説明

建築構造物損傷検知装置

【課題】コンクリート等の構造体における地震等災害後の損傷位置や損傷程度を簡便に検知すること。

【解決手段】
構造体を構成するコンクリートに、少なくともひずみセンサと増幅回路、アナログ/デジタルコンバータ、整流・検波・変復調回路部、通信制御部を有する装置を埋設もしくは接着する。外部のリーダーから発せられた電磁波のエネルギによって該装置の電子回路を動作させ、ひずみの測定を行い、その結果をリーダーに電磁波を用いて送信する。
【効果】ひずみ測定が結線なしで非接触で行えるので、構造体の設計や施工に大きな影響を与えることなく、損傷の程度を把握する事が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の損傷の程度や位置を検知する検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築や土木の分野においては、建築構造物に関して、地震等の災害後、あるいは老朽化にともなう損傷をモニタリングしようとする技術の開発が行われている。最も注目されているのが光ファイバーを用いたひずみのモニタリングである。この技術は、構造物の部材に光ファイバーを取り付け、光を透過させて、その光の微小な行路差を測定することで、
部材のひずみを測定する方法である。この方法では、行路差の変化を測定する装置が大掛かりで高価な物となり、多点、大面積の測定はコスト上、無理があった。また、その測定原理から結線式が必須であるので、ビル等の建造物の場合、見かけが悪くなる問題があった。またそれを回避しようとすると、そのために設計や施工を工夫する必要があった。また、構造部材には見かけの問題から内装や外壁材設置、塗装等を施される場合も多く、ひずみ測定の際には内装を外して、測定後に修復する必要も生じ、その実施上の大きな制約となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって本発明は、前記課題の何れかを抑制することができる損傷検知装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために、例えば、電磁波の搬送波で送信される信号の変復調およびDC電源の生成を行うためのRFアナログ回路、チップ動作制御を行う論理回路、ひずみセンサ信号の増幅回路、ひずみセンサ回路、から構成される装置を、構造物内部もしくは表面に配する。
【0005】
また、具体的には、以下の形態を備えることが好ましい。
(1)建築物構造物の内部もしくは表面に設置可能に形成され、基板と、前記基板の上に形成されたひずみ測定機能を持つ電子回路とを備え、
前記電子回路は前記電子回路外より照射された電磁波エネルギから電源を生成する電源回路を有することを特徴とする建築構造物の損傷検知装置である。
【0006】
例えば、建築物の構造材料にひずみ測定機能を持つ電子回路が設置してあり、該電子回路の一部に、外部から受けた電磁波エネルギからDC電源を生成する回路を含むことを特徴とする建築構造物の損傷検査装置である。一例としては、このRF給電で動くセンサはシリコン基板の上に形成されている形態である。
(2)建築物構造物の内部もしくは表面に設置可能に形成され、基板と、前記基板の上に形成されたひずみ測定機能を持つ電子回路とを備え、
前記電子回路は電磁波信号の変復調およびDC電源の生成を行うためのRFアナログ回路、チップ動作制御を行う論理回路、ひずみを測定するひずみセンサ回路、前記ひずみセンサ信号の増幅回路、を含むことを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
(3)建築物構造物の内部もしくは表面に設置可能に形成され、基板と、前記基板の上に形成されたひずみセンサ回路と、前記基板外より照射された電磁波エネルギから電源を生成する電源回路と、を備えた電子回路とを有する建築構造物の損傷検知装置で測定したひずみ測定値に基く情報を無線で受信する受信部と、前記受信した情報を記録する記録部とを備えたことを特徴とする損傷検知リーダ。
(4)前記のいずれかにおいて、建築構造物と建築物の内装や外装や塗装との間に該電子回路が配置可能に形成されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
(5)前記のいずれかにおいて、前記基板はシリコン基板であり、前記回路は一つの前記基板上に形成されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
(6)前記のいずれかにおいて、前記電子回路に連絡するアンテナを備え、前記電子回路は一つの前記基板上に形成され、前記アンテナは前記基板の外に配置する領域を有することを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
