説明

可動機構及び電子機器

【課題】可動部を本体部に対して任意の角度で保持することができる可動機構及びその可動機構を備えた電子機器を提供する。
【解決手段】可動部に固定され、本体部に回転可能に支持される可動部回転軸と、可動部回転軸の回転に応じて回転する第1の歯車と、互いに噛合する第2の歯車及び第3の歯車を回転可能に保持すると共に、本体部に支持された保持部回転軸に回動可能に支持され、第2の歯車と第3の歯車の少なくとも一方を第1の歯車と噛合させるように配置された保持部と、第2の歯車の第1の方向の回転を許容し、第2の歯車の第1の方向と反対の第2の方向の回転を規制する回転規制部と、保持部の回動時に回動抵抗を付与する回動抵抗付与部と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動機構及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばノート型パソコンのような電子機器において、キーボード本体とディスプレー体とを開閉する際に用いるロック機構付チルトヒンジが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のロック機構付チルトヒンジは、キーボード本体と、ディスプレー体とを開閉する際に、キーボード本体に対してディスプレー体を所定の角度でロックするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−35172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術を、例えば操作パネルや液晶ディスプレー等の可動部が、電子機器の本体部に開閉可能に設けられる可動機構に適用した場合に、可動部の固定位置が常に一定であるという課題がある。そのため、可動部を設計時に決定した角度でしか固定できず、停止させたい位置の自由度が無い。
【0005】
そこで、本発明は、可動部を本体部に対して任意の角度で保持することができる可動機構及びその可動機構を備えた電子機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の可動機構は、本体部に対して回動可能に設けられると共に、操作時に所定の回動抵抗が付与される可動部を備えた可動機構であって、前記可動部に固定され、前記本体部に回転可能に支持される可動部回転軸と、前記可動部回転軸の回転に応じて回転する第1の歯車と、互いに噛合する第2の歯車及び第3の歯車を回転可能に保持すると共に、前記本体部に支持された保持部回転軸に回動可能に支持され、前記第2の歯車と前記第3の歯車の少なくとも一方を前記第1の歯車と噛合させるように配置された保持部と、前記第2の歯車の第1の方向の回転を許容し、前記第2の歯車の前記第1の方向と反対の第2の方向の回転を規制する回転規制部と、前記保持部の回動時に回動抵抗を付与する回動抵抗付与部と、を有し、前記第1の歯車と前記第2の歯車との噛合時に、前記第1の歯車が前記第1の方向に前記回動抵抗を超えるトルクで回転すると、前記保持部が前記第2の方向に回動し、前記第3の歯車が前記第1の歯車と噛合して前記第2の方向に回転すると共に、前記第2の歯車が前記第1の歯車と離間して前記第1の方向に回転し、前記第1の歯車と前記第3の歯車との噛合時に、前記第1の歯車が前記第2の方向に前記回動抵抗を超えるトルクで回転すると、前記保持部が前記第1の方向に回動し、前記第2の歯車が前記第1の歯車と噛合して前記第1の方向に回転すると共に、前記第3の歯車が前記第1の歯車と離間して前記第2の方向に回転することを特徴とする。
【0007】
このように構成することで、可動部が本体部に対して閉じた状態において、可動部を本体部から引き出すように回動させようとすると、可動部回転軸が可動部の回動に応じた所定の方向に回転しようとする。また、第1の歯車は、可動部回転軸の回転に応じて第1の方向に回転しようとする。このとき、第1の歯車は、第2の歯車と噛合し、第3の歯車から離間している。そのため、第2の歯車は、第1の歯車の第1の方向の回転により、第2の方向に回転しようとする。しかし、第2の歯車の第2の方向の回転は、回転規制部によって規制されている。
