説明

流動化を高めたコンクリートの製造方法、及び、コンクリート構造物

【課題】ペースト(単位水量や単位セメント量)を増加させずに、流動性を高めたコンクリートを製造する。
【解決手段】
ベースとなるセメントコンクリートとして、スランプ値が8cm以上12cm以下となるように、水、セメント、細骨材および粗骨材が配合されたものを用い、このセメントコンクリートに増粘剤と高性能AE減水剤が配合された混和剤を練り混ぜることで、セメントコンクリートの流動性を高め、スランプ値を、18cmより大きく、かつ、23cm以下にする。増粘剤としては、グリコール系、アクリル系、及びバイオポリマー系の成分を含有するものが好適に用いられる。高性能AE減水剤としては、ポリカルボン酸系の成分を含有するものが好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト量を増やさずに流動性を高めたコンクリートの製造方法、及び、このコンクリートによって構築されたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐震設計基準の見直しなどによって、高架橋の下部工やボックスカルバートなどの一般的なコンクリートでも鉄筋が高密度に配筋されるようになっている。特に、部材間の接合部ではそれぞれの部材の鉄筋が交錯するため、過密な配筋状態で、各発注機関の仕様書において規定されている普通コンクリート(スランプ8cm〜12cm)では、コンクリートを均質な状態で密実に充てんすることが難しく、豆板などの欠陥が発生する虞がある。
【0003】
このような過密配筋下においても確実にコンクリートを充てんするために、一般的には、次の(1)〜(3)に示すコンクリートが用いられている。すなわち、(1)普通コンクリートに比べ流動性を増大させるために単位水量を増大させ、流動性の増大に伴う材料分離抵抗性を確保するためにセメントなどの微粉末の単位量を増やしたコンクリート;(2)普通コンクリートに流動化剤を添加した流動化コンクリート;(3)スランプフローで流動性を管理する高流動コンクリートが用いられている。また、(4)特殊な混和材料(石炭灰など)が用いられることもある。
【0004】
例えば、特許文献1には、普通コンクリートよりも流動性に優れ、高流動コンクリートよりも品質管理の容易な中流動コンクリート(スランプフローが35cm以上50cm以下のもの)を用いる覆工コンクリートの施工方法が記載されている。この文献に記載された中流動コンクリートは、石粉や石炭灰といった混和材が用いられているので、上記(4)に属する中流動コンクリートと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−285843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般の生クリート工場で流動性の高いコンクリートを製造する場合を考える。ここで、上記(1)のように単位セメント量や単位水量を増加させた場合(すなわちペースト量を増やした場合)、単位セメント量の増加に伴って水和熱に起因する温度ひび割れの可能性が高くなるという問題点がある。また、単位水量の増加に伴って乾燥収縮によるひび割れの可能性が高くなるという問題点もある。そのため、土木学会では、流動化剤によるスランプ増大量は5〜8cmを標準としている。さらに、ブリーディングが増大したり、沈降によるひび割れが増加したりして、構造物の水密性や耐久性が低下する可能性が高くなるという問題点もある。
【0007】
上記(2)のように、流動化剤を用いて流動性を高めた流動化コンクリートでは、次のような問題点がある。土木学会の基準では、流動化コンクリートのスランプは18cmを原則としており、上記のような高密度配筋部では充てんできない場合がある。また、流動化剤により過度のスランプを大きくする(流動性を高める)と材料分離が生じ、コンクリートの水密性や耐久性が低下する可能性がある。さらに、現場でアジテータ車に流動化剤を混入する際のドラムの攪拌による騒音や排ガスが周辺環境に悪影響を与えてしまう。
【0008】
