説明

履物

【課題】外反足の矯正に有効でありかつ外反足に伴う障害の発生を抑制できる優れた着用感の履物を提供する。
【解決手段】アウトソール20とミッドソール22とクッション性を有するインナーソール21とを上下に積層して底部2が形成されている。ミッドソール22は、クッション性を有するソール本体23と、ソール本体23の踵部の下面に設けられる傾斜板24とから成る。傾斜板24は上面に外側へ低く傾斜する傾斜面24aが、ソール本体23は踵部の下面に傾斜板24の傾斜面24aに沿って接合される傾斜面23aが、それぞれ形成されている。インナーソール21の踵部の上面には、足の踵を支持する凹部21aが形成され、その凹部21aに、インナーソール21より柔軟な低反発弾性体より成る踵支持板25が装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、靴やサンダルなどの履物に関し、特に、外反足の矯正に有効であり、外反足に伴う障害の発生を抑制することが可能な履物に関する。
【背景技術】
【0002】
人の歩行や立位において絶対的な条件となるのが、図8に示すように、足の距骨下関節aが真っ直ぐの状態となるニュートラルポジションである。なお、同図は、右足の骨格部分を後方より見た図であり、bが距骨、cが踵骨である。このニュートラルポジションを維持できない理由として、距骨下関節の外反や内反、さらには、横足根関節の外反、前足部外反、前足部内反などがある。
図9および図10は、外反のある右足の骨格部分を示している。このような外反があると、歩行中にオーバープロネーション(超外反運動)を引き起こし、このオーバープロネーションによって外反母趾などの障害を発生させるおそれがある。
【0003】
外反母趾とは、足の親指が中足指関節で外方に向いて突出した状態のことである。この突出部分が靴などで刺激されると、炎症や痛みを引き起こすため、これを防止するのに、靴のウイズ回りを広げたり、前記の突出部分に柔らかい素材を用いたりして足が痛くないように工夫した履物が提案されている。しかし、この種の履物は、単なる対症療法として用いられるに過ぎず、オーバープロネーションを引き起こすのを防止して外反母趾になるのを抑制する働きはない。
【0004】
先般、オーバープロネーションの発生を抑えて外反母趾になりにくくする靴が提案された(特許文献1参照)。この靴は、外甲被と靴底との間で足の第5中足骨骨底と踵骨最後部との中間位置、および内甲被と靴底との間で踵骨載距突起位置とに、それぞれ断面T字状またはL字状のスタビライザーを設置したものである。この靴を履くと、スタビライザーによって足が両側方から挟まれるもので、外甲側のスタビライザーが足の外側へのぶれを防ぎ、内甲側のスタビライザーがオーバープロネーションの発生を防止して、外反母趾になりにくくする。
【0005】
【特許文献1】特開平9−215501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した構成の靴は、足がスタビライザーによりしっかりと挟まれて固定されるために、圧迫感があり、快適な着用感が得られないという問題がある。
【0007】
この発明は、上記した問題に着目してなされたもので、外反足の矯正に有効でありかつ外反足に伴う障害の発生を抑制できる優れた着用感の履物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による履物は、アウトソールとミッドソールとクッション性を有するインナーソールとを上下に積層して底部が形成されたものである。前記ミッドソールは、クッション性を有するソール本体と、ソール本体の踵部の下面に設けられる傾斜板とから成る。前記傾斜板は上面に外側へ低く傾斜する傾斜面が、前記ソール本体は踵部の下面に前記傾斜板の傾斜面に沿って接合される傾斜面が、それぞれ形成されている。前記インナーソールの踵部の上面には、足の踵を支持する凹部が形成されている。
【0009】
この発明の上記した構成において、「外側へ低く傾斜する傾斜面」の「外側」とは、両足を揃えて立ったとき、左足についていえば右足と反対側を、右足についていえば左足と反対側を、それぞれ意味している。したがって、左足側の履物の傾斜板は、右足側が高く右足と反対側が低い傾斜面を有し、一方、右足側の履物の傾斜板は、左足側が高く左足と反対側が低い傾斜面を有する。因みに、左右の足が対向する側は上記の「外側」に対して「内側」である。
【0010】
