説明

圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置

【課題】圧電定数を向上させた圧電素子、前記圧電素子を用いた液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置を提供する。
【解決手段】一対の電極401,402と、一対の電極401,402に接して設けられた圧電材料403を少なくとも有する圧電素子410であって、圧電材料403はチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒404、409の集合体405からなり、集合体405の結晶粒の中の少なくとも電極401と接している結晶粒404が、粒内に転位層407を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置に関する。特に局所的に転位層を導入することによって圧電定数を向上させた非鉛系圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料は、ペロブスカイト構造を有するチタン酸ジルコニウム酸鉛(以下「PZT」という)のような鉛系のセラミックスが一般的である。
【0003】
しかしながら、PZTはペロブスカイト構造のAサイトに鉛を含有する。そのために、鉛成分の環境に対する影響が問題視されている。この問題に対応するために、鉛を含有しないペロブスカイト型酸化物を用いた圧電材料の提案がなされている。
【0004】
代表的な非鉛ペロブスカイト型圧電材料として、一般式BaTiO(以下「BTO」という)で表されるチタン酸バリウムがある。
【0005】
例えば、特許文献1には2段階の焼成温度で焼結することにより平均粒径が1から2μmで最大粒径が5μmに抑制された、高い圧電定数を示すBTOセラミックスが開示されている。しかしながら、BTOセラミックスを用いた圧電素子の歪み量は未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−150247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような課題に対処するためになされたものであって、圧電定数を向上させた圧電素子を提供するものである。また本発明は、前記圧電素子を用いた液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する圧電素子は、一対の電極と、前記一対の電極に接して設けられた圧電材料を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料はチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒の集合体からなり、前記集合体の結晶粒の中の少なくとも前記電極と接している結晶粒が、粒内に転位層を有することを特徴とする。
上記の課題を解決するための液体吐出ヘッドは、前記の圧電素子を用いた液体吐出ヘッドである。
上記の課題を解決するための超音波モータは、前記の圧電素子を用いた超音波モータである。
上記の課題を解決するための塵埃除去装置は、前記の圧電素子を用いた塵埃除去装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧電定数を向上させた圧電素子を提供することができる。
また、本発明は、前記圧電素子を用いた液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の圧電素子の構成の一実施態様を示す概略図である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。
【図3】本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。
【図4】本発明の実施例1の圧電素子の電極近傍における断面をSTEMにて観察した像である。
【図5】図4の深さ方向の画像強度プロファイルを示す図である。
【図6】比較例1の圧電素子の電極近傍における断面をSTEMにて観察した像である。
【図7】本発明の塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。
【図8】本発明の図7における圧電素子の構成を示す概略図である。
【図9】本発明の塵埃除去装置の振動原理を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る圧電素子は、一対の電極と、前記一対の電極に接して設けられた圧電材料を少なくとも有する構成からなる。本発明は、前記圧電材料はチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒の集合体からなり、前記集合体の結晶粒の中の少なくとも前記電極と接している結晶粒が、粒内に転位層を有することを特徴とする。なお、必ずしも電極と接している全ての結晶粒において、粒内に転位層を有していなくともよい。電極と接している一部の結晶粒において、粒内に転位層を有していれば効果を発揮する。
【0013】
図1は、本発明の圧電素子の構成の一実施態様を示す概略図である。
【0014】
図1(a)に示すように、本発明の圧電素子410は、一対の電極401、402と、前記一対の電極に接して設けられた圧電材料403を少なくとも有する。圧電材料403の電極401との一部の界面近傍には転位層407を有する。具体的には、圧電材料403はチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒の集合体405からなる。前記集合体405の結晶粒の中の電極と接している結晶粒404が、粒内に前記電極401、402と接している転位層407を有する。
【0015】
