説明

屈折率分布型プラスチック光ファイバ

【課題】低損失で、かつ経時安定性、熱安定性を有する屈折率分布型プラスチック光ファイバを提供する。
【解決手段】本発明は、下記式(1)で示されるラクトン化合物の単位(A)を含むマトリックス重合体と、該重合体よりも屈折率が高い非重合性化合物とから構成されたプラスチック光ファイバであって、非重合性化合物がファイバ中心部から外周部方向に連続的に減少する濃度勾配で存在することを特徴とする屈折率分布型プラスチック光ファイバ。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量の光情報通信媒体として利用可能な屈折率分布型プラスチック光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバには、その素材から石英系光ファイバとプラスチック光ファイバに分類できるが、プラスチック光ファイバ(以下、POFと略す。)は伝送損失の点で石英系には及ばないものの、大口径のファイバを得ることが可能で、軸ずれに対する許容が大きいことや柔軟性に優れ取扱い性がよいといった特徴を生かして、主に短距離通信分野で用いられている。
【0003】
このようなPOFのコアに用いられる素材としては、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、マレイミド系ポリマー等も使われるが、伝送損失の低い点からポリメチルメタクリレート(PMMA)系樹脂が主として使用されており、ステップインデックス型(SI型)のPOFが既に工業化されている。
【0004】
一方で、SI型POFでは伝送帯域がある程度制限されてしまう。そこで近年、グレーデッドインデックス型(GI型)POFの開発が行われるようになった。
【0005】
GI型POFとは、ファイバ中心部から外周方向に向かい屈折率が連続的に減少するPOFのことであり、屈折率分布型POFともいわれ、SI型POFと比較すると伝送帯域が広いために、大容量の情報伝送が可能であるという特徴がある。
【0006】
上記のGI型POFの連続的な屈折率分布を形成する方法としては、マトリックス重合体中に重合体より屈折率の高い非重合性低分子化合物を添加し、その存在比率をPOF中心部から外周部に向かって連続的に変化させる方法(特許文献1)等が知られている。
【0007】
上記の非重合性低分子化合物の存在比率を変化させる方法によれば、重合体間の相分離、あるいは共重合でのミクロな相分離が生じることがないため、散乱損失の小さなPOFを得ることができる。
【0008】
しかし、重合体中に低分子化合物を含有することで樹脂が可塑化されるためガラス転移温度の低下がおこり、その結果、耐熱性、あるいは力学特性が大幅に低下してしまう。さらにこのような樹脂を用いて形成されたPOFを100℃以上の高温下で長期間使用した場合には、前記非重合性低分子化合物が重合体中で拡散してPOFの屈折率分布が崩れ、伝送帯域が低下するなどの種々の光伝送特性が劣化する問題が生じた。
【0009】
このようなGI型POFの高温下での長期耐久性を向上させる方法として、透明性と耐熱性に優れたα−メチレン−γ−ブチロラクトンの誘導体からなる重合体をマトリックス重合体として用い、該重合体中に該重合体より屈折率の高い非重合性低分子化合物を加え、その存在比率を連続的に変化させる方法(特許文献2、特許文献3)等が提案されている。
【0010】
しかし、非特許文献1、非特許文献2等に記載されているように、α−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体とメタクリル酸エステル単量体との共重合系は、反応性比の差が大きいため、生成した共重合体はブロック共重合性が大きくなり、ミクロな相分離が生じやすいために散乱損失が大きくなる問題を有している。しかも、一般にα−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体とメタクリル酸エステル単量体は屈折率差が大きく、共重合体が、PMMAに比較して光散乱損失値が大きいという問題があった。そのために、特許文献2、特許文献3に記載されたα−メチレン−γ−ブチロラクトンの誘導体をPOFのマトリックス重合体として用いた場合、伝送損失の十分に低いPOFが得ることはできなかった。
【0011】
【特許文献1】WO93/08488号公報
【特許文献2】特開平09−258041号公報
【特許文献3】特開平09−258042号公報
【非特許文献1】Polymer、Vol.21、p1215−1216(1979)
【非特許文献2】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer chemistry、 Vol.41、p1759−1777(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、重合体と高屈折率の非重合性化合物とを用いながらも、低損失で、かつ経時安定性、熱安定性を有する帯域の広いPOFを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記式(1)で示されるラクトン化合物の単位(A)を含むマトリックス重合体と、該重合体よりも屈折率が高い分子量100〜1,000の非重合性化合物とから構成され、前記非重合性化合物がファイバ中心部から外周部方向に向い連続的に減少する濃度勾配で存在することを特徴とする屈折率分布型プラスチック光ファイバに関する。
【化4】