(7)前記のいずれかにおいて、前記基板は単結晶シリコン基板であり、前記基板が前記建築物構造材料の内部もしくは表面に配置可能に形成されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置である。又、例えばそのシリコン基板表面に不純物拡散層を備えたひずみ測定回路が形成される。
(8)単結晶半導体基板の一主面上に、ひずみセンサ抵抗とダミー抵抗を構成する複数の抵抗層を備えたホイートストンブリッジ回路を備え、前記ひずみセンサ抵抗は前記半導体基板中形成されたP型の不純物拡散層であり、その長手方向は<110>方向と直交する方向より<110>方向に沿った方向に配置され、前記ダミー抵抗は前記半導体基板中に形成されたP型の不純物拡散層であり、その長手方向は<100>方向と直交する方向より<100>方向に沿った方向に配置されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
【0007】
または、シリコン基板上にホイートストンブリッジを形成したひずみセンサを建築構造材に接触もしくは埋め込むように形成されている。
【0008】
また、ホイートストンブリッジ回路からの信号に基いてデジタル信号に変換する変換回路と、該デジタル信号を前記半導体基板の外部に伝送する伝送回路と、電源回路と、を備える。
(9)単結晶半導体基板の一主面上に、ひずみセンサ抵抗とダミー抵抗を構成する複数の抵抗層を備えたホイートストンブリッジ回路を備え、前記ひずみセンサ抵抗は前記半導体基板中形成されたN型の不純物拡散層であり、その長手方向は<100>方向直交する方向より<100>方向に沿った方向に配置され、前記ダミー抵抗は前記半導体基板中に形成されたP型の不純物拡散層であり、その長手方向は<110>方向と直交する方向より<110>方向に沿った方向に配置されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
(10)前記いずれかにおいて、前記電子回路に連絡するアンテナを備え、前記アンテナの被測定物側に前記非測定対象物より高透磁性の部材が配置されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
(11)前記いずれかにおいて、前記電子回路に固有のID番号を有することを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
(12)前記いずれかにおいて、前記電子回路は、温度測定回路を備えることを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
(13)前記いずれかにおいて、前記電子回路を駆動する振動発電、太陽光発電、温度差発電、バッテリのいずれかの発電装置を設けたことを特徴とする構造物の損傷検知装置である。例えば、センシングは自己発電の電力を使い、送信をRFの電力で行うようにすることが好ましい。
【0009】
データ送信時以外のセンサ駆動を該発電装置で行うことを特徴とする。
(14)前記いずれかにおいて、前記電子回路に、センサ校正データを内蔵できる不揮発メモリ回路が内蔵されていることを特徴とする構造物の損傷検知装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、前記課題の何れかの解決に寄与しうる構造物の損傷検知装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の第一の実施例を図1から図8を用いて説明する。図1には本発明の第一の実施例である測定システム1を示す。本実施例における測定システム1は、被測定物である構造部材2の表面に配される測定部3と、この測定部3へ電磁波を供給し、測定結果である電磁波を供給されるリーダー4と、リーダー4の結果を用いて損傷の程度を診断する診断部5から構成される。なお、ここで構造部材2とは建築構造物の荷重を分担して負担する部分であって、外見上の美観を保つ目的のみ設置されるものとは分けて考える。
【0012】
測定部3は、少なくとも、図2の回路ブロック構成に示すように、13.56MHz、2.45GHz、860〜960MHz等の搬送波で送信される信号の変復調およびDC電源の生成を行うRFアナログ回路部6、ひずみセンサ信号の増幅回路部7、A/D変換を行うセンサアナログ回路部8、ひずみセンサ部9、通信制御回路部10、アンテナ部11より構成される。第一の実施例では、測定部3は図3に示すようにアンテナ11を除いて全て1つのシリコン基板12の上に形成されている。このように1つのシリコン基板12上にアンテナ11を除く全ての回路が形成されることにより、数ミリ以下で測定部3が実現できるので、ごく小さいことから設置場所を選ばず測定部3を設置することができ、また建築物の美観を損なうことがないという利点がある。また簡単にチップを貼り付けるもしくは埋め込むことで測定が可能であり、測定部3を設置するための支持構造が不要となるという利点がある。また、半導体デバイスの製造プロセスで量産できることから大量に安価に生産できるという利点がある。