一対の電極401、402は、厚み5nmから2000nm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの酸化物を挙げることができる。一対の電極401、402は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。一対の電極401、402が、それぞれ異なる材料であっても良い。
【0016】
電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また電極を所望の形状にパターニングして用いても良い。
【0017】
圧電材料403は結晶粒の集合体405からなる。結晶粒の集合体とは、多結晶と同義である。図1(b)は、図1(a)に示した圧電素子410の電極近傍を拡大して示す概略図である。図1(a)における圧電材料403は、図1(b)においては結晶粒の集合体405に相当する。ここで言う結晶粒とは電極401に接する結晶粒404と、電極401と接しない結晶粒409のことである。
【0018】
圧電材料403を構成する各々の結晶粒は、チタン酸バリウムを主成分とする。すなわち、圧電材料403自体もチタン酸バリウムを主成分とする。前記チタン酸バリウムは、一般式BaTiOで表されるようなABO型のペロブスカイト結晶であることが好ましい。
【0019】
主成分とは、圧電特性を発現するための主体成分がチタン酸バリウムであるという意味である。例えば、マンガンのような特性調整成分や製造上含まれてしまう不純成分が圧電材料または結晶粒に含まれていても良い。
【0020】
具体的には、圧電材料403または結晶粒に含有されるチタン酸バリウムの含有量は、95質量%以上、好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上99.96質量%以下である。圧電材料403に含有されるチタン酸バリウム以外の成分は5質量%未満に留めることが望ましい。圧電特性に寄与しない成分が5質量%を超えると、圧電材料403全体の圧電性が不十分となるおそれがある。
【0021】
チタン酸バリウムのバリウム(Ba)サイトを別の二価金属や擬似二価金属で一部置換していても良い。Baサイトを置換できる二価金属の例としては、Ca、Srなどが挙げられる。Baサイトを置換できる擬似二価金属としては、(Bi0.5Na0.5)、(Bi0.50.5)、(Bi0.5Li0.5)、(La0.5Na0.5)、(La0.50.5)、(La0.5Li0.5)などが挙げられる。Baサイトを別の二価金属や擬似二価金属で一部置換する際の置換率は20atm%以下、好ましくは10atm%以下である。置換率が20atm%を超えると、チタン酸バリウムが固有する高い圧電特性が充分に得られないおそれがある。
【0022】
チタン酸バリウムのチタン(Ti)サイトを別の四価金属や擬似四価金属で一部置換していても良い。Tiサイトを置換できる四価金属の例としては、Zr、Hf、Si、Sn、Geなどが挙げられる。Tiサイトを置換できる擬似四価金属の例としては、二価金属と五価金属の組み合わせ(M2+1/35+2/3)や三価金属と五価金属の組み合わせ(M3+1/25+1/2)、三価金属と六価金属の組み合わせ(M3+2/36+1/3)などが挙げられる。より好ましくは、Ti元素である。
【0023】
本発明の圧電材料40および圧電材料を構成する結晶粒に好適な組成として、(Ba1−xCa(Ti1−yZr)O(0.95≦a≦1.05、0.02≦x≦0.30、0.020≦y≦0.095、y≦x)が挙げられる。前記組成による圧電材料は広い温度領域で安定的に圧電駆動する。
【0024】
本発明において、「転位」とは、線状の結晶欠陥の一種を表す。結晶は原子面(すべり面)に沿ってすべることで塑性変形する。このとき、すべり面上の全原子が一斉にずれるのではなく、各々の原子がわずかにずれて局所的にすべりが進行し、最終的に全域がすべる。
【0025】
すでにすべった領域とまだすべっていない領域の境界には、局所的な原子配列の乱れが生じる。この部分が転位である。転位は線状に連続してつながっているため、転位線と呼ばれることもある。
【0026】
本発明における「転位層」とは、転位が高密度に集積されている領域をさす。
【0027】
転位は局所的に原子配列が乱れた部分なので、1次元的な結晶粒界の作用をもつとみなすことができる。転位層の内部は、高密度の転位と、転位によって(完全に囲まれているわけではないが)区分された領域から構成される。すなわち転位層は、転位によって擬似的に小粒径化された領域とみなすことができる。したがって、局所的な転位層によって圧電定数が増加する。
【0028】
転位層は機械的強度の低下につながる恐れがある。しかし、転位層が電極に接していることで、電極でキャップされて強度は保たれる。
【0029】
転位および転位層を観察する手段の一例として、透過型電子顕微鏡(TEM)がある。転位の周辺は局所的に結晶格子が歪んでいる。すなわち、転位がない部分と転位の周辺部分とでは、電子線に対する結晶方位がわずかに異なっている。したがって、明視野像や暗視野像などの回折コントラストを反映する観察法によって、転位は容易に確認できる。
【0030】
また、転位は走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いても観察することができる。STEMではカメラ長を変えることによって、検出器に取り込まれる電子の散乱角度範囲を変えることができる。高角度に散乱された電子を取り込むと、試料の原子番号を反映した像(Zコントラスト像)が得られる。一方、低角度に散乱された電子を取り込むと、回折コントラストを反映した像が得られる。これは、強度の強い低指数の回折波が、直接検出器に取り込まれているためである。したがって、カメラ長を調整して観察することで、転位は容易に確認できる。
【0031】
