説明

圧電セラミックスの製造方法、圧電素子の製造方法、液体噴射ヘッドの製造方法、及び、液体噴射装置の製造方法

【課題】少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む圧電体層を有する圧電素子、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置の性能を向上させる製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む前駆体溶液であって、水溶液とした場合にpHが7以上である前駆体溶液31を下電極20上に塗布し、塗布した前駆体溶液31を結晶化させてペロブスカイト型酸化物を含む圧電セラミックスを形成する。圧電素子の製造方法は、圧電セラミックス30に電極を形成する工程を備える。液体噴射ヘッドの製造方法は、圧電素子の製造方法により圧電素子を形成する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックスの製造方法、圧電素子の製造方法、液体噴射ヘッドの製造方法、及び、液体噴射装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶を歪ませると帯電したり、電界中に置くと歪んだりする特徴を持つ圧電材料は、インクジェットプリンターといった液体噴射装置、アクチュエーター、センサー、等に広く使用されている。代表的な圧電材料として、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛、Pb(Zrx,Ti1-x)O3)が用いられている。しかしながらPZTは鉛(Pb)を含むため、環境負荷の観点から鉛を含まない非鉛圧電材料の研究開発が広く行われている。
【0003】
近年、非鉛圧電材料の圧電薄膜及びこれを応用した薄膜圧電素子の研究開発が行われている。薄膜圧電素子は、例えば、基板上に形成した電極上に数μm以下の膜厚の圧電薄膜を形成し、前記圧電薄膜上に上部電極を形成するプロセスにより作製される。このプロセスは半導体プロセスと同様の微細なプロセスにより行われるため、薄膜圧電素子はバルク状の圧電体を用いた圧電素子と比較して高密度な圧電素子を形成することができるという利点を有する。例えば、特許文献1に開示されたBiFeO3−BaTiO3系材料は、非鉛薄膜圧電材料として良好な特性を有する。
【0004】
スピンコート法等の液相法で圧電薄膜を形成する場合、圧電薄膜は、前駆体溶液を電極上に塗布し、塗布膜を結晶化することにより、形成される。前駆体溶液に用いる金属塩には、通常、2−エチルヘキサン酸塩といった有機酸塩が用いられ、前駆体溶液を水溶液とした場合には、pH<7の酸性となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−252790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、BiFeO3−BaTiO3系圧電材料を用いて圧電素子を作製したところ、PZTと比較して、圧電材料のリーク電流が大きく実用化が難しいことが分かった。なお、このような問題は、液体噴射ヘッドに限らず、圧電アクチュエーターやセンサー等の圧電素子においても同様に存在する。
【0007】
以上を鑑み、本発明の目的の一つは、少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む圧電体層を有する圧電素子、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置の性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的の一つを達成するため、本発明は、少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む前駆体溶液であって、水溶液とした場合にpHが7以上である前駆体溶液を塗布する工程と、
該塗布した前駆体溶液を結晶化させてペロブスカイト型酸化物を含む圧電セラミックスを形成する工程と、を備えた、圧電セラミックスの製造方法の態様を有する。
また、本発明は、上記圧電セラミックスの製造方法により圧電セラミックスを形成する工程と、
前記圧電セラミックスに電極を形成する工程と、を備えた、圧電素子の製造方法の態様を有する。
【0009】
さらに、本発明は、上記圧電素子の製造方法を含む液体噴射ヘッドの製造方法の態様を有する。
さらに、本発明は、上記液体噴射ヘッドの製造方法を含む液体噴射装置の製造方法の態様を有する。
【0010】
本製造方法により形成される圧電セラミックスは、少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含み水溶液とした場合にpHが7以上である前駆体溶液が結晶化したペロブスカイト型酸化物が含まれている。このような圧電セラミックスを圧電体層として有する圧電素子は、少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含み水溶液とした場合に酸性の前駆体溶液を結晶化したペロブスカイト型酸化物を含む圧電素子と比べてリーク電流が抑制されることが分かった。
【0011】
