説明

可変容量型斜板式液圧ポンプ

【課題】容量制御弁を個別にポンプ外部に設けることなく斜板の傾転制御を行うことができる可変容量型斜板式液圧ポンプの提供。
【解決手段】本発明は、最大傾転と最小傾転との間で傾転可能な斜板14と、互いに回転軸15を挟むように配置され、斜板14を傾転駆動させる傾転アクチュエータ24A,24Bと、傾転アクチュエータ24A,24Bの駆動によって傾転した斜板14の傾転角を傾転アクチュエータ24Aの駆動制御にフィードバックするフィードバック手段とを備え、傾転アクチュエータ24A,24Bのそれぞれが、斜板14に当接し摺動可能に設けられた傾転制御ピストン17,16を有する可変容量型斜板式油圧ポンプ1にあって、傾転アクチュエータ24Aから傾転アクチュエータ24Bに対し、傾転アクチュエータ24Bの傾転制御ピストン16を摺動させる制御圧を給排する制御圧給排手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械に備えられる可変容量型斜板式液圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
傾転アクチュエータで斜板を傾転駆動することにより、油圧ポンプ等の液圧ポンプの吐出容量を可変させる可変容量型斜板式液圧ポンプは良く知られている。この種の従来の可変容量型斜板式液圧ポンプが特許文献1に示されている。この特許文献1に示される従来の可変容量型斜板式油圧ポンプを、図10及び図11を参照して説明する。
【0003】
図10において、31はケーシングで、このケーシング31は、一端側が閉塞端32Aとなり、他端側が開口端32Bとなった段付筒状のケーシング本体32と、このケーシング本体32の開口端32B側を閉塞したフロントケーシング、すなわち蓋体33とから構成されている。また、ケーシング本体32の長さ方向中間部にはシリンダブロック35が収容される収容穴32Cが形成されている。この収容穴32Cの径方向外側には、傾転アクチュエータ44,45のシリンダ44A、45Aが形成されている。
【0004】
34はケーシング31内に軸受等を介して回転可能に設けられた回転軸で、この回転軸34は一端側がケーシング本体32の閉塞端32A側に回転可能に取付けられ、他端側は蓋体33から外部に突出している。回転軸34の突出端34A側にはディーゼルエンジン等の原動機が動力伝達機構(いずれも図示せず)を介して連結し、これによって回転軸34は外部から回転駆動される。
【0005】
前述のシリンダブロック35は、ケーシング本体32の収容穴32C内に回転軸34を介して設けられている。このシリンダブロック35はケーシング31内で回転軸34の外周側にスプライン結合され、回転軸34と一体に回転駆動される。また、このシリンダブロック35には、軸方向に延びる複数のシリンダ36(1本のみ図示)が回転軸34の周囲に穿設され、これらのシリンダ36の一端側は後述の切換弁板37に摺接する。
【0006】
切換弁板37は、シリンダブロック35と摺接するようにケーシング本体32の閉塞端32A側に固着されている。この切換弁板37には眉形状をなす一対の給排ポート37A、37Bが形成され、これらの給排ポート37A、37B間には切換弁板37の中心側に回転軸34の軸挿通穴37Cが穿設されている。38A、38Bはケーシング本体32の閉塞端32A側に形成された一対の給排通路を示している。これらの給排通路38A、38Bは切換弁板37の給排ポート37A、37Bに連通し、シリンダブロック35の回転に伴って後述するタンク47(図11参照)内の作動油を各シリンダ36内に吸入させると共に、各シリンダ36内で加圧された圧油を外部に吐出させる。
【0007】
39はシリンダブロック35の各シリンダ36内に摺動可能に挿嵌されたピストンで、これらのピストン39はシリンダブロック35の回転に伴って各シリンダ36内を往復動し、切換弁板37側から各シリンダ36内に作動油を吸い込ませつつ、これを各シリンダ36内で高圧の圧油に加圧するものである。また、各シリンダ36から突出する各ピストン39の端部にはシュー40がそれぞれ揺動可能に装着され、これらのシュー40は環状のシュー押え41等により斜板42側に向けて押圧されている。ここで、各シリンダ36内を往復動する各ピストン39は、図10に示すように回転軸34の上側となる位置で下死点位置となり、下側に位置したときには上死点位置となる。そして、シリンダブロック35が1回転する間に、各ピストン39は各シリンダ36内を上死点から下死点に向けて摺動変位する吸込行程と、下死点から上死点に向けて摺動変位する吐出行程とを繰返すことになる。
