説明

差圧弁及び空気バネ式懸架装置

【課題】性能を維持しつつ保守に要する費用を安価にした差圧弁を提供する。
【解決手段】差圧弁は、バルブシートと、本体部分6cとこれに着脱自在に嵌合するシール部材50とを有する弁体6と、バルブシートに押し付ける方向に弁体6を付勢するスプリングと、を備える。シール部材50は、大径部50aと、軸70の方向において大径部50aに連なる小径部50bとを備える。小径部50bは、シール部材50の軸70から離れる方向に突出する第一係止部50cを備える。弁体6の本体部分6cは、第一係止部50cより前記バルブシート側に位置して第一係止部50cに当接する第一爪部6dを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差圧弁及びその差圧弁を備える空気バネ式懸架装置に関する。特に空気バネ式懸架装置は、車両において用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、鉄道車両の空気バネ式懸架装置に設けられる従来の差圧弁を例示する。空気バネ式懸架装置は、鉄道車両の車軸を懸架する左右の第一空気バネと第二空気バネを有する。差圧弁は、第一空気バネと第二空気バネの圧力差(即ち差圧)に応じて両者を連通し、第一空気バネと第二空気バネのうち正常な空気バネの空気を空気漏れした空気バネへと導き、車体が大きく傾かないようにする。
【0003】
この従来の差圧弁は、第一と第二空気バネの差圧が、差圧弁のスプリングの荷重によって決まる所定値よりも小さい場合、弁体がバルブシート(又は弁座)に着座して閉じている。この場合、弁体に設けられるゴム製のシール部材は、バルブシートに接してバルブシート内部の空気通路を密閉(シール)する。なお、ゴム製のシール部材は、弁体の本体(即ち銅などの金属部分)から浮くと空気漏れを生じ易くなり差圧弁の性能を悪化させるため、通常、弁体の本体に焼き付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−120723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の差圧弁は、シール部材が劣化した場合に、それが焼き付けられた弁体の本体と共に廃棄せねばならず、弁体全体の交換が必要になり、シール部材だけを交換することができなかった。従って、従来の差圧弁は、保守に要する費用(メンテナンス費用)が高いという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みて、性能を維持しつつ保守に要する費用を安価にした差圧弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る差圧弁は、バルブシートと、本体部分とこれに着脱自在に嵌合するシール部材とを有する弁体と、前記バルブシートに押し付ける方向に前記弁体を付勢するスプリングと、を備える。前記弁体に加わる前記バルブシート側の流体圧とこれと反対側の流体圧との差圧が所定値より大きい場合に、前記弁体の前記シール部材が前記バルブシートから離れる。前記シール部材は、大径部と、軸方向において前記大径部に連なる小径部とを備える。前記小径部は、前記シール部材の軸から離れる方向に突出する第一係止部を備え、前記弁体の本体部分は、前記第一係止部より前記バルブシート側に位置して前記第一係止部に当接する第一爪部を備える。
【0008】
さらに、前記大径部は、前記シール部材の軸から離れる方向に突出する第二係止部を備え、前記弁体の本体部分は、前記第二係止部より前記バルブシート側に位置して前記第二係止部に当接する第二爪部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、シール部材が浮くことによる差圧弁の空気漏れが防止され、差圧弁の性能が維持される。また、シール部材は単独で交換可能であるため、差圧弁の保守に要する費用は安価になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る空気バネ式の懸架装置を示す概略図である。
【図2】実施形態に係る差圧弁ユニットの一部断面図である。
【図3】実施形態に係るシール部材の断面図である。
【図4】第一係止部が存在しない場合のシール部材の断面図である。