そのため、第2の歯車は回転せず、第1の歯車の第1の方向の回転によって、第2の歯車及び第3の歯車を保持する保持部に、保持部回転軸を中心として第2の方向に回動させようとするトルクが作用する。この保持部に作用するトルクが、回動抵抗付与部が保持部に付与する回動抵抗を超えると、保持部が保持部回転軸を中心として第2の方向に回動し、第1の歯車と第2の歯車とが離間し、第1の歯車と第3の歯車とが噛合する。
すると、第1の歯車の第1の方向の回転により、第3の歯車が第2の方向に回転する。また、第3の歯車と噛合する第2の歯車が、第1の方向に回転する。このとき、第2の歯車の第1の方向の回転は、回転規制部によって規制されることがない。したがって、可動部回転軸を所定の方向に回転させ、可動部を本体部から引き出すように回動させることができる。
可動部を本体部から引き出すように回動させ、本体部に対して任意の角度で可動部を停止させると、第1の歯車は、第3の歯車と噛合し、第2の歯車と離間した状態になっている。この状態で可動部を操作すると、可動部に本体部に向けて閉じるように回動させようとするトルクが作用する。すると、可動部回転軸は、上記の所定の方向とは逆方向に回転しようとする。また、第1の歯車は、可動部回転軸の回転に応じて第2の方向に回転しようとする。また、第3の歯車は、第1の歯車の第2の方向の回転により、第1の方向に回転しようとする。また、第2の歯車は、第3の歯車の第1の方向の回転により、第2の方向に回転しようとする。しかし、第2の歯車の第2の方向の回転は、回転規制部によって規制されている。
そのため、第3の歯車は回転せず、第1の歯車の第2の方向の回転によって、第2の歯車及び第3の歯車を保持する保持部に、保持部回転軸を中心として第1の方向に回動させようとするトルクが作用する。このとき、回動抵抗付与部により、保持部に対して回動抵抗が付与される。そのため、回動抵抗付与部により付与される回動抵抗を超えるトルクを発生させない範囲の所定の力で可動部を操作することで、可動部を本体部に対して任意の角度で保持したまま、可動部を操作することできる。
可動部の操作終了後、可動部を本体部に対して閉じるように回動させる場合には、可動部に対して、回動抵抗付与部により付与される回動抵抗を超えるトルクを保持部に発生させる力を付与する。保持部に作用するトルクが、回動抵抗付与部が保持部に付与する回動抵抗を超えると、保持部が保持部回転軸を中心として第1の方向に回動し、第1の歯車と第3の歯車とが離間し、第1の歯車と第2の歯車とが噛合する。
すると、第1の歯車の第2の方向の回転により、第2の歯車が第1の方向に回転する。このとき、第2の歯車の第1の方向の回転は、回転規制部によって規制されることがない。したがって、可動部回転軸を所定の方向と逆方向に回転させ、可動部を本体部に対して閉じるように回動させることができる。
【0008】
また、本発明の可動機構は、前記回動抵抗付与部は、前記保持部に設けられたカム部と、前記カム部に向けて付勢された状態で前記カム部と当接する当接部と、を有することを特徴とする。
このように構成することで、カム部に作用する当接部の付勢力により、保持部に所定の回動抵抗を付与することができる。
【0009】
また、本発明の可動機構は、前記カム部は、前記当接部が係合する第1係合部と第2係合部とを有し、前記第1係合部は、前記当接部との係合時に前記第1の歯車と前記第2の歯車を噛合させる位置に設けられ、前記第2係合部は、前記当接部との係合時に前記第1の歯車と前記第2の歯車を噛合させる位置に設けられていることを特徴とする。
このように構成することで、当接部を第1係合部に係合させ、第1の歯車と第2の歯車とを安定した状態で噛合させることができる。同様に、当接部を第2係合部に係合させ、第1の歯車と第3の歯車とを安定した状態で噛合させることができる。
【0010】
また、本発明の可動機構は、前記カム部は、前記第1係合部と前記第2係合部との間に、前記当接部に向けて突出した凸部を有していることを特徴とする。
このように構成することで、第1係合部と当接部との係合、及び、第2係合部と当接部との係合を切り替える際に、保持部に付与する回動抵抗をステップ的に変化させることができる。これにより、可動部を回動させる操作者に対して、回動方向の切り替え時に心地よい切り替え感を与えることができる。
【0011】
