説明

注入同期発振器およびフェーズドアレーアンテナ

【課題】 従来のサブハーモニック注入同期発振器は、注入端子から注入される注入信号を直接発振素子に入力し、基準信号と発振器を同期させていたため、基準信号と発振器を同期させるために高いレベルの基準信号を必要とした。
【解決手段】 注入端子1から注入される基準信号を増幅するための増幅器2を発振ループ内に設け、この増幅器2により増幅された基準信号を発振素子4へ入力することにより、低いレベルの基準信号であっても発振器と同期することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波またはミリ波帯の無線通信システム、レーダシステムまたは光通信システムの送受信装置に用いられる注入同期発振器およびフェーズドアレーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のサブハーモニック注入同期発振器においては、注入端子から注入された基準信号の高調波を同期させる構成になっていた(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】「第2高調波出力発振器のサブハーモニック注入同期発振器」 2003年 電子情報通信学会、C−2−16、P.48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のサブハーモニック注入同期発振器は、注入される基準信号の高調波に対して同期を確立するために、発振素子として動作するトランジスタで生成される前記高調波のレベルを高める必要があり、そのため、高いレベルの基準信号が必要となるという問題があった。
【0005】
この発明は上述の課題を解決するためになされたもので、注入端子から注入された基準信号レベルが小さいレベルであっても、同期確立可能な注入同期発振器を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る注入同期発振器においては、発振ループ内に注入された基準信号を増幅する増幅器を内蔵したものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、注入された基準信号を増幅する増幅器を内蔵したため、基準信号の信号レベルを低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1における注入同期発振器を示すものである。図1において、1は基準信号として所望の発振周波数の1/n(nは2以上の整数)の周波数である基準信号を注入する注入端子、2は注入端子1に接続され、注入された基準信号を増幅するための増幅器、3は増幅器2の出力側に接続され、発振周波数において発振条件を満足させるよう信号の位相を調整する伝送線路である。4はこの伝送線路3を介して増幅器2と接続され、増幅された基準信号の高調波およびこの高調波に同期した発振波を生成する発振素子、5は発振素子4からの出力を発振素子4および増幅器2側に帰還させる帰還回路である。6は帰還回路5と直列に接続され、負荷(図には表示せず)に対し発振波を出力する出力端子である。
【0009】
次にこのように構成された注入同期発振器の発振動作を、基準信号として周波数が発振周波数の1/2である1/2サブハーモニック波を注入した場合について説明する。
【0010】
注入端子1から注入された1/2サブハーモニック波は、増幅器2により増幅され、伝送線路3を経由して発振素子4に入力される。発振素子4は増幅器2によって増幅された1/2サブハーモニック波の高調波を生成する。この生成された高調波のうち第2高調波の一部は帰還回路5の作用により発振素子4に帰還され、増幅器2に伝達される。増幅器2に伝達された高調波は、増幅器2内で反射され伝送線路3を介し再び発振素子4へ伝達される。この伝達された高調波は発振素子4により増幅して出力され、帰還回路5の作用により再び発振素子4に帰還される。この動作を繰り返すことにより、発振素子4は第2高調波に同期した発振波を発振し発振波または発振波の高調波を出力することになる。
【0011】
図2は図1における注入同期発振器の具体的な回路構成を示したものである。図2において、1は基準信号を注入する注入端子、2aは能動素子として使用される注入端子1とベース端子が接続され、エミッタ端子が接地されている第1のバイポーラトランジスタ、3は第1のバイポーラトランジスタ2aのコレクタ端子と一端が接続された伝送線路である。4aはベース端子が伝送線路3の他端に接続された第2のバイポーラトランジスタ、4bは第2のバイポーラトランジスタ4aのエミッタ端子と接地間に接続されたマイクロストリップ線路である。5aは第2のバイポーラトランジスタ4aのコレクタ端子に接続され、長さが発振周波数で1/4より微小長だけ長いまたは短い先端開放スタブ、6は先端開放スタブ5aに並列に接続された出力端子である。この回路では、図1の増幅器2が第1のバイポーラトランジスタ2aを用いて、発振素子4が第2のバイポーラトランジスタ4aとマイクロストリップ線路4bとを用いて、帰還回路5が先端開放スタブ5aを用いて構成されている。