【0014】
上記ラクトン化合物の単位(A)は、下記の一般式(2)で示される(S)体単位と下記の一般式(3)で示される(R)体単位からなり、(S)体単位および(R)体単位は質量比で30/70〜70/30の範囲内にあることが好ましい。
【化5】

【化6】

【発明の効果】
【0015】
本発明の屈折率分布型プラスチック光ファイバは、耐熱性が高く経時安定性に優れ、高温環境下においても伝送損失が小さく、広い伝送帯域を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の屈折率分布型POFのマトリックスを構成する重合体は、下記一般式(1)
【化6】

で示される5員環のラクトン構造を有する単位(ラクトン化合物の単位(A))を含む重合体である。
【0017】
前記式(1)で示されるラクトン化合物の単位(A)とは、α−メチレン−γ−ブチロラクトンの誘導体であり、α位にメチレン基を有し、β位に置換基R1 の構造を有することを特徴とする5員環構造のラクトン化合物である。構造的にはメタクリル酸メチルのα位の炭素とエステル結合しているメチル基の炭素とが結合し、環状化した構造である。
【0018】
β位に置換基R1の構造を有することにより、共重合体の主鎖の回転運動が束縛され、γ位に置換基を有する他の構造のラクトン化合物(例えば、α−メチレン−γ−メチル―γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ、γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン等)と比較して、重合体のガラス転移温度が高くなり耐熱性が著しく向上するという特徴がある。β位の置換基R1 は、構造が嵩高くなると共に、共重合時の重合性が低下し、得られる重合体の耐熱性が低下する傾向にあるため、炭素数の合計が1〜3であることが好ましくメチル基、エチル基、プロピル基から選択されることが好ましい。
【0019】
また、ラクトン化合物の単位(A)がβ位に置換基R1の構造を有するラクトン化合物の単位(A)、該ラクトン化合物(A)を構成する(S)体単位又は(R)体単位の一方が偏って多く存在する場合には、ラクトン化合物(A)からなる単独重合体は白濁したり、ラクトン化合物の単位(A)と(メタ)アクリル酸エステル単位(B)からなる共重合体であっても、ラクトン化合物(A)の含有量が高くなる程、外観は透明であっても光散乱損失が大きくなる傾向にある。
【0020】
このため、本発明においては、該ラクトン化合物の単位(A)は、下記の一般式(2)
【化8】

で示される(S)体単位と、下記の一般式(3)
【化9】

で示される(R)体単位を質量比で30/70〜70/30の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは45/55〜55/45の範囲内である。(S)体単位および(R)体単位が前記の範囲内で存在することにより、光散乱損失を小さくすることができる。
【0021】
なお、上記一般式(1)〜(3)において−X−で表わされるγ位は、

(但し、−R、−Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12の含フッ素アルキル基、フェニル其,、またはシクロヘキシル基を表す。)
または