ひずみのアンテナ11を外付けとすると、アンテナの面積が稼げるため、その分通信距離を長くすることができるという利点がある。測定部3は、リーダー4から電磁波を供給されると、この電磁波のエネルギによって回路を動作させることができる。ひずみセンサ9で構造部材2のひずみを検知し、これを増幅回路7で増幅した後にセンサアナログ回路8でデジタルデータに変換される。さらに通信制御回路10とRFアナログ回路部6を用い、アンテナ11を通してその測定値をリーダー4に送信する。このように測定部3はリーダー4の電磁波を電源として動作することができるので、ワイヤレスで構造部材2のひずみ状態を簡単にモニターすることができる。図3ではループ型のアンテナの場合を示したが、使う周波数によっては図4のようなダイポールアンテナや八木宇田アンテナ、パッチアンテナを用いても良い。
【0013】
なお、図3において、素子形成面と対向するシリコン基板12の裏面、すなわち図3の表面、が構造部材2と接触させるための主な接続面21であり、構造部材2のひずみが変化するとシリコン基板12の裏面を通してひずみセンサ9にひずみが伝わり、抵抗の変化として捉えられる。
【0014】
なお、ひずみセンサ9は感度が高いことからピエゾ抵抗効果を用いた不純物拡散層抵抗であることが望ましいが、抵抗線式のひずみゲージに相当するものでも性能は劣るが精度の不要な目的では代用することができる。また本実施例のように1チップ内にホイートストンブリッジを設けることにより、構造部材2の温度が変化した場合でも精度の良い測定が行えるという利点が生まれる。図5にはホイートストンブリッジを有する測定部3を示す。ひずみセンサ9はシリコン基板12の<110>方向を長手とするようにP型不純物拡散層が形成され、ホイートストンブリッジにおけるダミー抵抗13はシリコン基板12の<100>方向を長手とするようにP型不純物拡散層が形成されている。このようにP型不純物拡散層を<100>方向が長手となるように形成することで、ひずみに対する感度をごく低くできる。よってダミー抵抗13にひずみセンサ9と同様なひずみが与えられた場合でも、抵抗値は不変であるためにダミー抵抗として用いることができる。よって、構造部材2の温度が変化し、これに追従して測定部3の温度が変化した場合においても、ホイートストンブリッジが測定部3に内蔵できているので精度の良い測定が可能となる。また、N型不純物拡散層を用いた場合には、ひずみセンサ9はシリコン基板12の<100>方向を長手とするようにN型不純物拡散層を形成し、ホイートストンブリッジにおけるダミー抵抗13はシリコン基板12の<110>方向を長手とするようにN型不純物拡散層を形成する。なお、図5ではひずみセンサ9はシリコン基板12の端部に配置されているが、中心に配した方がより精度の高い測定が可能となる。
【0015】
また、図1と図6を用いて測定部3の設置方法を説明する。図1は構造部材2の表面に測定部3を配した場合である。測定部3のシリコン基板12の裏面は構造部材2に接続されており、構造部材2がひずんだ場合にはそのひずみがシリコン基板12に伝わるため、ひずみセンサ9でそのひずみを測定することができる。ここで裏面とはシリコン基板12の素子形成面に対向する面を示すが、素子形成面を構造部材2と接続しても、素子の信頼性は若干劣るものの、同様な効果を得ることができる。図1に示す設置方法の場合には設置が容易であるという利点を有する。また、図6に示すようにチップを埋め込んでもよい。構造部材2がセメントのような場合には、本発明の方法によれば、ワイヤレスであるために混ぜるだけで簡単に設置でき、また感度が高いという利点を有する。なお、上記の設置方法において、アンテナ11は構造部材2の表面に露出していたほうが通信距離が長くなるという利点を有するが、埋め込まれても通信は可能である。また、図示はしていないが測定部3が構造部材2に半分埋め込まれた状態でも良い。この場合には通信距離を長くできるとともに、埋め込まれているために接続信頼性に優れるという利点を有する。なお、アンテナは構造部材2の表面と平行となるように配した方が、リーダー4からの電磁波を効率よく受けることができるので望ましい。
【0016】
