小型固体レーザ素子
【課題】レーザ結晶と波長変換結晶を光学接着剤にて接着してなる小型固体レーザ素子において、レーザのノイズを小さくする。
【解決手段】基本波光の波長をλとするとき、レーザ結晶(1)と光学接着剤(4)の界面にAl2O3のλ/4膜(5)を形成し、光学接着剤(4)と波長変換結晶(2)の界面にAl2O3のλ/4膜(6)およびSiO2のλ/4膜(7)を形成し、基本波光に対する接着部の界面反射率を2.5%以上とした。
【効果】基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【解決手段】基本波光の波長をλとするとき、レーザ結晶(1)と光学接着剤(4)の界面にAl2O3のλ/4膜(5)を形成し、光学接着剤(4)と波長変換結晶(2)の界面にAl2O3のλ/4膜(6)およびSiO2のλ/4膜(7)を形成し、基本波光に対する接着部の界面反射率を2.5%以上とした。
【効果】基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型固体レーザ素子に関し、さらに詳しくは、レーザ結晶と波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着してなる小型固体レーザ素子において、レーザのノイズを小さくしうる小型固体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ結晶と波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着すると共に、レーザ結晶の出射端面または波長変換結晶の入射端面に、2次高調波光を反射する反射膜を形成し、2次高調波光がレーザ結晶内を通過しないように構成したレーザ発振装置が知られている(特許文献1参照。)。
また、レーザ結晶と波長変換結晶とを光学接着剤またはオプティカルコンタクトにて一体に接着した光学素子が知られている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−310743号公報
【特許文献2】特開2007−225786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のレーザ発振装置では、レーザ結晶の出射端面に形成した反射膜における基本波光の透過率が99%以上であり、波長変換結晶の入射端面に形成した反射膜における基本波光の透過率が99%以上であった。すなわち、レーザ結晶の出射端面に形成した反射膜や波長変換結晶の入射端面に形成した反射膜では、基本波光をほとんど反射しないようにしていた。
ところが、基本波光をほとんど反射しない場合、モード間の損失の差が小さくなり、複数のモードが同じように発振し、レーザのノイズが大きくなってしまう問題があった。
【0005】
また、上記従来の光学素子では、レーザ結晶と波長変換結晶の屈折率が近接している場合、光学接着剤の光学的膜厚がλ/4の偶数倍の近傍になると接着部での界面反射率が小さくなり、基本波光をほとんど反射せず、モード間の損失の差がなくなり、複数のモードで同じように発振し、レーザのノイズが大きくなる問題点があった。さらに、レーザ結晶の屈折率をn1とし波長変換結晶の屈折率をn2とし、光学接着剤の屈折率が√(n1×n2)に近い場合、光学接着剤の光学的膜厚がλ/4の奇数倍の近傍になると接着部での界面反射率が小さくなり、基本波光をほとんど反射せず、モード間の損失の差がなくなり、複数のモードで同じように発振し、レーザのノイズが大きくなる問題点があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、レーザ結晶と波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着してなる小型固体レーザ素子において、レーザのノイズを小さくしうる小型固体レーザ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点では、本発明は、基本波光を出射するレーザ結晶と波長変換光を出射する波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着してなる小型固体レーザ素子において、前記レーザ結晶と前記光学接着剤の界面および前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面の少なくとも一方に、基本波光に対する界面反射率を2.5%以上とする誘電体薄膜を形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子を提供する。
上記構成において、界面反射率とは、間に介在している誘電体薄膜と光学接着剤、及び、両光学結晶の端面を含んだ反射率をいう。
上記第1の観点による小型固体レーザ素子では、レーザ結晶と光学接着剤の界面および光学接着剤と波長変換結晶の界面の少なくとも一方に誘電体薄膜を形成し、基本波光に対する界面反射率を2.5%以上とした。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【0008】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による小型固体レーザ素子において、基本波光の波長をλとするとき、前記レーザ結晶と前記光学接着剤の界面にAl2O3のλ/4膜を形成し、前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面にAl2O3のλ/4膜およびSiO2のλ/4膜の対を1対形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子(10)を提供する。