ここで、上記前駆体溶液は、ゾル等の状態が含まれる。前駆体溶液は、Mn(マンガン)等、Bi、Ba、Fe及びTi以外の金属が含まれてもよいし、不純物が含まれていてもよい。前駆体溶液に含まれる金属は、当然ながら、イオンの状態が含まれる。上記圧電体層も、Mn等、Bi、Ba、Fe及びTi以外の金属が含まれてもよいし、不純物が含まれていてもよい。
【0012】
ところで、上記前駆体溶液にアミンが含まれていると、前駆体溶液を水溶液とした場合のpHを容易に7以上とすることができる。前駆体溶液中のアミンは、圧電体層のクラックを抑制する観点から、3〜30vol%が好ましく、3〜10vol%がさらに好ましい。これらの態様は、圧電体層のリーク電流を抑制させる好ましい製造方法を提供することができる。
上記前駆体溶液にMnが含まれていると、圧電体層の絶縁性を高く(リーク特性を改善)する効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は圧電素子の製造工程を例示する流れ図、(b),(c)はリーク電流の測定結果を示す図。
【図2】記録ヘッド1の構成の概略を例示する便宜上の分解斜視図。
【図3】(a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を例示するための断面図。
【図4】(a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を例示するための断面図。
【図5】記録装置200の構成の概略を例示する図。
【図6】(a),(b)は実施例のヒステリシス特性を示すグラフ。
【図7】(a),(b)は比較例のヒステリシス特性を示すグラフ。
【図8】有機アミン添加量に対するクラックのピクセル面積比を例示するグラフ。
【図9】(a)〜(g)はヒステリシス特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下に説明する実施形態は、本発明を例示するものに過ぎない。
【0015】
(1)圧電素子、圧電セラミックス、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置の製法の概要:
まず、図1〜5を参照して、本製造方法の例を説明する。図2及び図4(c)に例示する記録ヘッド(液体噴射ヘッド)1は、圧電体層(圧電セラミックス)30及び電極(20,40)を有する圧電素子3と、ノズル開口71に連通し圧電素子3により圧力変化が生じる圧力発生室12とを備えている。従って、液体噴射ヘッドの製造方法は、圧電素子を形成する工程と、圧力発生室を形成する工程と、を備えることになる。圧力発生室12は、流路形成基板10のシリコン基板15に形成されている。ノズル開口71は、ノズルプレート70に形成されている。流路形成基板10の弾性膜(振動板)16上に下電極(第1電極)20、圧電体層30及び上電極(第2電極)40が順に積層され、圧力発生室12が形成されたシリコン基板15にノズルプレート70が固着されている。
なお、本明細書で説明する位置関係は、発明を説明するための例示に過ぎず、発明を限定するものではない。従って、第1電極の上以外の位置、例えば、下、左、右、等に第2電極が配置されることも、本発明に含まれる。
【0016】
図1に例示する本製造方法は、工程S1,S2を備えている。
塗布工程S1では、少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む圧電体前駆体溶液であって水溶液とした場合にpHが7以上である前駆体溶液31を塗布する。図1(a)の例では、電極(20)の表面に少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む前駆体溶液31を膜状に塗布している。前駆体溶液には、Bi、Ba、Fe及びTiを主要成分としてモル比で少ない別の金属(例えばMn)が含まれてもよい。ここで、主要成分は、モル比合計が他の含有成分のモル比よりも多いような一以上の対象成分とする。前駆体溶液の塗布は、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、等の液相法で行うことができる。
【0017】
圧電体層形成工程S2では、塗布した前駆体溶液31を結晶化させてペロブスカイト型酸化物を含む圧電セラミックス(圧電体層)30を形成する。得られるペロブスカイト型酸化物は、少なくともBi、Ba、Fe及びTiが含まれ、Bi、Ba、Fe及びTiを主要成分としてモル比で少ない別の金属(例えばMn)が含まれてもよい。圧電セラミックス(30)には、ペロブスカイト型酸化物以外の物質(例えば金属酸化物)が含まれてもよい。
【0018】
図1(b),(c)にリーク電流の測定結果を例示するように、水溶液とした場合にpH<7の酸性である前駆体溶液を用いた圧電素子はリーク電流が比較的大きい一方、水溶液とした場合にpH≧7である前駆体溶液を用いた圧電素子はリーク電流が比較的小さいことが分かった。これは、以下の理由が考えられる。
【0019】
少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含むペロブスカイト型酸化物を有する圧電体層は、PZTとは異なり、表面モフォロジーが粗くなる傾向がある。前駆体溶液を水で所定倍率に希釈して水溶液とした場合にpH7以上、好ましくはアルカリ性(例えばpH7.1以上)にすると、前駆体溶液中で有機酸塩といった金属塩と有機溶媒といった溶媒とが混ざり易くなり、前駆体溶液の均一性が向上すると考えられる。前駆体溶液が酸性である場合、混合不十分の金属塩が結晶化時に核となって圧電体層の表面が粗くなり、圧電体層にリーク電流が発生する部分が生じると推測される。一方、前駆体溶液がpH7以上である場合、混合不十分の金属塩が少なくなり、このような金属塩が結晶化時に核とならず圧電体層の表面の平滑性が向上し、圧電体層にリーク電流が発生する部分が生じ難いと推測される。
