説明

斜板式可変容量型ピストンポンプ

【課題】部品点数を増加させることなく斜板の傾転角を0°に保持する性能を向上させることができる斜板式可変容量型ピストンポンプの提供。
【解決手段】サーボシリンダ8の傾転制御圧力室11F側において、段差17Fに当接した状態にあるばね座14Fと突出部19Fに当接した状態にあるばね座15Fとの間隔寸法Kが、ばね12Fの自然長Mよりも寸法Nだけ大きく設定されていることと、傾転制御圧力室11R側において、段差17Rに当接した状態にあるばね座14Rと突出部19Rに当接した状態にあるばね座15Rとの間隔寸法Kが、ばね12Rの自然長Mよりも寸法Nだけ大きく設定されていることとによって、ばね12F,12Rがばね力を発揮しない変位量N以下の第1領域R1と、変位量がNよりも大きい領域であって、ばね12F,12Rの両方のばね力の合力がサーボピストン10の変位量に比例する第2領域R2とが設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダやタイヤローラ等のホイール式建設機械に備えられる斜板式可変容量型ピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
斜板式可変容量型ピストンポンプとしては、特許文献1に示される従来技術がある。この従来技術は、ポンプピストンのピストンストロークを可変にする両傾転式の斜板と、傾転制御圧力(油圧)により操作されて斜板の傾転角を制御するサーボシリンダとを備えている。サーボシリンダのサーボピストンの初期位置は、ばねにより規定されている。この初期位置は、斜板の傾転角0°に対応する位置となるように設定されている。
【0003】
このように構成された従来技術では、サーボピストンに傾転制御圧力が付与されていないとき、サーボピストンがばねにより初期位置に保持され、これに伴って斜板の傾転角が0°に保持される。このとき、斜板式可変容量型ピストンポンプは圧油を吐出しない。
【0004】
傾転制御圧力がサーボピストンに付与されてサーボピストンが初期位置から変位すると、斜板が傾転してポンプピストンのピストンストロークが増大し、これによって斜板式可変容量型ピストンポンプが圧油を吐出するようになる。斜板式可変容量型ピストンポンプの回転数が一定であれば、サーボピストンの初期位置からの変位量が大きいほど、すなわち、斜板の傾転角が大きいほど、ポンプ吐出流量は大きくなる。
【特許文献1】特開2001−227455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来技術のように構成される斜板式可変容量型ピストンポンプでは、サーボピストンの初期位置を規定するばね等の製作誤差に起因して、サーボピストンの初期位置と、斜板の傾転角0°に対応するサーボピストンの位置とがずれるという問題がある。この問題を解消するために、サーボピストンの初期位置を調整する手段、例えば調整ねじをサーボシリンダに設けて、この調整ねじにより、サーボピストンの初期位置を斜板の傾転角0°に対応する位置に一致させることができるようになっているものがある。しかし、このように調整ねじ等の手段を設けた場合、部品点数が増加することになり、コストが嵩むという問題が生じる。
【0006】
本発明は、前述の実状を考慮してなされたもので、その目的は、部品点数を増加させることなく斜板の傾転角を0°に保持する性能を向上させることができる斜板式可変容量型ピストンポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕 本発明は、ポンプピストンのピストンストロークを可変にする両傾転式の斜板と、傾転制御圧力により操作されて前記斜板の傾転角を制御するサーボシリンダとを備えた斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、前記斜板の傾転角0°に対応する前記サーボピストンの位置を含む領域であって、自己復帰モーメントが前記斜板に作用したことに伴って前記斜板から前記サーボピストンに付与される自己復帰力のみが、前記サーボピストンを初期位置の方向に付勢する付勢力となる第1領域と、この第1領域よりも外側の領域であって、前記サーボシリンダがばねにより第1領域の方向へ押圧される第2領域とが設定されたことを特徴とする。
【0008】