また、図7にはアンテナ11をシリコン基板12上に形成した場合の測定部3を用いた場合を示す。アンテナ内蔵型の場合を示す。また1ボードの場合を示す。この場合には通信距離は伸びないものの、より小型化でき、またアンテナ11との接合部202が露出しないために信頼性が高いという利点がある。また、本実施例では、小型化でき、かつ安価に製造できる利点を生かした例としてシリコンチップにセンサと制御回路を全て載せたものを示したが、樹脂基板上に複数の部品をアセンブルして1ボードとすることによって、図7と同様な効果を持たせたものでもよい。基板上に拡散層を形成することによって疲労の発生を抑制した形態にできる。この場合には通常のひずみゲージを用いても、図5のセンサ部分のみを用いてもよく。この場合には測定部3のサイズが大きくなるという短所はあるものの、少量生産しやすいという利点がある。また上記、図7では、シリコンチップ上に全ての回路を搭載したが、2チップに分けても良い。
【0017】
また、図8には構造部材2が金属である場合に適した測定部3を示す。これは高透磁率材料がある場合を示す。構造部材2が金属である場合には、リーダー4から照射された磁束が構造部材2と平行方向に向きを変えるために、電磁波がアンテナ部11まで届き難くなるという問題が生じる。そこで本発明においては、図8に示すように外部アンテナと構造部材2の間に高透磁率材料204を配するが、シリコン基板12の裏面は構造部材2に接しているようにする。このように高透磁率材料204をアンテナ部11と構造部材2の間に配することによって電磁波が該高透磁率材料204の内部を通過しやすくなるために、その上部のアンテナ部11に電磁波が届きやすくなるという利点がある。一方、シリコン基板12は構造部材2に接しているので、構造部材2のひずみがシリコン基板12に伝わり、シリコン基板12の表面に形成された不純物拡散層抵抗の抵抗値変化でひずみを検知することが可能となる。また、高透磁率材料204と構造部材2の間にさらにアルミニウム等の金属材203の層が存在しても良い。この場合には電磁波の伝達特性は金属層203でほとんど決まるために、構造部材2の材料が変化した場合でも電磁波の伝達特性が不変となるという利点が生じる。
【0018】
以上の本実施例における本特許の効果、利点をまとめて以下に示す。測定部3はリーダー4の電磁波を電源として動作することができるので、ワイヤレスで構造部材2のひずみ状態をモニターすることができる。よって測定のために結線する必要が無いため、構造部材に測定部3を配する場合においても、見かけを気にすることが無く、他の部材との位置的な干渉の問題が少ないため、設置場所の制限を受けることが無いという利点がある。また、測定部3はシリコンチップにアンテナ11が形成されただけの物であるため、非常に小さく、設置場所の制限を受けないという利点がある。また、ワイヤレスで測定値を得ることができるが、その電源がリーダ4からの電磁波であるため、電池等の電源が不要であり、電池等の電源を交換する必要が無いという利点を有する。また、図1に示すように通常、構造部材2は内外装14で覆われている場合が多く、従来は内外装14を除去した後に測定する必要があった。しかしながら本発明によれば、ワイヤレスの通信が可能となるため、内装を外すことなく測定が可能となる。すなわち、見かけの良い状態を保持したまま、工事の必要も無く、簡単に測定することが可能となる。すなわち、通常使っている状態において簡単に定期的な測定・診断が可能となるという大きな利点がある。
【0019】
このように測定されたひずみ値は測定部からの情報をワイヤレスで受信する受信部を有するリーダー4に電磁波を介して取り込まれるが、リーダー4はその中に情報を記録する情報蓄積部を持つ。より好ましくは更に、データ収集後に回線、携帯電話機能を有し、フラッシュメモリカード等の電磁気記録媒体を介して診断部5に送られる。診断部5では過去に測定されたデータと比較され、損傷の程度が見積もられる。なお、好ましくは、情報が取り込まれたことを表示する表示部を有する。
【0020】
測定部3を構造部材2に設置後、リーダー4でセンシングデータを読み取り、その値を基準として記録媒体もしくは診断部5内部に持った状態で、常にセンシングデータとこの基準を比較し、定期診断や災害後の損傷診断に用いるのが望ましい。測定部3を構造部材2に設置した後では、実装に伴って残留応力が測定部3に発生することがあり、その場合においても精度の高い測定結果が得られるという利点がある。
【0021】
しかしながら、必ずしも診断部5の無い状態でも、リーダー4から測定値を読み出す、あるいは表示させる機能があるだけでも同様な効果を有する場合も多い。すなわち、その数値を用いて測定者が比較検討を行うだけでも十分に損傷の程度を把握できる場合もある。
【0022】