前記電極401と接する結晶粒404は、研磨などで得られた平滑面で電極401と接していることが好ましい。その場合、電極401に垂直方向で測長した結晶粒404の深さは、研磨前の粒径より小さくなる。ここで、電極に対して垂直方向に測長した各結晶粒の深さを、垂直方向の粒径Rとする。また、転位層の厚さDを、図1(b)に示す様に、転位層407の電極側からの長さで表す。
【0032】
本発明において、前記転位層を有する結晶粒のうち、前記電極に垂直方向の粒径Rが2μm以上である結晶粒において、前記転位層の厚さDがR以下であること望ましい。先述したように、本発明の効果は転位層によって擬似的に小粒径化することで得られる。粒径Rが2μmより小さい場合は、もともと粒径が小さいため本発明における転位層の効果が顕著に現れない。また、より好ましくは前記転位層の厚さDが120nm以上、R以下であることが望ましい。120nmよりも小さいと、転位層の効果が充分に発揮されない恐れがある。
【0033】
すなわち、本発明による圧電素子は、少なくとも一対の電極と圧電材料よりなる圧電素子であって、前記圧電材料はチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒の集合体であり、前記電極と接するチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒のうち、電極に垂直方向の粒径Rが2μm以上である結晶粒において、前記結晶粒が粒内に転位層を有している。
【0034】
なお、必ずしも電極と接している粒径Rが2μm以上の全ての結晶粒において、粒内に転位層を有していなくともよい。電極と接している粒径Rが2μmの一部の結晶粒において、粒内に転位層を有していれば効果を発揮する。また、前記電極と接しており、かつ前記粒径Rが2μm未満となる結晶粒が一部存在していてもよく、この相対的に小さな結晶粒に転位層407が存在していてもよい。
【0035】
また、電極に接する結晶粒の全体に転位層が存在し、更にその転位層が電極側から見て反対側の隣接結晶粒まで連続して存在していてもよい。ただし、圧電材料を貫通して転位層が存在すると、圧電材料の機械的強度が下がる(もろくなる)ため好ましくない。
【0036】
前記転位層を断面で観測したときの電極との接触部の長さは、300nm以上であることが好ましい。
【0037】
また、前記転位層が、同一の結晶粒の内部において同一方向に分極されていることが好ましい。同一の結晶粒内で分極方向が異なっていると、圧電特性を向上させるためには好ましくない。
【0038】
また、前記圧電材料の前記電極と接する表面部のヤング率は圧電材料全体のヤング率より小さいことが好ましい。一般的に、粒径が小さくなると、圧電体のドメインが小さくなることが知られている。また、ドメインが小さくなるとヤング率が小さくなることが知られている。
【0039】
圧電定数d31は、下記の式1で定義される。
【0040】
【化1】

【0041】
ここでk31は電気機械結合係数、s11は弾性コンプライアンス、ε33は誘電率である。弾性コンプライアンスは、ヤング率の逆数である。したがって、ヤング率が小さくなると弾性コンプライアンスは大きくなり、圧電定数が大きくなる。
【0042】
また、前記圧電材料がマンガン成分を含んでいることが好ましい。チタン酸バリウム成分に対するマンガン成分の割合は、好ましくは0.04質量%以上0.20質量%以下である。より好ましくは0.05質量%以上0.17質量%以下である。前記圧電材料が前記範囲のマンガン成分を含有すると、絶縁性や機械品質係数(Qm)が向上する。また、脱分極による劣化も発生しにくくなる。マンガン成分の含有量が0.04質量%未満ではマンガンの添加による効果を得られず、0.20質量%をこえると圧電性に劣る六方晶のチタン酸バリウムが混合するので、圧電材料全体の圧電性が不十分となるおそれがある。
【0043】
また、前記一対の電極の電極間距離、すなわち圧電材料の厚みは50μm以上10mm以下であることが好ましい。前記平均値が50μm未満であると、圧電素子として使用する場合の機械的強度が不足するおそれがある。一方、前記平均値が10mmよりも大きいと、圧電材料全体に占める転位層の割合が小さくなりすぎるため、圧電定数向上の効果が十分に得られない。
【0044】
以下に本発明の圧電素子の製造方法について説明する。
【0045】
本発明の圧電素子に用いる圧電材料は、少なくともバリウムとチタンを含む構成元素の構成元素を含んだ酸化物、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩などの固体粉末を常圧化で焼結する一般的な手法を採用することができる。例えば、チタン酸バリウム原料粒子を焼結処理することで得られる。前記チタン酸バリウム粒子が金属換算で0.04質量%以上0.20質量%のマンガン成分を含有していると、焼結後の圧電材料の絶縁性やQmが向上する。
【0046】
ここで、チタン酸バリウム原料粒子において、マンガンがどのような状態で存在しているかは問わない。例えば、マンガンはチタン酸バリウムに固溶していても良い。あるいは、マンガンは、金属単体、イオン、酸化物、金属塩、錯体などの形態でチタン酸バリウム原料粒子に付着していても良い。
【0047】
チタン酸バリウム原料粒子には、チタン酸バリウムとマンガン以外の特性調整成分や合成上の不純成分を含んでいても良い。不純成分としては、アルミニウム、カルシウム、ニオブ、鉄、鉛などの金属由来成分、ガラス成分および炭化水素系の有機成分などが挙げられる。不純成分の含有量は5質量%以下であることが好ましい。より好ましい不純成分の含有量は、1質量%以下である。
【0048】
原料粒子の一次粒子としての粒径は、特に制限されない。ただし、高密度で均質な圧電材料を得るために、望ましい一次粒子の平均粒径は5nm以上300nm以下、好ましくは50nm以上150nm以下である。一次粒子の粒径が小さすぎても大きすぎても、焼結後の圧電材料の密度が不足するおそれがある。ここで、一次粒子とは粉体を構成している粒子のうち、他と明確に分離できる最小単位の個体を表す。一次粒子が凝集して、より大きな二次粒子を形成していても良い。高分子バインダーを用いた造粒工程により、意図的に二次粒子を形成してもよい。
