説明

樹脂含浸シート及び導電層付き樹脂含浸シート

【課題】誘電正接が小さい樹脂含浸シートを提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルを、繊維シートに含浸する。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−O−Ar3−O−
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルが繊維シートに含浸されてなる樹脂含浸シート、及びこれを用いてなる導電層付き樹脂含浸シートに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の絶縁層に用いられる樹脂含浸シートとして、耐熱性が高く、誘電正接が小さいことから、液晶ポリエステルを繊維シートに含浸してなるものが検討されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、液晶ポリエステルとハロゲン置換フェノール溶媒とを含む液状組成物を、繊維シートに含浸した後、溶媒を除去することにより、樹脂含浸シートを得ることが提案されており、具体的には、液晶ポリエステルとして、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位を20モル%、及びイソフタル酸に由来する繰返し単位を20モル%有するもの(特許文献1)や、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を50モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位を25モル%、及びイソフタル酸に由来する繰返し単位を25モル%有するもの(特許文献2)を用いることが開示されている。また、特許文献3や特許文献4には、芳香族ジアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ヒドロキシアミンに由来する繰返し単位を有する液晶ポリエステルと非プロトン性溶媒とを含む液状組成物を、繊維シートに含浸した後、溶媒を除去することにより、樹脂含浸シートを得ることが提案されており、具体的には、液晶ポリエステルとして、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を50モル%、イソフタル酸に由来する繰返し単位を25モル%、及びp−アミノフェノールに由来する繰返し単位を25モル%有するもの(特許文献3)や、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を35モル%、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を5モル%、イソフタル酸に由来する繰返し単位を30モル%、及びp−アミノフェノールに由来する繰返し単位を30モル%有するもの(特許文献4)や、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を35モル%、イソフタル酸に由来する繰返し単位を32.5モル%、及びp−アミノフェノールに由来する繰返し単位を32.5モル%有するもの(特許文献4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−244621号公報
【特許文献2】特開2005−194406号公報
【特許文献3】特開2006− 1959号公報
【特許文献4】特開2007−146139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、さらに誘電正接が小さい樹脂含浸シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルが、繊維シートに含浸されてなる樹脂含浸シートを提供する。
【0006】
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−O−Ar3−O−
【0007】
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0008】
また、
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂含浸シートは、誘電正接が小さく、これを用いることにより、誘電正接が小さい導電層付き樹脂含浸シートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂含浸シートにおいて、繊維シートに含浸されている液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示すポリエステルであり、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(1)ということがある)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(2)ということがある)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(3)ということがある)とを有するものである。
【0011】
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−O−Ar3−O−
【0012】
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0013】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0014】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1が2,6−ナフチレン基であるもの、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位が好ましい。
【0015】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2が2,6−ナフチレン基であるもの、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位、及びAr2が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちテレフタル酸に由来する繰返し単位が好ましい。
【0016】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちヒドロキノンに由来する繰返し単位、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの、すなわち4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位が好ましい。
【0017】
