説明

引き寄せ金物及びそれを用いた木造住宅の補強工法

【課題】施工が容易であり、短時間で既存住宅の補強を行うことができる引き寄せ金物を提供することを目的とする。
【解決手段】木造住宅の、直交する第1の構造材と第2の構造材とを緊結するための引き寄せ金物であって、前記第1の構造材に固定するアンカービスと、前記第2の構造材に固定する受け金物と、引き寄せボルトと、ナットと、からなり、前記引き寄せボルトは両端に雄ネジ部を形成し、前記アンカービスは頭部に前記引き寄せボルトの前記雄ネジ部に螺合可能な雌ネジ部を形成し、前記受け金物は、前記引き寄せボルトと該引き寄せボルトに螺合したナットとを係合することを特徴とする、引き寄せ金物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造住宅の柱と横架材(土台、梁など)等の結合箇所を補強するための引き寄せ金物及びそれを用いた補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
引き寄せ金物は、木造住宅において、土台や梁等の第1の構造材と、柱等の第2の構造材それぞれに取り付け金物を取り付けて、引き寄せボルトにより取り付け金物どうしを引き寄せることにより、第1の構造材と第2の構造材を緊結し、結合箇所を補強するものである。
【0003】
近年、引き寄せ金物は既存住宅の耐震補強に用いられている。
既存住宅における耐震補強は、居住した状態で短期間に行うために、室内側から内壁のみを取り外して、第1の構造材である梁aと第2の構造材である柱bに引き寄せ金物を取り付ける。このため、第1の構造材aに取り付ける第1の取り付け金物cは、天井dと外壁eとの隙間から取り付けることとなる(図8)。
第1の取り付け金物cは、まず引き寄せボルトfと連結した状態で接着シートgにより梁aに接着して位置決めを行い、その後引き寄せボルトfを取り外して、固定用ネジhにより梁に固定する。そして、再度引き寄せボルトfを第1の取り付け金物cに取り付けて、引き寄せボルトfを第2の構造材である柱bに取り付けた第2の取り付け金物iと連結して、補強を行う(図9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−322275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この補強工法には以下のような問題があった。
(1)第1の取り付け金物cを固定する固定用ネジhは、ロングビットjを装着した工具kにより取り付けるが(図8)、ロングビットjの先端に固定用ネジhを配置し、天井と外壁との隙間にそのロングビットjを挿通して作業する必要があるため、施工が困難であり、施工時間が長くなる。
(2)第1の取り付け金物cから取り外した引き寄せボルトfを、天井と外壁との隙間から再度第1の取り付け金物cに取り付けるため、二度手間となり、施工時間が長くなる。
(3)第1の取り付け金物cは固定用ネジhにより固定するが、取り付け強度を維持するために複数本の固定用ネジhが必要であり、第1の取り付け金物cが大きくなってしまう。
(4)第1の取り付け金物cが大きくなってしまうと、引き寄せボルトfを連結した状態での位置決めが困難となる。また、かど金物等の他の補強金物と干渉してしまい、取り付け場所が限られてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、施工が容易であり、短時間で既存住宅の補強を行うことができる引き寄せ金物およびそれを用いた補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本願の第1発明は、木造住宅の、直交する第1の構造材と第2の構造材とを緊結するための引き寄せ金物であって、前記第1の構造材に固定するアンカービスと、前記第2の構造材に固定する受け金物と、引き寄せボルトと、ナットと、からなり、前記引き寄せボルトは両端に雄ネジ部を形成し、前記アンカービスは頭部に前記引き寄せボルトの前記雄ネジ部に螺合可能な雌ネジ部を形成し、前記受け金物は、前記引き寄せボルトと該引き寄せボルトに螺合したナットとを係合することを特徴とする、引き寄せ金物を提供する。
本願の第2発明は、第1発明の引き寄せ金物を用いた、木造住宅の補強工法であって、前記引き寄せボルトの一端に前記アンカービスを螺合し、前記引き寄せボルトの他端を工具によりチャックし、前記工具により前記アンカービスを前記第1の構造材に打設し、前記受け金物を前記引き寄せボルトの他端に係合した状態で前記第2の構造材に固定し、前記引き寄せボルトの他端に前記ナットを螺合して、前記引き寄せボルトおよび前記受け金物を緊結することを特徴とする、木造住宅の補強工法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