【0008】
すなわち、シリンダブロック35の半回転分に相当するピストン39の吸込行程では、給排通路38A、38Bのうち、例えば吸込側となる給排通路38A側から切換弁板37の給排ポート37Aを通じて各シリンダ36内に作動油を吸入させる。また、シリンダブロック35の残りの半回転分に相当するピストン39の吐出行程では、各ピストン39が各シリンダ36内に押込まれるようになり、吸込行程で各シリンダ36内に吸入した作動油を加圧する。そして、各シリンダ36内で加圧された作動油は高圧の圧油となって、例えば切換弁板37の給排ポート37B側から給排通路38Bを通じて外部へと吐出されるものである。
【0009】
前述した斜板42は、ケーシング31の蓋体33側に傾転可能に設けられ、一側(表面側)が、各シュー40を摺動可能に案内する平滑面42Aとなり、その中央部には回転軸34用の軸挿通穴42Bが穿設されている。この斜板42には、軸挿通穴42Bの左、右両側に一対の脚部42C(一方のみ図示)が形成され、これらの脚部42Cの表面側は平滑面42Aの一部を構成している。また、各脚部42Cの裏面側は後述の傾転支持部材43側に向けて突出する凸湾曲面42Dとなり、これらの凸湾曲面42Dは一定の曲率半径をもって形成されている。
【0010】
前述した傾転支持部材43は、斜板42の裏面側に位置するようにケーシング31の蓋体33に設けられ、耐摩耗性の高い材料により形成されており、その中心側には回転軸34が挿通される軸挿通穴43Aを有している。また、傾転支持部材43には、軸挿通穴43Aの左、右両側に一対の凹湾曲面部43B(一方のみ図示)が設けられ、これらの凹湾曲面部43Bは斜板42の凸湾曲面42Dに対応して一定の曲率半径をもった円弧面として形成されている。ここで、傾転支持部材43の各凹湾曲面部43B内には斜板42の各脚部42Cが凸湾曲面42Dを介して摺動可能に嵌合され、これにより斜板42は図10中の矢示A,B方向に傾転される。
【0011】
そして、斜板42は矢示A方向に傾転駆動されるときに傾転角が大きくなり、これによって各シリンダ36に対する各ピストン39のストローク量を長くし、ポンプ容量(圧油の吐出量)を増大させる。また、斜板42の傾転角を小さくするために矢示B方向に傾転駆動したときには、各シリンダ36に対する各ピストン39のストローク量が短くなり、これによって、ポンプ容量は減少される。
【0012】
44、45は斜板42を傾転駆動する傾転アクチュエータで、これらの傾転アクチュエータ44、45は、斜板42の傾転方向でシリンダブロック35を径方向外側から挟むように位置している。これらの傾転アクチュエータ44,45は、ケーシング本体32に形成されたシリンダ44A、45Aと、これらのシリンダ44A、45A内に摺動可能に挿嵌され、シリンダ44A、45Aから突出する端部が球形状をなした傾転制御ピストン44B、45Bとから大略構成されている。また、傾転アクチュエータ44、45には図10に示すようにシリンダ44A、45Aと傾転制御ピストン44B、45Bと間に制御圧室44C、45Cが形成されている。これらの制御圧室44C、45Cに、図11に示す容量制御弁51を通じて制御圧が給排されることにより、傾転制御ピストン44B、45Bがシリンダ44A、45Aから斜板42側に向けて進退する。
【0013】
この場合、傾転制御ピストン45B(シリンダ45A)は、傾転制御ピストン44B(シリンダ44A)よりも大径に形成され、その受圧面積差分だけ傾転制御ピストン45Bは、傾転制御ピストン44Bよりも大なる傾転駆動力を発生させる構成となっている。さらに、傾転制御ピストン44B、45Bはシリンダブロック35を径方向外側から挟むように斜板42の表面側に配設され、その球形状をなす端部は斜板42に常時当接している。そして、傾転制御ピストン44B、45Bは、制御圧室44C、45C内に給排される制御圧に応じて斜板42を図10中の矢示A、B方向に傾転駆動する。
【0014】