液晶ポリエステル中、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量、すなわち、Ar1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)、及びAr3が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(3)の合計含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量を各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、40モル%以上である。かかる所定の繰返し単位組成を有する液晶ポリエステルを繊維シートに含浸することにより、誘電正接が小さい樹脂含浸シートを得ることができる。この2,6−ナフチレン基の含有量は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。
【0018】
また、液晶ポリエステル中、繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%であり、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%であり、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。このような所定の繰返し単位組成を有する液晶ポリエステルは、耐熱性と成形性とのバランスに優れている。なお、繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量とは、実質的に等しいことが好ましい。また、液晶ポリエステルは、必要に応じて繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有していてもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0019】
耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルの典型的な例は、全繰返し単位の合計量に対して、Ar1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を、好ましくは40〜74.8モル%、より好ましくは40〜64.5モル%、さらに好ましくは50〜58モル%有し、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位を、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%有し、Ar2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)、すなわちテレフタル酸に由来する繰返し単位を、好ましくは0.2〜15モル%、より好ましくは0.5〜12モル%、さらに好ましくは2〜10モル%有し、Ar3が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)、すなわちヒドロキノンに由来する繰返し単位を、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%有し、かつ、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)の含有量が、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)及びAr2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)の合計含有量に対して、好ましくは0.5モル倍以上、より好ましくは0.6モル倍以上のものである。
【0020】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、繰返し単位(2)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジカルボン酸と、繰返し単位(3)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジオールとを、2,6−ナフチレン基を有するモノマーの合計量、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジオールの合計量が、全モノマーの合計量に対して、40モル%以上になるようにして、重合(重縮合)させることにより、製造することができる。その際、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの、カルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるものが挙げられる。
【0021】
また、液晶ポリエステルは、モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0022】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは280℃以上、より好ましくは290℃以上、さらに好ましくは295℃以上であり、また、通常380℃以下、好ましくは350℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や溶融張力が向上し易いが、あまり高いと、溶融させるために高温を要し、成形時に熱劣化し易くなる。
【0023】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48,000ポイズ)を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0024】
液晶ポリエステルには、必要に応じて他の成分を配合して、組成物としてもよい。他の成分の例としては、充填材、液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂及び添加剤が挙げられる。組成物全体に占める液晶ポリエステルの割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0025】
充填材の例としては、ミルドガラスファイバー、チョップドガラスファイバー等のガラス繊維、チタン酸カリウムウイスカー、アルミナウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、炭化けい素ウイスカ、窒化けい素ウイスカ等の金属又は非金属系ウイスカ類、ガラスビーズ、中空ガラス球、ガラス粉末、マイカ、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質等)、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸ソーダ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、けい酸カルシウム、けい砂、けい石、石英、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄グラファイト、モリブデン、アスベスト、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、石膏繊維、炭素繊維、カーボンブラック、ホワイトカーボン、けいそう土、ベントナイト、セリサイト、シラス及び黒鉛が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、ガラス繊維、マイカ、タルク及び炭素繊維が好ましく用いられる。
【0026】