上記した構成の履物を履くと、足の踵はインナーソールの踵部の上面に形成された凹部に嵌って支持される。足の荷重はインナーソールおよびミッドソールのソール本体を圧縮変形させ、傾斜板の傾斜面に作用する。傾斜板の上面は外側へ低く傾斜する傾斜面になっているので、荷重に対する傾斜面からの抗力の外向きの水平分力が外反足を矯正する力として作用するとともに、オーバープロネーション(超外反運動)の発生を抑制する。なお、足はスタビライザーなどで挟持されていないから、圧迫感がない。
【0011】
前記ソール本体の傾斜面は、好ましくは水平面に対する傾斜角度が2〜9度に設定され、さらに望ましくはほぼ7度に設定される。傾斜角度が2度より小さいと、外反足の矯正機能やオーバープロネーションの防止機能が十分でなく、また、9度より大きいと、履き心地の低下を招く。
【0012】
好ましい実施態様においては、前記インナーソールの凹部にインナーソールより柔軟な低反発弾性材料より成る踵支持板が装着される。この実施態様によると、足の荷重により踵支持板が凹部内で踵の形状に沿って圧縮変形するもので、足の踵が凹部により安定状態で支持される。
【0013】
また、この発明の好ましい実施態様においては、前記底部は、前足部に対して踵部がヒールアップされるとともに、インナーソールの前足部の上面には、足の中足骨の骨頭部が当たる位置に、面状に盛り上がる凸部が形成されている。ここで、底部をヒールアップしたのは外反足によるアキレス腱や腓腹筋などの下腿部の負担を取り除くためであるが、このヒールアップに伴う代償として発生する中足骨骨頭部の負担は前記凸部によって軽減される。
【0014】
この発明による上記した構成は、ミッドソールに限らず、インナーソールにも適用可能である。その場合のインナーソールは、クッション性を有するソール本体と、ソール本体の踵部の下面に設けられる傾斜板とで構成される。前記傾斜板は上面に外側へ低く傾斜する傾斜面が、前記ソール本体は踵部の下面に前記傾斜板の傾斜面に沿って接合される傾斜面が、それぞれ形成される。前記インナーソールの踵部の上面には、足の踵を支持する凹部が形成される。
【0015】
上記した構成の履物を履くと、足の踵はインナーソールの踵部の上面に形成された凹部に嵌って支持される。足の荷重はインナーソールのソール本体を圧縮変形させ、傾斜板の傾斜面に作用する。傾斜板の上面は外側へ低く傾斜する傾斜面になっているので、荷重に対する傾斜面からの抗力の外向きの水平分力が外反足を矯正する力として作用するとともに、オーバープロネーション(超外反運動)の発生を抑制する。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、外側へ低く傾斜する傾斜面を有する傾斜板によって、足の踵に外反足を矯正する力を作用させるとともに、オーバープロネーションの発生を抑制するので、外反足の矯正に有効であり、外反足に伴う障害の発生を抑制できる。また、従来例のように、スタビライザーによって足が挟持されていないので、圧迫感がなく、優れた着用感が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1および図2は、この発明の一実施例であるサンダル1の外観を示す。なお、図示のサンダル1は右足用であるが、左足用についても同様の構成であり、ここでは図示並びに説明を省略する。また、この発明は、サンダルに限らず、靴その他の履物にも適用することが可能である。
【0018】
図示例のサンダル1は、足裏を支持する底部2と、足の甲を固定する甲被部3とから成る。前記甲被部3は、足の甲の内側から上部にかけて覆う内被部3Aと、足の甲の外側から上部にかけて覆う外被部3Bとで構成されている。前記内被部3Aと外被部3Bとは前後二カ所で伸縮帯4,4を介して連結されており、これにより甲被部3が足の大きさに応じて拡縮するようになっている。各伸縮帯4の一端部は外被部3Bの先端に固着され、他端部は内被部3Aの内部に形成された帯通し孔5を通して内被部3Aの基端に固着されている。なお図1において、6は内被部3Aに形成された通気のための開口部である。
【0019】
前記外被部3Bの前部には甲被部3を固定するための固定ベルト7が取り付けられ、内被部3Aの前部には前記固定ベルト7を通す環状の留め金具8が取付布14の先端に取り付けられている。なお、取付布14は内被部3Aの表面に逢着されている。前記固定ベルト7の上面には基端部に面ファスナ9の雌部が、先端部に面ファスナ9の雄部が、それぞれ装着されている。固定ベルト7を留め金具8に通して折り返し、面ファスナ9の雄部と雌部とを噛み合わせて止着することで甲被部3の前部が固定される。
【0020】
また、内被部3Aおよび外被部3Bの後部には、先端に紐通し孔10を有する帯状布11がそれぞれ逢着されている。各帯状布11の紐通し孔10には甲被部3を固定するための紐12が通され、この紐12を結ぶことで甲被部3の後部が固定される。