また、本発明の可動機構は、前記凸部、前記第1係合部及び前記第2係合部は、前記カム部に設けられた連続する曲面により形成されていることを特徴とする。
このように構成することで、当接部を第1係合部と第2係合部との間で滑らかに移動させ、保持部を滑らかに回動させることができる。したがって、第1の歯車、第2の歯車及び第3の歯車の回転方向の切り替えを滑らかにし、可動部の回動方向の切り替えを滑らかにすることができる。
【0012】
また、本発明の電子機器は、上記のいずれかの可動機構を備えている。
このように構成することで、可動部に電子機器の操作パネルを設け、可動部を電子機器の本体部から引き出すように回動させることができる。また、可動部を本体部に対して所望の角度で保持して操作することが可能になる。また、操作終了後には、可動部が邪魔にならないように、可動部を本体部に対して閉じるように回動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における印刷装置の斜視図である。
【図2】図1に示す印刷装置の可動操作パネルの分解斜視図である。
【図3】図2に示す可動操作パネルの側面図である。
【図4】図2に示す可動操作パネルが回動した状態を示す側面図である。
【図5】図2に示す可動操作パネルが回動した状態を示す斜視図である。
【図6】図2に示す可動操作パネルが回動した状態を示す側面図である。
【図7】図2に示す可動操作パネルが回動した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の読取装置及び読取方法の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態の可動パネルを備えたプリンターの斜視図である。
図1に示すように、プリンター(印刷装置、電子機器)100は、プリンター本体101と、印刷用紙を収容する給紙トレイ102と、給紙トレイ102に収容された印刷用紙を搬送する不図示の給紙部と、給紙部により搬送された印刷用紙に印刷処理を行う不図示の印刷部と、印刷部によって印刷された印刷用紙を排紙する不図示の排紙部と、排紙部によって排紙された印刷用紙を載置する排紙トレイ103と、プリンター本体101に設けられた可動パネル(可動機構)104と、を有している。
【0015】
プリンター本体101は、例えば金属からなる構造部材や、樹脂材料からなるパネル部材等により、筐体状に形成されている。
給紙部は、プリンター本体101の内部に収容され、例えば複数の搬送ローラーと、複数の従動ローラーと、ガイド部材と、を有している。給紙部は、搬送ローラーと従動ローラーにより印刷用紙を挟持した状態で、搬送ローラーを回転させることで、印刷用紙をガイド部材に沿って、給紙トレイ102から印刷部へと搬送するようになっている。
【0016】
印刷部は、例えばインクの液滴を印刷用紙の所定の位置に吐出する液滴吐出ヘッドと、複数の液滴吐出ヘッドを保持するキャリッジと、キャリッジを印刷用紙の搬送方向と直交する方向に駆動させる駆動部と、を有している。印刷部は、駆動部によりキャリッジを駆動させて液滴吐出ヘッドのノズルを所定の位置に配置し、給紙部によって給紙された印刷用紙に対して液滴吐出ヘッドのノズルからインクの液滴を吐出させることで、印刷用紙に対して印刷処理を行うようになっている。
【0017】
排紙部は、例えば排紙ローラーと、ギザローラーと、従動ローラーとを有している。排紙部は、給紙部によって搬送され、印刷部によって印刷処理が施された印刷用紙を、ギザローラーと従動ローラーによって挟持する。また、印刷用紙を、排紙ローラーと従動ローラーとの間に挟持した状態で、排紙ローラーを回転させることで、印刷処理が施された印刷用紙を排紙トレイ103に排紙するようになっている。
【0018】
排紙トレイ103は、プリンター本体101から前面側に突出するように引き出せるようになっており、排紙部によって排紙された複数の印刷用紙を積載することができるようになっている。また、排紙トレイ103は、印刷処理の終了後は、図1に示すように、プリンター本体101に収容することができるようになっている。
【0019】
可動パネル104は、操作用の表示部104aや、複数の操作ボタン104bが設けられたパネル部(可動部)1を備えている。パネル部1は、プリンター本体101に対して回動可能に設けられると共に、操作時にプリンター本体101に対して所定の角度を保持するための所定の回動抵抗が付与されるようになっている。