上記(3)のように、流動性をスランプフローで管理する高流動コンクリートを用いる場合には、単位セメント量の増加に伴って水和熱に起因する温度ひび割れの可能性が高くなるという問題がある。また、上記(4)のように、特殊な混和材料を用いる場合には、専用のサイロや計量器が必要でコストが高くなるという問題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、ペースト(単位水量や単位セメント量)を増加させずに流動性を高めたコンクリートを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、セメントコンクリートに混和剤を練り混ぜて流動性を高めたコンクリートを製造する方法であって、前記セメントコンクリートは、スランプ値が8cm以上12cm以下となるように、水、セメント、細骨材および粗骨材が配合されたものであり、前記混和剤は、増粘剤と高性能AE減水剤が配合されたものであり、前記セメントコンクリートと前記混和剤とを練り混ぜてスランプ値を、18cmより大きく、かつ、23cm以下にすることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、増粘剤と高性能AE減水剤が配合された混和剤を用いているので、普通コンクリートの配合であっても、スランプ値を、18cmより大きくかつ23cm以下にすることができる。すなわち、ペーストを増加させずとも、流動性を高めたコンクリートを製造できる。その結果、ペーストを増加させる手法で流動性を高めたコンクリートに比べ、水和熱の発生を抑制でき、温度ひび割れの可能性を低減できる。
【0012】
前述の製造方法において、前記増粘剤は、グリコール系増粘剤、アクリル系増粘剤、及び、バイオポリマー系増粘剤の何れか一種から選択されることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るコンクリート構造物は、前述の製造方法によって流動性が高められたコンクリートで構築されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、減水性と増粘性を有する混和剤を用いているので、ペーストを増加させずとも、流動性を高めたコンクリートが製造できる。その結果、ペーストを増加させる手法で流動性を高めたコンクリートに比べ、水和熱の発生量を少なくでき、温度ひび割れの可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】試験対象とした各試験体に含まれる材料及び配合割合を説明する図である。
【図2】コンクリートを構成する各材料の詳細を説明する図である。
【図3】充てん性試験の結果を説明する図である。
【図4】ブリーディング試験の結果を説明する図である。
【図5】凝結時間試験の結果を説明する図である。
【図6】配合1の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【図7】配合2の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【図8】配合2−2の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【図9】配合3の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【図10】配合4の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【図11】配合5の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【図12】配合6の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【図13】配合7の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【図14】配合7−2の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【図15】配合8の試験体に対するスランプ試験の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、図1に示す配合の各試験体No1〜No8に対し、充てん性試験、ブリーディング試験、凝結時間試験、及びスランプ試験を行うことで、生コンクリートの性状を把握した。
【0017】
まず、今回の試験に用いた使用材料について説明する。使用材料を図2に示す。
【0018】
セメント(C)は、太平洋セメント株式会社製の普通ポルトランドセメントを用いた。この普通ポルトランドセメントの密度は3.16g/cmである。細骨材(S)は、千葉県木更津産の陸砂を用いた。この陸砂において、表乾密度は2.62g/cmであり、吸水率は1.39%であり、粗粒率は2.81である。粗骨材(G)は、東京都青梅産の砕石を用いた。この砕石において、表乾密度は2.65g/cmであり、吸水率は1.00%であり、粗粒率は6.64である。
【0019】
混和剤に関し、比較用のAE減水剤(WR)は、BASFポゾリス社製の商品名「ポゾリスNo.70」を用いた。このAE減水剤は、リグニンスルホン酸系化合物を主成分とし、液体状をしている。
【0020】
