説明

摩擦材の接着方法

【課題】接着工程でガスが発生しないことにより、接着材層にボイドが形成されないため接着強度が高く、熱硬化収縮も小さい、環境にやさしい、接着品質の安定した摩擦材の接着方法を提供する。
【解決手段】ブレーキパッドのプレッシャプレート(略称P/P)に摩擦材を接着させる摩擦材の接着方法において、P/Pの被接着面にリン酸塩皮膜又は軟窒化皮膜処理を施す工程、及びP/Pの被接着面をショットブラスト、ウェットブラスト等により粗面にする工程の少なくとも1つの工程からなる前処理工程と、この前処理を施されたP/Pの接着面にポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤を塗布する工程と、このポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤をプレキュアして軟化流動させるか又は予備硬化させる工程と、摩擦材を重ねて加熱加圧して接着する工程とを含むことを特徴とする摩擦材の接着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着工程においてガスの発生しない、環境にやさしい、接着品質の安定した摩擦材の接着方法に係り、更に詳細には、接着工程での加熱によってもガスの発生しない、耐熱性に優れたポリベンゾオキサジン系樹脂を接着剤として使用することにより、金属板と多孔質材、例えばブレーキパッドのプレッシャプレート(金属板)と摩擦材(多孔質板)との接着強度の安定した、摩擦材の接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦材とプレッシャプレートとの接着に於いて、特許文献1では溶剤を使用しない人体に無害な接着方法、また接着層に溶剤残留のない接着強度の安定した工法として、フェノール樹脂系、エポキシ樹脂系の粉末状粒子を静電塗布にてプレッシャプレートに付着させ、摩擦材を熱硬化性接着剤上に圧着加熱することが記載されている。
【特許文献1】特開2000−88021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、フェノール樹脂系の場合、接着剤の予備加熱、熱成形、成形後の加熱工程において、熱硬化に伴うアンモニア、アルコール、エーテル等のガスが発生し、環境上好ましくない。また、このガスは接着層のピンホール形成に繋がり、欠陥部となりやすく、接着強度の低下を招く。
また、エポキシ樹脂系の場合、ガス発生は抑えられるが、フェノール樹脂系に比べ耐熱性に劣るため、ブレーキ用摩擦材への使用には限界がある。
【0004】
本発明は、このような従来の事情よりなされたものであり、接着工程でガスが発生しないことにより、接着材層にボイドが形成されないため接着強度が高く、熱硬化収縮も小さい、環境にやさしい、接着品質の安定した摩擦材の接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的を達成すめために下記の構成よりなるものである。
(1)ブレーキパッドのプレッシャプレートに摩擦材を接着させる摩擦材の接着方法において、
プレッシャプレートの被接着面にリン酸塩皮膜又は軟窒化皮膜処理を施す工程、及びプレッシャプレートの被接着面をショットブラスト、ウェットブラスト等により粗面にする工程の少なくとも1つの工程からなる前処理工程と、
この前処理を施されたプレッシャプレートの接着面にポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤を塗布する工程と、
このポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤をプレキュアして軟化流動させるか又は予備硬化させる工程と、
摩擦材を重ねて加熱加圧して接着する工程とを含むことを特徴とする摩擦材の接着方法。
(2)前処理工程は、プレッシャプレートの被接着面をショットブラスト、ウェットブラスト等により粗面にする工程に続いて、更に被接着面にリン酸塩皮膜又は軟窒化皮膜処理を施す工程とを含むことを特徴とする前記(1)記載の摩擦材の接着方法。
(3)接着剤の塗布工程は、ポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤の粉体を用いて静電塗布することを特徴とする前記(1)記載の摩擦材の接着方法。
