水酸化第4アンモニウムを加えることにより、半導体ウエハ研磨用組成物は安定化し、しかも、不純物含有量が少ないため、研磨後の被研磨物の表面付着粒子の数が少なくなるという優れた効果をもたらす。即ち、本発明の研磨用組成物はナトリウムの替わりに金属汚染の原因となる金属が極めて少ない水酸化第4アンモニウムを用いて安定化されたコロイダルシリカであるため、市販のコロイダルシリカに比べ、ナトリウム及び他の金属の混入が少ない研磨用組成物とすることが可能となり、研磨時に生じる半導体ウエハ表面へのナトリウム及び他の金属の汚染を低減させることができる。
【0018】
ここで、「安定化」について説明する。例えば、シリカ粒子が純水に分散している状態では粒子表面にはシラノール基があり、その外側は水分子だけである。粒子はブラウン運動で振動し移動するため、粒子同士の衝突が起こり、シラノール基間で脱水縮合がおこり、粒子は連結し、連結が拡大していくと、コロイドは粘性が上がり、最終的にはゲル状となる。一方、例えば、シリカ粒子がpH9程度の希水酸化ナトリウム水溶液に分散している状態では粒子表面のシラノール基の外側には水和したナトリウムカチオンが存在し、粒子はアニオン電荷を帯び、ナトリウムカチオンの水和相の外側にはOHイオンが接近して存在し、更にその外側に水分子が存在することになる。シリカ粒子表面がこのような拘束相を有することで、粒子間に反発力が生じ、粒子の衝突、連結が起こらなくなる。これを「安定化」と呼んでいる。
【0019】
更に、本発明のシリカ粒子の電子顕微鏡観察による形状は、太さ方向の平均直径(以下短軸と記す)が5〜50nmであり、長さ(以下長軸と記す)がその1.2〜10倍の長さの非球状のシリカ粒子であり、そのシリカ粒子の窒素吸着BET法による平均粒子径が5〜100nmである。
研磨加工においては、シリカ粒子の形状は重要な要因の一つである。研磨加工を簡潔に説明すると、被加工物表面がアルカリにより化学的に侵食され、水和した薄層が形成される。次に、形成された水和薄層をシリカ粒子の物理的研磨力により除去する過程が連続的に生じている。この薄層の除去速度はシリカ粒子の形状によって大きく変化する。シリカ粒子の粒子径を大きくすれば、除去速度は高くなるが、研磨面にスクラッチが発生しやすくなる。同様に、シリカ粒子の形状は真球状よりも非球状の粒子の方が除去速度は高くなるが、研磨面にスクラッチが発生しやすくなる。よって、シリカ粒子の形状及び粒子径は適切な範囲にある必要がある。また、研磨中にシリカ粒子が容易に破砕したり、あるいは高次に凝集してゲル化するものであってはならない。
良質な研磨面を得るためには、電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径は5〜50nmが好ましい。5nmより小さいと、研磨速度が低く、粒子の凝集が起こりやすくコロイドの安定性に欠ける。また、50nmより大きいとスクラッチが発生しやすく、研磨面の平坦性も低くなる。長軸/短軸比の平均値は1.2〜10であることが好ましい。1.2より小さいと研磨速度が低く、10より大きいと粒子の凝集が起こりやすくコロイドの安定性に欠ける。より好ましくは1.2〜5である。シリカ粒子の平均粒子径は5〜100nmであることが好ましい。本発明のシリカ粒子の平均粒子径は窒素吸着BET法より算出される平均粒子径を使用した。
【0020】
本発明においては、実際の研磨加工時に安定な研磨力を持続するために、溶液全体のpHを8〜11の範囲に保つことが好ましい。pHが8未満であると研磨速度は低下し実用の範囲から外れる。また、pHが11を超えると、研磨部以外でのエッチングが強くなりすぎ、またシリカ粒子が凝集を始めるため研磨用組成物の安定性が低下し、これも実用の範囲から外れる。
【0021】
さらに、このpHは摩擦、熱、外気との接触あるいは他の成分との混合等、考えられる外的条件により容易に変化しないことが好ましい。特にエッジ研磨においては、研磨用組成物は循環使用される。すなわち、スラリータンクから研磨部位へ供給された研磨用組成物は、スラリータンクへ戻す方式で使用される。アルカリ剤だけを含む研磨用組成物は、使用時に短時間でpHが低下してしまう。これは、被研磨物の溶解や洗浄水の混入によるもので、pHの変動がもたらす研磨速度の変動は、被研磨物の品質に大きな影響を与える。
【0022】
本発明の研磨用組成物のpHを一定に保つために好ましくは、25℃における酸解離定数の逆数の対数値(pKa)が8.0〜12.5の弱酸及び水酸化第4アンモニウムを組み合わせて緩衝溶液組成とするのが良い。この場合もpH8〜11の間で緩衝作用を有することが好ましい。
弱酸を構成する陰イオンは、炭酸イオン及び/または炭酸水素イオン(pKa=6.35、10.33)が好ましく、かつ第4アンモニウム強塩基を構成する陽イオンがコリンイオン、テトラメチルアンモニウムイオンまたはテトラエチルアンモニウムイオンのうち少なくとも一つであることが好ましい。
25℃における酸解離定数の逆数の対数値(pKa)が8.0未満の場合、pHを上昇させるために、強塩基を大量に添加することが必要となるため好ましくない。25℃における酸解離定数の逆数の対数値(pKa)が12.5より大きい場合、pHを8〜11の範囲で安定させる大きな緩衝作用を持つ緩衝溶液を形成しにくいため好ましくない。
【0023】
炭酸以外の弱酸としては、ホウ酸(pKa=9.24)、リン酸(pKa=2.15、7.20、12.35)及び水溶性の有機酸等があげられ、またその混合物であってもかまわない。
【0024】
本発明においては、研磨用組成物溶液の導電率を高くすることにより、研磨加工速度を著しく向上することができる。導電率とは液中の電気の通り易さを示す数値であり、単位長さあたりの電気抵抗値の逆数値である。本発明においては単位長さあたりの導電率の数値(Siemens)をシリカ1重量%当たりに換算した数値で示す。本発明においては、25℃における導電率が15mS/m/1%−SiO以上であれば研磨加工速度の向上に対して好ましく、20mS/m/1%−SiO以上であれば更に好ましい。塩類の添加はコロイドの安定性を低下させるため、導電率には上限がある。上限はシリカの粒子径によって異なるが、概ね200mS/m/1%−SiOである。
先にも述べたが、この加工は、その成分であるアルカリの化学的作用、具体的には酸化珪素膜や金属膜等の被加工物に対する侵食性を応用したものである。すなわち、アルカリの腐食性により、ウエハ等被加工物表面に薄い軟質の侵食層が形成される。その薄層を微細な砥粒粒子の機械的作用により除去することで加工が進むのである。金属膜の侵食は金属が酸化される反応であり、金属表面は接触している溶液から電子を受け取り、水酸化金属イオンとして溶液に移動する。この電子の授与が速やかに進行するためには、溶液の導電率が高いことが必要である。