増粘剤成分含有高性能AE減水剤(VA)は3種類用いた。1種類目(VA1)は、花王株式会社製の商品名「マイティ3000V」である。この高性能AE減水剤は、グリコール系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤である。2種類目(VA2)は、BASFポゾリス社製の商品名「グルニウム」である。この高性能AE減水剤は、アクリル系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤である。3種類目(VA3)は、グレースケミカルズ社製の商品名「ADVA−FLOW」である。この高性能AE減水剤は、バイオポリマー系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤である。
【0021】
また、増粘剤成分を含有していない高性能AE減水剤を、比較用の流動化剤(SP)として用いた。この実施形態では、BASFポゾリス社製の商品名「レオビルドSP−8SV」を用いた。この流動化剤は、ポリカルボン酸系化合物を主成分とし、液体状をしている。
【0022】
前述の高性能AE減水剤(VA1〜3)もまた、ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤である。高性能AE減水剤には、他にナフタリン系、メラミン系、アミノスルホン酸系などがあるが、何れもポリカルボン酸系の高性能AE減水剤よりも減水性が低い。また凝結遅延性を有するので、固結するまでに時間がかかってしまう。このため、本実施形態ではポリカルボン酸系の高性能AE減水剤を用いることにした。
【0023】
また、AE助剤として、BASFポゾリス社製の商品名「マイクロエア775S」を用いた。このAE助剤は、変性アルキルカルビン酸化合物系陰イオン界面活性剤を主成分とし、液体状をしている。
【0024】
次に、図1(a)を参照して各試験体について説明する。
【0025】
この試験では、配合1〜8(配合2及び7については各2種類)からなる合計10種類の試験体を作製した。便宜上、以下の説明では、配合Noと試験体Noとを揃えることとする。例えば、試験体No1とは、配合No1で作製された試験体を意味し、試験体No7−2とは、配合No7−2で作製された試験体を意味する。
【0026】
試験体の作製には2軸強制練りミキサーを用いた。練り混ぜはバッチ式で行い、練り混ぜ量は1バッチあたり50Lとした。練り混ぜは、骨材と粉体を投入して10秒間空練りをした後、混和剤と練り混ぜ水とを投入して練り混ぜた。練り混ぜ時間は、AE減水剤を用いた試験体(試験体No1,No6,No8)について60秒とし、高性能AE減水剤を用いた試験体(その他のNoの試験体)について90秒とした。練り混ぜ後3分間静置し、練り返しを行って各種試験を行った。
【0027】
試験体No1〜No5は、いずれもスランプ8cmの普通コンクリートをベースとしており、これをスランプ21cm又はスランプ23cmとしたものである。一方、試験体No6〜8は、いずれもスランプ12cmの普通コンクリートをベースとしており、これをスランプ21cm又はスランプ23cmとしたものである。なお、高充てんコンクリートの配合条件としては、単位水量が175kg/m以下、単位セメント量が270kg/m以上、水セメント比が60%以下である。以下、各試験体の配合について具体的に説明する。
【0028】
試験体No1は比較例であり、スランプ8cmの普通コンクリートの配合を示している。この試験体No1では、水(W)の単位量が155kg/m、セメント(C)の単位量が270kg/m、細骨材(S)の単位量が824kg/m、粗骨材(G)の単位量が1060kg/mである。そして、混和剤として、AE減水剤(WR)がセメント量の0.25%混入され、AE助剤(AE)がセメント量の0.004%混入されている。また、水セメント比(W/C)は57.4、細骨材率(s/a)は44.0、単位量あたりのペースト容積(Vp)は285L/m、単位量あたりの粗骨材容積(Vg)は400L/mである。
【0029】
試験体No2は、グリコール系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤(VA1)の実施例であり、スランプを8cmから21cmにすべく配合したものである。この試験体No2では、水(W)の単位量が155kg/m、セメント(C)の単位量が270kg/m、細骨材(S)の単位量が955kg/m、粗骨材(G)の単位量が928kg/mである。そして、混和剤として、上記の増粘剤含有高性能AE減水剤(VA1)がセメント量の1.5%混入され、AE助剤(AE)がセメント量の0.0035%混入されている。また、水セメント比(W/C)は57.4、細骨材率(s/a)は51.0、単位量あたりのペースト容積(Vp)は285L/m、単位量あたりの粗骨材容積(Vg)は350L/mである。
