壁フレーム補強金物
【課題】解体費と修繕費を抑えた耐震壁補強を実現すると共に、柱頭・柱脚の接合部の引抜き耐力の増強。
【解決手段】壁フレーム補強金物1は長方形の金属板で形成される受力面部2とその隣り合う2辺に柱取付け部3と横架材取付け部4を一体に形成したものとする。受力面部2は大きな地震力が作用するときは圧縮方向のせん断力によって面座屈を生じると共に、引張り方向に強いせん断力が作用するときは、補強金物1の横架材取付け部4の柱8と反対側がビス止めに抗して浮き上がる構成としてある。壁フレーム補強金物1の長辺は、壁フレームの天井裏寸法又は床下寸法よりも長くしてある。
【解決手段】壁フレーム補強金物1は長方形の金属板で形成される受力面部2とその隣り合う2辺に柱取付け部3と横架材取付け部4を一体に形成したものとする。受力面部2は大きな地震力が作用するときは圧縮方向のせん断力によって面座屈を生じると共に、引張り方向に強いせん断力が作用するときは、補強金物1の横架材取付け部4の柱8と反対側がビス止めに抗して浮き上がる構成としてある。壁フレーム補強金物1の長辺は、壁フレームの天井裏寸法又は床下寸法よりも長くしてある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木造軸組構造の建築物において、柱と横架材との接合箇所に取付けられる壁フレーム補強金物に関する。壁フレームが筋交いを備える場合は、筋交いの補強金物ともなる。
【背景技術】
【0002】
既存木造住宅を耐震性についてみると、耐力壁不足による不安や、柱頭・柱脚の接合部が横架材に緊結されていないことによる柱の引抜きに対する耐力(引抜き耐力)が不足していること等による不安がある。
耐力壁不足に対する木造住宅の壁補強は、合板や石膏ボードなどの面材を張付けた壁補強(例えば特許文献1,2)や、筋交いによる壁補強(例えば、特許文献3,4)が一般的であり、また、これらの補強を施すことで耐震的に大きな効果を期待できる。
【0003】
しかし、面材を張付ける壁補強には、面材を土台から両側の柱及び上部の横架材(梁、桁など)に至る壁フレームの全体に張設する場合(壁耐力5.2kN)と、床上から天井までの間で両側の柱に面材を張設する場合(同2.5kN)があるが、面材を全体に張設する場合は、壁に加えて床や天井などを解体し、構造体である柱や梁全面を補強している。面材を両側の柱間に張設する場合は、床や天井を壊さなくても面材の張付けが可能であるが、天井裏が深い場合には作業をしやすくするために天井を壊すことが多い。筋交いによる壁補強(30×90筋交いで2.4kN)でも同様であり、筋交い端部を現し、剛性の高い接合金物(例えば、特許文献5,6)で補強している。
柱頭・柱脚の引き抜き耐力を補強する場合も同様であり、床や天井の懐が深かったり、施行するスペースが無かったりすると、床や天井を解体して補強するのが一般的である。
【0004】
このように、耐震改修工事は新築のように単に補強工事をするものと異なり、解体や改修といった余計なコストが多々発生し、耐震補強工事促進の妨げとなっている。また、柱頭・柱脚の引抜き耐力を補強するのに壁フレームの角をあまりに剛性の高い金物で固めてしまうと、強い地震力の場合、柱に作用するせん断力が大きくなり、柱と金物との境界で壁フレームが破壊(脆性破壊)されてしまう恐れがある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−263500号公報
【特許文献2】特開2005−105793号公報
【特許文献3】特開平9−209581号公報
【特許文献4】登録実用新案第3015821号公報
【特許文献5】特開平8−319671号公報
【特許文献6】特開平8−120777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、床上や天井下から壁フレームの角を補強金物で補強することにより、面材による床上から天井下までの補強では足りない壁耐力を補ったり、従来、床上や天井下からではできなかった筋交い補強をしたりすることで、解体費と修繕費を抑えた耐震壁補強を実現すると共に、柱頭・柱脚の接合部の引抜き耐力の増強もあわせて実現する。
また、建物に大きな地震力が作用するときにも、補強金物で補強した接合箇所で柱や梁などが脆性的に破壊されてしまう事態を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の補強金物は、全体として長方形をした金物であって、長方形の金属板で形成される受力面部の隣り合う2辺を同じ方向に立ち上げて柱取付け部及び横架材取付け部としてあり、壁フレームの天井裏に位置する角に使用するものでは、金物の長辺を壁フレームの天井裏深さの寸法よりも長くし、床下に位置する角に使用するものでは、金物の長辺を壁フレームの床下深さの寸法よりも長くしてある。
長辺の長さは通常、天井裏、床下の双方に兼用できる長さとする。
【0008】
補強金物は、大きな地震力に対しては変形を許容するが、中程度の地震力では塑性させない金物とし、せん断剛性を抑えたものとする。言い換えると、柱や梁などが脆性的な破壊を起こさないよう金物の降伏を許容したものとする。すなわち、取付け状態において金物に対し圧縮方向から大きな地震力が作用して、強いせん断力を受けた場合は、しわがよるような座屈(以下面座屈)を起こすように、受力面部の面積と板厚との関係を調整する。
【0009】
このように、壁フレームの変形にともなう補強金物の面座屈によって地震力を消費させ、仮に壁フレームが破壊に至るとしてもその経緯を粘り強い靭性的なものにする。また、取付け状態において、金物に対して引張り方向から強いせん断力を受けた場合は、横架材取付け部の柱と反対側が浮き上がる構造として柱の回転を許容し、前記の圧縮側と同様に破壊に至る地震力に際しても粘り強い靭性的な経緯をたどるものにする。
