説明

木質系ラーメン架構及びその設計方法

【課題】 用途に応じた十分な大きさの開口を設ける。
【解決手段】本発明に木質系ラーメン架構1において、壁柱3の脚部に位置する2つの出隅部にはそれぞれ切り欠き11,11を設けてある。切り欠き11,11には、その内面から壁柱3の柱軸方向と平行に穿孔された2本の壁柱側定着穴を形成してあり、該壁柱側定着穴にスクリュー部材12,12を螺合によって挿入定着してあるとともに、切り欠き11,11の内面に対向する胴差し2には、該上面から壁柱3の柱軸方向と平行に2本の横架材側定着孔を形成してあり、該横架材側定着孔にスクリュー部材13,13を螺合によって挿入定着してある。そして、スクリュー部材12とスクリュー部材13とを引寄せ機能を有する連結機構14を介して連結することで、壁柱3を胴差し2の上面に剛接してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として住宅に採用される木質系ラーメン架構及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接道距離、すなわち間口が狭い敷地に住宅等の建物を建築するにあたって、ビルドインガレージや店舗部分を前面道路に向けて設けようとする場合、自動車の出入りや客の出入りの便宜のため、比較的大きめの開口が必要となるが、かかる開口の幅は、敷地形状との関係から、建物の短手方向幅に対して相対的に大きくなりがちである。
【0003】
一方、建築基準法は、地震時等に対する安全性の観点から所要の壁量を確保することを規定しており、建物の設計を行うにあたっては、かかる規定に沿って壁量を確保しなければならない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−11162
【特許文献2】特開2004−92150
【特許文献3】特開2001−279848
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、上述したような間口が狭い敷地に前面道路に向けて大きな開口が形成された建物を設計しようとすると、建築基準法に規定されている壁量の制限のために、用途に応じた十分な大きさの開口を設けることができなくなるという問題を生じていた。
【0006】
また、壁量として算入できる対象は、従来、筋かいや構造用合板を用いた耐震壁に限られているため、必要壁量を満たすためにはおのずと多くの耐震壁が必要になるという問題も生じていた。
【0007】
この問題は、木質系の柱、梁といった軸組部材を用いて組まれた架構の本質的な構造特性にそもそも由来する。すなわち、RC造や鉄骨造に比べ、木質系の柱や梁を接合するにあたっては、ほぞとほぞ穴を組み合わて接合する、伝統的な仕口を用いて接合する、補強金物を用いる等の方法があるが、木質系材料の特性上、いずれも剛接度が小さく、基本的にはラーメン架構とはなり得ない。そのため、上述した柱等は地震時水平力に抵抗できないものとされ、それゆえ、壁量には算入してはならないものとされてきた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、用途に応じた十分な大きさの開口を設けることが可能な木質系ラーメン架構を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、柱を壁量として算入することが可能な木質系ラーメン架構及びその設計方法を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る木質系ラーメン架構は請求項1に記載したように、下段横架材と、それらの上面に立設される壁柱と、該壁柱の頂部に下面にて接合され架け渡される上段横架材とから構成してなり、前記壁柱を矩形断面に形成するとともにその長手方向が前記下段横架材又は前記上段横架材の材軸方向に一致するように配置し、前記壁柱の脚部と頂部に位置する4つの出隅部にそれぞれ切り欠きを設け、該切り欠きの内面から前記壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された壁柱側定着穴に挿入定着される壁柱側定着部材と前記切り欠きの内面に対向する前記下段横架材の上面又は前記上段横架材の下面から前記壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された横架材側定着孔又は横架材側定着穴に挿入定着される横架材側定着部材とを、引寄せ機能を有する連結機構を介して連結することで前記壁柱を前記下段横架材の上面又は前記上段横架材の下面に剛接するように構成したものである。