本発明における第二の実施例は、測定部3からリーダー4へ送られるデータが測定値だけでなく、各測定部3に固有のID番号をも送信することができる場合である。図9には本実施例における測定部3の回路ブロック構成を示す。図9に示すように、第一の実施例に加えて、少なくとも、固有のID番号を保持する機能とこれをセンシングデータとともに順次出力する機能を持つ回路が加わる。これらを図9ではID発行部15に含まれる状態で表示している。この測定部3を用いることによって、各測定部固有のID番号とセンシングデータを順次、リーダー4に送信することが可能となる。リーダー4および診断部5では対応する測定値とID番号とを組にして管理することができるので、履歴管理を行う場合には特に有用である。すなわち、災害前後のひずみの状態を比較しようとする場合に、ID番号で検索すればよいことから、大幅に手間が省けるという利点がある。また、測定部3を構造部材2に設置した後には設置に由来する残留ひずみが発生することがあるが、その残留ひずみを設置直後に測定し、校正値として保存しておく必要がある。本実施例によれば、このとき各測定部3が測定値と共にID番号を出力するので、それぞれの測定部3に対応した校正値を簡便に管理することができるという利点がある。また、ID番号管理とともに輻輳制御機能を測定部3内に設けることによって、近くに他の測定部3を配置した場合でも、それぞれ識別しながらリーダー4で読み取ることが可能となる。
【0023】
本発明における第三の実施例を図10に示す。本実施例は、測定部3内に不揮発メモリ16を有し、データを不揮発で内蔵することができる。不揮発メモリ16にはセンサの校正データを入れても良いし、過去のセンシングデータの履歴を蓄積しても良い。校正データを入れた場合には、校正データとともにセンシングデータを送信し、リーダー4でセンシングデータを校正し、精度の高い測定結果として得ることができる。校正データは個々の測定部3についてあらかじめ測定され、不揮発メモリ16に書き込まれているのが望ましい。個々の測定部について校正データを書き込む事によって、測定部のセンサの特性がばらついた場合においても、精度の高い測定が可能となるという利点がある。また、校正データは温度の関数であることが望ましい。
【0024】
また、構造部材2に測定部3を設置した後に、その測定値を不揮発メモリ16に書き込む事も有効である。構造部材2へ測定部3を設置すると、その実装状態に応じて残留応力が負荷されるため、その実装後の残留応力を初期状態として把握し、記録する事によって精度の高い測定が可能となるという利点がある。また、災害発生前のデータを測定部3に書き込む事によって、災害発生後のデータとともにリーダ4に読み出すことで、その変化を簡単に捉えることが可能となる。
【0025】
本発明における第四の実施例を図11に示す。本実施例は、測定部3内にひずみセンサとともに温度センサ17が内蔵され、ひずみとともに温度のセンシングデータを順次、リーダー4に送信することができる。温度センサ17は、その原理としてシリコン基板中に形成したダイオードの温度依存性を用いて測定できるものが望ましい。シリコン基板中に不純物イオン注入を行うことでダイオードを形成できるため、他の通信制御回路10等のトランジスタのイオン注入層と同時に形成できるために、工程が簡単になるという利点がある。
【0026】
このように温度センサ17とひずみセンサを同時に内蔵し、順次センシングデータをリーダー4に送信することにより、温度データをもとにひずみセンサの特性をリーダー4もしくは診断部5の側で補正することができ、より精度の高い測定が可能となるという利点がある。また温度とひずみのデータを同時に管理できるという利点がある。またIDを発行する機能が追加されることで、さらにリーダー4と診断部5でのデータ管理が容易になるという利点がある。
【0027】
また図12は本発明の第五の実施例の構成図を示すが、これは自己発電部18を有しており、リーダ/ライタによる電波照射時以外でもひずみの測定が可能となる。また不揮発性メモリ16を内蔵しており、ひずみの値を不揮発で記憶できることに特徴がある。予め設定した値以上の値であるときに記憶するようにすれば、大きな負荷の履歴のみを取り出して記憶出来る。これにより、必要なメモリ容量を少なくすることができ、小さい発電量でも動作可能となるという利点がある。またタイマー19を内蔵することにより、時刻と負荷とIDナンバーを同時に記憶することが出来るという利点が生まれる。また、不揮発性メモリ16に蓄えた測定値は電磁誘導もしくはマイクロ波による読み出しが可能となっていても良い。すなわち、測定値を電波で発信するには大きな電力量を必要とすることから、電波の発信のエネルギは電磁誘導もしくはマイクロ波で賄い、電力量を多量に必要としない測定は自己発電のエネルギで賄う事により、自己発電部18の発電量が少ない場合においてもエネルギが足りなくなることが無いという利点を有する。ここで、自己発電部18とは電池を含む、振動発電、太陽光発電、圧電素子を用いた発電、流体力による発電などが含まれる。このように本実施例では、自己発電部18の出力が小さいような適用例でも運用が可能となるという大きな利点がある。
【0028】
