説明

構造材上に直接成形されたセンサアレイ及びセンサアレイ作成方法

【課題】 従来技術の欠点を解消し、応力、熱、腐食ストレスによる構造部材の破壊・疲労・磨耗・腐食の状況をリアルタイムに診断できるセンサアレイの簡便な構築方法、構造および診断方法を提供すること。
【解決手段】 破壊・疲労・磨耗・腐食をモニタしたい部材の上に直接あるいは保護のための塗布層を介して,インクジェットあるいは印刷によるパターニングを用いて,変形センサ,温度センサ,圧力センサ,音響センサ,断線検出のいずれかのセンサ素子およびデータ読出し用の電子回路,データ伝送用の配線,絶縁層,およびセンサを直接構築したセンサアレイ及びこれを用いたセンサアレイの作成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造材上に直接成形されたセンサアレイ及びセンサアレイ作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の骨格や圧力隔壁,発電所の配管,圧力容器,橋梁の骨格などにおいて,応力履歴,熱履歴による疲労破壊や腐食による破壊が大きな事故の原因となっている。各種センサにより,構造材の破壊・疲労・磨耗・腐食の状況をリアルタイムにモニタリングし,破壊に至るまでの疲労の度合いや,破壊前兆,微小な破壊を検出できれば,これらの事故の予防・対策に非常に有効である。
【0003】
構造材の破壊・疲労・磨耗・腐食の状況をモニタするにはセンサを機材に貼り付けリアルタイムに測定することが有効であり,電線・ケーブルの劣化診断方法(特許文献1),破砕機の軸受状態を監視する方法およびその破砕機(特許文献2)の例がある。
しかし,構造材の破壊・疲労・磨耗・腐食の状況をくまなくモニタするために,多数のセンサを構造材表面に貼り付け、さらにセンサ間を被覆配線で配線した場合,センサと配線の重量は大きなものとなり,さらにセンサと配線が占有する空間も大きく,重量と空間の制約された条件での使用には適さない。また複雑に入り組んだセンサと配線は,センサアレイの信頼性,簡便性に問題を生じる。このようなことから,高い信頼性の要求される航空機,発電所において,すべての骨格,配管,圧力容器をモニタすることは困難であった。またこのようなセンサアレイでは多数の独立したセンサを作成する必要があり,大きなコストがかかる事も問題となる。
【0004】
また、一つのセンサにより構造剤の比較的広い範囲をモニタできるアコースティックエミッションのような技術は,構造材のどこでどの程度の疲労や変形が生じているかを検出するには適しておらず,見落としの発生することが問題となる。
超音波探傷,X線透過といったセンサによる走査を必要とする破壊・疲労・磨耗・腐食検出技術では,広範囲のリアルタイムのモニタリングが難しく,センサを走査するための空間的制約も大きく,さらに人間がセンサを走査する場合には機器の停止を必要とするなど,使用条件が大きく限られる。
【0005】
近年,プラスチック基板上にインクジェットを用い簡便に電気回路を形成する方法(特許文献3)や印刷により電気回路を形成する方法(特許文献4)が考案されている。これらの方法は大面積に安価に電子回路形成が可能な特徴を有している。
【0006】
【特許文献1】特開平5−34266号公報
【特許文献2】特表2004−519325号公報
【特許文献3】特開平11−274671号公報
【特許文献4】特開平5−222326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術の欠点を解消し、応力、熱、腐食ストレスによる構造部材の破壊・疲労・磨耗・腐食の状況をリアルタイムに診断できるセンサアレイの簡便な構築方法、構造および診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
記載の発明は、簡便に大面積を高密度に存在するセンサでカバーできるセンサアレイを構造材上に構築する方法、その構造および診断方法を提供する。
すなわち、本発明は、破壊・疲労・磨耗・腐食をモニタしたい部材の上に直接あるいは保護のための塗布層を介して,インクジェットあるいは印刷によるパターニングを用いて,変形センサ,温度センサ,圧力センサ,音響センサ,断線検出のいずれかのセンサ素子およびデータ読出し用の電子回路,データ伝送用の配線,絶縁層,およびセンサを直接構築したセンサアレイに関する。
