説明

射出成形体、樹脂製滑り軸受、樹脂製歯車、冠型樹脂製保持器、樹脂製シールおよび転がり軸受

【課題】射出成形体である樹脂製保持器、樹脂製シール、樹脂製滑り軸受、樹脂製歯車の射出成形時の流動性を確保しながら、該成形体の機械的強度および靭性を高め、さらに耐摩耗性を向上させる。
【解決手段】樹脂組成物が生分解性を有するポリエステル系高分子、特にポリブチレンサクシネートに、繊維状物無機補強材を10重量%以上、40重量%以下と、ポリカルボジイミド樹脂を0.5重量%以上、10重量%以下とを配合してなり、この樹脂組成物を射出成形して得られる射出成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形体、樹脂製滑り軸受、樹脂製歯車、転がり軸受用冠型樹脂製保持器、転がり軸受用樹脂製シールおよび転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受に使用される樹脂製摺動部材、とりわけ保持器やシールを構成する樹脂製摺動部材においては、従来、化石資源由来のエンジニアリングプラスチックや合成ゴムのような、自然環境中で分解されない部材が採用されてきた。しかし環境問題に対する意識が高まり、地球環境を悪くしない環境対応製品として軸受各社から生分解性を有する樹脂成形体からなる保持器、シールや滑り軸受、歯車が提案されている(特許文献1〜特許文献3参照)。
一方、生分解性プラスチック材料にカルボジイミド化合物を配合することにより生分解速度を調節した生分解性プラスチック組成物が知られている(特許文献4参照)。
【0003】
樹脂製保持器、樹脂製シール、樹脂製滑り軸受、樹脂製歯車など機械要素部品に用いられる摺動性樹脂組成物からなる成形体は、剛性、耐疲労性、靭性等の機械的特性、耐油性、耐摩耗性などの化学/機械的特性が求められるが、生分解性樹脂単独では特に機械的強度、剛性、柔軟性、耐摩耗性で要求機能を満足することが困難である場合が多く、通常、ガラス繊維や炭素繊維のような無機物よりなる補強材、ゴム成分等の靭性付与剤や柔軟性向上剤、耐油性改良剤等の添加材が転がり軸受用樹脂製保持器や樹脂製シールに多く配合されている。
【0004】
しかしながら、一般に樹脂材料に補強材を添加することで強度向上を行なうと、いわゆる機械的伸びや歪みなどで表される靭性が低下し、また射出成形時の流動性も悪化する。
このため、例えば機械的強度・剛性の向上を目的に、高分子に無機物系の添加材量を増加すると、靭性が不十分となり、射出成形による保持器の生産性が著しく損なわれる場合がある。例えば、樹脂製保持器には玉やコロなどの転動体を保持するポケット部があるが、この部分は射出成形後の金型からの取り出し時に無理抜きとなる。樹脂製シールの場合でも、内径側に設けられたリップ部も無理抜きとなる場合が多い。また、組み立てを要する保持器や、保持器、シールの軸受への組み込み時にスナップフィットのような変形を伴う場合もある。このような無理抜きや変形を伴う組み立てや使用用途では、強度ではなく、歪みに対する耐性が求められるため、強度が高くても、低靭性の材料の場合は無理抜き時にクレーズ発生による白化や、クラック発生、場合によっては折損する問題がある。
また、射出成形により製造する樹脂製保持器や樹脂製シールは、金属などからプレスにより製造する保持器より複雑形状を経済的に製造できる長所があるが、多量の無機物系の添加材の配合により強度付与した場合、成形時の流動性が低下することから、射出成形性樹脂保持器等の長所である形状の自由度が著しく制限される問題がある。
また、生分解性樹脂材料は母材そのものの耐摩耗性が高くなく、摺動部材としての適用範囲は限られているため、樹脂製滑り軸受や樹脂製歯車として適用する場合には耐摩耗性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3993377号
【特許文献2】特開2004-068913
【特許文献3】特開平10−212400
【特許文献4】特許第3776578号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、射出成形体である樹脂製保持器、樹脂製シール、樹脂製滑り軸受、樹脂製歯車の射出成形時の流動性を確保しながら、該成形体の機械的強度および靭性を高め、さらに耐摩耗性を向上させることができる射出成形体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の射出成形体は、樹脂組成物の射出成形体であって、上記樹脂組成物は、エステル結合を分子内に有する高分子と、無機補強材と、カルボジイミド構造を有する有機物とを配合してなる樹脂組成物であることを特徴とする。
