説明

汎用加工システム

【課題】
工具に作用する加工面圧を検知し、工作機械の制御信号にフィードバックして常に、最良の切れ味と加工抵抗を維持しながら安定した加工を行うための汎用加工システムを提供する。
【解決手段】
工作機械と、工作機械に取り付けた工具を含めた汎用加工システムにおいて、工具の内部に圧力センサー3を具備し、圧力センサー3を介して加工中の加工圧力を検知し、検知した加工圧力に応じて加工条件を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削、研磨、切削、そして切断加工される材料全般に用いられる汎用加工システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車製造業をはじめ、電子部品や光学部品、そして半導体材料の加工においても、目まぐるしく自動化が進み、同時に超精密化、高精度な鏡面加工も要求されている。また、医療分野にも機械加工が必要な場合には、手術ロボットを用いて遠隔操作を行う方法も研究されている。これら全ての加工において、未だ熟練工のスキルに依存する技術が多いため、スキルの自動化、知識ベース化が、最も困難であるが重要な技術課題として取り上げられている。現在では、人手による遠隔操作を除けば、現状では予め作成した加工プログラムに基づいて、制御を行う方法がとられる。しかし、加工プログラム自体は、知識と経験に基づいて熟練者によって設計される。この方法によれば、熟練者の意図を忠実にプログラムに反映しさえすれば、目的の加工精度、品質を達成することができるが、知識、経験のないケースには対応できないうえ、予期せぬ加工中の変化にも追従できない問題がある。
【0003】
この加工プログラムを用いた方法においては、要求する精度および品質を達成できない場合には、加工後に工作物の加工精度を測定し、要求精度との誤差成分を抽出し、誤差成分を補うための修正加工プログラムを新たに自動的に生成する方法が開発されている。この方法は、非球面レンズ用の金型の研削加工など、プログラムに基づく制御だけでは要求する加工精度の達成が非常に困難な加工において有効であることが示されている。
【0004】
しかし、予め熟練者が作成、あるいは、高度な修正計算を用いて自動生成したプログラムに従って、超高精度な運動精度を有する工作機械を用いて、工作物および工具の軌跡を超精密に制御したとしても、砥石や切削工具などの切れ味の変化や、加工部で発生する切り屑の滞留によって、加工精度および品質は著しく影響される。また、常に所定の切れ味を維持するための、砥石のドレッシングや、切削工具の再研磨などメンテナンスのタイミングは、熟練者のスキルに基づいて行わなければならない。
【0005】
加工中の切れ味を維持する方法としては、研削の場合には、自生発刃効果の高いレジノイドボンドあるいはビトリファイドボンドの砥石を用い、一方切削の場合には、磨耗の非常に少ない超硬工具などを用いる方法がある。また、切り屑の滞留を防ぐ方法としては、研削砥石としては、砥石部に多数の溝を形成すれば、砥石作用面の面積を小さくして高い加工面圧を得ながら、切り屑および冷却水の排出経路を確保することができる。一方、切削工具としては、超硬工具の救い面に切り屑を分断するためのチップブレーカーを設ける方法がある。これらの方法は、切り屑を加工点に滞留させないために、加工液とともに切り屑を排除する効果や、切り屑自体を細かく分断して工具や工作物への切り屑の巻きつきを防止する効果がある。
【0006】
前記の工具では、研削砥石の場合にはセグメント状の砥石としているが、セグメントが小さい場合や、砥石自体を先細りの形状とする場合には、高精度高品位加工中に砥石部の欠損や破砕により脱落した砥粒が砥石と工作物との間に挟まり、加工精度および品質を低下させる問題が起こりうる。また、切削工具の場合では、非常に鋭利で先細り形状の超精密工具や、単結晶ダイヤモンド工具など、チップブレーカーを設けることが非常に困難である問題がある。
【0007】
平面研磨加工においては、研磨レートが加工圧力に大きく依存することに着目し、ポリッシャー内部に複数の圧力センサーを内臓し、各々の圧力センサーが加工中の圧力を検知して、均一な加工圧力が得られるように圧力センサー近傍に組み込まれたアクチュエーターで圧力制御する構造が採用されている。(特許文献1、2参照)平坦面を得る目的のみで遊離砥粒を使用して研磨加工を行う場合は、圧力依存性が高いため、前記特許文献に記載されているように、個々の圧力センサーで検知された圧力不均一箇所につき、検知された箇所の加工面圧を制御する方法が望ましい。しかし、切削加工や、固定砥粒を使用する研削加工では、形状転写による除去機構であるため、圧力変動を検知して、工作物への切り込み量を制御する必要がある。
【0008】
【特許文献1】特開平10−286772
【特許文献2】特開平11−70460
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特に近年要望の高い、ダイヤモンドホイールを用いたウェーハの鏡面加工、軸対象曲面あるいは自由曲面の高精度鏡面加工、超精密ダイヤモンド切削工具を用いた超精密パターンの生成などにおいては、前記の工具の適用が難しいうえ、加工応力の微小な変化が加工精度や加工面品位に影響することがある。 一般的な加工では、熟練工が加工中の音や振動から、加工中の工具や工作物の挙動を推測し、加工条件を微調整したり、工具のメンテナンスを行ったりする。これは、加工中の音や振動が、工作物と工具との接触面圧の変動として作用し、得られる工作物の精度や品質に影響を及ぼすことを意味している。しかし、ウェーハの鏡面加工など超高精度が要求される加工では、加工中に問題が生じたときでさえ、作業者の感知できる音や振動は発生しない。