また本発明は前記のセンサアレイを用い、部材の歪み,温度,圧力分布,断線を計測し,部材の破壊・変形・腐食を検出・予測するセンサアレイ作成方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術の欠点を解消し、応力、熱、腐食ストレスによる構造部材の破壊・疲労・磨耗・腐食の状況をリアルタイムに診断できるセンサアレイの簡便な構築方法、構造およびその作製方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、センサアレイの構築方法について詳述する。
【0011】
(機材および下地層)
モニタリング対象となる構造材の材質は特に制限は無いが、あえて挙げるとすれば金属、木材、プラスチック、セラミック、ガラスおよびそれらの複合材料が考えられる。構造材表面には、下地層を有してもよい。この下地層の目的としては構造材料の保護、電気回路構築のための電気絶縁、表面平滑性向上、接着性向上、が考えられる。塗布する材料としては絶縁性を有する樹脂,セラミック,およびそれらの複合材料が考えられる。下地層の塗布方法としてはインクジェット印刷法や,電着塗装,スプレー塗装,ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、スクイズコータ、リバースロールコータ、トランスファーロールコータ、コンマコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ、ダイコータなどの塗装方法が考えられる。
【0012】
(回路層)
機材表面あるいは前述の塗布膜表面に,液状あるいはペースト状の導体、半導体、絶縁体、誘電体あるいはそれらの前駆体を含むインクを印刷法により塗布し電子回路パターンを形成する。ここで、印刷法とはインクを必要な場所に付加する方法を指し、液滴の吐出によるインクの付加(インクジェット印刷法)、凸版印刷法、凹版印刷法、転写法、オフセット印刷法、スクリーン印刷,ディップペンリソグラフが含まれる。また、電子回路パターンは導体の配線回路とセンサ、読み出し用のトランジスタからなり,必要に応じて抵抗、コンデンサ、整流子、コイルを含んでも良い。この電子回路パターンの形成に使用する導体、半導体、絶縁体、誘電体あるいはそれらの前駆体を含むインクについては特に限定しない。
また、電子回路パターン層間の絶縁を行うため,塗布による絶縁層を設けても良い。ここでいう塗布方法はインクジェット印刷法や,電着塗装,スプレー塗装,ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、スクイズコータ、リバースロールコータ、トランスファーロールコータ、コンマコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ、ダイコータなどの塗装方法が考えられる。
層間の配線には、塗布時に絶縁層に開口部をパターニングにより形成しておく方法や、絶縁層形成後に光(レーザーを含む)、薬液、ガス、機械的方法により絶縁層を部分的に取り除いて導通を確保する方法が考えられる。
【0013】
(センサ素子)
部材の破壊・疲労・磨耗・腐食をモニタするには変形(歪み、力)、圧力、温度、音響の変化あるいは断線の検出が有効である。変形センサしては、差動トランス型、キャパシタンス型、抵抗体型のセンサが考えられる。圧力の検出には前述の変位センサ以外に誘電体や水晶振動子を用いるものや、導電フィラ含有エラストマー、マンガニン線を用いるものが考えられる。温度センサとしては熱電対、金属抵抗体、サーミスタが考えられる。音響センサとしては、コンデンサ型、圧電素子型が考えられる。これらのセンサ素子は印刷法により構築することが望ましいが,素子の特性上液状にすることが難しい場合には,あらかじめ成型したセンサ素子を埋め込んでも良い。
【0014】
これらの電子回路,センサ素子の上にはこれらを保護するために保護層を塗布しても良い。保護層としては絶縁性の樹脂,あるいは樹脂と無機物のコンポジットが考えられる。塗布方法はインクジェット印刷法や,電着塗装,スプレー塗装,ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、スクイズコータ、リバースロールコータ、トランスファーロールコータ、コンマコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ、ダイコータなどの塗装方法が考えられる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は以下実施例に制限されるものではない。
【0016】
FETのゲート絶縁膜の形成にはポリイミドワニス(PIX L110SX:日立化成工業株式会社商品名)を用いた。使用前にPTFE製孔径0.2μmのメンブランフィルタでろ過して用いた。
