説明

原子周波数取得装置および原子時計

【課題】原子時計の小型化を図りつつ、量産性を向上させる。
【解決手段】内部に原子ガスを封入した、セラミックパッケージ200と封止部110から形成されるセルと、セル内部に入射して原子ガスを励起させるレーザ光を発振するレーザダイオード120と、セルを通過したレーザ光を受光するフォトディテクタ130を備え、レーザダイオード120およびフォトディテクタ130は、セルの内部に面した同一の面に貼付され、封止部110は、レーザダイオード120から発振されたレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された反射面112と、反射面112で反射されたレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された反射面113を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子周波数取得装置および原子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
原子の固有振動数を基準として発振器の HYPERLINK "http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0" \o "周波数" 周波数制御を行う原子時計が、従来の水晶振動子に代わって様々な場面で利用されるようになっている。中でもCPT(Coherent Population Trapping)方式の原子時計は小型化、省電力化に適しており、今後携帯電話などへの適用も見込まれている。原子時計は、基板上で、原子ガスを封入するガスセルと、レーザ発光部および受光部の位置合わせが正確に行われていないと精度が悪くなる。この位置合わせ作業の煩雑さが、原子時計を組み込んだ電子機器の量産性を低下させる原因の1つとなっている。
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,900,702号明細書
【特許文献2】米国特許第6,570,459号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、原子時計の小型化を図りつつ、量産性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の原子周波数取得装置は、内部に原子ガスを封入したセルと、前記セル内部に入射して前記原子ガスを励起させるレーザ光を発振するレーザ光源と、前記セルを通過したレーザ光を受光する受光部を備え、前記レーザ光源および前記受光部は、前記セルの内部に面した同一の面に貼付され、前記セルは、前記レーザ光源から発振されたレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された第1の反射部と、前記第1の反射面で反射されたレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された第2の反射部を備えたものである。
前記第1の反射部および前記第2の反射部は、前記セル内部に面して形成されている。
【0006】
本発明の原子周波数取得装置は、前記セルの一部に開口部を有し、前記開口部を封止するように設置された封止部を備え、前記第1の反射部および前記第2の反射部は、前記セルの外側の、前記封止部の一面に形成されている。
【0007】
また、本発明の原子周波数取得装置は、内部に原子ガスを封入したセルと、前記セル内部に入射して前記原子ガスを励起させるレーザ光を発振するレーザ光源と、前記セルを通過したレーザ光を受光する受光部を備え、前記レーザ光源は前記セルの内部に面した第1の面に貼付され、前記受光部は、前記第1の面に対向する第2の面に貼付されたものである。
【0008】
本発明によれば、セルとレーザ光源と受光部が一体化されるので、装置の小型化が図れると共に、基板上にそれぞれの部品を別々に組み込まなくてよいため部品同士の位置合わせをする必要がなく、装置の量産性を向上させることができる。
また、レーザ光源がセル内に配置されるため、レーザ光がセルへの入射面で反射されることによるロスを防ぐことができる。同様に、受光部がセル内に配置されるため、レーザ光がセルからの出射面で反射されることによるロスを防ぐことができる。このようにレーザ光の利用効率を高めることができる。
なお、前記セルの一部をセラミックパッケージで形成してもよい。
【0009】
また、本発明の原子周波数取得装置は、前記レーザ光源および前記受光部を覆う保護膜を備える。
これにより、前記レーザ光源および前記受光部がセル内のガスによって劣化するのを防止することができる。
保護膜は、例えばSiNやSiO2、タンタルオキサイド、またビニル・ポリオレフィン系プラスチックやフッ素樹脂系プラスチック、エポキシアクリレート系樹脂、エポキシ樹脂などを材料として形成することができる。
【0010】
前記レーザ光源および前記受光部は、エピタキシャルリフトオフ法により形成されたチップとすることができる。
【0011】
本発明による原子周波数取得装置は、原子時計において時間標準周波数を取得するために用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による原子周波数取得装置100の構造を示す斜視図、図2(a)は図2(b)のA−A’線での断面図、図2(b)は原子周波数取得装置100の上面図である。原子周波数取得装置100は、CPT方式の原子時計において時間標準周波数を取得するために用いられる。
図1,2に示すように、原子周波数取得装置100は、一部に開口部を有するセラミックパッケージ200とその開口部を封止するように設置された封止部110、レーザダイオード(レーザ光源)120およびフォトディテクタ(受光部)130を備えている。セラミックパッケージ200と封止部110によって内部にキャビティ(空洞)111を有するセルが形成されている。キャビティ111には、セシウム原子ガスが封入されている。
【0013】
セラミックパッケージ200はセラミック材料で形成されており、封止部110はガラスで形成されている。封止部110の材料としては、ガラスの他にもレーザダイオード120から発振されるレーザ光(ここではVCSELの波長852nm)を透過するものを用いることができる。
【0014】
レーザダイオード120とフォトディテクタ130は、セラミックパッケージ200のキャビティ111に面した同一面上に設置されている。また、レーザダイオード120は配線121を介して、フォトディテクタ130は配線131を介して外部の基板(図示せず)等の駆動回路に接続される。