【図5】実施形態に係るシール部材の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1のように、本実施形態において、差圧弁ユニット10は4点支持方式の空気バネ式の懸架装置に設けられている。空気バネ式懸架装置は、車両の車軸を懸架する左右の第一と第二空気バネ11、12と、第一と第二空気バネ11、12の圧力差(差圧)に応じて両者を連通する差圧弁ユニット10とを備える。車両は、例えば鉄道車両であるが、これに限定されない。高さ調整弁13は、第一と第二空気バネ11、12に導かれる空気圧を調整し、車両の車高を調整する。
【0012】
差圧弁ユニット10は、第一と第二空気バネ11、12の一方が空気漏れした場合、第一、第二空気バネ11、12のうち正常な空気バネの空気を空気漏れした空気バネへと導き、車体が大きく傾かないようにする。
【0013】
図2は、本実施形態に係る差圧弁ユニット10の一部断面図である。図3は、本実施形態に係る差圧弁ユニット10の一部を拡大した一部拡大断面図である。
【0014】
図2のように、差圧弁ユニット10は一対の差圧弁1、2を備える。差圧弁1と差圧弁2は同じ構造を有している。差圧弁1(又は差圧弁2)は、連通路3と、スプリング(バネ)4と、バルブシート5と、弁体6とを備える。連通路3は、左右に配置された第一と第二空気バネ11、12を連通できる。スプリング4は、略円筒形状の弁体6を付勢してバルブシート5に押し付ける。バルブシート5は、略円筒形状であり、環状の凸部5aを弁体6側の端部に備え、また、空気を通過させるポート(空気通路)5bを内部に備える。
【0015】
中空のキャップ(蓋)41は、差圧弁1(又は差圧弁2)の中空の円筒形の後部42に結合される。流体圧としての第一空気バネ11の空気圧P1(又は第二空気バネ12の空気圧P2)は、中空のキャップ41と差圧弁1(又は差圧弁2)の中空の後部42を介して、スプリング4が設置されるバネ室43に導かれる。さらに、空気圧P1(又は空気圧P2)は、弁体6の孔6aを介して連通路3に導かれる。
【0016】
弁体6は、シリンダ部40内で摺動し、第一と第二空気バネ11、12の連通を許可又は禁止する。弁体6は軸対称な形状を有し、弁体6の軸方向は弁体6の摺動方向に略一致する。バルブシート5に対して弁体6が着座する場合、差圧弁1(又は差圧弁2)が閉じる。バルブシート5から弁体6が離れると、差圧弁1(又は差圧弁2)が開く。なお、弁体6のバルブシート5側の端部に配置されるシール部材50は、バルブシート5の環状の凸部5aに押し付けられた場合に、バルブシート5のポート5bを密閉する。
【0017】
弁体6は、スプリング4が設置されるバネ室43と連通路3を連通する孔6aを有する。さらに、弁体6は、バルブシート5側に空気通路6b(又は切欠き)も有する。空気通路6bは、バルブシート5から弁体6が離れた場合に、バルブシート5のポート5bを介して連通路3同士を連通する。
【0018】
差圧弁1の弁体6は、弁体6を閉じ側に付勢する第一空気バネ11の空気圧力P1を受ける閉じ側受圧面8と、弁体6を開き側に付勢する第二空気バネ12の空気圧力P2を受ける開き側受圧面9とを有する。同様に、差圧弁2の弁体6は、弁体6を閉じ側に付勢する第二空気バネ12の空気圧力P2を受ける閉じ側受圧面8と、弁体6を開き側に付勢する第一空気バネ11の空気圧力P1を受ける開き側受圧面9とを有する。
【0019】
差圧弁1の弁体6において第一空気バネ11の空気圧力P1を受ける閉じ側有効受圧面積と、第二空気バネ12の空気圧力P2を受ける開き側有効受圧面積とは等しく、バルブシート5内のポート5bの開口断面積A3となる。同様に、差圧弁2の弁体6において第二空気バネ12の空気圧力P2を受ける閉じ側有効受圧面積と、第一空気バネ11の空気圧力P1を受ける開き側有効受圧面積とは等しく、バルブシート5内のポート5bの開口断面積A3となる。なお、弁体6のバルブシート5側の空気通路6b(又は切欠き)の存在によって、バルブシート5の環状の凸部5aより外側に位置した部位に作用する開き側と閉じ側の圧力は互いに相殺される。
【0020】