【0049】
本発明において、原料として用いられる粒子の製造方法は限定されない。マンガンが付着したチタン酸バリウムの場合は、市販または合成済みのチタン酸バリウム粒子に後工程でマンガン成分を添加して付着させれば良い。マンガン成分の添加方法は限定されないが、マンガン成分はチタン酸バリウムの表面に均一に付着することが望ましい。その観点において、もっとも好ましい添加方法はスプレードライ法である。
【0050】
マンガンが固溶したチタン酸バリウムの場合は、マンガン成分をあらかじめ含ませたチタン酸バリウム前駆体を結晶化させて原料粒子を製造すれば良い。例えば、バリウム化合物とチタン化合物を等モルで混合し、所望量のマンガン成分を添加して、1000℃程度で仮焼することでマンガン成分の固溶したチタン酸バリウム原料粒子を得られる。
【0051】
ここで、原料粒子を製造する際に使用可能なバリウム化合物の例としては、炭酸バリウム、シュウ酸バリウム、酸化バリウム、アルミン酸バリウム、各種のバリウムアルコキシドが挙げられる。
【0052】
また、原料粒子を製造する際に使用可能なチタン化合物の例としては、酸化チタンが挙げられる。
【0053】
また、原料粒子を製造する際に使用可能なマンガン成分の例としては、酸化マンガン、二酸化マンガン、酢酸マンガン等のマンガン化合物が挙げられる。
【0054】
また、本発明の圧電材料の原料粒子にカルシウム成分を含ませる際に使用可能なカルシウム成分の例としては、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、蓚酸カルシウム、酢酸カルシウムが挙げられる。
【0055】
また、本発明の圧電材料の原料粒子にジルコニウム成分を含ませる際に使用可能なジルコニウム成分の例としては、酸化ジルコニウムが挙げられる。
【0056】
前記カルシウム成分およびジルコニウム成分はチタン酸バリウム原料粒子に固溶していても良いし、混合物として添加されていても良い。
【0057】
その他、工業用として市販されているチタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウムを用いて原料粒子を製造してもよい。
【0058】
チタン酸バリウム原料粒子は、所望の形状に成型されてから焼結処理されて結晶粒の集合体よりなる圧電材料となる。
【0059】
本発明において、圧電材料の焼結方法は限定されない。焼結方法の例としては、電気炉による焼結、通電加熱法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法、熱間等方圧プレス(HIP)等が挙げられる。
【0060】
本発明において、圧電材料の焼結温度は限定されないが、チタン酸バリウムが充分に結晶成長する温度である事が望ましい。好ましい焼結温度は、1000℃以上1450℃以下、好ましくは1300℃以上1400℃以下である。
【0061】
焼結処理により得られる圧電材料の特性を再現良く安定させるためには、焼結温度を上記範囲内で一定にして1時間以上12時間以下程度の焼結処理を行なうと良い。
【0062】
焼結された圧電材料は研磨によって所望の厚さに加工できる。研磨条件は限定されないが、仕上げ工程は、コロイダルシリカを用いたバフ研磨とすることが望ましい。これは、後の分極処理において、均質な電界を印加するために、平坦かつ欠陥の少ない表面が望ましいためである。バフ研磨により、ナノメーターオーダーの平滑面かつ巨視的な結晶欠陥(転位も含む)がほぼ存在しない表面が得られる。
【0063】
研磨されたセラミックスは、分極処理のために一対の電極を成膜される。電極の成膜方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また分極工程の都合に応じて、所望の形状にパターニングしても良い。
【0064】
本発明において、分極処理の条件は制限されないが、電界密度1kV/mm以上を印加することが望ましい。また、放電を防ぐために絶縁性のシリコーンオイル中で分極処理をしてもよい。
【0065】
本発明において、転位の導入のために分極処理に使用した電極を剥ぎ取る必要があるが、剥ぎ取るための手法は特に限定されない。例えば、研磨であってもよく、エッチングであってもよい。金電極の場合、I+KI水溶液などの公知のエッチング液を用いることができる。
【0066】
本発明において、転位の導入のための手法は特に限定されない。例えば、研磨による手法が挙げられる。粒度800から2500番程度の研磨紙を用いて表面を研磨すれば、表面からの深さが1から5μm程度の転位層が導入される。
【0067】
転位層を導入した圧電材料に、再び一対の電極を成膜することで、本発明の圧電素子が製造される。このときの一対の電極は、分極処理に使用した一対の電極と同様のものでよい。
【0068】
図2は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。図2(a)、(b)に示すように、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電素子101を有する液体吐出ヘッドである。圧電素子101は、第一の電極1011、局所的に転位層を導入した圧電材料1012、第二の電極1013を少なくとも有する圧電素子である。圧電材料1012は、図2(b)の如く、必要に応じてパターニングされている。
【0069】
図2(b)は液体吐出ヘッドの模式図である。液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。図において圧電素子101は矩形状だが、その形状は、楕円形、円形、平行四辺形等の矩形以外でも良い。一般に、圧電材料1012は個別液室102の形状に沿った形状となる。
【0070】