図11に示す46は、制御圧の発生源となるパイロットポンプで、このパイロットポンプ46は、タンク47内の作動油を吸込んで制御管路48内に制御圧を供給する。また、制御管路48の途中部位には分岐管路49が設けられ、この分岐管路49は傾転アクチュエータ44の制御圧室44Cを制御管路48を通じてパイロットポンプ46に接続させる。同図11に示す50は、傾転アクチュエータ45の制御圧室45Cに接続された他の制御管路、51は制御管路48、50間に設けた前述の容量制御弁で、この容量制御弁51は、例えば3ポート3位置の油圧パイロット式サーボ弁等により構成され、油圧パイロット部51Aに供給される傾転制御用のパイロット圧に応じて中立位置(イ)から切換位置(ロ)、(ハ)に切換制御される。さらに、52は容量制御弁51の制御スリーブ51Cと斜板42との間に設けられ、傾転アクチュエータ44,45の駆動によって傾転した斜板42の傾転角を傾転アクチュエータ44,45の駆動制御にフィードバックするフィードバック手段、すなわちフィードバックリンクである。このフィードバックリンク52は、斜板42の傾転動作に追従して制御スリーブ51Cを摺動変位させ、容量制御弁51のフィードバック制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−220569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述した従来技術では、傾転アクチュエータ44,45を動作させるために容量制御弁51を設ける必要があり、また傾転角を容量制御弁51にフィードバックするフィードバックリンク52を設ける必要がある。容量制御弁51は別体にてポンプ外部に設けることが多いため、ポンプ全体としてのサイズが大きくなりやすい。
【0017】
なお前述した従来技術では、フィードバックリンク52が必要になるため、部品点数が多くなる傾向がある。フィードバックリンク52は、斜板42の傾転角を精度良く伝達するだけでなく、耐久性にも優れている必要があるため高い信頼性が必要となっている。
【0018】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、容量制御弁を個別にポンプ外部に設けることなく斜板の傾転制御を行うことができる可変容量型斜板式液圧ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的を達成するために、本発明は、ケーシングと、前記ケーシングに回転可能に支持された回転軸と、前記ケーシング内に前記回転軸と一体的に回転するように設けられ、複数のシリンダが穿設されたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの各シリンダに往復動可能に嵌挿された複数のピストンと、前記各ピストンの往復運動を前記シリンダブロックの回転運動に変換し、前記ケーシングの底部と対面して設けられ表面側が前記ピストンが摺動する平滑面となり最大傾転位置と最小傾転位置との間で傾転可能な斜板と、前記斜板を傾転駆動させる傾転アクチュエータと、前記ケーシングと前記シリンダブロックが摺動しつつ回転するとき前記各シリンダと間欠的に連通する一対の給排ポートが穿設された弁板と、前記傾転アクチュエータの駆動によって傾転した前記斜板の傾転角を前記傾転アクチュエータの駆動制御にフィードバックするフィードバック手段とを備え、前記傾転アクチュエータは、互いに前記回転軸を挟むように配置される一方の傾転アクチュエータと他方の傾転アクチュエータから成り、これらの傾転アクチュエータのそれぞれは、端部が前記斜板に当接し摺動可能に設けられた傾転制御ピストンを有する可変容量型斜板式液圧ポンプにおいて、前記一方の傾転アクチュエータから前記他方の傾転アクチュエータに対し、この他方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンを摺動させる制御圧を給排する制御圧給排手段を備えたことを特徴としている。
【0020】