差圧弁1において、弁体6を閉じ側(バルブシート5側)に付勢する力はスプリング4の付勢力Fと第一空気バネ11の圧力P1による付勢力P1×A3の和となる。一方、弁体6を開き側(スプリング4側)に付勢する力は第二空気バネ12の圧力P2による付勢力P2×A3となる。従って、P2×A3>F+P1×A3になると差圧弁1が開く。弁体6が開く第一と第二空気バネ11、12の差圧ΔP(=P2−P1)は、F/A3(定数)となる。このため、差圧ΔPが所定値F/A3を超える場合、差圧弁1が開き、弁体6の空気通路6bに空気が流れて、第二空気バネ12の高い圧力P2は第一空気バネ11へと導かれる。一方、差圧ΔPが所定値F/A3より小さい場合、弁体6がバルブシート5に着座して差圧弁1は閉じている。
【0021】
差圧弁2において、弁体6を閉じ側に付勢する力はスプリング4の付勢力Fと第二空気バネ12の圧力P2による付勢力P2×A3の和となる。一方、弁体6を開き側に付勢する力は第一空気バネ11の圧力P1による付勢力P1×A3となる。従って、P1×A3>F+P2×A3になると差圧弁2が開く。弁体6が開く第一と第二空気バネ11、12の差圧ΔP(=P1−P2)は、F/A3(定数)となる。このため、差圧ΔPが所定値F/A3を超える場合、差圧弁2が開き、弁体6の空気通路6bに空気が流れて、第一空気バネ11の高い圧力P1は第二空気バネ12へと導かれる。一方、差圧ΔPが所定値F/A3より小さい場合、弁体6がバルブシート5に着座して差圧弁2は閉じている。
【0022】
次に、図3を参照して、シール部材50について説明する。シール部材50は、弁体6の本体部分6cの軸方向の端部に嵌め込まれて本体部分6cに嵌合している。シール部材50は、樹脂(ゴム)からなる軸対称な略円板状の部材であり、シール部材50の軸70と弁体6の軸は略一致している。例えば、樹脂は、NBR(ニトリルゴム)である。弁体6の本体部分6cは、銅などの金属からなり、シール部材50と形状的に適合してシール部材50を保持する凹部6fを有する。シール部材50は、弁体6の本体部分6cに焼き付けられていないため、弁体6の本体部分6cに着脱自在に嵌合する。
【0023】
シール部材50は、シール部材50の本体部となる径の大きい大径部50aと、シール部材50の軸70の方向において大径部50aに連なり且つ大径部50aの径に比較して径の小さな小径部50bとを備える。シール部材50の小径部50bは、シール部材50の軸70から離れる方向にフランジ状に突出する第一係止部(第一突出部)50cを備える。シール部材50の大径部50aは、シール部材50の軸70から離れる方向にフランジ状に突出する第二係止部(第二突出部)50dを備える。なお、シール部材50の軸70から離れる方向とは、好ましくはシール部材50の軸70に垂直な方向である。
【0024】
一方、弁体6の本体部分6cは、シール部材50の第一係止部50cと当接してこれと噛合って軸70の方向における動きを禁止する第一爪部6dと、シール部材50の第二係止部50dと当接してこれと噛合って軸70の方向における動きを禁止する第二爪部6eとを備える。第一爪部6dは、シール部材50の第一係止部50cより軸70の方向に関してバルブシート5側に位置し、シール部材50の第一係止部50cと大径部50aとの間に位置する。第二爪部6eは、シール部材50の第二係止部50dより軸70の方向に関してバルブシート5側に位置する。第一係止部50cは、シール部材50が本体部分6cから外れることを防止するとともに、シール部材50が本体部分6cから浮くことを防止する。第二係止部50dは、シール部材50が本体部分6cから外れることを防止する。なお、第二係止部50dは、省略できる。
【0025】
図4のように、仮に第一係止部50cが存在しないとすると、シール部材50の大径部50aの径が本体部分6cの凹部6fの径より大きい場合や弁体6が振動する場合、シール部材50の中央部が本体部分6cから浮く可能性がある。このため、第一係止部50cは、シール部材50の中央部が浮くことを防止する。
【0026】
図5のように、シール部材50は、弁体6の本体部分6cの凹部6fに嵌め込み易くするように、テーパを有してもよい。
【0027】