【0021】
さらに、内被部3Aおよび外被部3Bの後端部には、踵保持用の保持ベルト13の両端部が取り外し可能なように釦止めされている。この保持ベルト13を足の踵の後面に引っ掛けることにより甲被部3からの足の抜けが防止される。
【0022】
図3は、上記したサンダル1の底部2の構成を示している。
図示例の底部2は、アウトソール20とミッドソール22とインナーソール21とを上下に積層して形成されている。
【0023】
前記ミッドソール22は、クッション性を有するソール本体23と、このソール本体23の踵部の下面に設けられる傾斜板24とで構成されている。前記傾斜板24は、ソール本体23より硬いクッション材により形成され、ソール本体23の踵部の下面に接着剤により接合されている。この実施例では、ソール本体23と傾斜板24とは硬さが異なるエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のような多孔質樹脂を用いて形成されているが、EVAに限らず、他の弾性体を用いることも可能である。また、傾斜板24は必ずしも弾性体である必要はない。
【0024】
前記傾斜板24の上面には、図4に示すように、外側へ低く傾斜する傾斜面24aが形成されており、一方、前記ソール本体23の踵部の下面には前記傾斜板24の傾斜面24aに沿う傾斜面23aが形成されている。傾斜板24の傾斜面24aとソール本体23の傾斜面23aとは重ねられ、両者は接着剤によって一体接合される。
【0025】
前記傾斜板24の傾斜面24aは水平面hに対する傾斜角度θが2〜9度に設定される。この実施例では前記傾斜角度θを傾斜板24の全長にわたってほぼ7度に設定しているが、例えば図5に示すように、後部から前部にかけて傾斜角度が次第に小さくなるように、傾斜角度を変化させてもよい。なお、同図は傾斜板24の前端部の断面を示しており、その傾斜角度θは後端部(図中点線で示す。)より小さくなっている。
さらに、この実施例の傾斜板24は、その厚みを後端側が厚く、前端側にかけて次第に薄くなるように形成してある。このように構成すると、前端縁に生じる段差が小さくなり、また、前足部に対して踵部が高くなるように、底部2をヒールアップできる。
【0026】
上記したミッドソール22のソール本体23の上面は凹面状になっており、この凹面上にインナーソール21が接合支持されている。
前記インナーソール21は、シリコンやポリプロピレンを原料にした低反発弾性体により形成され、表面全体がメッシュ地26により被覆されている。このインナーソール21の踵部の上面には、足の踵を支持する凹部21aが形成されている。この凹部21aは、図6に示すように、平面形状が略矩形状であり、全体が略同一深さに設定されている。凹部21a内にはインナーソール21より柔軟な踵支持板25が嵌め込んで接合してあり、踵支持板25の表面がソール本体25の表面よりわずかに突出している。
なお、凹部21aには必ずしも踵支持板25を装着する必要はないが、踵支持板25を用いない場合は、凹部21aの開口縁や底周縁は曲面状に形成するのが望ましい。
【0027】
前記踵支持板25は、インナーソール21と同じ低反発素材を用いて構成してもよいが、ポリウレタン樹脂を組成とした発泡体、すなわち、低反発弾性ウレタンフォームを用いて構成することもできる。この低反発弾性ウレタンフォームは、弾性と粘性とを併せ持つものであり、圧縮後ゆっくりとした復元性を有している。踵支持板25上に足の踵を載せると、荷重により踵支持板25が踵の形状に沿って凹部21a内で圧縮変形するので、踵は凹部21aに嵌まって安定状態で支持される。
【0028】
前記インナーソール21の前足部の上面には、足の中足骨の骨頭部が当たる位置に、面状に盛り上がる凸部21bが形成されている。この凸部21bは、底部2のヒールアップに伴って発生する足の中足骨の骨頭部にかかる負担を軽減するために形成されている。
【0029】
図7は、底部2を裏面側より見た図であり、アウトソール20の構成を示している。
図示例のアウトソール20は、ミッドソール22の裏面に接合された複数枚(図示例では4枚)の接地板27A〜27Dにより構成されている。各接地板27A〜27Dは、例えばSBR(スチレン・ブタジエンゴム)などのゴム配合物またはエラストマー配合物により形成され、表面には滑り止めのための切り溝28や溝状または突状の模様30が形成されている。
前記ミッドソール22のソール本体23の裏面には、各接地板27A〜27Dの境界部分に、底部2が屈曲し易いように、V字状の溝29が斜め方向に形成されている。