充填材は、必要に応じて、表面処理されたものであってもよく、この表面処理剤の例としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤等の反応性カップリング剤、及び高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の潤滑剤が挙げられる。
【0027】
液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂の例としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。
【0028】
添加剤の例としては、フッ素樹脂、金属石鹸類等の離型改良剤、核剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、着色防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、潤滑剤及び難燃剤が挙げられる。
【0029】
こうして得られる液晶ポリエステル又はその組成物を、繊維シートに含浸することにより、誘電正接が小さい樹脂含浸シートを得ることができる。
【0030】
繊維シートを構成する繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等の無機繊維;及び液晶ポリエステル繊維その他のポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維等の有機繊維が挙げられ、その2種以上を用いてもよい。中でもガラス繊維が好ましい。ガラス繊維の例としては、含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維及び低誘電ガラス繊維が挙げられる。
【0031】
繊維シートは、織物(織布)であってもよいし、編物であってもよいし、不織布であってもよいが、樹脂含浸シートの寸法安定性が向上し易いことから、織物であることが好ましい。織物の織り方の例としては、平織り、朱子織り、綾織及びななこ織りが挙げられる。織物の織り密度は、通常10〜100本/25mmである。
【0032】
繊維シートの厚さは、通常10〜200μm、好ましくは10〜180μmである。繊維シートの単位面積あたりの質量は、通常10〜300g/m2である。繊維シートは、樹脂との密着性が向上するように、シランカップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。
【0033】
液晶ポリエステルの繊維シートへの含浸は、溶融含浸により行うことが好ましく、液晶ポリエステル又はその組成物のシートである液晶ポリエステルシートと繊維シートとをプレスすることにより行うことがより好ましい。
【0034】
液晶ポリエステルのシート化の方法としては、例えば、押出成形法、プレス成形法、溶液流延法及び射出成形法が挙げられ、押出成形法が好ましい。押出成形法としては、例えば、Tダイ法やインフレーション法が挙げられ、Tダイ法において、一軸延伸してもよいし、二軸延伸してもよい。
【0035】
一軸延伸シートの延伸倍率(ドラフト比)は、通常1.1〜40、好ましくは10〜40、より好ましくは15〜35である。二軸延伸シートのMD方向(押出方向)の延伸倍率は、通常1.2〜40倍であり、二軸延伸シートのTD方向(押出方向に垂直な方向)の延伸倍率は、通常1.2〜20倍である。インフレーションシートのMD方向の延伸倍率(ドローダウン比=バブル引取速度/樹脂吐出速度)は、通常1.5〜50、好ましくは5〜30であり、インフレーションシートのTDの延伸倍率(ブロー比=バブル径/環状スリット径)は、通常1.5〜10、好ましくは2〜5である。
【0036】
液晶ポリエステルシートの厚さは、好ましくは5〜100μmであり、より好ましくは10〜75μmであり、さらに好ましくは15〜75μmである。あまり薄いと、強度が不十分になり、あまり厚いと、フレキシブル性が不十分になる。
【0037】
液晶ポリエステルシートと繊維シートとのプレスは、繊維シートの両側に液晶ポリエステルシートを配置して、プレス機で加熱加圧することにより行うことが好ましい。その際、繊維シートを、複数枚重ねてもよい。また、繊維シートの両側に、それぞれ独立に、液晶ポリエステルシートを複数枚配置してもよい。また、繊維シートの両側に液晶ポリエステルシートを配置してなるセットを、複数セット重ねてもよい。
【0038】
プレスの温度は、通常300〜360℃、好ましくは320〜340℃である。プレスの圧力は、通常1〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。プレスの時間は、通常5〜60分間、好ましくは10〜50分間である。プレスは、プレス機内を好ましくは5kPa以下の減圧にして、減圧下に行うことが好ましい。
【0039】
こうして得られる樹脂含浸シートを、必要に応じて複数枚積層した後、その少なくとも一方の面に導体層を形成することにより、導電層付き樹脂含浸シートを得ることができる。
【0040】
導電層の形成は、金属箔を接着剤による接着、熱プレスによる融着等により積層することにより行ってもよいし、金属粒子をメッキ法、スクリーン印刷法、スパッタリング法等によりコートすることにより行ってもよい。また、前記の液晶ポリエステルシートと繊維シートとの熱プレスの際、両外側に金属箔を配置することにより、樹脂含浸シートを得ると同時に、導電層付き樹脂含浸シートを得ることができる。金属箔又は金属粒子を構成する金属の例としては、銅、アルミニウム及び銀が挙げられるが、導電性やコストの点から、銅が好ましく用いられる。
【0041】
こうして得られる導電層付き樹脂含浸シートの導電層に、所定の配線パターンを形成することにより、絶縁層である樹脂含浸シートの誘電正接が小さいプリント配線板を得ることができる。
【実施例】
【0042】
〔流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0043】
〔比誘電率及び誘電正接の測定〕
導電層付き樹脂含浸シートの銅箔を、塩化第二鉄溶液(木田(株)、40°ボーメ)を用いて、エッチングで除去し、残った樹脂含浸シートから、2mm×70mmの試験片を切り出し、空洞共振器(Agilent Technologies社の「E8363B」)を用いて、測定周波数1GHzで比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0044】
〔線膨張率の測定〕
導電層付き樹脂含浸シートの銅箔を、塩化第二鉄溶液(木田(株)、40°ボーメ)を用いて、エッチングで除去し、残った樹脂含浸シートについて、熱機械分析(TMA)装置(セイコーインスツル(株))を用いて、JIS C6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠して、50〜100℃での平面方向の線膨張率を直行する2方向(X方向、Y方向)にて測定した。
【0045】
〔ハンダ耐熱性の評価〕
導電層付き樹脂含浸シートを、280℃のハンダ浴に1分浸漬した後、表面状態を目視で観察し、銅箔のデラミネーション及び膨れが確認されなかった場合を○、銅箔のデラミネーション及び/又は膨れが確認された場合を×とした。
【0046】
実施例1