【0030】
試験体No2−2は、試験体No2と同じくグリコール系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤(VA1)の実施例であるが、スランプを8cmから23cmにすべく配合した点で試験体No2と相違している。この試験体No2−2では、増粘剤含有高性能AE減水剤(VA1)がセメント量の1.7%混入され、AE助剤(AE)がセメント量の0.004%混入されている。他の配合は試験体No2と同じである。
【0031】
試験体No3は、アクリル系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤(VA2)の実施例であり、スランプを8cmから21cmにすべく配合したものである。この試験体No3では、水(W)の単位量が155kg/m、セメント(C)の単位量が270kg/m、細骨材(S)の単位量が955kg/m、粗骨材(G)の単位量が928kg/mである。そして、混和剤として、上記の増粘剤含有高性能AE減水剤(VA2)がセメント量の2.0%混入され、AE助剤(AE)がセメント量の0.0035%混入されている。また、水セメント比(W/C)は57.4、細骨材率(s/a)は51.0、単位量あたりのペースト容積(Vp)は285L/m、単位量あたりの粗骨材容積(Vg)は350L/mである。
【0032】
試験体No4は、バイオポリマー系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤(VA3)の実施例であり、スランプを8cmから21cmにすべく配合したものである。この試験体No3では、水(W)の単位量が155kg/m、セメント(C)の単位量が270kg/m、細骨材(S)の単位量が955kg/m、粗骨材(G)の単位量が928kg/mである。そして、混和剤として、上記の増粘剤含有高性能AE減水剤(VA3)がセメント量の1.4%混入され、AE助剤(AE)がセメント量の0.002%混入されている。また、水セメント比(W/C)は57.4、細骨材率(s/a)は51.0、単位量あたりのペースト容積(Vp)は285L/m、単位量あたりの粗骨材容積(Vg)は350L/mである。
【0033】
試験体No5は比較例であり、試験体No1(スランプ8cmの普通コンクリートの配合)をベースに、スランプを8cmから21cmにすべく、流動化剤(増粘剤成分を含有していない高性能AE減水剤;SP)を後添加したものである。このため、水(W)、セメント(C)、細骨材(S)、粗骨材(G)の単位量は、試験体No1と同じである。そして、流動化剤(SP)がセメント量の1.20%添加されている。
【0034】
試験体No6も比較例であり、スランプ12cmの普通コンクリートの配合を示している。この試験体No6では、水(W)の単位量が162kg/m、セメント(C)の単位量が270kg/m、細骨材(S)の単位量が832kg/m、粗骨材(G)の単位量が1033kg/mである。そして、混和剤として、AE減水剤(WR)がセメント量の0.25%混入され、AE助剤(AE)がセメント量の0.004%混入されている。また、水セメント比(W/C)は60.0、細骨材率(s/a)は44.9、単位量あたりのペースト容積(Vp)は292L/m、単位量あたりの粗骨材容積(Vg)は390L/mである。
【0035】
試験体No7は、グリコール系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤(VA1)の実施例であり、スランプを12cmから21cmにすべく配合したものである。この試験体No7では、水(W)の単位量が162kg/m、セメント(C)の単位量が270kg/m、細骨材(S)の単位量が936kg/m、粗骨材(G)の単位量が928kg/mである。そして、混和剤として、上記の増粘剤含有高性能AE減水剤(VA1)がセメント量の1.3%混入され、AE助剤(AE)がセメント量の0.003%混入されている。また、水セメント比(W/C)は60.0、細骨材率(s/a)は50.5、単位量あたりのペースト容積(Vp)は292L/m、単位量あたりの粗骨材容積(Vg)は350L/mである。
【0036】
試験体No7−2は、試験体No7と同じくグリコール系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤(VA1)の実施例であるが、スランプを12cmから23cmにすべく配合した点で試験体No7と相違している。この試験体No7−2では、増粘剤含有高性能AE減水剤(VA1)がセメント量の1.5%混入され、AE助剤(AE)がセメント量の0.004%混入されている。他の配合は試験体No7と同じである。
【0037】