【0011】
また、本発明に係る木質系ラーメン架構は請求項2に記載したように、布基礎と、その上面に立設される一階の壁柱と、該一階の壁柱の頂部に下面にて接合され架け渡される上段横架材とから構成してなり、前記一階の壁柱を矩形断面に形成するとともにその長手方向が前記布基礎又は前記上段横架材の材軸方向に一致するように配置し、前記一階の壁柱の頂部に位置する2つの出隅部にそれぞれ切り欠きを設け、該切り欠きの内面から前記一階の壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された壁柱側定着穴に挿入定着される壁柱側定着部材と前記切り欠きの内面に対向する前記上段横架材の下面から前記一階の壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された横架材側定着孔又は横架材側定着穴に挿入定着される横架材側定着部材とを、引寄せ機能を有する連結機構を介して連結することで前記壁柱の頂部を前記上段横架材の下面に剛接するように構成するとともに、前記一階の壁柱の脚部に位置する2つの出隅部にそれぞれ切り欠きを設け、該切り欠きの内面から前記一階の壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された壁柱側定着穴に挿入定着された壁柱側定着部材と前記切り欠きの内面に対向する位置にて前記布基礎に埋設されたアンカーボルトとを、引寄せ機能を有する第2の連結機構を介して連結することで前記一階の壁柱を前記布基礎の上面にて剛接するように構成したものである。
【0012】
また、本発明に係る木質系ラーメン架構は、前記連結機構を、前記壁柱側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される壁柱側連結ボルトと、前記横架材側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される横架材側連結ボルトと、前記壁柱側連結ボルト及び前記横架材側連結ボルトを互いに引き寄せる連結ナットとで構成したものである。
【0013】
また、本発明に係る木質系ラーメン架構は、前記連結機構を、前記壁柱側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される壁柱側連結ボルトと、前記横架材側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される横架材側連結ボルトと、前記壁柱側連結ボルト及び前記横架材側連結ボルトを互いに引き寄せる連結ナットとで構成するとともに、前記第2の連結機構を、前記壁柱側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される壁柱側連結ボルトと、該壁柱側連結ボルト及び前記アンカーボルトを互いに引き寄せる連結ナットとで構成したものである。
【0014】
また、本発明に係る木質系ラーメン架構は、前記切り欠き内に嵌め込むことで前記切り欠きの内面と該切り欠きに対向する前記上段横架材の下面若しくは前記下段横架材の上面又は前記布基礎の上面に当接するように構成した座屈防止部材を備えたものである。
【0015】
また、本発明に係る木質系ラーメン架構は、所定の耐震壁を前記上段横架材と前記下段横架材の間、又は前記上段横架材と前記布基礎の間に設置したものである。
【0016】
また、本発明に係る木質系ラーメン架構は、前記耐震壁を所定幅の板材が互いに平行になるように複数配置されてなる二組の板材群を該各板材群に属する前記板材が互いに斜交するように積層してなる矩形状のきづれパネルと該きづれパネルの両側方縁部が留め付けられる2本の管柱と上縁が留め付けられる上段横架材と、下縁が留め付けられる下段横架材又は土台とで構成したものである。
【0017】
また、本発明に係る木質系ラーメン架構の設計方法は、請求項6記載の木質系ラーメン架構において地震荷重に対する許容応力度設計を行う際、前記壁柱の壁倍率と前記耐震壁の壁倍率とを加算するものである。
【0018】
本出願人は、上記課題を解決するにあたり、まず、木質系の柱や梁を軸組部材とした架構がラーメン架構とみなし得るように、柱と梁あるいは柱と土台といった接合箇所での剛接度をいかにして高めるかに着目し、鋭意研究を行った結果、本発明のように接合箇所を構成すれば、ラーメンとみなし得る剛接度を確保できるという産業上きわめて有用な知見を得た。
【0019】