【0010】
この補強金物は、持ち運びや取付けの際に扱いやすいように、横架材取付け部と反対側に把持用孔を形成しておくことがある。
この補強金物は、筋交いの取付け端部を補強するために、受力面部に筋交いへの固定に利用する多数の透孔を形成することがある。
【発明の効果】
【0011】
この発明の補強金物によれば、床上や天井下から壁フレームの角を補強することで、壁フレームの補強及び柱頭・柱脚の接合部の引抜き耐力の増強や筋交い接合部の補強をすることができる。この場合、柱と横架材あるいはこれらと筋交いの接合箇所(すなわち、壁フレームの角)にほぼ長方形をした補強金物を床や天井を残したまま天井下や床上から取付けるというだけであり、大きな部材や大掛かりな工事を必要としないので、簡便な耐震補強工事ですみ、解体費と修繕費を抑えた耐震壁補強となる。そして、従来の面材による床上から天井下までの補強では足りない壁耐力を補ったり、従来、床上や天井下からではできなかった耐震補強工事が可能となる。
【0012】
この補強金物は、受力面部の端部に設けた把持用孔をつかみ、床上や天井下から狭い空間へ差し込んで補強作業を行えるので、天井や床を壊す必要がなく、施工期間を短く、かつ、改修費用を小さくすることができる。
そして、受力面部に多数の透孔が形成されていると、既存の筋交いの傾斜角度が異なっていても、これらの孔のなかから適切なものを選んで、床や天井を残したまま筋交いの端部を柱や梁に結合して補強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の壁フレーム補強金物1(以下、補強金物1)を示す。補強金物1は全体として縦長の長方形であり、この実施例において1.6mm厚の鋼板をプレス成形して、受力面部2、柱取付け部3及び横架材取付け部4を一体に形成してある。柱取付け部3と横架材取付け部4は、受力面部2の隣り合った2辺を同じ側へ立ち上げて形成してある。
受力面部2は、長辺(高さ)が約525mm、短辺(幅)が200mmの長方形(矩形)であり、長辺方向の一端部にすなわち、横架材取付け部4を形成した短辺と反対側の短辺寄りに横長の把持用孔5を形成してある。また、受力面部2の全面にはビスを通すための多数(本実施例では49個)のビス孔6を等間隔で形成してある。
【0014】
柱取付け部3は、受力面部2の一方の長辺を幅20mmで一面側へ直角に折り曲げて成り、縦一列に形成された6個のビス孔6を有する。ビス孔6はこの実施例において、横架材取付け部4から遠い側(図1では上部)に集めて等間隔に配置し、下部を疎に配置してある。
横架材取付け部4は、受力面部2の一方の短辺を幅20mmで柱取付け部3と同じ一面側へ直角に折り曲げて成り、横一列に形成された4個のビス孔6を3個は柱取付け部3側に残りの1個は、他のものとは間隔を取って配置し、柱側で密に反対側に行くほど疎に配置してある。なお、この実施例において、柱取付け部3と横架材取付け部4は隣接する端部が連続しており、また、取付け面2と横架材取付け部との間には折り曲げ部に沿って3個の補強用リブ7が形成されている。
【0015】
図2イは、壁フレーム(壁フレームAとする)であって、左右の柱8,9(105×105×2880)と土台10(下横架材、105×105)及び梁11(上横架材、105×150)とからなり、柱8,9の仕口は短ホゾとしてある(壁強さ倍率1.0kN/m 基準剛性150kN/rad./m)。土台10は、基礎12にアンカーボルト13で固定してある。図において、符合14は間柱、上方の鎖線は天井cの位置、下方の鎖線は床面fの位置を示し、寸法d1は天井裏深さ、寸法d2は床下深さである。
この壁フレームAの四隅内側に補強金物1をビスで取付けて四箇所の角を補強し、補強壁フレームA1としてある(図2ロ)。
なお、この実施例の壁フレーム補強金物1は、天井裏用と床下用とを兼用するものであり、長辺の寸法525mmは、壁フレームAの天井裏深さd1又は床下深さd2よりも大きく設定してある。
【0016】
補強金物1を用いた耐震改修工事は室内側から行われ、まず、補強を必要とする壁フレームAが存在する箇所の内壁を取り外す。天井c、床(床面f)はそのままとする。
そして、壁フレームAの上部に位置する角へ補強金物1を取付ける場合を例にすると、図3のように、補強金物1を把持用孔5を利用して片手で支持し、天井下から残存させてある天井の縁と外壁材との間にできたスペースSに補強金物1の端部を差し込み、柱取付け部3を柱8,9の側面に沿わせるとともに、横架材取付け部4を梁11の下面に押し当てる。この状態を維持しながら、もう一方の手に持った工具でビス15をビス孔6から打込み、柱取付け部3を柱8に、横架材取付け部4を土台10に固定する。横架材取付け部4をビス止めする際は、ビス止め工具のドライバーに補助具を用いて長寸としたロングビット16を利用する。
【0017】
補強金物1を床下に位置する壁フレームAの角に取付けるには、天井の場合と同様に、補強金物1を把持用孔5を利用して握り、床上から残存させた床の縁と外壁材との間にできたスペースSに補強金物1の端部を差し込み、柱取付け部3を柱8,9の側面に沿わせて押し下げ、横架材取付け部4を土台10の上面に押し当てる。その状態を片手で維持しながら一方の手に持った工具でビス止めする。
【0018】