【0025】
導電率を上昇させる方法としては、次の二方法がある。一つは緩衝溶液の濃度を高くする方法、もう一つは塩類を添加する方法である。緩衝溶液の濃度を高くするには、酸と塩基とのモル比を変えずに濃度のみを高くすればよい。塩類を添加する方法に用いる塩類は、酸及び塩基の組み合わせより構成されるが、酸としては、強酸、弱酸いずれであってもかまわず、鉱酸及び、有機酸が使用でき、その混合物でもよい。塩基としては、水溶性の第4アンモニウムの水酸化物が使用される。弱酸及び強塩基、強酸及び弱塩基、弱酸及び弱塩基の組み合わせで添加する場合は、緩衝溶液のpHを変化させることがあるため、大量に添加することは望ましくない。前述の二方法を併用してもかまわない。
強酸と水酸化第4アンモニウムの塩としては、硫酸第4アンモニウム、硝酸第4アンモニウムまたはフッ化第4アンモニウムの少なくとも一つであることが好ましい。第4アンモニウムを構成する陽イオンはコリンイオン、テトラメチルアンモニウムイオンまたはテトラエチルアンモニウムイオンのうち少なくとも一つであることが好ましい。その他の第4アンモニウムイオンとしては、前記の物質が使用される。
【0026】
水酸化第4アンモニウムで安定化されたコロイダルシリカの製造方法について記載する。まず、原料として用いるテトラアルコキシシランとしては、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート等が挙げられるが、重合度2〜10の市販の珪酸オリゴマー(例えば、コルコート株式会社製「エチルシリケート40」)も使用できる。テトラアルコキシシランは高純度の製品を使用することが好ましい。
【0027】
本発明で使用する活性珪酸水溶液の製造方法は、前記特許文献4に記載の方法が適用できる。すなわち、シリカ濃度1〜8モル/リットル、酸濃度0.0018〜0.18モル/リットルで水濃度2〜30モル/リットルの範囲の組成で、溶剤を使用しないでテトラアルコキシシランを酸触媒で加水分解した後、シリカ濃度が0.2〜1.5モル/リットルの範囲となるように水で希釈して活性珪酸水溶液を製造する。
【0028】
次いで、前記活性珪酸水溶液に水酸化第4アンモニウムを添加してアルカリ性とした後、加熱してコロイド粒子を形成させ(種粒子形成工程)、このコロイド粒子に加熱条件下で、水酸化第4アンモニウムを添加してアルカリ性を維持しながら、前記活性珪酸水溶液を添加してコロイド粒子を成長させる(粒子成長工程)。
【0029】
具体的には、上記種粒子形成工程と粒子成長工程では、常法の操作が行われる。例えば種粒子形成工程では、活性珪酸水溶液のシリカ濃度は2〜7重量%とし、pHは8〜10となるよう水酸化第4アンモニウムを添加し、60〜240℃に加熱することでシリカ粒子の短径(太さ)が5〜20nmの種粒子を形成することができる。次いで粒子成長工程では、ビルドアップの方法をとり、pHが8〜11の60〜240℃の種粒子のコロイド液に、pH8〜11を維持しつつ活性珪酸水溶液と水酸化第4アンモニウムを添加して、目的の粒径まで粒子を成長させる。このようにして、シリカ粒子の短径(太さ)が5〜50nmの粒子に成長させることができる。
【0030】
上記の製造方法は、常法であるアルカリ金属水酸化物や珪酸アルカリをアルカリ剤に用いた製造方法と概略同一である。すなわち、珪酸ソーダを原料とする活性珪酸水溶液に代えて、テトラアルコキシシランの加水分解により得られた活性珪酸水溶液を使用することと、種粒子形成工程と粒子成長工程ではアルカリ金属水酸化物の代わりに水酸化第4アンモニウムを使用する点が異なり、粒子成長工程ではアルカリ金属水酸化物の代わりに水酸化第4アンモニウムを使用する点が異なる。
【0031】
本発明に用いる水酸化第4アンモニウムは特に限定されないが、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、コリンなどが使用でき、その混合物で使用してもかまわない。
本緩衝溶液では、弱酸を構成する陰イオンが価数の異なる形態で存在する。
具体的には、炭酸の場合、炭酸イオンと炭酸水素イオンの組み合わせ(CO2−/HCO)、ホウ酸の場合、ホウ酸イオンと未解離のホウ酸(BO/HBO)、リン酸の場合、リン酸イオンとリン酸一水素イオンの組み合わせ(PO3−/HPO2−)である。
【0032】
次に、シリカの濃縮を行うが、水分の蒸発濃縮でもよいが、エネルギー的には限外濾過が有利である。
分画分子量3000〜15000の限外濾過膜を使用する。3000未満の膜では濾過抵抗が大きすぎて処理時間が長くなり不経済であり、15000を超えると、精製度が低くなる。膜の材質はポリスルホン、ポリアクリルニトリル、焼結金属、セラミック、カーボンなどあり、いずれも使用できるが、耐熱性や濾過速度などからポリスルホン製が使用しやすい。膜の形状はスパイラル型、チューブラー型、中空糸型などあり、どれでも使用できるが、中空糸型がコンパクトで使用しやすい。また、限外濾過工程は、テトラアルコキシシランの加水分解に用いた酸触媒や加水分解で生成したアルコールの洗い出し除去を兼ねている場合、必要に応じて、目標濃度に達した後も純水を加えるなどして、更に洗い出し除去を行って、除去率を高める作業を行うこともできる。この工程でシリカの濃度が10〜50重量%となるように濃縮するのがよい。
【0033】
また、限外濾過工程の前後いずれかに、必要に応じてイオン交換樹脂による精製工程を加えることができる。例えば、H型強酸性カチオン交換樹脂に接触させて粒子成長工程で混入した不純金属やアルカリ金属を除去することができ、OH型強塩基性アニオン交換樹脂に接触させて加水分解に用いた酸触媒のアニオン成分を除去して、一層の高純度化を図ることができる。
以上のようにして、シリカ粒子の短径(太さ)が5〜50nmであり、且つシリカの濃度が10〜50重量%である、水酸化第4アンモニウムによって安定化された高純度のコロイダルシリカが得られる。
【0034】
本発明の水酸化第4アンモニウムによって安定化されたコロイダルシリカは、高純度であること以外にも優れた特性を有している。半導体ウエハは研磨後に洗浄されて次の工程に移る際、洗浄後のウエハ表面に研磨剤の砥粒が残存することがある。水酸化第4アンモニウムによって安定化されたコロイダルシリカでは、この不具合が発生しにくい。
第4アンモニウムで安定化したコロイダルシリカのシリカ粒子がウエハ表面に固着しにくいという現象は、本発明者らにより初めて明らかになったのであるが、その機構については以下のように推測できる。まず、水酸化ナトリウムで安定化したコロイダルシリカの場合には、研磨後のウエハ表面に研磨スラリーが付着したままでの僅かな時間の経過中に、水分の若干の蒸発を伴い、シリカ粒子とウエハ表面金属(または金属酸化物)を水酸化ナトリウムが腐食し、シリカと金属水酸化物の結合が起こる。結合は、シリカ粒子表面と金属水酸化物表面の融着によるか、あるいはシリカの陰電荷と金属水酸化物表面の陽電荷による静電気的な結合とも考えられる。