次に、本出願人は、ラーメン架構を構成する本発明の壁柱を壁量として算入できないかという点に着眼して研究を重ね、ここでも、壁柱を壁量算入することの工学的妥当性を得るにいたった。
【0020】
ちなみに、ラーメン架構を構成する柱は、基本的には壁量に算入できない。すなわち、耐力壁は、一般的には幅と高さの関係を1:3以内としていることが多く、高さが2,730mmであれば、910mmの幅が必要となり、高さが3mであれば、1mの幅が必要となる。
【0021】
これに対し、柱の幅は通常、壁と違ってもっと小さい。そのため、柱については壁量に算入することが従来できなかった。これは、細長い部材に地震時水平力が作用した場合、一般的にはせん断変形よりも曲げ変形が卓越し、せん断抵抗部材としては作用しない傾向にあるからであり、上述した幅と高さの関係の制限はこの点に由来する。
【0022】
加えて、ラーメン架構を構成する要素である柱と耐震壁とは、それらの復元力特性が大きく異なっており、例えばブレース(筋かい)を主体とする耐震壁は、梁・柱との接合箇所にわずかな遊びが存在するため、初期剛性が小さくなる傾向にあり、それゆえ、ラーメン架構を構成する要素の復元力特性と耐震壁の復元力特性とを単に重ね合わせることができないといわれていた。
【0023】
しかし、本発明によれば、910mm以下の壁柱でも耐震壁とみなし得ることができるとともに、従前の耐震壁との復元力特性の重ね合わせも可能であることを本出願人は実験によって立証し、かくして、在来軸組構造をラーメン架構で構成するすることに成功するとともに、そのラーメン架構を構成する壁柱を他の耐震壁とともに壁量算入することの工学的妥当性をも見いだしたのである。
【0024】
かかる知見により、設計上の自由度が大幅に向上することは言うまでもない。
【0025】
本発明に係る木質系ラーメン架構においては、壁柱を矩形断面に形成するとともにその長手方向が下段横架材又は上段横架材の材軸方向に一致するように配置し、壁柱の脚部と頂部に位置する4つの出隅部にそれぞれ切り欠きを設け、該切り欠きの内面から壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された壁柱側定着穴に挿入定着される壁柱側定着部材と切り欠きの内面に対向する下段横架材の上面又は上段横架材の下面から壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された横架材側定着孔又は横架材側定着穴に挿入定着される横架材側定着部材とを、引寄せ機能を有する連結機構を介して連結してある。
【0026】
かかる構成によれば、連結機構を操作して壁柱側定着部材と横架材側定着部材とを互いに引き寄せることにより、壁柱の端面のうち、切り欠いた部分を除く当接端面が下段横架材の上面又は上段横架材の下面に当接して強く押しつけられることとなり、接合箇所における変形、特に回転変形に対する遊びがなくなり、接合箇所における回転剛性が格段に向上する。
【0027】
一方、連結機構を操作して壁柱側定着部材と横架材側定着部材とを互いに引き寄せることにより、地震時水平力によるせん断力は、連結機構の引張抵抗が負担することとなり、かくして、柱と横架材あるいは柱と土台とは剛接され、それらを組み合わせてなる架構はラーメン架構となる。
【0028】
なお、壁柱が一階の壁柱である場合には、土台を省略し、予めRC基礎に埋設されたアンカーボルトと壁柱側定着部材とを連結機構を介して連結するようにすればよい。
【0029】
横架材は、胴差し、桁、梁等の水平軸組部材を意味する。
【0030】
切り欠きは、連結機構を配置する配置空間であるとともにそれを操作するための作業空間ともいえるものであるが、その形状は問わない。具体的には、矩形状の切り欠きが考えられる。
【0031】
壁柱側定着部材や横架材側定着部材は、壁柱や横架材に定着されるのであればどのようなものでもかまわないが、例えばロッドの周面に螺旋状突起を巻き付けたスクリュー部材を採用することができる。
【0032】
連結機構の構成は任意であるが、一階の壁柱脚部を除き、壁柱側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される壁柱側連結ボルトと、横架材側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される横架材側連結ボルトと、前記壁柱側連結ボルト及び前記横架材側連結ボルトを互いに引き寄せる連結ナットとで構成することが可能であり、一階の壁柱脚部の場合には、壁柱側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される壁柱側連結ボルトと、該壁柱側連結ボルト及びアンカーボルトを互いに引き寄せる連結ナットとで構成することが可能である。
