説明

構造物の建て替え方法

【課題】周辺への悪影響が発生し難い状態での施工ができ、しかも、新規地上構造部の構造に制約を受け難く、且つ、建て替え作業を効率よく実施できるようにする。
【解決手段】逆打ち工法で既存地下構造部A1を新規地下構造部B1に建て替える構造物の建て替え方法において、複数の杭1aを既存底盤3下に打設して一体化し、既存底盤3に作用している水圧に対し引抜抵抗させ、複数の杭1a上部と構真柱1を一体化し、更に既存底盤3と既存地下一階床部A1a近傍との間に垂直支保工2を設置して水圧に抵抗させ、既存一階床部A2aを解体しながら既存地上解体ガラG地下一階部分を撤去し、垂直支保工2を新規地上構造部B2の新規一階床部B2aの構築に伴い継ぎ足すことによって、既存底盤3と新規一階床部B2aとの間に延長設置し、その後既存地下一階床部A1aより以深の既存地下構造部A1を新規地下構造部B1に建て替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、既存地下構造部を残しその内部に既存地上解体ガラを集積した状態で新築工事を開始するに当たり、逆打ち工法で前記既存地下構造部を新規地下構造部に建て替える構造物の建て替え方法。
【背景技術】
【0002】
構造物の建て替えにおいて、図8に示すように、既存地下構造部A1の下方の地盤に被圧帯水層10が位置している場合、前記被圧帯水層10の被圧水圧の影響で、既存建物Aの解体で既存底盤構造部3の荷重が減少するに伴って浮き上がりや盤ぶくれ現象が懸念される場合がある。このような場合には、当然、前記浮き上がりや盤ぶくれ現象に対する防止策を講じる必要がある。
従来、この種の構造物の建て替え方法としては、以下のような方法がある。
[1] 図9に示すように、既存建物Aの外方側に前記被圧帯水層10を貫通させて更にそれより深い深度まで新設の山留め遮水壁11を形成し、前記被圧帯水層10における周囲地盤からの水の供給を絶つことで、既存建物Aの底盤での上下方向の力のバランスをとれるようにした後、既存地下構造部A1を解体する方法。
[2] 図10に示すように、敷地又はその周囲に前記被圧帯水層10の地下水を引き揚げる為の揚水井戸12を設置し、前記被圧帯水層10の水圧を低下させた状態で既存地下構造部A1を解体する方法。
[3] 図11の示すように、既存建物の地上部を撤去した後、引き抜き力に抵抗を与える状態に複数の杭13を地盤中に打設すると共に上端部が地上に突出する状態に設置し、前記各杭13の上端部にわたってメガトラス14を取り付け、前記メガトラス14と、前記既存底盤構造部3とにわたって垂直支保工2を設置し、その垂直支保工2を介して下方から加わる上向きの力を、杭13に反力を確保したメガトラス14の剛性によって受け止めて、前記既存地下構造部A1を新規地下構造部に建て替える方法(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3761307号公報(請求項1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の構造物の建て替え方法の内、前記[1]の方法によれば、前記新設の山留め遮水壁の施工のために充分な敷地が必要となり、市街地に多い構造物(敷地に余裕がない構造物)には適応し難いという問題点がある。また、一般的に、山留め遮水壁の深度が大深度になることが多く、施工工程及び施工コストの増加につながり易い。
また、前記[2]の方法によれば、揚水した地下水を排水するに当たり、その排水を処理できるだけの下水施設がその地域に整っていることが前提となると共に、地下水位の低下による地盤沈下が懸念される等の問題点がある。
また、前記[3]の方法によれば、既存底盤の浮き上がりを防止するのに、メガトラス等の大規模な梁構造が必要となり、地上構造部の構造が限定されるから、一般的な構造の建物に適用し難い問題点がある。そして、その問題を解決するのに、杭に替えて複数の構真柱を設置すると共に、メガトラスに替えて新規地上構造部の新規一階床部を設置し、新規一階床部と既存底盤構造部とにわたって垂直支保工を設置することが考えられる。しかし、この場合は、既存一階床部の取り壊し作業や、新規一階床部の形成作業の際、すべての工程にわたって前記垂直支保工が作業空間に位置しており、作業の障害となるばかりか、垂直支保工を重機作業で破損してしまう危険性もあり、施工面・品質面の両面で問題が残る。