【0035】
一方、第4アンモニウムで安定化したコロイダルシリカの場合には、シリカ粒子表面には第4アンモニウムイオンが存在し、ウエハ表面にも第4アンモニウムイオンが存在し、どちらの表面も第4アンモニウムイオンのアルキル基がむき出しになっている。このアルキル基同士の反発力がシリカ粒子のウエハ表面への固着を防止している。金属防食の分野では第4アンモニウムやアミンはインヒビター(防錆剤)として扱われており、分子中の窒素原子が金属面に吸着し、アルキル基側が液相面に向くことで、金属に撥水相を形成して防食作用を発現するとされている。それと似た防食作用がウエハ表面でも発現されていると考えられる。
【0036】
次いで、上記水酸化第4アンモニウムによって安定化されたコロイダルシリカに、25℃における酸解離定数の逆数の対数値(pKa)が8.0〜12.5の弱酸及び強塩基である水酸化第4アンモニウムを組み合わせた緩衝溶液を添加混合し、25℃においてpH8〜11となるようにし、かつpH8〜11の間で緩衝作用を有する半導体ウエハ研磨用組成物を作製する。
【0037】
第4アンモニウムイオンとしては、コロイダルシリカの製造に使用した第4アンモニウムイオンと同一であることが好ましく、コリンイオン、テトラメチルアンモニウムイオンもしくはテトラエチルアンモニウムイオンまたはこれらの混合物が使用できる。その他の第4アンモニウムイオンとしては、炭素数4以下のアルキル基または炭素数4以下のヒドロキシアルキル基から構成される第4アンモニウムイオンが好ましく、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であり、ヒドロキシアルキル基としてはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基である。具体的にはテトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、メチルトリヒドロキシエチルアンモニウムイオン、トリエチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムイオンなどが好ましい。
更にその他の第4アンモニウムイオンとしては、ベンジルトリメチルアンモニウムイオン、フェニルトリメチルアンモニウムイオンなども好ましい。
第4アンモニウムイオンは種類によりウエハに対する腐食性及び研磨性能が異なり、また砥粒の洗浄性も異なるため、適宜選択して用いることが好ましく、複数を組み合わせて用いることも好ましい。
【0038】
本発明では、電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径は5〜50nmが好ましいとしているが、電子顕微鏡観察では限られた個数の粒子による計測となるため、汎用されている別の計測手段での粒子径によって粒子形状の特定を明確化した。コロイダルシリカの平均粒子径の測定方法としては、電子顕微鏡観察以外に、BET法とシアーズ法があり、いずれも比表面積測定値を平均粒子径に換算するものである。なかでもBET法が多用されている。比表面積測定値を粒子径に換算するには、粒子を真球とみなして算出するため、非球状粒子ではBET法の平均粒子径が本質的な平均粒子径を反映しているものではない。しかしながら、本発明のように細長い粒子の場合には、BET法の平均粒子径は粒子の太さである短径によく一致している。よって、本発明では粒子形状の特定を明確化する手段としてBET法の平均粒子径を用いた。
【0039】
コロイダルシリカのシリカ粒子のBET法による平均粒子径が10nm〜100nm、好ましくは10nm〜50nmであることが好ましい。ここで言うBET法による平均粒子径とは、粉末化したコロイダルシリカの比表面積を窒素吸着BET法で測定し、下式に基づき、比表面積から真球換算で算出した平均一次粒子径である。
【0040】
2720/比表面積(m/g)=真球換算で算出した平均一次粒子径(nm)
【0041】
本発明の研磨用組成物の製造方法について説明する。上述の水酸化第4アンモニウムで安定化されたコロイダルシリカは、シリカ濃度30〜50重量%となるように高濃度のコロイド液として準備する。一方、緩衝溶液成分も20〜40重量%となるように高濃度で製造する。例えば、25%水酸化テトラメチルアンモニウムを炭酸ガスでpH10.3まで中和して29%炭酸テトラメチルアンモニウム溶液を製造する。強酸と水酸化第4アンモニウムの塩は、水酸化第4アンモニウムを強酸で中和して製造する。例えば、25%水酸化テトラメチルアンモニウムを98%硫酸で中和して、高い濃度で硫酸テトラメチルアンモニウム溶液を製造する。シリカ濃度30〜50重量%の高濃度のコロイド液を強攪拌しておき、前記の高濃度緩衝溶液と高濃度の強酸と水酸化第4アンモニウムの中和液と純水を添加して半導体ウエハ研磨用組成物を製造する。
【0042】
本発明の研磨用組成物において、コロイド溶液全体に対してシリカ濃度が20〜50重量%である水分散液であることが好ましい。研磨用組成物はその使用時に希釈してシリカ濃度を、2〜20重量%に調節する。したがって、本発明の研磨用組成物としては、その全範囲のシリカ濃度2〜50重量%である。
【0043】
また、本発明の研磨用組成物は、銅と水不溶性のキレート化合物を形成するキレート化剤を添加することができる。例えば、キレート化剤としては、ベンゾトリアゾールのようなアゾール類やキノリノール、キナルジン酸のようなキノリン誘導体など公知の化合物が好ましい。
【0044】
本発明の研磨用組成物の物性を改良するため、界面活性剤、消泡剤、水溶性高分子などを添加することができる。また、本発明の研磨用組成物は水溶液としているが、必要に応じて有機溶媒を添加してもかまわない。例えば、輸送時の凍結防止にはグリセリンの添加が有効であるし、流動性の改善にはプロピルアルコールの添加が有効である。
界面活性剤はウエハのヘイズ(表面粗れ)防止に効果がある。すなわち、研磨していない面に研磨剤液が接触して、アルカリ成分でウエハ表面がエッチングされるのを抑制する効果がある。