【0012】
次にこのように構成された注入同期発振器の動作を、基準信号として周波数が発振周波数の1/2である1/2サブハーモニック波を注入した場合について説明する。
【0013】
注入端子1から注入された1/2サブハーモニック波は、第1のバイポーラトランジスタ2aのベース端子に入力される。この入力された基準信号は第1のバイポーラトランジスタ2aにより増幅され、伝送線路3を介し、第2のバイポーラトランジスタ4aのベース端子に入力される。第2のバイポーラトランジスタ4aはこの増幅された基準信号の第2高調波を生成しコレクタ端子から出力する。この出力された高調波のうち、第2高調波の一部は先端開放スタブ5aにより、第2のバイポーラトランジスタ4aのコレクタ端子に帰還される。第2のバイポーラトランジスタ4aのエミッタ端子にはマイクロストリップ線路4bが接続されているため、この帰還された高調波はコレクタ―ベース間を通過し、第1のバイポーラトランジスタ2aのコレクタ端子に伝達される。ここで、第1のバイポーラトランジスタ2a内のアイソレーション特性により、伝達された高調波の殆どはエミッタ端子側に出力される。この出力された高調波はエミッタ端子と接続された接地端により反射され再び第1のバイポーラトランジスタ2aのコレクタ端子から出力される。このコレクタ端子から出力された高調波は、伝送線路3により位相が調整され、第2のバイポーラトランジスタ4aのベース端子に入力される。この高調波は第2のバイポーラトランジスタ4aにより増幅された後コレクタ端子から出力され、その一部は先端開放スタブ5aにより再びコレクタ端子に帰還され、残りは出力端子6より出力される。以上のように増幅された基準信号の第2高調波を繰返し増幅することにより、第2のバイポーラトランジスタ4aは前記第2高調波に同期した発振波を発振しその一部を出力端子6から出力することになる。
【0014】
以上のように、この実施の形態1にかかる注入同期発振器は注入端子1からの基準信号を増幅器2によって増幅した後に発振素子4に入力する構造になっているので、高調波に対して同期を確立するのに必要な注入端子1からの基準信号のレベルを低減できる効果を奏する。
【0015】
また、増幅器2を第1のバイポーラトランジスタ2aを用いた構成にしているので、発振波および高調波の注入端子1への漏れ出しを低減する効果を奏する。
【0016】
また、帰還回路5を長さが発振周波数で1/4波長の先端開放スタブにしても良い。このように構成された注入同期発振器においては、発振素子4で生成された発振波の殆どが発振素子4へ帰還され、増幅器2を経由して再び発振素子4へ伝達される。帰還される発振波の電力が大きくなるため、発振素子4はこの発振波の増幅波および高調波を生成し出力する。生成された増幅波と高調波のうち、増幅波の殆どは帰還回路5の作用により発振素子4に帰還され、高調波は出力端子6から負荷へと出力される。従って、注入端子に基準信号を注入することにより、発振波の高調波と同周波数の信号を得ることができる。
【0017】
実施の形態2.
実施の形態1における増幅器2を図3に示すように、第1のバイポーラトランジスタ2aのベース端子に発振波を反射する反射回路として、発振周波数で長さ1/4波長の先端開放スタブ2bを加える構成にしても良い。この場合、先端開放スタブ2bは注入端子1と第1のバイポーラトランジスタ2aのベース端子間に並列に接続する。図3では、図1の増幅器2が第1のバイポーラトランジスタ2aと先端開放スタブ2bとを用いて、発振素子4が第2のバイポーラトランジスタ4aとマイクロストリップ線路4bとを用いて、帰還回路5が先端開放スタブ5aを用いて構成されている。このように構成された注入同期発振器においては、第1のバイポーラトランジスタ2aのコレクタ端子側から注入端子1側へ漏れ出す基準信号の高調波が先端開放スタブ2bで反射し、再びバイポーラトランジスタ2のベース端子から入力されて増幅されるため、高調波レベルが高くなり、同期確立に必要な基準信号レベルが低減される効果を奏する。
【0018】
また、図4に示すように反射回路として、先端開放スタブ2bの代わりに、基準信号の周波数で1/4波長の結合線路2cを用いた構成にしても良い。この場合、結合線路2cは注入端子1と第1のバイポーラトランジスタ2aのベース端子間に直列に接続する。このように構成された注入同期発振器においても同様の効果を得ることができる。
【0019】
実施の形態3.