で表される。
,R の構造が嵩高くなると重合体の耐熱性、重合性が低下するため、R ,Rは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12の含フッ素アルキル基、フェニル基またはシクロヘキシル基であることが好ましい。炭素数1〜12のアルキル基は、Cn2n+1(nは1〜12の自然数である)で表わされるものであり、その形状は直鎖状であっても分岐していてもよく、また炭素数1〜12の含フッ素アルキル基は、Cnm2n+1-m(nは1〜12の自然数、mは2n+1以下の自然数である)で表わされるものであり、その形状は直鎖状であっても、分岐していても良く、フッ素原子の数、結合位置についても限定されない。さらにR ,Rが結合して5又は6員の環を形成していてもよい、また、フェニル基は、低級のアルキル基で置換された低級アルキルフェニル基であってもよい。さらに、R ,Rの主鎖中の炭素原子は、硫黄、窒素、リンのヘテロ原子又は酸素原子で置換されていてもよい。
【0022】
このようなラクトン化合物の単位(A)としては、具体的には、
α−メチレン−β−メチル−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(βMγMBL)、
α−メチレン−β−メチル−γ、γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン(βMγDMBL)、
α−メチレン−β−メチル−γ−エチル−γ−ブチロラクトン(βMγEBL)、
α−メチレン−β−メチル−γ−プロピル−γ−ブチロラクトン(βMγPBL)、
α−メチレン−β−メチル−γ−シクロヘキシル−γ−ブチロラクトン(βMγCHBL)、
α−メチレン−β−エチル−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(βEγMBL)、
α−メチレン−β−エチル−γ、γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン(βEγDMBL)、
α−メチレン−β−エチル−γ−エチル−γ−ブチロラクトン(βEγEBL)、
α−メチレン−β−エチル−γ−プロピル−γ−ブチロラクトン(βEγPBL)、
α−メチレン−β−エチル−γ−シクロヘキシル−γ−ブチロラクトン(βEγCHBL)、
等が挙げられる。
【0023】
特に本発明のように、非常に高い光学的透明性が要求される屈折率分布型POFとして用いられる場合には、R ,R は共に水素原子であることが好ましく、このような化合物としては、具体的には、
α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMBL)、
α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEBL)、
α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPBL)、
が挙げられる。なかでもβMBLは、少量でのガラス転移温度の向上効果に優れる点から、特に好ましい。
【0024】
これらラクトン化合物の合成は、非特許文献2等に記載された公知の方法によって行うことができる。
【0025】
ここで、ラクトン化合物の単位(A)のみからなる重合体、例えばα−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン単独重合体、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン単独重合体、α−メチレン−β−メチル−γ−メチル−γ−ブチロラクトン単独重合体は、そのガラス転移温度(Tg)が250℃以上であり、重合体中に非重合性化合物を含有しても100℃以上のTgを維持できるため、実用上十分な耐熱性を備えている。
【0026】
本発明のPOFを構成するマトリックス重合体は、ラクトン化合物の単位(A)のみからなる重合体に限定されず、前記ラクトン化合物の単位(A)と(メタ)アクリル酸エステル単位(B)を少なくとも加えてなる共重合体、若しくはこれらを混合したものであってもよい。
【0027】
ここで(メタ)アクリル酸エステル単位(B)としては特に限定されないが、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸芳香族エステル、(メタ)アクリル酸置換芳香族エステル、(メタ)アクリル酸ハロゲン化アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、その他の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2―エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、あるいは(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル等が挙げられる。
【0029】
(メタ)アクリル酸芳香族エステルとしては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕−デカ−8−イル等が挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリル酸置換芳香族エステルとしては、(メタ)アクリル酸フルオロフェニル、(メタ)アクリル酸クロロフェニル、(メタ)アクリル酸フルオロベンジル、(メタ)アクリル酸クロロベンジル等が挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリル酸ハロゲン化アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸フルオロメチル、(メタ)アクリル酸フルオロエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、(メタ)アクリル酸2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸1,1,2,2−テトラハイドロパーフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸1,1,2,2−テトラハイドロパーフルオロデカニル、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロネオペンチル、(メタ)アクリル酸1,1,2,2−テトラハイドロパーフルオロドデカニル、(メタ)アクリル酸1,1,2,2−テトラハイドロパーフルオロテトラデカニル等が挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
【0033】