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤またはノニオン系界面活性剤さらには両性界面活性剤のいずれも使用することができる。高分子界面活性剤やグリコール類が使用できるが、アニオン系界面活性剤またはノニオン系界面活性剤であることが好ましい。アニオン系界面活性剤はスルホン酸塩または脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩等いずれも使用できるが、スルホン酸塩または脂肪酸塩であることが好ましい。スルホン酸塩としては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルファオレフィンスルホン酸及びその塩が好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸塩は最も好ましい。脂肪酸塩としてはラウリン酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸から選ばれた1種以上であることが好ましい。例えばステアリン酸ナトリウムのような水溶性塩を使用するのが便利である。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシアルキレングリコール類、脂肪酸エステル類、アルキルアミンエチレンオキサイド付加体類、グリコール類または高分子界面活性剤類が使用できる。なかでもポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリエチレングリコールが好ましいが、ポリエチレングリコールが最も好ましい。
【0045】
界面活性剤の濃度は0.01〜10ミリモル/Kgであることが好ましい。0.01ミリモル/Kg以下ではエッチング防止効果がなく、10ミリモル/Kg以上配合しても効果に変わりはなく不要である。
界面活性剤、特にアニオン系界面活性剤は使い方によっては泡立ちというマイナスの現象を起こしやすい。この抑制には消泡剤を併用するのが通常であるが、シリコーン消泡剤は極めて効果的である。シリコーン消泡剤としては、オイル型、変性油型、溶液型、粉末型、エマルジョン型があり、変性油型とエマルジョン型がコロイド液への分散が良く使用できるが、なかでもエマルジョン型が最も効果が高く持続性もよい。市販品としては、例えば信越化学工業株式会社製の信越シリコーンKMグレードがある。
消泡剤の使用量は界面活性剤の量により適宜決めなくてはならないが、消泡有効成分として研磨組成物中におおむね1ppm〜1000ppmが適切である。
【0046】
また、本発明では水溶性高分子を配合することで、エッチング防止効果を高めることができる。前述のように、分子量5000以上の水溶性高分子や分子量10万以上の水溶性高分子は、ウエハの金属汚染低減や平坦性の向上に機能するとされているが、このように大きな分子量の高分子を使用する場合には、研磨剤液の粘性を上げ過ぎないよう、少量しか配合できない欠点がある。平均分子量5000以下、好ましくは500以上3000以下の水溶性高分子を0.001〜1ミリモル/Kgの量で使用することが好ましい。上記水溶性高分子としてはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、マレイン酸・ビニル共重合体、キサンタンガム、セルロース誘導体などいずれも使用できるが、セルロース誘導体またはポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールから選ばれた1種以上であるのが好ましい。セルロース誘導体としてはヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが使用できるが、ヒドロキシエチルセルロースが好ましい。分子量5000以下のポリエチレングリコールは更に好ましい。
【0047】
次に本発明の研磨用組成物を用いた半導体ウエハの研磨加工方法について説明する。
平面研磨の場合、上下面もしくは、片面に合成樹脂発泡体あるいはスウェード調合成皮革等よりなる研磨布を貼付した回転可能な定盤に被加工物の研磨面を押圧し、酸化珪素の微粒子を水に分散させた研磨用組成物等を定量的に供給しながら、定盤及び被加工物もしくはそのどちらか一方を回転させて被加工物の研磨面を研磨加工する方法で行われる。本発明に用いる平面ポリッシング用加工機とは、例えばスピードファム株式会社製SH−24片面研磨装置、20B両面研磨装置等に示される装置である。
【0048】
エッジ研磨の場合、一般的には研磨布支持体の表面に、合成樹脂発泡体、合成皮革あるいは不織布等からなる研磨布を貼付した研磨加工機を、被加工物である半導体ウエハ等のエッジ部分に押圧し、研磨用組成物を供給しながら、前記研磨布支持体及び被加工物の双方あるいはその一方を回転してエッジ部分の研磨加工を行う。本発明に用いるエッジポリッシング用加工機は、例えばスピードファム株式会社製EP−200X型エッジポリッシュ装置に示されるようなものであり、表面に研磨布を貼付したワークとの接触角度が異なる複数の研磨布支持体と、被加工物を把持し回転可能な把持部とからなり、該把持部に取り付けられた被加工物のエッジ部分に前記研磨布支持体を押圧し、本発明の研磨用組成物を供給しながら被加工物を回転せしめ、被加工物のエッジ部分の鏡面研磨加工を行う。即ち、少しずつ上昇あるいは下降して位置を変えていく研磨布支持体に、被加工物を回転させながら押しあて、本発明の研磨用組成物を加工部分に供給しながら研磨を行う。本発明の研磨用組成物を用いた半導体ウエハの研磨加工方法は以下の実施例にて詳細に説明する。なお、装置については上記の記載に限定されるものではなく、例えば特開平1−71656号公報、特開平7−314304号公報、特開2000−317788号公報、特開2002−36079号公報などに記載のいかなる装置も使用可能である。
【実施例】
【0049】
次に、実施例及び比較例をあげて本発明の半導体ウエハ研磨用組成物、及びそれを用いた研磨加工方法を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用するコロイダルシリカを以下に示す製造例1〜製造例5に従って作製し、添加剤を製造例6、7に従って作製した。
【0050】
製造例1
<水酸化テトラメチルアンモニウム安定化コロイダルシリカAの製造例>
予め、460gの脱イオン水に35%塩酸2gを加えて希塩酸液を作製した。テトラメトキシシラン(試薬、換算SiO濃度39重量%)960gを容器に採取し、攪拌下に前記希塩酸液を徐々に加えた。当初二液は分離して混ざらなかったが、数分後に加水分解が始まり急激な発熱とともに透明な均一液となった。そのまま30分攪拌を続け加水分解を完結させて加水分解液を得た後、1160gの脱イオン水を加えて希釈して活性珪酸の重合を抑制した。別の容器に7420gの脱イオン水を採取し、前記の加水分解液を加えて全量を10Kgとし、16時間攪拌して熟成させた。こうしてシリカ濃度3.7重量%でpH2.8の活性珪酸水溶液を得た。