このように構成した本発明は、一方の傾転アクチュエータを駆動させた際に、制御圧給排手段を介して、一方の傾転アクチュエータから他方の傾転アクチュエータに対して制御圧が給排され、この制御圧の給排によって他方の傾転アクチュエータの傾転制御ピストンを摺動させ、一方の傾転アクチュエータと他方の傾転アクチュエータの協働によって斜板を一方の傾転アクチュエータの駆動に応じた傾転角に保つことができる。このように本発明は、ケーシングの内部に配置される一方の傾転アクチュエータに従来の容量制御弁の機能を兼ねさせることができる。すなわち本発明は、容量制御弁を個別にポンプ外部に設けることなく斜板の傾転制御を行うことができる。
【0021】
また本発明は、前記発明において、前記一方の傾転アクチュエータは、前記ケーシングに形成され、前記傾転制御ピストンが収容されるシリンダと、このシリンダに収容されるとともに前記ケーシングに固定され、この一方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンを摺動可能に保持するストッパと、前記ケーシングに形成された前記シリンダに収容され、前記ストッパよりも前記斜板から離れるように配置され、前記一方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンを摺動可能に保持し、前記ケーシングに形成された前記シリンダに対し摺動可能なスリーブとを有し、前記制御圧給排手段は、前記一方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンに形成され、前記制御圧を導く第1油路と、前記一方の傾転アクチュエータの前記スリーブに形成され、前記第1油路に選択的に連通する第2油路と、前記ケーシングに形成され、前記第2油路と前記他方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンに連設された制御圧室とを連通させる第3油路を含むことを特徴としている。
【0022】
また本発明は、前記発明において、前記フィードバック手段は、前記斜板から成ることを特徴としている。このように構成した本発明は、一方の傾転アクチュエータに対するフィードバック制御を行うフィードバック手段を、斜板に兼ねさせることができ、従来のようなフィードバックリンクを要することがない。
【0023】
また本発明は、前記発明において、前記一方の傾転アクチュエータは、前記ストッパと前記スリーブとの間に形成されタンクに連通するドレン室と、このドレン室内に配置され、一端が前記ストッパに係止され他端が前記スリーブに係止されるばねと、前記ケーシングに形成された前記シリンダの底部とこのケーシングに形成された前記シリンダの底部に対向する前記スリーブの端面との間に形成され、前記スリーブを摺動させる指令圧が与えられる制御圧室とを有することを特徴としている。
【0024】
また本発明は前記発明において、前記一方の傾転アクチュエータは、前記前記ケーシングに形成された前記シリンダの底部とこのケーシングに形成された前記シリンダの底部に対向する前記スリーブの端面との間に形成され、タンクに連通するドレン室と、このドレン室に配置され、一端が前記スリーブの端面に係止され他端が前記ケーシングに形成された前記シリンダの底部に係止されるばねと、前記ストッパと前記スリーブとの間に形成され、前記スリーブを摺動させる指令圧が与えられる制御圧室とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、一方の傾転アクチュエータに従来の容量制御弁の機能を兼ねさせることができ、容量制御弁を個別にポンプ外部に設けることなく斜板の傾転制御を行うことができる。これにより従来よりもポンプを小型にすることができる。また、個別に設けられる容量制御弁を要することがないので、従来に比べて部品点数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る可変容量型斜板式液圧ポンプの一実施形態を示す要部断面図である。
【図2】本実施形態の要部構成を示す図である。
【図3】本実施形態の動作を示す図で、図2に示す状態から傾転角を大きくする際の動作を示す図である。
【図4】図3に示す状態から指定の傾転角例えば最大傾転角に落ち着いた状態を示す図である。
【図5】図4に対応する最大傾転角に保たれた状態の本実施形態を示す要部断面図である。
【図6】本実施形態の動作を示す図で、図4,5に示す状態から傾転角を小さくする際の動作を示す図である。
【図7】最小傾転角に保たれた状態の本実施形態を示す要部断面図である。