その他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸グリシジル、メチルグリシジルメタクリレート、(メタ)アクリル酸エチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル等が挙げられる。
【0034】
上記ラクトン化合物の単位(A)と(メタ)アクリル酸エステル単位(B)の含有割合は、Tgや機械的強度等の諸物性が、POFの用途や使用環境に適した値となるように適宜決めれば良いが、(A)/(B)=5〜50/50〜95(質量比)の範囲が好ましい。ラクトン化合物の単位(A)が5質量%未満の場合は、耐熱性を十分に向上させることができない傾向にある。
【0035】
なお、上記の(メタ)アクリル酸エステル単位(B)の中でも、特にメタクリル酸メチル(MMA)は、重合体の透明性、機械的特性、耐熱性の維持にすぐれる点から共重合成分として好ましい。この場合は、前記ラクトン化合物の単位(A)とMMAの単位(b)の含有割合が(A)/(b)=5〜40/60〜95(質量比)の範囲にあることが好ましい。ラクトン化合物の単位(A)を5質量%以上含有することで、Tgを十分に高くすることができ、十分な耐熱性を備えることができる。例えばβMBL/MMA=95/5(質量比)の場合、Tgが約115℃となる。
【0036】
さらに、ラクトン化合物の単位(A)と(メタ)アクリル酸エステル単位(B)からなる共重合体において、吸湿性、耐熱温度、曲げ強度、機械強度などをPOFに要求される特性に応じてさらに改善する必要がある場合、他の共重合可能な単量体単位(C)を共重合体の構成単位として含有してもよい。
【0037】
他の共重合可能な単量体単位(C)としては、特に限定されるものではないが、不飽和脂肪酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、親水性ビニル化合物、不飽和二塩基酸またはその誘導体、不飽和脂肪酸またはその誘導体等の単量体成分が挙げられる。
【0038】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のα−置換スチレン、フルオロスチレン、メチルスチレン等の置換スチレン等が挙げられる。
【0039】
シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。親水性ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
【0040】
不飽和二塩基酸またはその誘導体としては、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−クロロフェニルマレイミド等のN−置換マレイミド、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0041】
不飽和脂肪酸及びその誘導体としては、(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸カルシウム、(メタ)アクリル酸バリウム、(メタ)アクリル酸鉛、(メタ)アクリル酸すず、(メタ)アクリル酸亜鉛等の(メタ)アクリル酸の金属塩;(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0042】
さらに、得られるPOFの耐熱性等をさらに向上させるには、架橋剤を添加して架橋構造を形成することが好ましい。架橋剤としては、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0043】
ラクトン化合物の単位(A)、(メタ)アクリル酸エステル単位(B)、他の共重合可能な単量体単位(C)からなる共重合体における単量体単位(C)の含有量は、単量体単位の合計を100質量%として50質量%以下とすることが好ましい。
【0044】
上記の様なマトリックス重合体の分子量は特に限定されるものではないが、高すぎる場合には成型加工性が低下したり、また低すぎる場合にはPOFとして十分な機械的強度が得られなくなるなどの欠点が生じるおそれがある点を考慮して、GPCのポリスチレン換算により求めた分子量(重量平均分子量)が、10000〜300000の範囲とすることが好ましく、50000〜150000の範囲がより好ましく、70000〜125000の範囲がさらに好ましい。
【0045】
次に、上記マトリックス重合体中に屈折率分布を形成するために配合する非重合性化合物について説明する。
【0046】
非重合性化合物としては、無色透明であり、マトリックス重合体よりも屈折率が0.02以上高く、重合体および該重合体を形成するモノマーとの相溶性がよく、沸点が200℃以上のものが好ましい。
【0047】
このような非重合性化合物としては、例えば安息香酸ベンジル等の安息香酸エステル類、酢酸ヘキシル、フタル酸エステル類(例えばフタル酸ビス(2−メチルヘキシル)、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジフェニル等)、セバシン酸エステル(例えば、セバシン酸ジブチルなど)、アジピン酸エステル(例えば、アジピン酸ジヘキシルなど)やその他アルキル二塩基酸エステル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類、亜リン酸トリクレジル等の亜リン酸エステル類、ブロモベンゼンなどのハロゲン化化合物、ジフェニルスルフィドのような硫黄化合物等が挙げられ、マトリックス重合体と相溶性を有するものを1種または2種以上選択して用いればよい。
【0048】
上記非重合性化合物の分子量は、小さすぎるとマトリックス重合体中での拡散が過度に生じ易くなり屈折率分布の安定性が低下する傾向にあり、大きすぎるとマトリックス中での拡散が起こり難く、好適な屈折率分布の形成が困難となる傾向にあることから、100〜1000の範囲が好ましい。
【0049】
非重合性化合物の含有量は、マトリックス重合体を100質量部として、5〜40質量部の範囲が好ましく、10〜20質量部の範囲がさらに好ましい。40質量部より多ければ、POFのコア部を形成する重合体のTgが極端に低下して、POFの耐熱性が低下するおそれがある。また、5質量部より少なければ、コア部の屈折率分布の形成が不十分となり、POFの伝送帯域が低下するおそれがある。
【0050】
尚、本発明のPOFの屈折率分布は、前記非重合性化合物のマトリックス重合体中の濃度分布が、ファイバ中心軸から外周部に向かって連続的に減少するように形成されることによって得られるが、前期屈折率分布は、POFの半径rにおける屈折率関数を下記の〔数1〕で示すn(r)として、ファイバ中心部から外周部方向にむかって(rの増加に伴って)二次の減少関数で表される分布となることが好ましい。このような分布であれば、POFの伝送帯域をより広くすることが可能になる。
〔数1〕