また、エステル結合を分子内に有する高分子が生分解性を有するポリエステル系高分子であり、特にポリブチレンサクシネートであることを特徴とする。
また、樹脂組成物に配合される無機補強材が繊維状補強材であり、この無機補強材の配合量が樹脂組成物全体に対して、10重量%以上、40重量%以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の射出成形体は、上記樹脂組成物に配合されるカルボジイミド構造を有する有機物がポリカルボジイミド樹脂であり、このポリカルボジイミド樹脂の配合量が樹脂組成物全体に対して、0.5重量%以上、10重量%以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の転がり軸受用冠型樹脂製保持器、転がり軸受用樹脂製シール、樹脂製滑り軸受、または樹脂製歯車は、上記樹脂組成物の射出成形体からなることを特徴とする。
【0010】
本発明の転がり軸受は、上記本発明の冠型樹脂製保持器および樹脂製シールの少なくとも1つを構成要素として含む転がり軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の射出成形体は、エステル結合を分子内に有する高分子材料に、無機補強材と、カルボジイミド構造を有する有機物とを配合してなる樹脂組成物の成形体であるので、優れた射出成形性を確保したまま、機械的強度と靭性を同時に向上させることができる。
機械的強度と靭性を同時に向上した結果、本発明の射出成形体は、射出成形後の金型より取り出すときに無理抜きとなる、または、組み立て時や使用時にスナップフィットのような変形を伴う用途に好適に使用できる。例えば、複雑で薄肉形状の高強度冠型樹脂製保持器もしくは軸受用樹脂製シールが射出成形により製造可能となる。
また、本発明の射出成形体は高い耐摩耗性を有するため、樹脂製滑り軸受や樹脂製歯車への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】冠型樹脂製保持器の部分拡大斜視図である。
【図2】樹脂製シールの切り欠き斜視図である。
【図3】グリース封入深溝玉軸受の断面図である。
【図4】樹脂製滑り軸受の一例を示す断面図である。
【図5】樹脂製滑り軸受の他の例を示す断面図である。
【図6】樹脂製歯車の斜視図である。
【図7】本発明における摩擦摩耗試験の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の射出成形体は、エステル結合を分子内に有する高分子に無機補強材およびカルボジイミド構造を有する有機物を配合してなる樹脂組成物を射出成形して得られる。
本発明に使用できるエステル結合を分子内に有する高分子としては、射出成形が可能であり、高分子主鎖中にエステル結合を有するポリエステル系高分子であるならば、脂肪族ポリエステル系高分子、芳香族ポリエステル系高分子等に限定されず使用できる。また生分解性を有するポリエステル系高分子、化石資源を原料とするポリエステル系高分子、更には澱粉や糖などの天然資源(バイオマス)を原料とするいわゆるバイオマスポリエステル系高分子を用いることができる。
本発明は、特に強度と靭性を併せて向上することが困難な生分解性ポリエステル系高分子やバイオマスポリエステル系高分子に対して特に有効であり、好ましい。
【0014】
生分解性ポリエステル系高分子は、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、ポリアルキレンアルカノエート等が挙げられる。
ポリ(α−ヒドロキシ酸)としては、ポリ乳酸(以下、PLAと略称する)やポリグリコール酸等が挙げられ、ポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)としては、ヒドロキシ吉草酸とヒドロキシ酪酸との共重合体等が挙げられる。また、ポリアルキレンアルカノエートとしては、1,4−ブタンジオールとコハク酸との脱水縮合物(すなわちポリブチレンサクシネート(PBS))、ポリエチレンテレフタレート−ブチレンアジペート共重合体等のポリエチレンテレフタレート共重合体等が挙げられる。耐熱性に優れていることを考慮すると、上記のPBS、ポリエチレンテレフタレート−ブチレンアジペート共重合体等のポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリヒドロキシ酪酸もしくはL体、D体、ステレオコンプレックス型などの各種PLA類、またはそれらの混合物もしくは共重合体が好ましい。より好ましくはPBSである。