(1)第1の取り付け金物を引き寄せボルトに螺合可能なアンカービスとすることにより、アンカービスと引き寄せボルトが一体となった状態で作業が可能となり、狭い作業空間であっても施工が容易である。
(2)アンカービスおよび引き寄せボルトを一体として設置するため、施工時間が短縮できる。
(3)アンカービスと引き寄せボルトを一体として、引き寄せボルトの端部を工具に取り付けて施工を行うため、アンカービスの取り付け位置が手元から離れていても容易に施工ができる。このため、上下方向ではなく、左右方向の補強も可能である。
(4)第1の取り付け金物がアンカービスそのものであるため、設置スペースを小さくできるため、他の補強金物との干渉が少なく、様々な場所に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の引き寄せ金物の説明図
【図2】受け金物の展開状態の斜視図
【図3】受け金物の斜視図
【図4】本発明の引き寄せ金物の使用状態の説明図
【図5】本発明の補強工法の説明図
【図6】その他実施例にかかる引き寄せ金物の使用状態の説明図(1)
【図7】その他実施例にかかる引き寄せ金物の使用状態の説明図(2)
【図8】従来の引き寄せ金物の作業状態の説明図
【図9】従来の補強工法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図に示す実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
[1]引き寄せ金物の概要
本発明の引き寄せ金物は、アンカービス1、引き寄せボルト2、ナット3及び受け金物4と、からなる。(図1)
【0012】
(1)アンカービス
アンカービス1は、頭部11と軸部12からなる。
アンカービス1の頭部11は高ナット状であり、頂部に雌ネジ部111を形成する。
【0013】
(2)引き寄せボルト、ナット
引き寄せボルト2は、両切りボルトであり、両端に雄ネジ部21a、21bを形成する。
引き寄せボルト2の一方の雄ネジ部21aは、アンカービス1の雌ネジ部111と螺合する。また他方の雄ネジ部21bはナット3と螺合する。
【0014】
(3)受け金物
受け金物4は断面コ字状の取付部41と、取付部41の対向する2辺から立設する係合部42と、係合部42間に渡設する係止片43と、からなる。係止片43の中央部にはボルト挿通孔431を形成する。
受け金物4は一枚の鋼板を型抜きし、これをプレス加工により折り曲げて形成する(図2)。
また、係止片43ではなく、係止座金44を用いても良い(図3)
【0015】
[2]引き寄せ金物を用いた補強構造
次に、本発明の引き寄せ金物を用いた補強構造について説明する。
【0016】
(1)アンカービス、受け金物の配置
アンカービス1は、梁5の下面に、上方向に打設する(図4)。
受け金物4は、柱6の側面にビス(図示せず)等により取り付ける。
アンカービス1は柱6に取り付けた受け金物4の延長線上に配置する。
【0017】
梁5に設けるアンカービス1は柱6に取り付けた受け金物4の延長線上に位置するため、梁5と柱6の結合箇所の近傍に打設する必要がある。
アンカービス1はビス状であるため、他の補強金物との干渉が小さくなり、様々な場所に用いることができる。
【0018】
(2)引き寄せボルト
引き寄せボルト2の一方の雄ネジ部21aは、アンカービス1の雌ネジ部111と螺合する。
引き寄せボルト2の他方の雄ネジ部21bは、受け金物4の係止片43のボルト挿通孔431に挿通し、ボルト挿通孔431から延出する雄ネジ部21bにナット3を螺合し、ナット3を係止片43に接触させる。
ナット3は係止片43と接触した後、さらに締め込まれており、係止片43およびナット3を介して引き寄せボルト2およびアンカービス1には下方向の力が作用するため、梁5を柱6に引き寄せ、梁5と柱6が緊結される。
【0019】
[3]引き寄せ金物を用いた補強工法
次に、本発明の引き寄せ金物を用いた補強工法について説明する。
【0020】
(1)アンカービスと引き寄せボルトの連結
アンカービス1の雌ネジ部111と引き寄せボルト2の雄ネジ部21aを螺合して、アンカービス1と引き寄せボルト2を一体にする(図5a)。
雌ネジ部111と雄ネジ部21aを螺合するのみであるため、手作業により容易に一体にすることができる。
また、アンカービス1と引き寄せボルト2を予め一体にして形成してもよい。
【0021】
(2)アンカービスの打設