以上より、リーク電流を抑制するためには、少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む前駆体溶液を水溶液とした場合にpH7以上、好ましくはアルカリ性にすればよい。
【0020】
また、圧電体層の表面モフォロジーが粗いと、圧電素子を形成したときに、リーク電流が比較的小さい部分とリーク電流が比較的大きい部分とが生じたり、電圧に対する十分な耐圧がある部分と耐圧が低下した部分とが生じたりする等、信頼性が低下することがある。少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む前駆体溶液を水溶液とした場合にpH≧7にすることにより、圧電体層表面の平滑性が向上し、圧電素子の性能ばらつきが少なくなり、圧電素子の信頼性、特に耐久性が向上する。
【0021】
前駆体溶液31に含まれる少なくともBi、Ba、Fe及びTiの金属塩には、2−エチルヘキサン酸塩や酢酸塩といった有機酸塩等を用いることができる。前駆体溶液には、前記金属塩を溶媒に溶解させた溶液、前記金属塩を分散媒に分散させたゾル、等が含まれる。前駆体溶液の溶媒(分散媒を含む。)には、例えば、オクタン、キシレン、これらの組合せ、といった有機溶媒を用いることができる。水溶液とした場合の前駆体溶液をpH7以上にする物質には、2−ジメチルアミノエタノール(DMAE)、2−ジエチルアミノエタノール(DEAE)、ジエタノールアミン(DEA)、といったアミン、アンモニア、等のアリカリ性物質を用いることができる。なお、前駆体溶液を水溶液にする際の希釈倍率は、特に限定されないが、例えば2〜100倍程度とすることができる。
【0022】
前駆体溶液に含まれる金属は、ペロブスカイト構造の中で原子半径に応じたサイトに配置される。得られるペロブスカイト型酸化物は、AサイトにBiとBaを少なくとも含み、BサイトにFeとTiを少なくとも含む。このようなペロブスカイト型酸化物には、下記一般式で表される組成の非鉛系ペロブスカイト型酸化物が含まれる。
(Bi,Ba)(Fe,Ti)Oz …(1)
(Bi,Ba,MA)(Fe,Ti)Oz …(2)
(Bi,Ba)(Fe,Ti,MB)Oz …(3)
(Bi,Ba,MA)(Fe,Ti,MB)Oz …(4)
ここで、MAはBi、Ba及びPbを除く1種以上の金属元素であり、MBはFe、Ti及びPbを除く1種以上の金属元素である。zは、3が標準であるが、ペロブスカイト構造をとり得る範囲内で3からずれてもよい。Aサイト元素とBサイト元素との比は、1:1が標準であるが、ペロブスカイト構造をとり得る範囲内で1:1からずれてもよい。
【0023】
Bi,Ba,MAのモル数合計に対するBiのモル数比は、例えば50〜99.9%程度とすることができる。Bi,Ba,MAのモル数合計に対するBaのモル数比は、例えば0.1〜50%程度とすることができる。Bi,Ba,MAのモル数合計に対するMAのモル数比は、例えば0.1〜33%程度とすることができる。
Fe,Ti,MBのモル数合計に対するFeのモル数比は、例えば50〜99.9%程度とすることができる。Fe,Ti,MBのモル数合計に対するTiのモル数比は、例えば0.1〜50%程度とすることができる。Fe,Ti,MBのモル数合計に対するMBのモル数比は、例えば0.1〜33%程度とすることができる。
【0024】
前駆体溶液に添加可能なMB元素には、Mn等が含まれる。Bサイト構成金属中のMnのモル濃度比は、Bサイト構成金属の全モル濃度比を100%として、例えば、0.1〜10%程度とすることができる。Mnを添加すると圧電体層の絶縁性を高く(リーク特性を改善)する効果が期待されるが、Mnが無くても圧電性能を有する圧電素子を形成することができる。塗布膜の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1μm程度とすることができる。
【0025】
少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含むペロブスカイト型酸化物を有する圧電体層30の結晶化温度は、例えば400〜450℃程度になる。
【0026】
前駆体溶液31の結晶化の前に、電極(20)の表面の塗布膜(31)をペロブスカイト型酸化物の結晶化温度未満で加熱する第1加熱工程が行われてもよい。結晶化前に塗布膜(31)が乾燥し、脱脂温度以上では塗布膜(31)が脱脂されるので、圧電体層30を良好に形成することができる。また、第1加熱工程の後に電極(20)の表面の塗布膜(31)を結晶化温度以上で加熱する第2加熱工程が行われてもよい。この焼成により、圧電体層30を良好に形成することができる。加熱には種々の装置を用いることができるが、RTA(Rapid Thermal Annealing)法を使用することのできる赤外線ランプアニール装置を結晶化温度以上の加熱に用いると、圧電体層30を良好に形成することができる。