上記シリカ濃度3.7重量%でpH2.8の活性珪酸水溶液2Kgに、攪拌下25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を40g加えてpHを8.6とした。次いで、攪拌下に加熱し、100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた後、放冷して、わずかに青味を帯びたコロイダルシリカを得た。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが10.1であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約5〜7nmで、長径/短径比が5〜20の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が10〜15であった。シリカ粒子のTEM写真を図1に示した。
【0051】
次いで、上記コロイダルシリカを再度100℃に加熱して、攪拌下に活性珪酸水溶液を添加して粒子の成長を行った。8Kgの活性珪酸水溶液を3時間かけて添加し、添加中は25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を同時添加することでpHを9〜10に維持した。同時添加で使用した25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液は84gであった。添加終了後100℃で1時間攪拌して熟成させ、放冷した。得られたコロイダルシリカは、水の蒸発により9.4Kgであり、25℃でのpHが10.0であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約10〜14nmで、長径/短径比が2〜7の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が4であった。シリカ粒子のTEM写真を図2に示した。
次いで、このコロイダルシリカを分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成ケミカルズ株式会社製マイクローザUFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度30重量%まで濃縮し、コロイダルシリカ約1200gを回収した。このコロイダルシリカの窒素吸着法BET比表面積測定により得られた粒子径は11nmであった。こうして得られた水酸化テトラメチルアンモニウム安定化コロイダルシリカを、以下でコロイダルシリカAと記す。
【0052】
製造例2
<水酸化テトラエチルアンモニウム安定化コロイダルシリカBの製造例>
製造例1と同じ方法で、シリカ濃度3.7重量%でpH2.8の活性珪酸水溶液を10Kg作製した。
活性珪酸水溶液2Kgに、攪拌下35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を36g加えてpHを8.6とした。次いで、攪拌下に加熱し、100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた後、放冷して、わずかに青味を帯びたコロイダルシリカを得た。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが10.0であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約5〜7nmで、長径/短径比が5〜20の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が10〜15であった。シリカ粒子の形状は製造例1のTEM写真図1と近似していた。
【0053】
次いで、上記コロイダルシリカを再度100℃に加熱して、攪拌下に活性珪酸水溶液を添加して粒子の成長を行った。8Kgの活性珪酸水溶液を3時間かけて添加し、添加中は35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を同時添加することでpHを9〜10に維持した。同時添加で使用した35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液は60gであった。添加終了後100℃で1時間攪拌して熟成させ、放冷した。得られたコロイダルシリカは、水の蒸発により8.8Kgであり、25℃でのpHが9.5であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約10〜14nmで、長径/短径比が2〜7の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が4であった。シリカ粒子のTEM写真を図3に示した。
次いで、このコロイダルシリカを分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成ケミカルズ株式会社製マイクローザUFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度30重量%まで濃縮し、コロイダルシリカ約1200gを回収した。このコロイダルシリカの窒素吸着法BET比表面積測定により得られた粒子径は13nmであった。こうして得られた水酸化テトラエチルアンモニウム安定化コロイダルシリカを、以下でコロイダルシリカBと記す。
【0054】
製造例3
<水酸化テトラメチルアンモニウム安定化コロイダルシリカCの製造例>
予め、2000gの脱イオン水に35%塩酸10gを加えて希塩酸液を作製した。テトラエトキシシラン(多摩化学工業株式会社製、換算SiO濃度29重量%)1070gを容器に採取し、攪拌下に前記希塩酸液380gを加えた。当初二液は分離して混ざらなかったが、十数分後に加水分解が始まり発熱とともに透明な均一液となった。そのまま30分攪拌を続け加水分解を完結させて加水分解液を得た後、1000gの脱イオン水を加えて希釈して活性珪酸の重合を抑制した。別の容器に5900gの脱イオン水を採取し、前記の加水分解液を加えて全量を8350gとし、16時間攪拌して熟成させた。こうしてシリカ濃度3.7重量%でpH2.8の活性珪酸水溶液を得た。
【0055】
活性珪酸水溶液1000gに、攪拌下25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を16g加えてpHを8.7とした。次いで、攪拌下に加熱し、100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた後、放冷して、わずかに青味を帯びたコロイダルシリカを得た。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが10.1であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約4〜5nmで、長径/短径比が5〜20の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が10〜15であった。シリカ粒子の形状は製造例1のTEM写真図1と近似していた。