【0015】
二酸化炭素の排出量低減にも寄与できることから、バイオマス由来原料をその一部または全部に用いて製造することができるものが好ましい。このような例として、PBS、PLA等を挙げることができる。
なお、バイオマス由来原料を用いた樹脂であるかどうかは、樹脂を構成している炭素について、放射性同位元素である炭素14(14C)の濃度を測定することで判別できる。14Cの半減期は5730年であることから、1千万年以上の歳月を経て生成されるとされる化石資源由来の炭素には14Cが全く含まれない。このことから高分子部材中に14Cが含まれていれば、少なくともバイオマス由来の原料を用いていると判断できる。
【0016】
樹脂組成物に配合できる無機補強材は、上記高分子に対してよく分散して、使用目的に応じた強度を付与するものであれば、特にその種類および形状を限定することなく使用できる。無機補強材の具体例としては、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウイスカ、酸化亜鉛ウイスカ、硫酸カルシウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ等の繊維状充填材が挙げられる。また、マイカ、タルク等の無機配合材が挙げられる。
上記無機補強材を生分解性樹脂などの上記高分子に対して使用する場合、配合量は10〜40重量%が好ましい。配合量が10重量%未満であると強度が十分でない場合が多く、また配合量が40重量%をこえると靭性が低下し脆くなる場合が多いため、射出成形性が著しく損なわれる場合がある。
なお、無機補強材の配合量が40重量%をこえると生分解性樹脂の場合は生分解性が損なわれるので特に好ましくない。
【0017】
本発明に使用できるカルボジイミド構造を有する有機物は、ポリカルボジイミド樹脂を用いることが好ましい。
ポリカルボジイミド樹脂は、ポリイソシアナートと、分子量調節剤としてのモノイソシアネートとをカルボジイミド化触媒の存在下で脱炭酸縮合反応させることにより得られる。
ポリイソシアナートとしては、有機ジイソシアナート類が好ましく、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等を例示することができる。
また、モノイソシアネートとしては、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等を例示することができる。
カルボジイミド化触媒としては、例えば、3−メチル−1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシド、3−メチル−1−エチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1,3−ジメチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−エチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−メチル−2−フォスフォレン−1−オキシドおよびこれらの二重結合異性体を例示することができ、これらの中で工業的に入手の容易な3−メチル−1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシドが好ましい。
ポリカルボジイミド樹脂の市販品としては、日清紡績(株)社製商品名カルボジライトが挙げられる。
【0018】
上記ポリカルボジイミド樹脂の配合量は、樹脂組成物全体に対して、0.5重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。0.5重量%未満では、成形体の機械的強度および靭性を高めることができず、10重量%をこえると成形体表面が粘着状になりやすく、成形時に金型に貼り付く成形不良や、組み立て時や運搬時等に異物が付着するおそれがある。
【0019】
上記樹脂組成物には、射出成形で得られる射出成形体の用途に応じて、熱、紫外線、酸化や加水分解等による劣化を抑制する劣化抑制剤や劣化防止剤、成形性や成形体の柔軟性を向上する為の可塑剤、柔軟剤、帯電防止剤や導電材等の添加剤、分散剤や顔料等を添加することができる。
また成形体の耐衝撃を向上するための、例えばゴム変性等の耐衝撃向上手法や、ラジカル発生剤、架橋剤、放射線や電子線等による架橋構造の導入による耐熱性向上手法を用いることができる。
その他、ガスバリア性や防水性、撥水性、耐熱性、潤滑性向上等を目的にダイヤモンドライクカーボン(DLC)など無機物系表面処理や樹脂コーティングなどの有機物系表面処理を施すことができる。