上記第1加熱工程では、乾燥温度<脱脂温度<結晶化温度として、電極(20)の表面の塗布膜(31)を乾燥温度で加熱した後、乾燥処理後に電極(20)の表面の塗布膜(31)を脱脂温度で加熱してもよい。
【0027】
(2)圧電素子及び液体噴射ヘッドの製造方法の例:
図2は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド1を便宜上、分解した分解斜視図である。図3,4は、記録ヘッドの製造方法を例示するための断面図であり、圧力発生室12の長手方向D2に沿った垂直断面図である。記録ヘッド1を構成する各層は、接合されて積層されてもよいし、分離されない材料の表面を変性する等して一体に形成されてもよい。
【0028】
流路形成基板10は、シリコン単結晶基板等から形成することができる。弾性膜16は、例えば、膜厚が約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコン基板15の一方の面を約1100℃の拡散炉で熱酸化する等によってシリコン基板15と一体に形成することができ、二酸化シリコン(SiO2)等で構成することができる。弾性膜16の厚みは、弾性を示す限り特に限定されないが、例えば0.5〜2μm程度とすることができる。
【0029】
次いで、図3(a)に示すように、スパッタ法等によって弾性膜16上に下電極20を形成する。図3(b)に示す例では、下電極20を形成した後にパターニングしている。下電極20の構成金属には、Pt、Au、Ir、Ti、等の1種以上の金属を用いることができる。下電極20の厚みは、特に限定されないが、例えば50〜500nm程度とすることができる。なお、密着層又は拡散防止層として、TiAlN(窒化チタンアルミ)膜、Ir膜、IrO(酸化イリジウム)膜、ZrO2(酸化ジルコニウム)膜、等の層を弾性膜16上に形成したうえで、当該層上に下電極20を形成してもよい。
【0030】
次いで、図1(a)に示すように、上述した少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む前駆体溶液31を下電極20の表面に塗布する(塗布工程S1)。前駆体溶液中の金属のモル濃度比は、形成されるペロブスカイト型酸化物の組成に応じて決めることができる。上述した式(1)〜(4)におけるAサイト構成金属及びBサイト構成金属のモル濃度比は、1:1が標準であるが、ペロブスカイト型酸化物が形成される範囲内で1:1からずれていてもよい。
【0031】
次いで、塗布した前駆体溶液31を結晶化させてペロブスカイト型酸化物を含む圧電体層30を形成する(圧電体層形成工程S2)。前駆体溶液31の膜をペロブスカイト型酸化物の結晶化温度以上で加熱すると、ペロブスカイト型酸化物を含む薄膜状の圧電体層30が形成される。好ましくは、例えば140〜190℃程度に加熱して乾燥し(乾燥工程)、その後、例えば300〜400℃程度に加熱して脱脂し(脱脂工程)、その後、例えば550〜850℃程度に加熱して結晶化させる(焼成工程)。圧電体層30を厚くするため、塗布工程と乾燥工程と脱脂工程と焼成工程の組合せを複数回行ってもよい。焼成工程を減らすために、塗布工程と乾燥工程と脱脂工程の組合せを複数回行った後に焼成工程を行ってもよい。さらに、これらの工程の組合せを複数回行ってもよい。
形成される圧電体層30の厚みは、電気機械変換作用を示す範囲で特に限定されないが、例えば0.2〜5μm程度とすることができる。好ましくは、製造工程でクラックが発生しない程度に圧電体層30の厚さを抑え、十分な変位特性を示す程度に圧電体層30を厚くするとよい。
【0032】
上述した乾燥工程及び脱脂工程を行うための加熱装置には、ホットプレート、赤外線ランプの照射により加熱する赤外線ランプアニール装置、等を用いることができる。上記焼成工程を行うための加熱装置には、赤外線ランプアニール装置等を用いることができる。好ましくは、RTA(Rapid Thermal Annealing)法等を用いて昇温レートを比較的速くするとよい。
【0033】
圧電体層30を形成した後、図3(b)に示すように、スパッタ法等によって上電極40を圧電体層30上に形成する。上電極40を構成する金属には、Ir、Au、Pt、等の1種以上の金属を用いることができる。上電極40の厚みは、特に限定されないが、例えば50〜200nm程度とすることができる。なお、図3(c)に示す例では、上電極40を形成した後に、圧電体層30及び上電極40を各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子3を形成している。
一般的には、圧電素子3の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層30を圧力発生室12毎にパターニングして圧電素子3を構成する。図2,4に示す圧電素子3は、下電極20を共通電極とし、上電極40を個別電極としている。
【0034】
以上により、圧電体層30及び電極(20,40)を有する圧電素子3が形成され、この圧電素子3及び弾性膜16を備えた圧電アクチュエーター2が形成される。
【0035】
次いで、図3(c)に示すように、リード電極45を形成する。例えば、流路形成基板10の全面に亘って金層を形成した後にレジスト等からなるマスクパターンを介して圧電素子3毎にパターニングすることにより、リード電極45が設けられる。図2に示す各上電極40には、インク供給路14側の端部近傍から弾性膜16上に延びたリード電極45が接続されている。