【図8】本実施形態で得られる特性を示す図である。
【図9】別の実施形態で得られる特性を示す図である。
【図10】従来の可変容量型斜板式液圧ポンプを示す要部断面図である。
【図11】図10に示す可変容量型斜板式液圧ポンプに備えられる傾転制御機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る可変容量型斜板式液圧ポンプの実施の形態を図に基づいて説明する。
【0028】
[本実施形態の構成]
図1は本発明に係る可変容量型斜板式液圧ポンプの一実施形態を示す要部断面図、図2は本実施形態の要部構成を示す図である。
【0029】
本発明に係る可変容量型斜板式液圧ポンプは、例えば図1に示す可変容量型斜板式油圧ポンプ1から成っている。この油圧ポンプ1は、外殻を形成するケーシング2を備えており、このケーシング2は、一端側が閉塞端となり、他端側が開口端となった段付筒状のケーシング本体2Aと、このケーシング本体2Aの開口端側を閉塞したフロントケーシング、すなわち蓋体2Bとから構成されている。同図1中、5はケーシング2内に軸受等を介して回転可能に設けられた回転軸で、この回転軸5は一端側がケーシング本体2A内に設けられた軸受3及び蓋体2B内に設けられた軸受4によって回転可能に支持されている。
【0030】
6はケーシング本体2内に回転軸5を介して設けられたシリンダブロックで、このシリンダブロック6の各シリンダの一端側は切換弁板8に摺接する。切換弁板8は、シリンダブロック6と摺接するようにケーシング本体2の閉塞端2A側に固着され、眉形状をなす一対の給排ポート8A、8Bを有している。9A、9Bはケーシング本体2の閉塞端2A側に形成された一対の給排通路を示している。これらの給排通路9A、9Bは切換弁板8の給排ポート8A、8Bに連通し、シリンダブロック6の回転に伴って後述するタンク10内の作動油をシリンダブロック6の各シリンダ内に吸入させると共に、各シリンダ内で加圧された圧油を外部に吐出させる。シリンダブロック6と回転軸5との間にはブッシング11が配置されている。
【0031】
7はシリンダブロック6の各シリンダ内に摺動可能に挿嵌されたピストンで、これらのピストン7はシリンダブロック6の回転に伴って各シリンダ内を往復動し、切換弁板8側からシリンダブロック6の各シリンダ内に作動油を吸い込ませつつ、これをシリンダブロック6の各シリンダ内で高圧の圧油に加圧する。また、シリンダブロック6の各シリンダから突出する各ピストン7の端部にはシュー12がそれぞれ揺動可能に装着され、該各シュー12は環状のシュー押え13等により斜板14側に向けて押圧されている。
【0032】
斜板14は、ケーシング2の蓋体2B側に傾転可能に設けられ、一側(表面側)が、各シュー12を摺動可能に案内する平滑面となり、蓋体2Bに設けられた傾転支持部材15にて傾転可能に支持される。
【0033】
24A,24Bは、斜板14を最大傾転位置と最小傾転位置との間で傾転駆動させる傾転アクチュエータで、これらの傾転アクチュエータ24A,24Bのそれぞれは、端部が斜板14に当接し摺動可能に設けられる傾転制御ピストン16,17を備えている。傾転制御ピストン16は傾転制御ピストン17よりも大径に形成され、その受圧面積差分だけ傾転制御ピストン17よりも大なる傾転駆動力を発生させる。前述した斜板14は、傾転アクチュエータ24Aの駆動によって傾転した斜板14の傾転角を傾転アクチュエータ24Aの駆動制御にフィードバックするフィードバック手段を構成している。
【0034】
傾転制御ピストン24A,24Bのそれぞれは、ケーシング本体2Aにシリンダブロック6を径方向外側から挟むように形成されるシリンダ18,19を備えている。傾転アクチュエータ24Bの傾転制御ピストン16は、シリンダ18内に摺動可能に挿嵌され、シリンダ18から突出する傾転制御ピストン16の球形状をなした端部が、斜板14に当接する。傾転アクチュエータ24Bは、シリンダ18と傾転制御ピストン16との間に形成される制御圧室20を備えている。この制御圧室20には、後述するように傾転制御ピストン16を制御する制御圧が給排される。
【0035】