【0020】
以下、本実施形態のプリンター100が備える可動パネル104について、図2〜図7を用いて詳細に説明する。なお、図2〜図7では、可動パネル104の動作を分かりやすくするために、パネル部1の寸法を、図1に示すパネル部1の寸法と異ならせている。また、図1に示すパネル部1に設けられた表示部104aや操作ボタン104bは、適宜省略して表している。
【0021】
図2は、図1に示すプリンター100が備える可動パネル104の斜視図である。図3は、図2に示す可動パネル104の側面図である。
図2及び図3に示すように、可動パネル104は、図1に示すプリンター本体101に一体的に組み付けられる本体部2及び支持部3と、本体部2及び支持部3に対して回動可能に設けられたパネル部1とを備えている。
【0022】
本体部2は、略直方体の箱状の部材であり、内部にパネル歯車4、複合歯車(第1の歯車)5、歯車切替部6を備えている。支持部3は、長方形の板状の部材であり、本体部2に対向して配置されている。
パネル部1は、内部に電子基板や配線等を備え、前面に操作用の表示部104a(図1参照)や複数の操作ボタン104bが設けられている。パネル部1の上端部には、パネル回転軸(可動部回転軸)4aが固定されている。
【0023】
パネル回転軸4aは、パネル部1の両側に突出するように設けられ、端部が本体部2及び支持部3によって回転可能に支持されている。これにより、パネル部1は、パネル回転軸4aを中心として本体部2に対して回動可能に設けられている。パネル回転軸4aの一端には、パネル歯車4が設けられている。
パネル歯車4は、パネル回転軸4aに固定され、パネル回転軸4aと一体的に回転するようになっている。パネル歯車4は、隣接して配置された複合歯車5と噛合している。
【0024】
複合歯車5は、本体部2によって回転可能に支持された回転軸5aに固定され、回転可能に設けられている。複合歯車5は、回転軸5a方向のパネル部1側に、パネル歯車4と噛合する小歯車(図示省略)を備えている。これにより、複合歯車5は、パネル回転軸4aの回転に応じて回転するようになっている。また、複合歯車5は、回転軸5a方向のパネル部1と反対側に、小歯車よりも径が大きい大歯車5bを備えている。複合歯車5の大歯車5bは、保持部9に保持された右回転歯車(第2の歯車)7及び左回転歯車(第3の歯車)8の少なくとも一方と噛合するようになっている。
【0025】
歯車切替部6は、互いに噛合する右回転歯車7と左回転歯車8とを保持する保持部9を備えている。保持部9は、右回転歯車7の回転軸7aと左回転歯車8の回転軸8aをそれぞれ回転可能に支持している。保持部9が保持する右回転歯車7と左回転歯車8との間には、保持部回転軸9aが設けられている。保持部回転軸9aは、本体部2に回転可能に支持されている。これにより、保持部9は、互いに噛合する右回転歯車7と左回転歯車8とを回転可能に保持した状態で、保持部回転軸9aを中心として回動するようになっている。
【0026】
右回転歯車7の回転軸7aには、右回転歯車7の回転時に所定の回転抵抗を付与する不図示のトルクリミッターが設けられている。左回転歯車8の回転軸8aには、不図示の一方向クラッチ(回転規制部)が設けられている。一方向クラッチは、例えば巻きバネ式のものが用いられ、図3に示す側面視で左回転歯車8の左回転を許容し、左回転歯車8の右回転を規制するようになっている。これにより、一方向クラッチは、左回転歯車8と噛合する右回転歯車7の右回転を許容し、右回転歯車7の左回転を規制するようになっている。
【0027】
また、歯車切替部6は、保持部9の回動時に回動抵抗を付与する回動抵抗付与部10を備えている。回動抵抗付与部10は、保持部9に設けられたカム部11と、カム部11に付勢力を作用させる付勢力発生部12とを有している。
【0028】
カム部11は、保持部9の付勢力発生部12側に固定され、付勢力発生部12側の面に凹状に形成された第1係合部11a及び第2係合部11bとを備えている。また、これらの間に付勢力発生部12側に突出して形成された凸部11cを有している。第1係合部11a及び第2係合部11bは、後述する当接部12aが係合するように設けられている。
【0029】
