説明

弾性表面波アクチュエータ

【課題】
励振手段の破損を防止でき、しかも固定子の耐久力を向上できる弾性表面波アクチュエータを提供する。
【解決手段】
弾性表面波アクチュエータは、圧電基板2と該圧電基板2の表面に形成されて圧電基板2に弾性表面波を発生させる励振手段となる電極3a,3bとを備える固定子1と、電極3a,3bが形成される励振用部位P1を除く圧電基板2の表面部位P2に所定の圧力で接触されて弾性表面波により移動させられる移動子4とを具備し、移動子4を接触移動させる移動用部位P3を含む圧電基板2の表面部位P2には、圧電基板2よりも高い硬度を有する硬質膜5が形成され、硬質膜5は、移動子4と電極3a,3bとが干渉しない程度の膜厚を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波アクチュエータは、小型で高速、高推力な駆動並びに精密な位置決めが可能であり、小型リニアアクチュエータとしての実現が期待されている。
【0003】
このような弾性表面波アクチュエータとしては、圧電基板を備えるとともに該圧電基板の表面の両端部に形成されて圧電基板に弾性表面波を発生させるIDT(Interdigital Transducer)を励振手段として備える固定子と、圧電基板の表面に所定の圧力で接触されて前記弾性表面波により移動させられる移動子とを具備し、固定子に接触される移動子の面に耐摩耗性に優れた硬質膜を設けたものが従来から提供されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−235275号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような弾性表面波アクチュエータを動作させた際には、IDTから発生した弾性表面波により移動子に推力が与えられ、移動子は弾性表面波を発生しているIDT側へと移動する。そのため、移動子が移動範囲を越えて移動したり、移動子が長尺状のものであったりすると、移動子の端部がIDTに衝突して、IDTが破損してしまうおそれがあった。このような問題は、IDTを移動子の移動領域から十分に離間させて配置すればある程度防止することができていたが、このように離間させた際には、固定子が大型化してしまうという問題が新たに生じていた。
【0005】
本発明は上述の点に鑑みて為されたもので、その目的は、励振手段の破損を防止でき、しかも固定子の耐久力を向上できる弾性表面波アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1の弾性表面波アクチュエータの発明では、圧電基板と該圧電基板の表面に形成されて圧電基板に弾性表面波を発生させる励振手段とを備える固定子と、前記励振手段が形成される励振用部位を除く圧電基板の表面部位に所定の圧力で接触されて前記弾性表面波により移動させられる移動子とを具備し、少なくとも前記表面部位において移動子を接触移動させる移動用部位には、圧電基板よりも高い硬度を有する硬質膜を形成するとともに、前記硬質膜は、移動子と励振手段とが干渉しない程度の膜厚を有したことを特徴とする。
【0007】
請求項2の弾性表面波アクチュエータの発明では、請求項1の構成に加えて、硬質膜を、前記移動用部位において、移動子の移動方向に略交差する方向の縁部に形成したことを特徴とする。
【0008】
請求項3の弾性表面波アクチュエータの発明では、請求項1又は2の構成に加えて、硬質膜は、移動子との間の摩擦係数が、圧電基板と移動子との間の摩擦係数よりも大きい部位を有したことを特徴とする。
【0009】
請求項4の弾性表面波アクチュエータの発明では、請求項3の構成に加えて、硬質膜は、移動子との間の摩擦係数が、圧電基板と移動子との間の摩擦係数よりも小さい部位を有したことを特徴とする。
【0010】
請求項5の弾性表面波アクチュエータの発明では、請求項1〜3のいずれか1項の構成に加えて、硬質膜の表面粗さは、圧電基板の表面粗さよりも小さいことを特徴とする。
【0011】
請求項6の弾性表面波アクチュエータの発明では、請求項1〜5のいずれか1項の構成に加えて、硬質膜の膜厚は、圧電基板の一面の面方向における弾性表面波の振幅以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項7の弾性表面波アクチュエータの発明では、請求項1〜6のいずれか1項の構成に加えて、硬質膜は、複数の膜が積層された多層膜からなり、前記複数の膜のうち圧電基板に接する膜の硬度を最も低く設定したことを特徴とする。