上記第2の観点による小型固体レーザ素子では、基本波光に対する界面反射率が10%以上となる。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。また、基本波光に対する界面反射率が光学接着剤の厚さに依存しなくなり、光学接着剤の厚さによる特性のばらつきをなくすことが出来る。
【0009】
第3の観点では、本発明は、前記第1の観点による小型固体レーザ素子において、基本波光の波長をλとするとき、前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面にAl2O3のλ/4膜とSiO2のλ/4膜の対を2対形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子(20)を提供する。
上記第3の観点による小型固体レーザ素子では、基本波光に対する界面反射率が2.5%以上となる。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の小型固体レーザ素子によれば、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1に係る小型固体レーザ素子を示す斜視図である。
【図2】実施例1に係るレーザ結晶と波長変換結晶の接着部における界面反射率を示すグラフである。
【図3】実施例2に係る小型固体レーザ素子を示す斜視図である。
【図4】実施例2に係るレーザ結晶と波長変換結晶の接着部における界面反射率を示すグラフである。
【図5】公知の小型固体レーザ素子を示す斜視図である。
【図6】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=0)の界面反射率を示すグラフである。
【図7】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/8)の界面反射率を示すグラフである。
【図8】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/4)の界面反射率を示すグラフである。
【図9】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=3λ/8)の界面反射率を示すグラフである。
【図10】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/2)の界面反射率を示すグラフである。
【図11】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/4)の1つのモードに着目し、温度を変化させて、透過率を計算したグラフである。
【図12】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/4)の1つのモードに着目し、温度を変化させて、波長を計算したグラフである。
【図13】公知の小型固体レーザ素子における光学接着剤の光学的膜厚に対する透過率を示すグラフである。
【図14】公知の小型固体レーザ素子における光学接着剤の光学的膜厚に対する界面反射率を示すグラフである。
【図15】実施例1や実施例2で光学接着剤の光学的膜厚をλ/2としたものに対して界面反射率を計算し、その結果と図13,図14を統合して得られたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
−実施例1−
図1は、実施例1に係る小型固体レーザ素子10を示す断面図である。
この小型固体レーザ素子10は、半導体レーザからの励起レーザ光Liにより励起されて基本波光を出射するレーザ結晶1と、基本波光の高調波である波長変換レーザ光Loを出射する波長変換結晶2と、波長変換結晶2をサンドイッチ状に挟むダミー材3とを具備している。
【0014】
Al2O3のλ/4膜5が形成されたレーザ結晶1の出射端面と、Al2O3のλ/4膜6およびSiO2のλ/4膜7の対が形成された波長変換結晶2の入射端面とは、任意の厚さの光学接着剤4により接着されている。なお、λ=1.0644μmとする。
【0015】
小型固体レーザ素子10の両端面には、HR薄膜1a,2aをコーティングしている。これらHR薄膜1a,2aは、それぞれ屈折率1.5/2.5のλ/4膜の対を10対積層したものである。
【0016】
レーザ結晶1は、NdドープYVO4である。長さは500μmである。
波長変換結晶2は、LTを周期的に分極反転したQPMである。長さは1000μmである。
【0017】
図2に示す実線は、レーザ結晶1と波長変換結晶2の接着部における界面反射率(波長λでの反射率)を示すグラフである。なお、Al2O3の屈折率を1.8とし、SiO2の屈折率を1.5とし、光学接着剤の屈折率を1.5とした。
光学接着剤4の光学的膜厚に対して、界面反射率は約12%で一定である。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