試験体No8は比較例であり、スランプ21cmのコンクリートの配合を示している。この試験体No8では、水(W)の単位量が180kg/m、セメント(C)の単位量が314kg/m、細骨材(S)の単位量が853kg/m、粗骨材(G)の単位量が928kg/mである。そして、混和剤として、AE減水剤(WR)がセメント量の0.25%混入され、AE助剤(AE)がセメント量の0.004%混入されている。また、水セメント比(W/C)は57.4、細骨材率(s/a)は48.2、単位量あたりのペースト容積(Vp)は324L/m、単位量あたりの粗骨材容積(Vg)は350L/mである。
【0038】
以下、各試験について説明する。まず充てん性試験について説明する。充てん性試験では、仕切りで区画されたA室とB室とを有する試験容器を用い、A室に試験対象のコンクリートを充てんした状態で仕切りを開放し、このコンクリートがB室内にて規定距離流れるまでの時間を計測する。この充てん性試験では、規定距離流れるまでの時間が短いほど充てん性が良好であるといえる。
【0039】
本実施形態では、A室に18.36L(42.4kg)のコンクリートを投入した。そして、棒状振動機(φ28mm)を振動させながら挿入した。仕切りを開放した後、コンクリートが30cm流れるまでの時間を計測した。なお、充てん性試験は、試験体No2−2,No7−2を除いた8種類の試験体について行った。以下、試験結果について説明する。
【0040】
図1(b)及び図3を参照する。なお、図1(b)における温度(℃)は各試験における試験温度である。図1(b)及び図3に示すように、試験体No1(スランプ8cmのコンクリート)での充てん時間は68.1秒、試験体No6(スランプ12cmのコンクリート)での充てん時間は46.4秒、及び試験体No8(スランプ21cmのコンクリート)での充てん時間は26.5秒である。前述したように、充てん時間が短いほど充てん性が良好といえる。このため、充てん時間が26.5秒前後であれば、スランプ21cmのコンクリートと同等の充てん性があるといえる。
【0041】
試験体No2(VA1使用の流動性コンクリート)での充てん時間は31.1秒、試験体No3(VA2使用の流動性コンクリート)での充てん時間は23.8秒、及び試験体No4(VA3使用の流動性コンクリート)での充てん時間は29.0秒である。何れも、試験体No1での充てん時間である68.1秒よりも大幅に短く、試験体No8での充てん時間前後の値になっている。このことから、試験体No2〜No4は、スランプ21cmのコンクリートと同等の充てん性を備えているといえる。
【0042】
試験体No5(SP後添加の流動化コンクリート)での充てん時間は31.8秒であり、試験体No7(VA1使用の流動性コンクリート)での充てん時間は30.5秒である。これらの結果から試験体No5,No7もまた、スランプ21cmのコンクリートと同等の充てん性を備えているといえる。
【0043】
以上を総括すると、スランプ8cm,12cmの普通コンクリートの配合をベースに、混和剤として増粘剤含有高性能AE減水剤(VA1〜VA3)を加えることで、ペースト(単位水量や単位セメント量)を増やすことなく流動性を高めることができ、充てん性をスランプ21cm相当のコンクリートと同等レベルにできることが確認された。言い換えると、増粘剤含有高性能AE減水剤(VA1〜VA3)を用いることで、スランプ8cm〜12cmの普通コンクリートに比べてコンクリートの充てん時間を2/3〜1/2まで短縮できることが確認できた。また、スランプ8cmの普通コンクリートの配合をベースに、高性能AE減水剤(SP)を加えることでも、充てん性をスランプ21cm相当まで高めることが確認できた。
【0044】
次にブリーディング試験について説明する。ブリーディング試験はJIS A 1123に則って行い、ブリーディング率を算出した。なお、ブリーディング試験もまた、試験体No2−2,No7−2を除いた8種類の試験体について行った。
【0045】
図1(b)及び図4に示すように、試験体No1のブリーディング率は4.6%、試験体No6のブリーディング率は5.7%、及び試験体No8のブリーディング率は6.3%である。ブリーディング率に関しては、低いほどコンクリート内に水分を閉じ込めておく性質が高いといえる。すなわち、浮き水の量を少なくすることができる。
【0046】
試験体No2のブリーディング率は2.1%、試験体No3のブリーディング率は3.9%、試験体No4のブリーディング率は2.2%、及び試験体No7のブリーディング率は3.4%であった。何れの試験体も、スランプ8cmの普通コンクリートより低いブリーディング率であった。すなわち、この普通コンクリートよりも高い保水性を有していることが確認された。特に、試験体No2,No4については、試験体1のブリーディング率の半分以下である。このことから、試験体No2,No4は、充てんし易くかつ極めて高い保水性を有するコンクリートといえる。なお、試験体No5のブリーディング率は4.8%である。この結果から、試験体No5における材料の保水性は、スランプ8cmの普通コンクリートと同等か若干損なわれることが確認された。