実施の形態2においては、増幅器2内に反射回路を有する構成にしたが、発振波レベルをさらに高めるために、図5に示すように、反射回路に加え、第1のバイポーラトランジスタ2aのエミッタ端子と接地間に発振周波数で開放状態になるようなインピーダンスを有するインピーダンス回路として、マイクロストリップ線路2dを有する構成にしても良い。この場合、マイクロストリップ線路2dは第1のバイポーラトランジスタ2aのエミッタ端子と接地間に直列に接続する。また、マイクロストリップ線路2dは発振周波数で、1/4波長の長さであることが望ましい。図5では、図1の増幅器2が第1のバイポーラトランジスタ2aと先端開放スタブ2bとマイクロストリップ線路2dとを用いて、発振素子4が第2のバイポーラトランジスタ4aとマイクロストリップ線路4bとを用いて、帰還回路5が先端開放スタブ5aを用いて構成されている。このように構成された注入同期発振器においては、マイクロストリップ線路2dの挿入により、第1のバイポーラトランジスタ2aのコレクタ端子から接地点を見込んだ基準信号の高調波周波数帯におけるインピーダンスが増加し、コレクタ端子から注入端子1側に漏れ出す発振波が増大する。従って、先端開放スタブ2bによって第1のバイポーラトランジスタ2aのベース端子に反射され、増幅する発振波も増大し、発振波レベルを更に増大させる効果を奏する。
【0020】
また、図6に示すようにインピーダンス回路として、集中定数のキャパシタとインダクタを並列接続し、発振周波数で開放となるような並列共振回路2eを用いても同様の効果を得ることができる。
【0021】
実施の形態4.
実施の形態1から実施の形態3における第1のバイポーラトランジスタ2a、第2のバイポーラトランジスタ4aは電界効果トランジスタを用いた構成にしても良い。この場合、バイポーラトランジスタのベース端子、コレクタ端子、エミッタ端子はそれぞれ電界効果トランジスタのゲート端子、ドレイン端子、ソース端子に置き換えることにより、同様の効果が得られる。
【0022】
図7はこのように構成された注入同期発振器のバイアス回路に対する等価回路図である。図7において、1は基準信号を注入する注入端子、2fこの基準信号を増幅する第1の電界効果トランジスタ、4cはこの増幅された基準信号の発振波を生成する第2の電界効果トランジスタ、4eは第2の電界効果トランジスタ4cのソース端子と接地間に直列に接続された駆動用バイアス抵抗、6は発振波を出力する出力端子である。11は第1の電界効果トランジスタ2fにゲート電圧を印加する負電源、12は第1の電界効果トランジスタ2fにドレイン電圧を印加する正電源、13は正電源12より高電圧であり、第2の電界効果トランジスタ4cにドレイン電圧を印加する正電源である。14は注入端子1と第1の電界効果トランジスタ2fのゲート端子間に直列に接続され、直流成分を除去する第1の直流カット回路、15は第2の電界効果トランジスタ4cのドレイン端子と出力端子6間に直列に接続され、直流成分を除去する第2の直流カット回路である。
【0023】
このように構成された注入同期発振器においては、第1の電界効果トランジスタ2fと第2の電界効果トランジスタ4cとを直列に接続しているので、第2の電界効果トランジスタ4cにゲート電圧の印加をする負電源を除去できる効果を奏する。
【0024】
実施の形態5.