(4)接着剤として熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、又はエラストマーで変性されたポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤の粉体を用いることを特徴とする前記(1)又は(3)記載の摩擦材の接着方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、プレッシャプレートと摩擦材との接着剤として、加熱によりガスの発生しない耐熱性に優れたポリベンゾオキサジン系樹脂を使用しているために、環境の悪化が無く、接着剤層にボイドが形成されないので接着強度が高く、かつ熱収縮も小さい摩擦材の接着方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の多孔質の摩擦材を金属質のプレッシャプレートに接着する方法は、ポリベンゾオキサジン系樹脂を接着剤として、プレッシャプレートに摩擦材を接着するための方法であって、プレッシャプレートにリン酸塩皮膜、軟窒化皮膜を形成する工程、あるいはショットブラスト、ウェットブラストによる表面粗面化の工程、またはショットブラスト、ウェットブラスト後にリン酸塩、軟窒化皮膜を形成する工程、前記前処理後、ポリベンゾオキサジン系の接着剤を粉体静電塗布により付着させる工程、粉体静電塗布にて付着したポリベンゾオキサジン系樹脂をプレキュアして、軟化流動させる工程、あるいは予備硬化させる工程、摩擦材をボリベンゾオキサジン系接着剤上に圧着加熱する工程とを含む。
【0008】
以下の実施形態は車両のブレーキに使用するブレーキパッドの製造に応用したものであって、プレッシャプレートである金属板の表面に多孔質材(多孔質の摩擦層)を接着するものである。
【0009】
まず、化成処理によって金属板の表面にリン酸塩皮膜を形成する。このリン酸塩皮膜を形成することで表面エネルギーが増大し接着面積も増大する。
リン酸塩皮膜としてはリン酸鉄皮膜、リン酸マンガン皮膜、リン酸亜鉛皮膜が例示できる。リン酸塩皮膜の代わりに軟窒化皮膜を形成する場合、窒化層(FeN)及び窒化層表面に鉄リチウム酸化層を付加した皮膜が考えられる。リン酸塩と同様に表面エネルギー、接着面積の増大を図ることができる。
続いて、ポリベンゾオキサジン系樹脂である熱硬化性接着剤粒子をリン酸鉄皮膜上に形成する。この形成方法としては外部荷電方式と内部帯電方式とがある。
【0010】
接着強度をより安定化させる方法として、ポリベンゾオキサジン系樹脂の粉末粒子を静電塗布にてプレッシャプレートに付着後、プレキュアしてプライマーとして予備硬化させた状態で、更に同じ粉末粒子を静電塗布し、軟化領域での加熱でフローさせた後、摩擦材と圧着加熱する方法がある。但し、前述の1回塗りでも条件管理を徹底した状態で、接着強度は十分得ることが可能である。
上記接着剤は溶剤型でも十分な接着強度を得ることができるが、溶剤揮発に伴う環境問題があるため、無溶剤である粉末の接着剤がより好ましい。
【0011】
このようにして形成された熱硬化性接着剤粒子をプレキュアして樹脂が完全硬化に至る前の段階の半硬化の状態とし、熱硬化性接着剤粒子の表面張力を減少させる。プレキュアによって熱硬化性接着剤粒子のガラス転移点で接着剤の表面張力がプレッシャプレートの表面張力より減少し良好なぬれ特性が得られる。また、リン酸鉄皮膜と熱硬化性粒子間の界面エネルギーは、従来のプライマーと接着剤間の界面エネルギーに比較して小さいため物理特性が安定している。
【0012】
ポリベンゾオキサジン系樹脂は、ストレートでも可能であるが、複合型としたものがより好ましく、プレッシャプレートと摩擦材の接着力が十分なものとしては熱硬化性樹脂変性、熱可塑性樹脂変性、エラストマー変性が挙げられる。熱硬化性の変性樹脂としてはエポキシ樹脂、熱可塑性の変性樹脂としては、フェノール樹脂ノボラック、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ナイロン、ポリ酢酸ビニル、ロジン等が例示できる。また、エラストマーとしては、NBR、クロロプレン、シリコーン、ポリウレタン等が例示できる。
【0013】
接着剤層(皮膜)厚みは軟化流動後で10〜100μmであり、摩擦材との十分なアンカー効果確保及びプレッシャプレートと摩擦材との間からの接着剤はみ出しを考慮した場合、より好ましくは20〜50μmである。
この状態で予備成形された摩擦材を、Bステージレベルまで予備硬化した熱硬化性接着剤上に圧着加熱する。このときプレキュアによって熱硬化性接着剤の溶融粘度の増大及びある程度の高分子化が図られていることから、多孔質である摩擦材への熱硬化性接着剤の流入が抑制され強固な接着剤層が形成される。熱成形後の加熱により熱硬化性接着剤は完全硬化し、摩擦材と熱硬化性接着剤粒子との投錨効果の発生、接着剤凝集力の形成、各界面張力の極小安定化が生じるため、摩擦材はプレッシャプレート上に完全に接着される。