このように構成された本発明では、第1領域内に位置するサーボピストンを自己復帰力のみにより初期位置に復帰させる。自己復帰力は、傾転角が0°になる方向に斜板を付勢する自己復帰モーメントが斜板に作用したことに伴って斜板からサーボピストンに付与される力であるから、自己復帰力により保持されるサーボピストンの初期位置は、傾転角0°に対応する位置に一致する。つまり、サーボピストンの初期位置を調整ねじ等により調整しなくても、サーボピストンの初期位置を傾転角0°に対応する位置に一致させることができる。さらに、本発明では、サーボピストンが第2領域内に位置するとき、サーボピストンがばねにより第1領域の方向へ押圧されるので、サーボピストンの変位量に応じた大きさの復帰力を発生させることができる。
【0009】
〔2〕本発明は、「〔1〕」記載の発明において、前記ばねが、圧縮された状態で設けられたことを特徴とする。
【0010】
このように構成された本発明では、サーボピストンを第1領域内に保持する力を大きくすることができる。これにより、サーボピストンを操作するための機器の故障等に起因して傾転制御圧力がサーボピストンが変位し始める設定最低圧になったときのポンプ吐出流量を抑えることができる。
【0011】
〔3〕本発明は、「〔2〕」記載の発明において、前記サーボピストンに対してこのサーボピストンの軸方向へ移動可能となるよう設けられ、前記ばねを挟んで対向する一対のばね座と、前記一対のばね座のうちの前記サーボピストンに対して近い方に位置する一方のばね座が前記サーボピストンに対して近づく方向へ変位するのを阻止する第1阻止部と、前記一対のばね座のうちの前記サーボピストンに対して遠い方に位置する他方のばね座が前記サーボピストンに対して離れる方向へ変位するのを阻止する第2阻止部とを備え、前記斜板の傾転角0°に対応する位置に前記サーボピストンが位置した状態では、前記一方のばね座が前記第1阻止部で前記サーボピストンに対して近づく方向への変位を阻止されることと、前記他方のばね座が前記第2阻止部で前記サーボピストンに対して離れる方向への変位を阻止されることとによって、前記一方のばね座と前記サーボピストンとの間に、前記第1領域を規定する間隔があくように設定されたことを特徴とする。
【0012】
このように構成された本発明では、サーボシリンダを複雑な構造にすることなく、また、サーボシリンダを大型化することなく、「〔2〕」記載の構成を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、部品点数を増加させることなく、すなわちサーボピストンの初期位置を調整するための調整ねじ等の手段を設けることなく、斜板の傾転角を0°に保持する性能を向上させることができるので、斜板式可変容量型ピストンポンプのコストの低減に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の斜板式可変容量型ピストンポンプの実施形態について説明する。
【0015】
<第1実施形態>
第1実施形態について図1〜4を用いて説明する。図1は第1実施形態の断面図、図2は図1に示されるサーボシリンダにおけるサーボピストンの変位量とばね力との関係を示す特性線図、図3は図1に示されるサーボピストンの変位後の位置が第1領域内である場合の一例を示す断面図、図4は図2に示されるサーボピストンの変位後の位置が第2領域内である場合の一例を示す断面図である。
【0016】
第1実施形態は図1に示す斜板式可変容量型ピストンポンプ1である。この斜板式可変容量型ピストンポンプ1は、エンジン等の出力軸に結合されるドライブシャフト3と、このドライブシャフト3に対してスプライン結合等により結合されドライブシャフト3と一体的に回転するシリンダブロック4とを備えている。シリンダブロック4には、ドライブシャフト3の軸方向に平行な方向に延び、ドライブシャフト3と同心の円周状に並ぶ複数のシリンダボア5が形成されている。各シリンダボア5には、ポンプピストン6が摺動可能に挿入されている。
【0017】
ポンプピストン6の頭部にはシュー(図示しない)が設けられている。これらのシューには斜板7が接していて、この斜板7によりピストンストロークが規定されている。この斜板7は、傾転角0°から相反する2方向へ傾転可能に設けられた両傾転式である。
【0018】
斜板7の傾転角はサーボシリンダ8により制御されるようになっている。このサーボシリンダ8のシリンダボア9内には、サーボピストン10が、シリンダボア9の軸方向の中心から相反する2方向へ摺動可能に設けられている。サーボピストン10がシリンダボア9の前記中心に位置したときに斜板7の傾転角が0°となるように、また、サーボピストン10が前記中心から一方向へ変位したときに斜板7が一方向へ傾転するように、また、サーボピストン10が前記中心から一方向と相反する逆方向へ変位したときに斜板7が一方向と相反する逆方向へ傾転するように、サーボピストン10と斜板7は結合されている。