【0013】
請求項8の弾性表面波アクチュエータの発明では、請求項1〜7のいずれか1項の構成に加えて、少なくとも圧電基板に接する硬質膜の部位を、導電性を有する材料から形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このような構成の弾性表面波アクチュエータは、圧電基板の表面に圧電基板よりも高い硬度を有する硬質膜を形成して、この硬質膜に移動子が接触するようにしているので、移動子の反復移動による固定子の摩耗を抑えて固定子の耐久力を向上することができるという効果があり、しかも、硬質膜の膜厚を、移動子と励振手段とが干渉しないような厚みに設定しているので、移動子が励振手段に衝突することがなくなり、励振手段が破損することを防止できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について図1〜図5を用いて説明する。
【0016】
(実施形態1)
本発明の弾性表面波アクチュエータとしては、例えば弾性表面波リニアモータ(以下、SAW(Surface Acoustic Wave)リニアモータと略す)があり、このようなSAWリニアモータは、図1(a)に示すように、圧電基板2と該圧電基板2の表面(図1(a)における上面)に形成されて圧電基板2に弾性表面波を発生させる励振手段となる電極3a,3bとを備える固定子1と、電極3a,3bが形成される励振用部位P1を除く圧電基板2の表面部位P2に所定の圧力で接触されて弾性表面波により移動させられる移動子4とを具備し、移動子4を接触移動させる移動用部位P3を含む圧電基板2の表面部位P2には、圧電基板2よりも高い硬度を有する硬質膜5が形成され、硬質膜5は、図1(b)に示すように移動子4と電極3a,3bとが干渉しない程度の膜厚を有している。
【0017】
固定子1は、上記の圧電基板2と、電極3a,3bと、硬質膜5とで構成されている。ここで、圧電基板2は、固定子1の下地材となるものであり、例えばLiNbO(ニオブ酸リチウム)単結晶等の電気機械結合係数が高い圧電材料を用いて形成された矩形状の圧電結晶板である。また、図1(a)に示すように、圧電基板2の表面の長手方向両端側は、電極3a,3bを形成するための励振用部位P1,P1となっており、これら励振用部位P1,P1を除く圧電基板2の表面部位P2の一部は、移動子4を接触移動させる移動用部位P3となっている。尚、圧電基板2としては非圧電材料の基板の表面に、ZnO等の圧電薄膜を形成したものを用いてもよい。
【0018】
電極3a,3bは、プラス極とマイナス極が交互に列設された所謂交差指電極(櫛歯状電極、Interdigital Transducer:IDTともいう)であり、図1(a)に示すように圧電基板2の表面の励振用部位P1,P1に形成されている。また電極3a,3bには、それぞれ高周波電源AC1,AC2が接続されており、高周波電源AC1,AC2により高周波電圧を供給すると、これら電極3a,3bは、圧電基板2の長手方向に弾性表面波を発生させる。
【0019】
硬質膜5は、例えばSiC、TiN、TiC、Si、DLC(Diamond Like Carbon)等の耐摩耗性に優れるとともに、圧電基板2の材料(本実施形態ではLiNbO)よりも硬度が高い材料を用いており、圧電基板2の表面部位P2の全面を覆うように形成されている。また、硬質膜5の膜厚は、移動子4と電極3a,3bとが干渉しないように、例えば電極3a,3bの厚みよりも厚く設定してあり、これにより、硬質膜5の表面位置が電極3a,3bの表面位置よりも上方に位置するようにしている。
【0020】
このとき、硬質膜5の膜厚を厚くしすぎると、図2(b)に示すように、硬質膜5によって弾性表面波の振幅が減衰してしまい、移動子4に所望の推進力を与えることができなくなる場合がある。そこで、硬質膜5の膜厚に対する弾性表面波の減衰率を調べた結果、図2(c)に示すグラフが得られた。図2(c)を参照すれば明らかなように、硬質膜5の膜厚が弾性表面波の振幅以下であれば減衰率が略0となるため、硬質膜5の膜厚は、弾性表面波の振幅以下とすることが好ましい。このように硬質膜5の膜厚を設定すれば、図2(a)に示すように、硬質膜5による弾性表面波の振幅の減衰を極めて小さくすることができ、これによりSAWリニアモータの動作効率が悪化することを抑制できる。