【0014】
ポリベンゾオキサジン系樹脂の開環重合による熱硬化ではガスの発生がなく、また熱硬化に伴う収縮が小さいため、接着強度を大きく低下させる要因であるボイドの懸念がなく、安定した接着品質を維持することができる。
また、帯電によって熱硬化性接着剤粒子を付着させることで接着剤の回収率を90%程度にすることができ、従来の溶剤型スプレーを使用した場合の回収率30%に比較して大幅に改善された。
【実施例】
【0015】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に、かつ具体的に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0016】
実施例及び比較例
(摩擦材の製造)
ショットプラスト(Rz=20)+リン酸鉄皮膜(皮膜重量=0.6g/m)を施したプレッシャプレートに、フェノール樹脂ノボラック変性ポリベンゾオキサジン(30wt%ノボラック変性)を粉体静電塗布(コロナ荷電方式)し、110℃×10分で軟化流動させ30μmの接着剤皮膜生成後、予備成形品との熱成形、加熱を行い摩擦材(ブレーキパッド)を得た。
比較例として、上記同様の前処理、摩擦材製造方法にてノボラックタイプフェノール樹脂(硬化剤=ヘキサミン)の粉末を接着剤として使用した摩擦材(ブレーキパッド)を作成した。
【0017】
(予備成形品の原料の配合割合)
実施例及び比較例に使用した摩擦材の予備成形品の原料の配合割合(質量部)は、下記第1表に示すとおりである。
(処理工程)
また、実施例及び比較例の処理工程を図1に示す。
(摩擦材の接着性能の評価)
上記の実施例及び比較例により製造した摩擦材の接着性能の評価結果を第2表に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
第2表に示した摩擦材せん断試験結果から、実施例は熱硬化時にガス発生がないため、比較例よりも高温側での強度低下が小さいことが確認された。この場合には、通常行われる300℃での摩擦材の接着性能の評価の他に、特に350℃における摩擦材の接着性能の評価を行ったところ、実施例のものがせん断された程度が比較例に比してかなり少ないことが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の摩擦材の接着方法によれば、ガスの発生しない耐熱性に優れたポリベンゾオキサジン系樹脂を接着剤として使用したことにより、接着強度の高いブレーキパッドを製造することができたので、乗用車、産業機械、鉄道車両等に広い用途を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例及び比較例の摩擦材の主要製造工程を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキパッドのプレッシャプレートに摩擦材を接着させる摩擦材の接着方法において、
プレッシャプレートの被接着面にリン酸塩皮膜又は軟窒化皮膜処理を施す工程、及びプレッシャプレートの被接着面をショットブラスト、ウェットブラスト等により粗面にする工程の少なくとも1つの工程からなる前処理工程と、
この前処理を施されたプレッシャプレートの接着面にポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤を塗布する工程と、
このポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤をプレキュアして軟化流動させるか又は予備硬化させる工程と、
摩擦材を重ねて加熱加圧して接着する工程とを含むことを特徴とする摩擦材の接着方法。
【請求項2】
前処理工程は、プレッシャプレートの被接着面をショットブラスト、ウェットブラスト等により粗面にする工程に続いて、更に被接着面にリン酸塩皮膜又は軟窒化皮膜処理を施す工程とを含むことを特徴とする請求項1記載の摩擦材の接着方法。
【請求項3】
接着剤の塗布工程は、ポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤の粉体を用いて静電塗布することを特徴とする請求項1記載の摩擦材の接着方法。
【請求項4】
接着剤として熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、又はエラストマーで変性されたポリベンゾオキサジン系樹脂接着剤の粉体を用いることを特徴とする請求項1又は請求項3記載の摩擦材の接着方法。

【図1】
image rotate