また、基本波光に対する界面反射率が光学接着剤4の厚さに依存しなくなり、光学接着剤4の厚さによる特性のばらつきをなくすことが出来る。
【0018】
一方、図2に示す破線は、レーザ結晶1の出射端面および波長変換結晶2の入射端面に誘電体薄膜が無い場合のレーザ結晶1と波長変換結晶2の接着部における界面反射率を示すグラフである。
レーザ結晶1と波長変換結晶2の屈折率が近接している場合、光学接着剤4の光学的膜厚がλ/4の偶数倍の近傍になると界面反射率が小さくなり、基本波光をほとんど反射せず、モード間の損失の差がなくなり、複数のモードで同じように発振し、レーザのノイズが大きくなる。
また、基本波光に対する界面反射率が光学接着剤4の厚さに依存し、光学接着剤4の厚さによる特性のばらつきを生じる。
【0019】
−実施例2−
図3は、実施例2に係る小型固体レーザ素子20を示す断面図である。
この小型固体レーザ素子20は、半導体レーザからの励起レーザ光Liにより励起されて基本波光を出射するレーザ結晶1と、基本波光の高調波である波長変換レーザ光Loを出射する波長変換結晶2と、波長変換結晶2をサンドイッチ状に挟むダミー材3とを具備している。
【0020】
レーザ結晶1の出射端面と、Al2O3のλ/4膜5およびSiO2のλ/4膜6の対並びにAl2O3のλ/4膜7およびSiO2のλ/4膜8の対が形成された波長変換結晶2の入射端面とは、任意の厚さの光学接着剤4により接着されている。なお、λ=1.0644μmとする。
【0021】
小型固体レーザ素子20の両端面には、HR薄膜1a,2aをコーティングしている。これらHR薄膜1a,2aは、それぞれ屈折率1.5/2.5のλ/4膜の対を10対積層したものである。
【0022】
レーザ結晶1は、NdドープYVO4である。長さは500μmである。
波長変換結晶2は、LTを周期的に分極反転したQPMである。長さは1000μmである。
【0023】
図4に示す実線は、レーザ結晶1と波長変換結晶2の接着部における界面反射率(波長λでの反射率)を示すグラフである。なお、Al2O3の屈折率を1.8とし、SiO2の屈折率を1.5とし、光学接着剤の屈折率を1.5とした。
光学接着剤4の光学的膜厚に対して、界面反射率は2.5%以上である。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【0024】
一方、図4に示す破線は、レーザ結晶1の出射端面および波長変換結晶2の入射端面に誘電体薄膜が無い場合のレーザ結晶1と波長変換結晶2の接着部における界面反射率を示すグラフである。
レーザ結晶1と波長変換結晶2の屈折率が近接している場合、光学接着剤4の光学的膜厚がλ/4の偶数倍の近傍になると界面反射率が小さくなり、基本波光をほとんど反射せず、モード間の損失の差がなくなり、複数のモードで同じように発振し、レーザのノイズが大きくなる。
【0025】
−光学接着剤の光学的膜厚と界面反射率の関係−
図5に示すように、レーザ結晶1の出射端面および波長変換結晶2の入射端面に誘電体薄膜が無い以外は実施例1と同様の小型固体レーザ素子50について、波長に対する接着部の透過率を調べた。
【0026】
図6は、光学接着剤の光学的膜厚=0の場合である。
モード間の損失の差がない。
【0027】
図7は、光学接着剤の光学的膜厚=λ/8の場合である。
モード間にやや損失の差がある。
【0028】
図8は、光学接着剤の光学的膜厚=λ/4の場合である。
モード間の損失の差がある。
【0029】
図9は、光学接着剤の光学的膜厚=3λ/8の場合である。
モード間にやや損失の差がある。
【0030】
図10は、光学接着剤の光学的膜厚=λ/2の場合である。
モード間の損失の差がない。
【0031】
図6〜図10において、共振器の縦モードが立つ波長に透過率のピークがあり、透過率の高いもの程、増幅の度合いが大きいと考えられる。
光学接着剤4の光学的膜厚が0およびλ/2のときは各モード間の透過率に差が無いが、これはレーザ結晶1のYVO4と波長変換結晶2のLT4の屈折率がほぼ等しいためである。
一方、光学接着剤4の光学的膜厚がλ/4のときは各モード間の透過率の差は最大になり、ほぼモード3つごとに透過率がピークになっている。これはレーザ結晶1がエタロンとして機能しており、かつ、全共振器の光学的長さ:レーザ結晶1の光学的長さが3:1となっているためである。
【0032】
図11は、1つのモードに着目し、温度を変化させて、透過率を計算したグラフである。また、図12は、1つのモードに着目し、温度を変化させて、波長を計算したグラフである。
光学接着剤4の光学的膜厚はλ/4とした。なお、レーザ結晶1の線膨張係数α=4.43E−6,屈折率温度係数dn/dt=2.9E−6とし、波長変換結晶2の線膨張係数α=1.62E−5,屈折率温度係数dn/dt=5.0E−6とし、これらに対する温度の影響は無視した。また、HR薄膜1a,2aおよび光学接着剤4は、膜厚が薄いため、温度の影響は無視した。
透過率は、「1」と「浅い方のボトム(矢印a)」の間および「1」と「深い方のボトム(矢印b)」の間を往復する。
波長は、直線的に変化する。
【0033】
図13は、光学接着剤4の光学的膜厚を横軸に取り、「浅い方のボトム」の透過率を計算したグラフである。また、図14は、光学接着剤4の光学的膜厚を横軸に取り、界面反射率を計算したグラフである。