【0021】
このような硬質膜5は、硬質膜5の形成位置のみが開口したマスクを圧電基板2の表面の所定位置に配置した状態で、PVD(Physical Vapor Deposition)法や、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等を用いることで形成でき、PVD法の1つであるスパッタ法を用いるのが簡便で好ましい。また、硬質膜5を単層膜ではなく、複数種の材料からなる多層膜としてもよく、さらに形成する部位毎に異なる材料を用いるようにしてもよい。また、硬質膜5の表面を研削加工、研磨加工することによって、硬質膜5の表面粗さを小さくするようにすれば、硬質膜5と接触子4とを均一に接触させることができるので、弾性表面波による推力を効率良く移動子4に伝達することが可能になり、これによりSAWリニアモータの動作効率を向上できる。
【0022】
移動子4は、例えば略直方体状に形成された本体4aと、固定子1からの駆動力を得やすくするために固定子1と対向する本体4aの面(本実施形態では下面)に突設された複数の突起4bとで構成されている。本実施形態では、移動子4の材料としてシリコンを用いており、シリコンを用いれば、半導体用の加工プロセス(ドライエッチング等)を適用できるので加工を容易に行うことができる。尚、移動子4の材料は上記のシリコンに限られるものではなく、半導体用の加工プロセスを用いることができるものであれば、加工を容易に行える点で好ましい。
【0023】
そして、移動子4は、図示しない予圧手段から圧力を受けるとともに固定子1の硬質膜5の表面に複数の突起4bを接触させた状態で、圧電基板2の移動用部位P3に対応する硬質膜5上に配置され、これにより本実施形態のSAWリニアモータが構成されている。
【0024】
次に、本実施形態のSAWリニアモータの動作について説明する。まず、高周波電源AC1をオンして励振用電極3aのみに高周波電圧を印加した際には、電極3aによって圧電基板2に歪が生じ、これにより弾性表面波であるレイリー波が発生する。このレイリー波は、圧電基板2の表面(上面)及び硬質膜5を介して、電極3aから固定子1の長手方向両側(図1(a)の左右)へ伝播する。そして、移動子4は、このレイリー波の伝播に伴なう固定子1の微小振動から推力を得て、電極3a側へ移動していく。
【0025】
一方、高周波電源AC1をオフし、高周波電源AC2をオンして電極3bのみに高周波電圧を印加した際には、同様に電極3bによって圧電基板2に歪が生じ、これによりレイリー波が発生し、このレイリー波は、圧電基板2の表面(上面)及び硬質膜5を介して、電極3bから固定子1の長手方向両側(図1(a)の左右)へ伝播する。そして、移動子4は、このレイリー波の伝播に伴なう固定子1の微小振動から推力を得て、硬質膜5上を電極3b側へ移動していく。
【0026】
この後に、高周波電源AC2をオフし、高周波電源AC1をオンすると、励振用電極3aにより励振されたレイリー波によって再び移動子4が硬質膜5上を励振用電極3a側へ移動する。
【0027】
すなわち、本実施形態のSAWリニアモータでは、高周波電源AC1,AC2のオンオフの切り換えによって、移動子4が固定子1の長手方向(左右方向)に反復移動することになる。ここで、反復移動時に、移動子4の端部が移動用部位P3から励振用部位P1へはみ出たとしても、硬質膜5の表面位置が電極3a,3bの表面位置よりも上方に位置しているので、移動子4が電極3a,3bに衝突することがない。
【0028】
したがって、本実施形態のSAWリニアモータによれば、圧電基板2の表面に圧電基板2よりも高い硬度を有する硬質膜5を形成して、この硬質膜5に移動子4が接触するようにしているので、移動子4の反復移動による固定子1の摩耗を抑えて固定子1の耐久力を向上することができる。しかも、硬質膜5の膜厚を電極3a,3bの厚みよりも厚く設定して、移動子4と電極3a,3bとが干渉しないようにしているので、移動子4が電極3a,3bに衝突することがなくなり、電極3a,3bが破損することを防止できる。
【0029】