本発明の液体吐出ヘッドに含まれる圧電素子101の近傍を図2(a)で詳細に説明する。図2(a)は、図2(b)に示された液体吐出ヘッドの幅方向での圧電素子の断面図である。圧電素子101の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。
【0071】
図中では、第一の電極1011が下部電極、第二の電極1013が上部電極として使用されている。しかし、第一の電極1011と、第二の電極1013の配置はこの限りではない。例えば、第一の電極1011を下部電極として使用しても良いし、上部電極として使用しても良い。同じく、第二の電極1013を上部電極として使用しても良いし、下部電極として使用しても良い。また、振動板103と下部電極の間にバッファ層108が存在しても良い。
【0072】
なお、これらの名称の違いはデバイスの製造方法によるものであり、いずれの場合でも本発明の効果は得られる。
【0073】
前記液体吐出ヘッドにおいては、振動板103が圧電材料1012の伸縮によって上下に変動し、個別液室102の液体に圧力を加える。その結果、吐出口105より液体が吐出される。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンタ用途や電子デバイスの製造に用いる事が出来る。
【0074】
振動板103の厚みは、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。振動板のSiにBやPがドープされていても良い。また、振動板上のバッファ層、電極層が振動板の一部となっても良い。
【0075】
バッファ層108の厚みは、5nm以上300nm以下であり、好ましくは10nm以上200nm以下である。
【0076】
吐出口105の大きさは、円相当径で5μm以上40μm以下である。吐出口105の形状は、円形であっても良いし、星型や角型状、三角形状でも良い。
【0077】
次に、本発明の圧電素子を用いた超音波モータについて説明する。
【0078】
図3は、本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。
【0079】
本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、図3(a)に示す。超音波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成される。圧電材料には局所的に転位層が導入されている。
【0080】
本発明の圧電素子に位相がπ/2異なる二相の交流電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。
【0081】
圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の超音波モータは、この原理を利用したものである。
【0082】
次に、積層構造を有した圧電素子を含む超音波モータを図3(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料により構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって締結され、圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
【0083】
圧電素子2042に位相の異なる交流電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
【0084】
ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
【0085】
次に、本発明の圧電素子を用いた塵埃除去装置について説明する。
【0086】
図7(a)および図7(b)は本発明の塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。塵埃除去装置310は板状の圧電素子330と振動板320より構成される。振動板320の材質は限定されないが、塵埃除去装置310を光学デバイスに用いる場合には透光性材料や光反射性材料を振動板320として用いることができる。
【0087】
図8は図7における圧電素子330の構成を示す概略図である。図8(a)と(c)は圧電素子330の表裏面の構成、図8(b)は側面の構成を示している。圧電素子330は図7に示すように圧電材料331と第1の電極332と第2の電極333より構成され、第1の電極332と第2の電極333は圧電材料331の板面に対向して配置されている。図示していないが、圧電材料331には局所的に転位層が導入されている。図8(c)において圧電素子330の手前に出ている第1の電極332が設置された面を第1の電極面336、図8(a)において圧電素子330の手前に出ている第2の電極332が設置された面を第2の電極面337とする。
【0088】
ここで、本発明における電極面とは電極が設置されている圧電素子の面を指しており、例えば図8に示すように第1の電極332が第2の電極面337に回りこんでいても良い。
【0089】
圧電素子330と振動板320は、図7(a)、(b)に示すように圧電素子330の第1の電極面336で振動板320の板面に固着される。そして圧電素子330の駆動により圧電素子330と振動板320との間に応力が発生し、振動板に面外振動を発生させる。本発明の塵埃除去装置310は、この振動板320の面外振動により振動板320の表面に付着した塵埃等の異物を除去する装置である。面外振動とは、振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動を意味する。
【0090】