〔液晶ポリエステルの製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル:2,6−ナフタレンジカルボン酸及びテレフタル酸の合計量に対して0.225モル過剰)、無水酢酸1226.87g(12モル)、及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで15分かけて昇温し、145℃で1時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温し、310℃で3時間保持した後、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕し、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から310℃まで10時間かけて昇温し、310℃で5時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルは、全繰り返し単位の合計量に対して、Ar1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)を55モル%、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)を17.5モル%、Ar2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を5モル%、及びAr3が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)を22.5%有し、その流動開始温度は333℃であった。
【0047】
〔液晶ポリエステルシートの作製〕
液晶ポリエステルを、二軸押出機((株)池貝の「PCM−30」)で造粒し、ペレット状にした後、一軸押出機(スクリュー径50mm)に供給して溶融させ、Tダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)からシート状に押し出して冷却し、厚さ20μmの液晶ポリエステルシートを得た。
【0048】
〔導電層付き樹脂含浸シートの製造〕
繊維シートとしてガラスクロス((株)有沢製作所、厚さ96μm、IPC名称2116)を用い、その両側に、2枚の液晶ポリエステルシート及び銅箔(三井金属(株)の「3EC−VLP」、18μm)をこの順に配置し、高温真空プレス機(北川精機(株)の「VH1−1765」)を用いて、330℃で30分、5MPaでプレスし、導電層付き樹脂含浸シートを得た。この導電層付き樹脂含浸シートにおける樹脂含浸シート層の厚さは平均105μmであり、厚さのバラツキは3%であった。この導電層付き樹脂含浸シートについて、比誘電率、誘電正接及び線膨張率を測定すると共に、ハンダ耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
実施例2
繊維シートとしてガラスクロス((株)有沢製作所、厚さ45μm、IPC名称1078)を用い、ガラスの両側に1枚の液晶ポリエステルシートを配置したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、導電層付き樹脂含浸シートを得た。この導電層付き樹脂含浸シートにおける樹脂含浸シート層の厚さは平均56μmであり、厚さのバラツキは3%であった。この導電層付き樹脂含浸シートについて、比誘電率、誘電正接及び線膨張率を測定すると共に、ハンダ耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
比較例1
〔液晶ポリエステルの製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕し、窒素ガス雰囲気下、室温から223℃まで6時間かけて昇温し、223℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
【0051】
〔液状組成物の調製〕
液晶ポリエステル2200gを、N,N−ジメチルアセトアミド7800gに加え、100℃で2時間加熱して、液状組成物を溶液として得た。
【0052】
〔樹脂含浸シートの製造〕
繊維シートとしてガラスクロス((株)有沢製作所、厚さ96μm、IPC名称2116)を用い、これに液状組成物を含浸した後、熱風式乾燥機を用いて、160℃で溶媒を蒸発させ、次いで、熱風式乾燥機を用いて、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理し、樹脂含浸シートを得た。この樹脂含浸シート中の液晶ポリエステルの含有量は47質量%であった。また、この樹脂含浸シートの厚さは平均133μmであり、厚さのバラツキは3%であった。
【0053】
〔導電層付き樹脂含浸シートの製造〕
樹脂含浸シートの両側に、銅箔(三井金属(株)の「3EC−VLP」、18μm)を配置し、高温真空プレス機(北川精機(株)の「VH1−1765」)を用いて、340℃で30分、5MPaでプレスし、導電層付き樹脂含浸シートを得た。この導電層付き樹脂含浸シートにおける樹脂含浸シート層の厚さは平均109μmであり、厚さのバラツキは3%であった。この導電層付き樹脂含浸シートについて、比誘電率、誘電正接及び線膨張率を測定すると共に、ハンダ耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0054】
比較例2
繊維シートとしてガラスクロス((株)有沢製作所、厚さ45μm、IPC名称1078)を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作を行い、樹脂含浸シートを得た。この樹脂含浸シート中の液晶ポリエステルの含有量は50質量%であった。また、この樹脂含浸シートの厚さは平均68μmであり、厚さのバラツキは3%であった。
【0055】
次いで、実施例1と同様の操作により、導電層付き樹脂含浸シートを得た。この導電層付き樹脂含浸シートにおける樹脂含浸シート層の厚さは平均57μmであり、厚さのバラツキは3%であった。この導電層付き樹脂含浸シートについて、比誘電率、誘電正接及び線膨張率を測定すると共に、ハンダ耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルが、繊維シートに含浸されてなる樹脂含浸シート。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−O−Ar3−O−
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが前記繊維シートに溶融含浸されてなる請求項1に記載の樹脂含浸シート
【請求項3】
前記液晶ポリエステルから構成されるシートと前記繊維シートとがプレスされてなる請求項1又は2に記載の樹脂含浸シート。
【請求項4】
前記繊維シートを構成する繊維がガラス繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂含浸シート。
【請求項5】
請求項1〜4にのいずれかに記載の樹脂含浸シートと、その少なくとも一方の面上に形成された導電層とを有する導電層付き樹脂含浸シート。

【公開番号】特開2012−116906(P2012−116906A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266210(P2010−266210)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】