一方、硬質膜5の材料として例えばSiCやTiN等の他の部材との摩擦係数が比較的高くなる材料を用いることで、硬質膜5と移動子4との間の摩擦係数が圧電基板2と移動子4との間の摩擦係数よりも大きくなるようにすることができる。このようにすれば、硬質膜5を備えていない固定子1と移動子4との間の摩擦係数よりも、硬質膜5を備える固定子1と移動子4との間の摩擦係数が大きくなるので、弾性表面波による推力(駆動力)を効率良く移動子4に伝達することが可能になり、これによりSAWリニアモータの動作効率を向上できる。
【0030】
ところで、上記の例では、図3(a)に示すように、硬質膜5を励振用部位P1,P1を除いた圧電基板2の表面部位P2の全面に設けているが、本実施形態のSAWリニアモータは上記の例に限られるものではなく、図3(b)に示すように、表面部位P2において移動子4を接触移動させる移動用部位P3にのみ硬質膜5を形成するようにしてもよい。このように移動用部位P3のみに硬質膜5を形成した場合でも上記と同様の効果を得ることができ、しかも、硬質膜5を形成するために必要な材料コストを減らすことができるので、製造コストの低減を図ることができる。つまり、このような硬質膜5は、少なくとも表面部位P2において移動子4を接触移動させる移動用部位P3に形成されていればよい。
【0031】
また、硬質膜5の材料として良好な導電性を有する金属材料等を用いることができ、金属材料を用いた際には、硬質膜5を導電路として用いることが可能になる。この場合、硬質膜5のすべてを導電性を有する材料とする必要はなく、少なくとも圧電基板に接する硬質膜の部位が、導電性を有する材料から形成されていればよい。一方、硬質膜5として、複数の膜、例えばそれぞれ硬度の異なる膜を積層してなる多層膜を用いることができ、この場合は、圧電基板2に接する膜の硬度を最も低く設定することで、急激な硬度の変化を抑えて、弾性表面波による微小振動を効率良く移動子4に伝達することが可能になる。
【0032】
尚、本実施形態は、上記のSAWリニアモータの例に限られるものではなく、さらに複数の励振用電極を備えるSAWリニアモータとしてもよい。また、本実施形態では弾性表面波アクチュエータの例として、上記のようなSAWリニアモータを挙げているが、本発明の弾性表面波アクチュエータは、SAWリニアモータに限られるものではなく、移動子4の形状も上記の例に限られるものではない。
【0033】
(実施形態2)
本実施形態のSAWリニアモータは、硬質膜の構成に特徴があり、その他の構成を上記実施形態1と同様であるから、同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0034】
すなわち、本実施形態の硬質膜6は、図4(a)に示すように、圧電基板2の移動用部位P3において、移動子4の移動方向に略交差する方向(圧電基板2の短手方向)の両縁部にそれぞれ形成されている。尚、硬質膜6の膜厚は実施形態1と同様に電極3a,3bの厚さより厚く設定している。
【0035】
そして移動子4は、図4には簡略化のため図示しないが、例えば一方の硬質膜6上に配置されて上記実施形態1と同様に反復移動するように設けられている。尚、移動子4を両硬質膜6,6間に架設するように配置してもよい。
【0036】
このように硬質膜6を形成することにより、電極3a,3bから圧電基板2の短手方向周縁部へ伝播して熱となっていた弾性表面波Lを、図4(b)に示すように硬質膜6,6で短手方向の中央部側へ反射する(言い換えれば硬質膜6,6により弾性表面波を閉じ込める)ことができるので、硬質膜6,6がない場合に比べて、移動用部位P3における弾性表面波の振幅(振動)を大きくすることができる。
【0037】
したがって、本実施形態のSAWリニアモータによれば、上記実施形態1の利点に加えて、従来は熱になることで無駄になっていた弾性表面波を利用できるようになるので、上記実施形態1よりも移動用部位P3における弾性表面波の振幅(振動)を大きくすることができ、そのためより大きな推力を移動子4に伝達することができ、結果としてSAWリニアモータの動作効率を向上できる。
【0038】
尚、本実施形態の硬質膜6の構成は上記のものに限られるものではなく、状況に応じて移動用部位P3の好適な位置に設けるようにすればよい。
【0039】
(実施形態3)