【0019】
また、シリンダブロック4を格納するケーシング2には、図示しないが第1,第2吸排管路が形成されている。これらの第1,第2吸排管路は、斜板7との間でシリンダブロック4を挟んで対向する位置で開口している。これらの第1,第2吸排管路とシリンダブロック4の間には、シリンダブロック4が摺動する弁板(図示しない)が設けられている。この弁板には、第1吸排管路に連通する第1吸排ポートと第2吸排管路に連通する第2吸排ポートとが、それぞれドライブシャフト3と同心の円弧状に断続的に形成されている。これにより、シリンダブロック4の回転角度に応じて各シリンダボア5と第1,第2吸排ポートのそれぞれとの位置関係が変化し、各シリンダボア5が第1吸排管路と連通した状態と、各シリンダボア5が第2吸排管路と連通した状態とが交互に切換わるようになっている。
【0020】
エンジンの出力軸の回転方向は一定であるので、ドライブシャフト3と一体的に回転するシリンダブロック4の回転方向も一定である。したがって、両傾転式の斜板7を備える斜板式可変容量型ピストンポンプ1では、斜板7が傾転角0°から一方向に傾転した状態でシリンダブロック4が回転すると、作動油が第1吸排管路から吸込まれて第2吸排管路から吐出されるようになる。逆に、斜板7が傾転角0°から一方向と相反する逆方向へ傾転した状態でシリンダブロック4が回転すると、作動油が第2吸排管路から吸込まれて第1吸排管路から吐出されるようになる。
【0021】
また、斜板式可変容量型ピストンポンプ1は、斜板7を傾転角0°の方向に復帰させるモーメント、すなわち自己復帰モーメントが発生する構造になっている。自己復帰モーメントが発生する構造は一般的に知られているので、説明を省略する。
【0022】
また、シリンダボア9内において、サーボピストン10の両端側のそれぞれには、傾転制御圧力室11F,11Rが設けられている。これらの傾転制御圧力室11F,11Rのそれぞれには、ばね12F,12Rが配置されている。傾転制御圧力室11F側と傾転制御圧力室11R側は同様に構成されていて、サーボピストン10の軸方向における中心線を挟んで線対称になっている。図1における30は、制御弁である。この制御弁8がノーマル位置nから第1位置fに切換わると、傾転制御圧力が傾転制御圧力室11Rに導かれてサーボピストン10を傾転制御圧力室11F側へ押圧するようになっている。また、制御弁8がノーマル位置nから第2位置rに切換わると、傾転制御圧力が傾転制御圧力室11Fに導かれてサーボピストン10を傾転制御圧力室11R側へ押圧するようになっている。
【0023】
傾転制御圧力室11F側の構成について説明する。
【0024】
サーボピストン10の右端面には、サーボピストン10と同心でサーボピストン10の軸方向に延びる棒状部13Fが設けられている。この棒状部13Fには、ばね12Fと、ばね座14F,15Fとが挿通されている。ばね座14F,15Fは、棒状部13Fの軸方向へ移動可能であり、ばね12Fを挟んで対向している。ばね座15Fよりも棒状部13Fの終端側にはストッパ16Fが螺合していて、棒状部13F上においてばね座15Fがサーボピストン10から離れる方向へ移動できる限界位置が規定されている。
【0025】
シリンダボア9には、一対のばね座14F,15Fのうちのサーボピストン10に対して近い方に位置する一方のばね座14Fがサーボピストン10に対して近づく方向へ変位するのを阻止する第1阻止部と、一対のばね座14F,15Fのうちのサーボピストン10に対して遠い方に位置する他方のばね座15Fがサーボピストン10に対して離れる方向へ変位するのを阻止する第2阻止部とが設けられている。第1阻止部は、例えば、サーボピストン10が摺動するシリンダボア9の内壁と、傾転制御圧力室11Fの内壁との間に形成された段差17Fからなる。また、第2阻止部は、例えば、シリンダボア9の一端側を塞ぐ蓋18Fに形成され、サーボピストン10の方向に突出する突出部19Fからなる。
【0026】
傾転制御圧力室11R側にも傾転制御圧力室11R側と同様に、棒状部13R、ばね座14R,15R、ストッパ16R、段差17R、蓋18R、及び、突出部19Rが設けられている。
【0027】
特に、第1実施形態では、斜板7の傾転角0°に対応するサーボピストン10の位置を含む領域であって、ばね12F,12Rによるサーボピストン10の押圧が行われない、すなわち、自己復帰モーメントが斜板7に作用したことに伴って斜板7からサーボピストン10に付与される自己復帰力のみが、サーボピストン10を初期位置の方向に付勢する付勢力となる第1領域R1が設定されている。さらに、第1領域R1よりも外側の領域であって、サーボピストン10がばね12F,12Rにより第1領域R1の方向へ押圧される第2領域R2が設定されている。