(但し、n0はファイバ中心軸における屈折率、rは中心軸からの距離、gは屈折率分布定数を示す。)
【0051】
次に、本発明の屈折率分布型POFを製造する方法について以下に説明する。
【0052】
第一の製造方法は、前記ラクトン化合物(A)と前記非重合性化合物を含む紡糸原液を、紡糸ノズルを用いて吐出してファイバ状に賦形する方法である。ここで屈折率分布は、前記賦形後にファイバを加熱して、ファイバの外周部から前記非重合性化合物の一部を揮発させることで得られる。この方法によれば、前記非重合性化合物の含有量をファイバ中心部から外周部方向に徐々に減少させることができ、ファイバ外周方向に向かって2次の減少関数で表される屈折率分布を形成することができる。
【0053】
第二の製造方法は、前記ラクトン化合物(A)と前記非重合性化合物を含み、前記非重合性化合物の含有量が相異なる複数の紡糸原液を用意し、多層複合紡糸ノズルを用いて、前記紡糸原液を非重合性化合物の含有量がファイバ中心部から外周部方向に向かい減少するような順序に配置し同心円状に積層した状態で吐出してファイバを形成する方法である。ここで2次の屈折率分布は、前期ファイバを吐出中に非重合性化合物が重合体中で相互拡散させることにより、あるいは吐出後にさらにファイバを加温して重合体中で相互拡散することにより、形成することができる。
【0054】
ここで、上記の第一および第二の製造方法で用いる紡糸原液は、前記一般式(1)で示されるラクトン化合物(A)を含む単量体を非重合性化合物の存在下で重合させた重合体を用いてもよいし、単量体単位(A)、(B)、(C)のうちの少なくとも何れか1つを含む単量体と非重合性化合物との混合液中にラクトン化合物(A)を含む重合体を溶解させたものを用いてもよい。
【0055】
後者の紡糸原液を用いる場合は、吐出中に熱により、或いは吐出後に熱またはエネルギー線により単量体を重合させる。
【0056】
第二の製造方法において後者の紡糸原液を用いる場合は、紡糸における吐出中または吐出後に、加温によって隣接する層間で単量体と非重合性化合物を相互拡散させ、その後単量体を熱または光で重合硬化させるか、或いは加温により賦形中或いは賦形後に隣接する層間で非重合性化合物を相互拡散させる。この非重合性化合物の拡散は、得られるファイバ内の層間での非重合性化合物の濃度勾配を滑らかなものとする。