【0034】
実施例1や実施例2で光学接着剤4の光学的膜厚をλ/2としたものに対しても、図11,図12と類似の結果が得られる。
【0035】
図15は、実施例1や実施例2で光学接着剤4の光学的膜厚をλ/2としたものに対して界面反射率を計算し、その結果と図13,図14を統合して得られたグラフである。
黒四角は、図5に示す小型固体レーザ素子50の場合である。
cは、実施例1で光学接着剤4の光学的膜厚をλ/2とした場合である。
dは、実施例2で光学接着剤4の光学的膜厚をλ/2とした場合である。
図15から判るように、界面反射率と透過率には一貫した関係がある。換言すれば、界面反射率によりモード間の透過率差の大小(モード選択性)が決まることが判る。これは、レーザ結晶1がエタロンとして機能し、接着部での界面反射率が決まればエタロンのフィネスが決まるため、各モードの透過率が決定されるからと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の小型固体レーザ素子は、レーザ光源に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 レーザ結晶
1a HR薄膜
2 波長変換結晶
2a HR薄膜
3 ダミー材
4 光学接着剤
5,7 Al2O3のλ/4膜
6,8 SiO2のλ/4膜
10,20,50 小型固体レーザ素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型固体レーザ素子に関し、さらに詳しくは、レーザ結晶と波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着してなる小型固体レーザ素子において、レーザのノイズを小さくしうる小型固体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ結晶と波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着すると共に、レーザ結晶の出射端面または波長変換結晶の入射端面に、2次高調波光を反射する反射膜を形成し、2次高調波光がレーザ結晶内を通過しないように構成したレーザ発振装置が知られている(特許文献1参照。)。
また、レーザ結晶と波長変換結晶とを光学接着剤またはオプティカルコンタクトにて一体に接着した光学素子が知られている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−310743号公報
【特許文献2】特開2007−225786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のレーザ発振装置では、レーザ結晶の出射端面に形成した反射膜における基本波光の透過率が99%以上であり、波長変換結晶の入射端面に形成した反射膜における基本波光の透過率が99%以上であった。すなわち、レーザ結晶の出射端面に形成した反射膜や波長変換結晶の入射端面に形成した反射膜では、基本波光をほとんど反射しないようにしていた。
ところが、基本波光をほとんど反射しない場合、モード間の損失の差が小さくなり、複数のモードが同じように発振し、レーザのノイズが大きくなってしまう問題があった。
【0005】
また、上記従来の光学素子では、レーザ結晶と波長変換結晶の屈折率が近接している場合、光学接着剤の光学的膜厚がλ/4の偶数倍の近傍になると接着部での界面反射率が小さくなり、基本波光をほとんど反射せず、モード間の損失の差がなくなり、複数のモードで同じように発振し、レーザのノイズが大きくなる問題点があった。さらに、レーザ結晶の屈折率をn1とし波長変換結晶の屈折率をn2とし、光学接着剤の屈折率が√(n1×n2)に近い場合、光学接着剤の光学的膜厚がλ/4の奇数倍の近傍になると接着部での界面反射率が小さくなり、基本波光をほとんど反射せず、モード間の損失の差がなくなり、複数のモードで同じように発振し、レーザのノイズが大きくなる問題点があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、レーザ結晶と波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着してなる小型固体レーザ素子において、レーザのノイズを小さくしうる小型固体レーザ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点では、本発明は、基本波光を出射するレーザ結晶と波長変換光を出射する波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着してなる小型固体レーザ素子において、前記レーザ結晶と前記光学接着剤の界面および前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面の少なくとも一方に、基本波光に対する界面反射率を2.5%以上とする誘電体薄膜を形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子を提供する。
上記構成において、界面反射率とは、間に介在している誘電体薄膜と光学接着剤、及び、両光学結晶の端面を含んだ反射率をいう。