図9は本発明の塵埃除去装置310の振動原理を示す模式図である。上図は左右一対の圧電素子330に同位相の交番電界を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子330を構成する圧電材料の分極方向は圧電素子330の厚さ方向と同一であり、塵埃除去装置310は7次の振動モードで駆動している。下図は左右一対の圧電素子330に位相が180°反対である逆位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。塵埃除去装置310は6次の振動モードで駆動している。本発明の塵埃除去装置310は少なくとも2つの振動モードを使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃を効果的に除去できる装置である。
【0091】
前述したように本発明の圧電素子は、液体吐出ヘッド、超音波モータや塵埃除去装置に好適に用いられる。
【0092】
本発明の転位層を含む非鉛系の圧電材料を用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上のノズル密度、および吐出力を有する液体吐出ヘッドを提供出来る。
【0093】
本発明の転位層を含む非鉛系の圧電材料を用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上の駆動力、および耐久性を有する超音波モータを提供出来る。
【0094】
また、本発明の転位層を含む非鉛系の圧電材料を用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上の塵埃除去効率を有する塵埃除去装置を提供出来る。
【0095】
本発明の圧電材料は、液体吐出ヘッド、モータに加え、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、強誘電メモリ等のデバイスに用いることができる。
【実施例】
【0096】
以下に、比較例と実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0097】
(実施例1)
マンガンを添加した転位層を有する圧電素子の例を示す。
【0098】
平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子(堺化学社製、商品名BT−01)の表面にスプレードライヤー装置を用いて酢酸マンガン(II)を付着させて、造粒粉を得た。ICP質量分析によると、この粉体におけるマンガンの含有量は0.12質量%であった。マンガンの含有量は、スプレードライヤー装置への原料仕込み比により制御可能であった。造粒粉を金型内に充填し、圧縮することで成形体を作成した。
【0099】
得られた成形体を焼結して、セラミックス状の圧電材料を得た。焼成雰囲気は空気中とした。まず、600℃で3時間保持し、脱脂を行った。さらに、1350℃で5時間保持し焼成した。昇温レートは10℃/分とし、焼結温度より10℃以上のオーバーシュートが起こらないように電気炉の熱電対を調整した。
【0100】
上記のようにして得られた圧電材料について、X線回折測定(XRD)、蛍光X線元素分析(XRF)、アルキメデス法による密度測定を実施した。その結果、圧電材料はチタン酸バリウムを主体としたペロブスカイト型単一相の結晶であった。圧電材料全体に対するマンガンの含有量は金属換算で、0.12質量%であった。圧電材料はチタン酸バリウムの理論密度に対して95%以上の良好な密度値を示した。
【0101】
得られた圧電材料を、所望の厚さになるまで裏表両面を研磨した。研磨紙は、粒度800番、粒度2000番を順に用い、冷却用に蒸留水を使用した。仕上げ工程には、コロイダルシリカ(粒径60nm)を用いたバフ研磨を行った。研磨後の圧電材料の厚さは、120μmとした。
【0102】
DCスパッタリング法により、研磨後の圧電材料の表裏両面に金電極を成膜した。成膜した電極の厚さは、Auで150nmであった。
【0103】
電極を付けた圧電材料を分極処理した。分極条件は温度が100℃、分極電界密度が直流1kV/mm、電圧印加時間が30分間とした。
【0104】
分極処理後に、圧電材料をエッチング液(商品名:AURUM−100、関東化学社製)に浸漬して金電極を剥離した。次に電極剥離面を粒度2000番の研磨紙で両面とも研磨した。これにより、圧電材料の表面近傍に転位層が導入される。
【0105】
この研磨面の両面にDCスパッタリング法で金/チタン電極を成膜した。チタンは圧電材料側に設けられて、密着層の役割を果たす。成膜した電極の厚さは、Ti20nmおよびAu150nmであった。
【0106】
以上の工程によって、転位層のある圧電素子を得た。
【0107】
圧電特性の測定のために、この電極つきの円盤状のセラミックスを切断加工して、12mm×3mm×120μmの短冊状とした。
【0108】
得られた圧電素子の圧電定数およびヤング率の測定を行なった。具体的には、インピーダンス・アナライザ装置(アジレント社、商品名4294A)を用いて、インピーダンスの周波数依存性を測定した。そして、観測された共振周波数と反共振周波数より、ヤング率(GPa)および圧電定数d31(pm/V)を求めた。圧電定数d31は負の値をとる定数で、絶対値が大きいほど圧電性能が高いことを意味する。
【0109】
得られた圧電素子のヤング率Y11は113GPa、圧電定数d31は71pm/Vであった。
【0110】
図4は、得られた圧電素子の電極近傍における断面を上述のSTEMにて観察した像である。図中で、一番上の層状の構造物が電極である。電極の下には結晶粒がある。結晶粒の電極近傍に存在する、細く折れ曲がった線状の組織が転位(転位線)である。複数の転位が複雑に絡み合って存在している領域が転位層である。なお、横方向の周期的な組織(数100nm幅の帯状)はドメインである。
【0111】
また、図中の電極と接する結晶粒の電極に対して垂直方向の粒径Rは、1μmから10μm程度に分布しており、過半数の結晶粒が2μm以上の粒径Rを有していた。
【0112】
図5は、図4の画像の深さ方向の画像強度プロファイルである。転位層においては、画像強度が強く(明るく)なっていることが確認できる。ここでの転位層の厚さは2.7μmである。