【0036】
なお、下電極20や上電極40やリード電極45は、DC(直流)マグネトロンスパッタリング法といったスパッタ法等によって形成することができる。各層の厚みは、スパッタ装置の印加電圧やスパッタ処理時間を変えることにより調整することができる。
【0037】
次いで、図4(a)に示すように、圧電素子保持部52等を予め形成した保護基板50を流路形成基板10上に例えば接着剤によって接合する。保護基板50には、例えば、シリコン単結晶基板、ガラス、セラミックス材料、等を用いることができる。保護基板50の厚みは、特に限定されないが、例えば400μm程度とすることができる。保護基板50の厚み方向に貫通したリザーバ部51は、連通部13とともに、共通のインク室(液体室)となるリザーバ9を構成する。圧電素子3に対向する領域に設けられた圧電素子保持部52は、圧電素子3の運動を阻害しない程度の空間を有する。保護基板50の貫通孔53内には、各圧電素子3から引き出されたリード電極45の端部近傍が露出する。
【0038】
次いで、シリコン基板15をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることによりシリコン基板15を所定の厚み(例えば70μm程度)にする。次いで、図4(b)に示すように、シリコン基板15上にマスク膜17を新たに形成し、所定形状にパターニングする。マスク膜17には、窒化シリコン(SiN)等を用いることができる。次いで、KOH等のアルカリ溶液を用いてシリコン基板15を異方性エッチング(ウェットエッチング)する。これにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12と細幅のインク供給路14を備えた複数の液体流路と、各インク供給路14に繋がる共通の液体流路である連通部13とが形成される。液体流路(12,14)は、圧力発生室12の短手方向である幅方向D1へ並べられている。
なお、圧力発生室12は、圧電素子3の形成前に形成されてもよい。
【0039】
次いで、流路形成基板10及び保護基板50の周縁部の不要部分を例えばダイシングにより切断して除去する。次いで、図4(c)に示すように、シリコン基板15の保護基板50とは反対側の面にノズルプレート70を接合する。ノズルプレート70は、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼、等を用いることができ、流路形成基板10の開口面側に固着される。この固着には、接着剤、熱溶着フィルム、等を用いることができる。ノズルプレート70には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口71が穿設されている。従って、圧力発生室12は、液体を吐出するノズル開口71に連通している。
【0040】
次いで、封止膜61及び固定板62を有するコンプライアンス基板60を保護基板50上に接合し、所定のチップサイズに分割する。封止膜61は、例えば厚み6μm程度のポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)といった剛性が低く可撓性を有する材料等が用いられ、リザーバ部51の一方の面を封止する。固定板62は、例えば厚み30μm程度のステンレス鋼(SUS)といった金属等の硬質の材料が用いられ、リザーバ9に対向する領域が開口部63とされている。
【0041】
また、保護基板50上には、並設された圧電素子3を駆動するための駆動回路65が固定される。駆動回路65には、回路基板、半導体集積回路(IC)、等を用いることができる。駆動回路65とリード電極45とは、接続配線66を介して電気的に接続される。接続配線66には、ボンディングワイヤといった導電性ワイヤ等を用いることができる。
以上により、記録ヘッド1が製造される。
【0042】
本記録ヘッド1は、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ9からノズル開口71に至るまで内部をインクで満たす。駆動回路65からの記録信号に従い、圧力発生室12毎に下電極20と上電極40との間に電圧を印加すると、圧電体層30、下電極20及び弾性膜16の変形によりノズル開口71からインク滴が吐出する。
なお、記録ヘッドは、下電極を共通電極とし上電極を個別電極とした共通下電極構造とされてもよいし、上電極を共通電極とし下電極を個別電極とした共通上電極構造とされてもよいし、下電極及び上電極を共通電極とし両電極間に個別電極を設けた構造とされてもよい。
【0043】
(3)液体噴射装置:
図5は、上述した記録ヘッド1を有する記録装置(液体噴射装置)200の外観を示している。記録ヘッド1を記録ヘッドユニット211,212に組み込むと、記録装置200を製造することができる。図5に示す記録装置200は、記録ヘッドユニット211,212のそれぞれに、記録ヘッド1が設けられ、外部インク供給手段であるインクカートリッジ221,222が着脱可能に設けられている。記録ヘッドユニット211,212を搭載したキャリッジ203は、装置本体204に取り付けられたキャリッジ軸205に沿って往復移動可能に設けられている。駆動モーター206の駆動力が図示しない複数の歯車及びタイミングベルト207を介してキャリッジ203に伝達されると、キャリッジ203がキャリッジ軸205に沿って移動する。図示しない給紙ローラー等により給紙される記録シート290は、プラテン208上に搬送され、インクカートリッジ221,222から供給され記録ヘッド1から吐出するインクにより印刷がなされる。