上記第1の観点による小型固体レーザ素子では、レーザ結晶と光学接着剤の界面および光学接着剤と波長変換結晶の界面の少なくとも一方に誘電体薄膜を形成し、基本波光に対する界面反射率を2.5%以上とした。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【0008】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による小型固体レーザ素子において、基本波光の波長をλとするとき、前記レーザ結晶と前記光学接着剤の界面にAl2O3のλ/4膜を形成し、前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面にAl2O3のλ/4膜およびSiO2のλ/4膜の対を1対形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子(10)を提供する。
上記第2の観点による小型固体レーザ素子では、基本波光に対する界面反射率が10%以上となる。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。また、基本波光に対する界面反射率が光学接着剤の厚さに依存しなくなり、光学接着剤の厚さによる特性のばらつきをなくすことが出来る。
【0009】
第3の観点では、本発明は、前記第1の観点による小型固体レーザ素子において、基本波光の波長をλとするとき、前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面にAl2O3のλ/4膜とSiO2のλ/4膜の対を2対形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子(20)を提供する。
上記第3の観点による小型固体レーザ素子では、基本波光に対する界面反射率が2.5%以上となる。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の小型固体レーザ素子によれば、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1に係る小型固体レーザ素子を示す斜視図である。
【図2】実施例1に係るレーザ結晶と波長変換結晶の接着部における界面反射率を示すグラフである。
【図3】実施例2に係る小型固体レーザ素子を示す斜視図である。
【図4】実施例2に係るレーザ結晶と波長変換結晶の接着部における界面反射率を示すグラフである。
【図5】公知の小型固体レーザ素子を示す斜視図である。
【図6】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=0)の界面反射率を示すグラフである。
【図7】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/8)の界面反射率を示すグラフである。
【図8】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/4)の界面反射率を示すグラフである。
【図9】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=3λ/8)の界面反射率を示すグラフである。
【図10】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/2)の界面反射率を示すグラフである。
【図11】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/4)の1つのモードに着目し、温度を変化させて、透過率を計算したグラフである。
【図12】公知の小型固体レーザ素子(光学接着剤の光学的膜厚=λ/4)の1つのモードに着目し、温度を変化させて、波長を計算したグラフである。
【図13】公知の小型固体レーザ素子における光学接着剤の光学的膜厚に対する透過率を示すグラフである。
【図14】公知の小型固体レーザ素子における光学接着剤の光学的膜厚に対する界面反射率を示すグラフである。
【図15】実施例1や実施例2で光学接着剤の光学的膜厚をλ/2としたものに対して界面反射率を計算し、その結果と図13,図14を統合して得られたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
−実施例1−
図1は、実施例1に係る小型固体レーザ素子10を示す断面図である。
この小型固体レーザ素子10は、半導体レーザからの励起レーザ光Liにより励起されて基本波光を出射するレーザ結晶1と、基本波光の高調波である波長変換レーザ光Loを出射する波長変換結晶2と、波長変換結晶2をサンドイッチ状に挟むダミー材3とを具備している。
【0014】
Al2O3のλ/4膜5が形成されたレーザ結晶1の出射端面と、Al2O3のλ/4膜6およびSiO2のλ/4膜7の対が形成された波長変換結晶2の入射端面とは、任意の厚さの光学接着剤4により接着されている。なお、λ=1.0644μmとする。
【0015】
小型固体レーザ素子10の両端面には、HR薄膜1a,2aをコーティングしている。これらHR薄膜1a,2aは、それぞれ屈折率1.5/2.5のλ/4膜の対を10対積層したものである。
【0016】
レーザ結晶1は、NdドープYVO4である。長さは500μmである。
波長変換結晶2は、LTを周期的に分極反転したQPMである。長さは1000μmである。
【0017】