【0028】
具体的には、傾転制御圧力室11F側において、段差17Fに当接した状態にあるばね座14Fと突出部19Fに当接した状態にあるばね座15Fとの間隔寸法K(ばね座14Fとばね座15Fの最大距離)が、ばね12Fの自然長Mよりも寸法Nだけ大きく設定されていることと、これと同様に傾転制御圧力室11R側において、段差17Rに当接した状態にあるばね座14Rと突出部19Rに当接した状態にあるばね座15Rとの間隔寸法K(ばね座14Rとばね座15Rの最大距離)が、ばね12Rの自然長Mよりも寸法Nだけ大きく設定されていることによって、図2に特性線C1で示すようにばね12Fがばね力を発揮しない変位量N以下の第1領域R1と、変位量がNよりも大きい領域であって、ばね12Fのばね力がサーボピストン10の変位量に比例する第2領域R2とが設定されている。
【0029】
なお、図2における破線の特性線Jは、従来技術におけるサーボピストン10の変位量とばね力との関係を示している。この特性線Jで示されるように、従来技術ではサーボピストン10の変位量に比例するばね力が、サーボピストン10に常に付与されるようになっている。
【0030】
このように構成された第1実施形態では、次の(1),(2)のようにしてサーボピストン10が動作する。ここでは、傾転制御圧力室11F側へのサーボピストン10の変位時の動作を例に挙げて説明し、傾転制御圧力室11R側へのサーボピストン10の変位時の動作の説明は省略する。
【0031】
(1)第1領域R1内でのサーボピストン10の動作
第1領域R1内に位置するサーボピストン10にはばね力は付与されないので、サーボピストン10は自己復帰力のみによって初期位置に保持される。自己復帰力は、傾転角が0°になる方向に斜板7を付勢する自己復帰モーメントが斜板7に作用したことに伴って斜板7からサーボピストン10に付与される力であるから、自己復帰力により保持されるサーボピストン10の初期位置は、斜板7の傾転角0°に対応する位置となる。
【0032】
初期位置に保持された状態のサーボピストン10に傾転制御圧力が付与されると、サーボピストン10は自己復帰力に抗して右側の傾転制御圧力室11F側へ変位し始める。そして、傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力と自己復帰力とがつり合う位置で、サーボピストン10は停止する。例えばサーボピストン10の変位量がNのときに、傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力と自己復帰力とがつり合った場合、図3に示すように、ばね12Fに当接した状態のばね座14Fにサーボピストン10が当接した状態になる。
【0033】
この状態でサーボピストン10に対する傾転制御圧力の付与が中止され、これに伴って傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力が自己復帰力よりも小さくなると、サーボピストン10は自己復帰力により初期位置に押し戻される。
【0034】
(2)第2領域R2内でのサーボピストン10の動作
変位量Nの位置に達した状態のサーボピストン10に付与されている傾転制御圧力が、ばね12F,12Rの両方のばね力と自己復帰力との合力よりも大きな力で、サーボピストン10を押圧した場合、サーボピストン10は変位量Nの位置を越えて傾転制御圧力室11F側への変位を続ける。
【0035】
そして、傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力と、ばね12F,12Rの両方のばね力と自己復帰力との合力とがつり合うことによって、または、図4に示すように棒状部13Fの終端が蓋18Fに達してサーボピストン10の変位が阻止されることによって、サーボピストン10は停止する。
【0036】
サーボピストン10に対する傾転制御圧力の付与が中止され、これに伴って傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力が、ばね12F,12Rの両方のばね力と自己復帰力との合力よりも小さくなると、サーボピストン10は第1領域R1の方向へ押し戻され始め、その後の傾転制御圧力の低下に伴って、ばね12F,12Rの両方のばね力と自己復帰力との合力により変位量Nの位置まで押し戻される。