有機半導体としてポリ(3-ヘキシルチオフェン) (Merck Chemical Ltd.)をクロロホルムに10 g/Lの濃度で溶解して用いた。電極材料には銀ペースト(NPS:ハリマ化成)をデカノールで希釈して用いた。
下地および絶縁層の構築に用いたエポキシワニスは以下のように調整した。
ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(N−865:大日本インキ化学工業株式会社商品名)22.6重量部,ビスフェノールAノボラック樹脂(VH−4170:大日本インキ化学工業株式会社商品名)12.4重量部,2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業株式会社製)0.02重量部をγ-ブチロラクトン65.0重量部に溶解し35重量%のワニスを調製した。
センサ素子用ワニスには,スチレン-水添イソプレン-スチレンブロック共重合体(クラレ製、セプトン4033)をテトラリンに20 mass%溶解し、これに24部の黒鉛(日本黒鉛株式会社)を混合して分散させて用いた。
【0017】
基板として鏡面加工したSUS404板を用いた。ヘキサンおよび蒸留水で洗浄し乾燥したSUS404板上にスピンコータを用い1500rpmでエポキシワニスを全面に塗布しクリーンオーブンで150℃60分硬化した。
保護層上にインクジェット装置(マイクロジェット製)を用いて銀ペーストを塗布しゲート電極を形成し,クリーンオーブンで250℃60分焼成した。(図1)
その上にポリイミドワニスをスピンコータにより3000rpmで全面に塗布し,クリーンオーブンで150℃20分乾燥後,250℃60分閉環反応した。(図2)
インクジェット装置(マイクロジェット製)を用い,銀ペーストをソース,ドレイン電極を作成し,クリーンオーブンで250℃60分焼成した。(図3)さらにポリ(3-ヘキシルチオフェン)溶液をインクジェット装置によりパターニングし,室温6時間乾燥した(図4)。ソースとドレイン電極の間隔は50 m、長さ2mmとした。その後,インクジェット装置(マイクロジェット製)を用いてエポキシワニスをパターニングし,クリーンオーブンで150℃60分硬化した。(図5)
スクリーンを用いてセンサ素子用ワニスを塗布した後,クリーンオーブンで100℃3時間乾燥した。(図6)ゲート絶縁膜の一部を紙やすりで削り、ゲート電極への導通をとった。(図7)こうして作製したセンサアレイの回路図を図8に示した。
各端子に電極をあて,サンプルピースを引張試験機(テンシロン:RandD社製)により1 mm/minによる引張試験を行いながら,25℃において、半導体パラメトリックテストシステム (ハイソル株式会社 4200SCS)により測定を行った。測定結果を図9、図10に示した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願実施例に記載したセンサアレイ作製の図である。
【図2】本願実施例に記載したセンサアレイ作製の図である。
【図3】本願実施例に記載したセンサアレイ作製の図である。
【図4】本願実施例に記載したセンサアレイ作製の図である。
【図5】本願実施例に記載したセンサアレイ作製の図である。
【図6】本願実施例に記載したセンサアレイ作製の図である。
【図7】ゲート絶縁膜の一部を紙やすりで削り、ゲート電極への導通をとった図である。
【図8】本発明によるセンサアレイの回路図である。
【図9】半導体パラメトリックテストシステムにより測定を行った結果の図である。
【図10】半導体パラメトリックテストシステムにより測定を行った結果の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破壊・疲労・磨耗・腐食をモニタしたい部材の上に直接あるいは保護のための塗布層を介して,インクジェットあるいは印刷によるパターニングを用いて,変形センサ,温度センサ,圧力センサ,音響センサ,断線検出のいずれかのセンサ素子およびデータ読出し用の電子回路,データ伝送用の配線,絶縁層,およびセンサを直接構築したセンサアレイ。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサアレイを用い、部材の歪み,温度,圧力分布,断線を計測し,部材の破壊・変形・腐食を検出・予測するセンサアレイ作成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−275752(P2006−275752A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94946(P2005−94946)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】