【0056】
次いで、上記コロイダルシリカを再度100℃に加熱して、攪拌下に活性珪酸水溶液を添加して粒子の成長を行った。2000gの活性珪酸水溶液を2時間かけて添加し、添加中は25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を同時添加することでpHを9〜10に維持した。同時添加で使用した25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液は14gであった。添加終了後100℃で1時間攪拌して熟成させ、放冷した。得られたコロイダルシリカは、水の蒸発により3260gであり、25℃でのpHが9.7であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約7〜10nmで、長径/短径比が2〜7の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が5であった。シリカ粒子のTEM写真を図4に示した。
次いで、このコロイダルシリカを分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成ケミカルズ株式会社製マイクローザUFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度30重量%まで濃縮し、コロイダルシリカ約360gを回収した。このコロイダルシリカの窒素吸着法BET比表面積測定により得られた粒子径は8nmであった。こうして得られた水酸化テトラメチルアンモニウム安定化コロイダルシリカを、以下でコロイダルシリカCと記す。
【0057】
製造例4
<水酸化テトラエチルアンモニウム安定化コロイダルシリカDの製造例>
製造例3と同じ方法で、シリカ濃度3.7重量%でpH2.8の活性珪酸水溶液を8.35Kg作製した。
活性珪酸水溶液500gに、攪拌下35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を10g加えてpHを9.0とした。次いで、攪拌下に加熱し、100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた後、放冷して、わずかに青味を帯びたコロイダルシリカを得た。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが10.3であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約5〜7nmで、長径/短径比が5〜20の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が10〜15であった。シリカ粒子の形状は製造例1のTEM写真図1と近似していた。
【0058】
次いで、上記コロイダルシリカを再度100℃に加熱して、攪拌下に活性珪酸水溶液を添加して粒子の成長を行った。6.35Kgの活性珪酸水溶液を6時間かけて添加し、添加中は35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を同時添加することでpHを9〜10に維持した。同時添加で使用した35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液は59gであった。添加終了後100℃で1時間攪拌して熟成させ、放冷した。得られたコロイダルシリカは、水の蒸発により5.95Kgであり、25℃でのpHが10.3であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約25nmで、長径/短径比が1.2〜3の不規則に伸長した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が10〜15であった。シリカ粒子のTEM写真を図5に示した。
次いで、このコロイダルシリカを分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成ケミカルズ株式会社製マイクローザUFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度30重量%まで濃縮し、コロイダルシリカ約800gを回収した。このコロイダルシリカの窒素吸着法BET比表面積測定により得られた粒子径は21nmであった。こうして得られた水酸化テトラエチルアンモニウム安定化コロイダルシリカを、以下でコロイダルシリカDと記す。
【0059】
製造例5
<水酸化テトラエチルアンモニウム安定化コロイダルシリカEの製造例>
製造例3と同様の方法で、シリカ濃度3.7重量%でpH2.8の活性珪酸水溶液を13.5Kg作製した。
活性珪酸水溶液100gに、攪拌下35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を2g加えてpHを9.0とした。次いで、攪拌下に加熱し、100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた後、放冷して、わずかに青味を帯びたコロイダルシリカを得た。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが10.3であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約5〜7nmで、長径/短径比が5〜20の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が10〜15であった。シリカ粒子の形状は製造例1のTEM写真図1と近似していた。
【0060】
次いで、上記コロイダルシリカを再度100℃に加熱して、攪拌下に活性珪酸水溶液を添加して粒子の成長を行った。13.4Kgの活性珪酸水溶液を24時間かけて添加し、添加中は35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を同時添加することでpHを9〜10に維持した。同時添加で使用した35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液は120gであった。添加終了後100℃で1時間攪拌して熟成させ、放冷した。得られたコロイダルシリカは、水の蒸発により10.1Kgであり、25℃でのpHが10.3であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、短径が約46nmで、長径/短径比が1.2〜1.8の不規則に伸長した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が1.5であった。