図2に示す実線は、レーザ結晶1と波長変換結晶2の接着部における界面反射率(波長λでの反射率)を示すグラフである。なお、Al2O3の屈折率を1.8とし、SiO2の屈折率を1.5とし、光学接着剤の屈折率を1.5とした。
光学接着剤4の光学的膜厚に対して、界面反射率は約12%で一定である。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
また、基本波光に対する界面反射率が光学接着剤4の厚さに依存しなくなり、光学接着剤4の厚さによる特性のばらつきをなくすことが出来る。
【0018】
一方、図2に示す破線は、レーザ結晶1の出射端面および波長変換結晶2の入射端面に誘電体薄膜が無い場合のレーザ結晶1と波長変換結晶2の接着部における界面反射率を示すグラフである。
レーザ結晶1と波長変換結晶2の屈折率が近接している場合、光学接着剤4の光学的膜厚がλ/4の偶数倍の近傍になると界面反射率が小さくなり、基本波光をほとんど反射せず、モード間の損失の差がなくなり、複数のモードで同じように発振し、レーザのノイズが大きくなる。
また、基本波光に対する界面反射率が光学接着剤4の厚さに依存し、光学接着剤4の厚さによる特性のばらつきを生じる。
【0019】
−実施例2−
図3は、実施例2に係る小型固体レーザ素子20を示す断面図である。
この小型固体レーザ素子20は、半導体レーザからの励起レーザ光Liにより励起されて基本波光を出射するレーザ結晶1と、基本波光の高調波である波長変換レーザ光Loを出射する波長変換結晶2と、波長変換結晶2をサンドイッチ状に挟むダミー材3とを具備している。
【0020】
レーザ結晶1の出射端面と、Al2O3のλ/4膜5およびSiO2のλ/4膜6の対並びにAl2O3のλ/4膜7およびSiO2のλ/4膜8の対が形成された波長変換結晶2の入射端面とは、任意の厚さの光学接着剤4により接着されている。なお、λ=1.0644μmとする。
【0021】
小型固体レーザ素子20の両端面には、HR薄膜1a,2aをコーティングしている。これらHR薄膜1a,2aは、それぞれ屈折率1.5/2.5のλ/4膜の対を10対積層したものである。
【0022】
レーザ結晶1は、NdドープYVO4である。長さは500μmである。
波長変換結晶2は、LTを周期的に分極反転したQPMである。長さは1000μmである。
【0023】
図4に示す実線は、レーザ結晶1と波長変換結晶2の接着部における界面反射率(波長λでの反射率)を示すグラフである。なお、Al2O3の屈折率を1.8とし、SiO2の屈折率を1.5とし、光学接着剤の屈折率を1.5とした。
光学接着剤4の光学的膜厚に対して、界面反射率は2.5%以上である。このため、基本波光をほとんど反射しない場合に比べてモード間の損失の差が大きくなり、複数のモードの発振に差ができて、レーザのノイズを小さくすることが出来る。
【0024】
一方、図4に示す破線は、レーザ結晶1の出射端面および波長変換結晶2の入射端面に誘電体薄膜が無い場合のレーザ結晶1と波長変換結晶2の接着部における界面反射率を示すグラフである。
レーザ結晶1と波長変換結晶2の屈折率が近接している場合、光学接着剤4の光学的膜厚がλ/4の偶数倍の近傍になると界面反射率が小さくなり、基本波光をほとんど反射せず、モード間の損失の差がなくなり、複数のモードで同じように発振し、レーザのノイズが大きくなる。
【0025】
−光学接着剤の光学的膜厚と界面反射率の関係−
図5に示すように、レーザ結晶1の出射端面および波長変換結晶2の入射端面に誘電体薄膜が無い以外は実施例1と同様の小型固体レーザ素子50について、波長に対する接着部の透過率を調べた。
【0026】
図6は、光学接着剤の光学的膜厚=0の場合である。
モード間の損失の差がない。
【0027】
図7は、光学接着剤の光学的膜厚=λ/8の場合である。
モード間にやや損失の差がある。
【0028】
図8は、光学接着剤の光学的膜厚=λ/4の場合である。
モード間の損失の差がある。
【0029】
図9は、光学接着剤の光学的膜厚=3λ/8の場合である。
モード間にやや損失の差がある。
【0030】
図10は、光学接着剤の光学的膜厚=λ/2の場合である。
モード間の損失の差がない。
【0031】
図6〜図10において、共振器の縦モードが立つ波長に透過率のピークがあり、透過率の高いもの程、増幅の度合いが大きいと考えられる。
光学接着剤4の光学的膜厚が0およびλ/2のときは各モード間の透過率に差が無いが、これはレーザ結晶1のYVO4と波長変換結晶2のLT4の屈折率がほぼ等しいためである。
一方、光学接着剤4の光学的膜厚がλ/4のときは各モード間の透過率の差は最大になり、ほぼモード3つごとに透過率がピークになっている。これはレーザ結晶1がエタロンとして機能しており、かつ、全共振器の光学的長さ:レーザ結晶1の光学的長さが3:1となっているためである。
【0032】
図11は、1つのモードに着目し、温度を変化させて、透過率を計算したグラフである。また、図12は、1つのモードに着目し、温度を変化させて、波長を計算したグラフである。
光学接着剤4の光学的膜厚はλ/4とした。なお、レーザ結晶1の線膨張係数α=4.43E−6,屈折率温度係数dn/dt=2.9E−6とし、波長変換結晶2の線膨張係数α=1.62E−5,屈折率温度係数dn/dt=5.0E−6とし、これらに対する温度の影響は無視した。また、HR薄膜1a,2aおよび光学接着剤4は、膜厚が薄いため、温度の影響は無視した。