【0047】
以上を総括すると、スランプ8cm,12cmの普通コンクリートの配合をベースに、混和剤として増粘剤含有高性能AE減水剤(VA1〜VA3)を加えることで、ペーストを増やすことなく、保水性を高められることが確認された。特に、増粘剤成分としてグリコール系(VA1)やバイオポリマー系(VA3)を含有する高性能AE減水剤を用いることで(試験体No2,No4)、保水性を一層高くできることが確認できた。一方、スランプ8cmの普通コンクリートの配合をベースに、高性能AE減水剤(SP)を加えた場合(試験体No5)、保水性は普通コンクリートと同等かそれ以下になることが確認できた。
【0048】
次に凝結時間試験について説明する。凝結時間試験はJIS A 1147に則って行い、始発時間と終結時間を計測した。なお、凝結時間試験は、試験体No1,No2,No3,No4の4種類について行った。
【0049】
図1(b)及び図5に示すように、試験体No1の始発時間は6時間15分、終結時間は8時間30分である。そして、試験体No2の始発時間は6時間25分、終結時間は8時間45分であり、試験体No3における始発時間は8時間35分、終結時間は11時間10分である。また、試験体No4における始発時間は6時間10分、終結時間は8時間30分である。試験体No2,No4は、始発時間と終結時間とが試験体No1とほぼ同じであった。このため、増粘剤を使用しつつも、スランプ8cmの普通コンクリートと同等の時間で凝結することが確認できた。
【0050】
また、試験体No3に関し、その始発時間は試験体No1の終結時間とほぼ同じであった。このことから、試験体No3については、試験体No1よりも凝結に時間を要することが確認された。しかし、試験体No3の始発時間が8時間35分であり、終結時間が11時間10分であることからすれば、十分に実用に耐える程度の時間であるといえる。なお、他の種類の増粘剤であるセルロース系の増粘剤を用いた場合、始発時間が16時間、終結時間が18時間であるという知見がある。この時間に比べると試験体No3の凝結時間は十分に短いといえる。
【0051】
次にスランプ試験について説明する。スランプ試験は、JIS A 1101に則って行い、スランプを0.5cm単位で測定した。なお、JIS A 5308で規定されているように、スランプには許容差が認められている。例えば、スランプ8cm〜18cmでは±2.5cmの差が許容され、スランプ21cmでは±1.5cmの差が許容される。なお、図6から図15は、各試験体に対するスランプ試験の様子を撮影したものである。これらの図において、符号1は各試験体No1〜No8を示し、符号2は測定器を示す。また、符号3は平板を示している。
【0052】
試験体No1に関し、図1(b)に示すように、スランプ値は8.5cmである。そして、図6に示すように、スランプ試験においてこの試験体No1は略円錐状をしており、ペースト分と骨材とが一体化されていること、すなわち各材料に成形性(プラスティシティ;plasticity)があることが判る。この成形性が高い程、型枠を取り去った際において一体性を保ったままゆっくりと潰れていく傾向が強くなる。また、施工時にあっては、一体性が高いほどにポンプ内や管内を円滑に流れることができ、閉塞し難くなる。また、豆板(充てん不良)が生じることを抑制できる。
【0053】
試験体No2〜No4に関し、図1(b)に示すように、スランプ値はそれぞれ20.5cm,21.0cm,20.0cmであり、スランプ21cmの許容差内である。すなわち、各試験体No2〜No4において、スランプ8cmの普通コンクリートの配合をベースに、ペーストを増やすことなくスランプ21cmにすることができた。また、試験体No2−2のスランプ値は23.0cmである。すなわち、スランプ8cmの普通コンクリートの配合をベースに、ペーストを増やすことなくスランプ23cmにすることもできた。
【0054】
図7に示すように、試験体No2は、スランプ試験において半球を軽く押しつぶしたボール形状をしている。このことは、先のブリーディング試験における結果と同じく、材料の一体性(プラスティシティ)が高いことを示している。図8に示すように、試験体No2−2は、スランプ試験において側面が円弧状に膨出された円盤形状をしている。試験体No2に比べると一体性が低いことが判るが、相応の一体性が保たれているといえる。
【0055】