【0037】
第1実施形態によれば次の効果を得られる。
【0038】
第1実施形態では、第1領域R1内に位置するサーボピストン10を自己復帰力のみにより初期位置に復帰させるので、サーボピストン10の初期位置を調整ねじ等により調整しなくても、サーボピストン10の初期位置を傾転角0°に対応する位置に一致させることができる。さらに、サーボピストン10が第2領域R2内に位置するとき、サーボピストン10をばね12F,12Rにより第1領域R1の方向へ押圧することによって、サーボピストン10の変位量に応じた復帰力を発生させることができる。これらの結果、部品点数を増加させることなく、すなわち、サーボピストン10の初期位置を調整するための調整ねじ等の手段を設けることなく、斜板の傾転角を0°に保持する性能を向上させることができ、これによって斜板式可変容量型ピストンポンプのコストの低減に貢献できる。
【0039】
また、第1実施形態では、斜板7を傾転角0°に保持する機能に関係するサーボピストン10やシリンダボア9などの寸法の製作誤差を、第1領域R1によって吸収することができる。
【0040】
また、ホイール式建設機械の走行用HSTの斜板式可変容量型ピストンポンプを第1実施形態にすることによって、ホイール式建設機械のオペレータが走行モータへの圧油の供給停止を指令する所定の操作を行ったときに、走行モータへの圧油の供給を確実に停止させることができるので、ホイール式建設機械の停止性能の向上に貢献できる。
【0041】
なお、第1実施形態では、第1阻止部としての段差17F,17Rがシリンダボア9に一体に形成されていて、第2阻止部としての突出部19F,19Rのそれぞれが蓋18F,18Rのそれぞれに一体と形成されているが、本発明の第1,第2阻止部はシリンダボア9や蓋18F,18Rに一体に形成されるものに限らず、サーボピストン10とともに移動しないように設けられるものであればよい。
【0042】
<第2実施形態>
第2実施形態について図5〜8を用いて説明する。図5は第2実施形態に備えられるサーボシリンダの断面図、図6は図5に示されるサーボシリンダにおけるサーボピストンの変位量とばね力との関係を示す特性線図、図7は図5に示されるサーボピストンの変位後の位置が第1領域内である場合の一例を示す断面図、図8は図5に示されるサーボピストンの変位後の位置が第2領域内である場合の一例を示す断面図である。なお、図5において、図1に示すものと同等ものには、図1に付した符号を同じ符号を付してある。
【0043】
第2実施形態では、傾転制御圧力室11F,11Rのそれぞれにばね40F,40Rが圧縮された状態で設けられている。
【0044】
傾転制御圧力室11Fにおいて、ばね40Fはばね座14F,15F間に圧縮された状態で設けられている。また、斜板7の傾転角0°に対応するサーボピストン10の位置にサーボピストン10が位置した状態では、ばね座14Fが段差17F(第1阻止部)でサーボピストン10に対して近づく方向への変位を阻止されることによって、ばね座14Fとサーボピストン10との間に寸法Zの間隔41Fがあくように設定されている。また、蓋18Fの突出部19F(第2阻止部)によりサーボピストン10から離れる方向への移動を阻止された状態のばね座15Fとストッパ16Fとの間には、間隔41Fと同じ寸法以上、例えば寸法Zの間隔42Fがあくように設定されている。
【0045】
傾転制御圧力室11R側にも傾転制御圧力室11F側と同様に、ばね40Rがばね座14R,15R間に圧縮された状態で設けられていて、ばね座14Rとサーボピストン10との間に寸法Zの間隔41Rがあくように、また、ばね座15Fとストッパ16Fとの間に寸法Zの間隔42Fがあくように、段差17Rや突出部18Rの寸法が設定されている。
【0046】
つまり、第2実施形態では、ばね40F,40Rが圧縮された状態であることと、ばね座14Fとサーボピストン10との間に間隔41Fがあることと、ばね座14Rとサーボピストン10との間に間隔41Rがあることとによって、図6に示すように、第1実施形態とは異なる第1領域R3と第2領域R4が設定されている。第1領域R3は変位量Z以下の領域である。この第1領域R3では、特性線C2で示すように、ばね40F,40Rいずれのばね力もサーボピストン10に付与されないようになっている。第2領域R4は変位量がZよりも大きな領域である。この第2領域R4では、特性線C2で示すように、サーボピストン10の変位量に比例する初期値Fs以上のばね力(ばね40F,40Rの両方のばね力の合力)が、サーボピストン10に与えられるようになっている。
【0047】