傾転アクチュエータ24Aは、図2に示すように、前述した傾転制御ピストン17の他に、ケーシング本体2Aに形成され、傾転制御ピストン17が収容されるシリンダ19と、このシリンダ19に収容されるとともにケーシング本体2Aに形成したねじに螺合し、傾転アクチュエータ24Aの傾転制御ピストン17を摺動可能に保持するストッパ23と、ケーシング本体2Aに形成されたシリンダ19に収容され、ストッパ23よりも斜板14から離れるように配置され、傾転制御ピストン17を摺動可能に保持し、ケーシング本体2Aに形成されたシリンダ19に対し摺動可能なスリーブ22を備えている。また、この傾転アクチュエータ24Aは、ストッパ23とスリーブ22との間に形成され、タンク10に連通するドレン室26と、このドレン室26内に配置され、一端がストッパ23に係止され他端がスリーブ22に係止されるばね25と、シリンダ19の底部とこの底部に対向するスリーブ22の端面との間に形成され、スリーブ22を摺動させる指令圧Piが与えられる制御圧室21とを備えている。ケーシング本体2Aに形成された油路29を介して指令圧Piが制御圧室21に導かれると、スリーブ22がばね25を縮めるようにして摺動する。
【0036】
また、シリンダ19の底部にはシリンダ19の径よりも小さい径のシリンダ27を連通させて形成させてあり、シリンダ27とスリーブ22とストッパ23のそれぞれに、摺動可能に傾転制御ピストン17が挿入されている。シリンダ27の底部と傾転制御ピストン17との間に制御圧室28が形成されており、この制御圧室28には常時サーボ圧Ps、すなわち制御圧が導かれる。
【0037】
本実施形態は、傾転アクチュエータ24Aから傾転アクチュエータ24Bに対し、傾転アクチュエータ24Bの傾転制御ピストン16を摺動させる制御圧を給排する制御圧給排手段を備えている。
【0038】
この制御圧給排手段は、例えば傾転アクチュエータ24Aの傾転制御ピストン17に形成され、制御圧Psを導く第1油路17Aと、傾転アクチュエータ24Aのスリーブ22に形成され、第1油路17Aに選択的に連通する第2油路22Aと、ケーシング本体2Aに形成され、第2油路22Aと傾転アクチュエータ24Bの制御圧室20とを連通させる第3油路30とを含んでいる。
【0039】
[本実施形態の動作]
図3は本実施形態の動作を示す図で、図2に示す状態から傾転角を大きくする際の動作を示す図、図4は図3に示す状態から指定の傾転角例えば最大傾転角に落ち着いた状態を示す図、図5は図4に対応する最大傾転角に保たれた状態の本実施形態を示す要部断面図、図6は本実施形態の動作を示す図で、図4,5に示す状態から傾転角を小さくする際の動作を示す図、図7は最小傾転角に保たれた状態の本実施形態を示す要部断面図である。
【0040】
前述の図2に示した状態では、第1油路17Aと第2油路22Aは遮断されており、かつ第2油路22Aとドレン室26も遮断されている。この状態から、ばね25の力よりも大きな作用力がスリーブ22の端面に発生するような外部指令圧Piを油路29を通じて傾転アクチュエータ24Aの制御圧室21へ導くと、図3に示すように、スリーブ22がばね25を縮める方向へ移動し、スリーブ22への作用力とばね25の力がつりあう位置にて静止し、第2油路22Aとドレン室26が連通し、第3油路30を介して第2油路22Aと常時接続された傾転アクチュエータ24Bの制御圧室20の圧力が低下する。
【0041】
制御圧室28には常時サーボ圧Psが導かれているため、傾転アクチュエータ24Aの傾転制御ピストン17の作用力が傾転アクチュエータ24Bの傾転制御ピストン16の作用力よりも大きくなり、傾転アクチュエータ24Aの傾転制御ピストン17により斜板14は大傾転側に傾転駆動される。傾転制御ピストン17がある位置まで移動すると、図4に示すように、第2油路22Aとドレン室26は遮断され、斜板14を介して伝えられる傾転アクチュエータ24Bの傾転制御ピストン16と傾転アクチュエータ24Aの傾転制御ピストン17の作用力が等しくなったところで静止する。図5は、このようにして例えば最大傾転角に保たれた状態を示している。
【0042】
図4,5に示す状態では、第1油路17Aと第2油路22Aは遮断されており、かつ第2油路22Aとドレン室26も遮断されているが、この状態から外部指令圧Piを減圧させるとスリーブ22への作用力がばね25の力よりも低下し、スリーブ22がばね25により摺動させられる。その結果、図6の状態となり第1油路17Aと第2油路22Aが連通し第1油路17A、第2油路22A、及び第3油路30を介して傾転アクチュエータ24Bの制御圧室20へサーボ圧Psが導かれる。