このように、耐震補強された補強壁フレームA、すなわち、補強壁フレームA1に側方から水平荷重Fを加えてこの荷重Fと柱8,9の傾斜(柱頭部の変位量Δd及び傾斜角度rad.)との関係(壁耐力)を調べ、補強壁フレームA1の耐力性能を検証した。補強壁フレームA1と比較するために、図5のように、壁フレームAの角をかすがい17で補強した壁フレームA2,山形プレート18で補強した壁フレームA3及びホールダウン金物19で補強した壁フレームA4を準備し、同じ実験をした。これらは、壁フレームAに取付ける補強金物のタイプだけが異なり、他は同じ構造である。側方からの水平荷重Fは地震時の建物が受ける地震力(揺れの加速度と建物の質量に関係する)に相当する。
【0019】
壁耐力に関する検証の結果を図6に示している。
図から明らかなように、かすがい17や山形プレート18で補強した壁フレームA2,A3では、小さな荷重で大きな変位が生じてしまう。図中、柱の傾斜角度1/120rad.は、木造家屋の損傷限界といわれるものであるが、参考のために示してある。同様に、図において、柱の傾斜角度が1/20rad.〜1/15rad.は、木造家屋における安全限界といわれる領域であり、この領域では壁フレームが筋交いを備えるとき、筋交いが折れるなどの状況となる。
補強した壁フレームA4の壁耐力は、補強された壁フレームA3よりもわずかに高い程度である。
【0020】
これらに対して、補強壁フレームA1は、荷重Fの増加に対して変位量が少なく同じ荷重を加えても柱8,9の変位が小さい。安全限界といわれる傾斜角度1/15rad.を大きく超えてもなお耐力を維持している。これは大きな地震力に粘りをもって対抗することを意味し、家屋が大きく変形しても倒壊しにくい。つまり、壁フレームAの変形に対する耐力が増強され、補強効果が高い。
【0021】
壁耐力実験後の補強壁フレームA1を、観察すると、図7のように、金物に対して圧縮方向からせん断力が作用する圧縮側に設置した補強金物1aの受力面部2に波打つようなしわ20が発生しており(面座屈)、受力面部2が座屈しながら柱8,9の傾きに抵抗していたことがわかる。金物に対して引張り方向からせん断力が作用する引張り側に設置した補強金物1bでは、受力面部2にしわが見られると共に、横架材取付け部4の柱8から遠い側のビス15が抜け落ち、補強金物1が柱8の傾斜にともなって回転(浮き上がり)していたことがわかる。補強金物1は横架材取付け部4のビス15による固定を柱8から遠い側ほど疎としたことで柱8の回転(傾斜)が許容されていたことになる。
【0022】
同時に、柱8,9の柱頭・柱脚部と梁11、土台10との接合部から、補強金物1が脱落することはなく、柱頭・柱脚部の引抜き耐力が維持される。図8は、補強金物1、かすがい17及び山形プレート18を用いた接合箇所の引抜き耐力を示したものであり、補強金物1は、山形プレート18に比べ実用範囲(10kN〜15kN)において変位が大きいが、山形プレート18が変位2mm程度で降伏してしまい、引抜き耐力が大きく低下してしまうのに対して、補強金物1は変位10mmを超えても耐力を維持している。
つまり、補強壁フレームA2,A3では、強い地震力を受けると柱頭・柱脚部に引き抜きが生じて家屋が一挙に倒壊しやすい状態となるが、補強金物1では柱頭、柱脚部の引抜き耐力が大きく、変形の拡大に対して粘りをもって抵抗している。このため、家屋が一挙に倒壊する事態を免れる。
【0023】
結局、補強金物1が取付け状態において圧縮方向から受けるせん断力や引張り方向から受けるせん断力は受力面部2を通じて横架材(土台10、梁11)に伝達されるが、圧縮方向の強いせん断力に対しては、受力面部2が撓むような挙動で対処し、また、引張り方向の強いせん断力に対しては横架材取付け部4を横架材(土台10、梁11など)へ固定しているビス15の外側のものを引き抜くような挙動により、いずれの場合にも補強金物1は中くらいの地震力までは壁フレームの変形に耐力を示すが、強い地震力が作用するときは変形をある程度受入れて壁フレームの変位を粘りのあるものとし、圧縮方向及び引張り方向からのせん断力に対して「柔」に応答している。
【0024】
なお、地震力の大、中、小はここでは壁フレームAの被害程度で定め、大きな地震力は、その力が持続すると壁フレームAが損壊してしまう程度のものをいい、中程度の地震力はその力の持続によって壁フレームAは大きな変形を受けるが倒壊しない程度のものであり、小さな地震力は壁フレームの変形がわずかであって、格別の損傷が見られない程度のものである。圧縮方向からの強いせん断力、引張り方向からの強いせん断力とは柱の傾斜が1/30rad.を超える場合以上を想定しており、大きな地震力が補強金物に作用したときに相当する。
以上のように、補強金物1で耐震壁補強を行うことにより、強い地震力で家屋が一挙に倒壊するのを防止して、避難までの余裕を作り出せると共に、強い地震力が作用したとき従来の補強金物21(図9)が柱のせん断力を上回る程に「剛」であるために従来の補強金物21の端部相当箇所から柱8が折れてしまうという脆弱性を回避することができる。
【0025】
図10イは、壁フレームBであって、土台10と梁11間に柱8,9を立設し、上下の角間に前記の筋交い22を配置した構造である。筋交い22(30×90)を備えた構成である以外は前記の壁フレームAと同じである。
この壁フレームBの四隅内側に補強金物1をビスで取付けて四箇所の角を補強し、補強壁フレームB1としてある(図10ロ)。
補強金物1の取付け手順は前記補強壁フレームAの場合と同様であるが、この実施例では、まず、壁フレームBの筋交い22の上下両端に当たる角に補強金物1を取付ける。具体的には、角に当てつけた補強金物1の柱取付け部3と横架材取付け部4をそれぞれ、例えば柱8と土台10にビス15で固定すると共に、受力面部2のビス孔6から筋交い22にビス止めして補強金物1を筋交い22にも固定する。