次に、本実施形態の作用効果について述べる。本実施形態によると、差圧弁1、2の弁体6の本体部分6cに着脱自在に嵌合するシール部材50は、大径部50aと、シール部材50の軸70の方向において大径部50aに連接する小径部50bとを備える。小径部50bは、シール部材50の軸70に対して離れる方向に延びる第一係止部50cを備える。弁体6の本体部分6cは、第一係止部50cよりバルブシート側に位置して第一係止部50cに当接する第一爪部6dを備える。このため、シール部材50の軸70の近傍の中央部が本体部分6cから浮かなくなるとともに、シール部材50が本体部分6cから外れ難くなる。従って、シール部材50が浮くことによる差圧弁1、2の空気漏れが防止され、差圧弁1、2の性能が維持される。また、シール部材50は、着脱自在で単独で交換可能となるため、差圧弁1、2の保守に要する費用は、シール部材50を焼き付ける場合に比べて低下する。
【0028】
また、大径部50aは、シール部材50の軸70から離れる方向に突出する第二係止部50dを備え、弁体6の本体部分6cは、第二係止部50dよりバルブシート5側に位置して第二係止部50dに当接する第二爪部6eを備える。このため、さらに、シール部材50が本体部分6cから外れ難くなり、差圧弁1、2の性能の低下が防止できる。
【0029】
空気バネ式懸架装置は、差圧弁1、2に連通する第一空気バネ11と第二空気バネ12とを備える。第一空気バネ11の空気圧P1と第二空気バネ12の空気圧P2の一方は、差圧弁1、2の弁体6に加わるバルブシート5側の流体圧(空気圧)であり、他方は、差圧弁1、2の弁体6に加わるバルブシート5側とは反対側の流体圧(空気圧)である。保守に要する費用が安価な差圧弁1、2を使用でき、第一と第二空気バネ11、12の一方の流体(空気)が漏れた場合には、第一、第二空気バネ11、12のうち正常な空気バネの流体(空気)を空気漏れした空気バネへ導く。
【0030】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。例えば、上記の実施形態において、空気圧は流体圧の一種として示されたもので、差圧弁に導入される流体圧を油圧等として差圧弁を利用することもできる。
【符号の説明】
【0031】
1、2 差圧弁
3 連通路
4 スプリング
5 バルブシート
5a 凸部
5b ポート
6 弁体
6a 孔
6b 空気通路
6c 本体部分
6d 第一爪部(第一突起部)
6e 第二爪部(第二突起部)
10 差圧弁ユニット
11 第一空気バネ
12 第二空気バネ
50 シール部材
50a 大径部
50b 小径部
50c 第一係止部(第一突出部)
50d 第二係止部(第二突出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブシートと、
本体部分とこれに着脱自在に嵌合するシール部材とを有する弁体と、
前記バルブシートに押し付ける方向に前記弁体を付勢するスプリングと、を備え、
前記弁体に加わる前記バルブシート側の流体圧とこれと反対側の流体圧との差圧が所定値より大きい場合に、前記弁体の前記シール部材が前記バルブシートから離れる差圧弁において、
前記シール部材は、大径部と、軸方向において前記大径部に連なる小径部とを備え、
前記小径部は、前記シール部材の軸から離れる方向に突出する第一係止部を備え、
前記弁体の本体部分は、前記第一係止部より前記バルブシート側に位置して前記第一係止部に当接する第一爪部を備えることを特徴とする差圧弁。
【請求項2】
前記大径部は、前記シール部材の軸から離れる方向に突出する第二係止部を備え、
前記弁体の本体部分は、前記第二係止部より前記バルブシート側に位置して前記第二係止部に当接する第二爪部を備えることを特徴とする請求項1に記載の差圧弁。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記差圧弁と、
前記差圧弁に連通する第一空気バネと第二空気バネと、を備え、
前記第一空気バネの空気圧と前記第二空気バネの空気圧の一方は、前記差圧弁の前記弁体に加わる前記バルブシート側の流体圧であり、他方は、前記差圧弁の前記弁体に加わる前記バルブシート側とは反対側の流体圧であることを特徴とする空気バネ式懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202519(P2012−202519A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69651(P2011−69651)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】