レーザダイオード120とフォトディテクタ130は、エピタキシャルリフトオフ法(以下ELO法と記す。)により形成されたチップである。ELO法は、素子(レーザダイオード120、フォトディテクタ130)を形成する際に、基板と素子との間にアルミニウム、ガリウム、ヒ素等で犠牲層を形成しておき、その犠牲層をエッチングすることで素子部分を基板から切り離す方法である。実施の形態1では、レーザダイオード120とフォトディテクタ130をELO法で製造し、両素子をELOチップとして得ることによりセル110に貼付する際に扱いやすくすることができる。
レーザダイオード120はここではVCSEL(Vertical Cavity Surface−emitting Laser:垂直面発光レーザダイオード)である。
【0015】
レーザダイオード120と配線121、およびフォトディテクタ130と配線131は、それぞれ保護膜122,132に覆われている。保護膜122,132は、SiNやSiO2、タンタルオキサイド等、またビニル・ポリオレフィン系プラスチックやフッ素樹脂系プラスチック、エポキシアクリレート系樹脂、エポキシ樹脂などを材料として形成することができる。
【0016】
保護膜122,132を設けることにより、レーザダイオード120と配線121、およびフォトディテクタ130と配線131が、セル内のガスによって劣化するのを防止することができる。
【0017】
封止部110は、レーザダイオード120から発振され、キャビティ111を通って入射したレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された反射面112(第1の反射部)と、反射面112で反射されたレーザ光が45度の入射角で入射するように形成された反射面113(第2の反射部)を有している。反射面112,113には金属膜(114,115)等が形成されており、レーザ光を反射する。
【0018】
封止部110の上面には、ヒータ300が設置されている。
ヒータ300は、キャビティ111内の温度を一定(80度〜130度)に保つための加熱ヒータであり、セルを加熱することにより、セシウム原子密度を増やし、レーザ光により励起される原子数を高めている。励起される原子数が増えることにより、感度が向上し原子周波数取得装置100の精度があがる。
【0019】
次に、原子周波数取得装置100の動作について説明する。
レーザダイオード120から出射されたレーザ光(L)は、図2(a)に示すようにキャビティ111を通って封止部110へ透過し、反射面112で反射されて光路を90度回転させ、反射面113で反射されて光路を再度90度回転させた後、再びキャビティ111を通ってフォトディテクタ130に受光される。
レーザ光はキャビティ111内を通過する間にキャビティ111内のセシウム原子を励起する。励起されたセシウム原子ガスを通過するレーザ光の強度が最大になる時のレーザ光の上側と下側のサイドバンド周波数差が、セシウム原子の固有周波数と一致する。よって、フォトディテクタ130に受光されるレーザ光の強度が最大となるように外部回路でフィードバック制御することにより、レーザダイオード120の変調周波数が調整される。
フィードバック制御系は、原子周波数取得装置100に接続された制御回路およびローカルオシレータを備えて構成され、フォトディテクタ130の出力が制御回路を経由してローカルオシレータに供給されてフィードバック制御を行い、ローカルオシレータの発振周波数を上述のセシウム原子の固有周波数を基準として安定化している。
上記のようにして調整された発振周波数がローカルオシレータから取得され、原子時計の標準信号として利用される。
【0020】
なお、封止部110の形状は図1,2に示すような形状に限らず、レーザダイオード120から発振されキャビティ111を通過したレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された第1の反射部と、第1の反射部で反射されたレーザ光が、45度の入射角で入射する第2の反射部を有するものであればよい。なお、第1の反射部および第2の反射部は、反射面が球面で形成しても良い。球面で形成することによって、広がったレーザ光を集光して、装置の精度を上げることが可能です。
【0021】
また、図3は、本発明の実施の形態1による原子周波数取得装置100の変形例の構造を示す斜視図、図4(a)は図4(b)のA−A’線での断面図、図4(b)は原子周波数取得装置100の上面図である。図1および図2と同一の符号は、対応する構成要素を表している。
図3,4に示す例では、レーザダイオード120とフォトディテクタ130は、封止部110のキャビティ111に面した同一面上に設置されている。
【0022】
また、セラミックパッケージ200は、レーザダイオード120から発振されたレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された反射面112と、反射面112で反射されたレーザ光が45度の入射角で入射するように形成された反射面113を有している。
【0023】
レーザダイオード120から出射されたレーザ光(L)は、図4(a)に示すようにキャビティ111内を直進し、反射面112で反射されて光路を90度回転させ、反射面113で反射されて光路を再度90度回転させた後、再びキャビティ111内を直進してフォトディテクタ130に受光される。
【0024】
なお、セラミックパッケージ200の形状は図4(a)のような形状に限らず、レーザダイオード120から発振されたレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された第1の反射部と、第1の反射部で反射されたレーザ光が、45度の入射角で入射する第2の反射部を有するものであればよい。
【0025】
実施の形態1によれば、セラミックパッケージ200と封止部110によって形成されるセルとレーザダイオード120とフォトディテクタ130が一体化しているので、原子周波数取得装置100の小型化が図れると共に、原子周波数取得装置100の電子機器等への組み込み作業が簡素化され、量産性を向上させることができる。
また、レーザダイオード120がセル内に配置されるため、レーザ光がセルへの入射面で反射されることによるロスを防ぐことができる。同様に、フォトディテクタ130がセル内に配置されるため、レーザ光がセルからの出射面で反射されることによるロスを防ぐことができる。このようにレーザ光の利用効率を高めることができる。
【0026】