【0026】
受力面部2には多数のビス孔6が形成されているので、筋交い22の傾斜がさまざまであっても、また、筋交い22の幅がさまざまであってもいずれも必要本数(7本程度)のビスを打ち込むことができる。
ついで、四つの角に引抜き補強用として改めて補強金物1を取付ける。したがって、壁フレームBの筋交い22の上下端が位置する角では補強金物1が二重となる(図11)。
このように、柱8,9と横架材(土台10、梁11)及び筋交い22の3部材が集まる角が補強金物1で相互にビス止めされることにより、補強壁フレームB1の変形に対する耐力(壁耐力)が約1kN 向上する。
【0027】
補強壁フレームB1の壁耐力を検証した(図13)。比較のために、図2イの壁フレームA(補強金物1、筋交い22がない元フレーム)、図2ロの補強壁フレームA1と壁フレームBに補強金物1とホールダウン金物19を用いて耐震補強した補強壁フレームB2を示している。実験の仕様は前記補強壁フレームA1の場合と同じであり、また、補強壁フレームB1と同B2とは、壁フレームBに取付ける補強金物のタイプだけが異なる。
【0028】
図13の壁フレームA(包絡線A)と補強壁フレームA1(包絡線A1)を対比すると、柱の傾斜1/120rad.となる変形位置で包絡線Aは約0.8KNであるのに対して、包絡線A1の場合は約2kNであって補強金物1を使用することで壁耐力は約2倍となっている。また、補強壁フレームA1は、柱の傾斜1/10rad.付近までそのままなだらかに推移しており、補強壁フレームA1が粘りをもって変形することがわかる。
【0029】
補強壁フレームB1(包絡線B1)と補強壁フレームB2(同B2)は、補強金物1に加え筋交い22を使用していることで、荷重10kNでは、柱の傾斜1/120rad.程度でいずれも高い壁耐力を発揮している。したがって、木造家屋の損傷限界としての評価は非常に高くなる。この傾向は補強壁フレームB1,B2の荷重Fによる変形が35mm程度となるまで持続する。しかし、補強壁フレームB1ではこの付近の荷重13kN程度で筋交い22が折損し、一旦、壁耐力2kN程度急落した後、補強金物1の粘りが発揮されて、変位が140mm程度となるまで前記の包絡線A1と同様の壁耐力の変化が記録される。以後の変位では、何段階かにわたる筋交い22の降伏とそのつどの補強金物1の粘りによる壁耐力の持続を繰り返し、最終的に補強壁A1の包絡線に近づいている。
【0030】
また、補強壁フレームB2では、ホールダウン金物による引抜き抵抗の増強もあって、筋交い22の折損は、変位が1/30rad.弱まで維持され、そこから補強壁フレームB1の場合と同様の変化をたどる。
このように、補強金物1は他の補強手段と組み合わせて使用し、壁フレームに種々の特性を有する壁耐力を付与することができる。
【0031】
以上、実施例は既存住宅の改修補強を中心に説明したが、補強金物1や補強壁フレームA1,B1,B2の構造は新築の場合にも適用できる。
補強金物1の各寸法やビス孔6の数と配置は本願の目的の範囲で種々に変更調整することができる。
取付け状態において、補強金物に対して引張り方向から強いせん断力が作用したとき補強金物を横架材へ固定している部分(横架材取付け部)の柱と反対側が浮き上がるようにする手段はビスの配置を疎にする以外に、部分的に薄くしたり、ビス孔を大きくして抜けやすくするなど、種々なものを採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】壁フレーム補強金物の斜視図。
【図2】イは、壁フレームAの正面図、ロは、補強壁フレームA1の正面図。
【図3】取付け状態を示す斜視図。
【図4】壁フレームの変位を説明するための正面図。
【図5】イは、壁フレームA2の正面図、ロは、壁フレームA3の正面図、ハは、壁フレームA4の正面図。
【図6】柱端部の仕口補強の違いによる壁フレームの耐力的性能比較。
【図7】補強金物の変形状態を説明するための斜視図。
【図8】引抜き耐力を比較した図。
【図9】折損状況を説明するための正面図。
【図10】イは、壁フレームBの正面図、ロは、補強壁フレームB1の正面図。
【図11】筋交いの端部において補強金物を二重に取付けた状態を説明するための図。
【図12】補強壁フレームB2の正面図。
【図13】補強金物の使い方の違いによる耐力比較を示した図。
【符号の説明】
【0033】
1 壁フレーム補強金物(補強金物)
1aは圧縮側に取付けた補強金物
1bは引張り側に取付けた補強金物
2 受力面部
3 柱取付け部
4 横架材取付け部
5 把持用孔
6 ビス孔
7 補強用リブ
8,9 柱
10 土台
11 梁
12 基礎
13 アンカーボルト
14 間柱
15 ビス
16 ロングビット
17 かすがい
18 山形プレート
19 ホールダウン金物
20 しわ
21 従来の補強金物
22 筋交い
【技術分野】
【0001】
この発明は、木造軸組構造の建築物において、柱と横架材との接合箇所に取付けられる壁フレーム補強金物に関する。壁フレームが筋交いを備える場合は、筋交いの補強金物ともなる。
【背景技術】
【0002】
既存木造住宅を耐震性についてみると、耐力壁不足による不安や、柱頭・柱脚の接合部が横架材に緊結されていないことによる柱の引抜きに対する耐力(引抜き耐力)が不足していること等による不安がある。
耐力壁不足に対する木造住宅の壁補強は、合板や石膏ボードなどの面材を張付けた壁補強(例えば特許文献1,2)や、筋交いによる壁補強(例えば、特許文献3,4)が一般的であり、また、これらの補強を施すことで耐震的に大きな効果を期待できる。
【0003】