このように構成された第2実施形態では、次の(3),(4)のようにしてサーボピストンが動作する。ここでも、傾転制御圧力室11F側へのサーボピストン10の変位時の動作を例に挙げて説明し、傾転制御圧力室11R側へのサーボピストン10の変位時の動作の説明は省略する。
【0048】
(3)第1領域R3内でのサーボピストン10の動作
第1領域R3内に位置するサーボピストン10にはばね力は付与されないので、サーボピストン10は自己復帰力のみによって初期位置に保持される。この初期位置は、第1実施形態の場合と同じ理由で、斜板7の傾転角0°に対応する位置になる。
【0049】
初期位置に保持された状態のサーボピストン10に傾転制御圧力が付与されると、サーボピストン10は自己復帰力に抗して右側の傾転制御圧力室11F側へ変位し始める。そして、傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力と自己復帰力とがつり合う位置で、サーボピストン10は停止する。例えば、サーボピストン10の変位量がZになったときに、傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力と自己復帰力とがつり合った場合、図5に示すように、サーボピストン10がばね座14に当接した状態で、また、ばね座15とストッパ16との間隔42の寸法が2Zになった状態で、サーボピストン10は停止する。
【0050】
この状態でサーボピストン10に対する傾転制御圧力の付与が中止され、これに伴って傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力が自己復帰力よりも小さくなると、サーボピストン10は自己復帰力により初期位置に押し戻される。
【0051】
(4)第2領域R4内でのサーボピストン10の動作
変位量Zの位置に達した状態のサーボピストン10に付与されている傾転制御圧力が、ばね40F,40Rの両方のばね力の合力の初期値Fsと自己復帰力との合力よりも大きな力で、サーボピストン10を押圧した場合、サーボピストン10は変位量Zの位置を越えて傾転制御圧力室11F側への変位を続ける。
【0052】
そして、傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力と、ばね40F,40Rの両方のばね力と自己復帰力との合力とがつり合うことによって、または、図8に示すように棒状部13Fの終端が蓋18Fに達してサーボピストン10の変位が阻止されることによって、サーボピストン10は停止する。
【0053】
サーボピストン10に対する傾転制御圧力の付与が中止され、これに伴って傾転制御圧力によるサーボピストン10を押圧する力が、ばね40F,40Rの両方のばね力と自己復帰力との合力よりも小さくなると、サーボピストン10は第1領域R3の方向へ押し戻され始め、その後の傾転制御圧力の低下に伴って、ばね40F,40Rの両方のばね力と自己復帰力との合力によりサーボピストン10は変位量Nの位置まで押し戻される。
【0054】
第2実施形態によれば次の効果を得られる。
【0055】
第2実施形態では、第1領域R3内に位置するサーボピストン10を自己復帰力のみにより初期位置に復帰させるので、サーボピストン10の初期位置を調整ねじ等により調整しなくても、サーボピストン10の初期位置を傾転角0°に対応する位置に一致させることができる。さらに、サーボピストン10が第2領域R4内に位置するとき、サーボピストン10をばね40により第1領域R3の方向へ押圧することによって、サーボピストン10の変位量に応じた復帰力を発生させることができる。これらの結果、部品点数を増加させることなく、すなわちサーボピストン10の初期位置を調整するための調整ねじ等の手段を設けなくとも、斜板の傾転角を0°に保持する性能を向上させることができ、これによって斜板式可変容量型ピストンポンプのコストの低減に貢献できる。
【0056】
また、第2実施形態では、斜板7を傾転角0°に保持する機能に関係するサーボピストン10やシリンダボア9などの寸法の製作誤差を、第1領域R3により吸収することができる。
【0057】
また、ホイール式建設機械の走行用HSTの斜板式可変容量型ピストンポンプを第2実施形態にすることによって、ホイール式建設機械のオペレータが走行モータへの圧油の供給停止を指令する所定の操作を行ったときに、走行モータへの圧油の供給を確実に停止させることができるので、ホイール式建設機械の停止性能の向上に貢献できる。
【0058】