【0113】
なお、EDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy)による組成分析を行ったところ、転位層がある領域と転位層がない領域の組成差は確認されなかった。
【0114】
(比較例1)
マンガンを添加した転位層がない圧電素子の例を示す。
【0115】
分極処理までは実施例1と同様の工程で作製し、研磨をしないで転位層のない圧電素子を得た。圧電材料の形状は、12mm×3mm×120μmの短冊状とした。
【0116】
図6は、得られた圧電素子の電極近傍における断面をSTEMにて観察した像である。転位層がないことが確認できる。
【0117】
得られた圧電素子のヤング率Y11は125GPa、圧電定数d31は61pm/Vであった。
【0118】
実施例1と比較例1から、実施例1の転位層の存在によってヤング率が下がり、圧電定数が約16%向上していることがわかる。なお、この測定によって得られるヤング率は、試料全体の値である。ナノインデンテーションによって表面近傍の局所的なヤング率を計測したところ、転位層のある箇所では、他の箇所と比較して局所的にヤング率が低下することが確認された。
【0119】
以上のように、転位層の導入によって圧電素子の圧電定数が向上することを確認した。
【0120】
(実施例2)
マンガンを添加していない転位層がある圧電素子の例を示す。
【0121】
平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子(堺化学社製、商品名BT−01)を原料粒子として、スプレードライヤー装置を用いて造粒粉を得た。実施例1とはマンガンを添加していない点で異なっている。
【0122】
以降の転位層の導入と電極作製の工程は、実施例1と同様にして、本発明の圧電素子を得た。圧電材料の形状は、12mm×3mm×1mmの短冊状とした。実施例1と同様に、断面をSTEMにて観察、XRD測定、XRF測定、密度測定を実施した。
【0123】
その結果、実施例2の圧電素子に含まれる圧電材料はチタン酸バリウムを主体としたペロブスカイト型単一相の結晶であった。結晶粒の電極に対して垂直方向の粒径Rは、1μmから10μm程度に分布しており、過半数の粒が2μm以上の粒径Rを有していた。それら粒径Rが2μm以上の結晶粒には、転位層が厚さ150nm以上R以下に存在していた。また、圧電材料はチタン酸バリウムの理論密度に対して95%以上の良好な密度値を示した。
【0124】
(比較例2)
マンガンを添加していない転位層がない圧電素子の例を示す。
【0125】
分極処理までは実施例2と同様の工程で作製し、転位層のない圧電素子を得た。圧電材料の形状は、12mm×3mm×1mmの短冊状とした。
【0126】
実施例2と比較例2の圧電素子について、実施例1と同様に圧電素子のインピーダンスの周波数依存性を測定した。いずれの素子も分極反転が十分ではなかったために圧電定数とヤング率を正確に求められなかったが、相対比較で実施例2は比較例2に対して圧電定数が3%程度上昇していることが示唆された。
【0127】
(実施例3)
マンガンを添加した転位層がある小粒径粒子で構成される圧電素子の例を示す。
【0128】
下記の焼結条件を適用した他は実施例1と同様にして本発明の圧電素子を得た。焼結条件は、まず600℃で3時間保持し、脱脂を行った。この後、1010℃まで10℃/分で昇温し、到達した1010℃で3時間保持した。
【0129】
その後、20℃/分で1420℃まで昇温し、1分保持後、20℃/分で1010℃まで降温し、その後3時間の保持を行った。1010℃から1420℃へ昇温し、1420℃から1010℃まで降温する工程を繰り返した。その後、1010℃で10時間の保持を行い、室温まで放冷で降温した。
【0130】
このようにして、得られた圧電材料は、最高到達温度で保持する時間が短いため、比較的小粒径となる。
【0131】
以降の転位層の導入と電極作製の工程は、実施例1と同様にして、本発明の圧電素子を得た。圧電材料の形状は、φ10mm×10mmtの円筒状とした。実施例1と同様に、断面をSTEMにて観察、XRD測定、XRF測定、密度測定を実施した。
【0132】
その結果、実施例3の圧電素子に含まれる圧電材料はチタン酸バリウムを主体としたペロブスカイト型単一相の結晶であった。電極と接する結晶粒の電極に対して垂直方向の粒径Rは、2μmから5μm程度に分布しており、電極と接するほぼ全ての結晶粒が2μm以上の粒径Rを有していた。それら粒径Rが2μm以上の結晶粒には、転位層が厚さ120nm以上R以下に存在していた。また、圧電材料はチタン酸バリウムの理論密度に対して97%以上の良好な密度値を示した。
【0133】
(比較例3)
マンガンを添加した転位層がない小粒径粒子で構成される圧電素子の例を示す。
【0134】
分極処理までは実施例3と同様の工程で作製し、転位層のない圧電素子を得た。圧電材料の形状は、φ10mm×10mmtの円筒状とした。
【0135】
実施例3と比較例3の圧電素子について、d33メータ(Piezo Meter System:PIEZOTEST社製)を用いて圧電特性を評価した。その結果、実施例3の圧電定数d33は500pm/V、比較例3の圧電定数d33は485pm/Vと転位層の存在による圧電定数の向上傾向が観測された。
【0136】
(実施例4)
カルシウム成分およびジルコニウム成分を有するチタン酸バリウムであって、マンガンを添加した転位層を有する圧電素子の例を示す。
【0137】