【0057】
第三の製造方法は、一旦円柱状のロッドを作成した後にこのロッドを延伸してファイバ状にする方法である。具体的には、ガラスまたは有機重合体から構成される円筒状容器に、ラクトン化合物(A)を含む単量体と非重合性化合物とを充填し、前記円筒状容器を水平に保持して回転させながら容器外部からの加熱または光照射により前記単量体を順次外側から重合させると共に、非重合性化合物を中心部に拡散移動させて、非重合性化合物の含有量が外周部方向からファイバ中心部に向けて2次分布的に増大した円柱状のロッドを形成し、得られたロッドをファイバ状に延伸する方法である。
【0058】
上記の方法において円筒容器として有機重合体を用いる場合には、ラクトン化合物(A)を含む単量体を重合して円筒容器と一体化してもよい。有機重合体としては透明性に優れた熱可塑性樹脂が好ましく、(メタ)アクリレート系重合体、ポリカーボネート系樹脂、含フッ素重合体等が挙げられる。このような円筒容器への加熱または光照射により容器の外壁側から中心部方向に単量体を順次重合させていくと、重合硬化反応と、形成された重合硬化層から非重合性化合物が排除されて中心部に向かって拡散する現象が競合しながら進行する。このため重合反応が完了した際には、非重合性化合物の含有量が中心軸に向かうほど多くなり、屈折率が中心軸に向かう程高くなる円柱状ロッドが得られる。
【0059】
円筒容器のサイズ、加熱または光照射条件等は、特に制限はなく、POFの光伝送特性、用いるラクトン化合物(A)を含む単量体、非重合性化合物の種類、熱または光重合の際の触媒等に応じ、適宜選択すればよい。
【0060】
以上の方法で得られたロッドを用いてPOFを製造する方法は特に限定されるものではなく、たとえば、ロッドを加熱延伸することにより得ることができる。
【0061】
加熱延伸時における加熱温度や延伸速度などの条件は、マトリックスを形成する重合体のTgや、非重合性化合物および円筒容器を構成する有機重合体の材料の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0062】
尚、本発明における、ラクトン化合物(A)を含む重合体の重合方式は、ラジカル重合により行うことができる。重合に際しては2,2’−アゾビス(2,4,4ートリメチルペンタン)(VR−110)、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロへキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’ーアゾビスイソ酪酸ジメチル(V−601)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクロヘキサン等の有機過酸化物系開始剤等の熱重合開始剤、またはベンゾフェノン、ベンゾインアルキルエーテル、4'−イソプロピル−2-ヒドロキシ−2-メチル−プロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルメチルケタール、クロロチオキサントン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、チオキサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N-メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン等のベンゾフェノン系化合物、フェニルケトン系化合物の光重合開始剤等を用いることが好ましい。これらの重合開始剤の使用量は、上記単量体成分100質量部に対して0.001〜3質量部の範囲とすることが好ましい。
【0063】
また、重合時において分子量を調節する目的で連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、重合時に副反応や着色等の悪影響を及ぼさないものであれば、特に限定されず、目的とする分子量に対して任意に選択でき、複数種の連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤の例としては、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、tert−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどの第一級、第二級、第三級メルカプタン、チオグリコール酸および、そのエステルなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤の使用量は、上記単量体成分100質量部に対して例えば3質量部以下の範囲とすることが好ましい。
【0064】
上記第一から第三の製造方法において、単量体を含む紡糸原液あるいは混合溶液を用いる場合は、予め熱または光重合開始剤、連鎖移動剤、重合禁止剤等を適宜添加しておくことが好ましい。また、光重合硬化させる際の光源としては、炭素アーク灯、低圧水銀灯、高圧水銀灯、ケミカルランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、レーザー光等が用いられる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0066】
POFの性能は、伝送損失と伝送帯域を測定することにより評価した。
【0067】
POFの伝送損失の測定は25m〜5mカットバック法、励振NA=0.1で行い、ファイバの一端から光を入射し、他端からの出射光の絶対強度を各波長毎にスペクトラムアナライザーで読み取ることにより行った。
【0068】
POFの伝送帯域の測定は、浜松ホトニクス社製サンプリングオシロスコープ、東芝社製半導体レーザーTOLD9410を用い、波長650nm、励振NA=0.65、ファイバ長100mの条件で、インパルス応答法により−3dB帯域を求めた。
【0069】
(実施例1)
α−メチレン−β−メチル−γ―ブチロラクトン(βMBL)((S)体単位と(R)体単位との質量比が50対50)16重量部、メタクリル酸メチル(MMA)64重量部、安息香酸ベンジル(屈折率1.569)20重量部、2,2’ーアゾビスイソ酪酸ジメチル(V−601)0.1重量部を混合し、80℃で12時間、120℃で6時間重合した。次いで、この重合物を、スクリュー型押出機に供給し紡糸原液として230℃で円形紡糸ノズルから吐出し、直径1mmのストランドファイバに賦形した。引き続き、このファイバを210℃で120分加熱して非重合性化合物の安息香酸ベンジルを外周部側から拡散揮発させ、POFを得た。
【0070】
得られたPOFをインターファコ干渉顕微鏡によりPOF断面の屈折率分布を測定したところ、屈折率が中心部から外周部方向に連続的に減少していることが確認され、中心部の屈折率が1.534、外周部の屈折率が1.518であった。また、得られたPOFの伝送特性を測定したところ、伝送損失が150dB/km(波長650nm)、伝送帯域が3.5GHzであった。このPOFを105℃雰囲気下で3ヶ月暴露したところ、伝送損失が153dB/km(波長650nm)、伝送帯域が3.6GHzであり、初期性能を維持していた。
【0071】
(実施例2)
表1に示す組成比の混合溶液を80℃で2時間で予備重合した後、5℃/分で230℃まで昇温して5種の紡糸原液を調製した。なお、α−メチレン−β−エチル−γ―ブチロラクトン(βEBL)の(S)体単位と(R)体単位との質量比は45対55であった。
【0072】
【表1】