【0010】
また、加工応力の検知には、一般には動力計が用いられることが多い。しかし、動力計は静止体に取り付けることが前提であり、研削砥石やエンドミルなどの回転工具には適用できず、汎用的ではない。そこで、発明者らは、加工面圧と加工形態との関係に基づき、加工応力を検知するための方法と必要な圧力センサーについて検討をおこなった。
【0011】
加工面圧が低いと、工具及び工作物は弾性変形しながら工具が工作物上を滑り、加工は成立しない。徐々に加工面圧を高めると、工作物側の塑性変形が起こりはじめ、切り屑を出さない加工が成立する。さらに加工面圧を高めると、流れ型の切り屑を排出しながら、工具の切り込み量に応じた工作物の除去加工が可能となる。この加工形態は、延性モード加工と呼ばれる。これよりもさらに加工面圧を高めるとある加工面圧を境に、流れ型の切り屑を排出せず、脆性破壊を起こしながら除去を行う形態に変化する。この加工形態は、脆性モード加工を呼ばれる。そして、延性モード加工から脆性モード加工に変化し始める加工面圧は、臨界加工面圧と呼ばれる。一般に、超精密高品位加工を行うためには、臨界加工面圧以下の延性モード加工を行う必要がある。しかし、前記動力計を用いた圧力検知では、部分的に脆性モード加工に達した場合や、立体的な加工面を生成する場合に現れる微小な加工面圧の変化を検知することができない。
【0012】
以上のようなことから、本発明の目的は、工具側の制約によらず、工具に作用する加工面圧を検知し、工作機械の制御信号にフィードバックして常に、最良の切れ味と加工抵抗を維持しながら安定した加工を行うための汎用加工システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の汎用加工システムの第1の特徴は、工具の内部に圧力センサーを具備し、前記圧力センサーを介して加工中の加工圧力を検知し、検知した加工圧力に応じて加工条件を制御する加工システムとしたことである。
【0014】
このようにすることにより、大きな作用面を持つ研削砥石を用いた平面加工や、微小な工具を用いた立体形状の可能においても、延性モード加工を維持しながら、精度や品位の低下を起こすことなく、安定した加工が可能となる。
【0015】
第2の特徴は、砥石部と台金との境界部に圧力センサーを具備した研削用砥石、または、刃先チップと台金との境界部に圧力センサーを具備した切削工具を用いたことである。
【0016】
一般に研削砥石や、切削工具は、作用する砥石部や、刃先チップと、それらを保持する台金で構成される。工具は台金を介して工作機械に取り付けられるため、台金は工作機械に精密に取り付けられなければならない。一方、加工圧力の微小変動を検知するためには、作用する砥石部や刃先チップからの検出が必須となる。加工面圧の微小変動は、砥石部や刃先チップと台金との相対微小変位に基づくものであるため、それらの界面に圧力センサーを設けることが理想である。
【0017】
第3の特徴は、圧力センサーと砥石部または刃先チップとを、軟質金属または樹脂の板材またはシート材を介して接合した工具を用いたことである。切削工具の台金の材質としては、硬質のものでは超硬合金、軟質のものではアルミニウム合金が用いられ、鋼が用いられることも多い。一方、研削砥石の基板の材質としては、鋼が一般的であるが、アルミニウム合金も多く、CFRPや樹脂系の場合もある。特殊な用途では、超硬合金やチタン合金が用いられることもある。そのため、圧力センサーと台金または基板との間に介在させる板材の材質の選定は、圧力センサーの感度を大きく損なうことなく、かつ、台金あるいは基板による保持剛性を損なうことのない材料を選択しなければならない。
【0018】
微小な圧力変動を検知するためには、砥石部や刃先チップに圧力センサーを直接接合するべきであるが、比較的高い加工面圧で形状精度を重視する加工では、圧力センサー部の変位が加工精度に影響することがある。そのため、圧力センサーの感度を損なわない程度に変位する軟質金属または、樹脂の板材を介して圧力センサーを砥石部や刃先チップに接合させる必要がある。板材の材質として,好ましくは、鋼、銅やアルミニウム合金、CFRPの板材が望ましいが、より好ましくは、銅やアルミニウム合金とすべきである。一方、基板や台金が超硬合金や樹脂といった特殊な材質の場合には、この限りではなく、基板や台金のヤング率以下で、且つ、圧力センサーのマトリックス材料のヤング率以上である材質を選定すればよい。
【0019】