【0033】
ここで、所定の耐震壁を上段横架材と下段横架材の間、又は上段横架材と布基礎の間に設置するようにすると、ラーメン架構に耐震壁が加わった形となり、耐震性はさらに向上する。
【0034】
耐震壁としては、例えば、所定幅の板材が互いに平行になるように複数配置されてなる二組の板材群を該各板材群に属する前記板材が互いに斜交するように積層してなる矩形状のきづれパネルと該きづれパネルの両側方縁部が留め付けられる2本の管柱と上縁が留め付けられる上段横架材と、下縁が留め付けられる下段横架材又は土台とで構成することが可能である。
【0035】
このような耐震壁を含んだ木質系ラーメン架構において地震荷重に対する許容応力度設計を行う際、壁柱の壁倍率と耐震壁の壁倍率とを加算するようにしたならば、壁倍率の評価が合理的となり、大きな開口を設けても十分な耐震性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明に係る木質系ラーメン架構及びその設計方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
(第1実施形態)
【0038】
図1は、本実施形態に係る木質系ラーメン架構を採用して建築された架構の全体斜視図である。同図でわかるように、本実施形態に係る木質系ラーメン架構1は、下段横架材である胴差し2と、それらの上面に立設される二階の壁柱3と、該壁柱の頂部に下面にて接合され架け渡される上段横架材としての桁4とから構成してあり、木質系ラーメン架構5は、布基礎6と、その上面に立設される一階の壁柱7と、該一階の壁柱の頂部に下面にて接合され架け渡される上段横架材としての胴差し2とから構成してある。
【0039】
壁柱3は、矩形断面に形成するとともにその長手方向が胴差し2又は桁4の材軸方向に一致するように配置してあり、例えば集成材で構成することができる。
【0040】
ここで、壁柱3の脚部に位置する2つの出隅部には、図2、図3に示すようにそれぞれ切り欠き11,11を設けてある。
【0041】
切り欠き11,11には、その内面から壁柱3の柱軸方向と平行に穿孔された2本の壁柱側定着穴を形成してあり、該壁柱側定着穴に壁柱側定着部材としてのスクリュー部材12,12を螺合によって挿入定着してあるとともに、切り欠き11,11の内面に対向する胴差し2には、該上面から壁柱3の柱軸方向と平行に2本の横架材側定着孔を形成してあり、該横架材側定着孔に横架材側定着部材としてのスクリュー部材13,13を螺合によって挿入定着してある。
【0042】
スクリュー部材12,スクリュー部材13は、ロッド周面に螺旋状突起を設けてなる。
【0043】
そして、スクリュー部材12とスクリュー部材13とを引寄せ機能を有する連結機構14を介して連結することで、壁柱3を胴差し2の上面に剛接してある。
【0044】
連結機構14は図4でよくわかるように、スクリュー部材12の連結側端部に形成された雌ネジ15に螺合される壁柱側連結ボルト16と、スクリュー部材13の連結側端部に形成された雌ネジ17に螺合される横架材側連結ボルト18と、壁柱側連結ボルト16及び横架材側連結ボルト18を互いに引き寄せる連結ナット19と、該連結ナットに当接することでストッパーとして機能するナット20とで構成してある。
【0045】
壁柱側連結ボルト16や横架材側連結ボルト18は、ハイテンションボルトで構成するのが望ましい。
【0046】
なお、壁柱3の頂部に位置する2つの出隅部にもそれぞれ切り欠き11,11を設けてあるとともに、壁柱3に挿入定着されたスクリュー部材12と桁4に挿入定着されたスクリュー部材13とを引寄せ機能を有する連結機構14を介して連結することで、壁柱3を桁4の下面に剛接してあるが、脚部の場合と上下反転しているのみであるので、ここではその説明を省略する。
【0047】
一方、一階の壁柱7も壁柱3と同様、矩形断面に形成するとともにその長手方向が胴差し2又は布基礎6の材軸方向に一致するように配置してあり、その脚部に位置する2つの出隅部には、図5に示すようにそれぞれ切り欠き11a,11aを設けてある。
【0048】
切り欠き11a,11aには、その内面から壁柱7の柱軸方向と平行に穿孔された2本の壁柱側定着穴を形成してあり、該壁柱側定着穴に壁柱側定着部材としてのスクリュー部材12,12を螺合によって挿入定着してある。