【0020】
上記樹脂組成物を射出成形して得られる本発明の射出成形体の態様として、射出成形後の金型より取り出すときに無理抜き部を有するものや、成形体を他部品と締結したり、製品として使用する際にスナップフィットのような変形を伴うものがある。本発明の射出成形体は優れた射出成形性を確保したまま、機械的強度と靭性を同時に向上させることができるので、無理抜き部を有する射出成形体であっても生産性を低下させることなく製造できる。無理抜き部を有する射出成形体として、また組み立て時や使用時に変形を伴う射出成形体としては、転がり軸受用冠型樹脂製保持器や組み立てを要する樹脂保持器、または転がり軸受用樹脂製シールなどが挙げられる。
また、本発明の射出成形体は優れた射出成形性を確保したまま、耐摩耗性も向上させることができるため、樹脂製滑り軸受や樹脂製歯車にも適用できる。
【0021】
本発明の射出成形体である転がり軸受用冠型樹脂製保持器の一例を図1に示す。図1は樹脂組成物を一体成形した冠型樹脂製保持器の部分拡大斜視図である。転がり軸受用保持器1は、環状の保持器本体2上面に周方向に一定ピッチをおいて対向一対の保持器爪3を形成し、その対向する各保持器爪3を相互に接近する方向にわん曲させるとともに、その保持器爪3間に転動体としてのボールを保持する転動体保持用ポケット4を形成したものである。また、隣接するポケット4における相互に隣接する保持器爪3の背面相互間に、保持器爪3の立ち上がり基準面となる平坦部5が形成される。
図1に示す保持器を射出成形する場合、保持器爪3のわん曲している先端部3aは、金型から取り出すときに無理抜きされる。そのため、この部分に亀裂や白化が生じる場合がある。
本発明は上記樹脂組成物を用いるので、この無理抜き時に発生する亀裂や白化を抑えることができる。
【0022】
本発明の射出成形体である転がり軸受用樹脂製シールの一例を図2に示す。図2は樹脂製シールの切り欠き斜視図である。
樹脂製シール6は、軸受外輪の内径面に形成されているシール部材係止溝に係止される外周縁部6aと、シール部材を補強する金属板(芯金)6bと、軸受内輪軌道の両側に設けられた周方向のシール溝に摺接するシールリップ6dと、シールリップ6dに軸径方向に設けられた切欠き6cとを有している。
図2に示すシールを射出成形する場合、シールリップ6dまたは6d’は、金型から取り出すときに無理抜きされる。そのため、この部分に亀裂や白化が生じる場合がある。
本発明は上記樹脂組成物を用いるので、この無理抜き時に発生する亀裂や白化を抑えることができる。
【0023】
上記冠型樹脂製保持器と樹脂製シールとを用いた転がり軸受の一例を図3に示す。図3はグリース封入深溝玉軸受の断面図である。
グリース封入深溝玉軸受7は、外周面に転走面8aを有する内輪8と内周面に転走面9aを有する外輪9とが同心に配置され、内輪の転走面8aと外輪の転走面9aとの間に複数個の転動体10が介在して配置される。この複数個の転動体10を保持する冠型樹脂製保持器1および外輪9に固定される樹脂製シール6とにより構成される。転動体10の周囲に潤滑グリース11が封入される。
グリース封入深溝玉軸受7は冠型樹脂製保持器1および樹脂製シール6少なくとも1つが上記本願発明の成形体を用いて製造されていればよい。
【0024】
本発明の転がり軸受の潤滑方式は、上記したグリース潤滑以外に、油潤滑、エアオイル潤滑、固体潤滑等、どのような方法を採用してもよい。またグリース潤滑や油を使った潤滑の場合、それらには、従来から用いられている鉱油等の化石資源由来材だけでなく、生分解性を付与したものやバイオマス由来材を適用したものを用いることができる。
また、本発明の転がり軸受は、玉軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受等、任意の転がり軸受のいずれであってもよい。
【0025】
本発明の射出成形体である樹脂製滑り軸受の一例を図4に示す。図4は樹脂製滑り軸受の断面図である。
図4に示すように、射出成形によって一体成形した樹脂製滑り軸受12は、軸に対する摺動面が円筒形状の射出成形体13の内周面13aであり、反摺動面が円筒形状の射出成形体13の外周面13bであり、この外周面13bが相手材(図示せず)に固定される。射出成形体13は、上記樹脂組成物を射出成形したものである。
【0026】
また、本発明の射出成形体である樹脂製滑り軸受の他の例を図5に示す。図5(a)〜図5(e)は、それぞれ樹脂製滑り軸受の断面図である。