【0030】
上記した構成のサンダル1を履くとき、足を底部2と甲被部3と間に挿入して固定ベルト7、紐12、および保持ベルト13により固定する。足の踵はインナーソール21の踵部に設けられた踵支持板25上に支持される。踵支持板25は足の荷重により踵の形状に沿って凹部21a内で圧縮変形するので、踵は凹部21a内に嵌まった状態で安定支持される。
【0031】
足の荷重はインナーソール21およびミッドソール22のソール本体23を圧縮変形させ、傾斜板24の傾斜面24aに作用する。傾斜板24の上面は外側へ低く傾斜する傾斜面24aになっているので、図4に示すように、荷重に対する傾斜面24aからの抗力Nの外向きの水平分力Nが外反足を矯正する力として作用するとともに、オーバープロネーション(超外反運動)の発生を抑制する。なお、足はスタビライザーなどで挟持されていないから、圧迫感がない。
【0032】
また、前記底部2は、前足部に対して踵部がヒールアップされているので、外反足によるアキレス腱や腓腹筋などの下腿部の負担が取り除かれる。さらに、インナーソール21の前足部の上面には、足の中足骨の骨頭部が当たる位置に、面状に盛り上がる凸部21bが形成されているので、ヒールアップに伴う代償として発生する中足骨骨頭部の負担が軽減される。
【0033】
なお、上記した実施例では、ミッドソール22に傾斜板24を設けているが、同様の構成の傾斜板24をミッドソール22に代えてインナーソール22に設けることも可能であり、これによっても上記した実施例と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明にかかるサンダルの外観を示す斜視図である。
【図2】図1のサンダルを前方より見た斜視図である。
【図3】底部の縦断面図である。
【図4】図3のA−A線に沿う底部の断面図である。
【図5】他の実施例における底部の断面図である。
【図6】図1のサンダルのインナーソールの平面図である。
【図7】図1のサンダルのアウトソールの底面図である。
【図8】足の踵の骨格を示す背面図である。
【図9】外反足の骨格を示す背面図である。
【図10】外反足の骨格を示す背面図である。
【符号の説明】
【0035】
2 底部
20 アウトソール
21 インナーソール
21a 凹部
21b 凸部
22 ミッドソール
23 ソール本体
24 傾斜板
23a,24a 傾斜面
25 踵支持板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウトソールとミッドソールとクッション性を有するインナーソールとを上下に積層して底部が形成されている履物において、前記ミッドソールは、クッション性を有するソール本体と、ソール本体の踵部の下面に設けられる傾斜板とから成り、前記傾斜板は上面に外側へ低く傾斜する傾斜面が、前記ソール本体は踵部の下面に前記傾斜板の傾斜面に沿って接合される傾斜面が、それぞれ形成されており、前記インナーソールの踵部の上面には、足の踵を支持する凹部が形成されて成る履物。
【請求項2】
前記ソール本体の傾斜面は、水平面に対する傾斜角度が2〜9度に設定されている請求項1に記載された履物。
【請求項3】
前記インナーソールの凹部には、インナーソールより柔軟な低反発弾性体より成る踵支持板が装着されている請求項1に記載された履物。
【請求項4】
前記底部は、前足部に対して踵部がヒールアップされるとともに、インナーソールの前足部の上面には、足の中足骨の骨頭部が当たる位置に、面状に盛り上がる凸部が形成されている請求項1に記載された履物。
【請求項5】
アウトソールとミッドソールとインナーソールとを上下に積層して底部が形成されている履物において、前記インナーソールは、クッション性を有するソール本体と、ソール本体の踵部の下面に設けられる傾斜板とから成り、前記傾斜板は上面に外側へ低く傾斜する傾斜面が、前記ソール本体は踵部の下面に前記傾斜板の傾斜面に沿って接合される傾斜面が、それぞれ形成されており、前記インナーソールの踵部の上面には、足の踵を支持する凹部が形成されて成る履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−198007(P2006−198007A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10578(P2005−10578)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(503370723)株式会社トータルヘルスケア (9)
【Fターム(参考)】