本実施形態のSAWリニアモータは、硬質膜の構成に特徴があり、その他の構成を上記実施形態1と同様であるから、同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
すなわち、本実施形態の硬質膜60は、図5(a)に示すように、圧電基板2の移動用部位P3を覆うように形成される第1の膜61と、第1の膜61上において、移動子4の移動方向に略交差する方向(圧電基板2の短手方向)の両縁部にそれぞれ形成される第2の膜62,62とで構成された多層膜としている。ここで、第1の膜61としてはSiCを用い、第2の膜62としてはTiNを用いている。尚、第1の膜61の膜厚は実施形態1と同様に電極3a,3bの厚さより厚く設定している。
【0041】
そして移動子4は、図5(b)に示すように、第2の膜62,62間の第1の膜61の上面部位に配置されて上記実施形態1と同様に反復移動するように設けられている。
【0042】
このように硬質膜60を形成することにより、電極3a,3bから圧電基板2の短手方向周縁部へ伝播して熱となっていた弾性表面波Lを、図5(b)に示すように第2の膜62,62で短手方向の中央部側へ反射する(言い換えれば第2の膜62,62により弾性表面波を閉じ込める)ことができるので、移動用部位P3、特に第1の膜61での弾性表面波の振幅(振動)を大きくすることができる。
【0043】
したがって、本実施形態のSAWリニアモータによれば、上記実施形態1の利点に加えて、従来は熱になることで無駄になっていた弾性表面波を利用できるようになるので、上記実施形態1よりも移動用部位P3における弾性表面波の振幅(振動)を大きくすることができ、そのためより大きな推力を移動子4に伝達することができ、結果としてSAWリニアモータの動作効率を向上できる。
【0044】
尚、本実施形態の硬質膜60の構成は上記のものに限られるものではなく、状況に応じて移動用部位P3の好適な位置に設けるようにすればよい。
【0045】
(実施形態4)
本実施形態のSAWリニアモータは、硬質膜の構成に特徴があり、その他の構成を上記実施形態1と同様であるから、同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0046】
すなわち、本実施形態の硬質膜7は、図6に示すように、移動子4との間の摩擦係数が圧電基板2と移動子4との間の摩擦係数よりも小さい部位である第1の膜7aと、移動子4との間の摩擦係数が圧電基板2と移動子4との間の摩擦係数よりも大きい部位である第2の膜7bとを有している。
【0047】
第1の膜7aは、例えばTiCやDLC等の他の部材との間の摩擦係数が比較的小さくなる材料を用いて形成されており、移動用部位P3の略中央部に形成されている。一方、第2の膜7bは、例えばSiCやTiN等の他の部材との間の摩擦係数が比較的大きくなる材料を用いて形成されており、第1硬質膜7aを圧電基板2の短手方向の両側から挟むようにして移動用部位P3に形成されている。ここで、第1の膜7aの膜厚を第2の膜7bの膜厚よりも厚く形成するとともに、これら膜7a,7bの膜厚の差が第2の膜7bを伝搬する弾性表面波の振幅よりも小さくなるように設定している。また移動子4と各膜7a,7bとの接触面積や、移動子4と各膜7a,7bとの間の摩擦係数は、最も効率良く移動子4を移動させることができるような値に設定してある。
【0048】
そして移動子4は、図6には簡略化のため図示しないが、硬質膜7の第1の膜7a上に配置されるとともに、その進行方向に直交する方向の両端部が第1の膜7aから突出して第2の膜7bの上方に位置するようにして配置されて、上記実施形態1と同様に反復移動するように設けられている。
【0049】
このように構成された硬質膜7によれば、第1の膜7aの膜厚が第2の膜7bの膜厚よりも厚くなっているので、弾性表面波を励振していない状態では移動子4は第1の膜7aにのみ接触している。一方、第1の膜7aと第2の膜7bの膜厚の差を第2の膜7bを伝搬する弾性表面波の振幅よりも小さくなるように設定しているので、電極3a又は電極3bで弾性表面波を励振した際には、弾性表面波の振幅が最も高く、進行方向の速度が最も大きくなっている第2の膜7bの部位のみが移動子4に接触することになる。つまり、移動子4は、第1の膜7aから突出した部分において、移動子4との摩擦力が大きい第2の膜7bから大きい推力(駆動力)を得て、移動子4との間の摩擦力が小さい第1の膜7a上を移動していくのである。そのため、このような硬質膜7を用いることで、移動子4の速度を大きくすることができ、しかも動摩擦力による影響を小さくできるから、移動子4を効率良く移動させることが可能になる。したがって、本実施形態のSAWリニアモータによれば、上記実施形態1の利点に加えて、上記実施形態1よりもSAWリニアモータの動作効率を向上できる。