【0049】
一方、布基礎6には2本のアンカーボルト31,31を埋設してあり、切り欠き11a,11aの内面に対向する位置には、それらの端部が突出している。
【0050】
そして、スクリュー部材12とアンカーボルト31とを、引寄せ機能を有する第2の連結機構14aを介して連結することで一階の壁柱7を布基礎6の上面にて剛接してある。
【0051】
連結機構14aは図5でわかるように、スクリュー部材12の連結側端部に形成された雌ネジ15に螺合される壁柱側連結ボルト16と、アンカーボルト31と、壁柱側連結ボルト16及びアンカーボルト31を互いに引き寄せる連結ナット19aとで構成してある。
【0052】
なお、壁柱7の頂部に位置する2つの出隅部にもそれぞれ切り欠き11,11を設けてあるとともに、壁柱7に挿入定着されたスクリュー部材12と胴差し2に挿入定着されたスクリュー部材13とを引寄せ機能を有する連結機構14を介して連結することで、壁柱7を胴差し2の下面に剛接してあるが、壁柱3の脚部の場合と上下反転しているのみであるので、ここではその説明を省略する。
【0053】
次に、連結機構14を用いて壁柱3を胴差し2に剛接する手順を以下に説明する。
【0054】
まず、図6及び図8(a)に示すように、壁柱3の柱軸方向と平行に穿孔された2本の壁柱側定着穴41,41にスクリュー部材12,12を螺合によって挿入定着し、次いで、スクリュー部材12の雌ネジ15に壁柱側連結ボルト16をねじ込む。
【0055】
ここで、壁柱側連結ボルト16は、同図でわかるように中央より柱側では正ネジとなるようにネジを切ってあり、反対側では逆ネジとなるようにネジを切ってあるので、正ネジ側を雌ネジ15にねじ込み、次いで、回転しないように固定する。
【0056】
次に、連結ナット19を壁柱側連結ボルト16の反対側端部、すなわち逆ネジ側にねじ込む。
【0057】
ここで、連結ナット19の内面は、中央より柱側では壁柱側連結ボルト16の反対側端部に対応するよう、逆ネジで雌ネジを切ってあり、中央より胴差し2側では正ネジで雌ネジを切ってある。
【0058】
一方、胴差し2側においては、図7及び図8(a)に示すように、壁柱3の柱軸方向と平行に穿孔された2本の横架材側定着孔42,42にスクリュー部材13,13を螺合によって挿入定着し、次いで、スクリュー部材13の雌ネジ17に横架材側連結ボルト18をねじ込む。
【0059】
ここで、横架材側連結ボルト18は、柱3を立設する際、壁柱側連結ボルト16や連結ナット19と干渉することがないよう、深めにねじ込んで待避させておき、次いで、ナット20を螺合する。
【0060】
次に、図8(b)に示すように壁柱3を胴差し2の上面に立設する。
【0061】
次に、図8(c)に示すように、胴差し2側のスクリュー部材13にねじ込まれた横架材側連結ボルト18を逆方向に回転させることによって、その上端を連結ナット19にねじ込む。
【0062】
横架材側連結ボルト18は、該横架材側連結ボルトにねじ込まれているナット20が連結ナット19に下面に当接するまで該連結ナット内にねじ込まれる。
【0063】
このようにすると、連結ナット19を横架材側連結ボルト18に対して時計回りに回そうとしたとき、ナット20がストッパーとなるため、連結ナット19はナット20を介して横架材側連結ボルト18と一体となる。
【0064】
次に、連結ナット19を横架材側連結ボルト18に対して時計回りに回す。
【0065】
このようにすると、横架材側連結ボルト18は、胴差し2側のスクリュー部材13の雌ネジ17にねじ込まれるとともに、壁柱側連結ボルト16内に壁柱側連結ボルト16が逆ネジでねじ込まれることとなり、かくして、壁柱3に定着されているスクリュー部材12及び胴差し2に定着されているスクリュー部材13、ひいては壁柱3と梁2とが引き寄せられることとなり、壁柱3の中央部は、胴差し2の上面に強く押しつけられる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態に係る木質系ラーメン架構1,5によれば、連結機構14を介して壁柱側定着部材であるスクリュー部材12と横架材側定着部材であるスクリュー部材13とを互いに引き寄せることにより、壁柱3,7の端面のうち、切り欠いた部分を除く当接端面を桁4の下面、胴差し2の上下面に当接して強く押しつけられることとなり、接合箇所における変形、特に回転変形に対する遊びがなくなり、接合箇所における回転剛性が格段に向上する。
【0067】