特に第2実施形態では、ばね40F,40Rが圧縮された状態で設けられていることによって、ばね40F,40Rの両方のばね力の合力の初期値がFsに設定されているので、サーボピストン10を第1領域R3内に保持する力を大きくすることができる。これにより、サーボピストン10を操作するための機器、例えば制御弁30の故障等に起因して傾転制御圧力がサーボピストンが変位し始める設定最低圧になったときのポンプ吐出流量を抑えることができる。
【0059】
また、特に第2実施形態では、サーボシリンダ8を複雑な構造にすることなく、また、サーボシリンダ8を大型化することなく、すなわち第1実施形態とほぼ同じ構造のまま、ばね40F,40Rを圧縮させた状態で設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の斜板式可変容量型油圧ポンプの第1実施形態の断面図である。
【図2】図1に示されるサーボシリンダにおけるサーボピストンの変位量とばね力との関係を示す特性線図である。
【図3】図1に示されるサーボピストンの変位後の位置が第1領域内である場合の一例を示す断面図である。
【図4】図1に示されるサーボピストンの変位後の位置が第2領域内である場合の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に備えられるサーボシリンダの断面図である。
【図6】図5に示されるサーボシリンダにおけるサーボピストンの変位量とばね力との関係を示す特性線図である。
【図7】図5に示されるサーボピストンの変位後の位置が第1領域内である場合の一例を示す断面図である。
【図8】図5に示されるサーボピストンの変位後の位置が第2領域内である場合の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 斜板式可変容量型ピストンポンプ
2 ケーシング
3 ドライブシャフト
4 シリンダブロック
5 シリンダボア
6 ポンプピストン
7 斜板
8 サーボシリンダ
9 シリンダボア
10 サーボピストン
11F,11R 傾転制御圧力室
12F,12R ばね
13F,13R 棒状部
14F,14R ばね座
15F,15R ばね座
16F,16R ストッパ
17F,17R 段差
18F,18R 蓋
19F,19R 突出部
30 制御弁
40 ばね
41F,41R 間隔
42F,42R 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプピストンのピストンストロークを可変にする両傾転式の斜板と、傾転制御圧力により操作されて前記斜板の傾転角を制御するサーボシリンダとを備えた斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、
前記斜板の傾転角0°に対応する前記サーボピストンの位置を含む領域であって、自己復帰モーメントが前記斜板に作用したことに伴って前記斜板から前記サーボピストンに付与される自己復帰力のみが、前記サーボピストンを初期位置の方向に付勢する付勢力となる第1領域と、
この第1領域よりも外側の領域であって、前記サーボシリンダがばねにより前記第1領域の方向へ押圧される第2領域とが設定されたことを特徴とする斜板式可変容量型ピストンポンプ。
【請求項2】
請求項1記載の発明において、
前記ばねが圧縮された状態で設けられたことを特徴とする斜板式可変容量型ピストンポンプ。
【請求項3】
請求項2記載の発明において、
前記サーボピストンに対してこのサーボピストンの軸方向へ移動可能となるよう設けられ、前記ばねを挟んで対向する一対のばね座と、
前記一対のばね座のうちの前記サーボピストンに対して近い方に位置する一方のばね座が前記サーボピストンに対して近づく方向へ変位するのを阻止する第1阻止部と、
前記一対のばね座のうちの前記サーボピストンに対して遠い方に位置する他方のばね座が前記サーボピストンに対して離れる方向へ変位するのを阻止する第2阻止部とを備え、
前記斜板の傾転角0°に対応する位置に前記サーボピストンが位置した状態では、前記一方のばね座が前記第1阻止部で前記サーボピストンに対して近づく方向への変位を阻止されることと、前記他方のばね座が前記第2阻止部で前記サーボピストンに対して離れる方向への変位を阻止されることとによって、前記一方のばね座と前記サーボピストンとの間に、前記第1領域を規定する間隔があくように設定されたことを特徴とする斜板式可変容量型ピストンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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