樹脂製滑り軸受14は、金属または焼結金属からなる成形体16に、上記樹脂組成物をインサート成形(射出成形体15)して複合化したものである。このとき、射出成形体15と成形体16との接合は、高い密着性を得ることができれば、任意の接着手段を採用できる。一例としては、アンカー効果、エポキシ樹脂用の接着剤、シランカップリング処理などが挙げられる。樹脂製滑り軸受14の形状としては、フランジ付きブッシュ型(図5(a))、スラスト型(図5(b))、ラジアル型(図5(d))、スラストおよびラジアル混合型(図5(c)、(e))等があり、摺動部の形状に合わせて最適な軸受形状を選択できる。また、摺動面に溝を設けた形状とすることもできる。
【0027】
本発明の射出成形体である樹脂製歯車の一例を図6に示す。図6は画像形成装置における定着部周辺の部分拡大斜視図である。
図6において、17は駆動ギアを、18は定着ローラギアを、19はアイドラギアを、20は排紙ローラギアを、21はヒータを、22は排紙ローラを、23は定着ローラをそれぞれ示す。これらの中で駆動ギア17と、定着ローラギア18と、アイドラギア19と、排紙ローラギア20とが本発明の樹脂製歯車である。
【実施例】
【0028】
本発明の各実施例および各比較例において使用した材料を以下に示す。なお、( )内は表1に示す略号を表す。
(1)高分子:ポリブチレンサクシネート樹脂(PBS)、昭和高分子社製ビオノーレ#1020
(2)無機補強材:ガラス繊維(GF)、オーウェンスコーニングジャパン社製CS03JA429T
(3)カルボジイミド構造を有する有機物:ポリカルボジイミド樹脂(PCDI)、日清紡績社製カルボジライトLA−1
【0029】
実施例1〜8および比較例1〜5
表1に示す配合で二軸混練機を用いて成形用ペレットを製造した。ガラス繊維(GF)およびポリカルボジイミド樹脂(PCDI)はサイドフィードを用いて添加した。配合基準は重量%である。
得られたそれぞれのペレットを用いて、80℃で、10時間乾燥した後、射出成形することによって射出成形体を得た。射出成形体として、曲げ強度試験用試験片および冠型樹脂製保持器を形成した。曲げ強度試験用試験片を用いて曲げ強度試験を、冠型樹脂製保持器成形の過程で保持器成形性を評価した。
【0030】
【表1】

【0031】
曲げ強度試験
JIS規格K7171に従って曲げ強度試験を行なった。厚み3mmの試験片を用い、支点間距離50mm、曲げ速度1mm/min、室温で曲げ強度および曲げ歪みを測定した。結果を表2に示す。
保持器成形試験
608相当の転がり軸受(外径:22mm、内径:8mm、幅:7mm)に用いることが可能な冠型保持器を成形し成形の可否を確認した。クラック等が発生することなく射出成形可能だったものを○、射出成形金型からの取り出し時にクラック等の発生したものを成形不可とし×とした。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
保持器成形試験において、クラック等が発生することなく射出成形可能だった射出成形体と同一の高分子および同一のガラス繊維(GF)配合量の比較例を基準として、対応する実施例を比較評価した。靭性については曲げ歪みで評価した。結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3に示すように、強度増減率および靭性増減率が全て増加を示しており、保持器の射出成形性を維持したまま、強度と靭性を同時に向上できることが示された。また例えば、表2に示すように、ほぼ同一の曲げ強度を有する実施例4と比較例5を較べると、保持器成形性に有意差が見られ、ポリカルボジイミド樹脂(PCDI)配合の有効性は明らかである。
【0036】
摩擦摩耗試験
得られたダンベル形状の試験片の表面を研磨紙(#2000)で研磨し、樹脂スキン層を除去した上で表面粗さを整えリング状試験片を得た。得られたリング状試験片を用いて摩擦摩耗試験をサバン型摩擦摩耗試験機にて行なった。図7(a)はサバン摩擦摩耗試験機の正面図を、図7(b)は側面図をそれぞれ表す。回転軸25にリング状試験片24を取り付け、アーム部26のエアスライダー28に鋼板27〔SCM415浸炭焼入れ焼戻し処理品(Hv 700、表面粗さRa 0.01μm)〕を固定する。リング状試験片24は所定の荷重29を図面上方から印加されながら鋼板27に回転接触する。所定時間運転した試験片の比摩耗量を調査した。条件を下記に、結果を表4に示す。
相手材:SUJ2
温度:室温
評価時間:1時間
周速:0.05m/sec
荷重:200N 潤滑油:なし
【0037】
【表4】

【0038】