ここで、第1係合部11aは、当接部12aとの係合時に、保持部9の位置を保持し、複合歯車5の大歯車5bと左回転歯車8とを噛合させる位置に設けられている。また、第2係合部11bは、当接部12aとの係合時に、保持部9の位置を保持し、複合歯車5の大歯車5bと右回転歯車7とを噛合させる位置に設けられている。これら第1係合部11a、凸部11c、及び第2係合部11bは、カム部11の付勢力発生部12側に設けられた連続する曲面によって形成されている。
【0030】
付勢力発生部12は、カム部11と当接する当接部12aと、当接部12aをカム部11に向けて付勢する付勢部12bとを有している。当接部12aは、先端部が先細状に設けられ、カム部11の第1係合部11a及び第2係合部11bと係合するように設けられている。付勢部12bは、固定部材12cにより本体部2に固定され、内部に不図示のコイルバネ等の付勢部材を備えている。付勢部12bは、内部に配置された付勢部材により、当接部12aをカム部11に向けて付勢するようになっている。これにより、当接部12aは、カム部11に対して付勢された状態で、カム部11と当接するようになっている。
【0031】
次に、本実施形態の可動パネル104の作用を説明すると共に、可動パネル104を備えたプリンター100の作用について説明する。
図4は、図2及び図3に示す閉じた状態の可動パネル104のパネル部1を、本体部2に対して所定の角度、回動させた状態を示す側面図である。図5は、図2及び図3に示す閉じた状態の可動パネル104のパネル部1を、本体部2に対してより大きな角度で回動させた状態を示す斜視図である。図6は、図5に示す状態の可動パネル104の側面図である。
【0032】
図1に示すプリンター100において、プリンター本体101に閉じた状態で収納されているパネル部1を操作する際に、プリンター本体101に対するパネル部1の角度を所望の角度に回動させて固定する場合には、パネル部1の下端部を保持して、プリンター本体101から引き出すように回動させる。
【0033】
図2及び図3に示すように、可動パネル104のパネル部1が、プリンター本体101に対して閉じた状態で、本体部2と支持部3の内側に収容されている状態では、歯車切替部6は、カム部11の第2係合部11bに当接部12aが係合し、保持部9が右回転歯車7を複合歯車5の大歯車5bと噛合させるように回動した状態になっている。この状態で、パネル部1の下端部を保持して本体部2(プリンター本体101)から引き出すように左回りに回動させようとすると(図3の矢印A1参照)、パネル回転軸4aがパネル部1の左回りの回動に応じて左回転しようとする。これにより、パネル歯車4が左回転しようとする(図3の矢印A2参照)。
【0034】
すると、パネル歯車4と噛合する複合歯車5が、右回転しようとする(図3の矢印A3参照)。このとき、複合歯車5は、右回転歯車7と噛合し、左回転歯車8から離間している。そのため、右回転歯車7は、複合歯車5の右回転により、左回転しようとする。しかし、右回転歯車7の左回転は、左回転歯車8の回転軸8aに設けられた一方向クラッチによって規制されている。そのため、右回転歯車7は左回転せず、複合歯車5の右回転によって、保持部9に保持部回転軸9aを中心として左回りに回動させようとするトルクが作用する(図3の矢印A4参照)。
【0035】
すると、当接部12aには、カム部11の凸部11cによって付勢部12b側に押し込まれるような力が作用する。すなわち、当接部12aからカム部11に作用する付勢力が、回動抵抗付与部10が保持部9に付与する回動抵抗の発生源となる。ここで、回動抵抗付与部10が保持部9に付与する回動抵抗は、凸部11cの頂点で最大となる。したがって、保持部9を左回りに回動させようとするトルクが増加してくと、当接部12aはカム部11の第2係合部11bから凸部11cの頂点に向けて、カム部11に沿って移動していく。
【0036】
保持部9を左回りに回動させようとするトルクが、回動抵抗付与部10が保持部9に付与する回動抵抗を超えると、当接部12aが凸部11cの頂点を越えて、図4に示すように、第1係合部11aと係合する。このとき、パネル部1が左回りに回動し(図3の矢印A1参照)、パネル歯車4が左回りに回転し(図3の矢印A2参照)、複合歯車5が右回りに回転し(図3の矢印A3参照)、保持部9が保持部回転軸9aを中心として左回りに回動する(図3の矢印A4参照)。その結果、図4に示すように、複合歯車5と右回転歯車7とが離間し、複合歯車5と左回転歯車8とが噛合する。