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、既存底盤の浮き上がり防止を図った状態での建て替えにおいて、周辺への悪影響が発生し難い状態での施工ができ、しかも、新規地上構造部の構造に制約を受け難く、且つ、建て替え作業を効率よく実施できる構造物の建て替え方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、既存地下構造部を残しその内部に既存地上解体ガラを集積した状態で新築工事を開始するに当たり、逆打ち工法で前記既存地下構造部を新規地下構造部に建て替える構造物の建て替え方法において、複数の杭を既存底盤下に打設して一体化し、前記既存底盤に作用している水圧に対し引抜抵抗させ、前記複数の杭上部と構真柱を一体化し、更に前記既存底盤と既存地下一階床部近傍との間に垂直支保工を設置して前記水圧に抵抗させ、既存一階床部を解体しながら前記既存地上解体ガラ地下一階部分を撤去し、前記垂直支保工を新規地上構造部の新規一階床部の構築に伴い継ぎ足すことによって、前記既存底盤と前記新規一階床部との間に延長設置し、その後既存地下一階床部より以深の前記既存地下構造部を新規地下構造部に建て替えるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、新規地上構造部の建設の前に、垂直支保工を、既存底盤構造部と既存地下一階床部間に設置しておき、新規地上構造部の新規一階床部の形成に伴って、垂直支保工を、既存地下一階床部から新規一階床部まで延長して、既存底盤構造部と新規一階床部とにわたって荷重支持できる状態に設置するから、既存一階床部を取り壊す作業時、及び、その後に新規一階床部を形成する作業時の何れにおいても、前記垂直支保工は、上端部が既存地下一階床部に位置しており、それら各作業の際に垂直支保工の存在が障害となることが無く、広い空間を使用して効率よく前記各作業を進めることが可能となる。また、上記各作業の際には、既に立設してある垂直支保工に損傷を与える危険性も低い。
そして、その後、垂直支保工を新規一階床部まで延長して一体化するから、新規地上構造部の重量や各構真柱及び杭の引抜抵抗等の力を各垂直支保工から既存底盤構造部に作用させ、既存底盤構造部に作用する上向きの力を抑えることができ、それ以後の既存地下構造部の建て替えを行う上で、既存底盤の浮き上がりや盤ぶくれを防止して安定した状態で建て替え工事を実施することが可能となる。
また、新規地上構造部を形成する上で、従来のように、必ずしもメガトラスを採用する必要が無く、構造の制約を受け難い。そして、従来のように、新規山留めを周囲に形成したり、地下水低下工法を実施するのに比べて、周辺への悪影響が極めて発生し難い。
また、上述のような作用効果は、例えば、残されている既存建物の既存地下構造部内に、予め、解体ガラが充填されているような場合でも同様であり、新規地下構造部への建て替え時には、充填されている解体ガラの撤去作業が更に追加されることとなり、その際にも、一階部分や地下一階部分での各作業の際に垂直支保工が障害になり難い。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記垂直支保工は前記既存地下構造部のスラブを貫通する状態に設置し、前記既存地上解体ガラ地下一階部分を撤去後、その垂直支保工の座屈防止補強をスラブ貫通部に施すところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、既存底盤構造部から上向きの力が垂直支保工に作用するに伴って、前記各支持点によって垂直支保工の座屈を防止することができ、垂直支保工の断面積を必要以上に大きくしなくてもよくなって経済設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0011】
本実施形態は、図1に示すような、既存地下構造部A1を備えた既存建物Aを、図2に示す新規建物Bに建て替える方法の一実施形態を示すものである。
【0012】