【0044】
(4)実施例:
以下、実施例を示すが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0045】
[下電極を積層した基板の作製]
Pt/TiOx(酸化チタン)/SiO2/Siの各層を有する基板を次のようにして作製した。
まず、Si基板を拡散炉中で1100℃の熱酸化を行い、膜厚1.3μmのSiO2膜をSi基板表面に形成した。次に、SiO2膜表面にDCスパッタ法により膜厚20nmのTi膜を成膜して、ランプ熱処理装置(RTA法)で酸素中700℃5分間の熱処理を行い、TiOx薄膜を形成した。さらに、TiOx膜表面に330℃300WのDCスパッタ法により膜厚130nmのPt薄膜を形成した。
【0046】
[実施例1,2及び比較例1,2]
(BFM−BT前駆体溶液作製)
Bi,Fe,Mn,Ba,Ti各金属元素の前駆体材料として2−エチルヘキサン酸塩を用いた。溶解する金属のモル比は、Bi:Fe:Mn=100:95:5、Ba:Ti=100:100、且つ、BFM:BT=75:25にした。ここでBFM−BTは、一般式(Bi,Ba)(Fe,Ti,Mn)Ozで表され、Bi:Fe:Mn:Ba:Ti=75:71.25:3.75:25:25となる。また、BFMはBiのモル数、すなわち、FeとMnのモル数の合計、BTはBaのモル数、すなわち、Tiのモル数、を表している。
溶媒には、オクタンとキシレンの混合物を用いた。
以上の溶液に対して、全量の10vol%となるように2−ジメチルアミノエタノール(DMAE)を添加して実施例1の前駆体溶液を作製し、全量の10vol%となるようにジエタノールアミンを添加して実施例2の前駆体溶液を作製し、全量の10vol%となるようにn−オクタノールを添加して比較例1の前駆体溶液を作製した。また、何も添加していない原料溶液を比較例2の前駆体溶液とした。
【0047】
(BFM−BT薄膜作製)
それぞれの前駆体溶液をPt/TiOx/SiO2/Si基板上に3000rpmでスピンコートし(塗布工程)、加熱して乾燥し(乾燥工程)、さらに加熱して脱脂した(脱脂工程)。これらの工程を8回繰り返して8層に成膜し、ランプ熱処理装置(RTA法)で800℃5分間の熱処理により結晶化させてBFM−BTの圧電薄膜を形成した。
【0048】
表1に各BFM−BT薄膜の膜厚を示している。
【表1】

【0049】
(各BFM−BT前駆体溶液のpH)
表2に各前駆体溶液を50倍希釈水溶液とした場合のpHを示している。
【表2】

表2に示すように、実施例1,2のpHは7.2及び8.0であり、いずれも弱塩基性であった。一方、比較例1,2のpHは6.0及び5.3であり、いずれも弱酸性であった。
【0050】
(BFM−BT薄膜の評価)
各BFM−BT薄膜の外観を暗視野像で確認したところ、実施例1,2では比較的平滑な外観を示したのに対し、比較例1においては突起状の外観異常が白斑として表れ、比較例2においてはヒビ状の外観異常が白線として表れた。各BFM−BT薄膜の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、実施例1,2のBFM−BT薄膜は、比較例1,2のBFM−BT薄膜と比較して結晶粒界がはっきりしない、平滑な薄膜表面を示した。各BFM−BT薄膜の表面に傷をつけて傷の形状を評価したところ、実施例1,2においては傷の形状を評価することができた一方、比較例1,2においては傷の形状を評価することができなかった。傷の形状を評価するためには薄膜表面が平滑であることが必要なことが他の材料による評価から分かっており、このことからも水溶液とした場合にpH≧7である前駆体溶液から得られる圧電体層は表面の平滑性が向上することが分かる。表面が平滑であるということは、圧電体層のリーク電流抑制に繋がる。
【0051】
また、各BFM−BT薄膜についてX線回折広角法(XRD)によりX線回折チャートを求めたところ、いずれも(110)面に優先配向していることが分かり、大きな差は無かった。
【0052】
さらに、各BFM−BT薄膜について、DCスパッタ法により膜厚100nmのPt薄膜を成膜してランプ熱処理装置(RTA法)により酸素中775℃5分間の熱処理を行い、BFM−BTキャパシタを作製した。各BFM−BTキャパシタについて、東陽テクニカ社製FCEを用い、室温大気中で周波数1kHzの三角波を印加して、分極量P(μC/cm2)と電界E(kV/cm)の関係(P−E曲線)を求めた。
【0053】
図6,7に各BFM−BTキャパシタのヒステリシス特性を示している。ここで、図6(a)は実施例1、図6(b)は実施例2、図7(a)は比較例1、図7(b)は比較例2、を示している。図6,7に示すように、各ヒステリシス特性に大きな差は無かった。
【0054】
[実施例3,4及び比較例3]
(BFM−BT前駆体溶液作製)
実施例1,2と同様、各金属元素の前駆体材料として2−エチルヘキサン酸塩を用い、溶解する金属のモル比は、Bi:Fe:Mn=100:95:5、Ba:Ti=100:100、且つ、BFM:BT=75:25にした。すなわち、Bi:Fe:Mn:Ba:Ti=75:71.25:3.75:25:25となる。溶媒には、オクタンとキシレンの混合物を用いた。