【0073】
スリットが同心円状に配置された多層複合紡糸ノズルを用い、5種の紡糸原液を中心部から外周方向に向けて、紡糸原液No.1、No.2、No.3、No.4、最外周部に紡糸原液No.5の順になるように紡糸原液No.1から紡糸原液No.5を表1に示す吐出半径比にして吐出し、さらに220℃の雰囲気下の長さ150cmの保温筒を通過させることにより吐出糸状物中の隣接する層間で非重合性化合物の安息香酸ベンジルを拡散させ、その後冷却ゾーンで屈折率分布を固定し、ニップローラーで2m/分の速度で巻き取って直径1mmのPOFを得た。
【0074】
得られたPOFのファイバ断面の屈折率分布を測定したところ、屈折率が中心部から外周部方向に連続的に減少していることが確認された。得られたPOFの各種特性を評価し、その結果を表3に示した。
【0075】
(実施例3)
表2に示す組成比で70℃で2時間混練溶解して5種の紡糸原液を調製した。なお、αメチレン-βメチル-γメチル-γブチロラクトンは、(S)体単位と(R)体単位との質量比が55対45であった。
【0076】
【表2】

【0077】
スリットが同心円状に配置された多層複合紡糸ノズルを用い、5種の紡糸原液を中心部から外周部方向に向けて、紡糸原液No.1、No.2、No.3、No.4、最外周部に紡糸原液No.5の順になるように紡糸原液No.1から紡糸原液No.5を表2に示す吐出半径比にして吐出し、次いで温度50℃の窒素雰囲気下でケミカルランプ(ウシオ電機社製、中心発光波長350nm、照射強度4mW/cm)を内蔵した長さ1mの保温筒を通過させることにより吐出糸状物中の隣接する層間でαメチレン-βメチル-γメチル-γブチロラクトン、安息香酸ベンジルを相互拡散させると共に吐出糸状物中の単量体を重合硬化して屈折率分布を固定し、さらに高圧水銀灯(ウシオ電機社製、発光波長365nm、照射強度8mW/cm)照射により吐出糸状物の重合を完結させ、ニップローラーで2m/分の速度で巻き取って直径1mmのPOFを得た。
【0078】
得られたPOFのファイバ断面の屈折率分布を測定したところ、屈折率が中心部から外周部方向に連続的に減少していることが確認された。得られたPOFの各種特性を評価し、その結果を表3に示した。
【0079】
(比較例1)
α−メチレン−β−メチル−γ―ブチロラクトン(βMBL)をα−メチレン−γ、γ−ジメチル−γ−ブチロラクトンに代える以外は、実施例1と同様にして直径1mmのPOFを得た。
【0080】
得られたPOFのファイバ断面の屈折率分布を測定したところ、屈折率が中心部から外周部方向に連続的に減少していることが確認された。得られたPOFの各種特性を評価し、その結果を表3に示した。
【0081】
(比較例2)
実施例3において、ポリ(αメチレン-βメチル-γメチル-γブチロラクトン)をポリ(α−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン)に、αメチレン-βメチル-γメチル-γブチロラクトンをα−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトンにそれぞれ代える以外は、実施例3と同様にして直径1mmのPOFを得た。
【0082】
得られたPOFのファイバ断面の屈折率分布を測定したところ、屈折率が中心部から外周部方向に連続的に減少していることが確認された。得られたPOFの各種特性を評価し、その結果を表3に示した。
【0083】
(実施例4)
長さ600mm、内径18mmのガラス管に、MMA84g、α−メチレン−β−メチル−γ―ブチロラクトン(βMBL)((S)体単位と(R)体単位との質量比が50対50)28g 、過酸化ベンゾイル0.9g、n−ブチルメルカプタン350μリットルを充填し、上端を封じた後、水平に保持し、3000rpmで回転させながら75℃で12時間加熱し、その後回転を止め120℃で9時間加熱し重合してMMAとβMBLの共重合体からなる円筒状容器を作製した。この共重合体製容器の片端を封じ、MMA36g、前記のβMBL12g、非重合性化合物のリン酸トリフェニル12g、ジ−t−ブチルパーオキサイド54μリットル、n−ラウリルメルカプタン160μリットルを充填し、他端を封じた後、水平に保持し、10rpmで回転させながら95℃で24時間加熱、その後回転を止め120℃で48時間加熱し重合して外径18mmのロッドを得た。
【0084】
このロッドをロッドフィード装置に垂直に取り付け、230℃の円筒状加熱炉で加熱溶融しつつ一定速度で引き取り、捲き取ることにより溶融紡糸し、直径0.75mmのPOF を得た。得られたPOF のファイバ断面の屈折率分布 を測定したところ、屈折率が中心部から外周部方向になだらかに減少していた。得られたPOFの各種特性を評価し、その結果を表3に示した。
【0085】
【表3】