圧力センサーのマトリックスとしては、樹脂系相当のヤング率の材料が用いられていることが多い。使用する圧力センサーとしては、柔軟性の高いエラストマー、エチレンプロピレンゴム、クロロプロピレン等の合成ゴムや、ゴム弾性を示す熱可塑性ゴム等を使用し、それを絶縁体として内部に金属粒子、カーボンブラック、黒鉛等の導電性粒子を混合分散させたものが望ましい。より好ましくは、前記圧力センサーのマトリックスに前記導電性粒子のほか、セラミックス系の超微粒子を分散させたものが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の汎用加工システムは、高精度かつ高品位に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明の汎用加工システムの1つの実施の形態を示す図である。図1に示すように、工具として研削砥石を用い、アルミ合金等から形成されたカップ状の台金2の一方端面上に台金と同心の円環状に砥石部1が固着されている。砥石部の厚みを規定する面、すなわち厚み方向に沿った面が、台金の端面に形成された所定幅の溝に固着されている。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施の一形態を図1に示す。砥石チップ1と台金2との接合部に圧力センサー3を介在させ、圧力センサーとチップとを、厚さ0.5mmのアルミニウムの板材4を介して接合した。圧力センサーとしては、非導電性の合成ゴムをマトリックスとして、黒鉛粒子等と、アルミナ超微粒子を混合分散させた感圧導電性ゴムを装備した圧力センサーを用いた。図2には、前記圧力センサーを組み込んだ砥石で構成されるホイールの全体図、図3には砥石部の拡大図を示した。ホイールサイズは外径400mm、砥石幅をU=3.6mmとした。各チップは、砥石幅の中央が、台金と同一中心の半径197.9mmの円周上に一致するように、円周等配で225個配置した。チップは外形3.6mmの円柱形状とした。
【0023】
シリコンウェーハを本発明の汎用加工システムで研削加工した。ウェーハサイズは外径300mmとした。この場合、砥石幅の中央とウェーハの中央が一致するように、ウェーハとホイールとの軸間距離を設定した。ホイール回転数は2000/min、工作物回転数は6/min、総切り込み量は0.01mm、切り込み速度0.01mm/min、スパークアウトを30秒とした。加工完了後、シリコンウェーハの表面につき、SEMを用いて観察した結果を図4に示す。観察の結果によれば、微小な脆性破壊が一切ない良好な加工面が得られた。
【比較例1】
【0024】
シリコンウェーハを本発明のカップ型超砥粒ホイールで研削加工した。ホイールサイズは外径400mm、砥石幅をU=3.6mmとした。各チップは、砥石幅の中央が、台金と同一中心の半径197.9mmの円周上に一致するように、円周等配で225個配置した。チップは外形D=3.6mmの円形状とした。ウェーハサイズは外径300mmとした。この場合、砥石幅の中央とウェーハの中央が一致するように、ウェーハとホイールとの軸間距離を設定した。ホイール回転数は2000/min、工作物回転数は6/min、総切り込み量は0.01mm、切り込み速度0.01mm/min、スパークアウトを30秒とした。加工完了後、シリコンウェーハの表面につき、SEMを用いて観察した結果を図5に示す。観察の結果によれば、研削痕の方向に沿った脆性破壊が発生していることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】圧力センサー取り付け部の構造図
【図2】ホイール全体図
【図3】ホイール砥石部拡大図
【図4】実施例1の加工結果
【図5】比較例1の加工結果
【符号の説明】
【0026】
1 砥石
2 ホイール基板
3 圧力センサー
4 板材
5 欠陥部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械と、前記工作機械に取り付けた工具を含めた汎用加工システムにおいて、前記工具の内部に圧力センサーを具備し、前記圧力センサーを介して加工中の加工圧力を検知し、検知した加工圧力に応じて加工条件を制御することを特徴とする汎用加工システム。
【請求項2】
前記汎用加工システムに取り付ける工具として、砥石部と基板との境界部に圧力センサーを具備した研削用砥石、または、刃先チップと台金との境界部に圧力センサーを具備した切削工具を用いることを特徴とする請求項1に記載の汎用加工システム。
【請求項3】
前記汎用加工システムに取り付ける工具として、圧力センサーと砥石部または刃先チップとを、軟質金属または樹脂の板材またはシート材を介して基板または台金に接合した工具を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の汎用加工システム。
【請求項4】
前記圧力センサーとそれを取り付ける工具の基板または台金との間に介在させる軟質金属または樹脂の板材の材質として、台金のヤング率以下で、且つ、圧力センサーを形成するマトリックスのヤング率以上の軟質金属または樹脂材料を用いることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載の汎用加工システム。
【請求項5】
前記圧力センサーを具備した工具を装備する工作機械として、研削盤、旋盤、ボール盤、フライス盤、形削り盤、平削り盤、刃切り盤、ブローチ盤、ラップ盤、マシニングセンターのいずれか一つ、あるいはこれらの二種類以上を複合した機能を具備する複合工作機械を用いることを特徴する請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載の汎用加工システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−281320(P2006−281320A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100401(P2005−100401)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】