一方、連結機構14によってスクリュー部材12とスクリュー部材13とを互いに引き寄せることにより、鉛直荷重方向の遊びも小さくなるとともに、地震時水平力によるせん断力は、連結機構14の引張抵抗が負担することとなり、かくして、壁柱3,7と桁4あるいは胴差し2とが剛接され、それらを組み合わせてなる架構はラーメン架構となる。
【0068】
また、本実施形態に係る木質系ラーメン架構5によれば、連結機構14aを介して壁柱側定着部材であるスクリュー部材12とアンカーボルト31とを互いに引き寄せることにより、壁柱7の端面のうち、切り欠いた部分を除く当接端面を布基礎6に当接して強く押しつけることとなり、接合箇所における変形、特に回転変形に対する遊びがなくなり、接合箇所における回転剛性が格段に向上する。
【0069】
一方、連結機構14aによってスクリュー部材12とアンカーボルト31とを互いに引き寄せることにより、鉛直荷重方向の遊びも小さくなるとともに、地震時水平力によるせん断力は、連結機構14aの引張抵抗が負担することとなり、かくして、壁柱7、胴差し2及び布基礎6が剛接され、それらを組み合わせてなる架構はラーメン架構となる。
【0070】
また、本実施形態に係る木質系ラーメン架構5によれば、切り欠き11,切り欠き11aが連結機構14,連結機構14aを操作する際の作業空間となり、壁柱3,7を立設した後でも、良好な作業性を確保することができる。
【0071】
本実施形態では特に言及しなかったが、連結機構の構成は任意であり、壁柱側定着部材と横架材側定着部材、あるいは壁柱側定着部材とアンカーボルトとを引き寄せることができるのであれば、どのような構成でもかまわない。
【0072】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、切り欠き11,切り欠き11a内に嵌め込むことで切り欠きの内面と該切り欠きに対向する上段横架材の下面若しくは下段横架材の上面又は布基礎の上面に当接するように構成した座屈防止部材を備えるようにしてもよい。
【0073】
図9に示した座屈防止材51,51は、円筒体を縦に割った形状をなす鋼材で形成してあり、半円筒部52とその下端に延びる半円状底版55とその上端に延びる半円状頂版53とからなるとともに、半円状底版55及び半円状頂版53には、横架材側連結ボルト18、壁柱側連結ボルト16がそれぞれ嵌り込む溝54,54を形成してある。
【0074】
かかる座屈防止材51,51をその溝54,54に横架材側連結ボルト18、壁柱側連結ボルト16が嵌り込むように取り付けたならば、壁柱が構面内に曲げモーメントを受けたとき、左右いずれか一方の座屈防止材51には圧縮力が作用し、連結機構14に過大な圧縮力が流れて局部座屈が生じるのを未然に防止することができる。
【0075】
(第2実施形態)
【0076】
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0077】
図10は、本実施形態に係る木質系ラーメン架構を採用して建築された架構の全体斜視図である。同図でわかるように、本実施形態に係る木質系ラーメン架構61は、下段横架材である胴差し2と、それらの上面に立設される二階の壁柱3と、該壁柱の頂部に下面にて接合され架け渡される上段横架材としての桁4とから構成してあり、木質系ラーメン架構65は、布基礎6と、その上面に立設される一階の壁柱7と、該一階の壁柱の頂部に下面にて接合され架け渡される上段横架材としての胴差し2とから構成してある。
【0078】
ここで、木質系ラーメン架構61、木質系ラーメン架構65のうち、ラーメンに関する構成については木質系ラーメン架構1、木質系ラーメン架構5とそれぞれ全く同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0079】
第2実施形態にかかる木質系ラーメン架構61は、耐震壁62を桁4と胴差し2の間に設置してあり、木質系ラーメン架構65は、耐震壁63を胴差し2と布基礎6との間に設置してある。
【0080】
耐震壁63は図11に示すように、所定幅の板材71が互いに平行になるように複数配置されてなる二組の板材群を該各板材群に属する板材71が互いに斜交するように積層してなる矩形状のきづれパネル73と、該きづれパネルの両側方縁部が留め付けられる2本の管柱72,72と、上縁が留め付けられる上段横架材である胴差し2と、下縁が留め付けられる土台64とで構成してある。
【0081】
また、耐震壁62は、耐震壁63と同じきづれパネル73と、該きづれパネルの両側方縁部が留め付けられる2本の管柱72,72と、上縁が留め付けられる上段横架材である桁4と、下縁が留め付けられる下段横架材としての胴差し2とで構成してある。