しかし、面材を張付ける壁補強には、面材を土台から両側の柱及び上部の横架材(梁、桁など)に至る壁フレームの全体に張設する場合(壁耐力5.2kN)と、床上から天井までの間で両側の柱に面材を張設する場合(同2.5kN)があるが、面材を全体に張設する場合は、壁に加えて床や天井などを解体し、構造体である柱や梁全面を補強している。面材を両側の柱間に張設する場合は、床や天井を壊さなくても面材の張付けが可能であるが、天井裏が深い場合には作業をしやすくするために天井を壊すことが多い。筋交いによる壁補強(30×90筋交いで2.4kN)でも同様であり、筋交い端部を現し、剛性の高い接合金物(例えば、特許文献5,6)で補強している。
柱頭・柱脚の引き抜き耐力を補強する場合も同様であり、床や天井の懐が深かったり、施行するスペースが無かったりすると、床や天井を解体して補強するのが一般的である。
【0004】
このように、耐震改修工事は新築のように単に補強工事をするものと異なり、解体や改修といった余計なコストが多々発生し、耐震補強工事促進の妨げとなっている。また、柱頭・柱脚の引抜き耐力を補強するのに壁フレームの角をあまりに剛性の高い金物で固めてしまうと、強い地震力の場合、柱に作用するせん断力が大きくなり、柱と金物との境界で壁フレームが破壊(脆性破壊)されてしまう恐れがある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−263500号公報
【特許文献2】特開2005−105793号公報
【特許文献3】特開平9−209581号公報
【特許文献4】登録実用新案第3015821号公報
【特許文献5】特開平8−319671号公報
【特許文献6】特開平8−120777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、床上や天井下から壁フレームの角を補強金物で補強することにより、面材による床上から天井下までの補強では足りない壁耐力を補ったり、従来、床上や天井下からではできなかった筋交い補強をしたりすることで、解体費と修繕費を抑えた耐震壁補強を実現すると共に、柱頭・柱脚の接合部の引抜き耐力の増強もあわせて実現する。
また、建物に大きな地震力が作用するときにも、補強金物で補強した接合箇所で柱や梁などが脆性的に破壊されてしまう事態を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の補強金物は、全体として長方形をした金物であって、長方形の金属板で形成される受力面部の隣り合う2辺を同じ方向に立ち上げて柱取付け部及び横架材取付け部としてあり、壁フレームの天井裏に位置する角に使用するものでは、金物の長辺を壁フレームの天井裏深さの寸法よりも長くし、床下に位置する角に使用するものでは、金物の長辺を壁フレームの床下深さの寸法よりも長くしてある。
長辺の長さは通常、天井裏、床下の双方に兼用できる長さとする。
【0008】
補強金物は、大きな地震力に対しては変形を許容するが、中程度の地震力では塑性させない金物とし、せん断剛性を抑えたものとする。言い換えると、柱や梁などが脆性的な破壊を起こさないよう金物の降伏を許容したものとする。すなわち、取付け状態において金物に対し圧縮方向から大きな地震力が作用して、強いせん断力を受けた場合は、しわがよるような座屈(以下面座屈)を起こすように、受力面部の面積と板厚との関係を調整する。
【0009】
このように、壁フレームの変形にともなう補強金物の面座屈によって地震力を消費させ、仮に壁フレームが破壊に至るとしてもその経緯を粘り強い靭性的なものにする。また、取付け状態において、金物に対して引張り方向から強いせん断力を受けた場合は、横架材取付け部の柱と反対側が浮き上がる構造として柱の回転を許容し、前記の圧縮側と同様に破壊に至る地震力に際しても粘り強い靭性的な経緯をたどるものにする。
【0010】
この補強金物は、持ち運びや取付けの際に扱いやすいように、横架材取付け部と反対側に把持用孔を形成しておくことがある。
この補強金物は、筋交いの取付け端部を補強するために、受力面部に筋交いへの固定に利用する多数の透孔を形成することがある。
【発明の効果】
【0011】
この発明の補強金物によれば、床上や天井下から壁フレームの角を補強することで、壁フレームの補強及び柱頭・柱脚の接合部の引抜き耐力の増強や筋交い接合部の補強をすることができる。この場合、柱と横架材あるいはこれらと筋交いの接合箇所(すなわち、壁フレームの角)にほぼ長方形をした補強金物を床や天井を残したまま天井下や床上から取付けるというだけであり、大きな部材や大掛かりな工事を必要としないので、簡便な耐震補強工事ですみ、解体費と修繕費を抑えた耐震壁補強となる。そして、従来の面材による床上から天井下までの補強では足りない壁耐力を補ったり、従来、床上や天井下からではできなかった耐震補強工事が可能となる。
【0012】
この補強金物は、受力面部の端部に設けた把持用孔をつかみ、床上や天井下から狭い空間へ差し込んで補強作業を行えるので、天井や床を壊す必要がなく、施工期間を短く、かつ、改修費用を小さくすることができる。
そして、受力面部に多数の透孔が形成されていると、既存の筋交いの傾斜角度が異なっていても、これらの孔のなかから適切なものを選んで、床や天井を残したまま筋交いの端部を柱や梁に結合して補強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の壁フレーム補強金物1(以下、補強金物1)を示す。補強金物1は全体として縦長の長方形であり、この実施例において1.6mm厚の鋼板をプレス成形して、受力面部2、柱取付け部3及び横架材取付け部4を一体に形成してある。柱取付け部3と横架材取付け部4は、受力面部2の隣り合った2辺を同じ側へ立ち上げて形成してある。