次いで、このコロイダルシリカを分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成ケミカルズ株式会社製マイクローザUFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度30重量%まで濃縮し、コロイダルシリカ約800gを回収した。このコロイダルシリカの窒素吸着法BET比表面積測定により得られた粒子径は56nmであった。こうして得られた水酸化テトラエチルアンモニウム安定化コロイダルシリカを、以下でコロイダルシリカEと記す。
【0061】
製造例6
<添加剤Aの製造例>
強攪拌下に25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液164Kgに炭酸ガスを吹き込み、pH8.4に中和して、33%炭酸水素テトラメチルアンモニウム水溶液184.2Kgを作製した。これに25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液149.1Kgを添加混合して、333.3Kgの緩衝組成用の混合テトラメチルアンモニウム溶液を作製した。
【0062】
製造例7
<添加剤Bの製造例>
25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液265Kgに試薬の95%硫酸37.5Kgを滴下して、pH7に中和して、約300Kgの硫酸テトラメチルアンモニウム水溶液を作製した。
【0063】
実施例に用いる研磨組成物(C−1〜C−12)の作製
製造例1〜5に示す方法で作製した各17KgのコロイダルシリカA〜Eに、製造例6、7に示す方法で作製した添加剤A及び添加剤Bをそれぞれ表1−1〜表1−3の水準になるよう加えて24時間混合した。こうしてpH緩衝作用を有する研磨用組成物を作製した。試作した研磨用組成物をそれぞれC−1〜C−12と略記して、その性状を表1−1〜表1−3に記載した。そして、C−1〜C−12の研磨用組成物を実施例に用いた。なお、表中、「Na(ppm/SiO)」はシリカ当たりのナトリウム濃度を表す。また、表中導電率「mS/m/1%−SiO」は導電率計を用いて各研磨用組成物の導電率を測定し、測定値をシリカ濃度で除した値である。更に、TMAHCOは、炭酸水素テトラメチルアンモニウムの略である。
【0064】
【表1−1】

【0065】
【表1−2】

【0066】
【表1−3】

【0067】
比較例に用いる研磨組成物(E−1〜E−5)の作製
E−1:市販の球状粒子よりなるナトリウム安定化型コロイダルシリカ(シリカドール40:シリカ濃度40.4重量%、平均粒子径18nm、ナトリウム量4000ppm)128kgに前記添加剤Bを3333g加えて24時間混合した。こうしてpH緩衝作用を有し、シリカ濃度39重量%でpH10.4のコロイダルシリカ、即ち研磨用組成物を調製した。なお、この研磨用組成物の導電率は691mS/mであり、シリカ濃度で除した導電率は17.7mS/m/1%−SiOであった。
E−2:本願製造例1にて作製したコロイダルシリカAを用い、表2の組成となるよう研磨用組成物を調製した。
E−3:本願製造例2にて作製したコロイダルシリカBを用い、表2の組成となるよう研磨用組成物を調製した。
E−4:本願製造例2にて作製したコロイダルシリカBを用い、表2の組成となるよう研磨用組成物を調製した。
E−5:本願製造例2にて作製したコロイダルシリカBを用い、表2の組成となるよう研磨用組成物を調製した。
作製の手順は、E−1の手順に準拠した。
【0068】
【表2】

【0069】
表2において、E−1は、コロイダルシリカ粒子形状が本願特許請求の範囲と異なっており、またNa濃度が高い。
E−2は、25℃におけるシリカ粒子1重量%あたりの導電率が、本願特許請求の範囲より低くなっている。
E−3は、pHが、本願特許請求の範囲と異なっている。
E−4は、25℃におけるシリカ粒子1重量%あたりの導電率が、本願特許請求の範囲より高くなっている。
E−5は、緩衝溶液を添加しない組成となっている。
E−1〜E−5の研磨用組成物を比較例に用いた。
【0070】
<半導体ウエハのエッジ部分研磨試験>
表1−1〜表1−3に示すC−1〜C−3、C−6〜C−9、C−11、C−12の研磨用組成物を、以下の表3−1〜表3−2に示すシリカ濃度となるように純水で希釈した。また、表2に示すE−1〜E−5の研磨用組成物を、表4に示すシリカ濃度となるよう純水で希釈した。希釈された研磨用組成物を用いて以下の研磨試験を行った。
【0071】
<試験条件>
上述の方法にて8インチのポリSi膜付シリコンウエハの研磨実験を行った。使用したウエハエッジ研磨装置及び研磨条件は以下の通りである。
研磨装置:スピードファム株式会社製、EPD−200X型エッジポリッシュ装置
ウエハ回転数:2000回/分
研磨時間:60秒/枚
研磨用組成物流量:3L/分
研磨布:suba400(ニッタ・ハース株式会社製)
加重:40N/ユニット
ウエハは連続して10枚を研磨し、10枚目のウエハについて下記の評価試験を行った。
【0072】
<評価>
エッジ研磨終了後、研磨用組成物に代えて純水を流して研磨用組成物を洗い流した。研磨装置からウエハを取り外し、1重量%アンモニア水溶液及び純水を用いてブラシスクラブ洗浄した。その後、窒素ブローを施しながらスピン乾燥を実施した。このようにして得られたウエハについて、表面に付着した0.15μm以上のパーティクルの個数を、SEM及びレーザー光散乱法表面検査装置により測定した。更に、研磨面に生じるヘイズ及びピットの有無、並びにエッジポリッシュが不完全であることによって発生する削り残りの有無を、集光灯下で目視観察し、更に800倍の光学顕微鏡で観察した。観察は、被加工物全周に対して行った。更に研磨前後のデバイスウエハの重量差から研磨速度を求めた。
【0073】
実施例1〜9、比較例1〜5
<エッジ研磨試験>
上述の条件でエッジ研磨試験を実施した。
表3−1〜表3−2は実施例である。本願特許請求の範囲にあるC−1〜C−3、C−6〜C−9、C−11、C−12の研磨用組成物を希釈してエッジ研磨試験を実施した結果、すべての評価項目で良好な結果が得られた。
表4は比較例である。比較例1は、Naを多く含有する研磨用組成物を用いたため、ウエハ裏面に付着する粒子数が増加する結果となった。
比較例2は、25℃におけるシリカ粒子1重量%あたりの導電率が低いため研磨速度が低くなり、研磨残りも生じた。比較例3は、pHが本願特許請求の範囲より高いため、研磨面にヘイズが残った。比較例4は、25℃におけるシリカ粒子1重量%あたりの導電率が高いため、ウエハ裏面に付着する粒子数が増加した。比較例5は、緩衝溶液組成でないため、研磨加工前後での研磨用組成物のpHが大きく、かつ、研磨速度も低かった。