また図13は本発明の第六の実施例の構成図を示すものである。本実施例ではシリコン基板12上に形成された拡散抵抗層をひずみセンサ9、ダミー抵抗13として、ひずみの検知に用いている。ひずみセンサ9はシリコン基板12の<110>方向を長手とするように不純物拡散層が形成され、ホイートストンブリッジにおけるダミー抵抗13はシリコン基板12の<100>方向を長手とするように不純物拡散層が形成されている。このように拡散層を配置することによって、構造部材2の温度が変化し、これに追従して測定部3の温度が変化した場合においても、ホイートストンブリッジが測定部3に内蔵できているので精度の良い測定が可能となる。このシリコン基板12の素子形成面に対抗する面を構造部材2に接するように配し、ひずみを拡散層の抵抗値の変化で検知する。この抵抗値の変化はシリコン基板12内に形成されたホイートストンブリッジによって電圧の変化としてとらえられ、シリコン基板12外へ配線によって引き出されて、デジタル化電送回路206によってデジタル化された後に電波で受信機205へ電送される。これらの回路を動作させるための電力は自己発電部18によって賄われる。本実施例によれば、ひずみをシリコン基板12内に形成した拡散抵抗の抵抗値変化で読み取るため、従来の薄膜を利用したひずみゲージに比べて繰り返し負荷に強く、疲労することがないという利点がある。よって一定時間後にセンサが疲労するために取り出す工事を行うということがなく、メインテナンスが容易であるという利点がある。また、ホイートストンブリッジがシリコン基板12上に1チップに収められており、従来の外付けのホイートストンブリッジに比較して非常に小型にできるという利点がある。よって、見かけを気にすることが無く、他の部材との位置的な干渉の問題が少ないため、設置場所の制限を受けることが無いという利点がある。さらにひずみセンサは半導体製造工程を応用して作られたものであるので、細線の加工が精度よく行え、このため高抵抗で消費電力を従来のひずみセンサの数百分の1にすることが可能となる。よってワイヤレスで測定値を電送する場合でも、自己発電部18の消費を気にすることなく測定が可能で、自己発電部としてバッテリを用いた場合でも長期間の測定がバッテリの交換なしで可能となるという利点を有する。
【0029】
また、本実施例ではひずみセンサ部をシリコン基板12上に形成してあるが、これのみを構造部材2に接触させ、その他の部分を構造部材より離して配しても良い。特にアンテナ11を構造部材2より離すことによって、構造部材2が金属である場合には通信距離が伸びるという利点が生じる。また、シリコン基板12と他の部分を分けて設置することにより、設置の自由度が増し、他の部材との干渉を回避できるという利点が生じる。
【0030】
図14から図18には本発明を用いた場合の構造物モニタリングおよび損傷検知システムを示す。図14はビルや一般家屋など一般建築物に本発明を適用した場合である。一般建築物においてひずみの集中が予想される柱20に測定部3が付着あるいは埋め込まれている。その柱20および測定部3は内外装14で覆われていても良い。内外装14の外側の見える部分に配線が露出することが無く、見かけは測定部3が無い場合と同等の外観で、リーダー4を測定部3に近づけるだけでひずみ状態のモニタリングが可能となる。このようにして得られたセンシング情報は診断部5において損傷の程度が診断され、これをもとに構造体の修復、補強の場所が特定される。このように本発明によれば、外観を損なうことなく測定部3を設置し、センシングできるという大きな利点が生まれる。なお、図14では測定部3を柱に取り付ける場合について示したが、ひずみの集中しやすい箇所や災害後にひずみの集中が予想される箇所であれば、壁や梁、ヒンジ、接合部、窓ガラス、窓部、喚起部その他の部材に取り付けても同様な効果が生まれる。
【0031】
図15には、本発明を斜張橋、吊橋、鉄橋等のトラス構造物に適用した場合を示す。同様にひずみの集中が予想される箇所に測定部3を設置する。例えば溶接箇所やボルト締結箇所、ヒンジなどの部分に設置しても良い。また図16は本発明を橋に設置した場合であり、図17は本発明を吊り橋に適用した場合、図18はトンネルに設置した場合である。
従来、このような場所のセンシングを行う場合には、測定箇所に設置したセンサから測定者の手元まで配線を長く伸ばす必要があり、設置自由度が制限されてきたという問題があった。しかし本実施例の場合には、手の届きにくい場所のセンシングを行う場合でも、リーダー4を近づけるだけでセンシングが可能となるので、設置位置の自由度を拡大できるという利点がある。
また、従来このような場所のセンシングを行う場合に、測定箇所に設置したセンサから測定者の手元まで配線を長く伸ばす必要があり、この場合に災害時の過大な外力や火災による高温曝露により、長く張巡らせた配線のいずれかの箇所が損傷する可能性が高く、災害後の測定に対する信頼性が著しく損なわれる場合が多かった。しかしながら本発明によれば、配線を長く伸ばす必要が無いため、配線の断線を気にすることが無く、信頼性の高い測定が可能となるという利点がある。