【0037】
さらにパネル部1を左回りに回動させると(図4の矢印A5参照)、パネル歯車4が左回転し(図4の矢印A6参照)、複合歯車5が右回転(図4の矢印A7参照)し、左回転歯車8が左回転(図4の矢印A8参照)する。また、左回転歯車8と噛合する右回転歯車7が、右回転する(図4の矢印A9参照)。このとき、左回転歯車8の左回転は、一方向クラッチによって許容され、右回転歯車7の右回転が規制されることはない。
【0038】
また、右回転歯車7に設けられたトルクリミッターは、右回転歯車7の回転時に所定の回転抵抗を付与する。これにより、左回転歯車8と複合歯車5とが噛合した後は、複合歯車5及びパネル歯車4をトルクリミッターによる所定の回転抵抗が付与された状態で回転させることができる。
【0039】
したがって、パネル部1の下端部を保持して本体部2(プリンター本体101)から引き出すように回動させる場合には、まず、回動抵抗付与部10の回動抵抗よりも大きなトルクを保持部9に発生させる所定の力をパネル部1に付与する。その後、パネル部1を保持して、トルクリミッターが付与する回転抵抗よりも大きなトルクを発生させる所定の力を付与することで、パネル部1を本体部2から引き出すように回動させることができる。
【0040】
図4に示すように、パネル部1を本体部2から引き出すように回動させ、図5に示すように、本体部2に対して任意の角度でパネル部1を停止させると、複合歯車5は、左回転歯車8と噛合し、右回転歯車7と離間した状態になっている。この状態でパネル部1の操作ボタン104bを操作すると、パネル部1を本体部2に向けて閉じるように回動させようとするトルクが作用する(図6の矢印A10参照)。
【0041】
すると、パネル回転軸4aに固定されたパネル歯車4は、右回転しようとする(図6の矢印A11参照)。また、パネル歯車4と噛合する複合歯車5は、パネル歯車4の右回転により、左回転しようとする(図6の矢印A12参照)。また、複合歯車5と噛合する左回転歯車8は、複合歯車5の左回転により、右回転しようとする。しかし、左回転歯車8の右回転は、一方向クラッチによって規制されている。
【0042】
そのため、左回転歯車8は回転せず、複合歯車5の左回転によって、保持部9に保持部回転軸9aを中心として右回りに回動させようとするトルクが作用する(図6の矢印A13参照)。このとき、カム部11の第1係合部11aに当接部12aが係合し、付勢部12bにより当接部12aがカム部11に向けて付勢されている。これにより、回動抵抗付与部10は、保持部9に対して回動抵抗を付与している。そのため、回動抵抗付与部10により付与される回動抵抗を超えるトルクを発生させない範囲の所定の力でパネル部1の操作ボタン104b等を操作することで、パネル部1を本体部2に対して任意の角度で保持したまま、パネル部1の操作ボタン104b等を操作することできる。
【0043】
したがって、本実施形態の可動パネル104によれば、パネル部1の操作時に、パネル部1に所定の回動抵抗が付与され、パネル部1を本体部2に対して任意の角度で保持したまま、パネル部1の前面に設けられた操作ボタン104b等を操作することできる。
【0044】
パネル部1の操作終了後、パネル部1を本体部2に対して閉じるように回動させ、パネル部1をプリンター本体101に収容する場合には、パネル部1に対して、回動抵抗付与部10により付与される回動抵抗を超えるトルクを保持部9に発生させる力を付与する。これにより保持部9を右回りに回動させようとするトルクが増加してくと、当接部12aはカム部11の第1係合部11aから凸部11cの頂点に向けて、カム部11に沿って移動していく。
【0045】
保持部9を右回りに回動させようとするトルクが、回動抵抗付与部10が保持部9に付与する回動抵抗を超えると、当接部12aが凸部11cの頂点を越えて、図7に示すように、第2係合部11bと係合する。このとき、保持部9が保持部回転軸9aを中心として右回りに回動し(図6の矢印A13参照)、図7に示すように、複合歯車5と左回転歯車8とが離間し、複合歯車5と右回転歯車7とが噛合する。
【0046】