図8は本実施の形態におけるフェーズドアレーアンテナを示したものである。図8において、10は所定の周波数の信号を出力する電圧制御発振器、20は電圧制御発振器10の出力を分配する分配器、30は分配器20から分配された出力を基準信号とする注入同期発振器を2個以上有する注入同期発振器群、40は分配器20の他方の出力を出力する出力端子である。なお、注入同期発振器群30を構成する注入同期発振器は、実施の形態1から実施の形態4に記載されたどの注入同期発振器を用いても良い。
【0025】
次にこのように構成されたフェーズドアレイアンテナの動作について、電圧制御発振器10の出力信号の周波数が、注入同期発振器群30内の注入同期発振器の発振周波数の1/2の場合について説明する。
【0026】
電圧制御発振器10より出力された信号は分配器20により、注入同期発振器群30および出力端子40に分配される。注入同期発振器群30内の複数の注入同期発振器は、この分配された信号を基準信号として、実施の形態1から実施の形態3で説明した動作により発振し、発振波または発振波の高調波と同周波数の信号をそれぞれ出力する。また、出力端子40は分配された他方の信号を出力する。
【0027】
以上のように、この実施の形態に5にかかるフェーズドアレイアンテナにおいては、同期の取れた2周波数の信号を別々に取り出すことが可能である。また、注入同期発振器を複数台設置しているので、同期の取れた発振周波数の信号を複数取り出すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態1を示す注入同期発振器のブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1を示す注入同期発振器の回路図である。
【図3】この発明の実施の形態2を示す注入同期発振器の回路図であり、反射回路として先端端開放スタブを用いた注入同期発振器の回路図である。
【図4】この発明の実施の形態2を示す注入同期発振器の回路図であり、反射回路として結合線路を用いた注入同期発振器の回路図である。
【図5】この発明の実施の形態3を示す注入同期発振器の回路図であり、インピーダンス回路としてマイクロストリップ線路を用いた注入同期発振器の回路図である。
【図6】この発明の実施の形態3を示す注入同期発振器の回路図であり、インピーダンス回路として並列共振回路を用いた注入同期発振器の回路図である。
【図7】この発明の実施の形態4を示す注入同期発振器のバイアス回路の対する等価回路図である。
【図8】この発明の実施の形態5を示すフェーズドアレーアンテナの回路図である。
【符号の説明】
【0029】
1 注入端子
2 増幅器
2a 第1のバイポーラトランジスタ
2b 先端開放スタブ
2c 結合線路
2d マイクロストリップ線路
2e 並列共振回路
2f 第1の電界効果トランジスタ
4 発振素子
5 帰還回路
5a 先端開放スタブ
6 出力端子
10 電圧制御発振器
20 分配器
30 注入同期発振器群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数の基準信号を注入する注入端子と、
前記注入端子により注入された前記基準信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器により増幅された前記基準信号を所望の発振周波数にて発振させ、得られた発振波または前記発振波の高調波を出力する発振素子と、
前記発振波を前記発振素子に帰還させる帰還回路と、
前記発振波または前記高調波を出力する出力端子と、
を有することを特徴とした注入同期発振器。
【請求項2】
前記増幅器は、
増幅機能を有する能動素子と、
前記能動素子に前記発振波を反射させる反射回路と、
を有することを特徴とした請求項1に記載の注入同期発振器。
【請求項3】
前記増幅器は、
前記基準信号がベース端子に入力されるバイポーラトランジスタと、
前記バイポーラトランジスタのベース端子に接続され、前記ベース端子に前記発振波を反射させる反射回路と、
前記バイポーラトランジスタのエミッタ端子に接続され、所定のインピーダンスを有するインピーダンス回路と、
を有することを特徴とした請求項1に記載の注入同期発振器。
【請求項4】
前記増幅器は、
前記基準信号がゲート端子に入力される電界効果トランジスタと、
前記電界効果トランジスタのゲート端子に接続され、前記ゲート端子に前記発振波を反射させる反射回路と、
前記電界効果トランジスタのドレイン端子に接続され、所定のインピーダンスを有するインピーダンス回路と、
を有することを特徴とした請求項1に記載の注入同期発振器。
【請求項5】
前記インピーダンス回路は、
前記発振波の周波数帯で開放となる並列共振回路であるとことを特徴とした請求項3または請求項4に記載の注入同期発振器。
【請求項6】
所定の周波数の信号を出力する電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器の出力を分配する分配器と、
前記分配器により分配された信号が基準信号として入力される2個以上の注入同期発振器とを有し、
前記注入同期発振器は、
前記基準信号を注入する注入端子、
前記注入端子より注入された前記基準信号を増幅する増幅器、
前記増幅器により増幅された前記基準信号を所望の発振周波数にて発振させ、得られた発振波または前記発振波の高調波を出力する発振素子、
前記発振波を前記発振素子に帰還させる帰還回路、
前記発振波または前記高調波を出力する出力端子、
を有することを特徴としたフェーズドアレーアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−324871(P2006−324871A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145347(P2005−145347)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】