【0082】
きづれパネル73は、杉材などの板材71を接着剤で斜め45度の格子状に貼り合わせた耐力面材として製作することができる。
【0083】
管柱72は、ホールダウン金物を用いて土台64や胴差し2に固定することができる。
【0084】
このような木質系ラーメン架構61、木質系ラーメン架構65を設計するにあたっては、地震荷重に対する許容応力度設計を行う際、壁柱3,7の壁倍率と耐震壁62,63の壁倍率とを加算する。
【0085】
従前であれば、柱は、上述したように耐震壁とみなされず、壁量に算入することができなかったが、動的加力試験を行った結果、壁量に算入することの工学的妥当性が見いだされた。
【0086】
図12は、動的加力試験の結果である。
【0087】
同図は、壁柱7だけの復元力特性をケース2−1,2−2,2−3(試験体は三体)、耐震壁63だけの復元力特性をケース3−1,3−2,3−3(試験体は三体)、壁柱3と耐震壁63を併用した場合の復元力特性をケース1−1,1−2として示した。
【0088】
この試験からわかる最も重要なことは、層間変形角が0.015〜0.02あたりまでは、壁柱3と耐震壁63を併用した場合の復元力特性は、壁柱7だけの復元力特性と耐震壁63だけの復元力特性との合算で評価することができるという点である。
【0089】
許容応力度設計で用いられる層間変形角が通常、1/150〜1/120(0.006〜0.008)であることを考えれば、上述の試験結果は、十分な余裕をもって上述した合算が可能であることを示している。
【0090】
以上説明したように、本実施形態にかかる木質系ラーメン架構61,65及びその設計方法によれば、第1実施形態で述べたと同様の作用効果を奏する他、ラーメンの構成要素である壁柱3,7から壁量を評価し、これを耐震壁62,63と加算することができるというきわめて顕著な作用効果を奏する。
【0091】
すなわち、従来であれば、柱は耐震壁ではないとの理由で、壁倍率を評価して壁量に算入することは許可されていなかったが、本試験により、壁柱の壁量算入が可能であることの工学的根拠が明らかになった。
【0092】
したがって、今後、ラーメン架構の壁柱の壁倍率を算出し、これを他の耐震壁と合算することが可能となり、設計の自由度が格段に拡がることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】第1実施形態に係る木質系ラーメン架構を含んだ全体斜視図。
【図2】柱と横架材の接合状況を示す断面図。
【図3】同じく詳細斜視図。
【図4】同じく詳細側面図。
【図5】別の木質系ラーメン架構に係る柱と基礎の接合状況を示す断面図。
【図6】柱と横架材の接合手順を示した斜視図。
【図7】同じく柱と横架材の接合手順を示した斜視図。
【図8】同じく柱と横架材の接合手順を示した側面図。
【図9】変形例にかかる木質系ラーメン架構の詳細斜視図。
【図10】第2実施形態に係る木質系ラーメン架構を含んだ全体斜視図。
【図11】壁柱と耐震壁との併用状況を示した正面図。
【図12】壁柱と耐震壁及びそれらを併用した場合の復元力特性を示した図。
【符号の説明】
【0094】
1,5,61,65 木質系ラーメン架構
2 胴差し(下段横架材)
3 壁柱
7 一階の壁柱
4 桁(上段横架材)
6 布基礎
11,11a 切り欠き
12 スクリュー部材(壁柱側定着部材)
13 スクリュー部材(横架材側定着部材)
14 連結機構
14a 第2の連結機構
15,17 雌ネジ
16 壁柱側連結ボルト
18 横架材側連結ボルト
19,19a 連結ナット
31 アンカーボルト
51 座屈防止材
62,63 耐震壁
72 管柱
73 きづれパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下段横架材と、それらの上面に立設される壁柱と、該壁柱の頂部に下面にて接合され架け渡される上段横架材とから構成してなり、前記壁柱を矩形断面に形成するとともにその長手方向が前記下段横架材又は前記上段横架材の材軸方向に一致するように配置し、前記壁柱の脚部と頂部に位置する4つの出隅部にそれぞれ切り欠きを設け、該切り欠きの内面から前記壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された壁柱側定着穴に挿入定着される壁柱側定着部材と前記切り欠きの内面に対向する前記下段横架材の上面又は前記上段横架材の下面から前記壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された横架材側定着孔又は横架材側定着穴に挿入定着される横架材側定着部材とを、引寄せ機能を有する連結機構を介して連結することで前記壁柱を前記下段横架材の上面又は前記上段横架材の下面に剛接するように構成したことを特徴する木質系ラーメン架構。