透過率は、「1」と「浅い方のボトム(矢印a)」の間および「1」と「深い方のボトム(矢印b)」の間を往復する。
波長は、直線的に変化する。
【0033】
図13は、光学接着剤4の光学的膜厚を横軸に取り、「浅い方のボトム」の透過率を計算したグラフである。また、図14は、光学接着剤4の光学的膜厚を横軸に取り、界面反射率を計算したグラフである。
【0034】
実施例1や実施例2で光学接着剤4の光学的膜厚をλ/2としたものに対しても、図11,図12と類似の結果が得られる。
【0035】
図15は、実施例1や実施例2で光学接着剤4の光学的膜厚をλ/2としたものに対して界面反射率を計算し、その結果と図13,図14を統合して得られたグラフである。
黒四角は、図5に示す小型固体レーザ素子50の場合である。
cは、実施例1で光学接着剤4の光学的膜厚をλ/2とした場合である。
dは、実施例2で光学接着剤4の光学的膜厚をλ/2とした場合である。
図15から判るように、界面反射率と透過率には一貫した関係がある。換言すれば、界面反射率によりモード間の透過率差の大小(モード選択性)が決まることが判る。これは、レーザ結晶1がエタロンとして機能し、接着部での界面反射率が決まればエタロンのフィネスが決まるため、各モードの透過率が決定されるからと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の小型固体レーザ素子は、レーザ光源に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 レーザ結晶
1a HR薄膜
2 波長変換結晶
2a HR薄膜
3 ダミー材
4 光学接着剤
5,7 Al2O3のλ/4膜
6,8 SiO2のλ/4膜
10,20,50 小型固体レーザ素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本波光を出射するレーザ結晶と波長変換光を出射する波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着してなる小型固体レーザ素子において、前記レーザ結晶と前記光学接着剤の界面および前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面の少なくとも一方に、基本波光に対する界面反射率を2.5%以上とする誘電体薄膜を形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子。
【請求項2】
請求項1に記載の小型固体レーザ素子において、基本波光の波長をλとするとき、前記レーザ結晶と前記光学接着剤の界面にAl2O3のλ/4膜を形成し、前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面にAl2O3のλ/4膜およびSiO2のλ/4膜の対を1対形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子(10)。
【請求項3】
請求項1に記載の小型固体レーザ素子において、基本波光の波長をλとするとき、前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面にAl2O3のλ/4膜とSiO2のλ/4膜の対を2対形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子(20)。
【請求項1】
基本波光を出射するレーザ結晶と波長変換光を出射する波長変換結晶とを光学接着剤にて一体に接着してなる小型固体レーザ素子において、前記レーザ結晶と前記光学接着剤の界面および前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面の少なくとも一方に、基本波光に対する界面反射率を2.5%以上とする誘電体薄膜を形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子。
【請求項2】
請求項1に記載の小型固体レーザ素子において、基本波光の波長をλとするとき、前記レーザ結晶と前記光学接着剤の界面にAl2O3のλ/4膜を形成し、前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面にAl2O3のλ/4膜およびSiO2のλ/4膜の対を1対形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子(10)。
【請求項3】
請求項1に記載の小型固体レーザ素子において、基本波光の波長をλとするとき、前記光学接着剤と前記波長変換結晶の界面にAl2O3のλ/4膜とSiO2のλ/4膜の対を2対形成したことを特徴とする小型固体レーザ素子(20)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−169506(P2012−169506A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30336(P2011−30336)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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