本実施形態の構造物の建て替え方法は、図1〜7に示すように、前記既存地下構造部A1を残しその内部に既存地上解体ガラGを集積した状態で新築工事を開始するに当たり、逆打ち工法で前記既存地下構造部A1を新規地下構造部B1に建て替えるものであり、更に詳しくは、複数の杭1aを既存底盤3下に打設して一体化し(図4参照)、前記既存底盤3に作用している水圧に対し引抜抵抗させ、前記複数の杭1a上部と構真柱1を一体化し、更に前記既存底盤3と既存地下一階床部A1a近傍との間に垂直支保工(以後、垂直切梁という)2を設置して前記水圧に抵抗させ、既存一階床部A2aを解体しながら前記既存地上解体ガラG地下一階部分を撤去し、前記垂直切梁2を新規地上構造部B2の新規一階床部B2aの構築に伴い継ぎ足すことによって、前記既存底盤3と前記新規一階床部B2aとの間に延長設置し(図5参照)、その後既存地下一階床部A1aより以深の前記既存地下構造部A1を新規地下構造部B1に建て替えるものである(図6参照)。
【0013】
前記既存建物Aは、図1に示すように、取り壊し対象の建物であり、既存地下構造部A1と既存地上構造部A2とから構成されている。
そして、前記既存地下構造部A1・既存地上構造部A2とも、複数階のフロアを備えた構成である。便宜上、既存一階床部A2aを含めた地上部分を、既存地上構造部A2といい、その下方に位置している部分を既存地下構造部A1という。
そして、既存地下構造部A1の最下部には、前記既存底盤構造部3が形成してある。
因みに、床部は、スラブや梁によって構成してあり、前記既存底盤3は、基礎スラブによって構成してある。
【0014】
また、既存地下構造部A1の下方地盤中には、高被圧帯水層10が位置しており(図3参照)、前記既存建物Aを全体的に取り壊してしまうと、それまで作用していた基礎地盤部分への建物荷重が減少し、前記高被圧帯水層10の上向きの被圧水圧とのバランスが崩れ、基礎地盤部分の浮き上がりや盤ぶくれ現象を生じる危険性が高い状況にある。
【0015】
前記新規構造物Bは、図2に示すように、本実施形態においては、前記各構真柱1の下方に一体に設置されている場所打ち拡底杭1aによって新規地下構造部B1、及び、新規地上構造部B2を支持する構造をとるものである。
【0016】
次に、既存の既存建物Aから新規構造物Bへの具体的な建て替え手順について説明する。尚、ここに説明する既存建物Aに関しては、図3に示すように、既存一階床部A2aを除く既存地上構造部A2は、事前に取り壊されており、その際に発生した解体ガラGは、既存地下構造部A1の内空部に充填されて、既存地上構造部の解体に伴う自重低減の緩和を図っている。そして、一旦は、前記既存一階床部A2aの上に仮舗装等のオーバーレイが施された状態で、一次工程が終了しており、それ以後の工程について説明する。
[1] 地上から、構真柱1、及び、垂直切梁2を所定の位置に設置する(図4参照)。
因みに、構真柱1に関しては、既存底盤構造部3を貫通して下方の地盤中に達する状態に場所打ち拡底杭1aを設け、その場所打ち拡底杭1aの上端部にH形鋼等の芯材1bを挿入して一体化することで形成してある。
また、垂直切梁2に関しては、H形鋼等の鋼材で構成してあり、前記既存底盤構造部3と既存地下一階床部A1a間に設置する。
[2] 既存一階床部A2a、及び、地下一階の柱等を解体した後、地下一階部分の解体ガラを撤去し、前記垂直切梁2の上端部にH形鋼を継ぎ足して一階床部分まで立ち上げ、新規一階床部B2aの形成工事を行う(図5参照)。そして、構真柱1を巻き込みながら新規地下一階部分も合わせて形成する。尚、垂直切梁2が貫通する既存地下一階床部A1aのスラブ貫通部hには、隙間にコンクリート等を充填したり、若しくは、スラブと緊結した水平鋼材等を設置して、垂直切梁2の振れ止めを図り、下方からの押上力が作用した際に座屈し難いようにする。
[3] 前記新規一階床部B2aに引き続いて新規地上構造部B2の建設を進める。
[4] 地下2階部分の解体ガラGの撤去、及び、既存地下構造部の解体の後、新規地下構造部B1の形成を行う(図6参照)。尚、新規地下構造部B1の形成前の状態では、前記垂直切梁2が、下方からの押上力を支持しており、既存底盤構造部3の安定支持を叶えている。
[5] 垂直切梁2を撤去する(図7参照)。
【0017】
本実施形態の構造物の建て替え方法によれば、既存一階床部の取り壊す作業時、及び、既存地下一階部の解体ガラの撤去作業時の何れにおいても、前記垂直切梁2は、上端部が既存地下一階床部A1aに位置しており、広い空間を使用して効率よく前記各作業を進めることが可能となる。そして、その後、垂直切梁2を新規一階床部B2aまで延長して一体化するから、既存底盤構造部3の浮き上がりや盤ぶくれを防止して安定した状態で建て替え工事を実施することが可能となる。