また、従来は測定者の手元に置かれた計測器に対応した個数のセンサしか設置できず、コストを考慮すると測定点の個数に大きな制限があった。しかしながら本実施例によれば、多数の測定部3の測定値をそれぞれリーダー4を近づけるだけで取得できることから、少数のリーダー4を用いるだけで無数の測定部3からのセンシング情報を得ることができる。すなわち本実施例によれば多数の測定部3の設置が、コストを気にすることなく実現することができるという利点が生まれる。
【0032】
これまで述べた形態によって、以下の作用効果を有することができる。
【0033】
本形態によれば、構造物のモニタリングを行う際に、電磁波でセンシング情報を伝達するので、被測定物に付着させた測定部3からのセンシング情報を結線して外に取り出す必要が無い。すなわち内装や外装を外したり、その一部から配線を出したりする必要が無いため、外観を損なうことがない。このように内装や外装に特殊な工事や設計が不要であり、簡便に設置できるという利点がある。
【0034】
また本形態によれば、被測定物に付着させた測定部3の電源は、リーダー4と結線することなく電磁波で供給される。被測定物である構造部材が内装や外装に覆われていた場合でも、これを外すことなく電源供給できる。すなわち内装や外装を外して結線して計測を行う必要が無く、一旦測定部3を設置してしまえば、リーダー4を設置場所に近づけるだけで測定が可能となるという利点がある。また、電池を用いたワイヤレス計測システムのように電源が消耗して、内装や外装を外して交換する手間がないという利点がある。
【0035】
また本形態によれば、被測定物に付着させた測定部3からのセンシング情報を結線して外に取り出す必要が無いため、震災や火災等の災害時に長く張り巡らせた配線が断線して使えなくなるということが無く、信頼性のある測定が可能となる。
【0036】
また、本形態によれば、繰り返し負荷に強く、疲労しないため、長期に使用した場合でも信頼性ある測定が可能となるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第一実施例の測定システムを示す模式図である。
【図2】本発明の第一実施例における測定部の回路ダイヤグラムである。
【図3】本発明の第一実施例における測定部を示す模式図である。
【図4】本発明の第一実施例における測定部を示す模式図である。
【図5】本発明の第一実施例における測定部を示す斜視図である。
【図6】本発明の第一実施例における測定部の取付け方法を示した模式図である。
【図7】本発明の第一実施例における測定部を示す斜視図である。
【図8】本発明の第一実施例における測定部を示す断面図である。
【図9】本発明の第二実施例の測定システムを示す回路ダイヤグラムである。
【図10】本発明の第三実施例における測定部の回路ダイヤグラムである。
【図11】本発明の第四実施例における測定部の回路ダイヤグラムである。
【図12】本発明の第五実施例における測定部の回路ダイヤグラムである。
【図13】本発明の第六実施例における測定部の回路ダイヤグラムである。
【図14】本発明を一般建築物に適用した場合の実施例である。
【図15】本発明をトラス構造物に適用した場合の実施例である。
【図16】本発明を橋に適用した場合の実施例である。
【図17】本発明を吊り橋に適用した場合の実施例である。
【図18】本発明をトンネルに適用した場合の実施例である。
【符号の説明】
【0038】
1.測定システム
2.構造部材
3.測定部
4リーダー
5.診断部
6.RFアナログ回路部
7.増幅回路部
8.センサアナログ回路部
9.ひずみセンサ部
10.通信制御回路部
11.アンテナ部
12.シリコン基板
13.ダミー抵抗
14.内外装
15.ID発行部
16.不揮発メモリ
17.温度センサ部
18.自己発電部
19.タイマー
20.柱
21.主接着面
22.素子形成層
23.梁
24.橋脚
25.橋げた
26.吊り部材
27.トンネル
28.トンネル内装
201.フィルム
202.接合部
203.金属材
204.高透磁率材料
205.受信機
206.デジタル化電送回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物構造物の内部もしくは表面に設置可能に形成され、基板と、前記基板の上に形成されたひずみ測定機能を持つ電子回路とを備え、
前記電子回路は前記電子回路外より照射された電磁波エネルギから電源を生成する電源回路を有することを特徴とする建築構造物の損傷検知装置。
【請求項2】