受力面部2は、長辺(高さ)が約525mm、短辺(幅)が200mmの長方形(矩形)であり、長辺方向の一端部にすなわち、横架材取付け部4を形成した短辺と反対側の短辺寄りに横長の把持用孔5を形成してある。また、受力面部2の全面にはビスを通すための多数(本実施例では49個)のビス孔6を等間隔で形成してある。
【0014】
柱取付け部3は、受力面部2の一方の長辺を幅20mmで一面側へ直角に折り曲げて成り、縦一列に形成された6個のビス孔6を有する。ビス孔6はこの実施例において、横架材取付け部4から遠い側(図1では上部)に集めて等間隔に配置し、下部を疎に配置してある。
横架材取付け部4は、受力面部2の一方の短辺を幅20mmで柱取付け部3と同じ一面側へ直角に折り曲げて成り、横一列に形成された4個のビス孔6を3個は柱取付け部3側に残りの1個は、他のものとは間隔を取って配置し、柱側で密に反対側に行くほど疎に配置してある。なお、この実施例において、柱取付け部3と横架材取付け部4は隣接する端部が連続しており、また、取付け面2と横架材取付け部との間には折り曲げ部に沿って3個の補強用リブ7が形成されている。
【0015】
図2イは、壁フレーム(壁フレームAとする)であって、左右の柱8,9(105×105×2880)と土台10(下横架材、105×105)及び梁11(上横架材、105×150)とからなり、柱8,9の仕口は短ホゾとしてある(壁強さ倍率1.0kN/m 基準剛性150kN/rad./m)。土台10は、基礎12にアンカーボルト13で固定してある。図において、符合14は間柱、上方の鎖線は天井cの位置、下方の鎖線は床面fの位置を示し、寸法d1は天井裏深さ、寸法d2は床下深さである。
この壁フレームAの四隅内側に補強金物1をビスで取付けて四箇所の角を補強し、補強壁フレームA1としてある(図2ロ)。
なお、この実施例の壁フレーム補強金物1は、天井裏用と床下用とを兼用するものであり、長辺の寸法525mmは、壁フレームAの天井裏深さd1又は床下深さd2よりも大きく設定してある。
【0016】
補強金物1を用いた耐震改修工事は室内側から行われ、まず、補強を必要とする壁フレームAが存在する箇所の内壁を取り外す。天井c、床(床面f)はそのままとする。
そして、壁フレームAの上部に位置する角へ補強金物1を取付ける場合を例にすると、図3のように、補強金物1を把持用孔5を利用して片手で支持し、天井下から残存させてある天井の縁と外壁材との間にできたスペースSに補強金物1の端部を差し込み、柱取付け部3を柱8,9の側面に沿わせるとともに、横架材取付け部4を梁11の下面に押し当てる。この状態を維持しながら、もう一方の手に持った工具でビス15をビス孔6から打込み、柱取付け部3を柱8に、横架材取付け部4を土台10に固定する。横架材取付け部4をビス止めする際は、ビス止め工具のドライバーに補助具を用いて長寸としたロングビット16を利用する。
【0017】
補強金物1を床下に位置する壁フレームAの角に取付けるには、天井の場合と同様に、補強金物1を把持用孔5を利用して握り、床上から残存させた床の縁と外壁材との間にできたスペースSに補強金物1の端部を差し込み、柱取付け部3を柱8,9の側面に沿わせて押し下げ、横架材取付け部4を土台10の上面に押し当てる。その状態を片手で維持しながら一方の手に持った工具でビス止めする。
【0018】
このように、耐震補強された補強壁フレームA、すなわち、補強壁フレームA1に側方から水平荷重Fを加えてこの荷重Fと柱8,9の傾斜(柱頭部の変位量Δd及び傾斜角度rad.)との関係(壁耐力)を調べ、補強壁フレームA1の耐力性能を検証した。補強壁フレームA1と比較するために、図5のように、壁フレームAの角をかすがい17で補強した壁フレームA2,山形プレート18で補強した壁フレームA3及びホールダウン金物19で補強した壁フレームA4を準備し、同じ実験をした。これらは、壁フレームAに取付ける補強金物のタイプだけが異なり、他は同じ構造である。側方からの水平荷重Fは地震時の建物が受ける地震力(揺れの加速度と建物の質量に関係する)に相当する。
【0019】
壁耐力に関する検証の結果を図6に示している。
図から明らかなように、かすがい17や山形プレート18で補強した壁フレームA2,A3では、小さな荷重で大きな変位が生じてしまう。図中、柱の傾斜角度1/120rad.は、木造家屋の損傷限界といわれるものであるが、参考のために示してある。同様に、図において、柱の傾斜角度が1/20rad.〜1/15rad.は、木造家屋における安全限界といわれる領域であり、この領域では壁フレームが筋交いを備えるとき、筋交いが折れるなどの状況となる。
補強した壁フレームA4の壁耐力は、補強された壁フレームA3よりもわずかに高い程度である。
【0020】
これらに対して、補強壁フレームA1は、荷重Fの増加に対して変位量が少なく同じ荷重を加えても柱8,9の変位が小さい。安全限界といわれる傾斜角度1/15rad.を大きく超えてもなお耐力を維持している。これは大きな地震力に粘りをもって対抗することを意味し、家屋が大きく変形しても倒壊しにくい。つまり、壁フレームAの変形に対する耐力が増強され、補強効果が高い。
【0021】
壁耐力実験後の補強壁フレームA1を、観察すると、図7のように、金物に対して圧縮方向からせん断力が作用する圧縮側に設置した補強金物1aの受力面部2に波打つようなしわ20が発生しており(面座屈)、受力面部2が座屈しながら柱8,9の傾きに抵抗していたことがわかる。金物に対して引張り方向からせん断力が作用する引張り側に設置した補強金物1bでは、受力面部2にしわが見られると共に、横架材取付け部4の柱8から遠い側のビス15が抜け落ち、補強金物1が柱8の傾斜にともなって回転(浮き上がり)していたことがわかる。補強金物1は横架材取付け部4のビス15による固定を柱8から遠い側ほど疎としたことで柱8の回転(傾斜)が許容されていたことになる。