図9に示すように、試験体No3は、スランプ試験において略円錐台状をしている。試験体2よりも一体性が低く、試験体No2−2よりは若干一体性が高いといえる。この結果は、先のブリーディング試験における結果を裏付けているといえる。図10に示すように、試験体No4は、スランプ試験において空気の抜けたゴム球のような楕円体状をしている。この形状から、試験体No2と同程度の一体性か、それよりも高いことが伺える。
【0056】
試験体No5に関し、図1(b)に示すように、スランプ値は20cmであり、スランプ21cmの許容差内である。しかし、図11に示すように、この試験体No5は、あたかもお好み焼きを拡げたような円盤形状をしている。試験体No2−2と比較して直径が一回り以上大きいこと、及び、平面視において円形状が崩れていることから、材料の一体性は高くないことが理解できる。このため、ポンプ内や管内において閉塞が生じ易くなり、豆板が生じやすくなるといえる。
【0057】
試験体No6に関し、図1(b)に示すように、スランプ値は11.0cmであり、スランプ12cmの許容差内である。そして、図12に示すように、スランプ試験においてこの試験体No6は背の高い円錐台状をしており、スランプ8cmの試験体No1と同様に、ペースト分と骨材とが一体化されていることが判る。
【0058】
試験体No7に関し、図1(b)に示すように、スランプ値は20.5cmであり、スランプ21cmの許容差内である。また、試験体No7−2のスランプ値は23.0cmである。すなわち、スランプ12cmの普通コンクリートの配合をベースに、ペーストを増やすことなくスランプ21cmにすることができた。同様に、スランプ12cmの普通コンクリートの配合をベースに、ペーストを増やすことなくスランプ23cmにすることもできた。
【0059】
図13に示すように、試験体No7は、スランプ試験において一部が崩れた厚手の円盤形状をしている。一部が崩れている点で一体性が損なわれているとも考えられるが、スランプ21cmの試験体No8(図15を参照)と同程度の崩れ方であるため、全体的には相応の一体性を有しているといえる。図14に示すように、試験体No7−2は、スランプ試験において扁平な円盤状をしている。図11の試験体5と比較すると、平面視で円形状が保たれていること、及び、円の中心部分から周縁部分に向かって次第に厚みが薄くなっていることから、相応の一体性を有していることが理解できる。
【0060】
試験体No8に関し、図1(b)に示すように、スランプ値は20.0cmであり、スランプ21cmの許容差内である。そして、図15に示すように、スランプ試験においてこの試験体No8は一部が崩れた円錐台状をしているが、全体的には相応の一体性を有しているといえる。これは、図1(a)に示すように、他の試験体に比べて単位水量と単位セメント量が多いことに起因している。
【0061】
このスランプ試験について総括すると、試験体No2,No3,No4の結果から、スランプ8cmの普通コンクリートの配合をベースに、増粘剤成分含有高性能AE減水剤(VA1〜VA3)を用いることで、ペーストを増やすことなく、スランプ21cmのコンクリートを製造できることが確認できた。増粘剤成分含有高性能AE減水剤に関しては、グリコール系、アクリル系、バイオポリマー系の何れであっても、スランプ21cmのコンクリートを製造できることが確認できた。
【0062】
試験体No2−2の結果から、スランプ8cmの普通コンクリートの配合をベースに、グリコール系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤(VA1)を用いることで、ペーストを増やすことなく、スランプ23cmのコンクリートを製造できることが確認できた。なお、試験体2,3,4にてスランプ21cmのコンクリートを製造できることが確認されているので、増粘剤成分がアクリル系やバイオポリマー系の高性能AE減水剤(VA2,VA3)であっても、スランプ23cmのコンクリートを製造できると解される。
【0063】
試験体No5の結果から、スランプ8cmの普通コンクリートの配合をベースに、増粘剤成分を含有していない流動化剤(SP)を後添加すると、スランプ21cmにすることはできるが、材料の一体性(プラスティシティ)を高めることが難しいことが確認できた。なお、試験体No5と試験体No8とを比較すると、試験体No8の方が高い一体性を有する。これは、ペーストを構成するセメント及び水の量が関係していると解される。
【0064】
また、試験体No7の結果から、スランプ12cmの普通コンクリートの配合をベースに、グリコール系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤(VA1)を用いることで、ペーストを増やすことなく、スランプ21cmのコンクリートを製造できることが確認できた。なお、試験体No3,No4の結果から、アクリル系やバイオポリマー系の増粘剤成分を含有する高性能AE減水剤(VA2,VA3)であっても、スランプ21cmのコンクリートを製造できると解される。