さらにパネル部1を右回りに回動させると(図7の矢印A14参照)、パネル歯車4が右回転し(図7の矢印A15参照)、複合歯車5が左回転し(図7の矢印A16参照)、右回転歯車7が右回転する(図7の矢印A17参照)。また、右回転歯車7と噛合する左回転歯車8が、左回転する(図7の矢印A18参照)。このとき、左回転歯車8の左回転は、一方向クラッチによって許容され、右回転歯車7の右回転が規制されることはない。
【0047】
また、右回転歯車7に設けられたトルクリミッターは、右回転歯車7の回転時に所定の回転抵抗を付与する。これにより、右回転歯車7と複合歯車5とが噛合した後は、複合歯車5及びパネル歯車4をトルクリミッターによる所定の回転抵抗が付与された状態で回転させることができる。
【0048】
したがって、パネル部1の操作後、パネル部1を本体部2(プリンター本体101)に向けて閉じるように回動させる場合には、まず、パネル部1に対して回動抵抗付与部10の回動抵抗よりも大きなトルクを保持部9に発生させる所定の力を付与する。その後、パネル部1に対して、トルクリミッターが付与する回転抵抗よりも大きなトルクを発生させる力を付与することで、パネル部1を本体部2に向けて閉じるように回動させることができる。
【0049】
本実施形態の可動パネル104は、回動抵抗付与部10が、カム部11と、カム部11に対して当接部12aを付勢した状態で当接させる付勢部12bとを有している。したがって、カム部11に作用する当接部12aの付勢力により、保持部9に所定の回動抵抗を付与することができる。
【0050】
また、カム部11の第1係合部11aは、当接部12aとの係合時に複合歯車5と左回転歯車8とを噛合させる位置に設けられている。また、カム部11の第2係合部11bは、当接部12aとの係合時に複合歯車5と右回転歯車7を噛合させる位置に設けられている。そのため、当接部12aを第1係合部11aに係合させたときに、複合歯車5と右回転歯車7とを安定した状態で噛合させることができる。同様に、当接部12aを第2係合部11bに係合させたときに、複合歯車5と左回転歯車8とを安定した状態で噛合させることができる。
【0051】
また、カム部11は、第1係合部11aと第2係合部11bとの間に、当接部12aに向けて突出した凸部11cを有している。そのため、保持部9を回動させようとするトルクが、回動抵抗付与部10が保持部9に付与する回動抵抗を超えると、当接部12aが凸部11cの頂点を越えて、第1係合部11aと第2係合部11bとの間を移動する。これにより、パネル部1の回動方向を切り替えて、第1係合部11aと当接部12aとの係合と、第2係合部11bと当接部12aとの係合と、を切り替える際に、回動抵抗付与部10が保持部9に付与する回動抵抗をステップ的に変化させることができる。これにより、パネル部1を回動させる操作者に対して、回動方向の切り替え時に心地よい切り替え感を与えることができる。
【0052】
また、カム部11の凸部11c、第1係合部11a及び第2係合部11bは、カム部11に設けられた連続する曲面により形成されている。そのため、当接部12aを第1係合部11aと第2係合部11bとの間で滑らかに移動させ、保持部9を滑らかに回動させることができる。したがって、複合歯車5、右回転歯車7及び左回転歯車8の回転方向の切り替えを滑らかにし、パネル部1の回動方向の切り替えを滑らかにすることができる。
【0053】
また、図1に示すように、プリンター100は、上記の可動パネル104を備えている。そのため、パネル部1にプリンター100を操作するための表示部104aや操作ボタン104b等を設け、パネル部1をプリンター本体101から引き出すように回動させ、パネル部1の操作性を向上させることができる。また、パネル部1をプリンター本体101に対して所望の角度で保持して操作することが可能になる。また、操作終了後には、パネル部1が邪魔にならないように、パネル部1をプリンター本体101に対して閉じるように回動させることができる。
【0054】
また、パネル部1をプリンター本体101から引き出したところで、パネル部1の操作が可能な程度にロックされ、本体部2側に押し戻す動作でパネル部1のロックが解除される。したがって、従来のように不要に堅固なロックをしないため、パネル部1のロック機構の破損が防止できる。
【0055】
