説明

小型スピーカユニットおよびその多数個取り製造方法

【課題】 多数個取りに適した構成の磁気駆動方式を用い、全構成要素の各々を、多数個のユニット分の要素を含む板状の集合体としてそれらを積層体にし、ユニット毎に切り出して、多数個を同時に製造し得る小型スピーカユニットとその製造方法の提供。
【解決手段】 各ユニット分について、磁気駆動方式のボイスコイルは一筆書で繋いで平面展開した複数のコイルターンを振動板にプリントしたものとし、磁気回路は複数のコイルターンに対応して磁石板に設けた複数の開口穴と、これ等開口穴に挿入されるようにヨーク板に設けた複数の突起とで形成し、それぞれ多数個のユニット分のこれら要素を持つ振動板と、振動板の振動スペースを維持するフレームと、磁石板と、ヨーク板とを積層したのち、各ユニットを切り出して、多数個の小型スピーカユニットを同時に製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型全面駆動スピーカのような多数個取りを可能とする小型スピーカユニットを多数個同時に製造して、生産性を飛躍的に向上させる小型スピーカユニットとその多数個取りの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば携帯電話機等に広く用いられる小型スピーカは一般に1個取りの工程を介して製造されるため、各構成部品の製作から加工、組立までの工数が増えると共に、治具の組合せや作業員の手作業に依存する工程数も増え、加えて部品ごとの品質のばらつきも多くなり、製造コストの削減は困難であった。そのため、多数個取りの生産方式を採用して工数を削減し、品質を安定化できるマイクロスピーカとその製造方法が提案されている(特許文献1参照)。この文献によれば、マイクロスピーカはその磁気回路がヨークの中心軸に磁石とトッププレートの中心穴を挿通してなり、製造方法は、多数個取りできる集合状態のフレーム部材に、個別に組み立てた磁気回路部材を個々に組み込み、この集合状態のフレーム部材に、振動板を多数個取りできる集合状態の振動板部材を組み込み、集合状態の振動板部材の各々に、個別に組み立てたボイスコイルを個々に組み込み、それによって得た集合状態のマイクロスピーカを個々に分割する各工程でなることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−222697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1が開示するマイクロスピーカでは、磁気回路のヨークの中心軸を磁石とトッププレートの中心穴に挿通するので、部材数と工程数がむしろ増加し、方法においては、フレーム及び振動板のみが多数個取り可能な集合状態で用いられるが、それぞれ別の工程において用意され、別の工程において別の部材の個々と組み合わされた後、多数個取りのスピーカユニットとなるため、フレームと振動板のそれぞれについては多数個取りが行われているとしても、スピーカユニットそのものが実質的に多数個取りされているとは言えず、それぞれの部材の組立て工程数も実質的に削減されていないという課題があった。これは、小型のスピーカユニットにおいて磁気駆動方式を形成する磁気回路とボイスコイルの構成がそのまま多数個取り方式に適合し得るものではないことにも起因する。
【0005】
本発明は上記の課題を解決して、多数個取り方式に適合し得る構成の磁気駆動方式を採用したスピーカユニットを提供すると共に、スピーカユニットの全構成要素のそれぞれをm行n列で多数個取り可能な集合体として用意し、積層してm×n個のスピーカユニットを一度に製造可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的達成のため、請求項1に係る本発明の小型スピーカユニットは、所定単位領域内に所定数のコイルターンを一筆書きで展開してプリントしたボイスコイルを備える振動板と、四辺を振動板の周縁に当接して振動板の振動スペースを確保するフレームと、振動板のボイスコイルターンの各々に対応する開口穴を有すると共に厚さ方向に着磁した磁石層と、磁石層の開口穴に挿入されると共に実質的に磁石層の厚さと同じ高さの突起を有する導磁体とを記載順序で含む積層体でなることを特徴とする。
請求項2に係る本発明は、請求項1に記載の小型スピーカユニットにおいて、積層体はフレームと磁石層との間に不織布を挿入してなることを特徴とする。
また、上記目的達成のため、請求項3に係る本発明の小型スピーカユニットの多数個取り製造方法は、それぞれ所定単位領域内に所定数のコイルターンを一筆書きで展開してm行n列にプリントしたm×n個の単位ユニットのボイスコイルを備えるm行n列の振動板集合体と、m行n列のそれぞれの振動板の周縁に四辺を当接するm行n列のフレーム集合体と、それぞれ振動板の単位ユニットのボイスコイルターンのおのおのに対応する開口穴を有するm行n列の磁石層集合体と、それぞれ磁石層の開口穴に挿入されて磁石層の厚さと実質的に同じ高さの突起を有するm行n列の導磁体集合体とを、記載の順序に積層して積層体集合体を作製する工程と、積層体集合体を単位ユニットごとにm×n個の積層体に切断する工程と、各積層体の磁石層をその厚さ方向に着磁する工程とよりなることを特徴とする。