【0043】
傾転アクチュエータ24Bの制御圧室20と傾転アクチュエータ24Aの制御圧室21の受圧面積差により、傾転アクチュエータ24Bの傾転制御ピストン16への作用力が傾転アクチュエータ24Aの傾転制御ピストン17への作用力よりも大きくなり、斜板14は小傾転側に傾転駆動される。同時に傾転アクチュエータ24Bの傾転制御ピストン17がある位置まで押込められると、第1油路17Aと第2油路22Aが遮断され、斜板14を介して伝えられる傾転アクチュエータ24Bの傾転制御ピストン16と傾転アクチュエータ24Aの傾転制御ピストン17の作用力が等しくなったところで静止する。図7は、このようにして例えば最小傾転角に保たれた状態を示している。
【0044】
本実施形態に係る可変容量型斜板式油圧ポンプ1では、図8に示すように、外部指令圧Piを横軸に、可変容量型ポンプ1の容積を縦軸に取ると、外部指令圧Piの増加に応じてポンプ容積が次第に増加する特性が得られる。
【0045】
このように構成した本実施形態にあっては、指令圧Piを増減させて傾転アクチュエータ24Aを駆動させた際に、制御圧給排手段に含まれる第1油路17A、第2油路22A、及び第3油路30を介して傾転アクチュエータ24Aから傾転アクチュエータ24Bに制御圧が給排される。この制御圧の給排によって傾転アクチュエータ24Bを摺動させ、傾転アクチュエータ24Aと傾転アクチュエータ24Bとの協働によって斜板14を、指令圧Piに基づく傾転アクチュエータ24Aの駆動に応じた傾転角に保つことができる。このように本実施形態は、ケーシング本体24Aの内部に配置される傾転アクチュエータ24Aに従来の容量制御弁の機能を兼ねさせることができる。すなわち本実施形態は、容量制御弁を個別にポンプ外部に設けることなく斜板14の傾転制御を行うことができる。これにより、当該可変容量型斜板式油圧ポンプ1の小型化を実現させることができる。また、容量制御弁を個別に要することがないので、部品点数を削減することができる。
【0046】
なお、前述した実施形態では、傾転アクチュエータ24Aが、ストッパ23とスリーブ22との間に設けられるドレン室26を有し、このドレン室26内にばね25を有する構成にしてあるが、本発明は、このように構成することには限られない。すなわち、傾転アクチュエータ24Aを、ケーシング本体2Aに形成されたシリンダ19の底部とこの底部に対向するスリーブ22の端面間に形成され、タンク10に連通するドレン室と、このドレン室に配置され、一端がスリーブ22の端面に係止され他端がシリンダ19の底部に係止されるばねと、ストッパ23とスリーブ22との間に形成され、スリーブ22を摺動させる指令圧Piが与えられる制御圧室とを有する構成にしてもよい。
【0047】
このように構成したものは、指令圧Pi−ポンプ容積特性が、図9に示すように、外部指令圧Piの減少に応じてポンプ容積が次第に増加する特性となるものの、前述した第1実施形態と同等の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 可変容量型斜板式油圧ポンプ
2 ケーシング
2A ケーシング本体
2B 蓋体
10 タンク
14 斜板(フィードバック手段)
16 傾転制御ピストン
17 傾転制御ピストン
17A 第1油路
17B シリンダ
18 シリンダ
19 シリンダ
20 制御圧室
21 油室
22 スリーブ
22A 第2油路
23 ストッパ
24A 傾転アクチュエータ
24B 傾転アクチュエータ
25 ばね
26 ドレン室
27 シリンダ
28 制御圧室
29 油路
30 第3油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシングに回転可能に支持された回転軸と、
前記ケーシング内に前記回転軸と一体的に回転するように設けられ、複数のシリンダが穿設されたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの各シリンダに往復動可能に嵌挿された複数のピストンと、