ポリカルボジイミドを添加した実施例1〜実施例8では未添加の比較例1〜比較例4に比べて比摩耗量が減少し、耐摩耗性が向上したことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の射出成形体は、優れた射出成形性を確保したまま、機械的強度と靭性を同時に向上させることができるので、複雑で薄肉形状の成形体や成形体の使用時、または成形体と他部品との組み立て時等にスナップフィットのような変形を伴う用途に好適に適用でき、例えば樹脂製保持器や樹脂製シールに応用できる。また、本発明の射出成形体は高い耐摩耗性を有するため、樹脂製滑り軸受や樹脂製歯車の摺動性部材として適用が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 転がり軸受用保持器
2 保持器本体
3 保持器爪
4 ポケット
5 平坦部
6 樹脂製シール
7 グリース封入深溝玉軸受
8 内輪
9 外輪
10 転動体
11 潤滑グリース
12、14 樹脂製滑り軸受
13、15 射出成形体
16 金属または焼結金属からなる成形体
17 駆動ギア
18 定着ローラギア
19 アイドラギア
20 ローラギア
21 ヒータ
22 排紙ローラ
23 定着ローラ
24 リング状試験片
25 回転軸
26 アーム部
27 鋼鈑
28 エアスライダー
29 荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物の射出成形体であって、
前記樹脂組成物は、エステル結合を分子内に有する高分子と、無機補強材と、カルボジイミド構造を有する有機物とを配合してなる樹脂組成物であることを特徴とする射出成形体。
【請求項2】
前記高分子が生分解性を有するポリエステル系高分子であることを特徴とする請求項1記載の射出成形体。
【請求項3】
前記生分解性を有するポリエステル系高分子がポリブチレンサクシネートであることを特徴とする請求項2記載の射出成形体。
【請求項4】
前記無機補強材が繊維状補強材であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の射出成形体。
【請求項5】
前記無機補強材の配合量が樹脂組成物全体に対して、10重量%以上、40重量%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の射出成形体。
【請求項6】
前記カルボジイミド構造を有する有機物がポリカルボジイミド樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の射出成形体。
【請求項7】
前記ポリカルボジイミド樹脂の配合量が樹脂組成物全体に対して、0.5重量%以上、10重量%以下であることを特徴とする請求項6記載の射出成形体。
【請求項8】
樹脂組成物の射出成形体からなる転がり軸受用冠型樹脂製保持器であって、
前記射出成形体が請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の射出成形体であることを特徴とする転がり軸受用冠型樹脂製保持器。
【請求項9】
樹脂組成物の射出成形体からなる転がり軸受用樹脂製シールであって、
前記射出成形体が請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の射出成形体であることを特徴とする転がり軸受用樹脂製シール。
【請求項10】
冠型樹脂製保持器および樹脂製シールの少なくとも1つを構成要素として含む転がり軸受であって、
前記冠型樹脂製保持器が請求項8記載の転がり軸受用冠型樹脂製保持器であり、前記樹脂製シールが請求項9記載の転がり軸受用樹脂製シールであることを特徴とする転がり軸受。
【請求項11】
樹脂組成物の射出成形体からなる樹脂製滑り軸受であって、
前記射出成形体が請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の射出成形体であることを特徴とする樹脂製滑り軸受。
【請求項12】
樹脂組成物の射出成形体からなる樹脂製歯車であって、
前記射出成形体が請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の射出成形体であることを特徴とする樹脂製歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−90364(P2010−90364A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197965(P2009−197965)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】