請求項4に係る本発明は、請求項3に記載の小型スピーカユニットの多数個取り製造方法において、m行n列の積層体集合体がフレーム集合体と磁石層集合体との間にm行n列の不織布集合体を介在させてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小型スピーカユニットを構成する磁気駆動方式の、特にボイスコイルを単位ごとに所定数のコイルターン(巻き)の一筆書きで接続展開したパターン(型)でフィルム状の振動板上にプリントしたものとして薄型平板化し、同様に薄型平板化した磁石層とヨークによる磁気回路と組合わせて、構成要素のそれぞれを平板化し、スピーカユニットごとに積層体として構成することを可能とした。それによって積層体の各要素を多数個のスピーカユニットの各要素をユニット単位でm行n列形式で備える集合体とし、これら集合体を積層した後、m×n個の積層体に切断することにより、小型スピーカユニットの多数個取りを可能とし、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による小型スピーカユニットの積層体集合体の構成を示すと同時に、その小型スピーカユニットの多数個取り製造方法の積層工程を示す斜視図。
【図2】図1の積層体集合体を個々の小型スピーカユニットに切断する態様と、切断したその1個をやや拡大して一筆書きボイスコイルパターンの1例を示す平面図。
【図3】本発明の小型スピーカユニットにおけるボイスコイルパターンの更に他の1例を示し、(a)はその平面図、(b)は磁気回路を含むその断面図。
【図4】本発明の小型スピーカユニットにおけるボイスコイルパターンの更に別の例を示す平面図。
【図5】本発明の小型スピーカユニット磁気駆動方式として採用する磁気回路における駆動力発生のメカニズムを示し、(a)は単なる板状磁石の場合、(b)は板状磁石に多数の開口穴を設けた場合、(c)は開口穴に導磁体の突起を挿入した場合、(d)は(c)の漏洩磁束ループにボイスコイルを組み込んだ場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
本発明の実施に当たって、先ずボイスコイルとして平面構成を特徴とする全面駆動スピーカに係る本発明者による先発明(特願2009−088946)に提案したものを採用している。そのボイスコイルの構成の概略を述べれば、ボイスコイルは、それぞれ隣接する小径円の磁気ギャップの円形の一方の半部を次々に列の一端からたどり、列の他端で磁気ギャップの円形の他方の半部に繋いで列の始めの一端まで他方の半部を次々にたどる一筆書きパターンで形成され、振動板上にプリントされる。つまり、従来は円筒状に積み重ねられたコイルターンは、交差する箇所がないように一筆書きして平面に展開されたことになる。
【0010】
図1に、本発明の多数個取りを可能とする小型スピーカユニット製造方法の主要な工程である積層工程を示し、平面に展開した所定数のターンのボイスコイル11をプリントした振動板1と、振動板の振動スペースを確保する開口21を有するフレーム2と、振動板1の過大な振動を抑える不織布3と、ボイスコイル11の各ターンに対応する開口穴41を要する磁石層4と、開口穴41に挿入される突起51を有するヨークとしての導磁体5とを、それぞれ複数のスピーカユニットの集合体として、記載の順序で下層として、つまり、振動板1を最上層として積層する。各層は何れも任意の複数のスピーカユニット分の要素をm行n列の配列で含む集合体として形成され、それぞれ集合体のまま積層され、積層体を形成する。
【0011】
ここで、製造するスピーカユニットに過大な振動が見込まれないときなどには、不織布3は省略しても良い。磁石層4としては、薄さと切り出し加工の容易さから見てボンド磁石板またはラバー磁石板を用いることが望ましい。また、ヨークとして用いる導磁体5には薄鉄板や鉄箔などに例えばプレス加工により磁石層の厚さと同じ高さの突起51を設けるが、突起51は開口穴41より径の小さい円柱、円錐またはこれらに近似する形状でよい。
【0012】
図2に、m行n列の積層体をスピーカユニット(1〜5)mnごとに切断して、一挙にm×n個のスピーカユニットを製造する切断工程を示す。切断工程後、図5に見られるように、各スピーカユニットの磁石層4mnをその厚さ方向に着磁する着磁工程を経て、振動板上のボイスコイル11の各ターンを通る磁束ループを発生させ、本発明の製造方法は完了する。
【0013】