以上の溶液に対して、それぞれ全量の3vol%、10vol%、30vol%、となるようにDMAEを添加して実施例3の前駆体溶液を作製し、それぞれ全量の3vol%、10vol%、30vol%、となるように2−ジエチルアミノエタノール(DEAE)を添加して実施例4の前駆体溶液を作製した。また、何も添加していない原料溶液を比較例3の前駆体溶液とした。
【0055】
(BFM−BT薄膜作製)
それぞれの前駆体溶液をPt/TiOx/SiO2/Si基板上に3000rpmでスピンコートし、180℃で乾燥し、次いで350℃で脱脂し、さらにランプ熱処理装置(RTA法)で750℃5分間の熱処理により結晶化させた。その後、3000rpmでスピンコートし(塗布工程)、180℃で乾燥し(乾燥工程)、次いで350℃で脱脂し(脱脂工程)、これらの工程を3回繰り返した後、ランプ熱処理装置(RTA法)で750℃5分間の熱処理により結晶化させた(焼成工程)。「塗布工程と乾燥工程と脱脂工程の組合せ3回」と「焼成工程」の組合せを3回繰り返すことにより、基板上に10層のBFM−BT薄膜を形成した。
【0056】
表3に各前駆体溶液を50倍希釈水溶液とした場合のpHを示している。
【表3】

表3に示すように、実施例3,4の前駆体溶液の50倍希釈水溶液は、いずれもpH≧7であった。また、有機アミンの添加量が多くなるほどpHが大きくなった。一方、比較例3のpHは5.3であり、弱酸性であった。
【0057】
(リーク電流の測定)
さらに、各BFM−BT薄膜について、DCスパッタ法により膜厚100nmのPt薄膜を成膜してランプ熱処理装置(RTA法)により酸素中750℃5分間の熱処理を行い、BFM−BTキャパシタを作製した。各BFM−BTキャパシタについて、アジレント社製4140Bを用い、+500kV/cmの条件で2回、及び、−500kV/cmの条件で2回、リーク電流(I−V特性)を測定した。
【0058】
図1(b)に実施例3及び比較例3のリーク電流の測定結果を示し、図1(c)に実施例4及び比較例3のリーク電流の測定結果を示している。ここで、横軸が有機アミン添加量(%)、縦軸がリーク電流(A/cm2)であり、有機アミン添加量0%が比較例3に相当し、有機アミン添加量3〜30%が実施例3,4に相当する。
【0059】
図1(b),(c)に示すように、実施例3,4のリーク電流は、比較例3のリーク電流よりも少なくなった。実施例3,4のBFM−BT薄膜は、少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含み水溶液とした場合のpHが7以上である前駆体溶液が結晶化したペロブスカイト型酸化物が含まれている。このような圧電体層を有する圧電素子は、水溶液とした場合に酸性の前駆体溶液を結晶化したペロブスカイト型酸化物を有する圧電素子と比べてリーク電流が抑制されることが分かる。
また、比較例3のリーク電流はばらつきが大きいのに対し、実施例3,4のリーク電流はばらつきが小さい。このように、少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含み水溶液とした場合のpHが7以上である前駆体溶液が結晶化したペロブスカイト型酸化物を有する圧電素子は、水溶液とした場合に酸性の前駆体溶液を結晶化したペロブスカイト型酸化物を有する圧電素子と比べて性能ばらつきが少なくなり、圧電素子の信頼性が向上することが分かる。
【0060】
(クラック面積比の測定)
各BFM−BT薄膜の表面について、所定面積中に存在するクラックの面積(ピクセル面積)を測定し、比較例3のクラック面積を1とした面積相対値を求めた。
【0061】
図8に、結果の一例として、DEAE添加量に対するクラックのピクセル面積比を示している。ここで、横軸がDEAE添加量(%)、縦軸がピクセル面積比であり、DEAE添加量0%が比較例3に相当し、DEAE添加量3〜30%が実施例4に相当する。
【0062】
図8に示すように、実施例4のクラック面積は、比較例3のクラック面積よりも少なくなった。従って、水溶液とした場合にpH≧7である前駆体溶液から得られる圧電体層は、クラックが抑制されることが分かる。クラック面積が少ないということは、圧電体層のリーク電流抑制に繋がる。
また、有機アミン添加量3〜10%の前駆体溶液から得られる圧電体層は、有機アミン添加量30%の前駆体溶液から得られる圧電体層よりもクラックが抑制されることが分かる。従って、前駆体溶液に添加するアミンのさらに好ましい量は、3〜10vol%であることが分かる。
【0063】
(その他の評価)
各BFM−BT薄膜についてX線回折広角法(XRD)によりX線回折チャートを求めたところ、いずれも(110)面に優先配向していることが分かり、大きな差は無かった。
【0064】
各BFM−BTキャパシタについて、東陽テクニカ社製FCEを用い、室温大気中で周波数1kHzの三角波を印加して、分極量P(μC/cm2)と電界E(kV/cm)の関係(P−E曲線)を求めた。ここで、図9(a)は比較例3、図9(b)はDMAE3%添加の実施例、図9(c)はDMAE10%添加の実施例、図9(d)はDMAE30%添加の実施例、図9(e)はDEAE3%添加の実施例、図9(f)はDEAE10%添加の実施例、図9(g)はDEAE30%添加の実施例、を示している。図9に示すように、各ヒステリシス特性に大きな差は無かった。
【0065】
(5)応用、その他:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