【0086】
(実施例5〜6および比較例3〜4)
単量体として、α−メチレン−β−メチル−γ―ブチロラクトン(βMBL)の(S)体単位と(R)体単位との質量比を[表4]に示すとように代える以外は、実施例1と同様にして直径1mmのPOFを得た。得られたPOFの各種特性を評価し、その結果を表4に示した。なお、いずれの実施例のPOFの屈折率は、中心部が1.534、外周部が1.518であった。
【0087】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の屈折率分布型POFは、ホームネットワークやオフィッスネットワークのような、短距離通信分野における、大容量の光情報通信媒体として利用で用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるラクトン化合物の単位(A)を含むマトリックス重合体と、該重合体よりも屈折率が高い非重合性化合物とから構成され、前記非重合性化合物がファイバ中心部から外周部方向に向い連続的に減少する濃度勾配で存在することを特徴とする屈折率分布型プラスチック光ファイバ。
【化1】

【請求項2】
前記ラクトン化合物の単位(A)が、下記の一般式(2)で示される(S)体単位と下記の一般式(3)で示される(R)体単位からなり、前記(S)体単位および(R)体単位は質量比で30/70〜70/30の範囲内にあることを特徴とする、請求項1に記載の屈折率分布型プラスチック光ファイバ。
【化2】

【化3】




【公開番号】特開2006−258915(P2006−258915A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73107(P2005−73107)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】