引き寄せボルト2と一体となったアンカービス1を、打設する梁5の下面に位置決めする。アンカービス1と引き寄せボルト2は一体となっているため、位置決めが容易である。
そして、引き寄せボルト2の下側の雄ネジ部21bを工具7にてチャックし、工具7によりアンカービス1を梁5にねじ込み、打設する(図5b)。アンカービス1と引き寄せボルト2は螺合しているため、引き寄せボルト2を工具7により回転すると、引き寄せボルト2が雌ネジ部111もしくは雄ネジ部21aの端部まで螺合した後、アンカービス1が回転する。このため、アンカービス1の打設位置が工具7から離れていたり、作業空間が狭くても、容易に打設することができる。また、アンカービス1と引き寄せボルト2を同時に設置できるため、施工時間が短縮できる。
アンカービス1を打設した後、工具7を引き寄せボルト2から外すと、アンカービス1および引き寄せボルト2が、梁5から垂下した状態となる。
【0022】
(3)受け金物の取り付け
受け金物4の係止片43のボルト挿通孔431に、梁5から垂下した引き寄せボルト2を挿通する。このとき、引き寄せボルト2の雄ネジ部21bの一部が受け金物4の係合部42から、ナット3で固定するのに十分な長さだけ、下方へ延出するように、受け金物4の高さを調整する。
そして、受け金物4の取付部41を柱6に当接し、図示しないビット等により柱6に固定する(図5c)。
【0023】
(4)引き寄せ
受け金物4から延出した引き寄せボルト2の雄ネジ部21bに、ナット3を螺合する。
ナット3を、係止片43と接触した位置からさらに締め込むことにより、係止片43およびナット3を介して引き寄せボルト2およびアンカービス1に下方向の力が作用し、梁5を受け金物4を取り付けた柱6に引き寄せ、梁5と柱6を緊結する。
【0024】
[その他実施例]
上記実施例においては、アンカービス1を梁5に打設し、梁5と柱6を緊結したが、アンカービス1を土台8に打設して、柱6と土台8を緊結してもよい(図6)。
既存住宅における耐震補強の場合、アンカービス1を打設する土台8は、床板9より下にある。しかしアンカービス1は引き寄せボルト2と一体にした状態で打設するため、壁面(外壁または内壁)と床板9との隙間から容易に打設することができる。
【0025】
また、アンカービス1を柱6に打設し、受け金物4を梁5等の横架材に取り付けた補強構造としてもよい(図7)。
アンカービス1と引き寄せボルト2とが一体となっているため、アンカービス1を横方向にも容易に打ち込むことができる。
【0026】
さらに、本願の引き寄せ金物は柱と横架材の結合箇所の他にも、例えば小屋裏において母屋と垂木等の結合箇所に、あおり止め金物として使用したり、小屋梁と小屋束や、大引と束の緊結にも使用する事ができる。
【符号の説明】
【0027】
1 アンカービス
11 頭部
111 雌ネジ部
12 軸部
2 引き寄せボルト
21 雄ネジ部
3 ナット
4 受け金物
41 取付部
42 係合部
43 係止片
431 ボルト挿通孔
44 係止座金
5 梁
6 柱
7 工具
8 土台
9 床板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造住宅の、直交する第1の構造材と第2の構造材とを緊結するための引き寄せ金物であって、
前記第1の構造材に固定するアンカービスと、前記第2の構造材に固定する受け金物と、引き寄せボルトと、ナットと、からなり、
前記引き寄せボルトは両端に雄ネジ部を形成し、
前記アンカービスは頭部に前記引き寄せボルトの前記雄ネジ部に螺合可能な雌ネジ部を形成し、
前記受け金物は、前記引き寄せボルトと該引き寄せボルトに螺合したナットとを係合することを特徴とする、引き寄せ金物。
【請求項2】
請求項1に記載の引き寄せ金物を用いた木造住宅の補強工法であって、
前記引き寄せボルトの一端に前記アンカービスを螺合し、
前記引き寄せボルトの他端を工具によりチャックし、
前記工具により前記アンカービスを前記第1の構造材に打設し、
前記受け金物を前記引き寄せボルトの他端に係合した状態で前記第2の構造材に固定し、
前記引き寄せボルトの他端に前記ナットを螺合して、前記引き寄せボルトおよび前記受け金物を緊結することを特徴とする、木造住宅の補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−14963(P2013−14963A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149127(P2011−149127)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(503473954)株式会社住宅構造研究所 (20)
【Fターム(参考)】