前記各ピストンの往復運動を前記シリンダブロックの回転運動に変換し、前記ケーシングの底部と対面して設けられ表面側が前記ピストンが摺動する平滑面となり最大傾転位置と最小傾転位置との間で傾転可能な斜板と、
前記斜板を傾転駆動させる傾転アクチュエータと、
前記ケーシングと前記シリンダブロックが摺動しつつ回転するとき前記各シリンダと間欠的に連通する一対の給排ポートが穿設された弁板と、
前記傾転アクチュエータの駆動によって傾転した前記斜板の傾転角を前記傾転アクチュエータの駆動制御にフィードバックするフィードバック手段とを備え、
前記傾転アクチュエータは、互いに前記回転軸を挟むように配置される一方の傾転アクチュエータと他方の傾転アクチュエータから成り、これらの傾転アクチュエータのそれぞれは、端部が前記斜板に当接し摺動可能に設けられた傾転制御ピストンを有する可変容量型斜板式液圧ポンプにおいて、
前記一方の傾転アクチュエータから前記他方の傾転アクチュエータに対し、この他方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンを摺動させる制御圧を給排する制御圧給排手段を備えたことを特徴とする可変容量型斜板式液圧ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の可変容量型斜板式液圧ポンプにおいて、
前記一方の傾転アクチュエータは、前記ケーシングに形成され、前記傾転制御ピストンが収容されるシリンダと、このシリンダに収容されるとともに前記ケーシングに固定され、この一方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンを摺動可能に保持するストッパと、前記ケーシングに形成された前記シリンダに収容され、前記ストッパよりも前記斜板から離れるように配置され、前記一方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンを摺動可能に保持し、前記ケーシングに形成された前記シリンダに対し摺動可能なスリーブとを有し、
前記制御圧給排手段は、前記一方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンに形成され、前記制御圧を導く第1油路と、前記一方の傾転アクチュエータの前記スリーブに形成され、前記第1油路に選択的に連通する第2油路と、前記ケーシングに形成され、前記第2油路と前記他方の傾転アクチュエータの前記傾転制御ピストンに連設された制御圧室とを連通させる第3油路を含むことを特徴とする可変容量型斜板式液圧ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の可変容量型斜板式液圧ポンプにおいて、
前記フィードバック手段は、前記斜板から成ることを特徴とする可変容量型斜板式液圧ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の可変容量型斜板式液圧ポンプにおいて、
前記一方の傾転アクチュエータは、前記ストッパと前記スリーブとの間に形成されタンクに連通するドレン室と、このドレン室内に配置され、一端が前記ストッパに係止され他端が前記スリーブに係止されるばねと、前記ケーシングに形成された前記シリンダの底部とこのケーシングに形成された前記シリンダの底部に対向する前記スリーブの端面との間に形成され、前記スリーブを摺動させる指令圧が与えられる制御圧室とを有することを特徴とする可変容量型斜板式液圧ポンプ。
【請求項5】
請求項3に記載の可変容量型斜板式液圧ポンプにおいて、
前記一方の傾転アクチュエータは、前記前記ケーシングに形成された前記シリンダの底部とこのケーシングに形成された前記シリンダの底部に対向する前記スリーブの端面との間に形成され、タンクに連通するドレン室と、このドレン室に配置され、一端が前記スリーブの端面に係止され他端が前記ケーシングに形成された前記シリンダの底部に係止されるばねと、前記ストッパと前記スリーブとの間に形成され、前記スリーブを摺動させる指令圧が与えられる制御圧室とを有することを特徴とする可変容量型斜板式液圧ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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