建築物構造物の内部もしくは表面に設置可能に形成され、基板と、前記基板の上に形成されたひずみ測定機能を持つ電子回路とを備え、
前記電子回路は電磁波信号の変復調およびDC電源の生成を行うためのRFアナログ回路、チップ動作制御を行う論理回路、ひずみを測定するひずみセンサ回路、前記ひずみセンサ信号の増幅回路、を含むことを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項3】
建築物構造物の内部もしくは表面に設置可能に形成され、基板と、前記基板の上に形成されたひずみセンサ回路と、前記基板外より照射された電磁波エネルギから電源を生成する電源回路と、を備えた電子回路を有する建築構造物の損傷検知装置で、測定したひずみ測定値に基く情報を無線で受信する受信部と、前記受信した情報を記録する記録部と、を備えたことを特徴とする損傷検知リーダ。
【請求項4】
請求項1或は2において、建築構造物と建築物の内装や外装や塗装との間に該電子回路が配置可能に形成されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項5】
請求項1或は2において、前記基板はシリコン基板であり、前記回路は一つの前記基板上に形成されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項6】
請求項1、2、4、5の何れかにおいて、前記電子回路に連絡するアンテナを備え、前記電子回路は一つの前記基板上に形成され、前記アンテナは前記基板の外に配置する領域を有することを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項7】
請求項1、2、4、5、6の何れかにおいて、前記基板は単結晶シリコン基板であり、前記基板が前記建築物構造材料の内部もしくは表面に配置可能に形成されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項8】
単結晶半導体基板の一主面上に、ひずみセンサ抵抗とダミー抵抗を構成する複数の抵抗層を備えたホイートストンブリッジ回路を備え、
前記ひずみセンサ抵抗は前記半導体基板中形成されたP型の不純物拡散層であり、その長手方向は<110>方向と直交する方向より<110>方向に沿った方向に配置され、前記ダミー抵抗は前記半導体基板中に形成されたP型の不純物拡散層であり、その長手方向は<100>方向と直交する方向より<100>方向に沿った方向に配置されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項9】
単結晶半導体基板の一主面上に、ひずみセンサ抵抗とダミー抵抗を構成する複数の抵抗層を備えたホイートストンブリッジ回路を備え、
前記ひずみセンサ抵抗は前記半導体基板中形成されたN型の不純物拡散層であり、その長手方向は<100>方向直交する方向より<100>方向に沿った方向に配置され、前記ダミー抵抗は前記半導体基板中に形成されたP型の不純物拡散層であり、その長手方向は<110>方向と直交する方向より<110>方向に沿った方向に配置されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項10】
請求項1、2,4から9の何れかにおいて、前記電子回路に連絡するアンテナを備え、前記アンテナの被測定物側に前記非測定対象物より高透磁性の部材が配置されたことを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項11】
請求項1、2、4から10のいずれかにおいて、前記電子回路に固有のID番号を有することを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項12】
請求項1、2、4から11のいずれかにおいて、前記電子回路は、温度測定回路を備えることを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項13】
請求項1、2、4から12のいずれかにおいて、前記電子回路を駆動する振動発電、太陽光発電、温度差発電、バッテリのいずれかの発電装置を設けたことを特徴とする構造物の損傷検知装置。
【請求項14】
請求項1、2、4から13のいずれかにおいて、前記電子回路に、センサ校正データを内蔵できる不揮発メモリ回路が内蔵されていることを特徴とする構造物の損傷検知装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−29931(P2006−29931A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207998(P2004−207998)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】