【0074】
【表3−1】

【0075】
【表3−2】

【0076】
【表4】

【0077】
<平面研磨試験>
表1−1〜表1−3に示すC−4、C−5、C−10〜C−12の研磨用組成物を、表5−1〜表5−2に示すシリカ濃度となるよう純水で希釈した。また、表2に示すE−1、E−3、E−4、E−5の研磨用組成物を、表6に示すシリカ濃度となるよう純水で希釈した。希釈されたコロイダルシリカを用いて以下の研磨試験を行った。
【0078】
<試験条件>
上述の方法にて研磨実験を行った。シリコンウエハとしてCZ法で製造された抵抗率0.01Ω・cm、結晶方位<100>、伝導型P型の8インチエッチドシリコンウエハを用いた。使用したウエハ研磨装置は以下の通りであり、以下の研磨条件で鏡面研磨を実施した。
研磨装置:スピードファム株式会社製 SH−24型
定盤回転数:70RPM
プレッシャープレート回転数:50RPM
研磨布:SUBA400(ニッタ・ハース株式会社製)
荷重:150g/cm
研磨用組成物流量:80ml/分
研磨時間:10分
【0079】
<評価>
平面研磨終了後、研磨用組成物に代えて純水を流して研磨用組成物を洗い流した。研磨装置からウエハを取り外し、1重量%アンモニア水溶液及び純水を用いてブラシスクラブ洗浄した。その後、窒素ブローを施しながらスピン乾燥を実施した。このようにして得られたウエハについて、表面に付着した0.15μm以上のパーティクルの個数を、SEM及びレーザー光散乱法表面検査装置により測定した。更に、研磨面に生じるヘイズ及びピットの有無を、集光灯下にて目視観察した。更に研磨前後のウエハの重量差から研磨速度を求めた。
【0080】
実施例10〜18、比較例5〜8
<平面研磨試験結果>
上述の条件で平面研磨試験を実施した。
表5−1〜表5−2は実施例である。本願特許請求の範囲にあるC−4、C−5、C−10〜C−12の研磨用組成物を希釈してエッジ研磨試験を実施した結果、すべての評価項目で良好な結果が得られた。
表6は比較例である。比較例5は、Naを多く含有する研磨用組成物を用いたため、ウエハ表面に付着する粒子数が増加する結果となった。比較例6は、pHが本願特許請求の範囲より高いため、研磨面にヘイズが残ると同時にウエハ表面に付着する粒子数が増加した。比較例7は、25℃におけるシリカ粒子1重量%あたりの導電率が高いため、ウエハ表面に付着する粒子数が増加した。比較例8は、研磨加工の前後でのpHの変化が大きかった。また、研磨速度が低く、研磨面にピットが発生した。なお、ウエハ表面の付着粒子数は、ピット数も含んだ値である。
【0081】
【表5−1】

【0082】
【表5−2】

【0083】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明による研磨用組成物を用いれば、半導体ウエハ等の研磨において微粒子及び金属汚染を起こしにくい効果が得られ、かつ、ビルドアップ方式で製造されるためシリカ粒子の密度が高く、かつ、非球状粒子であるため高い研磨力が得られる。更に、pH緩衝作用を持つ研磨用組成とすることで安定した研磨加工を行うことを可能とした。よって、関連業界に及ぼす効果は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルコキシシランを酸触媒で加水分解して得た活性珪酸水溶液に、水酸化第4アンモニウムを加えてpHをアルカリとし、加熱してシリカ粒子を成長させて得られたコロイダルシリカを含有する半導体ウエハ研磨用組成物であって、前記シリカ粒子が、電子顕微鏡観察による短軸方向の平均直径が5〜50nmであり、長軸方向の長さが短軸の1.2〜10倍である非球状の形状を有し、BET法より算出される平均粒子径が5〜100nmであり、かつ、前記半導体ウエハ研磨用組成物がpH緩衝溶液を含むことにより、25℃においてpH8〜11の間で緩衝作用を有することを特徴とする半導体ウエハ研磨用組成物。
【請求項2】
水酸化第4アンモニウムが、コリン、水酸化テトラメチルアンモニウムもしくは水酸化テトラエチルアンモニウムであることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウエハ研磨用組成物。
【請求項3】
pH緩衝溶液が弱酸と強塩基の組み合わせよりなり、弱酸を構成する陰イオンが、炭酸イオン及び/または炭酸水素イオンであり、かつ強塩基を構成する陽イオンがコリンイオン、テトラメチルアンモニウムイオンもしくはテトラエチルアンモニウムイオンまたはこれらの混合物であることを特徴とする請求項2に記載の半導体ウエハ研磨用組成物。
【請求項4】
pH緩衝溶液の濃度を高くすること、及び/または、強酸と水酸化第4アンモニウムの塩を有することによって、25℃における導電率が、シリカ粒子1重量%あたり15mS/m以上200mS/m以下となるように調製された請求項3に記載の半導体ウエハ研磨用組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体ウエハ研磨用組成物の製造方法であって、シリカ濃度1〜8モル/リットル、酸濃度0.0018〜0.18モル/リットル、水濃度2〜30モル/リットルの範囲の組成で、テトラアルコキシシランを加水分解して活性珪酸水溶液を調製する第一工程、第一工程で調製した活性珪酸をシリカ濃度が0.2〜1.5モル/リットルの範囲となるように水で希釈し、次いでpHが8〜11となるように水酸化第4アンモニウムを加えた後、加熱してコロイド粒子を成長させる第二工程、第二工程で製造したコロイド粒子を限外濾過により濃縮してシリカ濃度が20〜50重量%のコロイダルシリカ溶液を作製する第三工程、第三工程で作製したコロイダルシリカ溶液にpH緩衝組成となるよう弱酸と水酸化第4アンモニウムを加える第四工程、よりなる半導体ウエハ研磨用組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の半導体ウエハ研磨用組成物の製造方法において、第二工程と第三工程の間にコロイド粒子をさらに成長させる工程を施す半導体ウエハ研磨用組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−182811(P2010−182811A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23939(P2009−23939)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(000107745)スピードファム株式会社 (62)
【Fターム(参考)】