尚、当該実施形態においては、前記垂直切梁2の平面配置を、前記既存地下構造部A1の柱位置と前記新規下部構造部B1の柱位置とを外した位置で、且つ、隣接配置させる別の垂直切梁2との間隔が、前記既存底盤構造部3の下面に作用する地盤からの上向き力を安定的に支持できる前記既存底盤構造部3の許容支持スパン以下となる位置に設定してあり、そのように垂直切梁2を設置することによって、既存地下構造部A1の既存底盤構造部3を再利用しながら構造物の建て替えを行う上で、盤ぶくれや浮き上がりを防止して安定した状態で工事を進めることができながら、且つ、新規建物の柱位置設定を含む平面計画及び断面計画の自由性を向上させることが可能となっている。
【0018】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0019】
〈1〉 前記既存建物Aや、新規建物Bは、先の実施形態で説明した構成に限るものではなく、例えば、階層の数や柱の配置や構造等、自由に設定することができる。
〈2〉 前記垂直支保工2は、先の実施形態で説明したH形鋼で構成されたものに限るものではなく、他の鋼材やプレキャスト部材等で構成されているものであってもよい。また、地下一階部分の延長に関しては、適宜、公知の連結構造を採用することができる。
〈3〉 前記杭は、先の実施形態で説明した場所打ち杭に限るものではなく、既製杭であってもよい。従って、設置方法に関しても、適宜選択することができる。
また、その形状は拡底杭に限るものではない。そして、杭そのものは、摩擦杭や支持杭の何れであってもよい。
【0020】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】既存建物を示す断面図
【図2】新規建物を示す断面図
【図3】途中段階での既存建物を示す要部断面図
【図4】構造物の建て替え方法を示す要部断面図
【図5】構造物の建て替え方法を示す要部断面図
【図6】構造物の建て替え方法を示す要部断面図
【図7】構造物の建て替え方法を示す要部断面図
【図8】被圧帯水層による盤ぶくれ現象を示す概念図
【図9】従来の構造物の建て替え方法を示す断面図
【図10】従来の構造物の建て替え方法を示す断面図
【図11】従来の構造物の建て替え方法を示す断面図
【符号の説明】
【0022】
1 構真柱
2 垂直支保工(垂直切梁)
3 既存底盤構造部
A1 既存地下構造部
A1a 既存地下一階床部
B1 新規地下構造部
B2 新規地上構造部
B2a 新規一階床部
h スラブ貫通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存地下構造部を残しその内部に既存地上解体ガラを集積した状態で新築工事を開始するに当たり、逆打ち工法で前記既存地下構造部を新規地下構造部に建て替える構造物の建て替え方法において、
複数の杭を既存底盤下に打設して一体化し、前記既存底盤に作用している水圧に対し引抜抵抗させ、前記複数の杭上部と構真柱を一体化し、更に前記既存底盤と既存地下一階床部近傍との間に垂直支保工を設置して前記水圧に抵抗させ、既存一階床部を解体しながら前記既存地上解体ガラ地下一階部分を撤去し、前記垂直支保工を新規地上構造部の新規一階床部の構築に伴い継ぎ足すことによって、前記既存底盤と前記新規一階床部との間に延長設置し、その後既存地下一階床部より以深の前記既存地下構造部を新規地下構造部に建て替えることを特徴とする構造物の建て替え方法。
【請求項2】
前記垂直支保工は前記既存地下構造部のスラブを貫通する状態に設置し、前記既存地上解体ガラ地下一階部分を撤去後、その垂直支保工の座屈防止補強をスラブ貫通部に施すことを特徴とする請求項1に記載の構造物の建て替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−174281(P2009−174281A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16956(P2008−16956)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】