【0022】
同時に、柱8,9の柱頭・柱脚部と梁11、土台10との接合部から、補強金物1が脱落することはなく、柱頭・柱脚部の引抜き耐力が維持される。図8は、補強金物1、かすがい17及び山形プレート18を用いた接合箇所の引抜き耐力を示したものであり、補強金物1は、山形プレート18に比べ実用範囲(10kN〜15kN)において変位が大きいが、山形プレート18が変位2mm程度で降伏してしまい、引抜き耐力が大きく低下してしまうのに対して、補強金物1は変位10mmを超えても耐力を維持している。
つまり、補強壁フレームA2,A3では、強い地震力を受けると柱頭・柱脚部に引き抜きが生じて家屋が一挙に倒壊しやすい状態となるが、補強金物1では柱頭、柱脚部の引抜き耐力が大きく、変形の拡大に対して粘りをもって抵抗している。このため、家屋が一挙に倒壊する事態を免れる。
【0023】
結局、補強金物1が取付け状態において圧縮方向から受けるせん断力や引張り方向から受けるせん断力は受力面部2を通じて横架材(土台10、梁11)に伝達されるが、圧縮方向の強いせん断力に対しては、受力面部2が撓むような挙動で対処し、また、引張り方向の強いせん断力に対しては横架材取付け部4を横架材(土台10、梁11など)へ固定しているビス15の外側のものを引き抜くような挙動により、いずれの場合にも補強金物1は中くらいの地震力までは壁フレームの変形に耐力を示すが、強い地震力が作用するときは変形をある程度受入れて壁フレームの変位を粘りのあるものとし、圧縮方向及び引張り方向からのせん断力に対して「柔」に応答している。
【0024】
なお、地震力の大、中、小はここでは壁フレームAの被害程度で定め、大きな地震力は、その力が持続すると壁フレームAが損壊してしまう程度のものをいい、中程度の地震力はその力の持続によって壁フレームAは大きな変形を受けるが倒壊しない程度のものであり、小さな地震力は壁フレームの変形がわずかであって、格別の損傷が見られない程度のものである。圧縮方向からの強いせん断力、引張り方向からの強いせん断力とは柱の傾斜が1/30rad.を超える場合以上を想定しており、大きな地震力が補強金物に作用したときに相当する。
以上のように、補強金物1で耐震壁補強を行うことにより、強い地震力で家屋が一挙に倒壊するのを防止して、避難までの余裕を作り出せると共に、強い地震力が作用したとき従来の補強金物21(図9)が柱のせん断力を上回る程に「剛」であるために従来の補強金物21の端部相当箇所から柱8が折れてしまうという脆弱性を回避することができる。
【0025】
図10イは、壁フレームBであって、土台10と梁11間に柱8,9を立設し、上下の角間に前記の筋交い22を配置した構造である。筋交い22(30×90)を備えた構成である以外は前記の壁フレームAと同じである。
この壁フレームBの四隅内側に補強金物1をビスで取付けて四箇所の角を補強し、補強壁フレームB1としてある(図10ロ)。
補強金物1の取付け手順は前記補強壁フレームAの場合と同様であるが、この実施例では、まず、壁フレームBの筋交い22の上下両端に当たる角に補強金物1を取付ける。具体的には、角に当てつけた補強金物1の柱取付け部3と横架材取付け部4をそれぞれ、例えば柱8と土台10にビス15で固定すると共に、受力面部2のビス孔6から筋交い22にビス止めして補強金物1を筋交い22にも固定する。
【0026】
受力面部2には多数のビス孔6が形成されているので、筋交い22の傾斜がさまざまであっても、また、筋交い22の幅がさまざまであってもいずれも必要本数(7本程度)のビスを打ち込むことができる。
ついで、四つの角に引抜き補強用として改めて補強金物1を取付ける。したがって、壁フレームBの筋交い22の上下端が位置する角では補強金物1が二重となる(図11)。
このように、柱8,9と横架材(土台10、梁11)及び筋交い22の3部材が集まる角が補強金物1で相互にビス止めされることにより、補強壁フレームB1の変形に対する耐力(壁耐力)が約1kN 向上する。
【0027】
補強壁フレームB1の壁耐力を検証した(図13)。比較のために、図2イの壁フレームA(補強金物1、筋交い22がない元フレーム)、図2ロの補強壁フレームA1と壁フレームBに補強金物1とホールダウン金物19を用いて耐震補強した補強壁フレームB2を示している。実験の仕様は前記補強壁フレームA1の場合と同じであり、また、補強壁フレームB1と同B2とは、壁フレームBに取付ける補強金物のタイプだけが異なる。
【0028】
図13の壁フレームA(包絡線A)と補強壁フレームA1(包絡線A1)を対比すると、柱の傾斜1/120rad.となる変形位置で包絡線Aは約0.8KNであるのに対して、包絡線A1の場合は約2kNであって補強金物1を使用することで壁耐力は約2倍となっている。また、補強壁フレームA1は、柱の傾斜1/10rad.付近までそのままなだらかに推移しており、補強壁フレームA1が粘りをもって変形することがわかる。
【0029】
補強壁フレームB1(包絡線B1)と補強壁フレームB2(同B2)は、補強金物1に加え筋交い22を使用していることで、荷重10kNでは、柱の傾斜1/120rad.程度でいずれも高い壁耐力を発揮している。したがって、木造家屋の損傷限界としての評価は非常に高くなる。この傾向は補強壁フレームB1,B2の荷重Fによる変形が35mm程度となるまで持続する。しかし、補強壁フレームB1ではこの付近の荷重13kN程度で筋交い22が折損し、一旦、壁耐力2kN程度急落した後、補強金物1の粘りが発揮されて、変位が140mm程度となるまで前記の包絡線A1と同様の壁耐力の変化が記録される。以後の変位では、何段階かにわたる筋交い22の降伏とそのつどの補強金物1の粘りによる壁耐力の持続を繰り返し、最終的に補強壁A1の包絡線に近づいている。