【0065】
同様に、試験体No7−2の結果から、スランプ12cmの普通コンクリートの配合をベースに、グリコール系の増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤(VA1)を用いることで、ペーストを増やすことなく、スランプ23cmのコンクリートを製造できることが確認できた。なお、試験体No3,No4の結果から、アクリル系やバイオポリマー系の増粘剤成分を含有する高性能AE減水剤(VA2,VA3)であっても、スランプ23cmのコンクリートを製造できると解される。
【0066】
前述の各試験(充てん性試験、ブリーディング試験、凝結時間試験、スランプ試験)の結果から次のことが判った。
【0067】
スランプ値が8cm以上12cm以下となるように水、セメント、細骨材および粗骨材が配合された普通コンクリートの配合に、減水性と増粘性を有する増粘剤成分含有高性能AE減水剤を加えることで、ペーストを増やすことなく、コンクリートの流動性を高めることができ、スランプ値で、18cmより大きくかつ23cm以下にすることができた。
【0068】
本実施形態のコンクリートで構築されたコンクリート構造物は、ペーストを増やすことで流動性(充てん性)を高めた比較例のコンクリートで構築されたコンクリート構造物に比べて、水和熱の発生量を少なくでき、膨張や収縮に起因する歪みが抑制される。また、ブリーディングの発生も抑制できる。加えて、使用するセメント量や水の量を削減できるので経済的である。
【0069】
また、本実施形態のコンクリートは、比較例のコンクリートに比べて高い成形性(プラスティシティ)があるため、ポンプ内や管内を円滑に流れることができ、閉塞を抑制できる。また、ペースト分の充てん不良に起因する豆板の発生を抑制できる。
【0070】
本実施形態のコンクリートは、増粘剤として、グリコール系、アクリル系、或いはバイオポリマー系の成分を含有するものを用いている。これにより、増粘剤を含有しないコンクリートと同等の凝結時間で凝結させることができる。特に、増粘剤として、グリコール系及びバイオポリマー系の成分を含有するものを用いた場合には、増粘剤を含有しないコンクリートと遜色ない時間で凝結させることができる。
【0071】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0072】
ベースとなるセメントコンクリートに関し、セメント、細骨材、粗骨材については、実施形態で例示したものに限定されるものではない。スランプ値が8cm以上12cm以下となるように配合されていれば、産地や粒径等に多少の違いがあっても、同様に流動性を高めたコンクリートを製造できる。
【0073】
前述の実施形態では、増粘剤成分を含有した高性能AE減水剤を例示したが、増粘剤と高性能AE減水剤とを別の薬剤によって構成してもよい。要するに増粘剤が配合されていればよい。
【符号の説明】
【0074】
1 スランプ測定時の試験体(試験体No1〜試験体No8)
2 測定器
3 平板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントコンクリートに混和剤を練り混ぜて流動性を高めたコンクリートを製造する方法であって、
前記セメントコンクリートは、スランプ値が8cm以上12cm以下となるように、水、セメント、細骨材および粗骨材が配合されたものであり、
前記混和剤は、増粘剤と高性能AE減水剤が配合されたものであり、
前記セメントコンクリートと前記混和剤とを練り混ぜてスランプ値を、18cmより大きく、かつ、23cm以下にすることを特徴とするコンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記増粘剤は、グリコール系増粘剤、アクリル系増粘剤、及び、バイオポリマー系増粘剤の何れか一種から選択されることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の製造方法によって流動性が高められたコンクリートで構築されたことを特徴とするコンクリート構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−200947(P2012−200947A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66293(P2011−66293)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】