図1または図2に示す振動板集合体1は、例として、4行4列に配列した各スピーカユニット用のボイスコイル11と、各ボイスコイル11のコイルパターンとして、平面に展開して一筆書きで接続した4個の円形コイルターンとでなる。図2中、集合体のスピーカユニット(1〜5)においてはコイルパターンは簡略に模式的に示すが、切断後のやや拡大して示すスピーカユニット(1〜5)mnでは一筆書きの1例が示してある。ボイスコイル11の始端と終端は外部配線との接続部12として、各スピーカユニットの縁部に引き出される。
【0014】
本発明により製造される小型スピーカユニットの外形とボイスコイルパターンの配列は図1または2に示すものに限定されない。図3(a),(b)に示す一例では、小型スピーカユニットの振動板1は外形を正方形とし、その表面に3行3列で合計9個のコイルターンを一筆書きで接続してなるボイスコイル11をプリントし、接続部12を2つのコーナーに引出している。磁石層4の開口穴41と導磁体5の突起51が、フレーム2の開口21と不織布3を介して、ボイスコイルの各ターンに対応し、磁気駆動方式が形成される。
【0015】
更に、図4に示す他の例では、振動板1は外形を正六角形とし、その表面の6個のコーナーに対応する6個と中央の1個の合計7個のコイルターンを一筆書きで接続したボイスコイル11が用いられ、この正六角形のコイルパターンのパターンに適合するパターンで磁石層4に設けた開口穴41と、同様に導磁体5に設けた突起51が各コイルターンに対応する。
【0016】
ここで図5(a)〜(d)を参照して本発明が用いる磁気駆動方式のメカニズムについて述べる。前述のスピーカユニットの積層体に用いる磁石層4はボンド磁石またはラバー磁石でなることが望ましいが、この磁石層4が単に板状で開口穴がない場合には、板の厚さ方向に着磁しても、発生する磁束ループは板状磁石の周縁にできるもののみであり、磁気駆動方式としては効率が悪い。そこで図5(b)に示すように多数の開口穴41を設けると、磁束ループは開口穴の周縁にも発生するので、方式として効率が上がる。更に、図5(c)のように、例えば薄鉄板による導磁体5にプレスなどで磁石層の厚さと同程度の高さに設けた円柱、円錐またはこれらに近似する形状の突起51を開口穴41に挿入すると、外磁型磁気回路でプレートがない場合に近似した状態が得られる。このときの磁束ループの水平部分に、図5(d)のように、一筆書きボイスコイル11を錯交させれば、コイル電流に応じてコイルと振動板が振動する。
【符号の説明】
【0017】
1 振動板集合体
11 ボイスコイル
12 接続部
2 フレーム集合体
21 開口
3 不織布
4 磁石層集合体
41 開口穴
5 導磁体集合体
51 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定単位領域内に所定数のコイルターンを一筆書きで展開してプリントしたボイスコイルを備える振動板と、四辺を振動板の周縁に当接して振動板の振動スペースを確保するフレームと、振動板のボイスコイルターンの各々に対応する開口穴を有すると共に厚さ方向に着磁した磁石層と、磁石層の開口穴に挿入されると共に実質的に磁石層の厚さと同じ高さの突起を有する導磁体とを記載順序で含む積層体でなることを特徴とする小型スピーカユニット。
【請求項2】
積層体はフレームと磁石層との間に不織布を挿入してなることを特徴とする、請求項1に記載の小型スピーカユニット。
【請求項3】
それぞれ所定単位領域内に所定数のコイルターンを一筆書きで展開してm行n列にプリントしたm×n個の単位ユニットのボイスコイルを備えるm行n列の振動板集合体と、m行n列のそれぞれの振動板の周縁に四辺を当接するm行n列のフレーム集合体と、それぞれ振動板の単位ユニットのボイスコイルターンのおのおのに対応する開口穴を有するm行n列の磁石層集合体と、それぞれ磁石層の開口穴に挿入されて磁石層の厚さと実質的に同じ高さの突起を有するm行n列の導磁体集合体とを、記載の順序に積層して積層体集合体を作製する工程と、積層体集合体を単位ユニットごとにm×n個の積層体に切断する工程と、各積層体の磁石層をその厚さ方向に着磁する工程とよりなることを特徴とする、小型スピーカユニットの多数個取り製造方法。
【請求項4】
m行n列の積層体集合体がフレーム集合体と磁石層集合体との間にm行n列の不織布集合体を介在させてなることを特徴とする、請求項3に記載の小型スピーカユニットの多数個取り製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−166210(P2011−166210A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23166(P2010−23166)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000112565)フォスター電機株式会社 (113)
【Fターム(参考)】