【0030】
また、補強壁フレームB2では、ホールダウン金物による引抜き抵抗の増強もあって、筋交い22の折損は、変位が1/30rad.弱まで維持され、そこから補強壁フレームB1の場合と同様の変化をたどる。
このように、補強金物1は他の補強手段と組み合わせて使用し、壁フレームに種々の特性を有する壁耐力を付与することができる。
【0031】
以上、実施例は既存住宅の改修補強を中心に説明したが、補強金物1や補強壁フレームA1,B1,B2の構造は新築の場合にも適用できる。
補強金物1の各寸法やビス孔6の数と配置は本願の目的の範囲で種々に変更調整することができる。
取付け状態において、補強金物に対して引張り方向から強いせん断力が作用したとき補強金物を横架材へ固定している部分(横架材取付け部)の柱と反対側が浮き上がるようにする手段はビスの配置を疎にする以外に、部分的に薄くしたり、ビス孔を大きくして抜けやすくするなど、種々なものを採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】壁フレーム補強金物の斜視図。
【図2】イは、壁フレームAの正面図、ロは、補強壁フレームA1の正面図。
【図3】取付け状態を示す斜視図。
【図4】壁フレームの変位を説明するための正面図。
【図5】イは、壁フレームA2の正面図、ロは、壁フレームA3の正面図、ハは、壁フレームA4の正面図。
【図6】柱端部の仕口補強の違いによる壁フレームの耐力的性能比較。
【図7】補強金物の変形状態を説明するための斜視図。
【図8】引抜き耐力を比較した図。
【図9】折損状況を説明するための正面図。
【図10】イは、壁フレームBの正面図、ロは、補強壁フレームB1の正面図。
【図11】筋交いの端部において補強金物を二重に取付けた状態を説明するための図。
【図12】補強壁フレームB2の正面図。
【図13】補強金物の使い方の違いによる耐力比較を示した図。
【符号の説明】
【0033】
1 壁フレーム補強金物(補強金物)
1aは圧縮側に取付けた補強金物
1bは引張り側に取付けた補強金物
2 受力面部
3 柱取付け部
4 横架材取付け部
5 把持用孔
6 ビス孔
7 補強用リブ
8,9 柱
10 土台
11 梁
12 基礎
13 アンカーボルト
14 間柱
15 ビス
16 ロングビット
17 かすがい
18 山形プレート
19 ホールダウン金物
20 しわ
21 従来の補強金物
22 筋交い
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体としてほぼ長方形の金物であって、長方形の金属板で形成される受力面部の隣り合う2辺が同じ方向に立ち上げられて柱取付け部及び横架材取付け部とされており、受力面部は、取付け状態において、金物に対して圧縮方向から強いせん断力を受けると、面座屈を生じる厚さとされ、この金物の長辺を壁フレームの天井裏寸法又は床下寸法よりも長くしてあることを特徴とした壁フレーム補強金物。
【請求項2】
受力面部に筋交いへの取付けに利用する多数の孔を形成してあることを特徴とした請求項1に記載の壁フレーム補強金物。
【請求項3】
受力面部の横架材取付け部と反対側の短辺寄りに把持用孔を形成してあることを特徴とした請求項1又は2に記載の壁フレーム補強金物。
【請求項4】
壁フレーム補強金物は、取付け状態において、金物に対して引張り方向から強いせん断力を受けると、横架材取付け部の柱と反対側がビス止めに抗して浮き上がる構成としてあることを特徴とした壁フレーム補強金物。
【請求項1】
全体としてほぼ長方形の金物であって、長方形の金属板で形成される受力面部の隣り合う2辺が同じ方向に立ち上げられて柱取付け部及び横架材取付け部とされており、受力面部は、取付け状態において、金物に対して圧縮方向から強いせん断力を受けると、面座屈を生じる厚さとされ、この金物の長辺を壁フレームの天井裏寸法又は床下寸法よりも長くしてあることを特徴とした壁フレーム補強金物。
【請求項2】
受力面部に筋交いへの取付けに利用する多数の孔を形成してあることを特徴とした請求項1に記載の壁フレーム補強金物。
【請求項3】
受力面部の横架材取付け部と反対側の短辺寄りに把持用孔を形成してあることを特徴とした請求項1又は2に記載の壁フレーム補強金物。
【請求項4】
壁フレーム補強金物は、取付け状態において、金物に対して引張り方向から強いせん断力を受けると、横架材取付け部の柱と反対側がビス止めに抗して浮き上がる構成としてあることを特徴とした壁フレーム補強金物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−13588(P2009−13588A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173102(P2007−173102)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(503473954)株式会社住宅構造研究所 (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(503473954)株式会社住宅構造研究所 (20)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]