【0050】
尚、本実施形態の硬質膜7の構成は上記のものに限られるものではなく、状況に応じて好適な構成とすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)は、本発明の実施形態1の弾性表面波アクチュエータの概略上面図であり、(b)は、概略側面図である。
【図2】(a)は、本発明の実施形態1の弾性表面波アクチュエータの説明図であり、(b)は、比較例の説明図であり、(c)は、硬質膜の膜厚に対する弾性表面波の減衰率を示すグラフである。
【図3】(a)は、本発明の実施形態1の弾性表面波アクチュエータの概略斜視図であり、(b)は、他の例を示す概略斜視図である。
【図4】(a)は、本発明の実施形態2の弾性表面波アクチュエータの概略斜視図であり、(b)は、説明図である。
【図5】(a)は、本発明の実施形態3の弾性表面波アクチュエータの概略斜視図であり、(b)は、説明図である。
【図6】本発明の実施形態4の弾性表面波アクチュエータの概略斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
1 固定子
2 圧電基板
3a,3b 電極
4 移動子
5 硬質膜
P1 励振用部位
P2 表面部位
P3 移動用部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と該圧電基板の表面に形成されて圧電基板に弾性表面波を発生させる励振手段とを備える固定子と、前記励振手段が形成される励振用部位を除く圧電基板の表面部位に所定の圧力で接触されて前記弾性表面波により移動させられる移動子とを具備し、少なくとも前記表面部位において移動子を接触移動させる移動用部位には、圧電基板よりも高い硬度を有する硬質膜を形成するとともに、前記硬質膜は、移動子と励振手段とが干渉しない程度の膜厚を有したことを特徴とする弾性表面波アクチュエータ。
【請求項2】
硬質膜を、前記移動用部位において、移動子の移動方向に略交差する方向の縁部に形成したことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項3】
硬質膜は、移動子との間の摩擦係数が、圧電基板と移動子との間の摩擦係数よりも大きい部位を有したことを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項4】
硬質膜は、移動子との間の摩擦係数が、圧電基板と移動子との間の摩擦係数よりも小さい部位を有したことを特徴とする請求項3に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項5】
硬質膜の表面粗さは、圧電基板の表面粗さよりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項6】
硬質膜の膜厚は、圧電基板の一面の面方向における弾性表面波の振幅以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項7】
硬質膜は、複数の膜が積層された多層膜からなり、前記複数の膜のうち圧電基板に接する膜の硬度を最も低く設定したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項8】
少なくとも圧電基板に接する硬質膜の部位を、導電性を有する材料から形成したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性表面波アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−28828(P2007−28828A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209149(P2005−209149)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】