【請求項2】
布基礎と、その上面に立設される一階の壁柱と、該一階の壁柱の頂部に下面にて接合され架け渡される上段横架材とから構成してなり、前記一階の壁柱を矩形断面に形成するとともにその長手方向が前記布基礎又は前記上段横架材の材軸方向に一致するように配置し、前記一階の壁柱の頂部に位置する2つの出隅部にそれぞれ切り欠きを設け、該切り欠きの内面から前記一階の壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された壁柱側定着穴に挿入定着される壁柱側定着部材と前記切り欠きの内面に対向する前記上段横架材の下面から前記一階の壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された横架材側定着孔又は横架材側定着穴に挿入定着される横架材側定着部材とを、引寄せ機能を有する連結機構を介して連結することで前記壁柱の頂部を前記上段横架材の下面に剛接するように構成するとともに、前記一階の壁柱の脚部に位置する2つの出隅部にそれぞれ切り欠きを設け、該切り欠きの内面から前記一階の壁柱の柱軸方向と平行に穿孔された壁柱側定着穴に挿入定着された壁柱側定着部材と前記切り欠きの内面に対向する位置にて前記布基礎に埋設されたアンカーボルトとを、引寄せ機能を有する第2の連結機構を介して連結することで前記一階の壁柱を前記布基礎の上面にて剛接するように構成したことを特徴する木質系ラーメン架構。
【請求項3】
前記連結機構を、前記壁柱側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される壁柱側連結ボルトと、前記横架材側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される横架材側連結ボルトと、前記壁柱側連結ボルト及び前記横架材側連結ボルトを互いに引き寄せる連結ナットとで構成した請求項1記載の木質系ラーメン架構。
【請求項4】
前記連結機構を、前記壁柱側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される壁柱側連結ボルトと、前記横架材側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される横架材側連結ボルトと、前記壁柱側連結ボルト及び前記横架材側連結ボルトを互いに引き寄せる連結ナットとで構成するとともに、前記第2の連結機構を、前記壁柱側定着部材の連結側端部に形成された雌ネジに螺合される壁柱側連結ボルトと、該壁柱側連結ボルト及び前記アンカーボルトを互いに引き寄せる連結ナットとで構成した請求項2記載の木質系ラーメン架構。
【請求項5】
前記切り欠き内に嵌め込むことで前記切り欠きの内面と該切り欠きに対向する前記上段横架材の下面若しくは前記下段横架材の上面又は前記布基礎の上面に当接するように構成した座屈防止部材を備えた請求項1又は請求項2記載の木質系ラーメン架構。
【請求項6】
所定の耐震壁を前記上段横架材と前記下段横架材の間、又は前記上段横架材と前記布基礎の間に設置した請求項1又は請求項2記載の木質系ラーメン架構。
【請求項7】
前記耐震壁を所定幅の板材が互いに平行になるように複数配置されてなる二組の板材群を該各板材群に属する前記板材が互いに斜交するように積層してなる矩形状のきづれパネルと該きづれパネルの両側方縁部が留め付けられる2本の管柱と上縁が留め付けられる上段横架材と、下縁が留め付けられる下段横架材又は土台とで構成した請求項6記載の木質系ラーメン架構。
【請求項8】
請求項6記載の木質系ラーメン架構において地震荷重に対する許容応力度設計を行う際、前記壁柱の壁倍率と前記耐震壁の壁倍率とを加算することを特徴とする木質系ラーメン架構の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−118275(P2006−118275A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308833(P2004−308833)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】