平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子(堺化学社製、商品名BT−01)、平均粒径が300nmであるチタン酸カルシウム粒子(堺化学社製、商品名CT−03)、平均粒径が300nmであるジルコン酸カルシウム粒子(堺化学社製、商品名CZ−03)をモル比85:10:5で混合した。この混合粒子の表面にスプレードライヤー装置を用いて酢酸マンガン(II)を付着させて、造粒粉を得た。ICP質量分析によると、この粉体におけるマンガンの含有量は0.18質量%であった。以後、実施例1と同様にして転位層の導入と電極作製を行い、本発明の圧電素子を得た。XRF測定によると、この圧電素子に含まれる圧電材料の組成は(Ba0.85Ca0.15)(Ti0.95Zr0.05)Oにマンガンを金属換算で0.18質量%含有したものであることがわかった。
【0138】
圧電材料の形状は、12mm×3mm×1mmの短冊状とした。実施例1と同様に、断面をSTEMにて観察、XRD測定、XRF測定、密度測定を実施した。
【0139】
その結果、実施例4の圧電素子に含まれる圧電材料はチタン酸ジルコン酸カルシウムバリウムを主体としたペロブスカイト型単一相の結晶であった。結晶粒の電極に対して垂直方向の粒径Rは、2μmから8μm程度に分布しており、電極と接するほぼ全ての粒が2μm以上の粒径Rを有していた。それら粒径Rが2μm以上の結晶粒には、転位層が厚さ180nm以上R以下に存在していた。また、圧電材料はBa0.85Ca0.15)(Ti0.95Zr0.05)Oの理論密度に対して97%以上の良好な密度値を示した。
【0140】
(比較例4)
カルシウム成分およびジルコニウム成分を有するチタン酸バリウムであって、マンガンを添加した転位層がない圧電素子の例を示す。
分極処理までは実施例4と同様の工程で作製し、転位層のない圧電素子を得た。圧電材料の形状は、12mm×3mm×1mmの短冊状とした。
【0141】
実施例4と比較例4の圧電素子について、実施例1と同様に圧電素子のインピーダンスの周波数依存性を測定した。その結果、実施例4の圧電素子は比較例4の素子に対して4%程度大きい圧電定数を示した。
【0142】
(実施例5)
実施例1と同じ圧電材料を用いて、図2に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
【0143】
(実施例6)
実施例1と同じ圧電材料を用いて、図3に示される超音波モータ作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転挙動が確認された。
【0144】
(実施例7)
実施例1と同じ圧電材料を用いて、図7に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製ビーズを散布し、交番電圧を印加したところ、良好な塵埃除去率が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明によれば、圧電定数を向上させた圧電素子を提供することができる。本発明の圧電素子は、環境に対してもクリーンなので、液体吐出ヘッドや超音波モータ等の圧電素子を用いる機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0146】
101 圧電素子
102 個別液室
103 振動板
105 吐出口
106 連通孔
107 共通液室
108 バッファ層
202 ローター
205 ローター
201、204 振動子
2012 圧電素子
2042 圧電素子
401、402 電極
403 圧電材料
404 結晶粒
405 集合体
407 転位層
409 結晶粒
410 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極に接して設けられた圧電材料を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料はチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒の集合体からなり、前記集合体の結晶粒の中の少なくとも前記電極と接している結晶粒が、粒内に転位層を有することを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記転位層を有する結晶粒のうち、前記電極に垂直方向の粒径Rが2μm以上である結晶粒において、前記転位層の厚さDがR以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記転位層が、同一の結晶粒の内部において同一方向に分極されていることを特徴とする請求項1または2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記圧電材料の前記電極と接する表面部のヤング率が、圧電材料全体のヤング率より小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項5】
前記圧電材料がマンガン成分を含んでいることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項6】
前記圧電材料の厚さは50μm以上10mm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の圧電素子を配した振動部を備えた液室と、前記液室と連通する吐出口を有する液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の圧電素子を配した振動体と、前記振動体と接触する移動体を有する超音波モータ。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれかに記載の圧電素子を配した振動体を有する塵埃除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−156493(P2012−156493A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−275097(P2011−275097)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】