尚、この発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、電子機器は、上述の実施形態で説明したプリンターに限られず、例えばノート型パソコン、PDA、ゲーム機、その他各種OA機器等に適用することができる。
また、上述の実施形態では、プリンターのパネル部を可動部とする可動機構を例に挙げて説明したが、本発明の可動部はこれに限定されない。本発明の可動機構は、例えばプリンターのカバーやスキャナーのカバー等、ヒンジ部等により片持ち状に開閉可能に設けられる部材に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 パネル部(可動部)、2 本体部、4a パネル回転軸(可動部回転軸)、5 複合歯車(第1の歯車)、7 右回転歯車(第2の歯車)、8 左回転歯車(第3の歯車)、9 保持部、9a 保持部回転軸、10 回動抵抗付与部、11 カム部、11a 第1係合部、11b 第2係合部、11c 凸部、12a 当接部、100 プリンター(電子機器)、104 可動パネル(可動機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部に対して回動可能に設けられると共に、操作時に所定の回動抵抗が付与される可動部を備えた可動機構であって、
前記可動部に固定され、前記本体部に回転可能に支持される可動部回転軸と、
前記可動部回転軸の回転に応じて回転する第1の歯車と、
互いに噛合する第2の歯車及び第3の歯車を回転可能に保持すると共に、前記本体部に支持された保持部回転軸に回動可能に支持され、前記第2の歯車と前記第3の歯車の少なくとも一方を前記第1の歯車と噛合させるように配置された保持部と、
前記第2の歯車の第1の方向の回転を許容し、前記第2の歯車の前記第1の方向と反対の第2の方向の回転を規制する回転規制部と、
前記保持部の回動時に回動抵抗を付与する回動抵抗付与部と、
を有し、
前記第1の歯車と前記第2の歯車との噛合時に、前記第1の歯車が前記第1の方向に前記回動抵抗を超えるトルクで回転すると、前記保持部が前記第2の方向に回動し、前記第3の歯車が前記第1の歯車と噛合して前記第2の方向に回転すると共に、前記第2の歯車が前記第1の歯車と離間して前記第1の方向に回転し、
前記第1の歯車と前記第3の歯車との噛合時に、前記第1の歯車が前記第2の方向に前記回動抵抗を超えるトルクで回転すると、前記保持部が前記第1の方向に回動し、前記第2の歯車が前記第1の歯車と噛合して前記第1の方向に回転すると共に、前記第3の歯車が前記第1の歯車と離間して前記第2の方向に回転することを特徴とする可動機構。
【請求項2】
前記回動抵抗付与部は、前記保持部に設けられたカム部と、前記カム部に向けて付勢された状態で前記カム部と当接する当接部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の可動機構。
【請求項3】
前記カム部は、前記当接部が係合する第1係合部と第2係合部とを有し、
前記第1係合部は、前記当接部との係合時に前記第1の歯車と前記第2の歯車を噛合させる位置に設けられ、
前記第2係合部は、前記当接部との係合時に前記第1の歯車と前記第2の歯車を噛合させる位置に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の可動機構。
【請求項4】
前記カム部は、前記第1係合部と前記第2係合部との間に、前記当接部に向けて突出した凸部を有していることを特徴とする請求項3に記載の可動機構。
【請求項5】
前記凸部、前記第1係合部及び前記第2係合部は、前記カム部に設けられた連続する曲面により形成されていることを特徴とする請求項4に記載の可動機構。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の可動機構を備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−155100(P2011−155100A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15125(P2010−15125)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】