上述した実施形態では圧力発生室毎に個別の圧電体を設けているが、複数の圧力発生室に共通の圧電体を設け圧力発生室毎に個別電極を設けることも可能である。
上述した実施形態では流路形成基板にリザーバの一部を形成しているが、流路形成基板とは別の部材にリザーバを形成することも可能である。
上述した実施形態では圧電素子の上側を圧電素子保持部で覆っているが、圧電素子の上側を大気に開放することも可能である。
上述した実施形態では振動板を隔てて圧電素子の反対側に圧力発生室を設けたが、圧電素子側に圧力発生室を設けることも可能である。例えば、固定した板間及び圧電素子間で囲まれた空間を形成すれば、この空間を圧力発生室とすることができる。
【0066】
流体噴射ヘッドから吐出される液体は、液体噴射ヘッドから吐出可能な材料であればよく、染料等が溶媒に溶解した溶液、顔料や金属粒子といった固形粒子が分散媒に分散したゾル、等の流体が含まれる。このような流体には、インク、液晶、等が含まれる。液体噴射ヘッドには、粉体や気体を吐出するものも含まれる。液体噴射ヘッドは、プリンターといった画像記録装置の他、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造装置、有機ELディスプレー等の電極の製造装置、バイオチップ製造装置、等に搭載可能である。
【0067】
上述した製造方法により製造される積層セラミックスは、強誘電体デバイス、焦電体デバイス、圧電体デバイス、及び光学フィルターの強誘電体薄膜を形成するのに好適に用いることができる。強誘電体デバイスとしては、強誘電体メモリー(FeRAM)、強誘電体トランジスタ(FeFET)等が挙げられ、焦電体デバイスとしては、温度センサー、赤外線検出器、温度−電気変換器等が挙げられ、圧電体デバイスとしては、流体吐出装置、超音波モーター、加速度センサー、圧力−電気変換器等が挙げられ、光学フィルターとしては、赤外線等の有害光線の遮断フィルター、量子ドット形成によるフォトニック結晶効果を使用した光学フィルター、薄膜の光干渉を利用した光学フィルターが挙げられる。
【0068】
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、液相法で少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む圧電体層を形成した圧電素子、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置の性能を向上させる技術等を提供することができる。
また、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1…記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、2…圧電アクチュエーター、3…圧電素子、10…流路形成基板、12…圧力発生室、15…シリコン基板、16…弾性膜(振動板)、20…下電極(第1電極)、30…圧電体層(圧電セラミックス)、31…前駆体溶液(圧電体前駆体溶液)、40…上電極(第2電極)、50…保護基板、60…コンプライアンス基板、65…駆動回路、70…ノズルプレート、71…ノズル開口、200…記録装置(液体噴射装置)、S1…塗布工程、S2…圧電体層形成工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともBi、Ba、Fe及びTiを含む前駆体溶液であって、水溶液とした場合にpHが7以上である前駆体溶液を塗布する工程と、
該塗布した前駆体溶液を結晶化させてペロブスカイト型酸化物を含む圧電セラミックスを形成する工程と、を備えた、圧電セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記前駆体溶液にアミンが含まれている、請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記前駆体溶液に3〜30vol%のアミンが含まれている、請求項2に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記前駆体溶液に3〜10vol%のアミンが含まれている、請求項3に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の圧電セラミックスの製造方法により圧電セラミックスを形成する工程と、
前記圧電セラミックスに電極を形成する工程と、を備えた、圧電素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の圧電素子の製造方法により圧電素子を形成する工程を備えた、液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の液体噴射ヘッドの製造方法により液体噴射ヘッドを形成する工程を備えた、液体噴射装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−89848(P2013−89848A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230642(P2011−230642)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】