なお、実施の形態1では、セルを封止部110とセラミックパッケージ200から形成したが、封止部110を形成しているガラス材料のみでセルを形成してもよい。また、レーザ光がセル110の上面又は下面で複数回反射するように形成してもよい。
【0027】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2による原子周波数取得装置100の構造を示す斜視図、図6(a)は図6(b)のA−A’線での断面図、図6(b)は原子周波数取得装置100の上面図である。図1および図2と同一の符号は、対応する構成要素を表している。実施の形態2では、レーザダイオード120とフォトディテクタ130は、セラミックパッケージ200のキャビティ111に面する対向面にそれぞれ設置されている。
【0028】
レーザダイオード120から出射されたレーザ光(L)は、図6(a)に示すようにキャビティ111内を直進してフォトディテクタ130に受光される。
【0029】
実施の形態2も実施の形態1と同様に、セラミックパッケージ200と封止部110によって形成されるセルと、レーザダイオード120とフォトディテクタ130が一体化して形成されるので、原子周波数取得装置100の小型化が図れると共に、原子周波数取得装置100の電子機器等への組み込み作業が簡素化され、量産性を向上させることができる。
また、レーザダイオード120がセル内に配置されるため、レーザ光がセルへの入射面で反射されることによるロスを防ぐことができる。同様に、フォトディテクタ130がセル内に配置されるため、レーザ光がセルからの出射面で反射されることによるロスを防ぐことができる。このようにレーザ光の利用効率を高めることができる。
【0030】
なお、レーザダイオード120とフォトディテクタ130は、互いに対向する面にそれぞれ取り付ければよいので、セルの形状に応じてキャビティ111内での光路が最長になるように取り付け面を選べばよい。
【0031】
なお、実施の形態2では、セルを封止部110とセラミックパッケージ200から形成したが、封止部110を形成しているガラス材料のみでセルを形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1による原子周波数取得装置の構造を示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、原子周波数取得装置の断面図、図2(b)は原子周波数取得装置の上面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1による原子周波数取得装置の変形例の構造を示す斜視図である。
【図4】図4(a)は、原子周波数取得装置の断面図、図4(b)は原子周波数取得装置の上面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態2による原子周波数取得装置の構造を示す斜視図である。
【図6】図6(a)は、原子周波数取得装置の断面図、図6(b)は原子周波数取得装置の上面図である。
【符号の説明】
【0033】
100 原子周波数取得装置、110 封止部、111 キャビティ、112,113 反射面、114,115 金属膜、120 レーザダイオード、121,131 配線、122,132 保護膜、130 フォトディテクタ、200 セラミックパッケージ、300 ヒータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に原子ガスを封入したセルと、
前記セル内部に入射して前記原子ガスを励起させるレーザ光を発振するレーザ光源と、
前記セルを通過したレーザ光を受光する受光部を備え、
前記レーザ光源および前記受光部は、前記セルの内部に面した同一の面に貼付され、
前記セルは、前記レーザ光源から発振されたレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された第1の反射部と、
前記第1の反射部で反射されたレーザ光が、45度の入射角で入射するように形成された第2の反射部を備えたことを特徴とする原子周波数取得装置。
【請求項2】
前記第1の反射部および前記第2の反射部は、前記セル内部に面して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の原子周波数取得装置。
【請求項3】
前記セルは一部に開口部を有し、
前記開口部を封止するように設置された封止部を備え、
前記第1の反射部および前記第2の反射部は、前記セルの外側の、前記封止部の一面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の原子周波数取得装置。
【請求項4】
内部に原子ガスを封入したセルと、
前記セル内部に入射して前記原子ガスを励起させるレーザ光を発振するレーザ光源と、
前記セルを通過したレーザ光を受光する受光部を備え、
前記レーザ光源は前記セルの内部に面した第1の面に貼付され、前記受光部は、前記第1の面に対向する第2の面に貼付されたことを特徴とする原子周波数取得装置。
【請求項5】
前記レーザ光源および前記受光部を覆う保護膜を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の原子周波数取得装置。
【請求項6】
前記セルの一部がセラミックパッケージで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の原子周波数取得装置。
【請求項7】
前記レーザ光源および前記受光部は、エピタキシャルリフトオフ法により形成されたチップとして実装されたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の原子周波数取得装置。
【請求項8】
前記レーザ光源は、面発光レーザの光源であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の原子周波数取得装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の原子周波数取得装置を備えた原子時計。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−173445(P2007−173445A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367786(P2005−367786)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】